2022年 読んだ本ベスト30 [読書全般]
ということで、年末恒例のランキング発表です。
毎回書いてますが、私 mojo の独断と偏見で決めてます。皆さんの評価と一致しない場合もあるかと思いますが、私の好みの問題ですので、石を投げたりせずに(笑)ご寛恕ください。
対象は、原則としてオリジナルのフィクション作品のみです。
今年読んだフィクション作品は201冊。総ページ数は文庫で7600ページあまり。一日あたり200ページちょっとくらい読んでた計算になりますね。
シリーズ作品や、文庫化に際しての分冊化などの場合は1つにまとめてしまったものもあります。悪しからずご容赦ください。
あと、挙げてある本の中にはまだ記事に書いてないものも含まれます。現時点で、読了したのにまだupしてない本が12冊ほどあります。1月中にはupを終える予定です。
それでは第1位~第10位まで。私の評価では1~7位までが星4つ半、8位以下は星4つです。
第1位 魔眼の匣の殺人 (今村昌弘) [創元推理文庫]
第2位 ノースライト (横山秀夫) [新潮文庫]
第3位 まほり 上下 (高田大介) [角川文庫]
第4位 隷王戦記 全3巻 (森山光太郎) [ハヤカワ文庫JA]
第5位 星砕きの娘 (松葉屋なつみ) [創元推理文庫]
第6位 ハケンアニメ! (辻村深月) [マガジンハウス文庫]
第7位 いつかの岸辺に跳ねていく (加納朋子) [幻冬舎文庫]
第8位 殺しへのライン (アンソニー・ホロヴィッツ) [創元推理文庫]
第9位 僕が愛したすべての君へ / 君を愛したひとりの僕へ
第10位 イマジン? (有川ひろ) [幻冬舎文庫]
つづいて第11位~第20位まで。評価はすべて星4つ。
第11位 カエルの小指 a murder of crows (道尾秀介) [講談社文庫]
第12位 コワルスキーの大冒険 クラッシャージョウ別巻3
第13位 風と行く者 -守り人外伝- (上橋菜穂子) [新潮文庫]
第14位 記憶の中の誘拐 赤い博物館 (大山誠一郎) [文春文庫]
第15位 魔偶の如き齎すもの (三津田信三) [講談社文庫]
第16位 ここから先は何もない (山田正紀) [河出文庫]
第17位 イスランの白琥珀 (乾石智子) [創元推理文庫]
第18位 天空の防疫要塞 (銅大) [ハヤカワ文庫JA]
第19位 黄昏のベルリン (連城三紀彦) [創元推理文庫]
第20位 いちばん初めにあった海 (加納朋子) [幻冬舎文庫]
つづいて第21位~第30位まで。こちらもすべて星4つ。
第21位 陰陽少女 (古野まほろ) [講談社文庫]
第22位 Rのつく月は気をつけよう 賢者のグラス (石持浅海) [祥伝社文庫]
第23位 早朝始発の殺風景 (青崎有吾) [集英社文庫]
第24位 新任刑事 上下 (古野まほろ) [新潮文庫]
第25位 新任巡査 上下 (古野まほろ) [新潮文庫]
第26位 巨大幽霊マンモス事件 (二階堂黎人) [講談社文庫]
第27位 聖エセルドレダ女学院の殺人 (ジュリー・ベリー) [創元推理文庫]
第28位 飢え渇く神の地 (鴇澤亜妃子) [創元推理文庫]
第29位 或るエジプト十字架の謎 (柄刀一) [光文社文庫]
第30位 月の落とし子 (穂波了) [ハヤカワ文庫JA]
ベスト30は以上なのですが、例年31~60位まで紹介しているので以下に掲げます。ここまでくると順位は余り意味がないので読了順に載せます。
<1月>
<2月>
<3月>
<4月>
<5月>
<6月>
<7月>
<8月>
<9月>
<12月>
