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螺旋の底 [読書・ミステリ]

螺旋の底 (講談社文庫)

螺旋の底 (講談社文庫)

  • 作者: 深木章子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/05/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

舞台は50年ほど前のフランス。


ゴラーズ家はパリ郊外の村ラボリに居を構える、地主にして資産家だ。
1967年、ゴラーズ家の当主が帰郷するところから本編は始まる。

交通事故で家族を喪い、自身もまた重傷を負った当主だったが
パリで治療に当たってくれた若きセラピストと結婚することになった。

当主夫妻のラボリ村での新しい生活が始まる。
都会から田舎へ嫁いできた新妻も、村社会の中に迎えられるのだが・・・

築300年というゴラーズ邸には、建物を貫くように螺旋階段が設置され、
地下室には第二次大戦中に村で虐殺された人々の亡骸が眠っているが
地下へ向かう階段は施錠した扉によって厳重に封印されていた。

物語は章ごとに夫妻が交互に語り手となって進行する。
序盤は新婚生活が綴られるのだが、次第に不穏な要素が増えていく。

ラボリ村では10代の少年たちが次々と姿を消すという事件が起こり、
夫の語りの部分では、彼自身と事件との関わりも明かされる。

一方、妻もまた ”秘密” を抱えていた。
彼女が結婚したのは、”あること” を探り出すためだったのだ・・・

かつて村で行われた虐殺事件、死者を封じた屋敷の地下室、
謎めいた使用人たち、そして現代に起こる連続失踪事件、と
横溝正史ほどではないが、ヨーロッパ版 ”田舎の旧家” といった赴き。

とはいっても、これらは本書の要素としては小さい部分で
メインとなる ”キモ” の部分には、大ネタが仕込んである。

これ以上は何を書いてもネタバレになりそうなので
「読んでください」としか言えないが
巻末の解説では、本書は「本格ミステリ大賞の候補作になった」とある。
これも納得の出来である。

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ノッキンオン・ロックドドア [読書・ミステリ]

ノッキンオン・ロックドドア (徳間文庫)

ノッキンオン・ロックドドア (徳間文庫)

  • 作者: 青崎有吾
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2019/03/08
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

「不可能」犯罪の解明を得意とする探偵・御殿場倒理(ごてんば・とうり)、
「不可解」事件の解明を得意とする探偵・片無氷雨(かたなし・ひさめ)。
タイトルの「ノッキンオン・ロックドドア」とは、
この2人の経営する探偵事務所の名前。ここに持ち込まれる事件を
解決していく2人の活躍を描くシリーズの第1弾。

彼ら2人とトリオを組むのは、大学時代の同級生にして
警視庁の女性警部補、穿地決(うがち・きまり)。

「ノッキンオン・ロックドドア」
画家の霞蛾(かすみが)英夫が殺される。
現場となったアトリエは内側から鍵のかかった密室状態、
遺体の周囲には彼の描いた6枚の風景画が散乱し、
そのうちの1枚は真っ赤に塗りつぶされていた・・・

「髪の短くなった死体」
小劇団『キクラゲ』のリーダー、善田ミカが殺される。
現場はマンションの一室、遺体は服を脱がされ、
さらに犯人は被害者の髪を切り取り、現場から持ち去っていた・・・

「ダイヤルWを廻せ!」
『死んだ祖父の残した金庫を開けてほしい』
『父の死に不審な点があるので調べてほしい』
同時に2つの依頼を受け、御殿場と片無は二手に分かれて
それぞれの事件を担当することになるが・・・

「チープ・トリック」
大手通信教育会社の重役・湯橋が射殺された。
自宅の窓の外から狙撃されたのだが、
彼の部屋には常に分厚い遮光カーテンがかかっており、
外から内部の人間を狙い撃つことは不可能だった・・・

「いわゆる一つの雪密室」
研磨工場の社長・茂呂田が殺された。
心臓を包丁でひと突きされ、即死だったと思われたが
現場は雪の積もった空き地の真ん中で、被害者以外の足跡はない・・・

「十円玉が少なすぎる」
『十円玉が少なすぎる。あと5枚は必要だ』
探偵事務所のアルバイトである、女子高生の薬子(くすりこ)さんが
登校時に耳にした言葉だ。話していたのはスマホで電話中の男性。
御殿場と片無は、この言葉から推理を巡らせていくが・・・
いわゆる『九マイルは遠すぎる』のパターンだね。
○○○○がらみってとこまでは誰でも想像がつくと思うんだけど
そこから先がもうひとひねり。

