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2023年 今年読んだ本 ベスト30 [読書全般]


 あんなに騒がれた新型コロナウイルスも5類移行したあとは、とんと話題に上らなくなりました。幸いにも一度も感染せずに済んでラッキーだったなぁ、なんて思ったりします。まだ油断してはいけないのでしょうけど。

 インフルエンザの予防接種は11月に、コロナワクチン(もう何回目になるのか忘れましたがw)も12月に済ませました。

 そんなふうに暮らしている今日この頃、皆様は如何にお過ごしでしょうか。私 mojo はなんとか無事に生きております。

 ということで、年末恒例のランキング発表です。

 毎回書いてますが、私 mojo の独断と偏見で決めてます。皆さんの評価と一致しない場合もあるかと思いますが、私の好みの問題ですので、石を投げたりせずに、笑ってご寛恕ください。

 対象は、原則としてオリジナルのフィクション作品のみです。
 ノンフィクションも何冊か読んでるんですが、記事にはしてませんし、ランキングにも入れてません。これは例年通りです。

 シリーズ作品や、文庫化に際しての分冊化などの場合は1つにまとめてしまったものもあります。悪しからずご容赦ください。

 あと、挙げてある本の中にはまだ記事に書いてないものも含まれます。現時点で、読了したのにまだupしてない本が15作ほどあります。1月中にはupを終える予定です。


 タイトルをクリックすると、該当の記事へ飛びます。



 それでは第1位~第10位まで。私の評価ではすべて星4つ半です。
 少女ひとりと少年二人。小6から中3までの4年間。成長と葛藤、そして恋情。ミステリとしても佳品だが青春小説として絶品。
 真相のインパクトはシリーズでも最大級。
 法廷ミステリの傑作で、ラブ・ストーリーとしても傑作。
 テロリストの執念vs警察官の矜恃、激闘また激闘、そしてラストは号泣。
 異世界巨大ロボット・アクションSF。ヒロインの野望やいかに。乞続編。
 序盤の奇想天外な誘拐劇からラストまで一気読み。
 特殊設定ミステリとして今年最高の作品。
 1900年。義和団の乱から北京を守り抜いた柴五郎陸軍中佐の活躍を描く。
 将棋に似た盤上ゲーム「天盆」に賭けた若者たちを描くファンタジー。
 毒殺事件で冤罪となった男が42年後に辿り着いた真相とは。

 並べてみて思うのは、ミステリやSFとしてよくできているのはもちろん、それに加えて、物語の展開によって読み手(私)の感情が力強く揺り動かされた作品がTOP10に入ってきてるなぁ、ということですね。


 つづいて第11位~第20位まで。11位~16位までが星4つ半、17位以下は星4つです。


つづいて第21位~第30位まで。こちらもすべて星4つ。

 ベスト30は以上なのですが、例年31~60位まで紹介しているので以下に掲げます。ここまでくると順位は余り意味がないので、読了順に載せます。みな星4つです。

<1月>

<2月>

<3月>

<4月>

<5月>

<6月>

<7月>

<8月>

<9月>

<10月>

<11月>

<12月>


 さて、今年読んだ本についての発表は以上です。

 今年読んだフィクション作品は219冊。総ページ数は文庫で約85000ページ(私は基本的に文庫しか買わない人なので。唯一の新書だった『鵼の碑』は、ページ数を4/3倍しました)。一日あたり230ページくらい読んでた計算になります。
 私は(調子が良ければ)1時間で文庫100ページ近く読めるので、230ページということは2時間半くらいでしょうか。
 毎日そんなにたくさん読んでた記憶はないのですが(全く読まなかった日もけっこうある)、1日に2冊読んだ日も何回かあったので、均せばそれくらいになるのかな?


 ここ1年間の私の近況については、ちょっと長くなるかと思うので元旦の記事にまとめて記載します。

 だらだら続けてきたこの駄文ブログも、2800件近くの記事数となりました。最盛期と比べると閲覧数はめっきり減りましたが(おいおい)、それでも覗きに来てくださる方がいるうちはがんばろうと思ってます。

 これからも、皆さんの暇つぶしの一助になれば望外の幸せです。

 それでは皆様、良いお歳を。  m(_ _)m


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他人の城/憎悪のかたち 日本ハードボイルド全集3 [読書・ミステリ]


他人の城/憎悪のかたち: 日本ハードボイルド全集3 (創元推理文庫 M ん 11-3)

他人の城/憎悪のかたち: 日本ハードボイルド全集3 (創元推理文庫 M ん 11-3)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/01/19
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 日本ハードボイルド小説の黎明期を俯瞰する全集、第3巻。
 表題作の長編に加え、中短編5作を収録。

