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2022年 読んだ本ベスト30 [読書全般]

 新型コロナウイルスも第8波だそうで。いったい第何波まで行くのでしょうね。いつか「現在コロナウイルス感染の第888波が進行中です」なんて間抜けなニュースが読まれる日は来るのでしょうか・・・そんな下らないことを考えている今日この頃、皆様は如何にお過ごしでしょうか。私 mojo はなんとか無事に生きております。ワクチン接種も5回こなしました。

 ということで、年末恒例のランキング発表です。

 毎回書いてますが、私 mojo の独断と偏見で決めてます。皆さんの評価と一致しない場合もあるかと思いますが、私の好みの問題ですので、石を投げたりせずに(笑)ご寛恕ください。

 対象は、原則としてオリジナルのフィクション作品のみです。
 今年読んだフィクション作品は201冊。総ページ数は文庫で7600ページあまり。一日あたり200ページちょっとくらい読んでた計算になりますね。
 ノンフィクションも10冊くらいは読んでるんですが、記事にはしてませんし、ランキングにも入れてません。これは例年通りです。

 シリーズ作品や、文庫化に際しての分冊化などの場合は1つにまとめてしまったものもあります。悪しからずご容赦ください。

 あと、挙げてある本の中にはまだ記事に書いてないものも含まれます。現時点で、読了したのにまだupしてない本が12冊ほどあります。1月中にはupを終える予定です。


 それでは第1位~第10位まで。私の評価では1~7位までが星4つ半、8位以下は星4つです。

第1位 魔眼の匣の殺人 (今村昌弘) [創元推理文庫]
 真価が問われるデビュー2作目。高いハードルを軽々とクリア。

第2位 ノースライト (横山秀夫) [新潮文庫]
 久しぶりの横山秀夫。ご病気だと伺ってますがいかがなのでしょう。

第3位 まほり 上下 (高田大介) [角川文庫]
 主役カップルがいいなあ。特にヒロインのキャラが大好きだ。

第4位 隷王戦記 全3巻 (森山光太郎) [ハヤカワ文庫JA]
 久々のガチな英雄戦記ファンタジー。次作も期待してしまう。

第5位 星砕きの娘 (松葉屋なつみ) [創元推理文庫]
 平安時代の日本を思わせる骨太ファンタジー。ヒロインが泣かせる。

第6位 ハケンアニメ! (辻村深月) [マガジンハウス文庫]
 アニメ業界への愛が溢れてる。続編希望。映画も良作だった。

第7位 いつかの岸辺に跳ねていく (加納朋子) [幻冬舎文庫]
 友人以上恋人未満だけどお互いが気になる男女。とってもいい話。

第8位 殺しへのライン (アンソニー・ホロヴィッツ) [創元推理文庫]
 毎回思うが伏線の巧みさよ。目の前にあるのに気づけないんだよなぁ。

第9位 僕が愛したすべての君へ / 君を愛したひとりの僕へ
    / 僕が君の名前を呼ぶから (乙野四万字) [ハヤカワ文庫JA]
 パラレルワールド・ラブストーリー。三冊で一つの物語。

第10位 イマジン? (有川ひろ) [幻冬舎文庫]
 さすがの小説の達人。お仕事小説でもハズレなし。


つづいて第11位~第20位まで。評価はすべて星4つ。

第11位 カエルの小指 a murder of  crows (道尾秀介) [講談社文庫]
 『カラスの親指』の続編。懐かしいキャラも新キャラもみんないい。

第12位 コワルスキーの大冒険 クラッシャージョウ別巻3
    (高千穂遙) [ハヤカワ文庫JA]
 海賊退治の連合宇宙軍大佐、44年目の復活。お帰りなさい!