「限りなく確実は毒殺」
落選中の元衆院議員・外様(とざま)寛三が殺された。
資金集めパーティーの席で口にしたシャンパンに毒が入っていたのだ。
しかも、彼が手に取ったグラスが載っていた盆には
他にいくつものグラスがあったにも関わらず、
毒が入っていたのは被害者のものだけだった。
犯人はどうやって彼のグラスに毒を入れたのか・・・

どれも文庫で40ページ弱とコンパクトなつくり。
事件の内容も「密室」「足跡のない殺人」など
ミステリではポピュラーなテーマを扱ったものが多い。
今まで数え切れないくらい書かれてきたテーマだけど
作者はひねりを効かせて、新しい切り口を見せてくれる。

上にも書いたが、1編あたりのページ数が少なく、
事件の発生から探偵の介入までがざっくり端折られて
そのぶん、真相の解明に注力しているようだ。

とは言っても無味乾燥な雰囲気がしないのは、
登場するキャラたちが個性豊かだからだろう。

得意分野も異なり、見た目もかなり違う(表紙イラスト参照)という
探偵2人がコンビを組んでる、って設定はかなりユニークだろう。

常に駄菓子を手にしながら登場してくる穿地警部補も面白い。
今度は何を食べてるのだろう?と気になってしまう(笑)。

そして、ホームズに対するモリアーティ教授のように、
シリーズを通しての悪役も登場する。
御殿場・片無・穿地と大学で同期だった糸切美影(いときり・みかげ)は
本書では事件の黒幕として間接的に関わってくるのだが
次巻以降では直接対決することもあるのだろうか。

個人的に一番気になったのは、アルバイトの女子高生・薬師寺薬子さん。
「くすりこ」というネーミングもびっくりだけども
気立てのいい、至って素直な女子高生として描かれてる。とは言っても、
若い男2人の家政婦代わりに身の回りの世話をしているわけで
親御さんは心配にならないのかなぁ・・・などと変に気を回してしまう。

彼女の家庭環境や、この事務所で働くことになった経緯なども知りたいが
一編が40ページもないシリーズなので、
そこまで枚数(字数)を割けないのかも知れない。

続巻があるようなので、そちらでは
彼女の出番が多くなることを期待したい(おいおい)。


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かがみの孤城 [読書・ファンタジー]

かがみの孤城 上 (ポプラ文庫)

かがみの孤城 上 (ポプラ文庫)

  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2021/03/05
  • メディア: 文庫
かがみの孤城 下 (ポプラ文庫)

かがみの孤城 下 (ポプラ文庫)

  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2021/03/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

主人公・安西こころは雪科第五中学校へ入学するが、
彼女の学校生活は、最初の1か月で断ち切られてしまう。
クラスメイトからいじめを受けるようになり、不登校となったのだ。

家に引きこもっていたこころだったが、
ある日突然、部屋にある姿見の鏡が光り始めた。
鏡に手を当てたこころは、そのまま鏡の中に引きずり込まれてしまう。

鏡の向こうにあったのは、城のような建物の内部。
そこには彼女と同じように6人の少年少女が集められていた。

中学3年のアキとスバル、2年のフウカとマサムネ、
1年生はこころの他にリオンとウレシノ。
総勢7人のうち、こころ・アキ・フウカが女の子だ。

そしてもう一人、オオカミの仮面をつけた幼い少女が。
その ”オオカミさま” は告げる。

城のどこかに鍵が隠してある。
それを見つけて、”願いの部屋” に入ることができた者1人だけが
1つだけ願いを叶えることができる、と。

お前たちはここで鍵を捜すことになる。
期限は来年3月30日まで。
しかし誰かが鍵を見つけた時点で ”ゲーム” は終了、
期限を待たずに城は閉ざされてしまう。

城は毎日、午前9時に開き、午後5時に閉ざされる。
その間は何度でも出入り自由だが、
午後5時には必ず城から出なくてはならない。
期限を過ぎても城に残っていると、”狼に食べられてしまう”、と。

そしてこころは気づく。
ここに集められた7人は、みな学校に行っていないことに。

かくして、7人の中学生による奇妙な共同生活が始まる。

昼は ”鏡の城” で過ごし、夜は各自の家で暮らす。
7人は次第に打ち解けていくが、諍いもまた生じる。
それは彼ら彼女らが学校では得られなかった、
同世代の仲間との体験の時間でもあった。

こころは最初、彼女を虐めた首謀者の生徒がいなくなることを願って
鍵を捜していたが、やがて他のメンバーと一緒の時間を過ごすことが
貴重なことのように感じられるようになり、
この時間が少しでも長く続くことを望むようになっていくのだが・・・

前半は、こころを初めとする7人の城での生活ぶりが語られ、
それぞれのメンバーの抱えた事情も少しずつ明らかになっていくが
主にこころが受けたいじめの内容が、随時挿入されていく。
このあたり、胸が痛んで読み進めるのが辛い場面も多々ある。

