SSブログ

悪魔のウイルス 陸自山岳連隊半島へ [読書・冒険/サスペンス]

悪魔のウイルス 陸自山岳連隊 半島へ (祥伝社文庫)

悪魔のウイルス 陸自山岳連隊 半島へ (祥伝社文庫)

  • 作者: 数多久遠
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

独裁者の求心力低下により、不安定化した北朝鮮。
軍部の暴発で大量の弾道ミサイルが発射されてしまう可能性があるが
北朝鮮のミサイルは自走式の可搬ランチャーに搭載されている。

これを破壊するには、大量の地上部隊を送り込むしかない。
米軍と自衛隊は共同でこの ”ノドンハント” の実行を決断するが
日本は拉致被害者の救出作戦をも同時実行することを計画する。

さらに、北朝鮮は天然痘ウイルスを密かに保持し、
それを用いたウイルス兵器開発も行っていると見られていた。

このウイルス兵器の奪取を命じられたのが
室賀了兵三等陸佐、そして彼が率いる
特殊部隊V-07(ヴィクター・ゼロセブン)だ。

海自潜水艦「こくりゅう」で北朝鮮東海岸へ運ばれ、
上陸を果たしたV-07は山岳地帯を進んで
ウイルス研究施設へ到達、制圧に成功するが
そこには拉致された日本人たちが働かされていた。

V-07の任務には拉致被害者救出は含まれていなかったが
急遽、彼らを保護しながらの脱出へと作戦が切り替えられる。
しかしそんなV-07に向けて北朝鮮軍の追撃が始まる・・・

メインのストーリーは、このV-07の奮闘ぶりなのだが
それと並行して、もう一つのテーマが語られる。

毎朝新聞社会部の記者・桐生琴音は、
山岳戦を専門とする陸上自衛隊第一三連隊の隊員が
種痘で副反応を起こしたとの情報を得て、室賀に接触する。
(V-07はこの連隊から選抜されたメンバーで構成されている。)

室賀の息子は、かつてポリオ生ワクチンが引き起こした薬禍事件の
被害者となっていた。その事件の取材を通じて
室賀と琴音は知り合い、その後交流を深めてきていた。

やがて毎朝新聞は、自衛隊が北朝鮮で極秘作戦を展開しているという
事実をつかむが、それをどう報道するかについて
マスコミと政府とのせめぎ合いが始まる・・・

「報道の自由」は守らなければならないが、それを行うと
現地で行動中の部隊が危機に陥ってしまう。

作者は元自衛官なのだが、そのせいかどうかは分からないが
作品の基調としては自衛隊/政府寄りで、
マスコミ側は悪役っぽく描かれている。

現在の日本では仮定の話だが、近い将来では
絶対に起こらないとは断言できないシチュエーションではあるだろう。
まあ、そうならないことを祈るのだけど。


nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ:

鬼畜の家 [読書・ミステリ]

鬼畜の家 榊原シリーズ (講談社文庫)

鬼畜の家 榊原シリーズ (講談社文庫)

  • 作者: 深木章子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/05/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

物語は、元刑事で私立探偵をしている榊原が
北川郁江という女性、およびその子どもたちの行動を追って
彼女たちと関わった人から話を聞いていく、という形で進んでいく。

彼がまず訪ねたのは、木島病院の院長である木島敦司。

開業医だった北川秀彦は、両親の猛反対を押し切って
准看護婦だった郁江と結婚した。
やがて長男・秀一郎、長女・亜矢名(あやな)、次女・由紀名と
3人の子をもうけるが、秀彦が投機に手を出して失敗、
医院の経営状態は悪化していった。

そんなとき、秀彦の友人だった木島敦司は
郁江から呼び出しを受け、北川医院へと向かう。
彼がそこで見たものは、秀彦の死体だった。

自分で毒物を注射した自殺と思われたが
郁江の「自殺では保険金が下りない。家族が路頭に迷う」
という言葉に、木島は ”病死” の診断書を書いてしまう。

その結果、郁江は莫大な保険金を手にすることになったが・・・

木島に続き、主婦、刑事、事務員、学生、保険外交員など
さまざまな立場から郁江に関わった者を榊原は訪ねていくが
そこで浮き彫りになってくるのは、彼女の驚くべき行動の数々。

