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新任警視 [読書・ミステリ]


新任警視(上)(新潮文庫)

新任警視(上)(新潮文庫)

  • 作者: 古野まほろ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/03/29


新任警視(下) (新潮文庫 ふ 52-56)

新任警視(下) (新潮文庫 ふ 52-56)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/03/29
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 1999年8月、警察キャリア・司馬達(しば・とおる)は警視に昇進、同時に愛予県警公安課長を拝命する。そこには日本最大のカルト教団の本部が存在していた。
 司馬に与えられた使命は、12月31日までに教団本部への強制捜査を実行すること。
 彼の前任の公安課長は県警本部内で暗殺され、同時に機密文書が奪取されていた。犯人は警察内部に潜む教団信者と思われた。
 司馬率いる公安警察 vs カルト教団。激闘の5ヶ月が始まる・・・


 1999年8月、東大法学部卒で25歳の警察キャリア・司馬達は警視に昇進、同時に愛予県警公安課長を拝命する。採用4年目にして、67人もの部下を抱える羽目となり、年齢も経験も遙かに上の彼らを束ねる場では戸惑うことばかり。

 愛予県には日本最大のカルト教団〈まもなくかなたの〉(警察内部では「MN」と呼称されている)の本拠地があった。
 折しも 1999年→2000年 の年号切り替えが起こる大晦日には、さまざまなコンピュータ関係の問題が発生することが予想されていた。いわゆる「2000年問題」だ。

 そしてMNはその混乱に乗じて、未曾有の重大テロの強行するとの情報があった。司馬に与えられた使命は、12月31日までに教団本部へ強制捜査を敢行、テロを事前に封圧することだった。

 司馬の前任の公安課長は県警本部内で暗殺され、同時に機密文書が奪取されていた。使用された毒物から、犯人は警察内部に潜む "教団への協力者" と思われた。
 司馬率いる公安警察は内外の敵を相手に困難な闘いを強いられる。

 年末へのタイムリミットが迫る中、懸命の捜査の結果、教団員の犯罪行為の証拠をつかむことに成功、強制捜査への突破口が開けていくのだが・・・


 文庫上下巻、併せて1000ページを超える大部。

 序盤では、タイトル通り新任警視となった司馬が、警察庁から愛予県警への異動に伴う顛末が綴られていく。受け入れ先県警の職員が上京してきての打ち合わせから始まり、司馬が愛予県に赴任してからは膨大な引き継ぎ事項やら幹部職員との引き合わせ、そして当然ながらMN(モデルはもちろんオウム真理教だろう)案件の現状についてのレクチャーも行われる。

 中盤ではいよいよMN本部への強制捜査へ向けて動き出す。それには裁判所の令状が必要で、そのためには裁判所を納得させるだけの教団の犯罪行為を立証しなければならない。
 愛予県の公安警察は何年も掛けて教団内部に "警察への協力者" を作り出し、一定の情報を得ることに成功していた。これには多くの読者が驚くだろう。
 しかしそれは相手も同じで、警察内部にも "教団への協力者" がいる。というわけで双方の調略活動は、スパイ合戦の様相を呈してゆく。

 そういう長年の努力が実を結び、教団員の犯罪行為の証拠をつかんだ公安警察は、ついに教団本部への強制捜査に踏み切るのだが・・・この後は読んでのお楽しみだろう。


 元警察官僚である作者ならではの、県警内部での描写は毎回ながら微に入り細を穿つよう。とくに公安警察の活動内容については驚くことばかり。本書で描かれるのは、"決して公にはできない" 彼らの捜査手法。まさに二重三重の騙し合いの世界である。

 刑事警察は、いわゆる ”刑事ドラマ” や、”○○警察24時” とかのドキュメンタリーとして様々に映像化されているので我々にもなじみがあるが、「国家体制を脅かし得る集団を専門に取り締まる」公安警察は、その活動が秘匿されているために実態がほとんど知られていない。小説では取り上げられることもあるけれど、メジャーなジャンルとは言い難い。そういう意味では本書は貴重な作品かも知れない。

 そして本書は本格ミステリでもある。ラスト近くでは、県警内にいる教団協力者(=前公安課長を暗殺した実行犯)を特定する推理が展開される。
 でもいちばん驚くのは、一連のMN案件への警察の取り組みが、(いろんな意味で)読者の予想をはるかに超えたレベルで進行していたと云うこと。いやはや「ここまでやるか」というのが正直な感想。

 フィクションであるから、例によって "盛ってある部分" もあるのだろうが、それでも「もしかして」って思わせる。
 そう読者に思わせた時点で、作者の "勝ち" なのだろう。



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