第13位 風と行く者 -守り人外伝- (上橋菜穂子) [新潮文庫]
 『守り人』シリーズ、もっと書いてほしいなぁ。

第14位 記憶の中の誘拐 赤い博物館 (大山誠一郎) [文春文庫]
 切れ味素晴らしい短編ミステリの連作集。

第15位 魔偶の如き齎すもの (三津田信三) [講談社文庫]
 刀城言耶シリーズの短編集。この雰囲気がタマラナイ。

第16位 ここから先は何もない (山田正紀) [河出文庫]
 山田正紀版『星を継ぐもの』。宇宙スケールのSFミステリ。

第17位 イスランの白琥珀 (乾石智子) [創元推理文庫]
 凋落する一方の魔道帝国イスリルを救おうとする一人の魔道師の物語。

第18位 天空の防疫要塞 (銅大) [ハヤカワ文庫JA]
 久しぶりに、宇宙での戦いを描いたスペースオペラを読んだかな。

第19位 黄昏のベルリン (連城三紀彦) [創元推理文庫]
 ホラを吹くなら、これくらいスケールが大きいホラがいい。

第20位 いちばん初めにあった海 (加納朋子) [幻冬舎文庫]
 2人の少女を描いた2つの物語。作者はこういうの書いたらホントうまい。


つづいて第21位~第30位まで。こちらもすべて星4つ。

第21位 陰陽少女 (古野まほろ) [講談社文庫]
 全編スラップスティックだけど謎解きはガチ。

第22位 Rのつく月は気をつけよう 賢者のグラス (石持浅海) [祥伝社文庫]
 酒を飲みながら日常の中に浮かび上がる謎を解く。ラストが素敵。

第23位 早朝始発の殺風景 (青崎有吾) [集英社文庫]
 作者の会話の描写がホントにうまいのに感心してしまう。

第24位 新任刑事 上下 (古野まほろ) [新潮文庫]
 お仕事小説であり、かつ本格ミステリ。

第25位 新任巡査 上下 (古野まほろ) [新潮文庫]
 お仕事小説であり、かつ本格ミステリ。

第26位 巨大幽霊マンモス事件 (二階堂黎人) [講談社文庫]
 "マンモスの正体" にもうちょっと工夫があれば、もっと上位にいた作品。

第27位 聖エセルドレダ女学院の殺人 (ジュリー・ベリー) [創元推理文庫]
 7人の少女が殺人事件の隠蔽と犯人捜しに大騒ぎ。

第28位 飢え渇く神の地 (鴇澤亜妃子) [創元推理文庫]
 派手ではないんだけどじっくり読ませるファンタジー。

第29位 或るエジプト十字架の謎 (柄刀一) [光文社文庫]
 クイーンの "本歌取り" ミステリ。

第30位 月の落とし子 (穂波了) [ハヤカワ文庫JA]
 日本版『アンドロメダ病原体』。SFだけどアガサ・クリスティ賞(笑)。


 ベスト30は以上なのですが、例年31~60位まで紹介しているので以下に掲げます。ここまでくると順位は余り意味がないので読了順に載せます。
 基本みな星4つなのですが、題名に☆印がある4作品は星3つ半です。


<1月>
歓喜の歌 博物館惑星III (菅浩江) [ハヤカワ文庫JA]
さよならアリアドネ (宮地昌幸) [ハヤカワ文庫JA]
本と鍵の季節 (米澤穂信) [集英社文庫]
贖い 上下 (五十嵐貴久) [双葉文庫]

<2月>
ミステリー・アリーナ (深水黎一郎) [講談社文庫]
夏を取り戻す (岡崎琢磨) [創元推理文庫]
星巡りの瞳 (松葉屋なつみ) [創元推理文庫]

<3月>
☆炎舞館の殺人 (月原渉) [新潮文庫nex]
私という名の変奏曲 (連城三紀彦) [河出文庫]
炎のタペストリー (乾石智子) [ちくま文庫]
☆むかしむかしあるところに、死体がありました。 (青柳碧人) [双葉文庫]
紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官 (川瀬七緖) [講談社文庫]
大宇宙の少年 (R・A・ハインライン) [創元SF文庫]

<4月>
黄泉がえり / 黄泉がえりagain (梶尾真治) [新潮文庫]
妖鳥(ハルピュイア) 山田正紀・超絶ミステリコレクション#1 (山田正紀) [徳間文庫]
星詠師の記憶 (阿津川辰海) [光文社文庫]
滅びの鐘 (乾石智子) [創元推理文庫]

<5月>
だから殺せなかった (一本木透) [創元推理文庫]

<6月>
☆錆びた太陽 (恩田陸) [朝日文庫]
名探偵誕生 (似鳥鶏) [実業之日本社文庫]
コミュ障探偵の地味すぎる事件簿 (似鳥鶏) [角川文庫]

<7月>
赤銅の魔女 / 白銀の巫女 / 青炎の剣士
 紐結びの魔道師 (乾石智子) [創元推理文庫]

<8月>
デイ・トリッパー (梶尾真治) [徳間文庫]
連続自殺事件 (ジョン・ディクスン・カー) [創元推理文庫]
神とさざなみの密室 (市川憂人) [新潮文庫]
ベルリンは晴れているか (深緑野分) [ちくま文庫]

<9月>
☆アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係 (大倉崇裕) [講談社文庫]
 
<11月>
ネクスト・ギグ (鵜林伸也) [創元推理文庫]
虹を待つ彼女 (逸木裕) [角川文庫]

<12月>
☆かがやき荘西荻探偵局 1&2 (東川篤哉) [新潮文庫]


 さて、今年読んだ本についての発表は以上です。

 ここ1年間の私の近況については、ちょっと長くなるかと思うので元旦の記事にまとめて記載します。

 だらだら続けてきたこの駄文ブログも、2500件を超える記事数となりました。最盛期と比べると閲覧数はめっきり減りましたが(おいおい)、それでも覗きに来てくださる方がいるうちはがんばろうと思ってます。

 これからも、皆さんの暇つぶしの一助になれば望外の幸せです。

 それでは皆様、良いお歳を。  m(_ _)m


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人間じゃない 〈完全版〉 [読書・ミステリ]


人間じゃない 〈完全版〉 (講談社文庫)

人間じゃない 〈完全版〉 (講談社文庫)

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/08/10
  • メディア: 文庫

評価:★★☆

 綾辻行人の単行本未収録の作品を集めた短編集の文庫版。〈完全版〉というのは、単行本に加えて新たに短編「実録・ぬえの密室」を収録したため。
 いわば ”拾遺集” なので、ミステリもあれば怪談やホラーもあって、多彩な内容。そのせいか一編ごとに作者の短い紹介文が載っている。


「赤いマント」

 どこからともなく「あかいマントをかぶせましょうか」という歌が聞こえてきて、それに応えてしまうと怪異に襲われる。そんな噂が流れているらしい。

 大学生・道沢希早子(みちざわ・きさこ)は、アルバイト先の塾の教え子である女子高生・水島由紀からその噂を聞く。ところがその由紀が "赤マント" に襲われるという事件が発生する。
 児童公園のトイレの個室に由紀が入ったところ、あの噂の不気味な歌が流れてきた。外で待っていた希早子が個室に入ると、全身に赤いペンキをかけられた由紀が・・・

 怪談仕立てだけど、ミステリとしてはわかりやすい。作者の紹介文にも「ごく普通の推理小説」とあるし。でもそれを綾辻が書くと、なんとも不気味な雰囲気になってくるのは流石だ。


「崩壊の前日」

 主人公が昼近くに起き出し、雪の中を恋人に会いに行く、それだけなのだが、これもまた綾辻独特のホラーな幻想小説になってる。


「洗礼」

 2006年、38歳の綾辻行人のもとに届いた封筒には、一編の推理小説の原稿が入っていた。それは彼が大学時代に所属していた京大ミステリ研で、部員たちの間で披露された犯人当て小説のようだが、作者名が滲んでいて読めない。

