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赤刃(セキジン) [読書・歴史/時代小説]


赤刃 (講談社文庫)

赤刃 (講談社文庫)

  • 作者: 長浦 京
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/11/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 三代将軍・徳川家光の治世。江戸の街に出現した、凄腕の "辻斬り集団" は、2ヶ月で120人を超える犠牲者を出していた。その首魁は元津藩士の赤迫雅峰(あかさこ・まさみね)。
 老中・松平伊豆守信綱によって結成された "掃討使" も彼らには全く歯が立たない。そこで伊豆守は長崎から若き旗本・小留間逸次郎(こるま・いつじろう)を召喚、この凶悪テロ集団の殲滅を命じる・・・


 寛永16年(1639年)、三代将軍・家光の治世。隅田川河畔に現れた謎の浪人は瞬く間に青年武士3人を含む5人を殺害する。この日から、江戸市中に殺戮の嵐が吹き荒れる。
 2ヶ月の間に120人を超える人間が犠牲となり、町奉行所の捜査でも下手人は不明。そんなとき、老中・松平伊豆守の屋敷に文が投げ込まれた。
 送り主の名は元津藩士・赤迫雅峰。一連の事件は自分を含む6人の浪人によるものだとの犯行声明だった。

 赤迫は秀吉の朝鮮出兵に16歳で初陣、戦闘中に行方不明になるも2日後に敵の首を16人分持って生還、大阪夏の陣では、大阪城内に突入して女子どもを容赦なく惨殺。
 太平の世になっても行状は収まらず、刃傷沙汰で多くの人命を奪ってきた。ついには斬首が決まるが、古刹の住職が引き取りを申し出、寺で蟄居の身に。
 しかしその17年後、寺の僧8人を斬り殺して消息を絶っていた。それが今、江戸の街に現れたのだ。

 伊豆守は腕に覚えの旗本たちを招集し、"掃討使" を結成する。伊豆守は彼らを前にして告げる。
「心せよ。これは江戸市中にて行われる合戦である!」

 しかし、期待の掃討使たちも赤迫たちには全く歯が立たず、全滅してしまう。その間にも赤迫一味は大名屋敷を次々と襲撃、嫡男を拉致していく。
 事ここに至り、伊豆守は旧知の旗本・小留間逸次郎を江戸へ呼び寄せる。

 逸次郎は3700石の旗本・小留間家の次男として生まれた。幼少時より武芸の才に優れ、槍・刀・弓・馬の4つすべてが "逸品" とされたことから "四逸" の二つ名を持った。
 14歳の時に16歳の相手から真剣での勝負を挑まれ、あっさり勝つが相手は死亡。はじめての人殺しを経験する。
 その後、父が奉行として赴任している先へ出され、そこで数々の "汚れ仕事" を処理するようになる。
 やがて島原の乱が勃発。参戦した逸次郎は総大将・松平伊豆守の指揮の下、一揆軍が立て籠もる原城内へ突入、百姓浪人はもちろん、女子どもまで容赦なく突き殺す。そして、その掃討戦の中で強い酩酊感を覚えてしまう。彼もまた死に魅入られてしまったのだ・・・

 このときの逸次郎の "獅子奮迅の働き" を覚えていた伊豆守によって、赤迫一味を殲滅する切り札として江戸へ呼び寄せられたのだ。


 欲望のままに殺戮を繰り返す赤迫一味は本書の中では "絶対悪" として描かれる。しかし彼と対決する逸次郎もまた "悪" なのだ。
 本書で描かれる戦いは "悪と悪" の激突。伊豆守の狙いは、"毒を以て毒を制する" ことにある。

 だから彼らの間に "正々堂々の戦い" など存在しない。逸次郎と赤迫一味の戦いでは、緒戦から火薬玉が爆発し毒を塗った吹き矢が飛び交う。
 戦いでは結果がすべて。ゆえに "目的は手段を正当化する"。だから戦場に罠を仕掛けることさえ当たり前のように行われる。どちらが先に相手の息の根を止めるか。まさに 非道 vs 外道 の戦いだ。

 6人の超人的な手練れ集団を向こうに回し、逸次郎は苦戦する。浪人を集め、その中から使える腕をもつ30人を選び、さらにその中の精鋭4人を "馬廻り"(親衛隊) とし、自ら率いて戦いに臨むが、総合力での敵の優位は動かない。

 もとより自らの生還など期待していない。それでも逸次郎は死闘を乗り越え、1人また1人と倒していく。満身創痍の身となりながら、首魁・赤迫を討ち果たすべく、ひたすら戦いに身を投じてゆく・・・