しかし、7人が一緒に生活する中で、少しずつ変化も生じていく。
7人だけの世界から、次第に外の世界へと目を向け始める。
本書は、基本的にはこの7人の成長の物語になっている。

ほとんどのシーンが一つの建物の内部で進行し、
ストーリーも比較的ゆったりと進むのだが、
終盤になると一気に緊張感が増し、結末へ向かって怒濤の展開となる。
同時に、城に秘められた様々な謎も一気に解明されていく。

「いじめ」や「不登校」など、扱っているテーマは重く暗いものだが
ラストシーンでは大きな感動が待っている。

本屋大賞受賞も頷ける傑作ファンタジーだと思う。

読書録としてはこれで十分かと思うのだけど
以下、ちょっと余計なことを書く。
致命的なネタバレはしてないと思うんだけど
未読の人は要注意。

半分くらい(文庫なら上巻の最後あたり)まで読んだら、
この物語の基本設定の大枠について、
見当がつく人も多いんじゃないかと思う。

この7人は○○○○○○○○○○○○んじゃないか? って。

 もっとも、これについては伏線もわかりやすいので、
 作者もあんまり隠そうとしてはいないみたいだ。
 読者に気づかれることは織り込み済みなのかも知れない。

そして、そこからまた新たな想像が膨らんでいく。
○○○○○って、実は○○だったんじゃないのか? とか。

 とはいっても、この物語がどんな結末を迎えるかは
 中盤の時点では全く予想の欠片もつかめないんだが(笑)。

たぶん、多くの読者は上の2つくらいまでは
気づく、あるいは想像がつくだろう。

じゃあ、ここまでバレてしまっていたら、
結末の感動が薄れてしまうんじゃないのか?・・・って
心配になるかも知れないが、全くそんなことはない。

最も根本的な ”謎”、というか、
読んでいていつの間にか「謎」だという意識すらしなくなっていた部分が
物語の最終盤、ここぞというところで明かされるのだけど
これが実に意外なもので、かつ大きな感動を呼ぶ。

 振り返ってみると、これについてもきちんと
 伏線は張ってあったんだけどねぇ・・・全くわからなかったよ。

 まさに「肉を切らせて骨を断つ」。
 大リーグボール2号の秘密を80%まで解きながらも
 残り20%のために敗北してしまう花形満の心境だ。

  いやぁ、例が古すぎるねぇ・・・
  それにこの例えは他の記事でも使った記憶があるぞ(おいおい)。

各キャラクターたちの ”その後” についても心憎い演出がある。
具体的に語られる者と、示唆に留められる者とがいるけれど、
語られなかったキャラたちも
逃げずに自分の人生と向き合っていくであろうことが想像できる。

そして、作者が主人公・こころに用意した ”終着点” は実に素晴らしい。
そうだよねぇ、あんなに苦しんで、あんなに頑張ったんだから、
これくらいのことはあってもいいよねぇ・・・(泣)。


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レディ・ヴィクトリア アンカー・ウォークの魔女たち [読書・ミステリ]

レディ・ヴィクトリア アンカー・ウォークの魔女たち (講談社タイガ)

レディ・ヴィクトリア アンカー・ウォークの魔女たち (講談社タイガ)

  • 作者: 篠田真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/02/18
  • メディア: 文庫
評価:★★★

舞台は19世紀のロンドン。いわゆる「ヴィクトリア朝」の時代。

タイトルは主人公の名前。女王陛下と同名の
貴婦人ヴィクトリアとその召使いたちの冒険探偵譚、というところ。

アメリカ南部生まれの女性ヴィクトリアは
高齢の英国貴族シーモア子爵と知り合い、ともに世界を旅してきた。

やがて、子爵の前妻が亡くなり、彼の後妻となるが
前妻の子供らとの折り合いがいいはずもなく、
2人でロンドンへ帰ってきてから子爵が亡くなると、ヴィクトリアは
アンカー・ウォークのテラスハウスでひっそりと暮らすようになる。

しかし彼女のところへ悩み事や相談事を持ち込む人が後を絶たない。
彼ら彼女らの問題の背後に潜む事件を解決する
貴婦人ヴィクトリア、そしてメイドのシレーヌ、
さらにユニークな使用人たちの活躍を描く連作集の第1作。

もっとも、どちらかというと洞察力に長けているのはシレーヌの方で
ヴィクトリアは冒険心旺盛なあまりトラブルに巻き込まれたりと
役回りとしてはワトソンの方に近いかな。

