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テンペスタ 最後の七日間 [読書・ミステリ]


テンペスタ 最後の七日間 (幻冬舎文庫)

テンペスタ 最後の七日間 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2016/10/07
  • メディア: 文庫


評価:★★★☆

主人公は30代後半の独身男・賢一。
東京で大学の非常勤講師をしているが、その薄給を補うために翻訳のアルバイトで糊口を凌ぐ日々。

ある日、田舎で暮らす弟・竜二から頼まれ、
一人娘のミドリを夏休みのあいだの1週間、預かることになる。

タイトルの ”テンペスタ” とは、”嵐” を意味するイタリア語のようだが 
”ヒロイン” であるミドリを形容する言葉として誠にふさわしい。

小学4年生で美少女といえる容姿ながら、口を開けば毒舌が飛び出す。
東京にやってきた彼女が最初に賢一にねだったのは、江戸時代の罪人の処刑場巡り(おいおい)とおよそ10歳の子どもとは思えない趣味嗜好の数々。

年齢不相応な知識も蓄えているようで、かなりの耳年増のようだ(笑)。

性格は自由奔放ながら、正義感もまた人一倍。
大人の事情で見過ごされがちな ”世の理不尽” にも敢然と異を唱えて噛みついていく。

さぞかし、学校では浮いているんだろうなぁと思わせるが
本人はケロリとしたものである。

先入観に囚われない子どもが、ものの本質を突く言動をする、
というのはよく見かけるパターンではあるが、本書はそれが文庫で300ページにわたって繰り広げられる。

中でも、西洋の有名絵画の画集を見せられたミドリが、
名画の数々をケチョンケチョンにこき下ろすシーンは痛快だ。

彼女の保護者を押しつけられた賢一こそ災難で、
ミドリに振り回されてさんざんな目に遭うのだが、その中で新たな刺激も感じるようになっていく。

さて、本書はミステリであるから、当然それだけでは終わらない。
ミドリと一緒に過ごす日もあと1日となった6日目の夜、ある ”事件” が起こる。しかしこれはまだ序の口。最後の7日目に至って、さらにとんでもない衝撃が賢一を襲う・・・

どちらの ”事態” も、物語の序盤からあちこちに伏線が張ってあり、
それがきれいに回収されていくのはお見事。

台風のような小娘に翻弄される中年男の悲哀(笑)を描いた
ユーモア小説のはず、だったのだけど、ラスト70ページでは雰囲気は一転、涙で文字が滲んでしまう展開に。
いやあ、こういうのには弱いんだよなぁ・・・


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カナダ金貨の謎 [読書・ミステリ]


カナダ金貨の謎 (講談社文庫)

カナダ金貨の謎 (講談社文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/08/12
  • メディア: 文庫


評価:★★★☆

臨床犯罪学者・火村英生とミステリ作家・有栖川有栖のコンビが
活躍するミステリで、国名をタイトルに関したシリーズの10巻目。

「船長が死んだ夜」
調査の帰りに立ち寄った温泉地で殺人事件に出会う二人。元船乗りという経歴から ”キャプテン” と呼ばれていた男が一人暮らしの家の中で刺し殺されていたのだ。
犯行現場から消えていた ”あるもの” を起点にしていくつかの手がかりがするするとつながって、一気に犯人に辿り着く。
巻末のあとがきに、新本格30周年記念のアンソロジー用に書き下ろしたものある。道理で、謎解きのお手本みたいな作品だ。事件解決後に明らかになる事実が、ミステリに留まらない余韻を残す。

「エア・キャット」
殺人事件の現場を訪れた二人。火村は、本棚にある本の中で夏目漱石の「三四郎」だけが真新しいことに気づく。その帰り、火村の下宿に立ち寄った有栖は、彼の部屋に「三四郎」と書いたメモが落ちているのを見つける。火村によると、前日に書いたものだというが・・・
文庫で20ページちょっとの掌編。

「カナダ金貨の謎」
火村のもとに芳原彩音(あやね)という女性から依頼が入る。同棲中の男性が殺され、彼女に殺人容疑がかかっているという。
被害者の名は楓丹次(かえで・たんじ)。旅先で拾ったというカナダのメイプルリーフ金貨をペンダントに仕立て、お守りと称して常に身につけていたが、それが現場から消えていた・・・
犯人・太刀川公司の側から描く倒叙ものの体裁を取っている。彼はある理由から金貨を持ち去ったのだが、それが回り回って自分の首を絞めていく、というかそれを利用して
火村が彼を追い詰めていく過程がよくできてる。