さて、今年読んだ本についての発表は以上です。
ここ1年間の私の近況については、ちょっと長くなるかと思うので元旦の記事にまとめて記載します。
だらだら続けてきたこの駄文ブログも、2500件を超える記事数となりました。最盛期と比べると閲覧数はめっきり減りましたが(おいおい)、それでも覗きに来てくださる方がいるうちはがんばろうと思ってます。
これからも、皆さんの暇つぶしの一助になれば望外の幸せです。
それでは皆様、良いお歳を。 m(_ _)m
人間じゃない 〈完全版〉 [読書・ミステリ]
評価:★★☆
綾辻行人の単行本未収録の作品を集めた短編集の文庫版。〈完全版〉というのは、単行本に加えて新たに短編「実録・ぬえの密室」を収録したため。
「赤いマント」
どこからともなく「あかいマントをかぶせましょうか」という歌が聞こえてきて、それに応えてしまうと怪異に襲われる。そんな噂が流れているらしい。
大学生・道沢希早子(みちざわ・きさこ)は、アルバイト先の塾の教え子である女子高生・水島由紀からその噂を聞く。ところがその由紀が "赤マント" に襲われるという事件が発生する。
怪談仕立てだけど、ミステリとしてはわかりやすい。作者の紹介文にも「ごく普通の推理小説」とあるし。でもそれを綾辻が書くと、なんとも不気味な雰囲気になってくるのは流石だ。
「崩壊の前日」
主人公が昼近くに起き出し、雪の中を恋人に会いに行く、それだけなのだが、これもまた綾辻独特のホラーな幻想小説になってる。
「洗礼」
2006年、38歳の綾辻行人のもとに届いた封筒には、一編の推理小説の原稿が入っていた。それは彼が大学時代に所属していた京大ミステリ研で、部員たちの間で披露された犯人当て小説のようだが、作者名が滲んでいて読めない。
小説の内容は、大学祭のさなかに学生バンドのメンバーが殺されるというもの。タイトルの「洗礼」はこの作中作の題名。
京大ミステリ研の活動の様子の一端が分かる、ある意味興味深い話だ。しかし、学生仲間とはいえ、"ミステリの鬼" たちを前に自作のミステリを発表するなんて、並の神経では務まらないだろうなあ。でもこれくらいこなせないと作家デビューなんて無理だよね。
最後まで読むと、実話かと思わされる(もちろん作中作の部分はフィクションだが)のだけど、まさかね。
「蒼白い女」
怪談連作「深泥丘奇談」の番外編。
「人間じゃない -B〇四号室の患者-」
精神病棟に収用されている "私" が、"発病" の原因となった事件について語り出す。
「実録・ぬえの密室」
"新本格30年" を記念するイベントに綾辻行人、法月綸太郎、我孫子武丸が参加する。そこで話題に出たのが、京大ミステリ研の中で行われた "犯人当て" イベントの中で、"幻" と言われるほどのスゴい作品があったという噂。
3人は記憶をたどるがどうにも思い出せない。場所は綾辻邸に移り、妻である小野不由美まで話に加わって、「ぬえの密室」というタイトルまでは出てきたものの、そこから先は、ああでもないこうでもないという状態に。
新本格系の作家さんたちが実名で登場する、ドキュメントっぽい小説。ラスト近くに登場する人物は、新本格を語るなら絶対に外せない人だ。
虹を待つ彼女 [読書・ミステリ]
第36回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
主人公・工藤賢(くどう・けん)は一種の天才だ。
大学卒業後、勤めていた企業からヘッド・ハンティングされてシステム会社モンスターブレインに移り、35歳となったいまはAI開発の研究者をしている。
