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内なる宇宙 [読書・SF]


内なる宇宙 上 巨人たちの星シリーズ (創元SF文庫)

内なる宇宙 上 巨人たちの星シリーズ (創元SF文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/10/19
内なる宇宙 下 巨人たちの星シリーズ (創元SF文庫)

内なる宇宙 下 巨人たちの星シリーズ (創元SF文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/10/19

 月面で発見された、宇宙服を着た遺体。それは五万年前のものだった・・・名作SF『星を継ぐもの』から始まる、地球人と異星人ガニメアンを巡る物語の4作目。

 ガニメアンの庇護下にあるジェヴレン人は、今まで彼らの生活を支えていた巨大コンピュータ・システムを失い、社会が不安定化していた。
 彼らを暫定統治しているガニメアンを支援すべく、地球人の科学者ヴィクター・ハント博士たちがジェヴレンにやってくる。ハントたちは、無気力化したジェヴレン人たちの背後に巨大な陰謀が存在することに気づくのだが・・・

* * * * * * * * * *

 作者であるホーガンはよほど日本が好きなようで(日本でバカ売れしたからね)、本書の冒頭には「日本版への序」なる文章を寄せている。しかし、なんと本書の根底に関わるネタバレも書いてあるんだよねぇ。まあ、そこのところを明かしてしまっても本書は充分に面白いと、本人には自信があったのかも知れないが。

 事前情報をなるべく入れずに読みたい人は、この「日本版への序」は飛ばしてしまおう。読んでいなくても全く支障はない。

 逆に、あまり考えずに手っ取り早くストーリーの全体像をつかみたいなら、読んでおいた方がいいとも思う。
 もっとも、本書の刊行された1991年ならともかく、現代では本書の内容に時代が追いついてしまっている部分もあるので、伏せられていたとしても読んでいるうちに気づいてしまう人も多いんじゃないかな。まあこのあたりは "お好み" で。


 閑話休題。では本編の紹介を。


 太古の時代より密かに人類社会に干渉し、地球人の進歩と台頭を抑えようとしてきたジェヴレン人。さらに彼らは、庇護者であるガニメアンに対する反乱まで企てていたが、ハントらが主導して仕掛けた "架空戦争" に敗れ、首謀者たちは一掃された。(前作『巨人たちの星』)

 ガニメアンの社会は、彼らが築き上げた巨大AI&ネットワーク・システムである "ヴィザー" が社会の基本インフラとなっている。
 ジェヴレン人も "ヴィザー" と同様の "ジェヴェックス" というシステムがあらゆる生活の基盤を司る重要インフラとなっていたが、"架空戦争" に敗れたことによって彼らは "ジェヴェックス" との接続を断たれてしまい、社会全体が不安定化していた。

 そこで暫定統治に乗り出したガニメアンだったが、ジェヴレン人とは精神構造とメンタリティが異なるため、彼らの扱いに苦慮していた。

 そこでガニメアンを支援するべく、地球の科学者ヴィクター・ハントたちがジェヴレンへやってきた。
 ジェヴレン人たちは無気力化し、胡散臭い新興宗教が跋扈し始めていた。さらに、ある日を境に人格が全く別の他者のものへと入れ替わってしまう、という謎の現象が多発していた・・・


 本作の重要なパーツは、社会を支えるインフラとしてのネットワーク・システムだ。ガニメアンが築き上げた "ヴィザー" はAI人格を備え、情報通信はもちろん社会のあらゆるものを制御している。
 さらにVR技術も最高レベルへ到達している。脳神経に直接つながることで、五感のすべてに働きかけて究極の "体感" を実現している。
 例えば地球にいながらして20光年先のガニメアンの星に立ち、そこでのすべてを五感を通じて "経験" することもできる。要するに、"究極の仮想現実体験" を可能にしているわけだ。

 同様のことは "ジェヴェックス" でも実現できていたが、"架空戦争" に敗れたジェヴレン人は "ジェヴェックス" を利用することができなくなってしまう。
 生活の利便性を一気に失ったジェヴレン人は無気力状態に陥り、社会は不安定化する。その間隙を縫うように胡散臭い新興宗教が勃興し、非合法で "ジェヴェックス" と接続できるサービスを提供する地下組織まで現れる。しかしそれらの背後には、"ある勢力" による陰謀が隠されていたのだ・・・


