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鋼鉄紅女 [読書・SF]


鋼鉄紅女 (ハヤカワ文庫SF)

鋼鉄紅女 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2023/05/23

評価:★★★★☆


 異星の機械生命体・渾沌(フンドゥン)の侵略を受けた人類は、巨大戦闘機械・霊蛹機(れいようき)を建造、必死の抵抗を続けていた。
 辺境の娘・武則天(ウー・ゾーティエン)は、ある "目的" を持って軍に入隊、霊蛹機のパイロットとなる。しかし戦い続けるうちに人類社会や軍の秘密を知った彼女は、やがて「大いなる野望」を抱くようになっていく・・・
 2021年 英国SF協会賞 若年読者部門受賞作。


 作者シーラン・ジェイ・ジャオは中国生まれ、10歳頃にカナダへ移民し、現在はバンクーバーに在住とのことだ。


 本書の舞台となる人類世界は華夏(ホワシア)と呼ばれている。登場する人名・地名・文化・風俗をみると、明らかに古代中国をモデルにしているとわかる。
 しかし驚くのはそこではない。冒頭部を読んだだけで分かるのだが、この世界は徹底的な男尊女卑社会なのだ。

 科学技術は現代よりも遙かに進んでいるにもかかわらず、女性にまともな人権は与えられていない。幼少時から纏足(てんそく:分からない人は世界史の教科書を見るかググりましょう)を強要され、まともに歩くこともできない身体にされてしまう。主人公の少女・則天も例外ではない。
 もちろん女性は真っ当な職にも就けず、貧しい農家では口減らしの対象になる。則天の姉が軍に入り、霊蛹機のパイロットとなったのもそのためだ。

 適性検査で "霊圧" と呼ばれる数値が高い者は、霊蛹機のパイロットになれる。だがこの霊蛹機というのも、女性にとっては恐怖のマシンなのだ。

 まず女性パイロットは、男性パイロットの "後宮" に入れられる。後宮ということは、つまりそういうこと。だから女性パイロットは "妾女(しょうじょ)パイロット" と呼ばれる。

 ちなみに、本書はいちおうヤングアダルト枠の作品らしいので(笑)、18禁なシーンは登場しない(かなり際どい描写はあるけど)。

 霊蛹機は男女のペアで搭乗するのだが、男性パイロットは出撃の際に後宮から妾女パイロットを一人選んで霊蛹機に乗せる。そしてここからが凶悪だ。
 霊蛹機はパイロットが発する〈気〉(き)によって操られる。〈気〉が大きいほど、霊蛹機の戦闘力もアップする。
 霊蛹機に妾女パイロットを乗せる目的は、その〈気〉を男性パイロットに供給するため、なのだ。そして妾女パイロットは、そのときにかかる精神的重圧に耐えきれず、多くは戦闘中に命を落としてしまう。
 つまり彼女たちは、一回の出撃ごとに使い捨てにされる。
 則天の姉も、霊蛹機のパイロットとして出撃し、死亡していた・・・。

 その2ヶ月後、18歳となった則天は、自ら望んで軍に入った。それは姉の復讐のため。姉を死に追いやった男性パイロット・楊広(ヤン・グアン)の後宮に入り、彼の ”寝首を掻く” ためだった。

 しかし楊広の後宮に配属されたのもつかの間、渾沌の襲撃が勃発し、則天は楊広とともに初めての出撃を経験する。そしてその戦闘中に、則天は桁外れの ”霊圧” を発生させてしまう。それは楊広の〈気〉を圧倒し、霊蛹機の制御権さえも奪取してしまうほど強力なものだった。

 則天は並の男性パイロットとは組ませられない。軍が彼女の相手に選んだのは李世民(リー・シーミン)。自分の父と兄を殺した死刑囚だったが、最強の〈気〉を持つが故に刑の執行を猶予されている男だった・・・


 パイロットの精神力が搭乗しているマシンのパワーと連動するとか、その他大勢の中にいた主人公が初戦で予想外の潜在能力を示し、一躍、戦力の中核になってしまうとか、日本のロボットアニメによくある展開だ。このように本作には日本製アニメの影響が随所に見られる。これは作者も巻末の謝辞で認めている。ちなみに『ダーリン・イン・ザ・フランキス』(こちらも主役メカに男女のペアが搭乗する)というロボットアニメ作品からインスパイアされたものが大きいという。
 男女ペアのパイロットなら、私は『神魂合体ゴーダンナー』を連想してしまうのだが(笑)。