 主役となる2人以外にも魅力的なサブキャラがきら星のごとく登場する。
 赤迫以外の辻斬り軍団も、理性のタガが外れた奴ばかり。対する逸次郎の馬廻り4人組も一筋縄ではいかない曲者が揃ってる。さらに戦いには直接関わらないが、諜報活動や補給を司る後方支援隊にもユニークなキャラがたくさん。

 いちいち紹介しているとキリがないので1人だけ。逸次郎の槍持(やりもち)をしている鎌平(かまへい)という男。
 彼自身も武術の達人だが、戦闘に於いては逸次郎の補佐に徹する。逸次郎も鎌平に背中を預けることで存分に戦える。主従一体とはまさに彼らのこと。逸次郎の危機を何度も救い、最後まで運命をともにする。
 彼こそ、本作における "隠れMVP" だろう。


 本作は第6回小説現代長編新人賞を受賞した、作者のデビュー作。
 この次作が、今夏映画化された『リボルバー・リリー』だ。壮絶なアクション描写は、すでに処女作から確立していたのだね。



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島津戦記 (一)・(二) [読書・歴史/時代小説]


島津戦記(一)(新潮文庫nex)

島津戦記(一)(新潮文庫nex)

  • 作者: 新城カズマ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/12/08



島津戦記(二) (新潮文庫nex)

島津戦記(二) (新潮文庫nex)

  • 作者: カズマ, 新城
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/11/29

評価:★★☆


 戦国時代の薩摩国を支配する島津家に生まれた四兄弟(義久、義弘、歳久、家久)の活躍を描いていく。


 物語は桶狭間の戦いから遡ること18年、天文11年(1542年)に始まる。戦国時代の真っ只中の日本で、最南端という場所にありながら、世界につながる海に臨む薩摩国。
 火縄銃の伝来、宣教師ザビエルの渡来もこの時期。その後の日本を大きく変える出来事が島津から始まっているし、物語中でも大きく取り上げられている。

 序盤は主に次男・義弘、三男・歳久の視点から描かれる。祖父・日新斎から受け継いだ「天下静謐」の大義、それを実現するべく明の巨大帆船の復活を夢見る兄弟たち。

 戦国時代といえばどうしても信長・秀吉・家康の活躍、つまり西は畿内、東は関東あたりが舞台になることが多い。薩摩は今までの物語要素(室町幕府や三英傑)からは遠い場所で、特に私みたいに関東の人間からはなじみが薄い。

 そのせいか、本書に登場する薩摩は、いままで語られてきた戦国時代の雰囲気とはいささか異なる。流れ着いた異国の姫を桜島に匿っていたり、元服の儀式がかなり異様だったり。誤解を恐れずにいえば、ファンタジーにおける異世界みたいな印象を受ける。
 作者はSF小説『サマー/タイム/トラベラー』で第37回星雲賞を受賞している人。本書が戦国歴史小説としてはひと味違う理由も、そのあたりにありそう。

 もちろん、九州にあっても時代の変化とは無縁ではいられない。薩摩と並行して畿内での織田信長の行動なども描かれる。面白いと思ったのは、戦国時代の某有名武将が、身分を偽って薩摩に侵入していたりする。このあたりは、今後の展開の伏線になるのだろう。

 評価の星が少ないのは、「島津 "戦記"」と謳いながら、島津家の合戦シーンがかなり少ないこと。これから島津家の九州統一が始まるのだろうが、そのとっかかりまでしか描かれていない。ここで終わりならタイトル詐欺になってしまう。

 思うに、本作は大河シリーズの序盤部分なのだろう。どうせなら少なくとも関ヶ原の戦いに臨む島津家までは描いてほしいし、それには最低でもこの10倍くらいの分量が必要になりそう。でもそこまで描いてこそ "戦記" って名乗れると思う。
 四兄弟それぞれのキャラも上手く書き分けられてる。みな優秀なのだが、それぞれ得意分野が異なるみたい。本書の中ではまだ若いので、個別に活躍する場面が本格的に描かれるのはまだ先になりそう。
 残念ながら現時点で続巻は出ていないようだ。期待してるんだけどね。



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黄砂の籠城 [読書・歴史/時代小説]


黄砂の籠城(上) (講談社文庫)

黄砂の籠城(上) (講談社文庫)

  • 作者: 松岡圭祐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/04/14
黄砂の籠城(下) (講談社文庫)

黄砂の籠城(下) (講談社文庫)

  • 作者: 松岡圭祐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/04/14

評価:★★★★☆


 西暦1900年(明治33年)、中国大陸・清朝末期。外国人排斥を叫ぶ武装集団・義和団が各地で暴徒化していた。やがて義和団は北京へも侵攻、「東交民巷」と呼ばれる外国公使館区域を包囲してしまう。
 寄り合い所帯の各国軍をまとめ、2ヶ月にわたる籠城戦を指揮した日本の駐在武官・柴五郎陸軍中佐の活躍を描く。