本書は初回だけあって、舞台(時代)設定の説明や
キャラクターの紹介、といった趣が強いかな。

ヴィクトリア朝というのは様々なフィクションの舞台ともなってるけど
本書ではロンドンの様子や貴族社会のしきたりなども
けっこう詳しく描かれていて、興味深い。

「第一章 チェルシーの妖精女王(フェアリークイーン)」
「第二章 消えたダイヤモンド」
アルヴァストン伯爵家で開かれた晩餐会で、
ダイヤモンドの耳飾りが盗まれてしまうが、
スコットランド・ヤードも解決に手を焼いてしまう。
伯爵の孫娘アミーリアは、友人でもあるヴィクトリアに相談するが・・・

「第三章 お向かいは謎だらけ」
「第四章 見えない(インヴィジブル)ファントム・レディ」
詩人を目指すフランス人青年ルイは、出版社の招待で英国へ来た。
ロンドン校外のハイゲートで、友人たちとの酒宴を抜け出した彼は
近くの屋敷で美しい女性の姿を見かけるのだが・・・

「第五章 わが主(ミレディ)に仇なす者は」
「第六章 ロイヤル・アルバート・ホールの悪意」
「第七章 地獄の火(へルファイア)倶楽部再臨」
オペラ観劇に訪れたヴィクトリアは、”某公爵夫人” と称する女性から
家宝のダイヤモンドを取り戻すことを依頼される。
誘われるままにオペラハウスを出てしまうが、連れ込まれたのは
ルイが ”亡霊” を見たというハイゲートの屋敷だった・・・

主人公ヴィクトリアとメイドのシレーヌ以外にも
人種・国籍・年齢などいろんな意味で多様な使用人たちがいるのだけど
彼ら彼女らも含めた ”チーム・ヴィクトリア” というか
”ヴィクトリア探偵団”(笑)の活躍が、今後描かれていくのだろう。

さらには、ホームズに対するモリアーティ教授のような
ヴィクトリアにとっての ”宿敵” も存在するようで、続きが楽しみだ。

加えて「エピローグ」では、新人メイドのローズが登場する。
このお嬢さんもメインキャラの一人になるそうだ。

このシリーズは現在5巻まで刊行されているけど、
そこで止まっているとのこと(ストーリー的にはまだ未完)。
理由はわからないけど、これも昨今の出版事情があるのかな?

でもまあ、作者は再開の準備をしているとの情報もあるので
完結を期待しましょう。


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今だけのあの子 [読書・ミステリ]

今だけのあの子 (創元推理文庫)

今だけのあの子 (創元推理文庫)

  • 作者: 芦沢 央
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/04/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

「女の友情」をテーマにした ”日常の謎” 系ミステリ短篇集。


「届かない招待状」
学生時代に仲のよいグループだった彩音が結婚することになった。
しかし、彼女と一番仲が良かったと自負していた恵にだけ
なぜか結婚式の招待状が送られてこない。
恵は、それでも結婚式に押しかけていくことを決めるのだが・・・
ミステリ好きな人なら、恵が呼ばれなかった理由に見当がつくと思うが
それでもなお、ラストシーンは感動的だ。

「帰らない理由」
中学生・くるみが交通事故で不慮の死を遂げてしまう。
同級生の須山は、くるみの家を訪ねすが、
そこで彼女の親友だった桐子と鉢合わせしてしまう。
二人の目的はくるみの日記。
死の2週間前に桐子はくるみと仲違いをし、
同じ頃に、須山はくるみの恋人になったと主張するのだが・・・

「答えない子ども」
育児熱心な直香は、娘・恵莉那(えりな)を絵画教室に通わせているが、
同じ教室に通うソウ君のママのズボラさに呆れていた。
ある日、恵莉那の描いた絵が行方不明になってしまう。
ソウ君の家に寄ってきたことから、彼が盗ったことを疑う直香だが・・・

「願わない少女」
私立中学に不本意入学した奈央だったが、漫画家志望の悠子と出会う。
彼女と友達でいたいがために、自らも漫画家志望と嘘をつく奈央。
二人は固い友情で結ばれ、プロデビューを目指していくが・・・
同じ作者の長編『悪いものが、来ませんように』を
読んだときに、この二人をちょっと思い出した。
この人、女性のこういうところを描かせたら本当に上手いと思う。
ミステリ的には本書でいちばん凝ってるとおもう。

「正しくない言葉」
老人ホームで暮らす女性・孝子のもとには、しばしば
息子夫妻が訪れていて、隣室の澄江はそれが羨ましかった。
しかしあるとき、孝子の嫁の麻実子が、夫に姑について
不満を漏らしているのを聞いてしまう・・・
ラストで明かされる、孝子の行動の理由は
短篇『許されようとは思いません』をちょっと連想させる。
本作の方が先に書かれているので、
『許され-』は本作の発展系と言えるのかも知れない。