彼が加わった新たなプロジェクトは、死者をAIとして甦らせること。その候補として挙がったのが水科晴だった。
美貌のゲーム・クリエイターとして知られていたが、自らが作成した3Dネット・アクション・ゲーム『リビングデッド・渋谷』を使って自殺していた。
ネットを駆使して晴のことを調べ始めた工藤は、やがて彼女には "雨" という名の恋人がいたこと、それにもかかわらず、奔放な男性関係をもっていたことなどを知っていく。
主人公の工藤は、普通に描いたら「嫌なやつ」になりそう。実際、物事を計算ずくで考えるし、他人を自分の思い通りに動かそうと強引な手も使うし。
でも、あまりそう感じないのは、「死んだ女性に恋する」という、初めから報われないのがわかってることに血道を挙げていく行動が大きいのだろうと思う。このへんが読者の妬みよりも同情や共感を呼ぶ要素になってるのかも知れない。
なにせエンタメ作品だからね。主役が読者から嫌われたら致命的。そのあたりのさじ加減が絶妙に上手いのだろう。
「水科晴とはどんな女性だったのか」と「脅迫者は誰か」の2つがメインの謎になるかと思うが、ミステリ要素はあまり大きくない。
でも、なぜかすいすい読めてしまうんだな。読みやすい文体であることも大きいけど、工藤と晴をはじめとして登場してくるキャラたちのもつ魅力も大きいのだろうし、ストーリーテリングも巧みだと感じさせる。
作者は、これが初めて書いた小説らしい。なんとも畏れ入る話だ。
いけない [読書・ミステリ]
蝦蟇倉(がまくら)市と、その北に隣接する白沢(はくたく)市。この2つの架空の街を舞台にした連作短編集。
ご丁寧に、目次の次ページには「本書のご使用方法」として、その写真を見ることで何が分かるかまで示してある。
本書には4つのエピソードを収録。タイトルの後の( )は「ご使用方法」だ。
「第一章 弓投げの崖を見てはいけない」(死んだのは誰か?)
蝦蟇倉市と白沢市をつなぐ道路、白蝦蟇シーライン。その途中には自殺の名所である "弓投げの崖" がある。
蝦蟇倉署の刑事・隈島(くましま)は、大学時代には邦夫の妻・弓子とは恋人関係にあった。彼女への想いを残す隈島は、邦夫の事件を捜査する中で有力な容疑者を突き止めるが、その男は現場近くで殺されてしまう・・・
これはまさに、背負い投げを食らったみたいに一本取られました。道夫秀介はやっぱりうまい。
「第二章 その話を聞かせてはいけない」(なぜ死んだのか?)
中国人の両親と友に日本にやってきた珂(カー)。しかし両親の経営する料理屋は閑古鳥が鳴き、彼自身も鬱屈した日々を送っている。
そんなとき珂は文具店の中で不可解な光景を目撃する。それは、殺人の現場のように思われた。やがて、蝦蟇倉市と白沢市の間を流れる川の河原で、文具店主の死体が発見されるが・・・
珂の視点で語られるのだけど、しばしば幻想のような描写が入るので、どこまでが真実でどこからが虚構なのかが判然せず、全体としてはホラーな雰囲気で進行する。
ラストまで読んでも、何が起こったのかよく分からず、写真をけっこう長時間眺めて、やっと得心がいった。
「第三章 絵の謎に気づいてはいけない」(罪は誰のものか?)
宗教団体・十王環命会(じゅうおうかんめいかい)。その蝦蟇倉支部で奉仕部を統括していた幹部・宮下志穂の死体が発見される。
現場から発見されたメモ用紙には、本人が書いたものと思われる模式図が。そこには現場の様子とともに本人も描かれていた。これは何を意味するのか。
最後まで読むと、「罪は誰のものか?」という言葉の意味を考えてしまう。
「終 章 街の平和を信じてはいけない」(????????)