 西欧列強の進出に反発し、「扶清滅洋」(ふしんめつよう:清を助け、西洋を滅ぼせ)を叫ぶ義和団が中国大陸各地を席巻していた。
 やがて彼らは北京へも侵攻、各国公使館が集中する「東交民巷」地区を包囲してしまう。そこに居住していた外国人は、日本人を含めて900人あまり、さらに義和団によって排斥された中国人クリスチャン約3000人が逃げ込んでいた。

 20万人にのぼる包囲軍に対し、各国公使館の戦力は護衛兵が主体で、民間人から募った義勇兵を合わせてもわずか480名ほど。
 さらに各国の思惑もあって足並みが揃わない。そんな寄り合い所帯を任されることになったのが日本の駐在武官・柴五郎陸軍中佐だった。


 物語の視点人物は櫻井隆一、24歳。階級は伍長。下士官の中でも最下位である。しかし、中国語やロシア語をはじめ、数カ国語に堪能なことから柴中佐の側近として抜擢され、行動を共にすることになる。

 物語の序盤はもっぱら櫻井の目を通じた柴の描写が主となる。柴に対する周囲の評価は必ずしも高くなかった。
 まず、出身が会津藩士であったこと。明治維新においては逆賊だったわけで、明治も30年を超えようという時期にあっても、いまだ出自による偏見は大きかったようだ。
 また、各国首脳の会議においても自ら意見を述べることなく、大勢に流されているように見え、櫻井もそこに不満を覚えていく。

 しかし物語が進むにつれて、柴が(当時としては)類い希な情報収集能力とその活用力を示すことで、次第に総軍の指揮権を任されるようになっていく。これが序盤の読みどころだろう。

 中盤からは包囲軍の攻撃が始まり、籠城側も応戦する。柴の指揮の下、果敢に戦うのだが如何せん多勢に無勢、次第に包囲は縮まっていく。
 作中の要所要所には「東交民巷」における勢力地図が載っていて、じりじりと籠城側が窮地に陥っていく様子が示される。

 もちろん外部との連絡も絶たれ、北京へ向かっているはずの各国の援軍の動向も全く分からなくなり(たまに入ってくる知らせは悲観的なものばかり)、絶望的な状況が続いていく・・・


 基本的には実話を基にしている(柴中佐は実在の人物)のだが、フィクションの部分も多そうだ。
 視点人物の櫻井や、彼を取り巻く人物たちはおそらく創作だろうと思う。彼の戦友や上官たち、彼と関わりを持つ他国の兵士たちも。
 中でも、ロシア人兵士ラヴロフが印象的だ。初登場時は日本人を敵視する、典型的な "嫌な奴" で、櫻井とは角突き合わせるのだが、籠城戦で共に戦う内に関係が変化していく。

 終盤では、包囲軍が占領地域内に巨大な砲台を築き、その砲撃によって籠城側は多大な被害を受けてしまう。さらに射程距離の長さから、たとえ援軍が来ても砲撃によって足止めされて北京へ接近できないことが予想された。

 そこで籠城側は、砲台の破壊を目的として少人数の部隊を向かわせることになる。このあたりはまんま「ナバロンの要塞」だったりする。そして、決死隊には櫻井とラヴロフも加わることに。
 砲台攻略戦におけるラヴロフの奮闘ぶり、そして櫻井との間に生まれた絆の描写はベタだけど感動的だ。
 もっとも、この4年後には日露戦争が始まってしまうのだが・・・

 登場人物がほとんど男ばかりなのだけど、数は少ないが女性キャラも存在感を示している。立ち位置的にメインヒロインとなるのは、関本一等書記官の娘・千代、17歳である。
 冒頭で義和団の襲撃によって母親を殺されるが、彼女は辛くも逃れる。そして収容された病院で櫻井と知り合うことになる。

 激戦の続く中、2人は時たま言葉を交わすだけで、恋愛的な描写はほとんどない(ラスト近くにちょっぴりだけある)。まあそんなことにかまける暇はない状況なのだけどね。
 そのあたりはちょっと不満に感じるが、2人のその後がどうなるかは読者の想像に任せる、ということなのだろう。当時の情勢を考えると前途は多難そうだけど。



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麒麟児 [読書・歴史/時代小説]


麒麟児 (角川文庫)

麒麟児 (角川文庫)

  • 作者: 冲方 丁
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/11/20
評価:★★★

 幕末の動乱のさなか、江戸の街を巡る攻防を勝海舟の視点で描いた物語。

 慶応4年(1868年)、西郷隆盛率いる5万の官軍は江戸の街に迫っていた。崩壊寸前の幕府にとどめを刺すためだ。
 対する幕府は勝海舟を担ぎ出し、官軍との和平交渉を任せることに。勝は戦乱回避を最優先に、西郷との対面に臨むのだが・・・


