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この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選 [読書・SF]


この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選 (創元SF文庫)

この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選 (創元SF文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/03/11

評価:★★★☆


 どこぞのアニメ映画のタイトルみたいだが、本書はSFアンソロイジー。ロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』から始まり、SFの重要ガジェットとなった「パワードスーツ」「パワードアーマー」「二足歩行メカ」などを扱った作品、全12編を収める。


 各編の扉裏に、作品の概要と作者紹介が載ってるのだけど、この概要がとてもよくできてるので、以下の文章にも引用させてもらいました。


「この地獄の片隅に」(ジャック・キャンベル)
 異星種族との戦争の最前線で、いつ果てるとも知れない激戦を続けている小隊。そこへ司令官のマクドゥーガル将軍が前線視察にやってきて・・・
 前線の一兵士から司令官まで全員がパワードスーツを着るようになったら、起こりそうな話。主人公の上官の女性軍曹がいい味。


「深海採集船コッペリア号」(ジェヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン)
 遠い異星の海洋で、メカを用いて藻類などの採集作業に勤しむコッペリア号とそのクルーたち。だがその日は厄介なものを見つけてしまい・・・


「ノマド」(カリン・ロワチー)
 "ラジカル" と呼ばれる、メカと人間との融合体のギャングたちが闊歩する未来。人間のトミーを喪った(メカの)「オレ」は、"縞"(シマ)を抜けて無所属(ノマド)になろうとするが・・・
 全員がパワードスーツを着用したヤクザ同士の抗争みたいな話、って云ったら怒られるかな?


「アーマーの恋の物語」(デヴィッド・バー・カートリー)
 天才発明家アンソニー・ブレアはめったに人前に出ず、また決してアーマーを脱がないことで知られていた。暗殺者を恐れる彼の秘密とは・・・
 ブレアの前に現れた魅力的な女性・ミラ。ブレアは彼女に自分の秘密を語るが、ミラ自身にもまた秘密があって・・・というところから始まる、SFならではのサスペンスがたっぷりのラブ・ストーリー。


「ケリー盗賊団の最後」(デイヴィッド・D・レヴァイン)
 19世紀末、開拓時代のオーストラリア。隠棲する老発明家アイクのもとに現れた "賞金首" ケリーが彼に造るように要求したのは・・・
 蒸気機関で動くパワードスーツなんて「帝国華劇団」かいな、って思ったけど、扉絵に描かれたメカが素晴らしい。これもスチームパンクなのか?


「外傷ポッド」(アレステア・レナルズ)
 偵察任務中に攻撃を受け、深刻な傷を負って外傷ポッドに収容された兵士マイク。医師アナベルが遠隔通信により彼を救おうとするが・・・
 終盤の展開が怖い。SFホラーだね。


「密猟者」(ウェンディ・N・ワグナー&ジャック・ワグナー)
 地球が人類遺産保護区に指定されてから100年。月出身のカレンは傑出した自然保護官(レンジャー)ハーディマンらとともに密猟者の取り締まりに向かうが・・・


「ドン・キホーテ」(キャリー・ヴォーン)
 スペイン大戦末期の1939年。敗色濃厚な共和国側を取材していた「わたし」は、奇妙な戦闘跡を追いかける。その先で見つけたのは・・・
 敵の大部隊を一台で殲滅した新兵器・・・これ、モデルは「○ン○ン○」? でも、それを見つけた「わたし」は意外な行動をとる。まあ理解はできるけど。


「天国と地獄の星」(サイモン・R・グリーン)
 人類に対して極めて敵対的なジャングルが繁茂する惑星アバドンに、基地建設要員として送り込まれたポールたち。そこは地獄のような環境だったが・・・
 主人公の着用するパワードスーツのAIには、亡き妻の人格と記憶が移植されていて、"彼女" と会話をしては嘆く・・・って、もうそれだけで主人公が ”病んでる” のがわかるよね。


「所有権の移転」(クリスティ・ヤント)
 専用の着用者であるカーソンを殺された外骨格(エグゾ)の「わたし」は、カーソンを殺した男に着用されるが・・・


「N体問題」(ショーン・ウィリアムズ)
 ループと呼ばれる一方通行のワープゲート網の行き止まりにあるハーベスター星系。そこに流れ着いたアレックスは、そこでメカスーツを着た不思議な女性執行官アイと出会う・・・
 短編の中にいろいろなテーマが潜み、ミステリ要素もある。


「猫のパジャマ」(ジャック・マクデヴィット)
 パルサーをめぐる研究ステーションを訪れた支援船カパーヘッド号。だが、ステーションは何らかのトラブルに巻き込まれているらしく・・・
 もう少し展開を明かすと、ステーションは事故にあって生存者はいなかったが、猫が一匹生き残っていた。しかし使えるスペーススーツは一着しかなく、その中に人間と猫は同時には収められない。支援船の責任者ジェイクはなんとか猫を救おうとするが・・・という話。猫好きな人にはたまらない作品かも。


 現代でも「パワードスーツ」は軍用/民生用を問わずに研究されているだろうが、やはりSFとしては未来が舞台になるだろう・・・と思っていたら、19世紀末や第二次大戦など過去の時代の作品もあったのはちょっと驚き。

 そして未来の「パワードスーツ」には、(当然のことだろうけど)着用者を支援するAIが搭載されるようになっていく。だがその機能は様々だ。その中には、自ら "意思" を持ち、着用者不在の状態でもスーツを動かせるものまで出てきていて、そうなるともうほとんど「ロボットSF」になってしまう。

 中原尚哉氏は、好きな翻訳家さん。この人の訳は、翻訳文っぽさをあまり感じさせずに、すいすい読める。
 あと、文庫のカバー絵と各編の扉絵の合計13枚は、加藤直之氏の手になるもの。相変わらず素晴らしいできで、「これぞSF!」って感じさせてくれる。



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