「第一章」の事件の後日談として始まる。
一見して平和にみえる蝦蟇倉と白沢の街だが、その底には、心に深い闇を抱えた人間たちがいることを示して物語は終わる。
宇宙戦艦ヤマト2199 第9巻 [アニメーション]
リメイクアニメ「宇宙戦艦ヤマト2199」のコミカライズ作品。アニメ本編の公開終了後もコミックは続いていましたが、8巻まで刊行されたところで止まってしまってました。
この間、2017年から2019年にかけて続編の「2202」も公開され、2021年から今年にかけて「2205」も公開。もう「2199」のコミックは出ないのかなぁと思っていたら、まさかの再起動。嬉しいことです。
どんな事情が裏にあったのかは一読者には知るすべもありませんが(噂だけはいろいろ聞きましたが・・・)、ここは単純に、再開を祝いたいと思います。
アニメ版のストーリーをベースにしながらも随所にむらかわ氏のオリジナル展開を含み、単なるコミカライズを超えた作品に仕上がっていた本作。
本書では ビーメラ4での反乱収束 → 亜空間ゲート → バラン星突破 までが描かれます。全26話のアニメ版でいうと、18話までの内容になっています。
特に亜空間ゲートのコントロール衛星でのエピソードは本書の白眉でしょう。古代、真田、雪の3人のドラマは実に読み応えがあります。
「2199」公開当時、キャラの設定や先の展開の予想について、ネットではああでもないこうでもないと侃々諤々だったのを思い出しました。ああ、何もかもみな懐かしい・・・
思い起こせば「2199」第1章の公開が2012年4月。あれから11年近い年月が流れてしまいました。よくここまで続いたものです。評価する声もあれば激しいバッシングも起こり、リメイク作品にはつきものとはいえ、制作陣は大変だったと思います。
現在は「3199」の公開待ちの状態ですが、これがまあナシのツブテ状態。いったいいつ公開になるのやら。
リメイクシリーズがどこまで続くのか分かりませんが、完結編までは生き延びたいものです。
赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。 [読書・ミステリ]
タイトル通り、童話の主人公・赤ずきんが旅の途中で殺人事件に遭遇する。その事件もまた童話の世界の物語。
全編を通して探偵役を務めるのは赤ずきん。彼女が旅をしている目的も、物語が進むにつれて明らかになり、最終話で決着する。
「第1章 ガラスの靴の共犯者」
赤ずきんはシンデレラという少女と知り合う。彼女を虐めている継母とその連れ子たちはお城で行われる舞踏会に出かけていて、一人残されているという。
そこに現れた魔法使いバーバラによって、シンデレラと赤ずきんはドレスと馬車を与えられ(もちろんガラスの靴も)、彼女らも舞踏会へ向かう。
しかしその途中、馬車が年配の男性をはねてしまう。男性は死亡するが2人は死体を隠して舞踏会に参加する(おいおい)。
「第2章 甘い密室の崩壊」
ヘンゼルとグレーテルの兄妹が、継母のソフィアを殺害するシーンから幕を開けるという、倒叙ミステリ。
兄妹の住む家にやってきた赤ずきん。妻を探しに行くという父親と兄妹とともに森へ出かけることに。
今回、赤ずきんの相棒となって事件の真相解明に当たるのは、"森の管理者" を名乗る銀色オオカミのゲオルグ。人語を話す賢者のオオカミ、というキャラがなかなかいい。彼を主役にしても物語が作れそう。
密室トリックはこの物語世界でしか成立しないものだけど、伏線も張ってあるし、必要な情報も開示されてる。いささか都合がよすぎるかなと思わないでもなかったが(笑)。
「第3章 眠れる森の秘密たち」
グーテンシュラーフ王国の国王に姫が生まれ、祝いの席に12人の魔女を招いた。しかし招かれなかった13人目の魔女から呪いをかけられてしまう。
赤ずきんが道ばたで助けた老人は、王国の宰相キッセンだった。そしてキッセンの孫メライが殺人事件の容疑者として捕まってしまう。
一つの事件から芋づる式に、王国や関係者の秘密がずるずると明らかになっていくのはお見事。
「第4章 少女よ、野望のマッチを灯せ」
シュペンハーゲンの町でマッチ工場を経営するガルヘン。彼は両親を亡くした遠縁の娘エレンを引き取ったが、マッチ売りを強要するという虐待をしていた。