 小説の内容は、大学祭のさなかに学生バンドのメンバーが殺されるというもの。タイトルの「洗礼」はこの作中作の題名。

 京大ミステリ研の活動の様子の一端が分かる、ある意味興味深い話だ。しかし、学生仲間とはいえ、"ミステリの鬼" たちを前に自作のミステリを発表するなんて、並の神経では務まらないだろうなあ。でもこれくらいこなせないと作家デビューなんて無理だよね。

 最後まで読むと、実話かと思わされる(もちろん作中作の部分はフィクションだが)のだけど、まさかね。


「蒼白い女」

 怪談連作「深泥丘奇談」の番外編。
 担当編集者と一緒に地下2階の喫茶店に入った "私"。そこの片隅に座っている蒼白い顔の女に気づく。電波が届かない "圏外" の場所なのに、その女は携帯電話のディスプレイをじっと見つめ続けていたのだ・・・


「人間じゃない -B〇四号室の患者-」

 精神病棟に収用されている "私" が、"発病" の原因となった事件について語り出す。
 密室状態の中で女が殺され、遺体は人間の仕業とは思えないほどの損壊を受けていた。被害者は事件の前日、「ここには人間じゃないものがいる」と云っていたという・・・
 私はこの手の作品は苦手です。


「実録・ぬえの密室」

 "新本格30年" を記念するイベントに綾辻行人、法月綸太郎、我孫子武丸が参加する。そこで話題に出たのが、京大ミステリ研の中で行われた "犯人当て" イベントの中で、"幻" と言われるほどのスゴい作品があったという噂。

 3人は記憶をたどるがどうにも思い出せない。場所は綾辻邸に移り、妻である小野不由美まで話に加わって、「ぬえの密室」というタイトルまでは出てきたものの、そこから先は、ああでもないこうでもないという状態に。

 新本格系の作家さんたちが実名で登場する、ドキュメントっぽい小説。ラスト近くに登場する人物は、新本格を語るなら絶対に外せない人だ。



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虹を待つ彼女 [読書・ミステリ]


虹を待つ彼女 (角川文庫)

虹を待つ彼女 (角川文庫)

  • 作者: 逸木 裕
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/05/24
評価:★★★★

 第36回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
 自殺したゲーム・クリエイター・水科晴(みずしな・はる)。彼女をAI(人工知能)として甦らせようとする研究者・工藤は、次第に死者である彼女に惹かれていくが、彼の前に謎の妨害者が現れる。


 主人公・工藤賢(くどう・けん)は一種の天才だ。
 小学校時代、200ページに満たない教科書を2時間で理解した。だからテストはすべて100点。
 それ以降も勉学・スポーツ・恋愛に至るまで、最短の努力で最高の成果を達成する方法が彼には "見えて" しまう。
 同時に、何をやっても結果が "見えて" しまうことにもなり、彼は「退屈」を感じることに。

 大学卒業後、勤めていた企業からヘッド・ハンティングされてシステム会社モンスターブレインに移り、35歳となったいまはAI開発の研究者をしている。

 彼が加わった新たなプロジェクトは、死者をAIとして甦らせること。その候補として挙がったのが水科晴だった。

 美貌のゲーム・クリエイターとして知られていたが、自らが作成した3Dネット・アクション・ゲーム『リビングデッド・渋谷』を使って自殺していた。
 拳銃を装備したドローンをゲームと連動させ、プレイヤーが狙う標的として自分自身を設定することによって。

 ネットを駆使して晴のことを調べ始めた工藤は、やがて彼女には "雨" という名の恋人がいたこと、それにもかかわらず、奔放な男性関係をもっていたことなどを知っていく。
 彼女の高校時代の同級生や、交際していた男性たちと接触し、晴についての情報を蓄積していく中で、次第に彼女に惹かれるものを感じ始める工藤。そんな時、「晴についての調査を中止せよ」という殺人予告が舞い込んでくる・・・


 主人公の工藤は、普通に描いたら「嫌なやつ」になりそう。実際、物事を計算ずくで考えるし、他人を自分の思い通りに動かそうと強引な手も使うし。

 でも、あまりそう感じないのは、「死んだ女性に恋する」という、初めから報われないのがわかってることに血道を挙げていく行動が大きいのだろうと思う。このへんが読者の妬みよりも同情や共感を呼ぶ要素になってるのかも知れない。

 なにせエンタメ作品だからね。主役が読者から嫌われたら致命的。そのあたりのさじ加減が絶妙に上手いのだろう。

 「水科晴とはどんな女性だったのか」と「脅迫者は誰か」の2つがメインの謎になるかと思うが、ミステリ要素はあまり大きくない。
 前者に対しては、故人だから何を言っても推測の域を出ないし、脅迫者の正体もびっくりするほど意外な人物、というわけでもない。

 でも、なぜかすいすい読めてしまうんだな。読みやすい文体であることも大きいけど、工藤と晴をはじめとして登場してくるキャラたちのもつ魅力も大きいのだろうし、ストーリーテリングも巧みだと感じさせる。
 だから、文庫で460ページという長さにも関わらず、最後まで飽きることなくページをめくらせる作品に仕上がってる。

 作者は、これが初めて書いた小説らしい。なんとも畏れ入る話だ。
 ミステリ作家としてはどうか分からないけど、エンタメ小説を書く力は十分に持っていると思う。



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いけない [読書・ミステリ]


いけない (文春文庫)

いけない (文春文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/08/03
評価:★★★☆

 蝦蟇倉(がまくら)市と、その北に隣接する白沢(はくたく)市。この2つの架空の街を舞台にした連作短編集。
 各章の最後には、一枚の写真が挿入されている。それを見ることで、小説部分では伏せられていた事実や真相が明らかになる、という趣向。

 ご丁寧に、目次の次ページには「本書のご使用方法」として、その写真を見ることで何が分かるかまで示してある。

 本書には4つのエピソードを収録。タイトルの後の( )は「ご使用方法」だ。


「第一章 弓投げの崖を見てはいけない」(死んだのは誰か?)