「あるトリックの蹉跌」
二人の出会いを描いた掌編。こちらも文庫で20ページほど。
有栖が学生時代、講義中に ”内職” して書いていたミステリ短篇。
短い中にも事件の情報が密度濃く書き込まれている力作なのだが火村は犯人をあっさりと言い当てる(笑)。
ラストで、火村はある事実を知って驚くのだが、「そこかい!」(笑)

「トロッコの行方」
ネイリストの浮田真幸(うきた・まさち)が歩道橋から転落、死亡する。発見されたときにはまだ息があり、何者かに突き落とされたと言い残したことから、殺人事件となった。
真幸は愛人・八野勇実(やの・いさみ)の出資で店を持つ予定だった。八野はその資金を捻出するため、金を貸していた手芸家・富塚蝶子に3000万円の借金返済を迫っていた・・・
表題の「トロッコ」とは、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の講義で有名になった「トロッコ問題」のこと。暴走するトロッコの先で5人の人間が暴走に気づかずに作業している。このままでは5人全員が死ぬ。<あなた>の前には支線への切り替えポイントがある。しかし、支線の先にも1人の作業員がいて、こちらも暴走に気づいていない。
<あなた>はどうする? 5人を助けるか、1人を助けるか・・・
この作品のどこが「トロッコ」なのかは、かなり後になって分かるのだが強いてトロッコに絡めなくてもいい内容ではないかとも思った。
容疑者は複数浮かぶものの、どれも決め手を欠く展開の中で火村の推理の切れは毎度のことながら鮮やか。そして、犯人の動機の身勝手さが印象に残る。


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レディ・ヴィクトリア ローズの秘密のノートから [読書・ミステリ]


レディ・ヴィクトリア ローズの秘密のノートから (講談社タイガ)

レディ・ヴィクトリア ローズの秘密のノートから (講談社タイガ)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/02/21
  • メディア: 文庫

評価:★★★

舞台は19世紀のロンドン。ヴィクトリア朝の時代。

女王陛下と同名の貴婦人・ヴィクトリアと、
人種も国籍も様々で、型破りで個性的な使用人たちで構成された
“チーム・ヴィクトリア” のメンバーが
ロンドンに起こる謎の事件に立ち向かう、冒険探偵譚、第5作。

七章立てになっているけど、内容は中編3作。
巻末のあとがきによると、長編になり得る素材を
中編に落とし込んだのだという。

「第一章 鍵のかかる小さな部屋」
「第二章 青い柳模様の皿」
「第三章 奪われていたもの、見出されたもの」
ヴィクトリアは、美術商ホワイトリーを呼び、ある依頼をする。
亡き夫・シーモア子爵が残した写真に写っていた壺を探して欲しいと。
しかしその夜、ホワイトリーはヴィクトリアの住まいに忍び込む・・・
柳模様の皿を巡って、26年前の北京で起こった事件の真相と、
ヴィクトリアの使用人・リュンの出自が明らかに。
序盤のヴィクトリアとホワイトリーの会話がやたら長いのは
その中で背景説明をするためだろうなあ。

「第四章 あなたの顔をした死神」
「第五章 仮面とヴェールの陰に」
クレイギヴァ公爵夫人は、当時としては ”進歩的” な
女性専用の社交倶楽部に出資していた。
遠縁の娘で孤児だったエディスを引き取って養育していたが
近年、女子教育に門戸を開いてきたエディンバラ大学に働きかけ、
彼女を医学部に入学させる許可を得たところだった。
その公爵夫人からヴィクトリアに相談があるという。
倶楽部の中に、そこにいないはずの公爵夫人そっくりの女性が現れると
使用人たちが騒いでいるという。公爵夫人は、それは
スコットランド伝承の死神(バンシー)ではないかと恐れていた・・・

