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法廷遊戯 [読書・ミステリ]


法廷遊戯 (講談社文庫)

法廷遊戯 (講談社文庫)

  • 作者: 五十嵐律人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/04/14

評価:★★★★☆


 久我清義(くが・きよよし)と織本美鈴(おりもと・みれい)は、弁護士を目指してロースクールへ通っている。しかしある日、久我の出自を暴露する文書が出回り、美鈴はストーカー被害に遭い始める。犯人は二人の "過去" を知る者なのか?
 やがて殺人事件が起こり、美鈴は容疑者となる。久我は彼女の無実を証明すべく、弁護士となって法廷に立つが・・・
 第62回メフィスト賞受賞作。


 法都(ほうと)大ロースクールに通う学生たちの間では、"無辜(むこ)ゲーム" と呼ばれるものが行われていた。"無辜" とは罪の無いこと、無罪のことをいう。
 学生たちの間で起こる "些細な事件" を、学生たちだけで「模擬裁判」を開いて解決しようというものだ。場所はスクール内にある模擬法廷を使う。

 ある日、久我の "過去" を暴く文書と写真が出回った。児童養護施設に入所していた16歳の時、施設の職員に対して傷害事件を起こしたという新聞記事と、施設時代の久我が写っている写真だ。

 久我の要請で "無辜ゲーム" の開催が決まる。"裁判長" は結城馨(ゆうき・かおる)。既に司法試験に合格している俊英だが、弁護士にならずにスクールに在籍しているのは、大学に残って研究者になるためらしい。

 "無辜ゲーム" の中で "犯人" は明らかになるが、新聞記事と写真は、誰かが "犯人" のロッカーの中に置いていったものだという。

 そして、美織の身辺にストーカーの影が現れる。久我の活躍で "実行者" を押さえることに成功するが、彼にストーカー行為を依頼した ”黒幕” は不明のまま終わる。

 久我と美織は、かつて同じ児童福祉施設で生活していた。二人の過去を知る者が一連の事件を起こしているのか・・・?

 やがて久我と美織は司法試験に合格する。司法修習を終えた頃、結城からメールが入る。
「ある人物から告訴の申し立てがあった。久しぶりに無辜ゲームを開く。再会を楽しみにしている」

 指定された日時に、ゲームの会場となる模擬法廷に入った久我が見たものは、胸から血を流して横たわる結城の死体、その傍らには全身に返り血を浴びた美織、そしてその手にはナイフが・・・

 ここまでで全体の約1/3。これ以後、物語の舞台は裁判に移る。

 警察は美織を容疑者として起訴し、弁護士となった久我は美織の弁護人となって法廷に立つ。しかし美織は「私を信じて」と云うばかりで "事件" については口を閉ざしてしまう。

 状況は圧倒的に不利、いったん起訴すれば有罪率99%以上を誇る検察に対して、久我の孤軍奮闘が始まる・・・


 主役である久我、美織、結城の3人は言うに及ばず、彼らのロースクール時代の指導教員である奈倉(なくら)准教授、弁護士となった久我のもとで働く事務員・佐倉咲(さくら・さく)ちゃんなど、それぞれみんなキャラ立ちが素晴らしい。

 ストーリーに絡むのは、ほぼ主役の3人(しかもそのうち1人は死者)しかいないのに、文庫で400ページを超える物語を構築してみせる。当然ながら、表面に現れている事件の下には、重層的な "仕掛け" が隠されている。

 単純な刺殺事件かと見えても、その真相は二転三転、さらには物語の終結点に至るまで、作者の ”仕掛け” が何度も炸裂し、予想を越える "揺り返し" がやってくる。
 本書の終盤はまさに、作者の手のひらの上で "翻弄されている" 気分。読者は作者に引っ張られるままに最終ページまで突入していくだろう。

 法律用語や裁判の進行について必要な知識も、必要なところで必要なだけ解説されるので、分かりにくさはなく、逆に知識が与えられた故に作者の "狙い" が見えてきて、「なるほど!」「そうだったのか!」と納得できてしまう。このあたりの案配も巧みだ。

 裁判を扱ったミステリはけっこう読んできたが、本書はその中でもベスト級の作品だ。物語の展開も圧倒的だし、久我と美織のサスペンス溢れるラブ・ストーリーとしても一級品だろう。
 それに加えて、被告・被害者に限らず、裁判というものが、関わった人間たちの人生が凝縮された ”場” なのだと云うことを、これほど感じさせられたのは初めてだ。
 これがデビュー作だというのだから畏れ入る。将来が楽しみな作家さんだ。



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