 そして本書では、本編の合間にもう一つのストーリーが並行して語られていく。そこは一見すると地球の中世のようにも見えるのだが、我々の世界とは異なる物理法則に支配されている。
 作中では便宜的に "ファンタズマゴリア" と呼ばれているのだが、この世界がどう本編のストーリーに関わってくるかが本作のキモだ。


 冒頭にも書いたが、高度な情報通信環境やAIが進歩してきた現代は、本作の内容に "部分的に追いついて" きており、また未だ実現していなくても "その背中が見えてきた" 技術もある。何よりタイトルの『内なる宇宙』が大ヒントになっていたりする。
 前作の時にも書いたけど、発表から33年経った現代でも面白く読めるし、現代だからこそ読む価値があるSFでもあろうと思う。


 前作の記事で、シリーズ第五巻『ミネルヴァ計画(仮)』の刊行が遅れていると書いたが、いよいよこの12月に刊行されるらしい。
 第三巻『巨人たちの星』の終盤で、ジェヴレンの反乱首謀者たちは逃亡中に時空を超越して "ある場所" へと転移してしまったことが示されていたのだが、その後どうなったかは判らないまま終わっていて、いささか消化不良の思いがあった。
 しかし東京創元社の公式サイトによると、第五巻では彼らが再登場するとのこと。私も "あいつら" の行く末までちゃんと描かないと完結とは云えないと思っていたので、これは朗報。期待して待ちましょう。



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KAIJU黙示録 [読書・SF]


KAIJU黙示録 (アポカリプス) (竹書房文庫)

KAIJU黙示録 (アポカリプス) (竹書房文庫)

  • 出版社/メーカー: 竹書房
  • 発売日: 2017/09/21

評価:★★


 未曾有の気象変動が地球を襲い、海水面は上昇、多くの陸地が沈んだ。わずかに生き残った人類は文明の再興を目指すが、そこへ異形の巨獣〈KAIJU〉が出現した!

* * * * * * * * * *

 全体は三部構成になっている。



「レムーラの勝利」
 未曾有の気象変動が地球を襲い、海水面は上昇、多くの陸地が沈んだ。わずかに生き残った人類は文明の再興を目指すが、そこへ異形の生物〈KAIJU〉(怪獣)が出現する。
 80mを超える巨獣である "マザー" が5体出現し、それによって内陸部へと追いやられる人類。怪獣に対抗して最新鋭の兵器を備えた "基地" が各地に建設された。
 しかし "マザー" に続けて出現したのは身長3mの小型怪獣・"ドッグ"。無数に沸いて出た彼らによって、人類の基地は次々に潰されていく。そして今、最期に残ったのがレムーラ基地だった。
 ジャコビー・バッチ博士は、戦闘時の "ドッグ" からある種のエネルギー波が発せられていることを検知した。そこから怪獣たちをコントロールしている "オーバーマインド" とも云うべき個体がいるという仮説を立てる。
 レムーラ基地は、その "オーバーマインド" が存在していると思われる島へ特殊部隊を派遣、急襲するのだが・・・


「アルゴー号の帰還」
 気象変動が始まった頃、地球を脱出して他星系への移住を目指して建造された宇宙船アルゴー号。人工冬眠した数千人の植民者を載せ、怪獣が出現して猛威をふるい始めた地球を後にして、ケンタウルス座α星系へと向かった。
 しかしその星系にあった居住可能な惑星には、すでに二足歩行の知的生物が存在していた。文明レベルは低いが、彼らを排除するには時間と武器が足りない。
 残りのエネルギーも乏しいことからアルゴー号は地球に帰還することに。出発から2年が経っていたが、地球では相変わらず怪獣たちが跋扈していた。
 作中では明示されていないが、この時点で前章「レムーラの勝利」から数ヶ月後のことと思われる。レムーラ基地は "オーバーマインド" の撃破には成功したものの、その勝利はあくまで一時的なものだったようだ。
 アルゴー号は、廃墟となっているレムーラ基地へと調査隊を降下させる。彼らの前に現れたのは辛うじて生き残った者たち、そして "マザー" を遙かに超える巨獣だった・・・