「第六章 生首を抱くサロメ」
「第七章 華麗なる仮面舞踏会」
ヴィクトリアの元を、亡き夫・シーモア子爵の
息子トマスの妻、オーガスタが訪れる。
シーモア子爵との再婚を巡って、折り合いの悪い、
というか不倶戴天の敵と目されていた相手からの突然の訪問は
切羽詰まった彼女の事情によるものだった。
女性に対しては石部金吉だった夫トマスが、浮気をしているのだという。
その相手はいまロンドンで話題の踊子サロメ。
さっそく動き出した ”チーム・ヴィクトリア” は、
早々に事態の裏に隠された事実を見抜いていく。
トマスの行動の理由、そしてサロメの意外な正体・・・
浮気騒動の中身の暴露までが、あっという間に進行するんだが
これもやっぱり長編を縮めたせいかなあ。

もともと全5巻ということでスタートした企画だったそうで
巻数の追加が通らなかったのは、やっぱり出版界の事情かなぁ。

「エピローグ」では次の事件の ”予告” まであって、
作者は続きを書く気は充分みたい。
またいつか ”チーム・ヴィクトリア” の話が読めること期待して。


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ゴーストハント5 鮮血の迷宮 [読書・その他]


ゴーストハント5 鮮血の迷宮 (角川文庫)

ゴーストハント5 鮮血の迷宮 (角川文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/03/24
  • メディア: 文庫


評価:★★★☆

主人公兼語り手は女子高生・谷山麻衣。
彼女がアルバイトをしているのは
心霊現象を専門に調査する「渋谷サイキックリサーチ」(SPR)。

そこの所長である美少年、通称ナルと
個性的なゴーストバスターたちが繰り広げる
ホラーな冒険を描くシリーズ、第5作。

シリーズ第1作は春に始まったのだけど、
この5作目で二度目の春を迎えた。
ということは作中時間で1年経ったということだね。

SPRは、諏訪の山中にある屋敷の調査を依頼される。
元首相夫人の実家が所有するその屋敷は、
明治時代に建てられて以後、無秩序な増築を行い続けて
部屋数が100を超えるまでになり、内部はさながら迷宮のよう。

現在は無人になっているが、地元からは幽霊が出ると噂され
面白半分に肝試しをしようと中に入りこんだ若者が姿を消してしまう。
さらに、その捜索のために訪れた消防団の青年まで失踪する。

さすがに放置はできないと、元首相は屋敷の調査を決めた。
SPRの一行が到着すると、そこには既に国内外の霊能者や心霊研究家が
集められており、ナルたちを含めると総勢なんと20名。

しかし彼らが活動を始めると、”調査団” のメンバーが
ひとり、またひとりと姿を消していくのだった・・・

今回、SPRには前作から登場した安原くんも加わっている。
高校3年生だった彼も今作では大学1年となった。
初登場時は好感度の高そうな少年だと思ってたんだが
今作での言動を見ているとけっこう腹黒そう(笑)。
レギュラーメンバーは曲者揃いのようだ。

このシリーズは、登場人物同士の掛け合いを楽しむ
キャラクター小説の面が大きいと思っていて
ホラーとしての ”怖さ” はあまり感じなかった。

それは、もともと少女向け小説として発表された作品を
原型としているせいだと思うんだけど
この第5作は、いままでの4作よりは怖い。けっこう怖い(笑)。

読んでて、怖くて背筋が凍る・・・とまではいかないが
それに近い感じを久々に味わったよ。

館の秘密が暴かれ、幾多の怪奇現象の ”元凶” と
麻衣が対峙するクライマックスは緊迫感たっぷりで読ませる。

巻末の解説によると、シリーズの残り2冊では
怒濤の展開が待ってるらしい。期待しちゃいますね。


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冬の朝、そっと担任を突き落とす [読書・ミステリ]


冬の朝、そっと担任を突き落とす(新潮文庫nex)

冬の朝、そっと担任を突き落とす(新潮文庫nex)

  • 作者: 白河三兎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/12/23


評価:★★☆

高校で理系特進クラスの担任をしていた教師・穴井直人は
ある朝、校舎の窓から転落死を遂げる。

現場に遺書はなく、学校も事件を有耶無耶にしようとしていたが
クラスの生徒たちはみなその理由を知っていた。
教え子との ”淫行” を暴かれたからだ、と。

本書のタイトルは何とも物騒だが、これは自らの言動によって
自殺に向かおうとする担任の ”背中を押してしまった” あるいは
”追い込んでしまった” と思っている生徒たちを描いた物語だからだ