全部で5編収録されてるんだけど、冒頭の「ー招待状」を除く4編は、
緩やかにつながっている。

「ー言葉」が「ー理由」の後日談でもあることはすぐわかるんだけど、
それ以外のつながりは、読み終わった時点では思いもしなかった。

でも解説が親切で、そこで教えてもらってびっくり。
これに気づく人は、かなり鋭い観察力(注意力)の持ち主かと思う。

もっとも、各作品はストーリー的には独立しているので
気づかなくても全く問題ないんだけど(笑)。


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田嶋春にはなりたくない [読書・ミステリ]

田嶋春にはなりたくない (新潮文庫nex)

田嶋春にはなりたくない (新潮文庫nex)

  • 作者: 三兎, 白河
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/12/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主人公は田嶋春(たじま・はる)。法学部に通う女子大生だ。
表紙のイラストにあるように、美人の部類に入るくらいの容貌だが、
周囲の者は彼女を煙たがる。なぜなら彼女は ”正論モンスター” だから。

新入生歓迎会で、参加者全員の学生証を調べて年齢を確認する。
もちろん未成年の学生に飲酒させないためだ。

彼女が主張するのは正論。だから誰も面と向かって反論できない。
「空気を読まない」というか「同調圧力に屈しない」というか
日常的に ”なあなあ” で済ませていることにも容赦なく介入する。

でも、そんな彼女だからこそ、キャンパスで日々起こる
些細な事件の裏に潜むさまざまな事情に気づくことができる。

本書は章ごとに、春以外の誰かが語り手となっていて
基本的に一話完結形式なのだけど、全体がゆるやかにつながっている。

「第一章 肩を濡らさない相合傘」
管野は田嶋春と同じサークルの上級生。
朝の通学でたまたま春と遭遇し、そのまま大学へ向かう。
二人の前を歩いていたのは、春の同級生の女子・河本。
彼女の持っている傘を見た春は、管野に
「彼女は諦めた方がいいですよ」と言い出す・・・

「第二章 自作自演のミルフィーユ」
大学職員の深井は、看護師である妻とのすれ違い生活に疲れ、
女子学生と不倫関係になっていた。
そんな妻から、久しぶりの外食を提案される。
食事中、突然「いま、恋をしているでしょう?」と言われる。
「怒らないから話して」とも。そこで正直に不倫のことを打ち明けると
突然烈火のごとく怒りだし(まあ当たり前だが)その学生を呼べという。
仕方なく女子学生に連絡をするが、レストランに現れたのは
春(もちろん彼女が不倫相手ではない)だった・・・
この作品は、何かのミステリーのアンソロジーにも収録されてたはず。

「第三章 スケープゴート・キャンパス」
一浪して大学に入った髙橋奏(かなで)は、サークルの新入生歓迎会で
田嶋春のモンスターぶりに接して以来、彼女を目の敵にしてきた。
なんとかして彼女をサークルから追い出そうと算段を巡らすが、
春と同じように周囲から敬遠されている学生がもう一人いた。
それは「歌子」という名の50代の女性だったのだが・・・

「第四章 八方美人なストライクゾーン」
春の所属するサークル『N・A・O』は、野球愛好会『TOUCH』と
部室の使用権を賭けて野球の試合をすることになった。
双方とも助っ人を呼ぶのはOKである。
『N・A・O』は、田嶋春のバイト先の先輩を助っ人に呼ぶことにする。
彼は関西の甲子園出場常連校の出身だというのだが・・・

「第五章 手の中の空白」
語り手の ”俺” は遊園地で観覧車の運転員をしているが
ゴンドラに密かに盗聴器を仕掛け、一周する15分間の
客たちの会話を聞くこともあった。
ある日、”俺” と一緒に観覧車のアルバイトをしている田嶋春から
彼女がサークル『N・A・O』の前代表・八代たちと
観覧車デートをすることを聞く。しかしその前日、
その八代たちが観覧車に乗りに来た。
不審に思った ”俺” は、彼らの会話を盗聴するのだが・・・

田嶋春という、なかなか特異なキャラにまず戸惑う。
正論をぶち上げ、場の空気を読まず、よかれと思えば
相手がどんなに嫌がろうが「善意の押しつけ」も躊躇わない。

まあ現実にはこんな人はいないだろうし、
もしいたら絶対お近づきにはなりたくないだろう。

かといって嫌いかといえばそうでもない。
しばしば天然ボケとしか思えないリアクションも返ってくるし
第三者から見れば愛嬌があるお嬢さんでもある。
それになんと言っても「かわいい」は正義だ(笑)。

このシリーズはまだ継続しているみたいなので、
続きが出たら、たぶん読んでしまうんだろうなぁ・・・


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秀吉を討て [読書・歴史/時代小説]