郁江の行く先々ではさまざまな事件/事故が起こっていく。
場合によっては人の命が失われることも。
しかし事が終わってみると、郁江のもとには
多額の財産が転がり込む、という結果に。

そしてその対象は他人に限らない。
長女の亜矢名が、住んでいたマンションのベランダから
転落死してしまうが、郁江は施設の不備を理由に
マンションのオーナーから莫大な賠償金をせしめることに成功する。
実子の死でさえも、金銭に置き換えていってしまうという凄まじさ。

しかし郁江は突如、長男・秀一郎と共に失踪してしまう。
二人が乗っていた車が海に沈んでいるところが見つかるが
どちらの遺体も発見されないまま。
郁江が秀一郎を溺愛していたことから
無理心中を図ったのではないかと思われたのだが
唯一生き残った次女・由紀名が驚愕の事実を語り出す・・・

本書は、「第3回 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」の受賞作。
これは島田荘司が立ち上げて、審査員は島田荘司が一人で行うという、
ある意味スゴいミステリー新人賞なのだけど、
驚くべきは作者・深木章子の受賞時の年齢だ。

60歳まで弁護士としてはたらき、リタイアしてから執筆活動を開始、
2010年に本書でデビューするのだけど、このとき63歳。
しかも、デビュー後の10年間で12冊くらい刊行している。
いやはやスゴい。このペースでいったら90歳までに30冊以上書きそう。

 皆川博子さんみたいに、80歳を超えても
 第一線で活躍している人もいるし、日本の高齢者はホントに元気だ。

内容についても、さすがは島田荘司が選んだ作品と言うべきか、
よくできたミステリになっている。たいしたものです。


nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ:

あまねく神竜住まう国 [読書・ファンタジー]

あまねく神竜住まう国 (徳間文庫)

あまねく神竜住まう国 (徳間文庫)

  • 作者: 規子, 荻原
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/09/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

源頼朝という武将がいる。征夷大将軍となり、鎌倉幕府を開いたあの人だ。
ただ、私が頼朝に抱くイメージはあまり良くなかった。

平家打倒に大功のあった義経や範頼を排除したことが大きいかな。
義経の側にも落ち度はあったろうし、
自らの政権固めには必要なことだったのだろうが。

当時の感覚として、それは異常なことではなく、
むしろ当然のことだったのだろうけど。

閑話休題。

本書には、同じ作者の長編『風神秘抄』の主役であった
笛の名手・草十郎(そうじゅうろう)と舞姫・糸世(いとせ)が登場する。

 この『風神秘抄』、10年くらい前に
 ノベルス版で読んでるはずなんだけど
 さっぱり覚えていないんだよねえ。
 辛うじて主役2人の名前だけは記憶に残ってるけど、
 どんな話だったっけ・・・巻末の解説を読んで
 そういえばそんな話だったっけ・・・(おいおい)。

同作で、2人は京の都で源頼朝の助命に関わっているので
その後日談でもあるのだが、本書ではその源頼朝が主人公となる。

父・義朝が平治の乱で破れ、一族郎党をことごとく喪い、
自らも処刑されるところを辛うじて助命されて伊豆に流されてきた。
そんな過酷な運命を経てきた14歳の少年として物語に登場する。

流罪人となった頼朝の監視を命じられたのは伊豆の豪族・伊東祐次。
監視とはいっても、機会を見て頼朝を殺害することが役目だ。
しかしその祐次が急病で亡くなってしまう。

頼朝の監視役は北条時政が引き受けることになり、
狩野川の中州にある蛭ヶ小島に小屋を建てて住むことになった。
時政が手を下さなくても、洪水が起これば流されてしまう場所だ。