物語は自殺事件の直後から始まる。
穴井が担任していたクラスに中西美紀という女生徒が転入してくるが
彼女は転校初日から穴井の ”遺書探し” を宣言する。

 理系特進クラスは1クラスしかないので、
 理系の優秀な生徒はここにしか転入できないわけだ。
 ちなみに穴井の代わりは副担任だった女性教師が代行しているが、
 彼女は学校側の方針に従い、生徒に対しては
 一切、事件について語らない。

美紀の出現はクラス内に一石を投じ、波紋は広がっていく。
本書は全五章からなるのだが、それぞれ異なる生徒が語り手となって
クラス内の複雑な人間関係が浮き彫りになってくる。そして、
後半に向かうにつれて穴井の自殺直前の状況も明らかになっていく。

と書いてくると中西美紀が ”探偵役” となって
転落死事件の真相を暴いていく・・・って展開になると
思うかも知れないが、その後の物語は予想の斜め上をいく。

中盤過ぎには美紀自身の ”衝撃の過去” が明らかになるのだが、
これは文字通りの ”衝撃” で、こんなに驚かされたのは久しぶりだ。

本作の中で、”探偵役” に一番近いのは田嶋春という女子生徒だろう。
そう、本書は『田嶋春にはなりたくない』の主人公だった
”あの” 田嶋春嬢のシリーズでもあったのだ。

 もっともこちらの方が時系列的には過去で
 『田嶋春ー』では大学生だった彼女は、こちらでは高校生。
 穴井が担任していたクラスの生徒として登場する。

『田嶋春ー』でもその変人ぶりを遺憾なく発揮(笑)していた彼女だが
こちらではそれに輪をかけた奇矯ぶり。
その背景となる、彼女の家庭環境や家族の事情なども明らかになる。

本編中では章ごとの語り手となるメインキャラたちの影に
見え隠れしているが、要所要所では顔を出してきて
その鋭い洞察力は、隠されていた真実を次第に明らかにしていく・・・

高校生同士の会話劇の巧みさはもう、この著者の独壇場といえる。
でもそれは、私の苦手なドロドロなシーンでもあったりするわけで(苦笑)
読み進めるのは正直言ってキツかった。
星の数が少なめなのもそれが理由。

”自殺事件” の真相は最後まで明示はされないが、いくつかの描写を
手がかりに考えれば、”そういうことだったのか” と読者には伝わる。

中西美紀が投じた石が広げた波紋は、次第に大きくなり、
エピローグでの大波乱につながる。
ここへもっていくまでのストーリーテリングはもう達人の域だ。



ちなみに、文庫版の表紙の女子高生2人だが、
左側のボーイッシュな子が中西美紀、右側のメガネっ娘が田嶋春、
だと思う(笑)。


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逸脱捜査 キャリア警部・道定聡 [読書・ミステリ]


逸脱捜査 キャリア警部・道定聡 (角川文庫)

逸脱捜査 キャリア警部・道定聡 (角川文庫)

  • 作者: 五十嵐 貴久
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/09/22
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

タイトルにもあるように、主人公の名は道定聡(みちさだ・さとし)。

身長160cm、体重70kg、25歳にしては頭髪が淋しい。
東大卒のキャリアで、群馬県警の総務課長となったが
部下が不祥事を起こし、監督責任を問われて出世コースから外され、
警視庁捜査一課の警部へと ”左遷” されてしまった。

しかし、捜査についてはド素人の道定を現場は持て余し、
”問題刑事” の山口ヒカルとコンビを組まされることに。

ヒカルは175cm超えの美女で、モデルと見紛うばかりのナイスバディ。
しかし性格は最悪で、コンビを組んだ刑事は過去4年間で9人交代した。
基本的にやる気は無い。どんな事件も事故や自殺で片付けようとする。
階級が上の人間にもため口で話し、移動では常にタクシーを要求する。
しかし、時には天才的なひらめきを発揮して事件を解決してしまう・・・

そんなヒカルに振り回される道定の ”苦闘” を描いた5編が収録。

「第一話 Gの密室」
40歳の独身OLが、新築された高層マンションの20階から転落死した。
公私ともに問題は発見されず、自殺する理由がない。
彼女は現場となったマンションを購入するまでは
頻繁に引っ越しをしていたというのだが・・・
読んでたら早々にオチの見当がついてしまったが、
気がつけばタイトルからしてネタバレだった。

