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日本SF傑作選1 筒井康隆 [読書・SF]


日本SF傑作選1 筒井康隆 マグロマル/トラブル (ハヤカワ文庫JA)

日本SF傑作選1 筒井康隆 マグロマル/トラブル (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 筒井 康隆
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/08/08
  • メディア: 文庫
評価:★★★

私が本格的にSFを読み始めたのが大学生の頃だから
1970年代も終わりのほうだろうと思う。

その頃、よく読んでいた日本のSF作家を思いつくままに挙げてみると
眉村卓、光瀬龍、小松左京、豊田有恒、そして筒井康隆。

 なぜか星新一は数冊しか読まなかったし、
 平井和正も2~3冊くらいしか目を通さなかったんだよねえ・・・
 半村良を読み始めたのは大学卒業後だったかな。
  山田正紀とか田中光二はもう少しあとの時期だったよねぇ。

さて、早川書房から「日本SF傑作選」と銘打ち、
いわゆる”第一世代作家”6人の作品集が刊行された。
本書はその第1弾で、1960~70年代の初期作品25編を収録してる。
なんと文庫で700ページ超という特大版だ。

「お紺昇天」「東海道戦争」「マグロマル」「カメロイド文部省」
「トラブル」「火星のツァラトゥストラ」「最高級有機質肥料」
「ベトナム観光公社」「アルファルファ作戦」「近所迷惑」
「腸はどこへいった」「人口九千九百億」「わが良き狼(ウルフ)」
「フル・ネルソン」「たぬきの方程式」「ビタミン」「郵性省」
「おれに関する噂」「デマ」「佇むひと」「バブリング創世記」「蟹甲癬」
「こぶ天才」「顔面崩壊」「最悪の接触」

ざっと見て8割方の作品は、昔読んだことがあるように思う。
ただタイトルだけ憶えていたものや、内容が記憶と違うものとかあって
40年近い年月を否が応にも感じてしまう。

あらためてこの25編を読んでみて思ったが
初期作だけあって、中にはかなり実験的な作風のものもあるけれど
全体的に(私のイメージする)筒井康隆の作品としては
”おとなしめ” なものが多いように感じた。

やっぱり不条理性とブラック・ユーモアに満ち満ちて
抱腹絶倒なストーリーを異様な疾走感で語る、ってのが
筒井康隆じゃないのか・・・って思うのだが
たぶんそれは本書に収録した作品よりもあとの時代のものだのだろうな。

80~90年代の中期作や、それ以後の後期の作品とか
時代別に出してくれないかなぁ・・・なんて思ってしまった。

とはいえ、本書を読んでいる間、
私の心はこれらの作品を読んでた若き日に戻ってしまったよ。

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ずっとあなたが好きでした [読書・ミステリ]


ずっとあなたが好きでした (文春文庫)

ずっとあなたが好きでした (文春文庫)

  • 作者: 歌野 晶午
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/12/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

「恋愛」をテーマにしたミステリ短編集。

一口に恋愛といっても様々なパターンがあるだろう。
少年時代の淡い初恋、青春期の身を灼くような恋、
人生の転機に訪れた刹那的な恋、そして老いらくの恋・・・

文庫で総計650ページという堂々のボリュームで贈る、
”恋愛ミステリ百科”(笑) みたいな、13編収録の短編集。


「ずっとあなたが好きでした」
中学生の大和(やまと)は年齢を偽ってアルバイトを始める。
そこで女子高生の三千穂(みちほ)と知り合うが・・・

「黄泉路より」
事業に失敗し、妻にも去られた五十嵐は、
自殺サイトで知り合った仲間と一緒に富士の樹海で死のうとするが
集まったメンバーの一人である智子に一目惚れしてしまう・・・

「遠い初恋」
小学5年生の弓木のクラスに、美少女・弥生が転校してくる。
ある日、弥生は風邪で学校を休んでしまう。
弓木は学校からの通知を届けるために弥生の家を訪れるが・・・