 歴史に疎い私でも知ってるくらい、江戸城を巡る勝と西郷の物語は、激動の連続である幕末の中でも有名なエピソード。

  逆に言うと、起こったイベントが多すぎて、その背景も時系列もよく分からない、ってのが幕末という時代だと私は認識している。
 幕末を扱った大河ドラマも観たことがあるけど、どうにも興味が続かなくて最後まで観たことがない(笑)。

 私以外にもそういう人は多いのかもしれない。だって、本書の序盤には、勝が維新の流れというか背景を説明するシーンがあるんだもの。

 15代将軍・徳川慶喜の命を受け、官軍との交渉に向かうという幕臣・山岡鉄太郎に「そもそも、なぜ倒幕派は幕府を倒そうとするのか」と訊かれて、その理由を滔々と語ってみせるのだ。
 さすがはストーリーテラーの冲方丁だけあって、この下りはするすると頭に入ってきて、非常に良く理解できた。そうか、明治維新ってこういうふうに進んできたのか・・・。
 ただ、本書を読み終わって数時間後には、綺麗に頭の中から抜けていたのには困ったが(おいおい)。


 和平交渉が決裂したときは、即座に江戸の街に火を放つ ”焦土戦術” をちらつかせる勝。
 戦乱を避けたいのは同じだが、幕府の要求を聞き入れ過ぎると将兵たちの不満が高まり、制御不能になる危険性もあるので安易に妥協できない西郷。

 二人に共通するのは、相手だけではなく自分の身内すら ”敵” であるということ。

 旧態依然とした体質で既得権益にしがみつきたい幕臣たちは、これまで勝が成し遂げてきたことを否定したり潰したり。果ては将軍慶喜自らが、勝の功績を引っくり返したり。
 そのたびに「やってられるか」と辞表を叩きつけるのだが、幕府のほうは窮地に追い込まれるたびに勝を引っ張り出しにくる。
 かといって全権を与えるのかというとそんなことはなく、”手足を縛られた状態で跳ぶ” ことを強要するような無理難題が命じられる。

 常人だったらとっくの昔に愛想を尽かすような相手に、文句を言いつつも最後までつきあい、幕府を ”看取る”。
 まあ、そんな人物だから偉人として名が残るのだろうけど。

 戦っているときに背中から弾が飛んでくるのは西郷の方も大差なく、結局、交渉で対峙している勝と西郷の二人こそが、お互いの ”最大の理解者” であり、心情的には ”最大の味方” である、というなんとも皮肉な状況が描かれていく。


 史実として、江戸の街は戦禍を免れ、江戸城も無事に開城されるのだが、物語はその後の西郷と勝の物語も綴っていく。
 幕末の動乱を通じて、西郷のことを ”かけがえのない友” とまで感じるようになっていた勝にとって、西南戦争は痛恨の出来事だったろう。
 西郷に対する勝の心情を描いたエピローグが感動的だ。



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剣樹抄 [読書・歴史/時代小説]


剣樹抄 (文春文庫)

剣樹抄 (文春文庫)

  • 作者: 冲方 丁
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/10/06
評価:★★★

 時代は、徳川家康が江戸に幕府を開いて半世紀経った頃。

 主人公・了助(りょうすけ)は幼い頃、無宿人だった父を旗本奴に殺されてしまう。旗本奴とは、将軍家に仕える青年武士の中で、やさぐれた者たちのこと。現代で言うところのチンピラみたいなものか。

 父の仲間だった三吉に引き取られたが、その三吉も、火災で喪ってしまう。明暦3年(1657年)に江戸の町の大半を灰燼に変えた大火災・「明暦の大火」だ。以後、芥(あくた)を運ぶ仕事をしながら我流で木剣の修行をしている。

 もう一人の主人公は、水戸藩第二代藩主・水戸光圀。
 父・頼綱から隠密組織の立ち上げを命じられた光圀は、親を喪って幕府に保護された子どもたちの中で、特殊な技能を持つ者を選抜し「拾人衆(じゅうにんしゅう)」を結成する。

 みざるの巳助。カメラのような記憶力を持ち、1度見たものは絵として完全に再現することができる。
 いわざるの鳩。1度聞いた相手の声を、完璧に真似ることができる少女。
 きかざるの亀一。並外れた聴力を持ち、遠くの声や会話を聞き、覚えることができる。

 「拾人衆」の設立目的は、火付け(放火犯)の摘発。明暦の大火をはじめ、火事は江戸にとって極めて重大な脅威であり、放火は重罪なのだ。

 火付けの容疑者・秋山官兵衛を追っていた光圀だったが、その官兵衛が一人の少年に倒されてしまう現場に出くわす。その少年こそ了助だった。

 光圀によってスカウトされた了助は「拾人衆」のメンバーとなり、様々な事件に関わっていく、というのが本書のあらまし。
 本作はシリーズ化されていて、次巻以降も刊行中だ。