 驚くことに、アルゴー号はワープ機関を装備している。だから1年もかからずに目的地へ到達する。ちょっと技術的なギャップが大きすぎる気もするが。
 アルゴー号を含め、この章の設定は日本のアニメ映画『GODZILLA 怪獣惑星』(2017)とダブるところがある。本書(原書)の刊行は2014年らしいが、このあたりは偶然だろう。内容というかテイストもかなり異なるし。


「黙示録の終焉」
 怪獣と人類の、地球の覇権を賭けた最期の "戦い" が描かれるのだが・・・


 ラスボスとも云える超巨大怪獣の設定や、それへの人類の対抗策については好みが分かれそう。文明や人類の終焉を描いた "終末SF" の一作としてみれば評価する人もいるかもしれないが・・・

 正直なところ、読む前は "超B級" とか "ゲテモノ小説" というイメージがあった。だいたい文庫表紙のイラストからして、そんな雰囲気がぷんぷん。
 でも内容はアクションSFとしてはそれなりに読ませる出来になっていて、"意外とまとも"(笑)だったのはちょっとビックリ。
 でもそれだけに、この結末はちょっと残念。私としては、SFとして "もうひとひねり" がほしかったところ。



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巨人たちの星 [読書・SF]


巨人たちの星 巨人たちの星シリーズ (創元SF文庫)

巨人たちの星 巨人たちの星シリーズ (創元SF文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/09/11

 月面上で発見された宇宙服を着た死体。しかしその推定年代は五万年前・・・という魅力的な謎から始まった『星を継ぐ者』。
 かつて存在した惑星ミネルヴァに生まれた知的生物ガニメアン。2500万年前に太陽系を旅立った彼らの宇宙船〈シャピアロン〉号が、相対論的時差によって現代の太陽系に帰り着き、人類とファースト・コンタクトを果たした『ガニメデの優しい巨人』。

 新天地へと移住していったガニメアンたちを追って〈シャピアロン〉号が太陽系を離れた直後、冥王星の彼方から通信が届き始める。どうやら地球は、遙かな過去からガニメアンによって監視されていたらしい・・・

 名作SFシリーズ、第三作。

* * * * * * * * * *

 ガニメアンたちが移住先として選んだのは、地球から20光年離れた星系と思われた。〈シャピアロン〉号は仲間を追い、そこに存在する〈巨人たちの星〉を目指して太陽系を旅立った。

 しかしその直後、〈巨人たちの星〉にいるガニメアンたちから地球に通信が届き始める。しかも、"彼ら" は〈シャピアロン〉号とまだ接触していないはずなのに、地球のデータ転送コードに則り、なおかつ英語でメッセージを伝えてきたのだ。

 どうやら地球は、遙かな過去からガニメアンによって監視されていたらしい。国連は通信チームを組むが、各国の足並みの乱れから交信計画は遅々として進まない。

 ガニメアン関係の調査チームを束ねる物理学者ヴィクター・ハント博士たちは、独自にガニメアンとの通信回線を開くことに成功した。これにより、アラスカの基地へ "彼ら" の宇宙船がやってくることに。

 その宇宙船内で、改めて "コンタクト" を果たしたハントたちは、新たな事実を知らされる。
 ガニメアンたちはテューリアンという統一政府をもつこと、周辺のいくつかの星系にも植民を果たしていること、地球の監視は、惑星ジェヴレンの住人たちに任されていたこと・・・

 そしてなぜかテューリアンは、地球人に対して過度の警戒心を抱いているようだ。その原因は、ジェヴレン人の "報告" にあった。そこに描かれていたのは、現在の状況とはかけ離れた地球人の姿だったのだ・・・

 物語はこの後、ジェヴレン人の正体、その遠大な野望、それに対抗しようとする地球側、テューリアン側の攻防を描いていく。


 『星を継ぐ者』の記事にも書いたが、本書の刊行は1981年。なんと40年以上も前の作品だ。ソビエト連邦が国家として存続していたり、冷戦状態はとっくに終わり、思想的・宗教的対立も過去のこととなって世界が平和になり、軍縮で余った予算が宇宙開発に転用されているなど、作品内に描かれた2030年代の地球の姿は現在と比べると平和すぎて苦笑してしまう。