「別れの刃」
大学の演劇サークルに所属する板橋は、学外の劇団で活動している
魔蠱(まこ)という芸名の先輩と知り合うが・・・

「ドレスと留め袖」
総合アパレルメーカーの重役・永島。共に暮らす佐和子との仲は円満だが
ある日彼女の身辺に不審な人物が見え隠れするようになって・・・

「マドンナと王子のキューピッド」
”DJマイケル” のペンネームでラジオ番組へ投稿をし始めた高校生。
その登校が続けて採用されるようになり、
彼自身も周囲から ”DJ” というあだ名で呼ばれるようになった。
ある日、同級生の岩垂(いわたれ)がDJに対して、
ある少女との仲立ちをしてくれるように頼んできたのだが・・・

「まどろみ」
大学生の大輔とその恋人の友里(ゆり)が、ひたすらダラダラする話(笑)。

「幻の女」
零細広告代理店でアルバイトとして働く中年男・馬渡(まわたり)。
ある日、チラシ配りをしていた馬渡は、
四十代で日傘を差した美女と知り合うが
その直後、殺人事件に巻き込まれてしまう・・・

「匿名で恋をして」
ハンドルネーム・”ロレッタ” は独身の三十男である。
ネットのチャットで ”π”(パイ) と名乗る女性と知り合うが
会話を重ねるうちに次第に彼女に対して好意を抱くようになる。
二人はオフラインで会うことにするのだが・・・

「舞姫」
半年間の海外遊学が認められる特別枠に合格し、入社した十條。
パリに渡った彼は周囲から ”ジョジョ” と呼ばれ、バーで働いていた。
現地で知り合った女性・フランソワーズと暮らしていたが
帰国の日が迫ってきていた。
そんなとき、彼の働くバーで死体が見つかる・・・

「女!」
大学生の世之介(よのすけ)とその恋人の久美子が、
ひたすらダラダラする話(笑)。


この短編「女!」のラストに至り、読者は「え?」って思うだろう。
実はこの短編集、単に恋愛ミステリを並べただけでなくて
全体としてある ”からくり” が仕込んであるのだ。

各編ごとに趣向が凝らされていてミステリとしてもよくできてる。
犯人当てもあるし、ラストの切れ味で勝負するものもあるし
意外な真相にびっくりさせられるものもあるし、
コミカルな展開にくすりと笑ってしまうものもあるし・・・

それらバラエティに富んだ作品群の中に仕込まれた ”からくり” が
最後から2つめに置かれた「錦の袋はタイムカプセル」で明らかに。
いやあ、これはやられましたねぇ。

「散る花、咲く花」は最後に置かれているんだけど
「錦のー」でからくりを明かされていてもなお、騙されてしまう。
上手い。流石です。

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RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴 [読書・ファンタジー]


RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴 (角川文庫)

RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴 (角川文庫)

  • 作者: 荻原 規子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/01/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

長編伝奇ファンタジー「RDG レッドデータガール」、
そのスピンオフ小説集。

ヒロインは熊野山中にある玉倉神社で育った娘・鈴原泉水子(いずみこ)。
両親の仕事の都合で幼少時から神社で暮らしてきた。

極度の人見知りで引っ込み思案のうえ、
機械類を扱うのも壊滅的(というか機械の方で勝手に壊れる)。

しかし幼なじみである少年・相良深行(みゆき)とともに、
東京の鳳城学園へ入学することが決まったひから彼女の運命は変転する。

深行に加え、寮のルームメイトとなった宗田真響(まゆら)、
優等生の高柳一条ら様々な学生達が集まってきた学園の中で
泉水子は様々な事件に遭遇していく・・・

というのが、本編の大筋。本書には
深行視点の短編が3つ、真響視点の中編が1つ収録されている。

「影絵芝居 相良深行・中三の初夏」
熊野の山奥、和泉子の通う粟谷中学校へ転入してきた深行の話。
文庫でわずか18ページという小編。

「九月の転校生 相良深行・中三の秋」
和泉子よりも半年早く、東京の鳳城学園へ転入した深行が
高柳一条、そして宗田真響と出会う話。文庫で28ページ。

「相良くんは忙しい 相良深行・高一の秋」
学園祭準備に向けて奔走する深行。なんと文庫で8ページしかない(笑)。

「氷の靴 ガラスの靴 宗田真響・高一の冬」
全6巻で完結した本編は、物語世界としてはともかく
登場人物たちのラブストーリーとしては
いささか消化不良気味と感じた人は多かろう。私もそうだ
その補完(かどうかは分からないが)、
この短編は本編終了後の後日譚となっていて、
和泉子と深行の ”その後” がちょっぴり描かれている。
個人的には、”孤高の花” かと思っていた真響嬢に
実家から縁談が舞い込んくるところがツボだった。
驚くと同時にちょっと笑ってしまったよ(失礼!)
ちなみに文庫で約190ページと、なかなかのボリュームの中編。