 作品中には、現在の基準では穏当を欠く表現もあるのだけど、本編中で使用されている単語については本記事でもそのまま使用していることを予めお断りしておく。


「他人の城」
 作家の高田晨一(たかだ・しんいち)は、三村隆一という若い医師から「妹を探してほしい」という依頼を受ける。彼女の名は真理。22歳の大学生で、一週間前に失踪したという。
 戸籍上は隆一の実妹だが実は養女で、両親が亡くなって三村の家に引き取られてきた。彼女の実父は朝鮮戦争で死亡、母親は出産後間もなく病死という、いわゆる "戦争混血児" だった。
 高田は2年前に戦争混血児をテーマにした署名記事を雑誌に掲載したが、その雑誌が真理の部屋に残されていた。記事の最後には、わずかだが真理についての記述もあった。そこから、三村は高田に捜索を依頼してきたのだ。
 記事執筆のたたき台となった取材をしていのは黒木重郎というライター。彼によると、真理の消息はケイという青年が知っているのではないかという。本名は斎藤敬作、新宿にたむろするヒッピー(死語だなぁ)たちのボス的存在で、一年前に真理と一緒にいたところを目撃されていた。
 真理とケイの消息を求めて、新宿の街や店で様々な人たちと出会っていく高田。このあたりは典型的な "人捜し" のパターンで、真っ当な人間もいれば裏社会につながる者もして多士済々。しかし二人の行方は杳として知れない。
 そんな中、ケイが死体となって発見される。山下公園近くの海に浮かんでいたという。高田は警察関係者にも接触し、情報を集めていく。
 やがて、ケイの実家と真理の関係、さらには三村家との意外なつながりがあったことが明らかになっていく・・・
 単純な人捜しから始まるのだけど、登場人物がとにかく多く、しかも彼ら彼女らの関係性が複雑で、さらに高田が接触したことで新たな動きが出てきたりと、とにかくダイナミックに事態が変動していく。
 私のアタマでは少々荷が重いみたい。読んでいて、途中で迷子になってしまったよ。メモでも取りながら読まないと理解できなさそう・・・


「憎悪のかたち」
 譲司(ジョージ)は戦争混血児。彼を引き取り、育ててくれていたじいさんが、ひき逃げに遭って命を落とした。その直後、二人が住んでいたアパートには刑事を名乗る男がやってきた家宅捜査をしていった。じいさんの死に裏があると踏んだ讓治だが・・・


「溺死クラブ」
 "おれ" は、ある "パーティー" へとやってきた。そこには "おれ" を含む5人の男たちがいた。みな殺し屋だった。彼らはかつて異なるボスの下で、互いに命を狙い合ったこともあった。
 しかしこれからは共存共栄を図ろう、という趣旨の会合だったが、そんなお題目が通用するはずもなく、パーティーは渾沌と暴力が支配する修羅場へと変貌していく・・・


「殺しに行く」
 増井組のチンピラ・石井は、幹部の後藤に呼び出されて22口径の拳銃を渡される。近々警察のガサ入れがあるらしいので、武器を分散させているのだというのだが・・・


「ガラスの街」
 "私" は、新宿のフーテン族(これも死語か)を扱ったTV番組を制作した。主人公に取り上げたのは "ミミ" という少女。番組の放映から一ヶ月後、"私" は警察から呼び出しを受ける。"ミミ" こと湯浅ミチ子の死体が浄水場跡で見つかったのだという。ミチ子の姉は激しく "私" をなじるのだが・・・


「腐ったオリーブ」
 夜の銀座の街を歩く黒人ギル。コートの中に軽機関銃を隠し持つ彼を狙って、何者かが襲ってきた。彼を救ったのは、日系二世の三郎だった・・・


 ボーナストラックのエッセイは太田忠司。前半は、ハードボイルドそして河野典生に出会った十代後半の頃の話、後半は「他人の城」への思い入れを綴っている。


 河野典生という作家さん、本書に収録した作品はハードボイルドと銘打ってあるけど、内容としてはミステリの範疇に入るもので、大藪春彦みたいにぶっ飛んだ内容だったりはしないし、文章が難解ということもない。
 だけどなぜだか、読みにくいというか、読んでいても内容が頭の中に入ってきづらいんだよねぇ。
 語り口というか文章のリズムというか、微妙に波長が合わないものを感じる。文庫で600ページも読んだのだけど馴染めないのは、もうこれは相性が悪いのでしょう。たぶん(笑)。



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まぼろしの怪人 [読書・ミステリ]


まぼろしの怪人 (角川文庫)

まぼろしの怪人 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/12/22

評価:★★☆


 横溝正史・ジュヴナイル復刊シリーズ。
 宝石を狙う怪盗・"まぼろしの怪人"。対するは探偵少年・御子柴進(みこしば・すすむ)と敏腕記者・三津木俊助(みつぎ・しゅんすけ)、そして等々力警部。

 長編と銘打ってはあるけれど、(ゆるやかにつながってはいるが)章ごとにほぼ独立したエピソードの連作短編集になっている。


「第一章 社長邸の怪事件」
 警視庁の等々力警部のもとへ舞い込んだ脅迫状。差出人は神出鬼没の怪盗・まぼろしの怪人。内容は大手新聞・新日報社社長・池上三作(いけがみ・さんさく)の姪・可奈子が所有する宝石を、来るクリスマスの夜に頂きに参上する、というもの。
 中学卒業後、新日報社で給仕(雑用係)として働いている御子柴進は、まぼろしの怪人が過去に盗難を成功させた三軒の屋敷を調べたところ、みな同じ技師の設計によるものと判明、池上社長の家もまた同じ技師の設計によるものだった。進は、この4軒の家には外部へ通じる隠し通路があることを突き止めるが・・・