 しかしそれ以外の部分、特にデータネットワーク社会の描写は、今読んでも全く古さを感じさせない。
 本作ではさらに、ヴァーチャル・リアリティ、CGを駆使したフェイクニュース、仮想空間内での "戦争" などが登場する。これら40年前には空想の産物だったであろう技術が、現代では実用化されてしまった。
 改めて読み直してみると、個々のシーンが容易に想像でき、より深く理解できるようになった。そういう意味では、今だからこそ読む価値があるとも思う。

 ガニメアンたちは2500万年前に太陽系を離れたにもかかわらず、生物学的な外見はほとんど変化(進化)しておらず、科学技術も進歩してはいるが2500万年もの時間差があるとは思えない。読んだ感じでも、その差はせいぜい数十年~百年くらいというところ。
 しかしそこはハードSFの巨匠ホーガン。しっかり、そのあたりの理由も説明されていく。これもなかなか意外な経緯が潜んでいる。

 前二作では、男性キャラばかり目立って女性はほとんど存在感がなかったのだが、本作では女性が大活躍する。
 国連宇宙軍本部長の秘書でハントの恋人でもあるリン・ガーランド、国連の合衆国代表カレン・ヘラーは、それぞれストーリー展開で重要な役割を担う。

 本書が刊行された1981年は『スターウォーズ』ブームの真っ最中(『帝国の逆襲』の公開が1980年)。そのせいかは分からないが、クライマックスではスターウォーズ並みの大艦隊が宇宙を飛び交う。このあたりも読みどころだろう。


 ラストでは、地球とテューリアンが手を携えて新たな未来へと歩み出すまでが描かれて大団円となる。
 当初はここで終わって「三部作」とされていたが、この10年後の1991年には第四作『内なる宇宙』、2005年には第五作 "Mission to Minerva" が刊行された。

 『内なる宇宙』は手元にあるので近々再読するつもり。第五作は『ミネルヴァ計画(仮題)』という名で邦訳刊行予定とアナウンスがあって、23年末か24年頭くらいの刊行のはずがまだ出てない。
 いつになるんでしょうかね? ていうかホントに出るのかな?



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ガニメデの優しい巨人 [読書・SF]




 月面で発見された "五万年前に死んだ男"・チャーリー。世界を挙げた調査が始まったが、そのさなか、木星の衛星ガニメデで見つかったのは2500万年前の異星の宇宙船。
 乗っていた異星人・"ガニメアン" の正体を突き止めようとする木星探査隊。しかしそのとき、外宇宙から木星圏に接近する未確認物体が。それは相対論的時差によって現代へやってきたガニメアンの宇宙船だった・・・

 名作『星を継ぐ者』、シリーズ第二作。

* * * * * * * * * *

 月面で発見された 赤い宇宙服を着た死体。その死亡推定年代は五万年前。
 "チャーリー" と名付けられた遺体の調査に世界中が総力を挙げていた頃、木星の衛星ガニメデで異星の宇宙船が見つかる。その推定年代は2500万年前。
 内部に残っていた異星人の遺体は身長2mを超える人型生物だった。
 彼らは "ガニメアン" と名付けられた。

 前作のテーマはチャーリーの正体の解明であり、ガニメアンの存在もそのための "手がかり" のひとつ、という位置づけだった。
 本作はそのガニメアンと地球人の "ファースト・コンタクト" がテーマとなる。


 かつて太陽系に存在していた惑星・ミネルヴァに生まれ、進化してきたガニメアンたちは、高度な文明を築き、恒星間航行を可能にするまでの科学技術を手にしていた。

 〈シャピアロン〉号(作中に登場するガニメアンたちは、自分たちの船をこう呼ぶ)は、ある目的を持って太陽系を出発した。しかし滞在中の恒星系で "トラブル" が発生、太陽系に帰還することに。しかし推進機に故障を生じ、急減速ができなくなった。
 そのため、緩やかな減速を強いられることになったが、その間も〈シャピアロン〉号は亜光速で航行し続ける。そのため、減速に必要な20年(船内時間)の間に、相対論的効果で太陽系では2500万年が経ってしまい、結果として "現代" へやってきた、というわけだ。

 そしてガニメアンたちは地球人と "ファースト・コンタクト" を果たす。だがしかし・・・


 本作の目玉は、ガニメアンの設定だろう。タイトルに「巨人」とあるのは、上にも書いたように身長が人類を上回ることからきているが、重要なのは「優しい」とあること。

 実は彼らには「闘争本能」というものが存在しない。およそ「他者と争う」という発想そのものがないとも云える。
 SFに登場する異星人は、程度の差はあれ「他の生物と競う」ものだったりするし、結果として意識的か無意識的にかはともかく、その存在が人類に対して脅威になったりするものが多い。
 そういう意味ではガニメアンの設定は特異なものといえる。もし「平和主義者な異星人」というランキングがあれば、間違いなく優勝候補だろう(笑)。

 そして本書が優れているのは、ガニメアンがそういう資質を身につけた理由を、彼らの進化の過程を追いながらきっちり説明してあることだ。

 最初は恐る恐る遠巻きに見ていた地球(の一般)人たちも、やがて彼らの "友好的な性格"  を知り、一転して大歓迎に変わっていく当たりはご愛敬か。

 もっとも、それだけでは物語にならない。実はガニメアンたちには、"ある秘密" があったのだ・・・


 今回活躍するのは、前作にも登場していた生物学者クリスチャン・ダンチェッカー博士。前作でのチャーリーの正体について、大胆な仮説で決着をつけたヴィクター・ハント博士の最大のライバルであり、論敵だった人物だ。
 前回はハント博士に後れをとったが、今回は見事にガニメアンたちの ”秘密” を解明してみせる。


 2500万年前に〈シャピアロン〉号が太陽系を出発した後(地球時間でもさほど間を置かず)、ガニメアンたちは種族を挙げて太陽系から去って行った。他星系へ移住するためである。
 その理由も作中で語られる。実は〈シャピアロン〉号が他星系へ ”遠征” したのも、それに関連している。
 本作のラストで、推進機の修理を終えた〈シャピアロン〉号は、仲間を追って再び太陽系から旅立つのだが・・・

 この続きは第三作『巨人たちの星』にて(本作はもともと、第一作と第三作をつなぐための要素が大きいように思う)。
 これも手元にあるので、近々読む予定。


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サイボーグ009 トリビュート [読書・SF]


サイボーグ009トリビュート (河出文庫 い 42-2)

サイボーグ009トリビュート (河出文庫 い 42-2)

  • 作者: 石ノ森 章太郎
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2024/07/08
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 1964年7月より連載が開始された、石ノ森章太郎のマンガ『サイボーグ009』。
 今年はその60周年と云うことで、記念するアンソロジーが編まれた。それが本書。
 "九人の戦鬼" ならぬ "九人の作家" による、九つの物語。

* * * * * * * * * *

 作者の逝去により未完となった作品だったが、2012年に生前の構想をベースとした小説『サイボーグ009 完結編 2012 009 conclusion GOD'S WAR』が刊行されて、公式に "完結" を迎えた。このブログでも記事に書いた。

 ただまあ、その内容があまりにも○○だったので、「もう『009』には金輪際、手を出すまい」と心に決めていた(おいおい)。

 ところが、かみさんと二人で散歩中に立ち寄った書店の陳列棚で本書を見つけた(見つけてしまった)。思わず手に取り、パラパラめくっているうちに、気づいたらレジに並んでた。
 横でかみさんが訝しそうな顔をしていたのだけど、こういうものを見せられたらもう、買うしかないじゃないか・・・『009』の呪縛、恐るべし(笑)。