「第二話 アリアドネの罠」
新興宗教の教団トップ・大泉が殺される。
現場は教団のもつ教会。そこの祈祷室の奥の部屋が現場だったが
犯行時刻には祈祷室に大勢の信者がおり、現場は密室状況だった・・・
某古典的有名作品に似たトリックだが、その ”後始末” の方法が独特。

「第三話 元気すぎる死体」
不倫相手を刺し殺したという女性が警察に出頭してくる。
しかし、警察が ”現場” となった不倫相手のマンションに
踏み込んだが、犯行の痕跡は全くない。
「事件性がない」と警察から帰された女性は、その足で不倫相手の
マンションへ向かうが、そこで死体を発見してしまう・・・
しかし、いくらなんでもこのオチはないんじゃないかと思う。

「第四話 ダブル・フェイス」
援助交際をしていた女子高生を取り調べていたら
「殺人を目撃した」と言い出し、現場へ向かう道定とヒカル。
そこで死体が発見されたが、容疑者として浮かんだのは双子の兄弟。
目撃証言では犯人は一人。さて、どちらが殺したのか・・・
ミステリとしてよりも、女子高生のキャラの方が印象に残った(笑)。

「第五話 落人の首」
逃亡中の指名手配犯2人のうちの片方が栃木県の僻村で逮捕され、
警視庁へ護送するために道定とヒカルは現地へ向かう。
もう一人の手配犯も近隣の山に潜んでいるというので
捜索に加わった二人だが、山中で首無し死体を発見してしまう・・・
ヒカルに引きずり回されるばかりで、いいところのなかった道定だが
最後の最後でファインプレーを見せる。

星の数が今ひとつ足りないのは、やっぱりヒカルのキャラが
受け入れにくいのが原因かな。まあ、好みの問題なのだけどね。
こういう女性が大好き、って奇特な人もいるだろう(笑)。


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碆霊の如き祀るもの [読書・ミステリ]


碆霊の如き祀るもの 刀城言耶シリーズ (講談社文庫)

碆霊の如き祀るもの 刀城言耶シリーズ (講談社文庫)

  • 作者: 三津田信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/06/15

評価:★★★★

怪奇小説家・刀城言耶を探偵役とするシリーズの長編第7作。

物語の舞台となるのは、南側が海に面した強羅地方。
東西方向に5つの村があるが、村と村の間と北側は
険しい山地で隔てられ、それぞれの村は分断されている。

西端の犢幽(とくゆう)村には「海原の首」(江戸時代)、
「物見の幻」(明治)、「竹林の魔」(昭和初期)という、
時代を異にするに3つの怪談が伝わり、さらに
東端の閖揚(ゆりあげ)村には「蛇道の怪」という
現在(戦後)も続いている怪談が1つあった。

本書の冒頭、文庫で130ページほどは、
この4つの怪談を語ることに費やされている。

言耶の大学の後輩・大垣秀継は閖揚村の出身。
彼から4つの怪談を聞いた言耶は取材のために犢幽村へと赴く。

しかし到着早々、村の西の山中にある ”竹林宮” という祠で
変死体が見つかる。なんと死因は餓死だった。
現場は深い竹林に囲まれていたが、歩けば容易に外に出られる。
だが遺体の手足にも怪我などは無い。
なぜ被害者は死ぬまで竹林の中に留まっていたのか・・・

この ”開かれた密室” に続き、岬の突端にある物見台から人が消え、
海岸に面した洞窟の中では刺殺体が発見されるが
どちらも密室状態の中での出来事だった・・・

タイトルの「碆霊(はえだま)」とは、江戸時代に犢幽村に漂着した
難破船の死者たちを、村人たちが浜の沖に浮かぶ岩礁へ祀ったものだ。
村では ”碆霊様祭” というものも行われている。
しかし、普通の神様ならお祭りは年一回、決まった時期にやるものだが
この祭りに限っては、不定期開催(笑)。これも村の謎のひとつ。

文庫で600ページを超える大作で、
530ページあたりから解決編が始まるのだが
そこで言耶が ”事件の謎” として挙げるのはなんと70項目にも及ぶ。

それらに対して合理的な説明を試みていくのだが
このシリーズの常として、仮説を立てては崩し、立てては崩し。
これでは犯人になる人間がいなくなってしまう・・・と思ったら
最後の最後に ”真犯人” が示される。