秀吉を討て (角川文庫)

秀吉を討て (角川文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/01/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

時代は天正12年。
本能寺の変で織田信長が討たれて2年、
秀吉は天下取りに邁進していた。

未だ日本各地で戦いが続いている中、紀州は特異な状況にあった。
一国を統べるような戦国大名は存在せず、複数の寺社勢力や土豪たちの
いわば ”連合国家” ともいうべき状態で、彼らの集団指導体制は
戦国時代の中にあっては民主的で、一種の ”理想郷” でもあった。
しかしその紀州にも、遠からず秀吉は侵略の手を伸ばしてくるだろう。

主人公・林空(りんくう)は紀州根来寺に使える下級武士だが、
実は根来忍者の総帥・隠形鬼(おんぎょうき)のもとで
厳しい忍術の修行を積み、さらには鉄砲術まで身につけていた。
その林空に隠形鬼から密命が下る。「秀吉を暗殺せよ」と。

林空はベテラン忍者の叡海(えいかい)、親友・俊念(しゅんねん)とともに
小牧・長久手の戦いへ向かう秀吉を鉄砲で狙撃することになる。

隠形鬼の ”秀吉暗殺チーム” は林空たちだけでなく、
“二の矢”、”三の矢”・・・と ”別働隊” が用意されており、
いよいよとなったら隠形鬼自ら暗殺に加わる手はずだったのだが・・・

もちろん、秀吉も暗殺対策は万全だ。
山中長俊率いる甲賀忍者が周囲を固めている。

林空たち根来忍者と甲賀忍者の戦いが前半の読みどころ。
体術の限りを尽くした忍者同士の攻防は、
白土三平の『カムイ外伝』さながらの白熱ぶり。
隠形鬼の放つ秘技は、もう忍術の域を超えて
山田風太郎の『忍法帖』の世界だ。

後半に入ると、いよいよ秀吉の紀州侵攻が始まる。
各地の寺社や城は次々と落ち、最後に残った抵抗勢力は
和歌山の太田城に立て籠もることになる。
林空もまたその中にあって、壮絶な戦いに身を投じていく・・・

 この太田城を巡る攻防は、「備中高松城の水攻め」、
 「武蔵忍城の水攻め」(『のぼうの城』で描かれた)とならんで
 「日本三大水攻め」として有名なのだそうだ。

林空はもちろんだが、脇を固めるキャラも魅力的。
幼馴染みでかけがえのない相棒・俊念、頼りになる先輩・叡海、
当初は林空のライバルであったが、
戦いを通じて固い友情で結ばれることになる蟠竜(ばんりゅう)、
林空を ”男” にしてくれた遊女・かごめ、
太田城で共に戦うことになる可憐な少女・若菜など、
さながら綺羅星のごとく、ここには書ききれないくらいだ。

秀吉の天下統一は史実なので、林空たちの戦いも
最終的には敗北に終わることはわかっているのだが、
自らの ”理想の国” を守ろうと戦い続ける彼ら彼女らを
最後まで応援せずにはいられない。


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誰でもよかった [読書・ミステリ]

誰でもよかった (幻冬舎文庫)

誰でもよかった (幻冬舎文庫)

  • 作者: 五十嵐 貴久
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2014/10/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

(今、渋谷。これから人を殺します。)

インターネットの掲示板にそう書き込んだ男は、軽トラックで
渋谷のスクランブル交差点に突っ込む。
歩行中の人々を跳ね飛ばした後に車を降り、
持参した刃物で倒れた人々にとどめを刺して回る。

死者11人、重軽傷者多数という無差別殺傷事件を引き起こした男は
交差点近くの喫茶店『ボヘミヤン』に飛び込み、
従業員と客を人質にして立て籠もってしまう。

警視庁は現場一帯を封鎖して見物人とマスコミをシャットアウトする。
さらに、SIT(Special Investigation Team:特殊事件捜査係)所属の
渡瀬博之警部補が ”交渉人” となって、犯人との対話が始まる。

やがて犯人の名は髙橋浩二、独身で無職であることが判明し、
彼の生いたちが浮かび上がってくる。

親とも没交渉、職を転々としてきた彼は、
「社会から相手にされていない」「自分は誰からも無視されている」
と思うようになっていた。

「世間の注目を集め、ワイドショーの主役になる」
あきれた動機だが、髙橋からすれば
自分の存在証明にはそれしかないと思い込んでいるのだろう。
だから殺人事件を起こした。殺す相手は「誰でもよかった」のだ。