そんなエレンの前に天使が現れ、魔法をかける。
しかし、この "力" を得たエレンはガルヘンを殺害してマッチ工場を相続し、"魔法のマッチ" の量産(!)を開始する。
悲劇の主人公だったはずのマッチ売りの少女エレンは金の亡者となり果て、さながら ”麻薬王” の様相に。目的のためには手段を選ばないという、まさかのダークヒーロー(ダークヒロイン?)化だ。
エレンと並行して赤ずきんの過去も語られ、彼女の旅の目的も明らかになる。そして赤ずきんがシュペンハーゲンにやってくる・・・
サスペンスっぽい展開だが、ミステリ要素もしっかりある。終盤では大がかりなトリックも出てくるが、大胆すぎていまひとつピンとこない(笑)。まあ、これは私がニブいせいだろうが(おいおい)。
ブラウン神父の童心 [読書・ミステリ]
評価:★★★
探偵役となるブラウン神父は、丸顔で小柄で不器用と、風采が上がらないこと夥しい。金田一耕助のご先祖様みたいなキャラだが、頭の切れは一級品。
もちろん、現代の目から見たらありきたりや陳腐に見えたりする部分もあるが、発表年を考えたら、この時期にこれだけの内容の作品群を発表しているのは驚嘆に値する。
読んでみるとわかるが、後続の作家や作品に取り入れられた、いわば "ミステリの定番" 的なトリックや発想や論理や設定がてんこ盛り。本格ミステリの入門書というか教科書みたいな作品集になってる。
本書には12編が収録されている。一編あたり文庫で30ページほどしかないのだけど、その密度は驚くばかり。現代の作家さんが同じネタで書けばゆうにその2~3倍の分量になりそうだ。
「青い十字架」
「秘密の庭」
「奇妙な足音」
「飛ぶ星」
「見えない男」
「イズレイル・ガウの誉れ」
「狂った形」
「サラディン公の罪」
「神の鉄槌」
「アポロの眼」
「折れた剣」
「三つの兇器」
イマジン? [読書・青春小説]
評価:★★★★
映画制作の夢破れ、フリーター生活を送る良井良介(いい・りょうすけ)。しかし映像制作会社の仕事に誘われたことから彼の人生は大きく変転する。トラブルの波が続々と押し寄せるが、情熱と想像力を駆使して切り抜けて、再び夢を取り戻していく。
連作短編形式の全五章構成。
1『天翔る広報室』
幼少時にTVで観た「ゴジラvsスペースゴジラ」に衝撃を受け、映画制作の夢を抱いて上京した良介だったが、入社した映像制作会社が計画倒産してしまう。
以来、定職に就けずにフリーター生活を送ってきたが、バイトで知り合った佐々賢治から映像制作会社「殿浦イマジン」の仕事に誘われる。
ひとくちに "映像制作" といっても、その業務は多種多様、そして多忙だ。
そして良介が飛び込んだのは連続TVドラマ『天翔る広報室』の撮影現場。日曜夜9時放映で、自衛隊の広報室を舞台にしたものだ。
初めての体験ばかりで、てんてこ舞いをしながらも良介はこの仕事に魅せられていく。
2『罪に罰』
映画監督・雑賀才壱(さいか・さいいち)のオリジナル脚本による映画『罪に罰』の制作に参加した「殿浦イマジン」。
そんな中、良介は他の制作会社からきている助監督・島津幸(しまず・さち)が上司から理不尽な扱いを受けているのを見て怒りに燃えるのだが・・・
ところどころ「罪に罰」のシナリオが挿入される。基本的には少女二人の友情を描いた物語なんだけど、後半の展開は意表を突くもの。有川ひろはこんなダークな話も書けるんだなあと驚いた。引き出しの多い人だ。
3『美人女将、美人の湯にて~刑事真藤真・湯けむり紀行シリーズ~』
「刑事真藤真・湯けむり紀行」は定番の二時間ドラマ・シリーズだ。
4『みちくさ日記』
冴えない生物教師と女子高生との恋愛を描き、ベストセラーとなった小説を映画化した『みちくさ日記』。
良介たちはロケ地にぴったりのレストランを見つけたものの、店主が頑としてOKしてくれない。
一方で、主役に起用されたタレントについて原作ファンからのバッシングが起きる。"冴えない生物教師" のはずなのに、イケメンで茶髪はおかしいと。
良介たちは現場にいるから、出演者の苦労や制作陣の思い入れもよくわかるのだが、観客からしたら「出てくる情報」「完成した映像」がすべてだからね。受け入れられるかどうかは蓋を開けてみないことにはわからない。