「第二章 魔の紅玉」
 ある日の夕刻、銀座の歩道を歩いていた進は挙動が怪しいサンドイッチマンを発見、後をつけるが、それは罠だった。
 不覚にもまぼろしの怪人の手下に捕らえられてしまった進は、意味不明の文章を朗読するように強制される。ワケのわからないままに解放されるが、その翌日、「社長邸の怪事件」で捕縛され、拘留されていたはずのまぼろしの怪人が脱走したことを知る。進は図らずもそれに協力してしまっていたのだ。
 折しも、産油国の王子・アリ殿下が訪日中で、藤川外務大臣をはじめ、参加者が300人という大パーティーが催されることになった。殿下が所有するルビーが狙われるとみて、進たちはパーティーに入り込むのだが・・・
 まぼろしの怪人が脱獄に使用するトリックは、現代の目から見たら「いくらなんでもそれはないだろう」なんだが、当時のジュヴナイルではよく使われるものではある。時代を考えたら、まあ目をつぶりましょう(笑)。


「第三章 まぼろしの少年」
 隅田川の花火見物に、屋形船で乗り出した進、三津木記者、そして池田社長たち。そこへ飛び込んできたのは貴公子然とした十七、八歳ほどの美少年。
 義経の八艘飛びもかくやとばかりに、船から船へと飛び回って逃げていった彼は、宝石盗難の容疑者として逮捕され、連行される途中を逃げ出してきたところだった。
 盗難の現場とみられる部屋では、矢島謙蔵(やじま・けんぞう)という男が殺されていた。彼は銀座の宝飾店・天銀堂で働く宝石職人だった・・・


「第四章 ささやく人形」
 銀座のデパートで開かれた防犯展覧会。その会場の一角で、進は謎の声に立ち止まる。その声は告げる。池田社長の娘・由紀子を誘拐したと。
 彼女を解放する条件は、進の目の前に置いてあるスーツケースを持って、今夜10時に両国橋近くにいる海運丸という船に来いというもの。
 要求通りに海運丸に来た進は、由紀子は赤坂のホテルにいると告げられる。ホテルに着いた進は由紀子を発見するが、彼女のいた部屋には世界的声楽家・桑野さつきの刺殺死体が・・・

 第四章は本書の分量のおよそ半分を占めるエピソード。ここに来てまぼろしの怪人の事件は、桑野さつきを含む三人の娘への復讐の物語となっていく。
 本書は対象年齢が中学生と云うことで、けっこう血なまぐさい描写もあり、殺人も複数起こる。

 "変装の名人" という設定は、現代ではとてもじゃないが無理がありすぎて使えないネタなのだが、それが「可能」だと設定すると、けっこう面白い展開が生まれる。
 第二章などは、誰が怪人の変装なのかと登場人物たちが疑心暗鬼になる描写があり、それをまた逆手にとった流れがやはり上手いと思う。見た目では変装が見破れないという "特殊設定もの" と割り切れば、楽しく読める。


 本書のヒロイン(?)である池田社長の娘・由紀子嬢(中学1年・13歳)は、冒頭から登場しているのだが、本格的にストーリーに絡むのは後半から。

 進くんは探偵の才能のおかげで池田社長の覚えめでたく、本書では社長の家に住まわせてもらっているという設定。進くん(推定16歳)、その気になれば逆玉が狙えるぞ~なんて思ってしまう私は、心が汚れているのでしょう(笑)。



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すり替えられた誘拐 [読書・ミステリ]


すり替えられた誘拐 (創元推理文庫)

すり替えられた誘拐 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/05/31
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 ブランチフィールド大学の学生バーバラは、資産家の娘だが素行不良で有名だった。そんな彼女が誘拐される。
 身代金を渡したにもかかわらず彼女は戻らず、やがて死体となって発見される。バーバラの交際相手マイケルは容疑を掛けられ、逃亡してしまう・・・


 ブランチフィールド大学の屋台骨は傾いていた。入学者数は減少し、内部では学生運動が激しくなっていた。盗難の容疑を掛けられた学生を除籍処分にしたところ、抗議運動が始まってしまったのだ。

 女学生バーバラは、資産家レッチワース卿の娘。トラブルは金で解決し、男たちと浮名を流す。いまは大学の講師マイケルと交際中だ。
 そんな彼女を誘拐するという企てが進行中だという噂が流れる。そして除籍撤回を求める学生集会の最中に、本当に拉致されてしまう。

 レッチワース卿は身代金要求に応えたもののバーバラは戻らず、やがて遺体となって発見され、実行犯と思われた学生も他殺死体となっていた。
 そして誘拐事件の "黒幕" と疑われたのはマイケルだった。警察の追求を恐れた彼は身を隠してしまう・・・


 登場人物はかなり多いのだけれど、中心となるのは、ギリシャ語講師でマイケルの同僚でもあるブライアンと、マイケルの姉ローナ。
 マイケルと同じアパートの上の階に住んでいるブライアンは、失踪したマイケルを探してやってきたローナと出くわすことになる。

 謹厳実直で、頭は切れるが学問一筋で世間の諸事には無頓着、他人に対しても無関心を貫くブライアンと、世話好きで出来の悪い弟を溺愛するローナ。
 職業も語学講師と臨床検査技師と、共通点が全くない二人は最初から水と油で、何度となくぶつかり合うことになるが、互いに自分にない要素を持つ相手に次第に惹かれていく。