頼朝は、かつて京で会った笛の名手の少年・草十郎と再会し、
彼と共に蛭ヶ小島で生活することになる。

伊東祐次の甥・河津祐親は、自ら頼朝の命を絶とうと刺客を差し向ける。
頼朝は草十郎に守られながら、サバイバル生活を送ることになる。

頼朝が暮らす伊豆には、大蛇が住む洞窟あり、
龍が土地神として祀られる地があり、
やがて頼朝は自らの中にも ”二匹の龍” が眠っていることを知る・・・

頼朝の少年時代をファンタジーとして描くという趣向の作品。
途中からは糸世も合流、なんと草十郎とは夫婦になっているのだと。
とはいっても、あまり夫婦っぽく描かれてはいないのだが(笑)。

ファンタジーの主役としての少年・頼朝はなかなか魅力的。
できればこのラインで、頼朝のその後も描いてみたら面白いかも。


nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ:

闇の聖杯、光の剣 北斗学園七不思議2 [読書・冒険/サスペンス]

闇の聖杯、光の剣 北斗学園七不思議2 (PHP文芸文庫)

闇の聖杯、光の剣 北斗学園七不思議2 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2017/09/08
  • メディア: 文庫
評価:★★★

「北斗学園」は、大正時代に創設された全寮制の学校で
中等部~大学院までのキャンパスは武蔵野の面影が残る東京郊外にある。

その広大な敷地の西側は ”旧ブロック” と呼ばれ、
深い森に覆われたその中には、戦前からある旧校舎などの建造物があるが
そのほとんどは立入禁止となっている。

”旧ブロック” にある建造物について、歴代の生徒たちの間では
〈七不思議〉なる伝説が語り継がれてきていた。

主人公は中等部2年生のアキ(清家彬/せいけ・あきら)。
同級生のハル(桂晴樹)、タモツ(青木保)とともに新聞部に所属している。
この3人が〈七不思議〉の謎解明に立ち向かうシリーズ、第2作。

文化祭の迫る中、アキたち3人は新聞部内で行われるイベント、
「新聞製作コンクール」に参加するための企画作りに悩んでいた。
そんな中、同級生の井坂ミチルから、
新しい〈七不思議〉について相談を受ける。

旧ブロックのどこかで、ある ”おまじない” をすると恋が叶うらしい。
しかし、方法を間違えると気が狂ったり死んだりするのだという。

過去の一時期、この噂が流行って旧ブロックに侵入する女子が
急増したことがあって、旧ブロックが施錠されて
立ち入り禁止になった理由の一つにもなっているらしい。

そしてミチルは、3人と話をした後、夜になってから
自ら旧ブロックに侵入し、それきり行方不明になってしまう・・・

プロローグ部分は第二次大戦末期のベルリンから始まる。
北斗学園創設の秘密は、大戦前のドイツにも関係しているらしい。

そしてそれは現代にも続いていて、
魔女を自称する日独ハーフの女子生徒や
吸血鬼を思わせる風貌の謎の男なども登場する。
これらの新キャラに加えて、
終盤ではナチスドイツの秘密まで絡んできて
伝奇小説的要素は前作を上回るものになっている。

主役の3人組は相変わらず元気いっぱい、
”J” ことヨハン先生は今ひとつ正体不明、
そして前作の悪役だった東城理事長は、方針を変えたのか
3人組を上手く利用して〈七不思議〉に立ち向かわせ、
学園創設の秘密を手に入れようとする。

とても楽しい ”学園内冒険ものシリーズ” なのだけど、
現在は次巻の3巻までで刊行が止まっている。
作者によると全6巻くらいを考えているらしいのだが・・・


nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ:

航空自衛隊 副官 怜於奈 [読書・その他]

航空自衛隊 副官 怜於奈 (ハルキ文庫)

航空自衛隊 副官 怜於奈 (ハルキ文庫)

  • 作者: 数多久遠
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

表紙に描かれている、制服を着た萌えキャラっぽい女性が
本書の主人公、斑尾怜於奈(まだらお・れおな)二等空尉だ。
まあ実際はもっと落ち着いた髪型をしていると思うが(笑)。

舞台こそ自衛隊だが、作者が今まで描いてきた作品群のような
ミリタリー・サスペンスではなく、
予期せぬ人事によって「副官」業務に就くことになった怜於奈さんの
奮闘ぶりを描く、自衛隊を舞台にした ”お仕事小説” である。