 巻末の解説では、光圀と「拾人衆」を ”明智小五郎と少年探偵団” になぞらえているが、あまりそんな感じはしないかな。なんといっても「拾人衆」は子どもの集団なので、凶悪犯と対峙する事件解決の場に至ると、どうしても大人たちの陰に隠れがちになってしまう。

 もっとも、二十面相みたいにシリーズ共通の敵も登場するので、あながち間違いでもないかも知れないが。

 この作品に登場する光圀は、”ある秘密” を抱えていて、これがシリーズの今後の展開にも関わってきそうだ。
 了助に思いを寄せていそうなお鳩ちゃんも可愛い。このあたりの進展も楽しみだ。


 作者には、10年前に『光圀伝』という長編があるのだけど、そちらの光圀像ともほぼ同じキャラとして描かれているので、そちらからのスピンオフ、あるいは外伝的位置づけとしても楽しむことができる。

 個人的に嬉しかったのは、光圀の正室・泰姫と再会できたこと。『光圀伝』の中でもピカイチに魅力的かつ印象に残るキャラだったので、彼女が登場したシーンでは思わず涙が出てしまったよ(笑)。
 『光圀伝』の方も、未読の方がいたら、ぜひ一読をお勧めする。


 本作はNHKでドラマ化されてる。私は観てないんだけど(おいおい)。
 若き光圀を演じるのは山本耕史。大河ドラマにも出てるね。堀北真希の旦那でもある。泰姫役は松本穂香。『光圀伝』では美人薄命キャラだったけど、こちらはどんなふうに演じてるんでしょうね。
 宿敵となる錦氷ノ介は加藤シゲアキ、水戸家家臣役で西村まさ彦、他にも舘ひろし、石坂浩二、北乃きい、中島朋子など。
 ちなみに了助とお鳩ちゃんはそれぞれ13歳と11歳の子役の方が演じてるみたい。



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秀吉を討て [読書・歴史/時代小説]

秀吉を討て (角川文庫)

秀吉を討て (角川文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/01/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

時代は天正12年。
本能寺の変で織田信長が討たれて2年、
秀吉は天下取りに邁進していた。

未だ日本各地で戦いが続いている中、紀州は特異な状況にあった。
一国を統べるような戦国大名は存在せず、複数の寺社勢力や土豪たちの
いわば ”連合国家” ともいうべき状態で、彼らの集団指導体制は
戦国時代の中にあっては民主的で、一種の ”理想郷” でもあった。
しかしその紀州にも、遠からず秀吉は侵略の手を伸ばしてくるだろう。

主人公・林空(りんくう)は紀州根来寺に使える下級武士だが、
実は根来忍者の総帥・隠形鬼(おんぎょうき)のもとで
厳しい忍術の修行を積み、さらには鉄砲術まで身につけていた。
その林空に隠形鬼から密命が下る。「秀吉を暗殺せよ」と。

林空はベテラン忍者の叡海(えいかい)、親友・俊念(しゅんねん)とともに
小牧・長久手の戦いへ向かう秀吉を鉄砲で狙撃することになる。

隠形鬼の ”秀吉暗殺チーム” は林空たちだけでなく、
“二の矢”、”三の矢”・・・と ”別働隊” が用意されており、
いよいよとなったら隠形鬼自ら暗殺に加わる手はずだったのだが・・・

もちろん、秀吉も暗殺対策は万全だ。
山中長俊率いる甲賀忍者が周囲を固めている。

林空たち根来忍者と甲賀忍者の戦いが前半の読みどころ。
体術の限りを尽くした忍者同士の攻防は、
白土三平の『カムイ外伝』さながらの白熱ぶり。
隠形鬼の放つ秘技は、もう忍術の域を超えて
山田風太郎の『忍法帖』の世界だ。

後半に入ると、いよいよ秀吉の紀州侵攻が始まる。
各地の寺社や城は次々と落ち、最後に残った抵抗勢力は
和歌山の太田城に立て籠もることになる。
林空もまたその中にあって、壮絶な戦いに身を投じていく・・・

 この太田城を巡る攻防は、「備中高松城の水攻め」、
 「武蔵忍城の水攻め」(『のぼうの城』で描かれた)とならんで
 「日本三大水攻め」として有名なのだそうだ。

林空はもちろんだが、脇を固めるキャラも魅力的。
幼馴染みでかけがえのない相棒・俊念、頼りになる先輩・叡海、
当初は林空のライバルであったが、
戦いを通じて固い友情で結ばれることになる蟠竜(ばんりゅう)、
林空を ”男” にしてくれた遊女・かごめ、
太田城で共に戦うことになる可憐な少女・若菜など、
さながら綺羅星のごとく、ここには書ききれないくらいだ。

