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Y駅発深夜バス [読書・ミステリ]


Y駅発深夜バス (創元推理文庫)

Y駅発深夜バス (創元推理文庫)

  • 作者: 青木 知己
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/05/19
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 光文社の公募企画〈新・本格推理〉に入選した表題作を含む5編の短編を収録。


「Y駅発深夜バス」
 本編は二部構成になっている。
【第一部】出版社勤務の坂本は、その日の打ち合わせが長引いて終電を逃してしまい、Y駅発の深夜バスを利用して自宅マンションに帰り着く。しかし翌朝、坂本は自分の乗ったバスが、運行されていないはずの "幻のバス" だったことを知る。
【第二部】その二年後。坂本の隣室に住む細谷貴之が人事異動によって引っ越していく。細谷の妻・陽子は二年前に五階の自宅ベランダから転落して死亡していた。それは坂本が "幻のバス" に乗った日だった。
 夕方、買い物を済ませた坂本は中年の男性から声を掛けられる。男は陽子の父と名乗り、"あの夜" の様子を訪ねてきた。問われるままに答える坂本。やがて男は "幻のバス" について驚くべき解釈を語り出す・・・
 作中で示されるいくつかの奇妙な謎が、終盤には綺麗に回収されて、緻密な犯行計画を暴き出す。


「猫矢来」
 中学1年の仲川里奈(なかがわ・りな)は、ダンス練習の帰りに同級生の岸辺が小学生をカツアゲしているところに出くわす。小学生を助けた里奈だが、翌日の学校で岸辺から嫌がらせを受けてしまう。そこを救ってくれたのは、クラスでも浮いている男子・碓井だった。
 中学生のラブコメっぽい展開に並行して、里奈の隣人の不審な行動が描かれ、終盤で一気に大騒動になっていく・・・
 意外と重いテーマを含んでいるんだけど、それを主役二人の明るさが救っている。探偵役の碓井くんが、ちょっとトボけているようで実は鋭く、気配り上手でとてもよくできた子。里奈ちゃんとの掛け合いも楽しい。このコンビの話、もっと読みたいなぁ。


「ミッシング・リンク」
 相庭浩一(あいば・こういち)、中西貴之(なかにし・たかゆき)、永野亜希子(ながの・あきこ)、太田美咲(おおた・みさき)、倉橋春菜(くらはし・はるな)の5人は大学の同級生だった。卒業して五年後、信州にある美咲の別荘に5人が集まることになった。
 実は浩一と美咲は、この集まりの場で結婚を発表するつもりだった。浩一、貴之、亜希子の3人が別荘に着いたとき、そこには美咲とその弟・稜(りょう)がいた。
 別荘の掃除やパーティーの買い出し等で忙しくしている中、浩一が用意してきた婚約指輪が何者かに盗まれてしまう。別荘にいた誰にも、それなりに動機があると思われた。
 探偵役となるのは、遅れてやってきた春奈。彼女は5人の証言を聞いて犯人を指摘する。各章には時刻が記載されていて、春菜は5分刻みで5人の行動を一覧表にまとめていく。
 これによって犯人は明らかになったかと思われたが、表の見方をひとひねり。ああこれで決着かと思いきや、さらにもうひとひねり。いやぁたいしたもの。


「九人病」
 旅行誌の編集者・和久井は、"誰も知らない秘湯" 取材のため、北海道の秘境・赤昨谷(あかさくだに)温泉へやってくる。バスも通らない芝勝(しばかつ)峠近くに、一軒だけあるボロ宿にたどりついた和久井。客などいないと思ったが、意外にも相部屋になってしまう。その相手は気象庁勤務だといい、不思議な体験を語り出す。
 数ヶ月前に芝勝峠のアメダスに不調があり、その調査に赴いたところ、地図にも載っていない小さな集落に辿り着いた。途中で怪我をしていたヒナタという若い女性を助け、彼女の家に泊まることに。しかしその家の離れには老婆が病で伏せっていた。
 ヒナタの父は語る。この集落には10年周期くらいで "九人病"(くにんびょう)という風土病が流行する。手足が壊死し、やがて脱落してしまうのだと云う。しかしなぜか罹患者が9人を数えるとそこで感染が止まるらしい・・・
 基本的にはホラーなのだが、九人病の感染に潜む規則性(意外と科学的な裏付けを伴う)から、恐るべき推理が導き出されていく。これは怖い。


「特急富士」
 ミステリ作家・間島弘樹(まじま・ひろき)は、ある短編で日本推理小説大賞を受賞することになった。しかしその作品のネタは、愛人のエッセイスト・日向沙耶(ひゅうが・さや)が書いた習作ミステリから盗用したものだった。沙耶がこれを知るのは時間の問題だ。
 間島は新米編集者・飯塚によってホテルにカンヅメにされたことをアリバイに利用して、寝台特急《富士》で大分に向かう沙耶を殺しに向かう。
 一方、飯塚も過去に沙耶に騙されて高額の慰謝料を払ったことがあり、彼女に対して殺意を抱いていた。彼もまたカンヅメにした間島をアリバイに利用し、沙耶を殺しに向かう。
 2人の男が、お互いをアリバイ作りに利用しながら1人の女を殺しにいくという "二重の倒叙もの" ともいうべき奇妙な状況がコミカルに描かれる。込み入った状況の決着のつけ方も見事だが、ラストの切れも鋭い。



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