 蝦蟇倉市と白沢市をつなぐ道路、白蝦蟇シーライン。その途中には自殺の名所である "弓投げの崖" がある。
 その近くの路上で殺人事件が発生する。保育士・安見邦夫の乗った車が何者かに襲われたのだ。

 蝦蟇倉署の刑事・隈島(くましま)は、大学時代には邦夫の妻・弓子とは恋人関係にあった。彼女への想いを残す隈島は、邦夫の事件を捜査する中で有力な容疑者を突き止めるが、その男は現場近くで殺されてしまう・・・

 これはまさに、背負い投げを食らったみたいに一本取られました。道夫秀介はやっぱりうまい。


「第二章 その話を聞かせてはいけない」(なぜ死んだのか?)

 中国人の両親と友に日本にやってきた珂(カー)。しかし両親の経営する料理屋は閑古鳥が鳴き、彼自身も鬱屈した日々を送っている。

 そんなとき珂は文具店の中で不可解な光景を目撃する。それは、殺人の現場のように思われた。やがて、蝦蟇倉市と白沢市の間を流れる川の河原で、文具店主の死体が発見されるが・・・

 珂の視点で語られるのだけど、しばしば幻想のような描写が入るので、どこまでが真実でどこからが虚構なのかが判然せず、全体としてはホラーな雰囲気で進行する。

 ラストまで読んでも、何が起こったのかよく分からず、写真をけっこう長時間眺めて、やっと得心がいった。
 分かってみれば簡単なことで、私自身の注意散漫ぶりに呆れてしまう。あのまま分からなかったら、ネットで解説を探そうかと思ってたよ。


「第三章 絵の謎に気づいてはいけない」(罪は誰のものか?)

 宗教団体・十王環命会(じゅうおうかんめいかい)。その蝦蟇倉支部で奉仕部を統括していた幹部・宮下志穂の死体が発見される。
 現場は彼女の自宅マンション、首にコードを巻いて玄関ドアのノブにかけて縊死していた。遺体から睡眠薬が検出されたことから自殺と思われたが・・・

 現場から発見されたメモ用紙には、本人が書いたものと思われる模式図が。そこには現場の様子とともに本人も描かれていた。これは何を意味するのか。

 最後まで読むと、「罪は誰のものか?」という言葉の意味を考えてしまう。


「終 章 街の平和を信じてはいけない」(????????)

 「第一章」の事件の後日談として始まる。
 内容を紹介するとネタバレになってしまうのだけど、これまでの3つの話に登場した人物たちも再登場し、意外な関係があったことも明らかになって、三章全部を通じた終章になっていることがわかる。

 一見して平和にみえる蝦蟇倉と白沢の街だが、その底には、心に深い闇を抱えた人間たちがいることを示して物語は終わる。



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宇宙戦艦ヤマト2199 第9巻 [アニメーション]


宇宙戦艦ヤマト2199 (9) (角川コミックス・エース)

宇宙戦艦ヤマト2199 (9) (角川コミックス・エース)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/12/26
  • メディア: コミック

 リメイクアニメ「宇宙戦艦ヤマト2199」のコミカライズ作品。アニメ本編の公開終了後もコミックは続いていましたが、8巻まで刊行されたところで止まってしまってました。
 この第9巻の発行日は2022年12月26日。手元にある第8巻の発行日を見ると2016年3月26日とあります。なんと6年9ヶ月ぶりの続巻刊行です。

 この間、2017年から2019年にかけて続編の「2202」も公開され、2021年から今年にかけて「2205」も公開。もう「2199」のコミックは出ないのかなぁと思っていたら、まさかの再起動。嬉しいことです。

 どんな事情が裏にあったのかは一読者には知るすべもありませんが(噂だけはいろいろ聞きましたが・・・)、ここは単純に、再開を祝いたいと思います。

 アニメ版のストーリーをベースにしながらも随所にむらかわ氏のオリジナル展開を含み、単なるコミカライズを超えた作品に仕上がっていた本作。

 本書では ビーメラ4での反乱収束 → 亜空間ゲート → バラン星突破 までが描かれます。全26話のアニメ版でいうと、18話までの内容になっています。

 特に亜空間ゲートのコントロール衛星でのエピソードは本書の白眉でしょう。古代、真田、雪の3人のドラマは実に読み応えがあります。
 真田さんについては、旧作の設定も踏まえた人物造形になっていて実に感動的です。雪さんについては・・・これは読んでのお楽しみですね。

 「2199」公開当時、キャラの設定や先の展開の予想について、ネットではああでもないこうでもないと侃々諤々だったのを思い出しました。ああ、何もかもみな懐かしい・・・
 このコミカライズも、順調にいけばあと4巻くらいで完結、2年半か3年くらい先かな。ぜひこのまま頑張って最後まで突っ走ってほしいものです。


 思い起こせば「2199」第1章の公開が2012年4月。あれから11年近い年月が流れてしまいました。よくここまで続いたものです。評価する声もあれば激しいバッシングも起こり、リメイク作品にはつきものとはいえ、制作陣は大変だったと思います。

 現在は「3199」の公開待ちの状態ですが、これがまあナシのツブテ状態。いったいいつ公開になるのやら。

 リメイクシリーズがどこまで続くのか分かりませんが、完結編までは生き延びたいものです。
 いや冗談抜きで自分の寿命との戦いになりそうで、困ったもんだなぁと思ってます。
 こうなると、「2202」のノベライズも再開してほしいですね。こちらは4巻(発行日は2019年2月28日)まで出て止まったまま、4年近くも放置状態。これもなんとかしてくださいよ、KADOKAWAさん。



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赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。 [読書・ミステリ]


赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。

赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。

  • 作者: 青柳碧人
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2020/08/19
評価:★★★

 タイトル通り、童話の主人公・赤ずきんが旅の途中で殺人事件に遭遇する。その事件もまた童話の世界の物語。
 「シンデレラ」「ヘンゼルとグレーテル」「眠り姫」「マッチ売りの少女」の登場人物が、被害者になったり容疑者になったり真犯人になったり。

 全編を通して探偵役を務めるのは赤ずきん。彼女が旅をしている目的も、物語が進むにつれて明らかになり、最終話で決着する。
 もちろん魔法も随所に出てくるが、無制限に使えるわけではなく、魔法ごとに規則や制約も定められていて、それが読者にきちんと開示されている。そしてそれが大きな手がかりにもなっている。


「第1章 ガラスの靴の共犯者」

 赤ずきんはシンデレラという少女と知り合う。彼女を虐めている継母とその連れ子たちはお城で行われる舞踏会に出かけていて、一人残されているという。

 そこに現れた魔法使いバーバラによって、シンデレラと赤ずきんはドレスと馬車を与えられ(もちろんガラスの靴も)、彼女らも舞踏会へ向かう。

 しかしその途中、馬車が年配の男性をはねてしまう。男性は死亡するが2人は死体を隠して舞踏会に参加する(おいおい)。
 ところが舞踏会の席上、死んだ男は王様の信頼深い者だったと判明、その場で犯人捜しが始まってしまう・・・
 事件は二転三転し、意外な結末へと向かう。


「第2章 甘い密室の崩壊」

 ヘンゼルとグレーテルの兄妹が、継母のソフィアを殺害するシーンから幕を開けるという、倒叙ミステリ。

 兄妹の住む家にやってきた赤ずきん。妻を探しに行くという父親と兄妹とともに森へ出かけることに。
 一行はあの有名な "お菓子の家" に到着するが、そこは内部から施錠された密室状態だった。そして家の中からはソフィアと、このお菓子の家を作った魔女、2人の死体が発見される・・・

 今回、赤ずきんの相棒となって事件の真相解明に当たるのは、"森の管理者" を名乗る銀色オオカミのゲオルグ。人語を話す賢者のオオカミ、というキャラがなかなかいい。彼を主役にしても物語が作れそう。

 密室トリックはこの物語世界でしか成立しないものだけど、伏線も張ってあるし、必要な情報も開示されてる。いささか都合がよすぎるかなと思わないでもなかったが(笑)。


「第3章 眠れる森の秘密たち」

 グーテンシュラーフ王国の国王に姫が生まれ、祝いの席に12人の魔女を招いた。しかし招かれなかった13人目の魔女から呪いをかけられてしまう。
 その呪いの通りに、16歳になった姫は糸車にふれて眠りについてしまい、以来40年の時が流れた。

 赤ずきんが道ばたで助けた老人は、王国の宰相キッセンだった。そしてキッセンの孫メライが殺人事件の容疑者として捕まってしまう。
 彼の容疑を晴らすよう、赤ずきんはキッセンに頼まれるが・・・

 一つの事件から芋づる式に、王国や関係者の秘密がずるずると明らかになっていくのはお見事。
 12人の魔女の "祝福の魔法" も効果的。魔法をミステリに "取り入れる" にはこういう手もあるのか、って思った。


「第4章 少女よ、野望のマッチを灯せ」

 シュペンハーゲンの町でマッチ工場を経営するガルヘン。彼は両親を亡くした遠縁の娘エレンを引き取ったが、マッチ売りを強要するという虐待をしていた。

 そんなエレンの前に天使が現れ、魔法をかける。
『君が触ったマッチを擦りながら願い事をすると、君の好きな夢を見られるようになるよ』
 ただし夢が見られるのは、マッチの火が灯っている短い時間だけ。

 しかし、この "力" を得たエレンはガルヘンを殺害してマッチ工場を相続し、"魔法のマッチ" の量産(!)を開始する。
 "夢" が見られるエレンのマッチは飛ぶように売れるが、同時に現実逃避にも使われ、 "マッチ依存症" も多発し始める・・・

 悲劇の主人公だったはずのマッチ売りの少女エレンは金の亡者となり果て、さながら ”麻薬王” の様相に。目的のためには手段を選ばないという、まさかのダークヒーロー(ダークヒロイン?)化だ。

 エレンと並行して赤ずきんの過去も語られ、彼女の旅の目的も明らかになる。そして赤ずきんがシュペンハーゲンにやってくる・・・

 サスペンスっぽい展開だが、ミステリ要素もしっかりある。終盤では大がかりなトリックも出てくるが、大胆すぎていまひとつピンとこない(笑)。まあ、これは私がニブいせいだろうが(おいおい)。



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ブラウン神父の童心 [読書・ミステリ]


ブラウン神父の童心 (創元推理文庫)

ブラウン神父の童心 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/01/12

評価:★★★

 探偵役となるブラウン神父は、丸顔で小柄で不器用と、風采が上がらないこと夥しい。金田一耕助のご先祖様みたいなキャラだが、頭の切れは一級品。
 発表が1911年と、いわゆる "古典的名作" と呼ばれる作品集。全5巻となるシリーズの1巻目だ。

 もちろん、現代の目から見たらありきたりや陳腐に見えたりする部分もあるが、発表年を考えたら、この時期にこれだけの内容の作品群を発表しているのは驚嘆に値する。

 読んでみるとわかるが、後続の作家や作品に取り入れられた、いわば "ミステリの定番" 的なトリックや発想や論理や設定がてんこ盛り。本格ミステリの入門書というか教科書みたいな作品集になってる。

 本書には12編が収録されている。一編あたり文庫で30ページほどしかないのだけど、その密度は驚くばかり。現代の作家さんが同じネタで書けばゆうにその2~3倍の分量になりそうだ。