秀吉の天下統一は史実なので、林空たちの戦いも
最終的には敗北に終わることはわかっているのだが、
自らの ”理想の国” を守ろうと戦い続ける彼ら彼女らを
最後まで応援せずにはいられない。


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戦の国 [読書・歴史/時代小説]

戦の国 (講談社文庫)

戦の国 (講談社文庫)

  • 作者: 冲方丁
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

私は普段、歴史小説ってあんまり読まないんだけど、
今年の大河ドラマ『麒麟がくる』が気に入っていて
戦国時代の話を読んでみようと思ったことと、
作者が冲方丁だったので、手に取ってみた。

SFもミステリも書くし、小説だけでなく
脚本まで書いてる。
なんとも多才な人だなあと思う。

さて、本書は講談社文庫の歴史アンソロジー企画である
「決戦!」シリーズのために書かれた短篇を集めたもの。
6つの短篇で6人の戦国武将を描いている。

「覇舞謡(はぶよう)」
桶狭間の戦いを信長視点で描く。
信長と言えば、「革新的な天才」とか「敵を根絶やしにする魔王」とかの
イメージで語られてきたことが多いが、冲方丁もまた新たな解釈を見せる。
信長の生涯を描いた大長編の一部をカットして見せたような作品で
ぜひ冲方版「織田信長」全編が読みたいなあ。

「五宝の矛」
上杉謙信(長尾景虎)15歳の初陣から、その死までを描く。
その戦の天才ぶりもさりながら、21歳年上の兄・晴景との絆もいい。
阿吽の呼吸で二人が越後を平定していくさまが快い。
49年の生涯をダイジェスト版で(それもおそろしく高密度で)
見せられたような思いがする。こちらも長編に書き伸ばしてもらって
冲方版の「上杉謙信」として読みたいなあ。

「純白(しろ)き鬼札」
主人公は明智光秀。彼が謀反を起こした理由については
さまざまな説があるのだが、本作で冲方丁が示す ”理由” は
おそらく今までになかったものではないか。それくらい意外なもの。
史実としてこの説が成立するかどうかは別として、
この作品内の信長と光秀となら、十分な説得力があると思う。

「燃ゆる病葉(わくらば)」
死病に冒された武将として有名な大谷吉継が主人公。
視力を失い歩くこともできない吉継は、家康との決戦に反対していたが
その彼が関ヶ原で西軍に与した理由、そして
小早川秀秋の裏切りを予測しながらも支えきれずに散るまでを描く。

「深紅の米」
天下分け目の関ヶ原で西軍を裏切り、東軍勝利に一役買った小早川秀秋。
しかし後世の評価は、優柔不断で愚かな男だとか
形勢を見ていた日和見で卑怯な奴とか散々なものだろう。
冲方丁は秀秋の背景として、秀吉の身内として重用されたが
後に関白秀次の死を経験し、また朝鮮出兵へ従軍したことも描き、
それらによる彼独自の価値観の形成を追っていくことにより、
彼の関ヶ原での行動に納得できる理由付けをしてみせる。

「黄金児」
主人公は豊臣秀頼。世間一般の評価は淀君に過保護に育てられ、
自己主張のできなかったマザコン男、みたいなイメージがあると思う。
(私は少なからずそう思っていた。)
逆に、実は英邁で武将としての器量も人並み以上にあったのに
それを振るう機会が与えられなかった、的に描かれることも
少なからずあるようだ。実際そんな作品も読んだことがある。
しかしここで冲方丁が示すのはそのどちらでもない。
生まれながらにして巨大な城と、莫大な黄金と、
数多の家来にかしずかれるという、
およそ人間離れした環境に生まれたら、どんな成長を遂げるか。
本作の示す秀頼像は、私がいままで見てきた読んできたどんな秀頼よりも
魅力的だと思うが、同時にいちばん哀しいものかも知れない。


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大江戸ミッション・インポッシブル 顔役を消せ/幽霊船を奪え [読書・歴史/時代小説]


大江戸ミッション・インポッシブル 顔役を消せ (講談社文庫)

大江戸ミッション・インポッシブル 顔役を消せ (講談社文庫)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/11/14
  • メディア: 文庫
大江戸ミッション・インポッシブル 幽霊船を奪え (講談社文庫)

大江戸ミッション・インポッシブル 幽霊船を奪え (講談社文庫)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/12/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

二巻本でタイトルは別だけど、内容的には連続しているので
実質的には前後編となっている。

「ミッション・インポッシブル」というタイトルがついてるけど
同題のTVドラマや映画みたいな雰囲気はあまりないような。
”人間離れした技量を持つ殺し屋たちが抗争する伝奇アクション”
といったところが実態に近いと思う。