もともとこの「RDG」は、いくらでも大きくできそうな設定なので
その気になれば極端な話、”人類の存亡” まで風呂敷を広げられる。

まあそれを ”学園もの” のスケール内で語ってみせるのが
作者の上手さなんだろうけど、
熊野の田舎で育った素朴な女の子が ”世界を救う” なんて
壮大な話もちょっぴり読んでみたい気もしてる。

あぁ、でもそれを本気でやってしまったら
「幻魔大戦」になっちまうなぁ~(笑)。
30巻くらい書いても終わらなかったりして(爆)。

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弥栄の烏 [読書・ファンタジー]


弥栄の烏 (文春文庫)

弥栄の烏 (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/05/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

「烏に単(ひとえ)は似合わない」「烏は主を選ばない」
「黄金(きん)の烏」「空棺(くうかん)の烏」「玉依姫」と続いてきた
大河ファンタジー「八咫烏(やたがらす)シリーズ」、

その第1部の第6巻にして第1部完結編である。

まあ、第1作~第5作までをすっ飛ばして
いきなり本書を読む人はいないと思うけども
もしあなたが未読なら、ぜひ第1作から読むことをオススメする。
たぶん、とても楽しい読書の時間を味わえることと思う。


人形(じんけい)から鳥形(ちょうけい)へと
変身できる能力を持つ人々が住まう世界、「山内(やまうち)」。
彼らは「八咫烏」と呼ばれ、
その世界を支配する者は「金烏代(きんうだい)」と称される。

第1作「単」・第2作「主」では、
やがて金烏代を嗣ぐことになる日嗣の御子(若宮)の后選びと
その裏で起こっていた次期金烏代の座を巡る暗闘が描かれた。

第3作「黄金」・第4作「空棺」では、烏を喰らう謎の "大猿" が現れ、
やがて猿たちが山内への侵攻を目論んでいることが明らかになる。

当然ながら、山内側での戦いの準備も描かれていくのだが、
特に若宮の近習だった雪哉(ゆきや)の成長が目覚ましい。

山内における ”士官学校” とも言うべき勁草院に ”入学” した彼は
みるみる頭角を現し、主席で卒業する。このあたりは
”学園もの” の雰囲気も濃厚で、作者の引き出しの多さに驚かされる。

次はいよいよ決戦かとの期待があった第5作「玉依姫」では、
意外にも1995年の日本から始まり、作品の舞台裏というか
いままで描かれてこなかった側からの
シリーズ全体に関わる基本設定ともいうべき部分を描き、
物語としては正統的(?)な伝奇ホラーになっていた。

そして完結編「弥栄の烏」。1巻分待たされたけど(笑)、
今度こそ本書では大猿と八咫烏たちの最終決戦が描かれる。
本書を読むと、いままでの5巻分すべてが
この巻のための ”種まき” だったと思える。


骨太にして緻密なストーリーもそうだけど
その上で活躍するキャラクターたちの素晴らしいこと。

山内の中心にして一族を統べる奈月彦、
その桜の君(正室)、そして二人に使える近習や女房たち。
奈月彦の腹違いの兄・長束(なつか)とその腹心たち。
雪哉の勁草院時代の仲間たちは山内衆(近衛隊)となり、防衛の要となる。
みんな、しっかりと出番が与えられて物語を紡いでいく。

特に、第1部後半で実質的な主役を務めてきた雪哉は
ついに全軍の参謀役となり、対大猿戦の全権を握ることになる。

勁草院に入ったあたりから、雪哉の行動には変化が現れてきて
「あれ? こいつってこんなに性格悪かったかなぁ?」
って感じるようになるのだけど、本書ではそれが極まっていく。