確かに、辻褄を合わせるためにはこの結論しかないのかも知れないが
私はあんまりこの真相は好きになれないかな・・・
まあ、これは好みの問題だと思うけど。

竹林の密室トリックはシンプルだけど、これはたまらなく恐怖だ。
もし自分がこの状態に置かれたら、正気でいられる自信はない。

殺人事件のみならず、”碆霊様” の正体、さらには
村の開闢以来、隠されてきた ”秘密” まで言耶は暴いていく。
このあたりはこのシリーズでお馴染みのパターンではあるけど
やっぱりそのスケールには驚かされる。

そして、ラストシーン。
この幕切れこそ、怪談そのもの。
ミステリ的にはいろいろ思うところもあったけど、
この結末に全部持って行かれてしまった。


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紙片は告発する [読書・ミステリ]

紙片は告発する (創元推理文庫)

紙片は告発する (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/02/26
  • メディア: 文庫

評価:★★★

舞台はスコットランドの田舎町・キルクラノン。
現在、新町長の選出を巡って町は揺れ動いている。

 ここの ”町長” は、住民の選挙ではなく町議会による任命で決まる。

タウンホール(町役場)でタイピストをしているルース・エルダーは
町議会議員の娘だったが、家庭でも職場でも軽んじられる存在だった。
そんな彼女は、職場で奇妙なメモを拾う。

ルースはそのメモのことやそれを警察に持っていくことを
職場の同僚達に話してしまうが、
その夜、彼女は絞殺死体となって発見される。

視点人物となるのは、タウンホールの副書記官ジェニファー。
仕事では有能ぶりを遺憾なく発揮し、順調に昇進してきた。
しかし、仕事のできるアラサー女性に対して周囲の目は冷たい。

なにせ本作の時代は1970年だからね。
長老議員を初めとする、町の上層部の男性陣からは
「早く結婚して家庭に入れ」という有形無形の圧力が。

一方、どこの世界にも ”使えない部下” というのは一定数いて、
ジェニファーには彼らを ”使いこなす” ことが求められる。

さらに、彼女には上司である書記官ジョフリーと
不倫関係にあるという負い目まであった。

上も下も私的にも問題山積で、なかなか悩ましくハードな状況。
それにもめげず、ジェニファーは仕事にプライベートにと奮闘する。
働く女性の ”お仕事小説” としてもよくできてる。

一方で警察による事件の捜査も続いていて、やがて
ジョフリーが最大の容疑者として浮上してきてしまう・・・

この作者の特徴だけど、主役となる人物の設定がユニーク。
ジェニファーから見れば、周囲の人間たちは
ほとんどが多かれ少なかれ自分の邪魔をする ”敵”。
みな何か隠し事を抱えていて、怪しく思える。

ジェニファー自身も、ジョフリーとの関係がこのままでいいとは
思っていないが、すっぱり切ることもできず、ずるずると続けている。

そんなジェニファーが、事件を通じて変わっていくところが
本書の読みどころか。

ラストでの彼女の選択は哀しいけれど、新たな希望も感じさせる。
八方丸く収まるというわけではないが、私は満足して本を閉じられたよ。

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ルカの方舟 [読書・ミステリ]

ルカの方舟 (講談社文庫)

ルカの方舟 (講談社文庫)

  • 作者: 伊与原新
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/11/13

評価:★★★

南米大陸最南端、パタゴニア氷床から採取された隕石は
帝都工科大学・笠見教授の研究室で鑑定が行われた。
その結果、隕石は火星から飛来したものであり、
内部からは微生物の痕跡と思われる化石が発見された。

隕石に関する論文は海外の権威ある科学誌にも掲載され、
笠見研究室は一躍、注目を集めることになった。

そんな中、科学雑誌の記者・小日向のもとに届いたメールは
笠見研究室の論文で不正行為が行われている、というものだった。
差出人のメールアドレスには ”ルカの末裔” を意味する単語が。

しかし、彼が取材に訪れた笠見教授の実験室で事故が発生、現場から
笠見の死体が発見される。漏れた液体窒素による窒息死だった。

大学にも不正告発のメールが送られていたことから
警察は他殺を疑って捜査が始まるが、その矢先、
問題の隕石が破壊されていたことが判明する。
なんと、高温で融解されて ”方舟型” に成形されていたのだ・・・