 ちなみにブライアンの母親はローナとはすぐに打ち解けて気に入ってしまい、しきりに息子をせかす(笑)。このへんのラブコメみたいな展開が好きだなぁ。この作者さんはこういうところを書かせてもとても上手いと思うんだけど、巻末の解説でこの辺に触れる人がいないのは不思議だ。
 閑話休題。

 中盤で二人の協力関係が成立し、弟の無実を信じるローナの求めでブライアンは事件を解析、犯人に必要な「9つの条件」を見いだして真相へと辿り着く。

 ここまでで全体の2/3ほどで、犯人当てミステリとしての要素はここでほぼ終了。残りは真犯人の視点から描くサスペンスへと移行する。つまり本書は二部構成となっているわけだ。

 ここの部分は好みが分かれるかも知れない。多分作者は、犯人の性格の異常性、犯人を精神的に追い詰めていった周囲の者たちの言動、そして犯行に至るまでのプロセス、さらにラストの衝撃的な展開、これらをじっくり描きたかったのだろう、とは思うのだが。

 終盤での "大騒動" のおかげで、ブライアンとローナの仲の進展も不透明になってしまうのだけど、最終2ページに掲げられたブライアンから自分の母へ宛てた手紙で、希望が繋がれる。



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呪殺島の殺人 [読書・ミステリ]


呪殺島の殺人(新潮文庫nex)

呪殺島の殺人(新潮文庫nex)

  • 作者: 萩原麻里
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/06/05

評価:★★★☆


 大学生の秋津真白(あきつ・ましろ)が目覚めたとき、傍らには彼の伯母・赤江神楽(あかえ・かぐら)の死体が。そして真白はすべての記憶を失っていた。
 孤島・赤江島で起こった殺人事件。容疑が掛けられた真白は、友人・三嶋古陶里(みしま・ことり)とともに真相解明をめざすことに。


 東京都の南、船で3時間ほどのところに浮かぶ孤島・赤江島。古来より呪術を執り行ってきた赤江一族が "島流し" にされたと伝えられる島だ。

 島の領主の末裔・赤江神楽はベストセラー作家だったが、最近になって断筆宣言をしていた。大学生の秋津真白は彼女の甥で、一族はこの二人しかいない。

 神楽は最後の著作の出版記念パーティーを島にある屋敷で開くことを決めた。真白は神楽から島に招かれ、幼馴染みで民俗学マニアの三嶋古陶里とともにやってくる。他にも顧問弁護士、ジャーナリスト、担当編集者など、集まってきたのは総計8人。

 しかしその夜、赤江神楽が殺害される。現場の寝室は密室状態、その傍らには真白が倒れていたが、彼はすべての記憶を失っていた。

 しかも折からの嵐で、携帯の電波も届かない屋敷は孤立してしまう。島の集落に助けを求めて車で出発した古陶里たちが見たのは、島に常駐している警官の死体。そして、屋敷と集落を繋ぐ橋は既に崩落していた・・・


 物語は真白の一人称で進行していく。彼はワトソン役であり、犯行現場にいたことから容疑者筆頭でもある。神楽にとって唯一の遺産相続人である彼は、当然の成り行きとして周囲からは犯人扱いされてしまう。しかも記憶をなくしているものだから、申し開きすらできないという窮地に陥る。
 ところが彼はいささかトボけた性格で、人は好いのだが鈍感みたい(笑)。そんな彼の語り口のおかげで、陰惨な事件の雰囲気が緩和され、読者はすんなりと作品世界に入っていけるのだろう。

 彼の味方は友人の古陶里のみ。ホームズ役でもある彼女は真白の無実を信じるのだが、その理由は「おまえは間抜けだから」(おいおい)。
 和服を着た純日本風美人でありながら、口を開けばとにかく毒舌で真白をディスりまくる。それもまあ幼馴染みという気安さが根底にあるのだろう。真白くんとは良いコンビのようで、二人の掛け合いは楽しく読ませる。

 こう書いてくると、軽いタッチの作品のように感じられるかも知れないが(まあ、「新潮文庫nex」ってライトノベルのレーベルだよね?)、ストーリーの芯となるネタは「おお、そうきたか」って感じで、なかなか思い切った大胆なものが投入されている。

 他にも細かいところまで細かくミスディテクションを誘う工夫が為されていて、よくできている。登場人物も、いかにも裏がありそうな者から、かけらもそんなことを匂わせない者までさまざま。もちろん物語が進むに連れて、隠された面が現れてくるのだが、そのあたりの書き分けも上手いと思う。

 嵐で孤立した島の中で、さらに孤立した屋敷、その中で起こる連続殺人というなかなか魅力的なシチュエーションを、きっちりと描ききってみせるのは流石。次作も期待してしまう。


 全国に、呪術を行う一族を "封じた" 島は複数あるらしい。本書の序盤では「少なくとも五つある」とされていて、そのうち三つまでは位置・名称まで判明している、と語られている。そのひとつが本書の赤江島。
 そしてそこで言及されている既知の島のひとつが、次作『巫女島の殺人』の舞台となっている。ということは、このシリーズは少なくとも5冊にはなる、ということなのだろう。

 主役である真白と古陶里の間には、本書で描かれたもの以上の関係が潜んでいるような気もするのだが、その辺もおいおい続編で明かされていくのだろう。



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Y駅発深夜バス [読書・ミステリ]