彼の采配はまさに「大の虫を生かすために小の虫を殺す」非情なもの。

 まあ、戦争の司令官というのは善人なだけでは務まらないのだよね。
 海外の某スペース・オペラ・シリーズをちょっと連想してしまったよ。

しかしだからこそ、そんな雪哉が最後の最後で、
溜まりに溜まった感情をついに決壊させるシーンは強く心に残る。


さて、予定では今年の夏あたりには
第2部が開始されるはずだったらしいのだけど
未だ刊行されていないみたい。
作者は、早稲田大の院生が本業(!)だから量産が難しいのは分かってる。
焦らずに、今まで通り質の高い作品を書いていってほしいなあ。

私も焦らずに待ちます(笑)。

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ガラスの探偵と消えた白バイ [読書・ミステリ]


硝子の探偵と消えた白バイ (講談社文庫)

硝子の探偵と消えた白バイ (講談社文庫)

  • 作者: 小島 正樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/08/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★

警視庁の友坂警部補が運転し、管理官・幸田を乗せた警察車両は、
交通機動隊員・楠木の白バイを先導に進んでいた。

白バイが左折してビルの陰に入り、10秒後には
続いて警察車両も左折したが、そこには白バイも楠木の姿もなかった。

そこは袋小路になっており、2棟のビルが並んで建っていた。
4階建ての野上ビル、5階建ての伏見商事ビルである。
友坂と幸田は手分けして2つのビルを調べるが、
どちらにも楠木の姿も白バイも見当たらなかった・・・

という、「密室状態の場所からの人間+バイクの消失」
という ”謎” から物語は始まる。

友坂からの発案で、警察から助力を求められたのは
「ガラスの探偵」という異名を持つ男・朝倉透だった。
朝倉とその助手・高杉小太郎が現場へ到着したとき銃声が響き、
野上ビルの屋上で朝倉たちが見つけたのは
楠木の射殺死体と姿を消したはずの白バイだった・・・

こんどは死体と白バイの出現、そして「姿なき犯人」というわけだ。


事件発生後は、朝倉が語り手となって進行していくのだが
この朝倉という人物、言動が自惚れやというかナルシストというか
自分がいかに名探偵かということは熱心に語るのだけど
いざ事件の捜査にかかるとボンクラそのもの。

しかし、助手の小太郎がよくできた弟子で、
観察力も推理力も兼ね備えている。

そうかそうか、これは語り手の探偵が実はワトソン役で
助手のほうがホームズ役という構成なんだな・・・
って思ってしまうんだが、ことはそう単純ではない。
詳しく書くとネタバレになるのでもう触れません(笑)。

肝心の消失トリックや姿なき犯人の犯行に用いられたトリックは
かなり大がかりなものが使われている。
ただまあ、あまりにも大がかりすぎて・・・
小説として、文章で内容を追っていると「すごいなあ」よりも
「こんなの無理じゃね?」って気持ちのほうが先に立ってしまう。

アニメの「名探偵コナン」みたいに、ビジュアルでどーん!
と出てくれば否応なく納得せざるを得ないとも思うので
文章よりも映像向きのトリックなのだろうとも思う。

とはいっても、多少無理筋でもこの手の壮大なトリックは嫌いじゃない。
作者は、横溝正史ばりのおどろおどろしさと
島田荘司ばりの大トリックを駆使した
本格ミステリ「十三回忌」でデビューした人。

こと本格ミステリに関しては、どうせ法螺を吹くなら、
でっかい法螺を吹いてほしいなあ、って思ってるんで。

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天冥の標 II 救世群 [読書・SF]

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/03/05
  • メディア: 文庫
2009年9月から文庫書き下ろしの形で刊行が始まった、
作者渾身の大河SFシリーズ、その第2部。

第1部では、西暦2803年に人類の植民星「メニー・メニー・シープ」
で起こった内乱を描き、意外なところというか
「えーっ、ここで終わりぃ?」ってところで終わってしまったのだが
この第2部ではその続きではなく、21世紀の地球へと時計の針を巻き戻し
現代から2803年へと続く ”未来史” の最初の部分を描いている。


西暦201X年、ミクロネシアで謎の疫病が発生する。
国立感染症研究所の医師、児玉圭伍と矢来(やらい)華菜子は
ミクロネシアのパラオ島へ向かう。

しかし二人を含めた国際医療チームによる懸命の治療にもかかわらず、
この感染症の致死率は95%を超え、発症者は次々と命を落としていく。

そんな中、日本人の少女・檜澤千茅(あいざわ・ちかや)は
命を取り留めるが、現在の医学では
患者の体内に残ったウイルスを根絶することはできず、
しかも第三者への感染力も失っていなかった。