「第一章 何で私が副官に?」
怜於奈さんは沖縄県那覇基地で、地対空ミサイル・パトリオットを
運用して弾道ミサイル防衛に携わる第五高射群に勤務する幹部自衛官だ。
その彼女に、南西航空方面隊司令官付きの副官を命じる辞令が。
正直言って希望する部署ではなかったのだが・・・
「副官」とは、一般企業における「秘書」の業務が近いようにも思うが
司令官のスケジュール管理だけに留まらない。
実際に任務に就いてみて、事前のイメージとの違いに戸惑う怜於奈さん。

「第二章 これも副官の仕事?」
怜於奈さんが仕えることになる司令官・溝ノ口は、
内地から那覇基地に新たに着任してきた。
単身赴任の溝ノ口の新居の掃除も副官たちの役目だ。
そんな中、新居の近くに現れる謎の女性に気づく玲於奈さん。
彼女は、溝ノ口の妻だった。司令官の女性関係まで
心配する羽目になってしまった玲於奈さんだが・・・

「第三章 副官付の気配り・機転」
副官にも、「副官付」と呼ばれるスタッフがつく。
新米でミスをしがちな玲於奈さんをフォローする、
ベテラン「副官付」さんたちの活躍を描く。

「第四章 これぞ副官」
2か月前、南西空司令部の幕僚が研修のために海上自衛隊の哨戒機P-3の
通常の監視任務に同乗したところ、マスコミから
「自衛隊が税金を使って遊覧飛行」と叩かれてしまう。
その報道をした琉球テレビのプロデューサーから新司令・溝ノ口への
インタビューが行われるが、険悪な雰囲気で終わってしまう。
自衛隊は、打開策としてP-3の警戒監視フライトを
マスコミに取材させようというプランを打ち出す。
元自衛官のユーチューバーが取材希望を伝えてきたが、
さらに琉球テレビまでが参加に名乗りを上げてきた・・・
国境を挟んで、24時間にわたって他国と対峙する自衛隊の責務は大きい。
作者は元自衛官だけあって、実際の哨戒任務に於ける緊張状態を
リアルに描き出してみせる。

沖縄という土地は、歴史的なこともあって
地元マスコミの自衛隊に対する姿勢はかなり批判的らしい。
それも分からなくはないのだが・・・


nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ:

総閲覧数 200万回達成! [このブログについて]

このブログの総閲覧数が200万に達しました。

↓昨日(2021/3/21)の朝9時頃の管理画面です。
2m.png

アクセス数から逆算すると、200万に到達したのは
3/20の午後11時頃でしょうか。

2006年1月2日の開設以来、約15年3ヶ月での達成です。
日数で数えると、5556日目になります。

記事の総数も2100を越え、
単純計算でも2日半に1つの記事を書いてきたことになります。

 よく続いてきたものです。自分で自分を褒めてあげたい(笑)。

途中に何回かの中断(最長で1年3ヶ月くらい)があったりと
山あり谷ありの15年間でしたが、それを乗り越えての達成です。

内容については、なにぶん自己満足でやってるものですので
人様に読んでいただけるようなシロモノではなく、
後から読んでみて自分でも呆れるくらいの駄文の垂れ流しなんですが
ご用とお急ぎでない方々の暇つぶしにでもなれば望外の幸せです。

それでは、前回に引き続いて近況報告などを。

■近況その1 職場について

定年退職後は、週の半分ほどを仕事に充てる生活に移行しましたが
幸い、今の職場で来年度も引き続いて働けることになりました。
こんな私でも、なにがしかの使い道はあると思ってくれたのでしょう。
待遇も今年と変わらないので、ありがたいことです。

あと何年働くかは決めてないのですが、気力と体力が続くうちは
健康のためにも働いた方が良いんだろなぁって思ってます。
完全にリタイアしたら一気にアタマがボケそうで・・・
今でもかなりアヤシいのに(←おいおい)。