Y駅発深夜バス (創元推理文庫)

Y駅発深夜バス (創元推理文庫)

  • 作者: 青木 知己
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/05/19
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 光文社の公募企画〈新・本格推理〉に入選した表題作を含む5編の短編を収録。


「Y駅発深夜バス」
 本編は二部構成になっている。
【第一部】出版社勤務の坂本は、その日の打ち合わせが長引いて終電を逃してしまい、Y駅発の深夜バスを利用して自宅マンションに帰り着く。しかし翌朝、坂本は自分の乗ったバスが、運行されていないはずの "幻のバス" だったことを知る。
【第二部】その二年後。坂本の隣室に住む細谷貴之が人事異動によって引っ越していく。細谷の妻・陽子は二年前に五階の自宅ベランダから転落して死亡していた。それは坂本が "幻のバス" に乗った日だった。
 夕方、買い物を済ませた坂本は中年の男性から声を掛けられる。男は陽子の父と名乗り、"あの夜" の様子を訪ねてきた。問われるままに答える坂本。やがて男は "幻のバス" について驚くべき解釈を語り出す・・・
 作中で示されるいくつかの奇妙な謎が、終盤には綺麗に回収されて、緻密な犯行計画を暴き出す。


「猫矢来」
 中学1年の仲川里奈(なかがわ・りな)は、ダンス練習の帰りに同級生の岸辺が小学生をカツアゲしているところに出くわす。小学生を助けた里奈だが、翌日の学校で岸辺から嫌がらせを受けてしまう。そこを救ってくれたのは、クラスでも浮いている男子・碓井だった。
 中学生のラブコメっぽい展開に並行して、里奈の隣人の不審な行動が描かれ、終盤で一気に大騒動になっていく・・・
 意外と重いテーマを含んでいるんだけど、それを主役二人の明るさが救っている。探偵役の碓井くんが、ちょっとトボけているようで実は鋭く、気配り上手でとてもよくできた子。里奈ちゃんとの掛け合いも楽しい。このコンビの話、もっと読みたいなぁ。


「ミッシング・リンク」
 相庭浩一(あいば・こういち)、中西貴之(なかにし・たかゆき)、永野亜希子(ながの・あきこ)、太田美咲(おおた・みさき)、倉橋春菜(くらはし・はるな)の5人は大学の同級生だった。卒業して五年後、信州にある美咲の別荘に5人が集まることになった。
 実は浩一と美咲は、この集まりの場で結婚を発表するつもりだった。浩一、貴之、亜希子の3人が別荘に着いたとき、そこには美咲とその弟・稜(りょう)がいた。
 別荘の掃除やパーティーの買い出し等で忙しくしている中、浩一が用意してきた婚約指輪が何者かに盗まれてしまう。別荘にいた誰にも、それなりに動機があると思われた。
 探偵役となるのは、遅れてやってきた春奈。彼女は5人の証言を聞いて犯人を指摘する。各章には時刻が記載されていて、春菜は5分刻みで5人の行動を一覧表にまとめていく。
 これによって犯人は明らかになったかと思われたが、表の見方をひとひねり。ああこれで決着かと思いきや、さらにもうひとひねり。いやぁたいしたもの。


「九人病」
 旅行誌の編集者・和久井は、"誰も知らない秘湯" 取材のため、北海道の秘境・赤昨谷(あかさくだに)温泉へやってくる。バスも通らない芝勝(しばかつ)峠近くに、一軒だけあるボロ宿にたどりついた和久井。客などいないと思ったが、意外にも相部屋になってしまう。その相手は気象庁勤務だといい、不思議な体験を語り出す。
 数ヶ月前に芝勝峠のアメダスに不調があり、その調査に赴いたところ、地図にも載っていない小さな集落に辿り着いた。途中で怪我をしていたヒナタという若い女性を助け、彼女の家に泊まることに。しかしその家の離れには老婆が病で伏せっていた。
 ヒナタの父は語る。この集落には10年周期くらいで "九人病"(くにんびょう)という風土病が流行する。手足が壊死し、やがて脱落してしまうのだと云う。しかしなぜか罹患者が9人を数えるとそこで感染が止まるらしい・・・
 基本的にはホラーなのだが、九人病の感染に潜む規則性(意外と科学的な裏付けを伴う)から、恐るべき推理が導き出されていく。これは怖い。


「特急富士」
 ミステリ作家・間島弘樹(まじま・ひろき)は、ある短編で日本推理小説大賞を受賞することになった。しかしその作品のネタは、愛人のエッセイスト・日向沙耶(ひゅうが・さや)が書いた習作ミステリから盗用したものだった。沙耶がこれを知るのは時間の問題だ。
 間島は新米編集者・飯塚によってホテルにカンヅメにされたことをアリバイに利用して、寝台特急《富士》で大分に向かう沙耶を殺しに向かう。
 一方、飯塚も過去に沙耶に騙されて高額の慰謝料を払ったことがあり、彼女に対して殺意を抱いていた。彼もまたカンヅメにした間島をアリバイに利用し、沙耶を殺しに向かう。
 2人の男が、お互いをアリバイ作りに利用しながら1人の女を殺しにいくという "二重の倒叙もの" ともいうべき奇妙な状況がコミカルに描かれる。込み入った状況の決着のつけ方も見事だが、ラストの切れも鋭い。