探偵役は ”天才” と呼ばれる百地理一郎教授。
小日向はワトソン役となり、科学警察研究所の
研究員・佐相(さそう)弥生などと協力して事件の解明に挑んでいく。

大学を舞台にしたいわゆる理系ミステリなんだけど、
親しみやすい小日向の性格や、百地の好好爺然としたキャラのおかげか
堅苦しい雰囲気は皆無。
専門用語も多少出てくるが、全部が理解できなくても
本作を楽しむのには問題ない。
真夜中の研究室に出没する謎の少女など、不可解な要素もあって
最後まで興味を持って読むことができる。

作中で語られるのは「パンスペルミア説」。
これは、地球の生命の起源は太古の時代に宇宙から来たという
壮大な仮説だが、本書の中で展開されるのは矮小な人間たちの物語だ。

大学教授になっても、資金集めや諸々の管理業務などに追われて
研究だけに没頭できるわけではない。
若手の研究者たちは、不安定な身分に置かれていて将来が見通せない。
”象牙の塔” の中は、一般社会と同様に悩み妬み嫉みに満ちている。

作中に登場する大学研究者がみな、
心の中に何かしらの ”闇” を抱えていそうなキャラなのに対して
学部生時代に自分の才能を見切って研究者を諦めた小日向、
大学院生から警察職員へと転身した弥生など
”象牙の塔” から遠ざかった者のほうが健全に見えるのはなんとも・・・

作者は第30回横溝正史ミステリ大賞を「お台場アイランドベイビー」で
受賞してデビューし、本書は3作目。
東大の大学院で地球惑星物理学を専攻し、博士号を取ったという
経歴の持ち主で、研究室内の描写はさすがのリアリティだが
文章は平易でキャラ同士の会話も達者で読みやすい。

これから何冊か読んでみようかと思う。


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ネメシスV [読書・ミステリ]

ネメシス5 (講談社タイガ)

ネメシス5 (講談社タイガ)

  • 作者: 藤石 波矢
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/05/14
  • メディア: 文庫

評価:★★★

TVドラマ「ネメシス」をベースにした小説シリーズ、第5巻。

横浜にある探偵事務所ネメシスを舞台に
社長の栗田一秋、新人探偵の風間尚希、
そして助手の美神アンナの3人が事件に立ち向かう。

探偵役を務めるのは、天才的なひらめきをもつアンナ。
ポンコツな風間を陰からフォローして事件解決へ導く役回り。

「第一話 真実とフェイクの間」
事務所を訪れたのは、動画配信者(いわゆるYouTuber) ”たじみん” こと
多治見一善。暴露系の動画投稿で知られる男だ。
有名人の麻薬使用を仄めかす動画がネットにアップされ、
それに映っていたのが彼と、人気女優・久遠光莉(くおん・ひかり)。
光莉は現在失踪中だが、動画はフェイクであると多治見は主張する。
彼によると、動画投稿の容疑者はジャーナリストの神田凪沙。
彼女は2年前に虚偽報道を行い、多治見が自分の動画でそれを告発した。
それを怨んでのことではないか、と。
後半はアンナ・尚希たちと真犯人の対決が描かれるのだが
なかなか大がかりで手が込んだつくりで、映像なら見応えがありそう。
TVドラマ版第六話がベースらしいのだけど、私はドラマ版は観てない。
でもそっちもこれと同じ構成なら、この回は観てみたいなと思った。

「第二話 正義の餞」
第一話で登場した神田凪沙を主役にしたスピンオフ。
時系列的には、第一話から2年前の話だ。
凪沙の学生時代からの友人・遊佐京介は神奈川県警捜査二課の警部。
彼は与党議員・蛭田景行の汚職事件を追っていたが、
雑居ビルの屋上から謎の転落死を遂げてしまう。
葬儀の後、京介の妹・清花から呼び出された凪沙は
兄がプライベートで使用していた携帯電話を託される。
その中に登録されていた電話番号は、横浜地検の検事のものだった・・・
ミステリとしてもよくできてるが、凪沙と京介の心情も読ませる。
凪沙にとって、京介は中学生時代からの ”親友”。
男女を超越した仲だと思ってきたのだが、京介はどう思っていたのか。
それが明らかになるラストシーンが切なく、感動的だ。


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