■近況その2 読書について

相変わらず新型コロナウイルスのおかげで
家に籠もる日が多くなっています。

在宅時間に比例して読書時間も増加してるのですけど
さすがに今月に入ったあたりから
活字を追う生活にちょっと息苦しさを感じてきました。

かと言って人混みの中に出て行くことも如何なものかと・・・
このところちょっと悶々としています。

■近況その3 液晶モニター

そんなわけで、1か月くらい読書を忘れて Netflix にどっぷり浸かる、
なぁんて生活はどうだろうなんて考えていたら
2月末頃から突然PCの液晶モニターが不調になりました。

PCの電源と連動してスイッチがONになるのですが
なぜか画面が映らない。入力切り替えボタンをいじっていると
直るんですが、これが毎回起こるとなると非情に鬱陶しい。

さらに、時たま色がサイケデリックに変調してしまうことがあって
週に一度くらい前衛絵画みたいな彩色で映ることがあります(おいおい)。
こちらは手動で電源をON/OFFすると元に戻るのですが・・・

考えたら、PCは4~5年で買い換えてきたけど
この液晶モニターに関しては
10年近く前に買ったものをそのまま使ってきた。
「そろそろ買い換え時だよ」って、機械の方が教えてくれたんでしょう。

今は Amazon を眺めて品定めをしてます。
現在使用中のモニターと置き換えるなら、
サイズは24~25インチくらいかな。
27インチを超えると、いまのスペースに入りきらない・・・

■おわりに

さて、そんなこんなで、15年あまりにわたって
まとまりのない駄文を垂れ流してきたこのブログですが
なんとかここまで続けてこられたのは、
そんな拙い記事にもかかわらず
のぞきに来ていただいた皆様のおかげです。

次の大台は300万回なのですが、
今のペースだと5年くらい先になりそう。
その頃までブログというSNSが生き残ってるかどうか分からないし、
何より私自身が生き残ってるかどうか分からない(おいおい)。

まあ、あんまり遠くを眺めがら歩いてると転んでしまうので
まずは210万回を目指して、焦らず慌てず、
マイペースでのんびり続けようと思います。

本当にありがとうございました。
そして、これからもよろしくお願いします。 m(_ _)m  ぺこり


nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ:blog

アルモニカ・ディアボリカ [読書・ミステリ]

アルモニカ・ディアボリカ (ハヤカワ文庫JA)

アルモニカ・ディアボリカ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 皆川 博子
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/01/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

18世紀の英国を舞台に、解剖学を確立せんとする外科医ダニエル、
そしてその弟子たちが活躍する、時代ミステリ。

前作『開かせていただき光栄です』に引き続く第2弾だが
内容的にはほとんど「続編」と言っていい。
ミステリとしては本作の内容で独立しているけど
登場するキャラたちの物語は前作の結末をそっくり引き継いでいるし
それぞれの ”キャラの行く末” まで描かれているからだ。

逆に言えば、前作から登場しているキャラたちについて、
何も知らずに読んでしまうと、面白さが半減してしまう可能性もある。
であるから、前作を未読の方は、
是非そちらを読んでから本書にかかることをオススメする。
そうすれば、本書の魅力を100%味わうことができると思う。

物語は前作から5年後に始まる。ダニエルの5人の弟子のうち、
エドとナイジェルは出奔してしまって行方不明となっている。
アル、ベン、クラレンスの3人はフィールディング治安判事のもと
犯罪摘発情報新聞『ヒュー・アンド・クライ』の編集発行を始めていた。

そこへ、身元不明の死体についての情報提供を求める広告の依頼が入る。
依頼者は逓信大臣ダッシュウッド卿。
彼の領地にある採石場から死体が発見され、その胸には
〈ベツレヘムの子よ、よみがえれ! アルモニア・ディアボリカ〉という
謎の言葉が記されていたのだという。

ダニエルと元弟子の3人は、言葉の意味を求めて行動を開始するが
やがて〈ベツレヘム〉とは、ロンドンにある精神病院〈ベドラム〉の
別名ではないか、という情報を掴む。

物語は、死体の謎を探索する元弟子たちの行動を追うパート、
ガラス職人の親方の娘エスターと、職人アンディのパート、
〈ベドラム〉に収容されている患者たちの生活を描くパートと
この3つが並行して語られていく。