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薔薇のなかの蛇 [読書・ミステリ]


薔薇のなかの蛇 (講談社文庫)

薔薇のなかの蛇 (講談社文庫)

  • 作者: 恩田陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/05/16

評価:★★★


 イギリスのソールズベリー村にある遺跡で、手足・首が切断された死体が見つかって騒ぎになる。その頃、英国留学中の水野理瀬(みずの・りせ)は、友人アリスの招待で彼女の一族が住まう屋敷・ブラックローズハウスへやってくる。
 そこでは一族に伝わる「聖杯」が披露されるのだという。しかしその夜、敷地内で切断された死体が見つかる・・・


 水野理瀬は、いままでいくつかの長編・短編に登場してきたシリーズ・キャラクター。今作では20歳となり、ケンブリッジ大学に留学して美術史(図像学)を学んでいる。

 大学の友人アリスに招かれ、彼女の一族が住まう屋敷・ブラックローズハウスへやってくる。そこは、切断死体が発見されて大騒ぎになっているソールズベリー村の遺跡の近くであった。

 五弁の薔薇の花を象ったブラックローズハウスには、当主オズワルドをはじめとするレミントン家の一族に加え、多くの招待客がいた。そこで催されるパーティーでは、一族に伝わる「聖杯」が披露されるのだという。

 しかし理瀬が到着した夜、敷地内で切断死体が発見される。オズワルドには「聖なる魚」を名乗る者からの脅迫状が届く・・・


 理瀬のパートと並行して語られるのは、ヨハンという青年のパート。彼は理瀬の友人で、こちらもシリーズ・キャラクター。やはり英国に滞在していて、彼のもとを一人の男が訪ねてくる。この二人の会話がこちらのパートとなる。


 基本的には殺人を扱ったミステリなのだけど、それよりも舞台となる館、そこに集う人々のドラマが主体のように感じる。

 五棟ある建物のうちの一棟が火事で焼失しても再建されないなど、屋敷そのものに隠された謎、登場人物同士が腹の探り合いや駆け引きに汲々とする様子。そして「聖杯」の行方とその正体。それらのほうにより興味をそそられる。そこでは、殺人事件はあらゆる事態が動き出すきっかけに過ぎないようにも思う。

 今回、理瀬が乗り込む館のレミントン家は英国上流階級の典型。理瀬の友人であるアリスの父オズワルドは資産家の当主、長兄のアーサーは政府系の機関への就職が決まり、次兄のデイヴは父の事業の後継者となるのが既定路線。館のパーティーに集まってくる招待客も、みな同じ上流階級に属する者やその縁に連なる者ばかり。

 そんな中でも、理瀬という女性のキャラクターは鮮烈だ。聡明で美しく、さらに強さを兼ね備え、もっと云うと "ある野望" まで胸に秘めている。
 理瀬のパートは主にアーサーの視点で語られるのだが、彼女の存在は常に彼の興味を惹き続ける。派手な言動は皆無なのに、彼女の周囲だけ常にスポットライトが当たっているような存在感がある。

 もちろん終盤では殺人の謎も解明され、ブラックローズハウスの秘密、ひいてはレミントン家が果たしてきた歴史的な闇の面もまた明るみに出る。
 ヨハンを訪ねてきた男の正体も判明し、理瀬のパートとひとつになって幕となる。


 ちなみに、彼女の登場する作品が書かれたのは17年ぶりらしい。本書の「終章」では、将来的な展開を予想させる描写もあるので、作者は続編も予定しているのだろう。
 ぜひ次作は17年なんて間を開けずに書いてほしいな。こっちの寿命が持たないから(笑)。



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雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール [読書・ミステリ]


雛口依子(ひなぐちよりこ)の最低な落下とやけくそキャノンボール (光文社文庫)

雛口依子(ひなぐちよりこ)の最低な落下とやけくそキャノンボール (光文社文庫)

  • 作者: 呉 勝浩
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/11/16

評価:★★


 雛口依子(ひなぐち・よりこ)の前に現れた浦部葵(うらべ・あおい)は、ルポの共著を持ちかける。テーマは3年前の猟銃乱射事件。犯人とされたのは葵の兄、被害者となったのは依子の一家だった。
 依子は、葵に問われるままに過去を回想していくが。


 ストーリーは2016年と2012年を交互に行き来しながら語られていく。


 2012年の物語は、依子の兄・新太が突然覚醒するところから始まる。半年前、15階建てのマンションから転落したが奇跡的に命を取り留め、意識不明の状態になっていたのだ。
 目覚めた新太は、DVを繰り返していたのが嘘のような平穏な性格になってしまうのだが、読者はやがて依子の一家がとんでもない人々であることを知っていく。

 経済的に困窮していた一家は、"色川の伯父さん"(とはいっても血縁関係はない)なる人物の支配下にあった。金と(宗教がかった)マインドコントロールによって色川は一家にとっての ”絶対君主” となり、依子の両親や兄を意のままに操り、精神的にも肉体的にも虐待を繰り返していた。
 このあたりの描写がとにかく分厚い。本書は文庫で500ページ近くあるのだが、この虐待の部分だけでかなりの分量が費やされている。

 驚くことは、依子本人がそれをあまり抵抗なく受け入れてしまっていること。小学校の頃から不登校で、家族の中だけで成長してきた依子には通常の価値観/倫理観が欠如していることが強烈に印象づけられていく。