5『TOKYOの一番長い日』
東都テレビ開局50周年記念映画『TOKYOの一番長い日』。
この仕事の受注に成功した「殿浦イマジン」は沸き立つ。大ヒットすれば続編制作への参加も決まっているという。
本書とは別に、これはぜひ単独の小説として読みたいなあと思った。
映像制作の現場というのは強烈な個性の奇人変人の集まりかと思いきや、(本書を読む限り)案外そうでもないみたい。でもみな総じてプロ意識の塊で、こだわるものを持っているんだなと感じた。まあそうでなくては人の心を揺さぶる作品は作れないだろうけど。
中盤から登場してメイン・ヒロインとなる島津幸さんもなかなか魅力的だし、良介のいる「殿浦イマジン」の同僚たちのキャラも立っていて "お仕事小説" としては抜群に面白い。
現在のところ本書に続編はないけれど、10年後か20年後かの未来、幸が監督として一本立ちし、それを支えるプロデューサーにまで成長した良介、そんな2人の物語を読んでみたいと思った。
かがやき荘西荻探偵局 [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
西荻窪のシェアハウスに暮らすアラサーの女子3人組。家賃の支払いに困った彼女らは、探偵活動の見返りに家賃をまけてもらうことを条件に、西荻を舞台に起こる怪事件の中に飛び込んでいく。
女子高生のコスプレを普段着(笑)とする関礼菜、怪しげな関西弁を話す占部美緒、ミステリ・オタクの小野寺葵。3人とも働いていた会社をクビになってフリーター状態。もちろん家賃を払う余裕なんてない。
しかし大家さんである実業家・法界院法子(ほうかいん・のりこ)が持ち込む事件を解決することで家賃が相殺されることになる。
”アラサー女子探偵団” となった3人の活躍を描く連作短編シリーズだ。メインの探偵役は推理マニアの葵が務める。
「Case 1 かがやきそうな女たちと法界院家殺人事件」
成瀬啓介は29歳の独身男。父が残した会社を引き継いだものの、新しい経営陣からは外されてしまう。会社と縁を切った現在は無職だ。
遠縁の資産家・法界院法子を頼った啓介は、彼女の秘書見習いとして雇われることに。
その最初の仕事は、彼女が所有するシェアハウスの住人から、滞納している家賃を取り立てること。そのシェアハウスで暮らしてるのが上に書いたアラサー3人組だった。
しかしその矢先、法界院家の屋敷の離れで殺人事件が発生する。そこで生活していた真柴晋作という男が射殺死体となって発見されたのだ。しかも遺体は60インチの大画面テレビの下敷きになっていた。
啓介からその話を聞いた3人組は、事件の真相を解明する代わりに滞納家賃を棒引きしてもらうことを申し出るのだが・・・
シリーズ全体の設定説明を兼ねたエピソード。
ユーモア・ミステリながら、終盤での葵によるトリック解明と真犯人の絞り込みのプロセスはなかなかの読み応え。
「Case 2 洗濯機は深夜に回る」
深夜、シェアハウスに帰る途中の礼菜と美緒は、粗大ゴミ置き場で洗濯機を発見する。縦型一槽式の全自動、しかも去年発売されたばかりの最新式。しかも四輪のついた台車の上に載っている。これはもう「持って帰ってください」といわんばかりの状態。
「これはラッキー」とシェアハウスまで運んでくる2人。ひとまず玄関先に置き、ひと寝入りしたが、異様な物音で目覚める。なんと玄関に置いた洗濯機が動いていたのだ。電源につながれ、中では雑巾が入った水がぐるぐる回っているではないか・・・
なかなかインパクトのある謎が提示される。奇妙極まりないのだけど、これが意外と大きな事件につながっていき、その中でこの謎も合理的に説明される。
まあでも実際、この犯人の目論見通りに使えるかとなるとちょっと疑問な気もしないでもないが、そこは許容範囲かなとも思う。
ユーモアと本格ミステリの融合という点では本書でいちばんの作品だろう。
「Case 3 週末だけの秘密のミッション」
法界院法子の知人である会社社長・松原清美。73歳になる彼女の父・浩太郎は母との2人暮らしだが、最近奇行に走っているらしい。
毎週金曜の夜になると自動車で出かけて、帰ってくるのは10時過ぎ、ときには深夜になることも。父は母に隠れて浮気しているのではないか?