 特に、〈ベドラム〉内での患者の扱いがひどい。
 前作では刑務所内の無法地帯ぶりが描かれていたが
 この時代の精神病院というのもまたすさまじい世界だ。

さらにその中では、元弟子ナイジェルの過去までも
明らかになっていくのだが、なにぶん登場人物が多く
時系列も錯綜するので、いささか見通しが悪いのだが
最終的にはきれいにパズルのピースがはまって全体像が明らかになる。

600ページ近い分量を駆使して、膨大な伏線を回収していくさまは
やはりスゴい。作者である皆川博子さん、御年83歳での発表である。
まさに年季の入った練達の職人技といえるだろう。

探偵役は前作に引き続き盲目の治安判事フィールディング。
彼の姪で助手を務めるアン=シャーリー・モア嬢も健在。

 本書の時点で27歳とあるので、当時としては ”嫁き遅れ” な年齢?
 なのかな。15歳の時から縁談が舞い込んでくるくらいだから
 才色兼備なのだろうけど、なかなか縁がつながらないんだよねえ。
 でも終盤には、ひょっとしたら・・・という要素もある。

このシリーズ、けっこう各キャラたちの着地点まで描かれているので
3作目は無いかも知れないんだけど、
短篇でもいいからアン嬢のその後が知りたいなあ・・・

あと、タイトルにある「アルモニカ」は、楽器の名前で
wikiにも載ってるんだけど、本書の中に出てくる「アルモニカ」は
むしろ ”グラス・ハープ” のことじゃないのかなあ。

アルモニカもグラス・ハープもYouTubeに動画が挙がってる。
特にグラス・ハープの方は、一見の価値があると思う。


nice!(3)  コメント(3) 
共通テーマ:

図書館の殺人 [読書・ミステリ]

図書館の殺人 裏染シリーズ (創元推理文庫)

図書館の殺人 裏染シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

風ヶ丘高校2年生の駄目人間(笑)、裏染天馬(うらそめ・てんま)を
探偵役とするミステリシリーズ、長編としては3作目。

9月。風ヶ丘高校では期末試験が行われている。
前期後期の2期制の学校なので、期末試験はこの時期なのだ

試験1日目の朝、風ヶ丘図書館の本棚の間で死体が発見される。
死因は撲殺。凶器は山田風太郎の『人間臨終図鑑』。
遺体の周囲には書棚から落ちた本が散乱していたが
遺体の手元にあった1冊の表紙には、
被害者が血で描いたと覚しき謎のマーク、そして床には謎の文字が。

死んだのは城峰恭輔。横浜国大の2年生で図書館の常連で
彼の従姉妹の城峰有紗は風ヶ丘高校2年生で図書委員長だった。

警察から依頼を受けた天馬は、独自の捜査を始めるのだが・・・

前2作での活躍が評価されて、晴れて殺人事件に関わることが
できるようになった天馬君だが、そのおかげで
殺人事件の捜査のパートと、天馬の高校での仲間たちとの
掛け合いのパートが実にすんなりというか、
シームレスにつながっているように思う。

捜査に関わる天馬の言動はなかなか奇矯で
ほとんど悪ふざけのようにも思えるが、その背後には
しっかりとした裏付けがあるのは流石だと思う。

シリアスな犯罪を扱っていながらも、ライトノベル的な
軽いノリやユーモアを感じさせるというのは、
簡単そうで実際にはなかなかできることではないのではないか。

天馬の幼馴染みで新聞部長の向坂香織、
天馬から助手のようにこき使われる袴田柚乃、
その兄で神奈川県警捜査一課の刑事・優作、そして仙堂警部と
レギュラー陣も賑やか。
さらに今回は女性刑事・梅頭(うめず)咲子も加わるが
事件に関わる男性陣を片っ端から品定めるするとか
彼女もなかなかユニークなキャラだ。

ダイイングメッセージというのは、いかようにも解釈するのが可能なので
実際の犯人指摘にはほとんど役立たないものなのだけど
本書では新しい切り口を見せてくれる。

終盤の謎解きシーンで、天馬は「犯人たり得る人物」の条件を挙げて
消去法で絞り込んでいく。
最終的に残った者が ”論理的” には犯人に間違いないのだが
私としてはちょっと納得できないものを感じた。
とはいっても、それは本格ミステリとしては
枝葉の要素なのだろう・・・なぁ。


nice!(4)  コメント(6) 
共通テーマ:

アルバトロスは羽ばたかない [読書・ミステリ]

アルバトロスは羽ばたかない (創元推理文庫)

アルバトロスは羽ばたかない (創元推理文庫)

  • 作者: 七河 迦南
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/11/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

様々な理由で親と暮らせない子どもたちのための
養護施設・七海学園を舞台にしたミステリ・シリーズ第2作。

シリーズ2作目というとき、たいていは
「前作とストーリー上のつながりはないので、
 本書から先に読んでも大丈夫」とか
「できれば前作を読んでいた方が良いが
 読んでなくても差し支えない」とか
書くものなんだが、本書の場合はちょっと異なる。

本書を詠む前に、前作『七つの海を照らす星』は
”絶対読んでおくべき” だ。
もし本書を読むつもりだけど前作が未読だったら、
今すぐ書店に走るかネットでポチることを推奨する。

 前作もミステリとしては傑作だと思うので
 ミステリ好きな人なら読んで損はないと思う。

前作に引き続いて登場するキャラが多いこともあるが
何よりも「結末のインパクト」が、前作を未読か既読かで
数倍違うと思うから(あくまで個人的評価だけど)。

前作も連作短篇集でありながら、
最終話になると全体を貫く仕掛けが明らかになる、という
技巧をこらした作品だったけど
本作に込められたのは、それを上回る ”超絶技巧” で、
これを100%味わうには、前作を読んでおくことが必須だと思う。

主人公である保育士・北沢春菜は、七海学園に勤めて3年目になる。
しかし11月の末、学園の子どもたちが通う高校の文化祭で
校舎屋上からの転落事件が起こる。

物語は、春菜の周囲で起こった4つの事件を描き、
その合間には転落事件の真相を追う断章が挿入される。

「春の章 ー ハナミズキの咲く頃 ー」
七海学園で暮らす一之瀬界(いちのせ・かい)は小学6年生。
彼は4年前、崖下の道路に倒れているところを保護され、
病身だった彼の母親は崖の途中で死亡した状態で発見された。
界は激しやすい性格で、しばしば暴れたが
成長と共にそういう傾向は小さくなっていった。
彼は5月に行われるピクニックに参加したが
昼食休憩の時に突然、感情を爆発させてしまう。

「夏の章 ー 夏の少年たち ー」
養護施設対抗のサッカー大会が開かれる。
先日行われた練習試合で、七海学園が惜敗した因縁の相手である
城静(じょうせい)学園も参加していたが
試合終了後、城静学園のサッカーチーム11人が
衆人環視の中、スタジアムから姿を消してしまう・・・
なかなか大胆なトリックが使われてるのだけど
それが成立するのもこの作品ならでは。

「初秋の章 ー シルバー ー」
中学1年の樹里亜(じゅりあ)は、母親の浪費癖がもとで家庭崩壊し、
七海学園で暮らすことになった。それに伴い転校したが、
前の学校でクラスメイトたちからもらった寄せ書きが無くなってしまう。
周囲は、樹里亜と折り合いの悪かったエリカの仕業と見るが・・・
犯人の動機は意外なものだが、だからこそ胸に刺さるものがある。

「晩秋の章 ー それは光より速く ー」
望(のぞみ)は七海学園へやってきて3年目、5歳になる。
母親は失踪し、暴力団関係者だった父親は傷害事件を起こして
服役していたが、望の養育について獄中からでも頻繁に
七海学園に対して様々な要求をくり返し、
ほとんどクレーマーのような存在になっていた。
その父親が刑期を終え、出所したとの連絡が入る。
そしてその夜、「娘に会わせろ」という男が七海学園に現れるが・・・
いやこれには参りました。流石です。