この感染症はのちに ”冥王斑” と名付けられることになる。

保菌者となった千茅は日本へと移送され、完全隔離のもとで
生活を始めるのだが、冥王斑は着々と感染を広げつつあった・・・


後半になると、冥王斑のパンデミックはいよいよ深刻さを増してゆく。
人類社会も次第に恐怖感に覆われてゆき、冥王斑保菌者への差別も始まる。

さらに、冥王斑ウイルスは地球外生命体によって
もたらされた可能性が浮上してくるのだが、
このあたりの真相は続巻の展開を待たなければならない。

そしてタイトルにある ”救世群” は、ある団体の名称なのだが
この成立までが語られて第2部は終わる。


致死性ウイルスのパンデミックといえば、真っ先に思い浮かぶのは
「復活の日」(小松左京)で、あちらではそれこそ人類は滅亡寸前まで
追い込まれてしまうが(というか生存者数が3桁とかすごすぎる)
さすがに本書では人類滅亡までは至らない。

とはいっても、これ以後の冥王斑は人類にとりついた宿痾となる。

私は現在、「第5部 羊と猿と百掬の銀河」まで読了してるんだけど
2340年代になっても、冥王斑は物語の中で大きな比重を占めている。

第6部以降の未来で、いつの日か冥王斑が克服されるのか、
それをもたらした存在と人類はいかに対峙するのか。

もちろん冥王斑だけがこのシリーズのテーマではなく、
大河物語を形成するピースの一つに過ぎない。

 もっとも、けっこう大きいピースではあるのだろうけどね

まだまだ興味は尽きないので、続きを読むのが楽しみだ。

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貴族探偵対女探偵 [読書・ミステリ]


貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

  • 作者: 麻耶 雄嵩
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/09/16
  • メディア: 文庫
評価:★★★

殺人事件の現場に突如現れ、警察上層部に対して謎の影響力を行使して
捜査へ強引に介入、そして解決してしまう「貴族探偵」。
貴族だけあって、推理するのは執事やメイドなど使用人の方々(笑)。
本人はお茶を飲んだり、関係者の女性を口説いたり(おいおい)。
という、およそ人を食った設定の連作ミステリ。その第2弾。

今回はタイトルにあるとおり、女性の探偵が
貴族探偵のライバル兼レギュラーキャラとして登場する。

高徳愛香(たかとく・あいか)は大学を1年で中退し、
名探偵と名高い師匠に弟子入りした。
5年後、師は病死してしまうが、亡くなる直前に独り立ちの許しを得た。
本書では、その愛香が行く先々の事件で貴族探偵と出くわし、
推理合戦を挑んでいくという趣向。


「1.白きを見れば」
大学時代の友人・平野紗知(さち)から、彼女の別荘に招待された愛香。
しかし到着早々、別荘の地下にある井戸の傍らで、
招待客の一人・笹部恭介の撲殺死体が発見される。
愛香は滞在客たちを前に、自らの推理で犯人を指摘するが・・・

「2.色に出でにけり」
中妻尚樹(なおき)は玉村依子(よりこ)という女性と出会う。
依子に気に入られた尚樹は彼女とつき合い始めるが、
依子にはすでに恋人・稲戸井遼一(いなとい・りょういち)がいた。
彼女は複数の恋人を持つことに全くはばかることがなかったのだ。
しかし依子が尚樹と遼一を自宅に招いた日、遼一が自殺してしまう。
しかし状況に不審な点があり、愛香に探偵としての依頼が入る・・・

「3.むべ山風を」
大学で起こった事件を解決した愛香は、直後に貴族探偵に呼び止められ、
彼の恋人(の一人)・韮山(にらやま)瞳准教授の研究室に招かれる。
しかしそこで大学院生・大場和典が毒殺された現場に遭遇する・・・

「4.幣もとりあへず」
友人・平野紗知から、新潟にある座敷童子が出るという
温泉宿『浜梨館』に誘われた愛香。
その宿では、宿泊客の願いことを叶えるという ”神事” が売り物で、
参加者は熨斗袋に名前と願い事を書いて封入し、
それを奥館(宿の旧館)で自らの手で燃やすのだという。
しかし紗知たちが泊まった夜、その奥館で殺人が起こる・・・

「5.なほあまりある」
ウミガメの産卵で有名な、高知県の西に浮かぶ亀来(かめき)島は
具同政次(ぐどう・まさつぐ)という元伯爵の個人所有になっていた。
そこにある具同家の別荘へ多くの招待客が到着した夜、
別荘のハウスキーパーをしていた女性・平田が絞殺死体で発見される。
招待客たちの中にいた愛香は、犯人を推理してみせるが・・・


作者が麻耶雄嵩であるから、各編とも
ミステリとしての出来は申し分ないのだけど
それに加えて本書では、新登場した愛香嬢の魅力も大きい。

彼女と貴族探偵と二人の推理が披露されることになって、
”多重解決もの” としての楽しみが増えているのだ。

とはいっても、愛香嬢の披露する真相は、それ自体は
かなり説得力のあるものが多いのだけど、残念ながら毎回、
貴族探偵(の使用人)の推理によって最後には突き崩されてしまう。

なので、愛香嬢はライバルというよりは、
物語の進行役というか狂言回しで、なおかつ
貴族探偵の引き立て役という非常に残念な立ち位置になってしまう。

真面目で努力家で推理力も十分あって、鼻持ちならない貴族探偵よりも
はるかに読者の感情移入を呼びそうなキャラなんだけどね。

愛香嬢が今後ずっと登場し続けるのか、
あるいは本書のみのゲストで、次巻はまた別の新キャラが引き継ぐのか
そのへんは不明なのだけど、いつかは愛香嬢の名推理で
貴族探偵をギャフン(死語)と言わせる話も読んでみたいものだ。


あと、どうでもいいことなのだが高徳愛香嬢って四国出身なのかな(笑)。

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天使の棲む部屋 問題物件 [読書・ミステリ]


天使の棲む部屋: 問題物件 (光文社文庫)

天使の棲む部屋: 問題物件 (光文社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/07/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主人公の若宮恵美子が働く「大島不動産グループ」は、
創業者の長男・信昭が二代目社長を務めていたが7年前に事故で死亡、
現在の社長は次男の高丸(たかまる)が務めている。
信昭の遺児・雅弘は難病で寝たきりの状態にあり、
恵美子が与えられた仕事は彼の身の回りの世話をすることであった。

雅弘を会社から放逐したい高丸社長は ”販売特別室” を新設した。
そこは不動産物件へ寄せられるクレーム処理を担当する部署で、
責任者には(名目だけだが)雅弘が充てられ、実働する職員は恵美子1人。

恵美子がクレーム処理に失敗すれば、それが雅弘の失点に繋がる。
途方に暮れる恵美子だったが、そんな彼女の前に
犬頭光太郎(いぬがしら・こうたろう)と名乗る謎の男が現れ、
様々なトラブルをバッタバッタと解決していくのだった・・・

およそ人間離れした超常的な力を発揮する光太郎とともに
恵美子がさまざまな物件のクレームに取り組み、ついでに
そこに潜んでいた事件を解決していくシリーズ、その第2作。


「天使の棲む部屋」
恵美子はアメリカのアリゾナにある物件調査のためにやってきたが、
問題の屋敷には、宿泊客が拳銃自殺を遂げてしまうという部屋があった。
そして恵美子が訪れた翌朝、滞在者の一人が
拳銃で頭を打ち抜いた状態で発見される・・・

「水の出る部屋」
6階建てのマンションの3階の部屋が水浸しになる事件が起こった。
しかし上の階に水漏れの原因は見つからない。そのマンションには
過去には住民が風呂場で溺れ死に、さらに異臭騒ぎまで起こっていた。
そして、水漏れのあった部屋の住人が湖で溺死体で発見される・・・

「鳩の集まる部屋」
その二階屋は、住人が餌を与えるために鳩が何十羽と集まってきてしまい、
家は糞にまみれて周囲には悪臭が漂うという凄まじさ。
しかも頼みの光太郎は「鳩は苦手だ」と言って一向に姿を現さない。
区役所の鳩対策職員・大塩とともに鳩屋敷に向かう恵美子だが・・・