”交渉人” からのアプローチにも、頑なにコミュニケーションを
拒否していた髙橋だが、渡瀬の粘り強い説得によって、
徐々に会話が成立していくのだが・・・

作者は、立て籠もり事件に立ち向かう ”交渉人” を描いた作品を
多く書いているのだが、本書の特徴は
インターネットが大きな役割を占めていることだろう。

髙橋が犯行前に掲示板に予告をしていたこともあるが、
『ボヘミヤン』に立て籠もった後には、
自ら新しいスレッドを立てていた。
その名も ”渋谷で人を殺したオレのスレ”。

真っ先に気づいたのは警察だったが、一般人が知るのも時間の問題だ。
警察との交渉の内容をさらけ出したりしないか、
髙橋が自分の犯行について何らかの主張をしないか、
それをみた一般人がどんな書き込みをするかも予断を許さない。

否応なく早期解解決へと追い込まれてしまった警察上層部は
交渉人である渡瀬に次々と圧力をかけてくる。
さらには、この手の籠城事件では ”禁じ手” とされる、
ある方法をあえて実行するよう強要することまで・・・

文庫で約380ページと決して短くはないのだけど、
冒頭でのスクランブル交差点での殺戮シーンから
立て籠もり事件の解決するラストまで
サスペンス溢れる展開に、ページをめくる手が止まらない。

”無差別な通り魔事件” というものが根絶されることはないだろうし
将来、さらに人心が荒廃して、この手の事件が増えていったら・・・

最後に渡瀬がたどり着く ”真相” は、かなり異常なものなのだが
全く荒唐無稽とも言い切れないのが怖いところか。


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悪いものが、来ませんように [読書・ミステリ]

悪いものが、来ませんように (角川文庫)

悪いものが、来ませんように (角川文庫)

  • 作者: 芦沢 央
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/08/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

視点人物となるのは2人の女性。

庵原紗英(いはら・さえ)は助産院で働いている。
妹であり、同僚でもある鞠絵が助産師の資格を持っているのに対し、
紗英は資格不用な看護助手でしかない。
結婚はしているが子どもが授からない。
夫・大志(だいし)は銀行勤めだが、職場の同僚と不倫しているらしい。

柏木奈津子は専業主婦。結婚以来、家事と育児に生きてきた。
しかし、参加しているボランティア団体で仲間の輪になかなか入れない。

そんなストレスを溜め込んだ彼女たちは、
ともに過ごすひとときでお互いの傷をなめ合っている。
物語の序盤では、紗英は奈津子の家をしばしば訪ね、
奈津子もまた紗英の家で食事を作ったりするなど
”心の支え” 以上で、見ようによっては”過剰な依存” とも言えるような、
いささか異様な2人の日常生活が綴られていく。

で、ここから先のストーリーの紹介が難しい。

物語の1/3が過ぎたあたりで、紗英の夫・大志が殺害される。
前後の状況の描写から、犯人は明らか(に思える)のだが、
何せ本書はミステリだからね(笑)。

ミステリをよく読んでいる人ほど、この状況に疑問を持つだろう。
実はこの状況には裏があって、真犯人は別にいるのではないか?、と。

中盤以降は、大志の死を巡る紗英と奈津子の行動が描かれていく。

そして終盤では、ある ”事実” が明かされて、
それまでの物語で見えていた光景に別の意味が与えられる。
もちろん大志の死の真相も、それとともに明らかになるのだが・・・

いやはやこれは驚いた。
見事な背負い投げを食らってしまいました。
文庫裏の惹句には、「最後まで読んだらもう一度読み返したくなる」
と書いてある。私は読み返しはしなかったけど(笑)、
読んでいて感じた違和感や引っかかりが、
これによってすっきり解消されてしまうのはお見事。

ミステリとしては「天晴れ」。
普通なら星3つ半なのだけど、物語としてはどうかなぁ。
読後感がどうにも重くて、星半分減量してしまいました。
スミマセン。


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アンソロジー 隠す [読書・ミステリ]

アンソロジー 隠す (文春文庫)

アンソロジー 隠す (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/11/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

女性作家によるグループ〈アミの会(仮)〉による
競作アンソロジー。特に ”ミステリ” とは銘打っていないんだけど
執筆陣の大半がミステリ作家と見なされてる方で、そのせいか
収録されてる作品もミステリかミステリ寄りのものが多い。

「理由(わけ)」(柴田よしき)
イラストイレーター・辻内美希が人気タレント・松本茂義を刺した。
美希の担当した広告イラストを、松本がTVでこき下ろしたのが
動機と思われたが、美希はそれが理由ではないという・・・
いやはや女の恨みというものは恐ろしい。

「自宅警備員の憂鬱」(永嶋恵美)
主人公・愛美(まなみ)は5年前から引きこもりになっていた。
ある日、中学2年生の弟・颯太(そうた)が友人の成瀬良樹を
連れ帰ってきた。良樹は超進学校の私立中学の生徒だった。
しかし2人の話に疑問を抱いた愛美は、真相を探り出そうとする・・・
愛美さんの洞察力が光る一編だが、それだけの賢さがあるのなら
社会復帰して充分にやっていけるよねぇ。
彼女の ”その後” が知りたいなと切に思う。