清美から相談された法子は、3人組に調査を命じる。彼女らはさっそく浩太郎の尾行を始めるが、結果は意外なことに。
浩太郎は家を出ると吉祥寺のマンション工事現場の横に車を駐め、そのままそこに留まり、10時を廻ると家に帰ってきた。その間、誰とも接触していない。愛人との待ち合わせではなかったのか・・・?
今回は "日常の謎" 系のお話だけど、伏線は序盤から堂々と張られている。それなのに読者にそれと気づかせないのはたいしたもの。単に私がニブいだけかも知れないが(笑)。
「Case 4 委員会から来た男」
コンビニでの買い物を済ませた葵が出会ったのは、立派な身なりの中年紳士。
「西荻向上委員会副委員長・吉田啓次郎」と名乗った彼は、西荻を宣伝する新雑誌を創刊するという。それに載せる記事にするため、葵にインタビューをしたいと申し出る。
吉田の醸し出す "渋い中年" の魅力に惹かれていく葵。彼が妻と死別していると聞いて思わずガッツポーズをしてしまう(笑)。2人はどんどん親密さを増していくのだが・・・
「あなたは選ばれました」と言われ、思わぬ幸運に有頂天になってしまうという展開は、シャーロック・ホームズの某作品を連想させる(作中でもその作品への言及がある)。しかし、うまい話には裏があるのは世の常。
今回はミステリというよりはサスペンス。葵に迫る危機を救うのは誰か。
本書には続編「かがやき荘西荻探偵局2」がある。これも文庫化されていて手元にあるので近々読む予定。
風と行く者 -守り人外伝- [読書・ファンタジー]
「精霊の守り人」から始まり、全10巻もの大河ファンタジーとなった「守り人」シリーズの番外編だ。主役である女用心棒バルサの、本編終了後と20年前との2つの時代が描かれる。
本編のラストから1年半、復興の槌音が響く新ヨゴ皇国。
20年前、まだ10代だったバルサは、養父ジグロとともに彼らと旅をしたことがあった。当時の女頭だったサリはいま病床にあり、その娘である19歳のエオナが新たな頭となって、聖地〈エウロカ・ターン〉へ向かう旅の途上にあった。
〈サダン・タラム〉の一行は、何者かに狙われているらしい。彼らを聖地へ近づけたくない勢力が蠢いているようだ。
バルサは一行とともに、聖地のある隣国・ロタ王国へと向かう。
本書は三章建てになっているのだが、第一章はバルサが〈サダン・タラム〉の護衛を引き受けて旅立つまでが語られる。
本編中ではほとんど出番がない(本編開始前に亡くなってるからね)ジグロだが、本書では200ページ以上にわたって彼の活躍が存分に描かれる。
そして第三章では再び現在に戻る。〈エウロカ・ターン〉に隠された秘密、〈サダン・タラム〉が狙われる理由があきらかになっていく。
そして二つの氏族間における対立と憎悪の中、バルサは一つの解決策を見いだすのだが・・・
本編以外の「守り人」シリーズの作品もいくつか書かれているけど、みんな短編ばかり。その中で、本書は450ページほどの長編(まあ半分は回想シーンなんだが)で、なかなか読み応えがあった。バルサとタンダが "その後" の世界でも順調に(平穏ではないが)生きていることがわかって、素直にうれしい気持ちになる。
こうなると、もっと知りたくなる。あの人はどうなったのか、この人はどうなったのか・・・