 本書の霊蛹機は全高50~70mほど。アニメで云うところのいわゆる "巨大ロボット" に相当する。
 渾沌の死骸を材料に創り出されたという設定で、「九尾狐(きゅうびこ)」「白虎(びゃっこ)」「玄武(げんぶ)」と名づけられた各霊蛹機は、名前の通り四つ足状態の "通常形態" から、二本足で立つ "起立形態"、そして最強となる人間型の "英雄形態" へと二段階変形をする。このあたりは『マクロス』のバルキリーを彷彿させる。

 則天と世民が搭乗する「朱雀(すざく)」は "通常形態" が鳥型で、そこから全高100mを超える人間型の ”英雄形態” へ変形していく。ちょっと『勇者ライディーン』を思い出してしまった(歳が分かるなぁ)。
 その勇姿は文庫表紙にも描かれているのだが、これはぜひ本書の巻頭P.10に載ってるイラストを見てほしい。まさに主役メカにふさわしい風格と迫力だ。
 そこには他の霊蛹機のイラストも載っているのだが、「朱雀」はダントツでカッコいいと思う。

 そして日本のアニメの影響はメカ設定だけにとどまらず、ストーリーにも反映されている。詳しく書くとネタバレになるのだが、本書の終盤ではロボットアニメ・ファンなら泣いて喜ぶ(?)展開が待っている、とだけ書いておこう。


 ストーリーと云えば、主役カップル(?)となる則天と世民に加えてもう一人、忘れてならないキャラがいる。華夏で最大級のメディア王・高俅(ガオ・チウ)の息子、易之(イージー)だ。入隊前の則天とは恋仲だったが、彼女は易之に別れを告げて軍に入ってしまった。
 しかし、物語が進んでいくと意外なところで再会し、則天・世民・易之の奇妙な三角関係が始まっていく。このあたりも『マクロス』っぽいが、この3人の関係はいかにも現代的だったりする。


 登場するキャラの名は、中国の歴史上の人物から採ったものが多い。武則天、李世民はもとより、諸葛亮は軍師(人類軍の司令官)を務め、霊蛹機のパイロットには朱元璋、馬秀英などの名もある。
 モデルとなった人物の歴史上の役割が、本作のキャラにも何らかのカタチで投影されているのだろうが、その辺の知識が無くても気にする必要はないと思う。高校時代の世界史の授業では、ほとんど寝てるか内職してた(おいおい)私でも、充分楽しめたし。
 もちろん、好きな人や詳しい人は事前に歴史のおさらいをしてから読むのもアリだろうとは思う。


 主人公の則天は、物語の最初から女性を虐待・弾圧・搾取するこの社会のありように強い憤りと憎しみを抱いている。それは物語が進むにつれてさらに大きくなっていき、やがて「大いなる野望」を抱くようになる。

 文庫で540ページ近い大部である本書のラストでは「華夏世界の○○の○○」という新たな要素まで加わり、さらなる波乱を呼ぶ展開を予感させて「つづく」となる。

 「えー! ここで終わりなのぉ?」って叫んでしまうくらいの鮮やかな "引き" である。自らの「野望」の実現を目指す則天にとって、彼女の ”戦い” はこれから始まると云ってもいい。次巻への期待は否が応でも高まろうというもの。

 巻末の「訳者あとがき」によると、続編は2024年刊行とのことだ。


 最後に『ダーリン・イン・ザ・フランキス』についてちょっと書く。

 実は本編の「謝辞」と「訳者あとがき」を読むまで、このアニメ作品の存在を知らなかった。同じ頃、『Another』(綾辻行人)のアニメ版も見たいと思っていたので、思い切って「dアニメストア」に入ってしまったよ。

 で、肝心の『ダーリン-』を観てみたのだけど、なかなか面白かった。
 ストーリー自体は全くの別物だが、ところどころ「ここの影響を受けたのかな」と思われるシーンもちらほら。いちばんのキーポイントは、男女ペアが乗る特徴的なコクピットの形態というか操縦時の姿勢というか。あれは、思春期の少年少女たちにとっては、ちと刺激が強かろう(笑)。

 青春ロボットアニメとしてはとてもよくできている。特に5人の女性パイロットがそれぞれ異なる性格づけがされていて、そのキャラ立ちぶりも素晴らしい。そしてなおかつ、みんな可愛いというのはポイントが高い(おいおい)。
 一見の価値はある作品だと思う。



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