「青い十字架」
 ブラウン神父の初登場作品にして、希代の怪盗フランボウとの出会いのエピソード。フランボウは後に改心して探偵事務所を開き、ブラウン神父の相棒となる。

「秘密の庭」
 パリ警察の警視総監ヴァランタンの自宅の庭で、首を切断された死体が発見される。しかし庭に外部との出入り口はなく兇器も発見されない。この真相には正直驚かされたが、このトリックは後世になると無数のバリエーションを産んでるんだよね。

「奇妙な足音」
 ホテルの一室で他殺死体が発見される。現場と外部をつなぐ通路に面した部屋にいたブラウン神父は、そこで聞いた足音から真相にたどり着く。

「飛ぶ星」
 田舎の農家で開かれたクリスマスパテーィーの中、寸劇が行われるが、その中で宝石盗難事件が発生する。しかし居合わせたブラウン神父が事件のからくりを見抜く。フランボウが改心するきっかけになった話。

「見えない男」
 たしかにその場所へ出入りしたはずなのに、誰も見た者がいない。ミステリでは有名な "見えない男" の元ネタになった作品。今このネタで書いたら噴飯物だが、110年前には斬新な発想だったんだろうと思う。

「イズレイル・ガウの誉れ」
 当主が亡くなり、下僕一人が残されたスコットランドの古城にやってきたブラウン神父とフランボウ。当主の残した奇妙な遺物、そして首のない死体を発見するが。長編が一本書けそうなネタ。

「狂った形」
 詩人のクイントンが殺される。現場は密室状態だったが・・・。ミステリを読み慣れた人なら、さすがにこれはわかります。これもいわば密室殺人の教科書的な作品だから。

「サラディン公の罪」
 川の中州にあるサラディン公爵の屋敷へやってきたブラウン神父とフランボウ。そこへ公爵を "父の仇" と呼ぶ青年が現れるが・・・。わずか文庫30ページの中にこのネタをぶち込んでくる。流石です。

「神の鉄槌」
 僧侶の兄が頭を潰された死体で発見される。いわゆる "不可能殺人" だけどこのトリックが成功する可能性はかなり低そう。現代で使ったらけっこう非難を浴びるだろうなあ。110年前だから、おおらかに受け入れられたのかな。

「アポロの眼」
 太陽信仰を謳う怪しげな新興宗教に入れ込んでいた女性が死亡する。その教祖と被害者の妹、2人が容疑者となるが・・・。真相は確かに意外だけど、これはちょっと受け入れ難いかな。

「折れた剣」
 ミステリではあまりにも有名な警句「木の葉を隠すなら森の中、では森がなかったら・・・」の元ネタになった作品。まさに奇想。チェスタトンはほんとにスゴい。

「三つの兇器」
 アームストロング卿が殺害される。現場にはロープとナイフと拳銃があったが死因はなんと撲殺だったという奇妙な謎。ちなみに「ミステリ史上、最も大きな兇器」についても言及がある。いやあチェスタトン先生、無双状態ですな。
 ラストで明かされる犯行の様子はものすごくせわしなくて、ほとんどコメディ。映像化したらドリフターズのコントみたいになりそう(笑)。



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イマジン? [読書・青春小説]


イマジン? (幻冬舎文庫 あ 34-8)

イマジン? (幻冬舎文庫 あ 34-8)

  • 作者: 有川 ひろ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2022/08/04
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

 映画制作の夢破れ、フリーター生活を送る良井良介(いい・りょうすけ)。しかし映像制作会社の仕事に誘われたことから彼の人生は大きく変転する。トラブルの波が続々と押し寄せるが、情熱と想像力を駆使して切り抜けて、再び夢を取り戻していく。


 連作短編形式の全五章構成。


1『天翔る広報室』

 幼少時にTVで観た「ゴジラvsスペースゴジラ」に衝撃を受け、映画制作の夢を抱いて上京した良介だったが、入社した映像制作会社が計画倒産してしまう。

 以来、定職に就けずにフリーター生活を送ってきたが、バイトで知り合った佐々賢治から映像制作会社「殿浦イマジン」の仕事に誘われる。

 ひとくちに "映像制作" といっても、その業務は多種多様、そして多忙だ。
 製作スタッフの人材派遣もすればロケ地候補の選定や情報収集、現地との折衝もするし、かと思えば撮影現場の弁当の手配、給湯場の設営、ロケバスの運転、ゴミの収集、クレーム対応までやるという、いわば下働きの "何でも屋"、雑用全般を請け負う、縁の下の力持ち的な存在だ。

 そして良介が飛び込んだのは連続TVドラマ『天翔る広報室』の撮影現場。日曜夜9時放映で、自衛隊の広報室を舞台にしたものだ。
 これはもちろん作者自身の小説およびそれをドラマ化した『空飛ぶ広報室』がモデルだね(笑)。ドラマの方は観なかったけど小説は面白かったよ。

 初めての体験ばかりで、てんてこ舞いをしながらも良介はこの仕事に魅せられていく。


2『罪に罰』

 映画監督・雑賀才壱(さいか・さいいち)のオリジナル脚本による映画『罪に罰』の制作に参加した「殿浦イマジン」。
 しかし雑賀監督はそのワンマンぶりで有名で、彼に潰された人材は数知れず。"スタッフクラッシャー" の異名をとるほどだった。

 そんな中、良介は他の制作会社からきている助監督・島津幸(しまず・さち)が上司から理不尽な扱いを受けているのを見て怒りに燃えるのだが・・・

 ところどころ「罪に罰」のシナリオが挿入される。基本的には少女二人の友情を描いた物語なんだけど、後半の展開は意表を突くもの。有川ひろはこんなダークな話も書けるんだなあと驚いた。引き出しの多い人だ。


