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呪殺島の殺人 [読書・ミステリ]


呪殺島の殺人(新潮文庫nex)

呪殺島の殺人(新潮文庫nex)

  • 作者: 萩原麻里
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/06/05

評価:★★★☆


 大学生の秋津真白(あきつ・ましろ)が目覚めたとき、傍らには彼の伯母・赤江神楽(あかえ・かぐら)の死体が。そして真白はすべての記憶を失っていた。
 孤島・赤江島で起こった殺人事件。容疑が掛けられた真白は、友人・三嶋古陶里(みしま・ことり)とともに真相解明をめざすことに。


 東京都の南、船で3時間ほどのところに浮かぶ孤島・赤江島。古来より呪術を執り行ってきた赤江一族が "島流し" にされたと伝えられる島だ。

 島の領主の末裔・赤江神楽はベストセラー作家だったが、最近になって断筆宣言をしていた。大学生の秋津真白は彼女の甥で、一族はこの二人しかいない。

 神楽は最後の著作の出版記念パーティーを島にある屋敷で開くことを決めた。真白は神楽から島に招かれ、幼馴染みで民俗学マニアの三嶋古陶里とともにやってくる。他にも顧問弁護士、ジャーナリスト、担当編集者など、集まってきたのは総計8人。

 しかしその夜、赤江神楽が殺害される。現場の寝室は密室状態、その傍らには真白が倒れていたが、彼はすべての記憶を失っていた。

 しかも折からの嵐で、携帯の電波も届かない屋敷は孤立してしまう。島の集落に助けを求めて車で出発した古陶里たちが見たのは、島に常駐している警官の死体。そして、屋敷と集落を繋ぐ橋は既に崩落していた・・・


 物語は真白の一人称で進行していく。彼はワトソン役であり、犯行現場にいたことから容疑者筆頭でもある。神楽にとって唯一の遺産相続人である彼は、当然の成り行きとして周囲からは犯人扱いされてしまう。しかも記憶をなくしているものだから、申し開きすらできないという窮地に陥る。
 ところが彼はいささかトボけた性格で、人は好いのだが鈍感みたい(笑)。そんな彼の語り口のおかげで、陰惨な事件の雰囲気が緩和され、読者はすんなりと作品世界に入っていけるのだろう。

 彼の味方は友人の古陶里のみ。ホームズ役でもある彼女は真白の無実を信じるのだが、その理由は「おまえは間抜けだから」(おいおい)。
 和服を着た純日本風美人でありながら、口を開けばとにかく毒舌で真白をディスりまくる。それもまあ幼馴染みという気安さが根底にあるのだろう。真白くんとは良いコンビのようで、二人の掛け合いは楽しく読ませる。

 こう書いてくると、軽いタッチの作品のように感じられるかも知れないが(まあ、「新潮文庫nex」ってライトノベルのレーベルだよね?)、ストーリーの芯となるネタは「おお、そうきたか」って感じで、なかなか思い切った大胆なものが投入されている。

 他にも細かいところまで細かくミスディテクションを誘う工夫が為されていて、よくできている。登場人物も、いかにも裏がありそうな者から、かけらもそんなことを匂わせない者までさまざま。もちろん物語が進むに連れて、隠された面が現れてくるのだが、そのあたりの書き分けも上手いと思う。

 嵐で孤立した島の中で、さらに孤立した屋敷、その中で起こる連続殺人というなかなか魅力的なシチュエーションを、きっちりと描ききってみせるのは流石。次作も期待してしまう。


 全国に、呪術を行う一族を "封じた" 島は複数あるらしい。本書の序盤では「少なくとも五つある」とされていて、そのうち三つまでは位置・名称まで判明している、と語られている。そのひとつが本書の赤江島。
 そしてそこで言及されている既知の島のひとつが、次作『巫女島の殺人』の舞台となっている。ということは、このシリーズは少なくとも5冊にはなる、ということなのだろう。

 主役である真白と古陶里の間には、本書で描かれたもの以上の関係が潜んでいるような気もするのだが、その辺もおいおい続編で明かされていくのだろう。



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