「終(つい)の部屋」
雅弘が暮らしている屋敷を訪れた老婦人は、恵美子の前任で、
1年前まで彼の世話をしていた薦田(こもだ)だった。
彼女の暮らす養護施設では、最近謎の死亡事故が相次いでいた。
それも亡くなった人の部屋番号は203号室、303号室、403号室と
続いていて、薦田がいるのは503号室だった・・・


このシリーズの読みどころは、
まずは登場する物件が持つ異常な状況と、
それに対して真面目に取り組みながらも
振り回されてしまう恵美子の奮闘ぶりだろう。
そしてもちろん光太郎による快刀乱麻を断つ解決編。

推理という頭脳だけではなく、しばしば腕力に訴える。
それも常人離れした膂力を示すので、敵う奴はいない。
さらには、魔術か幻術かと見まごうばかりの怪しげな技まで繰り出して
悪党どもをちぎっては投げちぎっては投げ、バッタバッタとなぎ倒す。
いやあ、スーパーヒーローみたいな探偵さんである。

しかし、ミステリとしてもきっちりできあがっているのは流石。
「鳩のー」なんて、冒頭からはおよそ想像のつかない
意外な真相へ引っ張っていってくれる。

このシリーズの特徴として、各短編の最後には ”次回予告” みたいに
次の仕事(問題物件)が恵美子の元に舞い込んで終わるのだけど
「終の-」のラストでも、次の物件が持ち込まれる。
ということは、シリーズはまだ続くということだ。

雅弘と恵美子が最終的にどうなるのか気になるところだけど
当分、それはお預けといういうわけだね。

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化学探偵Mr.キュリー7 [読書・ミステリ]


化学探偵Mr.キュリー7 (中公文庫)

化学探偵Mr.キュリー7 (中公文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/02/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★

人呼んで ”Mr.キュリー” こと
四宮大学理学部化学科准教授・沖野春彦と、
大学総務部職員の七瀬舞衣がコンビを組んで
大学の内外で起こる事件を解決していくシリーズ、その第7弾。

今回は、今までの作品で登場したサブキャラやゲストキャラたちを
主役に据えた短編集。いわば ”外伝集” になっている。


「第〇話 夜の虹 ー 1999年のMr.キュリー」
中学3年生の湯浅信希は、夜の公園でユカという少女と知り合う。
しかし彼女の言動には謎が多く、信希は家庭教師の沖野に相談する・・・

「第一話 みゅーたんと赤色の疑惑」
3桁に迫る体重で ”セイウチ” というあだ名をもつ女子高生(!)、
さらには四宮大学工学部の学生・花隈悟を彼氏に持つという
シリーズ屈指の強烈キャラ・みゅーたんが主役。
その彼氏である悟の、最近の行動が不審だ。
どうやら他の女性と交際しているらしい・・・

「第二話 国島聖也と橙色の謀略」
沖野の大学時代の同級生にして分析技術研究所の研究員・国島聖也は
自宅マンションの窓から橙色の炎を上げて燃える火事を目撃する。
そこには四宮大学薬学部の助教が住んでいたという・・・

「第三話 仁川慎司と黄色の邪霊」
仁川慎司は四宮大学工学部の博士課程1年。
その一方で、オカルトのサークル活動に熱中していた。
しかし指導教授の梅谷から、研究に集中するためにサークル活動から
引退するように勧告されてしまう・・・

「第四話 猫柳係長と緑色の連鎖」
四宮大学庶務課で、舞衣の上司である猫柳係長が主役。
大学構内に生息している猫たちを守る『大学猫を守る会』から
庶務課に連絡が入る。近頃体調を崩す猫が増えているという・・・

「第五話 美間坂剣也と水色の消失」
舞衣の学生時代の同級生にして人気タレント・美間坂剣也に
CM出演のオファーが入る。しかしモノは ”水素水” だった。
さらに、水素水を使った新商品に不具合が発生してしまう・・・

「第六話 氷上一司と青色の忘却」
沖野とは大学院時代からのライバルで、東理大学の教授・氷上一司は
同僚で無機化学を専攻する教授・桑名から相談を受ける。
学生の一人が鮮やかな青色物質の合成に成功したのだが
その学生は合成実験中に居眠りをしてしまい、
合成経路の一部の記憶がないのだという・・・

「第七話 紫色の手紙 ー 2003年のMr.キュリー」
「第〇話」の後日談。
この2話だけは沖野が探偵役となっていて、いわゆる ”正伝” ですね。
大学合格を果たした信希の元へ、ユカから手紙が届く。
そこに描かれていたのはある物質の構造式だけ。
この ”暗号” の意味を知るべく、信希は沖野のもとへ・・・


改めて書いてみると、脇役陣のキャラ立ちの見事なこと。
沖野も十分ユニークだと思うけど、他の登場人物たちも引けを取らないね。

猫柳係長の悲哀感あふれる(笑)私生活とか、
氷川教授の ”化学探偵” ぶりとか、貴重なエピソードじゃないかな。

とくに氷川は今後のシリーズの中でも重要な役どころを占めそうだし
今後の ”活躍” が楽しみになってくる。

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幽女の如き怨むもの [読書・ミステリ]


幽女の如き怨むもの (講談社文庫)

幽女の如き怨むもの (講談社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/06/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

怪奇幻想小説家・刀城言耶が探偵役を務めるシリーズの一編。
長編としては6作目になる。

全体は4部構成。文庫で約710ページに及ぶ大作である。

「第1部 花魁 ─ 初代緋桜の日記」
1933年、小畠桜子は13歳で金瓶梅楼という遊郭へ身売りされてきた。
下働きの3年間を経て16歳になった桜子は ”緋桜” という名で
客を取るようになるが、遊女としての生活は苦痛と悲哀に満ちていた。
そんな中、金瓶梅楼の遊女・通小町(かよいこまち)が
遊郭の3階から投身自殺を遂げる。
それに導かれるかのように今度は桜子も身投げを図るが
女中の雪江に止められる。さらに3人目の遊女・月影もまた
身投げをするが、これは運よく命拾いをする。
やがて桜子は売れっ子遊女となるが、客として来ていた
呉服問屋の三男坊・飛白織介(かすり・おりすけ)と恋仲になる・・・
この第1部は文庫で約310ページに及ぶ。

「第2部 女将 ─ 半藤優子の語り」
1941年、金瓶梅楼の女将の娘・半藤優子は母の跡を継ぎ、
遊郭の名も梅遊記楼と改める。新たに雇い入れた遊女・糸杉染子に
”二代目・緋桜” を名乗らせたところ、売れっ子となっていく。
そんな中、梅遊記楼の別館に身を寄せていた
前女将の友人の娘・登和(とわ)が遊郭の3階から身投げ、
さらに遊女の雛雲(ひなぐも)、そして染子までが身投げを図る・・・
第2部は文庫で約200ページ。

「第3部 作家 ─ 佐古荘介の原稿」
怪奇作家・佐古荘介の叔母・淑子は、戦後になって売りに出ていた
梅遊記楼を買い取り、梅園楼と改名して経営者となっていた。
その梅園楼では終戦近くに遊女の死体が見つかり、
さらに遊郭内を遊女の幽霊が徘徊するという。
噂を聞いた荘介は梅園楼に滞在することになるが
今度は男が遊郭の3階から転落死を遂げる・・・
第3部は文庫で約110ページ。

「第4部 探偵 ─ 刀城言耶の解釈」
戦前・戦中・戦後の3つの時代にまたがり、謎の身投げ事件について、
言耶が一つの ”解釈” を語る解決編。


ミステリを読み慣れた人なら、最終的なオチは
なんとなく予想できてしまうのではないかと思う。

ではつまらないかと言えば全くそんなことはなく、
ミステリ的興味以上に、物語に引き込まれてしまう。
”遊女” というものは、時代劇などを観ていればよく出てくるので
結構知っているつもりであったのだけど、第1部を読んでいると
想像を絶する部分が多々あって、驚かされる。

もちろん女性のみの閉鎖社会であるから、連帯感もあるけれど
それ以上に激しい嫉妬や意地の張り合いなどもある。

しかし、そのすべてを覆っているのは、
最下層に沈んでしまった女たちへの、地獄のような仕打ち。
その中でしか生きられない女たちの諦念、そして限りない哀しみだ。

怪奇でホラーな雰囲気は他のシリーズ作品と比べて控えめであるけれど
内容の重さでは他の作品を上回っているかも知れない。
かといって読みにくいということも全くない。

このシリーズは総じて文庫で600~700ページを超えるものが多いけど
読んでいて全く苦にならずにページをどんどんめくってしまう。
次回作が楽しみである。

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