3『美人女将、美人の湯にて~刑事真藤真・湯けむり紀行シリーズ~』

 「刑事真藤真・湯けむり紀行」は定番の二時間ドラマ・シリーズだ。
 主役の真藤刑事の相棒として出演するのが若手お笑い芸人の丸太マルタ。しかし彼と関わったことで良介は意外なトラブルに巻き込まれていく。本作中ではいちばんユーモアに溢れたエピソード。


4『みちくさ日記』

 冴えない生物教師と女子高生との恋愛を描き、ベストセラーとなった小説を映画化した『みちくさ日記』。

 良介たちはロケ地にぴったりのレストランを見つけたものの、店主が頑としてOKしてくれない。

 一方で、主役に起用されたタレントについて原作ファンからのバッシングが起きる。"冴えない生物教師" のはずなのに、イケメンで茶髪はおかしいと。
 原作ものの映像化では多かれ少なかれ起こることではある。特に「原作へのリスペクトが感じられない」ってファンが感じたら、騒ぎは大きくなるものだ。

 良介たちは現場にいるから、出演者の苦労や制作陣の思い入れもよくわかるのだが、観客からしたら「出てくる情報」「完成した映像」がすべてだからね。受け入れられるかどうかは蓋を開けてみないことにはわからない。
 本書では映画公開後の反響までは描かれていないのだけど、好意的に受け入れてもらえていたらいいなあ、と切に願ってしまう。


5『TOKYOの一番長い日』

 東都テレビ開局50周年記念映画『TOKYOの一番長い日』。
 国際テロ組織による無差別テロに襲われる東京と、それに立ち向かう警視庁特殊部隊SATの活躍を描く超大作映画だ。

 この仕事の受注に成功した「殿浦イマジン」は沸き立つ。大ヒットすれば続編制作への参加も決まっているという。
 例によってトラブルの連続の撮影だったが、良介たちは総力を挙げて乗り切り、無事に映画の完成にこぎ着けるのだが・・・

 本書とは別に、これはぜひ単独の小説として読みたいなあと思った。
 過去には「自衛隊三部作」や「図書館戦争」を発表してるんだから、そろそろまたパニック・アクション大作を望みたい。だって書ける人なんだから。


 映像制作の現場というのは強烈な個性の奇人変人の集まりかと思いきや、(本書を読む限り)案外そうでもないみたい。でもみな総じてプロ意識の塊で、こだわるものを持っているんだなと感じた。まあそうでなくては人の心を揺さぶる作品は作れないだろうけど。

 中盤から登場してメイン・ヒロインとなる島津幸さんもなかなか魅力的だし、良介のいる「殿浦イマジン」の同僚たちのキャラも立っていて "お仕事小説" としては抜群に面白い。

 現在のところ本書に続編はないけれど、10年後か20年後かの未来、幸が監督として一本立ちし、それを支えるプロデューサーにまで成長した良介、そんな2人の物語を読んでみたいと思った。



タグ:お仕事小説
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かがやき荘西荻探偵局 [読書・ミステリ]


 

かがやき荘西荻探偵局(新潮文庫)

かがやき荘西荻探偵局(新潮文庫)

  • 作者: 東川篤哉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/10/18

 

評価:★★★☆

 


 西荻窪のシェアハウスに暮らすアラサーの女子3人組。家賃の支払いに困った彼女らは、探偵活動の見返りに家賃をまけてもらうことを条件に、西荻を舞台に起こる怪事件の中に飛び込んでいく。

 

 


 女子高生のコスプレを普段着(笑)とする関礼菜、怪しげな関西弁を話す占部美緒、ミステリ・オタクの小野寺葵。3人とも働いていた会社をクビになってフリーター状態。もちろん家賃を払う余裕なんてない。

 

 しかし大家さんである実業家・法界院法子(ほうかいん・のりこ)が持ち込む事件を解決することで家賃が相殺されることになる。

 ”アラサー女子探偵団” となった3人の活躍を描く連作短編シリーズだ。メインの探偵役は推理マニアの葵が務める。

 

 

「Case 1 かがやきそうな女たちと法界院家殺人事件」

 

 成瀬啓介は29歳の独身男。父が残した会社を引き継いだものの、新しい経営陣からは外されてしまう。会社と縁を切った現在は無職だ。

 遠縁の資産家・法界院法子を頼った啓介は、彼女の秘書見習いとして雇われることに。

 その最初の仕事は、彼女が所有するシェアハウスの住人から、滞納している家賃を取り立てること。そのシェアハウスで暮らしてるのが上に書いたアラサー3人組だった。

 

 しかしその矢先、法界院家の屋敷の離れで殺人事件が発生する。そこで生活していた真柴晋作という男が射殺死体となって発見されたのだ。しかも遺体は60インチの大画面テレビの下敷きになっていた。

 

 啓介からその話を聞いた3人組は、事件の真相を解明する代わりに滞納家賃を棒引きしてもらうことを申し出るのだが・・・

 

 シリーズ全体の設定説明を兼ねたエピソード。

 ユーモア・ミステリながら、終盤での葵によるトリック解明と真犯人の絞り込みのプロセスはなかなかの読み応え。

 

 


「Case 2 洗濯機は深夜に回る」

 

 深夜、シェアハウスに帰る途中の礼菜と美緒は、粗大ゴミ置き場で洗濯機を発見する。縦型一槽式の全自動、しかも去年発売されたばかりの最新式。しかも四輪のついた台車の上に載っている。これはもう「持って帰ってください」といわんばかりの状態。

 

 「これはラッキー」とシェアハウスまで運んでくる2人。ひとまず玄関先に置き、ひと寝入りしたが、異様な物音で目覚める。なんと玄関に置いた洗濯機が動いていたのだ。電源につながれ、中では雑巾が入った水がぐるぐる回っているではないか・・・

 

 なかなかインパクトのある謎が提示される。奇妙極まりないのだけど、これが意外と大きな事件につながっていき、その中でこの謎も合理的に説明される。

 

 まあでも実際、この犯人の目論見通りに使えるかとなるとちょっと疑問な気もしないでもないが、そこは許容範囲かなとも思う。

 ユーモアと本格ミステリの融合という点では本書でいちばんの作品だろう。

 


「Case 3 週末だけの秘密のミッション」

 

 法界院法子の知人である会社社長・松原清美。73歳になる彼女の父・浩太郎は母との2人暮らしだが、最近奇行に走っているらしい。

 毎週金曜の夜になると自動車で出かけて、帰ってくるのは10時過ぎ、ときには深夜になることも。父は母に隠れて浮気しているのではないか?