この4つの章では転落事件とは直接の関係の無い事件が語られているが
それらに関連させて、伏線となるエピソードが巧みに忍ばせてある。

そして4つの章の間には「冬の章」と題された断章が挿入され、
転落事件の詳細が綴られていく。

本書は2010年の刊行なのだけど、各種ミステリランキングで上位に入り
日本推理作家協会賞長編及び連作短篇集部門の候補にも挙がったという。

最後に明かされる転落事件の真相の衝撃はかなりのもので
上記の高評価もうなずいてしまう。

この作者は寡作な人で、現在(2021年)までで
著書は(たぶん)4冊しかない。うち2冊がこのシリーズ。
第3作は出ていない。これ以後のシリーズを書くつもりが無いのか
単にまだ書いてないだけなのかは不明だけど
私としては是非また春菜さんに再会したいと思っている。


nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ:

皇帝と拳銃と [読書・ミステリ]

皇帝と拳銃と (創元推理文庫)

皇帝と拳銃と (創元推理文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/11/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

TVドラマ『刑事コロンボ』シリーズの登場によって
一気に市民権を得た(といっては言い過ぎか) ”倒叙ミステリー”。

日本でもTVドラマ『古畑任三郎』シリーズがヒットしたし、
(私は数本しか観てないんだけど、よくできてるのは分かった)
小説の世界でも倒叙ものを書く人が増えてきた。
大倉崇裕の『福家警部補』とかね。

本書も倒叙ミステリーの新シリーズだ。
主役を張るのは ”乙姫警部”。
字面だけ観るとなんともラブリーなのだが、本人の容貌は真逆。
特殊メイクで死神に化けたような不気味なご面相で全身黒づくめと
”禍々しい” 外見で、殺人事件の犯人から見れば
まさに ”命を刈りに来た” ように思えるだろう。

そんな乙姫警部が解決する、4つの事件を描いた短篇集だ。

「運命の銀輪」
和喜多(わきた)文彦が夜のジョギング中に撲殺される。
犯人は伊庭照彰(いば・てるあき)。
二人は合作して ”四季杜忍(しきもり・しのぶ)” というペンネームで
小説を発表、ベストセラー作家となっていたが、
二人は今後の方向性の違いで諍いを起こしていたのだ・・・

「皇帝と拳銃と」
東央大学文学部教授・稲美は学内で ”皇帝” と呼ばれていた。
事務員の津我山は、稲美が文部科学省からの補助金を
不正流用していたことを知り、密かに脅迫するが、
逆に稲美に殺されてしまう。
津我山の死体は大学の構内で発見される。
工事中の屋上から飛び降りたらしいのだが・・・

「恋人たちの汀」
人気劇団〈家伝風迅〉の主宰にして脚本・演出家の間宮想悟(そうご)は
叔父で高利貸しでもある黒瀬健造から、
劇団の赤字補填のために多額の借金をしていた。
その返済を迫られた間宮は黒瀬を殺してしまう。
彼は殺害現場から、劇団の看板女優で恋人でもある西条美凪に
電話を掛けてアリバイ工作を頼むのだが・・・

「吊られた男と語らぬ女」
古いビルの1階にある工房で、彫刻家・堀部直人の死体が見つかる。
遺体は首吊りの状態だったが、何者かによって
死後に工作された形跡があった。
ビルの2階を使っている写真家の相内伽也(あいうち・かや)は、
つい先日、堀部からプロポーズされたばかりだったのだが・・・

倒叙もののキモは、犯人の些細なミスや事件の小さな矛盾点を
捜査する側(本書では乙姫警部)が突いていくことによって
完全犯罪がほころびていく過程にあるのだが、
「運命のー」はまさにそのお手本みたいな作品。
普通なら見逃してしまうようなところに目をつけていて
読んでいてなるほど、って思ってしまう。

「皇帝と-」のラストで、稲美は「いつから私を疑っていたのかね」と
乙姫警部に問うが、それは読者も知りたいところ。
そしてその答えを聞いて「そんなところから」とまた驚く。

「恋人ー」は、本書の中でいちばん傑作だと思う。
黒瀬のある ”習性” が、終盤で乙姫が提示する ”ある証拠” に
結びつくのだが、まさに「そうだったのか!」と膝を打ってしまう。

「吊られたー」は、犯人像がユニーク。
終盤で明かされる動機は実に意外なものなんだが
こういう○○○○○○○を持った人っているのかなぁ。


nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ: