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禁じられたジュリエット [読書・ミステリ]


禁じられたジュリエット (講談社文庫)

禁じられたジュリエット (講談社文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 "ミステリ" が禁書となってパラレルワールドの日本。全寮制の女子高校で、"禁忌" を犯した6人の生徒は「囚人」となって思想更生プログラムに強制参加させられ、同級生2人はその「看守」役となる。しかし囚人vs看守の対立は次第に激化していき、やがて死者が・・・


 本書の中で描かれるパラレルワールドの日本では、あまり遠くない過去に "革命" が起こったらしく、現政府は強硬な専制政治を敷いて反体制勢力を弾圧、民衆に対しては厳しい思想統制が行われている。もちろんそれに逆らう者は収容所送り。

 舞台となるのは全寮制の明教館女子高等学校。その目的は "国家有為の女子国民" の育成。そのため、校長は政府から送り込まれてきている。

 本書は、そこの生徒6人が "禁忌" を犯したことから始まる。それは "ミステリ" に触れたこと。彼女らは、校内に隠匿されていたミステリ小説を見つけ、読み、そしてそれを楽しんでしまったのだ。
 しかしこの世界では、ミステリは "退廃文学" として焚書の対象だった。
 彼女ら6人は「囚人」となり、2人の「看守」役の生徒の管理のもと、「思想更生プログラム」参加させられることになる。

 しかし当初、彼女たちは楽観していた。囚人と看守を務める8人の生徒たちはみな仲の良い友人同士。「それっぽい振る舞いをしていれば簡単に済む」と。

 しかし、いざ始まってみるとその目論見はあっけなく崩れ去る。
 看守たちもまた、学校側から圧力を受ける立場。「プログラム」を仕切る教頭の指示には逆らえない。

 本書の前半は、さながら "独裁体制による民衆支配のシミュレーション" のようにも読める。
 支配される側を巧妙に分断し、相互に対立を生み出す。体制側はその上に乗っかってそれをコントロールする。それが上手くいっている間は、体制側は安泰だ。

 6人の「囚人」たちは「反省室」という名の牢獄(学校の中にこういう施設が設置してあるところがこの世界の異様さを示している)に監禁され、虐待を受けることになる。それは「人間としての尊厳」をことごとく奪い去るものだった。
 最初、"なあなあの芝居" で済ませるはずだった「囚人」vs「看守」の関係は、次第に "本気" になり(ならざるをえないように学校側に仕組まれて)、彼女たちの対立はどんどん激化していく。

 その詳しい内容・経過はここには記さない。正直言って、書くのが辛いから。読んでいる間、頭の中には怒りの感情が渦巻き、胸が苦しくなった。何度も読むのをやめようかと思ったよ。


 本書は文庫で600ページほどだが、400ページを過ぎたあたりで "事件" が発生し、そこで大きな転回点を迎える。何がどう展開するのかは書かないが、ここから物語は "本格ミステリ" へと移行する。
 つまり、そこまでの "8人の女子高生による、牢獄内での陰険な対立の物語" は、そこまでの壮大な伏線だったわけだが・・・・それにしては長すぎるし、重すぎるよなぁ。

 終盤の200ページは、極めてロジカルな犯人解明のシーンになる。このあたりの微に入り細をうがつような怒濤の論理展開は、作者の得意技。
 時々鋭すぎて、ついていけなくなるが(おいおい)。

 そしてラストは・・・"焚書" と云えばブラッドベリだよねぇ(意味深)。


 巻末の「おまけ」には、校内に残されていて生徒たちが読んだとされる8冊の本格ミステリの書名が記されている(これらは "こちらの世界" に実在する作品)。いずれも有名な作品ではあるが、私の好みとはちょっと違うかな(笑)。



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