「誰にも言えない」(松尾由美)
アメリカから来て、沢村家にホームステイしていたリンジー。
沢村夫妻との関係は良好だったが、ある日を境に彼女の扱いが急変する。
家庭内での行動にやたら制限をつけるようになったのだ。
悩んだリンジーは私立探偵の安西に相談を持ちかけるが・・・
彼女を巡る ”日常の謎” は安西によって解決されるんだけど
安西自身のプライベートも気になる。これ、シリーズものなのかな?

「撫桜亭(ぶおうてい)奇譚」(福田和代)
小栗上野介の埋蔵金伝説が残る地に自宅を構えたのは、
不動産王と呼ばれた岡崎東馬(とうま)だった。
その東馬が亡くなり、長男の卓也、次男の行広、三男の紀夫の間で
遺産相続の話が持ち上がるが・・・
長編にしたら面白そう。

「骨になるまで」(新津きよみ)
主人公・美里(みさと)の母方の祖母・志野(しの)が亡くなった。
その葬儀の後、志野の弟・敦から意外なことを聞く。
志野は二度結婚していて、二人目の夫が美里の祖父だった。
さらに、志野は最初の結婚で男子を産んだが、
その子どもを残して婚家を去ったのだという・・・
母親というのは有難いものだなぁというのを再確認する一編。

「アリババと四十の死体」(光原百合)
実直な商人アリババを狙う盗賊団の陰謀を、
賢い奴隷女モルギアナが見抜き、みごと盗賊を撃退する
彼女の功績を認めたアリババは、彼女を息子カシムの嫁にするのだが。
賢女なんだけど○○でもあるモルギアナさんが魅力的。
彼女くらいの強かさがないと生きていけない世界なんだね。

「まだ折れていない剣」(光原百合)
冒頭にG・K・チェスタトンの「折れた剣」の一部が引用されてる。
有名な「木の葉はどこに隠す?」にまつわるセント・クレア将軍を
主役に据えた話。

「バースデーブーケをあなたに」(大崎梢)
94歳の早瀬美奈子は認知症を患い、ケアハウスに入居している。
その彼女のもとへ、毎年誕生日には花束が贈られてくる。
送り主は ”M” というイニシャルだけが記されている。
”M” は誰かと問われるたびに、彼女は異なる人物を挙げるのだが・・・
美奈子の周囲の人々が皆、温かい心の持ち主なのがいいね。

「甘い生活」(近藤史恵)
千尋は、幼い頃から他人の持ち物が無性に欲しくなるたちであった。
小学5年生の時、同級生の沙苗が大事にしていた
オレンジ色のボールペンを盗み取ることに成功する。
そして9年後。大学生になった千尋は孝紀という青年と知り合う。
千尋は、孝紀の恋人から彼を奪取することに成功するが・・・
ラストはいささかホラーだね。

「水彩画」(松村比呂美)
大学生・芳賀塔子の母親・悠子は高名な画家だったが、
塔子には母から愛された記憶はなかった。
しかしその母が突然、甲斐甲斐しく塔子の世話を焼き始めた・・・
ラストシーンがちょっと感動的。

「少年少女秘密基地」(加納朋子)
小学生のカイセイとジンタンは、夏休みに自転車で遠出をしたときに
一軒の空き家を見つけ、そこを2人の ”秘密基地” として遊び始める。
そして、その空き家に残された痕跡から二人は気づく。
彼ら以外にも、幼い女の子の2人組も出入りしているらしいこと、
さらに、不審な大人も出入りしているらしいこと・・・
『少年少女飛行倶楽部』の番外編というか前日譚。

「心残り」(篠田真由美)
語り手は、伊豆下田から出てきて東京の資産家に奉公している少女。
若い後妻が浮気をしたために南伊豆の別荘に追いやられ、
少女も奥方の浮気の監視役を兼ねて別荘で働くことになる。
しかし、浮気相手との仲を裂かれた奥方は自殺してしまう・・・
短いんだけどミステリとしての密度は濃い。
時代の雰囲気も良く出ている。

特に気に入ったのは
「理由」「誰にも言えない」「バースデーブーケをあなたに」「水彩画」
の4作かなあ。

「骨になるまで」「甘い生活」「心残り」は
私の中ではイヤミスに入りそうで、ちょっと苦手。
とは言っても、ミステリとしての出来は悪くない。

なかなかレベルの高い作品が揃ってると思う。
総じて、とても楽しいアンソロジーでした。


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