 

 清美から相談された法子は、3人組に調査を命じる。彼女らはさっそく浩太郎の尾行を始めるが、結果は意外なことに。

 浩太郎は家を出ると吉祥寺のマンション工事現場の横に車を駐め、そのままそこに留まり、10時を廻ると家に帰ってきた。その間、誰とも接触していない。愛人との待ち合わせではなかったのか・・・?

 

 今回は "日常の謎" 系のお話だけど、伏線は序盤から堂々と張られている。それなのに読者にそれと気づかせないのはたいしたもの。単に私がニブいだけかも知れないが(笑)。

 

 


「Case 4 委員会から来た男」

 

 コンビニでの買い物を済ませた葵が出会ったのは、立派な身なりの中年紳士。

 「西荻向上委員会副委員長・吉田啓次郎」と名乗った彼は、西荻を宣伝する新雑誌を創刊するという。それに載せる記事にするため、葵にインタビューをしたいと申し出る。

 

 吉田の醸し出す "渋い中年" の魅力に惹かれていく葵。彼が妻と死別していると聞いて思わずガッツポーズをしてしまう(笑)。2人はどんどん親密さを増していくのだが・・・

 

 「あなたは選ばれました」と言われ、思わぬ幸運に有頂天になってしまうという展開は、シャーロック・ホームズの某作品を連想させる(作中でもその作品への言及がある)。しかし、うまい話には裏があるのは世の常。

 今回はミステリというよりはサスペンス。葵に迫る危機を救うのは誰か。

 

 


 本書には続編「かがやき荘西荻探偵局2」がある。これも文庫化されていて手元にあるので近々読む予定。

 

 



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風と行く者 -守り人外伝- [読書・ファンタジー]


風と行く者 (新潮文庫)

風と行く者 (新潮文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/07/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 「精霊の守り人」から始まり、全10巻もの大河ファンタジーとなった「守り人」シリーズの番外編だ。主役である女用心棒バルサの、本編終了後と20年前との2つの時代が描かれる。


 本編のラストから1年半、復興の槌音が響く新ヨゴ皇国。
 用心棒を生業とするバルサは、連れ合いの薬草師タンダとともに訪れた市場で〈サダン・タラム〉と呼ばれる巡礼旅の楽団の窮地を救う。

 20年前、まだ10代だったバルサは、養父ジグロとともに彼らと旅をしたことがあった。当時の女頭だったサリはいま病床にあり、その娘である19歳のエオナが新たな頭となって、聖地〈エウロカ・ターン〉へ向かう旅の途上にあった。

 〈サダン・タラム〉の一行は、何者かに狙われているらしい。彼らを聖地へ近づけたくない勢力が蠢いているようだ。
 護衛を依頼され、引き受けるバルサ。その理由は、エオナはサリとジグロの娘ではないか、と感じたことだ。ならば彼女はジグロの忘れ形見、バルサとは義理の姉妹ではないか・・・

 バルサは一行とともに、聖地のある隣国・ロタ王国へと向かう。
 そこは、ロタ氏族が支配する地。国の中枢も実権もロタ氏族が握り、ターサ氏族などの少数氏族の勢いは先細り、いずれは消滅するものと見られている。
 しかしだからこそ、ターサがロタに向ける憎悪は激しい。聖地〈エウロカ・ターン〉はターサの支配する土地にあり、一行が狙われるのも、この氏族対立が背景にあると思われるが・・・


 本書は三章建てになっているのだが、第一章はバルサが〈サダン・タラム〉の護衛を引き受けて旅立つまでが語られる。
 そして第二章はほぼまるごと過去編。20年前のジグロとバルサ、そして女頭サリの率いる〈サダン・タラム〉の物語でもある。

 本編中ではほとんど出番がない(本編開始前に亡くなってるからね)ジグロだが、本書では200ページ以上にわたって彼の活躍が存分に描かれる。
 本編では無双状態のバルサだが、20年前ではまだまだ未熟。ジグロに手ひどく叱られ、厳しく鍛えられる発展途上の戦士だが、その中でも着実に成長してゆくところを見せるのは、さすがの主役ぶり(笑)。

 そして第三章では再び現在に戻る。〈エウロカ・ターン〉に隠された秘密、〈サダン・タラム〉が狙われる理由があきらかになっていく。
 このあたりはちょっぴりミステリっぽい。情報が全部明かされているわけではないので、読者が推理するのはちょっと無理だろうけど、納得のいくストーリーが提示される。

 そして二つの氏族間における対立と憎悪の中、バルサは一つの解決策を見いだすのだが・・・


 本編以外の「守り人」シリーズの作品もいくつか書かれているけど、みんな短編ばかり。その中で、本書は450ページほどの長編(まあ半分は回想シーンなんだが)で、なかなか読み応えがあった。バルサとタンダが "その後" の世界でも順調に(平穏ではないが)生きていることがわかって、素直にうれしい気持ちになる。

 こうなると、もっと知りたくなる。あの人はどうなったのか、この人はどうなったのか・・・
 巻末の解説で大矢博子氏も書いてるけど、チャグムの嫁取りの話は、読みたい話の筆頭だね。思いを同じくするファンの方も多いと信じる。いつかその話が読めることを願って。



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