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龍神池の小さな死体 梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 [読書・ミステリ]


梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体 (徳間文庫)

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体 (徳間文庫)

  • 作者: 梶龍雄
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/04/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 「おまえの弟は殺されたのだよ」息を引き取る直前の母の言葉に衝撃を受ける仲城智一(なかじょう・ともいち)。太平洋戦争末期の昭和20年、弟・秀二は疎開先の村で溺死していた。弟の死の真相を調べるべく村を尋ねた智一だが、秀二の死んだ龍神池に新たな死体が・・・


 物語の舞台は昭和43年。主人公・仲城智一は関東大学工学部の建築学教授。最近になって亡くなった母が、死の直前に智一に告げた。「おまえの弟は殺されたのだよ」と。
 昭和20年、当時小学校3年生だった秀二は、千葉県の山里に集団疎開に行ったが、その3ヶ月後に死亡していた。

 当時の状況を知るために、智一は秀二の同級生だった浅川マキ子と青山京子を訪ねる。
 マキ子によると、疎開先の集落・山蔵(やまくら)には、妙見(たえみ)という資産家が屋敷を構え、しばしば疎開児童たちを招いて厚くもてなしていた。秀二もそこに招かれた日に、近くにあった龍神池で溺れ死んだのだという。
 また京子は、秀二が死んだときに妙見家にいたが、あいにく昼寝をしていて記憶がないという。しかし、妙見家の庭に蔵のような建物があり、その二階に "白い顔の子どもの顔"  を見たという。
 いやあ、いかにも横溝正史描くところの "典型的な田舎の旧家" みたいだね。こういう伝奇的な雰囲気、嫌いじゃない。

 山蔵集落へ入った智一は、医師・花島の家に逗留して過去を調べ始める。妙見家の屋敷は取り壊されて既にない。当主は昭和28年に病死し、その息子も自殺していた。
 周囲の住人に話を聞いてまわるが、相変わらず真相は五里霧中。当時の状況を知るであろう妙見家の元使用人・吉助に会いに行くが、けんもほろろの対応。
 そんな中、智一は何者かに襲われて頭部を負傷してしまう。さらに龍神池で吉助の他殺死体が発見され、智一に殺人容疑がかかってくる・・・


 ちょい役を含めるとけっこうな数のキャラが登場するが、その中でも印象的なのが2人の女性。
 1人は、上にも書いたが秀二の同級生だった浅川マキ子。イラストレーターを生業にしている。32歳くらいのはずだが、童顔で独身。智一は一度会っただけで魅了されてしまい(笑)、その後も事あるごとに彼女に思いを馳せるようになる。
 もう1人は佐川美緒。智一の勤務する関東大学で工学部長を務める佐川教授の娘で、大学の庶務課で働いている。36歳の智一とはかなりの年齢差(多分彼女は20歳くらい)なのだけど、智一に対する好意を隠さない積極的なお嬢さんで、かなりのミステリ好き。今回の事件にも首を突っ込んで、あれこれ推理を巡らせる。最終的に真相に辿り着くのは智一なのだけど、中盤まではほとんど彼女が探偵役を担ってる。


 山蔵に入る前も、入った後も、智一は多くの関係者から話を聞いてまわるが、結局真相は藪の中。しかし、断片的に入手したこれらの情報はみな巧妙な伏線になっていて、最後の段階できれいにひとつながりになっていく。

 脇筋かと思っていた智一の研究内容や建築会社との関係なども、終盤ではしっかりメインストーリーに絡んでくるし、軽く読み飛ばしてしまうような小さなエピソードでも、真相が明らかになってみると別の意味を持って立ち上がってくる。

 文庫で480ページとかなりの厚さだが、冒頭から伏線の嵐で、無駄な部分がほとんどないといえる。それくらい凝ったつくりになってる。

 正直に言うと、ミステリを読み慣れた人なら、事件の ”中心” にあるカラクリはけっこう早い段階で想像がついてしまうだろう。だからといって、それで全体を見通すことはできないんだよねぇ。真犯人も分からないし。作者もそのあたりまでは想定の範囲内なのだろう。

 その "中心" の周りを十重二十重に分厚い謎が取り巻いていて、堅固な城のようになっている。
 その壁を打ち破っていくのが、終盤の80ページにわたる "真相編"。散りばめられた伏線が総動員されて真実が明らかにされていき、ストーリーは終焉を迎える。

 裏表紙の惹句には「怒濤の伏線回収に酔い痴れる」とある。「酔い痴れる」かどうかは人によるかと思う(笑)が、「怒濤の伏線回収」は "看板に偽りなし" だと云えるだろう。

 最後にちょっと一言。
 ミステリとしては切れ味鋭いラストなのだが、物語としての決着のつけ方は、好みが分かれるかもなぁ・・・って思った。



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