 こう書くと山田風太郎の忍法帖シリーズみたいだが
 さすがにあそこまで突拍子もない魔人妖人の類いは出てこない。
 いちおう、どのキャラも人間の範疇には含まれる。たぶん(笑)。


時は幕末、天保年間。
明治維新のおよそ30年前くらいか。

主人公・川瀬若菜は南町奉行所の同心なのだが
何をやらせてもまともに務まらず、
牢屋見廻りという最底辺の役職に納まっている。

ある日、若菜は筆頭与力・東井庄左衛門(とうい・しょうざえもん)の命で
吉原の格式高い遊女屋「角海老」の
人気花魁・姫雪太夫(ひめゆきだゆう)に会いに行く。

姫雪太夫が、英国捕鯨船の船長・ヘイデンから贈られた指輪が
何者かに盗まれたのだという。

指輪の行方を追う若菜だが、彼を襲う者たちが現れる。

実は若菜は、江戸の街のアンダーグラウンドを二分する
泥棒寄合(どろぼうよりあい)、つまり犯罪者組織のひとつである、
川衆(かわしゅう)の棟梁という素顔を持っていた。

指輪事件には、敵対する陸衆(おかしゅう)が関わっているらしい。

若菜は、太夫が指輪を盗まれたと思われるお座敷に出ていた
幇間(たいこもち)の乱亭七八(らんてい・しっぱち)に目をつけ、
彼の動向を探るのだが・・・


物語が進むにつれて、敵は陸衆のみならず、
幕府転覆を謀る薩摩藩が黒幕にいることが分かってくる。

「顔役を消せ」では、陸衆の最高幹部を倒そうとする
若菜たちの川衆の活躍が描かれ、
「幽霊船を追え」では、新たな敵・”どくろ大名” こと
土黯長門守(つちくろ・ながとのかみ)が登場し、
英国輸送船が江戸へ密かに持ち込もうとする武器弾薬を巡る、
陸衆と川衆の決戦が描かれる。


山田作品らしく、登場人物はみんなユニークだ。

特に主人公・若菜の設定が面白い。
序盤では年齢についての描写がなかったので
てっきり30~40代くらいかなあと思ってたら、
読んでるうちに20代半ばくらいと分かってきた。

実は幼少時に神隠しに遭っており、その間の記憶を失っているが
物語が進むうちに次第にそのときのことを思い出していく。
やがて、姫雪太夫や土黯長門守とも意外な因縁で結ばれていたことも。

ヒーローには珍しく、無双をするほど剣も強くない(笑)。
いや、一般基準からすれば十分に強いのだけど、それを上回るくらい
敵も味方も人間離れした超常の戦闘力を持った連中なのだ。
でもまあ、強すぎないあたりがご愛嬌とも言える。
読者は彼に入れ込んで読むだろう。

殺しの ”かま”、七化けのおこう、怪力の ”丑(うし)” など
サブキャラも多彩だが、なかでも幇間の乱亭七八は意外にも
レギュラーキャラ(笑)になって、終盤まで顔を見せる。

「仮面ライダー」におけるショッカーの戦闘員みたいに(笑)
戦闘シーンでわらわらと湧いて出る(おいおい)、
”蘇鉄喰い”(薩摩藩の武士)たちも、場を盛り上げる存在だ。


小難しい理屈は抜きで、エンターテインメントに徹したつくり。
山田正紀がその気になれば、こんなのも書けるんだよねぇ。
楽しい読書の時間を過ごせました。

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明治乙女物語 [読書・歴史/時代小説]


明治乙女物語 (文春文庫)

明治乙女物語 (文春文庫)

  • 作者: 滝沢 志郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/06/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

2017年、第24回松本清張賞受賞作。

舞台は文明開化の東京。時代は明治21年(1888年)。

当時、女子にとっては最高学府であったのが、
東京師範学校女子部(お茶の水女子大学の前身)。
高等師範学科3年の野原咲(のはら・さき)、
同じく2年の駒井夏(こまい・なつ)の二人が主人公となる。

特に咲さんは成績優秀、才気煥発、さらに眉目秀麗と
「女子教育の理想形」と評されるほどの完璧超人(笑)。

この年の秋、文部大臣・森有礼は師範学校の講堂で、
学生たちを集めた舞踏会(ダンスパーティー)を主催する。

咲と夏をはじめとする女子部の学生たちも参加したのだが、
校庭の藤棚で爆発物騒ぎが起こり、さらには火事まで発生する。

一方、外務省は11月3日の天長節(明治天皇の誕生日)に、
皇族、大臣、そして各国の外交官等を招いた一大夜会を開こうとしていた。
場所はもちろん鹿鳴館。

しかし、爆弾騒ぎなどから不穏な噂が流れ始め、
そのせいか出席者(特に女性)の集まりが捗々しくない。
女性客が減ってしまっては、ダンスの相手が足りなくなってしまう。

そこで、足りない踊り手を補うべく師範学校女子部の学生たちも
夜会へ招かれることになったのだが・・・


まずは、登場するお嬢さん方が元気だ。

成績優秀で、ある程度の資産があって、かつ親の理解がなければ、
女子が勉学の道に進むことができなかった時代。
そんな少女たちを、日本を背負う人材にするために国家が後押しする。

彼女たちもそういう期待は十分に承知で、
意欲と才気にあふれた勉学生活を送っている。
とは言っても年頃の女の子であるから、ガールズトークも盛ん(笑)。

なかでも咲と夏は、男子に伍して生きていく決意を胸にしている。

そんな女性に対して、世間の(特に男性からの)風当たりは強い。
「女に学問は必要ない」という価値観も根強いし
「早く嫁に行け」という親類縁者からのプレッシャーもあるし、
舞踏会では男性客からのセクハラも受けたりする。

しかしそんなものに負けない、彼女らの気丈さも綴られていく。

陸軍大臣大山巌の夫人・捨松とか
その実姉で師範学校女子部の寄宿舎舎監の山川二葉(ふたば)とか
実在の女性も登場するが、単なる顔見せでなく
女性が自らの意思を持って生きていくのが難しい時代での
咲たちの ”先輩” としても描かれている。

物語のもう一つの流れとして、爆弾騒ぎを引き起こしている一団がある。
謎めいた人力車夫の久蔵(きゅうぞう)にまつわるストーリーにも、
明治の時代ならではの女性の悲哀がある。

終盤の鹿鳴館における舞踏会のサスペンスはあるものの、
全体としてミステリ的な要素は希薄。
才媛たちの華麗なる冒険探偵譚を期待して読むと当てが外れるかな。

咲と夏(と彼女の学友たち)の前に、旧弊な価値観の壁が立ちはだかる。
男性から面と向かって侮られたり貶されたりする場面もある。
(男の私にはいささか居心地が悪いが)
そんなものに負けず挫けず、奮闘していく彼女たちの姿を
素直に応援するのが正しい読み方なのだろう。

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炎の放浪者 [読書・歴史/時代小説]


炎の放浪者 (講談社文庫)

炎の放浪者 (講談社文庫)

  • 作者: 神山 裕右
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

物語の舞台は1307年のフランス。

パリで鍛冶屋を営むジェラールは、
妻・マルグリッドとともに平穏に暮らしていた。

そこへ現れたのは王宮顧問官の密偵を務めるマルク。

9日前、フランス王フィリップ4世は、
神殿(テンプル)騎士団の本拠地を急襲、
幹部たちを逮捕・拘束したが、1人の騎士が脱出、逃走したという。

マルクはジェラールに、この逃走した騎士を捕らえるよう命じる。
マルグリッドを人質に取られたジェラールに抗うすべはなく
お伴兼見張り役の従騎士ピエールとともに追跡の旅に出る。

しかし、逃走した騎士アンドレを追ううちに、ジェラールは
これが単なる人捜しではないことに気づいていく。

アンドレの行く先々で現れる、暗号が刻まれた金貨にはじまり、
やがて明らかになる、キリストにまつわる聖遺物の存在。
ジェラールは否応なく、巨大な陰謀に巻き込まれていてしまう・・・


そもそも、王宮が一介の鍛冶屋に対してこんなことを頼むはずもなく、
アンドレを追うストーリーと並行して、
パリに流れ着くまでのジェラールの数奇な前半生が語られる。

読者は、彼の育ってきた過酷な状況、そしてパリで
マルグリッドの父親に拾われてからの運命の変転を知ると
なおさら、彼への感情移入が深まるだろう。

彼は幼少期から剣の手ほどきを受けてきたため、かなりの腕前なのだが、
アンドレはジェラールと同等以上の手練れ。
追跡劇のさなか、二人は何度か剣を交えるのだが決着はつかず
いつしか互いに相手の技量を認め合うような関係に。
この二人の変化も読みどころの一つ。

上にも書いたが、宝探しの要素もあり、
従騎士ピエール、巡礼の娘ベアトリス、ユダヤ教の導師エズラなど
サブキャラにもそれぞれ物語があり、
フランス王宮の巡らす巨大な企みありと盛りだくさん。

文庫で460ページとちょい厚めだが、
最後までハラハラしながらページをめくることなるだろう。

これでラストが××××ならば言うことはないんだが・・・
本来なら★4つつけるところなんだが、そのせいで★半分減。

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