 2016年の物語は、依子の前に現れた浦部葵が、ルポの共著を持ちかけるところから始まる。
 3年前に起こった猟銃乱射事件。犯人とされたのは葵の兄、そして被害者となったのは依子の一家。
 葵の一家は殺人犯を出したことで崩壊し、葵も人生のどん底にあった。そこで一発逆転を目指し、"当事者" だった依子を巻き込んで実録ルポを出版、がっぽり印税を稼ごうと思い立ったのだ(おいおい)。
 葵から問われるまま、依子は過去を回想していくが、同時に疑問点も浮上してくる。2人はそれを解消すべく、調査を始めるが・・・


 2012年の物語は、やがて猟銃乱射事件へと至り、世間的に公表/認識されたものとは異なる真相が明らかになっていく。

 そして物語の終盤は2017年。互いに人生のどん底にある依子と葵は、2人の人生をここまで破壊し尽くした者たちに対して "落とし前" をつけるべく、ある "企て" を実行しようとするのだが・・・


 私は基本的にこの手の話は苦手だ。とくに虐待シーンはえげつない描写が続く。「この先は読みたくないなぁ」って思うんだが、なぜかやめられずに読んでしまった。ページをめくらせる力がスゴいのは認めよう。
 依子と葵、ある意味 "仇同士" でもある2人の関係性の変化も面白い。

 物語は基本的に依子の一人称によって語られていくのだが、内容の陰惨さに比べて、彼女の語り口はトボけていて、ときにユーモアまで織り交ぜ、被害者意識が薄いように見える。
 これは上にも書いたように、彼女が状況をきちんと把握/理解できていなかったこともあるだろう。でもそれを上回る "諦観" が垣間見えるようで、自分を突き放して見ているところも感じられる。これもまた読んでいる者の胸を苦しくさせる。

 でもまあ、この語り口のおかげで読者は読み進められるのかも知れない。悲痛さを切々と訴える文章で来られたら、あっという間に本を閉じてしまうんじゃないかな。

 ラストでは、依子と葵の将来にかすかな希望が見えてくるのだが、でもやっぱり、好きになれない話だよなぁ・・・



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烏百花 白百合の章 [読書・ファンタジー]


烏百花 白百合の章 (文春文庫 あ 65-10)

烏百花 白百合の章 (文春文庫 あ 65-10)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/05/09
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 異世界・山内(やまうち)を舞台にしたファンタジー、「八咫烏(やたがらす)」シリーズの外伝、第2巻。短編8作を収録。


「かれのおとない」
 北領に住むみよしの長兄・茂丸(しげまる)は武勇に優れ、長じては勁草院を経て山内衆(近衛隊)となった。しかしその兄の訃報が伝えられる。使者としてやってきたのは兄の友人・雪哉(ゆきや)だった・・・


「ふゆのことら」
 北領・風巻郷(しまきごう)の郷長の息子・市柳(いちりゅう)は、"北領最強" と謳われるほどの剛の者。しかし隣の垂氷郷(たるひごう)の次男・雪哉が若宮殿下の側仕えになると聞き、心中穏やかでない。
 しかし北領で行われる武術大会の日、その雪哉が市柳の前に「手ほどきしてほしい」と云って現れる・・・


「ちはやのだんまり」
 山内衆の一人、千早(ちはや)は、目の不自由な妹・結(ゆい)を溺愛していた。その結が、「将来を考えている人」がいると云って連れてきたのは、見目も態度も悪い男シン。仕事は門番だというのだが・・・


「あきのあやぎぬ」
 弱小貴族の次男坊だった夫が多額の借金を残して亡くなった。2人の子を抱えた妻・環(たまき)は、やむなく西本家の次期当主・顕彦(あきひこ)の十八番目の側室となることを決意するが・・・


「おにびさく」
 登喜司(ときじ)は鬼火灯籠の職人である。大貴族西家(さいけ)の「お抱え」だった養父のもとで修行をしていたが、なかなか認めてもらえない。そして二十歳を超えて焦り始めた頃に養父が急逝、仕事が一気になくなってしまう。
 そんなとき、皇后陛下が "飾り灯籠" を求めているとのお触れが廻り、一念発起した登喜司は灯籠を作り始めるが・・・


「なつのゆうばえ」
 八咫烏の一族を統べる宗家・金烏(きんう)のもと、山内を分割統治する四家。その中で最大勢力を誇る南家(なんけ)に生まれた姫・夕蟬(ゆうぜみ)は、皇后になるべく育てられる。しかし家中には競争相手となる姉妹もいる。それは南家当主の座について同様で、暗殺をも辞さない陰謀が渦巻く。そんな権力闘争の中を生き抜いていく夕蝉の半生が綴られる。


「はるのとこやみ」
 東家(とうけ)のもとで楽人見習いとして竜笛(りゅうてき)を学ぶ双子。弟の倫(りん)は師匠の賞賛を浴びるが、兄の伶(れい)は自分の才のなさに悩んでいた。
 そんなとき、若宮殿下の妃選びが行われることになった。四家からは、それぞれ選りすぐりの姫が送り込まれる。
 その東家の代表となる姫を決める席において、兄弟は見事な長琴(なごん)の演奏を聴く。弾いていたのは、東清水(ひがしきよみず)家の姫、浮雲(うきぐも)だった・・・
 作中の描写を読む限り、長琴はピアノを模した楽器のようだ。


「きんかんをにる」
 奈月彦(なつきひこ)とその妻・浜木綿、そして幼い娘・紫苑(しおん)の宮の、ある日の風景を描く。文庫でわずか20ページほどだが情報量は多く、不穏な気配も半端ない。


 大長編シリーズのメインストーリーには絡まないけど、山内には貴族も平民も多数暮らしていて、そんな彼ら彼女らの哀歓を垣間見るエピソード群にくわえ、レギュラーキャラの意外な過去を知ることができるのも楽しみか。
 本編では闇落ちしてる(ように見える)雪哉くんは、少年時代から性格が悪かったんだね、って納得したり(笑)、怖い "あの人" にはこんな過去があったんだ、って驚かされたり。

 私のお気に入りは「おにびさく」と「はるのとこやみ」かな。



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千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖 [読書・ミステリ]


千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖 (宝島社文庫)

千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖 (宝島社文庫)

  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/07/04
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 大正8年、秦野(じんの)財閥総帥の四男・孝四郎(こうしろう)は、謎の少女・白比丘尼(しらびくに)と共に、孤島で行われるオークションに参加することに。彼の目的は、そこで売りに出される "人魚のミイラ" を競り落とすことだ。
 「かつて人魚の肉を食べて不老不死の身になった」と語る白比丘尼と共に島を訪れた孝四郎を待っていたのは、連続殺人事件だった・・・


 小舟一艘の漁師から身を起こし、第一次世界大戦の軍需景気に乗って貿易・船舶輸送で巨万の富を築き上げた秦野零明(れいめい)。彼が愛人に生ませた庶子・孝四郎が本書の主人公だ。

 18歳となった孝四郎は、父・零明に呼び出され、"人魚の肉" の入手を命じられる。戸惑う孝四郎は一枚の写真を示される。そこには十四、五歳と見える少女の姿が。
 ”白比丘尼” と呼ばれる彼女は、かつて人魚の肉を食べて不老不死の身になり、千年の齢を重ねてきたという。零明が財をなした陰には彼女の助力があったのだと。

 白比丘尼ともに、孝四郎は不破松之丞(ふわ・まつのじょう)男爵が秘蔵する品々のオークションに参加することに。出品されるものの中に "人魚のミイラ" があったからだ。

 二人は会場となる孤島・大燈台島(だいとうだいじま)へ渡る。そこでは32年前の明治20年に、5人いた燈台守が一斉に失踪するという事件が起こっていた。そして燈台守の一人が残した日誌には、"人魚" の存在をうかがわせる記述があった。

 島には不破男爵をはじめ篁織枝(たかむら・おりえ)伯爵夫人、閨秀画家・眞珠花ェ門(しんじゅ・かえもん)、成金の相場師・宍戸長治(ししど・ちょうじ)、不健康そうな医師(笑)・草加部佑(くさかべ・たすく)、そして使用人たちがいた。さらには孝四郎を追ってきた異母兄・秦野三津雄(みつお)まで現れ、総勢12人が集うことになった。

 オークションの直前、不破男爵が孝四郎たちを訪ねてくる。彼の父の遺言の謎を解いてくれたら、"人魚のミイラ" の落札に便宜を図るという。
 しかしその翌朝、男爵は死体となって発見され、連続殺人の幕が開く・・・


 いかにも謎めいた織枝夫人、いかにも自由奔放そうな女性の花ェ門、いかにも山師な宍戸など、類型的ではあるがわかりやすいキャラで描かれる登場人物たちだが、末端の使用人に至るまで "隠された裏事情" を秘めていて、なんとも油断のならない集団になっている。

 そんな中、父の愛人だった孝四郎の母親を嫌う異母兄・三津雄は、登場した瞬間から敵対心むき出しで、弟と白比丘尼にガンガンぶつかってくるのだが、物語の進行と共に少しずつ様子が変わっていくところは面白い。

 肝心の主人公である孝四郎は夢遊病の癖を持ち、深夜徘徊をするらしい。なんとも頼りなく、そのために早い段階から容疑者と目されて、白比丘尼共々に監禁されたりとけっこう散々な目に遭わされる。

 そして〈千年探偵〉の異名を持つ白比丘尼さんもなかなかユニーク。"外見は少女なのに千年生きてる不老不死の女性" というのは、実際のところどんなキャラになるのか想像しにくいが、少なくとも読んでいて違和感は感じず、とても魅力的に思えた。もう少し老成した雰囲気があってもいいかとも思ったが、あまり出し過ぎると不気味さが勝ってしまうので、これがいい案配なのかもしれない。

 予想していたよりも多く死人が出る(笑)ことに驚く。しかし設定こそファンタジーだが現実に沿った謎解きが行われる。もちろん白比丘尼の ”不老不死性” も活かされ、32年前の事件の真実、そして発端となった零明の真意と、何層にも及ぶ真相はよくできている。

 その気になれば続きが書けそうな終わり方だが、本書の刊行から4年経ってるけど続巻は出ていない。もっともラストシーンを読むと、このまま終わったほうが綺麗だろうな、とは感じる。でも続編が出れば読みたいな、とも思う(笑)。



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