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後ろ姿の聖像 もしもお前が振り向いたら 有栖川有栖選 必読! Selection 9 [読書・ミステリ]


有栖川有栖選 必読! Selection9 後ろ姿の聖像 もしもお前が振り向いたら (徳間文庫)

有栖川有栖選 必読! Selection9 後ろ姿の聖像 もしもお前が振り向いたら (徳間文庫)

  • 作者: 笹沢左保
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/02/08
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 工場の駐車場で発見された死体は、元女性歌手だった。彼女は8年前の有名作曲家が殺された事件の目撃者であり、その犯人の沖圭一郎(おき・けいいちろう)は10日前に刑期を終えて出所していた。
 警察は沖の "お礼参り" とみて捜査を行い、沖の主張するアリバイを崩すことに成功するが、その後、彼には別の "完璧なアリバイ" が存在していたことが判明する。沖があえて脆弱なアリバイを主張して、罪を被ろうとしていたのはなぜなのか・・・


 東京都調布市にある工場の駐車場で絞殺死体が発見される。被害者は元歌手の十津川英子・38歳。8年前に起こった殺人事件の目撃者だった。その事件の犯人は沖圭一郎。英子の証言で逮捕された彼は懲役8年の刑に服し、10日前に出所していた。警察は沖が犯人とみて捜査を始める。

 沖は売れない作詞家で、女優・伊吹マリのマネージャーでもあった。
 マリは高校2年生の時に有名監督の目にとまり、女優デビューすることになった。妹の芸能界入りを心配したマリの姉・アキが、自分の恋人である沖に妹のマネージメントを託したのだった。

 マリの出演した映画は大ヒットし、彼女は一躍スターとなった。そんな中、売れっ子作曲家の船田元から、マリを歌手デビューさせないかとの申し入れが。
 しかし船田は女癖が悪く、時に "枕営業" を強いるという噂もあって、沖は断るつもりだった。

 一ヶ月後、歌手の十津川英子と共に船田の別荘を訪れた沖は、マリのために船田が用意した新曲『そのとき』の楽譜を目にする。そこに書かれてあった歌詞には「作詞:船田元」との表記が。しかしそれは沖が書いたものだった。
 盗作されたと激高した沖が船田と激しく口論する一部始終を英子は聞いていたのだった。逮捕された沖には懲役8年の刑が下った。彼は控訴しなかったために刑が確定、収監された。

 警察側の登場キャラは、若手の御影正人(みかげ・まさと)警部補とベテランの荒巻行男(あらまき・ゆきお)部長刑事の二人。
 荒巻はなぜか捜査開始早々から沖を犯人と決めつけて捜査をすすめていく。

 沖は事件当日、九州の福岡へ旅行に行っていたというが、荒巻の捜査によってそのアリバイは脆くも崩れ去ってしまう。
 しかしその直後に意表を突く展開が起こり、さらに沖には九州ではなく北海道へ行っていたという事実が判明する。それには複数の第三者の証言もあり、まさに "完璧なアリバイ" だった。

 そんな強固なアリバイを持っていながら、なぜ沖はあえて脆弱なアリバイを主張して、罪を被ろうとしていたのか・・・?

 ここまでで本編のおよそ約半分。そして後半に入り、御影警部補によって沖の秘めた想い、そして意外な真犯人が明らかになっていく。


 本書のタイトルなのだけど、これはもともと『もしもお前が振り向いたら』というタイトルで雑誌連載され、単行本化されたときに『後ろ姿の聖像』となったそうな。
 ところが再刊されたときには、作者の意向で元の『もしも-』に戻されたりといろいろややこしい経緯があったよう。そこで復刊に当たっては二つのタイトルをつなげてしまったということらしい。


 さまざまな登場人物たちの愛と憎しみ、それに翻弄されていく沖の姿が哀感を誘う。アキとマリの姉妹も、それぞれ波乱に満ちたドラマチックな人生を歩んでいくのだが、そのあたりは読んでのお楽しみだろう。

 連載時のタイトルだった『もしもお前が振り向いたら』は、作中で沖が作詞した一節からとっている。読み終わってみると、この言葉に沖の想いが集約されていたことに気づかされて、実に秀逸な題名だったことが分かる。



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