「平和の戦士は死なず」(辻真先)
 『サイボーグ009』の最初のTVアニメ化は1968年。"赤いマフラ~、なびかせて~" と始まる主題歌と、モノクロでの映像をリアルタイムで経験した世代は、もう還暦を超えて古希に近いだろう(私だ)。
 辻真先は御年92歳でありながら現役のミステリ作家。68年(当時36歳)のTVアニメ版には脚本家として参加、「太平洋の亡霊」などの名エピソードを産み出した。本作は、彼が手掛けたTVアニメ版の最終回を自らノベライズしたもの。
 パブリック共和国とウラー連邦という二つの超大国が対立している時代、パブリック共和国の隣にある小国ラジリアが、ウラー連邦から密かに核兵器を入手しようとしていた。
 その背後には、かつて "黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)" に所属していた科学者バランタインが暗躍しているらしい。
 この陰謀を阻止すべく、ジョー(009)たち4人のサイボーグ戦士はラジリアの豪華客船に潜入する・・・
 キューバ危機(1962年)を彷彿させる設定は、さすがに時代を感じさせる。ラストシーンは、マンガ版『地底帝国ヨミ編』(1966~67)の結末へのオマージュになってる。


「アプローズ、アプローズ」(斜線堂有紀)
 本来はマンガ版の完結編として書かれた『地底帝国ヨミ編』。主人公死亡によって終了かと思われたが、諸般の事情によって復活(笑)、連載も再開される。
 ”あのラスト” からどうやって生還したのか。続編の中でも簡単に言及があったが、本作はその部分を膨らませたエピソード。
 最期のページのジョーの台詞が泣かせる。


「孤独な耳」(高野史緖)
 1984年、ソ連の政治局員タラソフの暗殺計画の存在をつかんだギルモア博士。タラソフがモスクワで開かれる全世界国際バレエコンクールに出席することから、暗殺もそこで行われる可能性が高いとみて、フランソワーズ(003)はコンクールに出場することに・・・
 超常の視覚聴覚を持つがゆえの、彼女の苦悩が描かれる。


「八つの部屋」(酉島伝法)
 "黒い幽霊団" はゼロゼロナンバーサイボーグ開発のため、さまざまな人種から "素材" を選んできた。その一人、アメリカ人のジェット・リンクが、"002になるまで" を描く。
 開発には事故やトラブルがつきもの。それらを一つずつ克服し、"完成" に近づいていくが、本人も葛藤が尽きない。
 やがて九人目のサイボーグ・009が "完成" し、そのときから本編『誕生編』が始まる。本作はそれに至るまでを描いた、いわば「エピソード0」。


「アルテミス・コーリング」(池澤春菜)
 バレエ公演で日本を訪れていたフランソワーズは、コノコと名乗る少女と知りあう。交流を深めていく中で、コノコの周囲に "見回り" と呼ばれる存在がつきまとっていることを知るが・・・
 戦闘から一歩引いていることが多いフランソワーズが、主体となって戦うという珍しいエピソード。
 作者は声優歴30年のベテラン。エッセイ等の文筆家としても知られ、近年は小説も執筆している人。


「wash」(長谷敏司)
 "黒い幽霊団" によって改造されてから60年の歳月が流れた。故国・ドイツの街を訪れた004(アルベルト)は、007(グレート)と旧交を温めているさなか、謎の集団に襲われる。
 その一人を捕らえてみると、なんとも旧式なサイボーグだった。彼から得た情報で、稼働停止した火力発電所の地下に、"黒い幽霊団" のサイボーグたちが冷凍睡眠されたまま、大量に保管されているという・・・
 文庫で約90ページと、本書の中で最も長い。終盤では9人の戦鬼が勢揃いして戦うという大サービス。
 60年経っても戦い続けているのは、ファンからすれば素晴らしいことなのだが、彼らの身になってみると、ちょっと哀しい気もするなぁ・・・


「食火炭」(斧田小夜)
 006(張々湖:チャンチャンコ)が営む飯店の定休日、そこを訪れた一人の男。そこから006の回想が始まる。それは "黒い幽霊団" によって改造される前の日々だった・・・
 コメディ枠としての出番が多いキャラだけど、今回はシリアス(笑)。


「海はどこにでも」(藤井太洋)
 衛星軌道にある造船ステーションで、火星への出発に向けて整備を受けているサンタマリア二世号。乗組員のアマニは、オロナナという老技術者と知りあう。自然公園監督官という変わった前歴を持つ男だ。
 しかし、サンタマリア二世号にデブリが衝突、地球との交信を司るアンテナが損傷してしまう・・・
 ファンならすぐ判るが、オロナナの正体は008(ピュンマ)。深海用サイボーグだが、実は無重力空間での活動に一番適しているのが彼だった、というのは目からウロコだった。たしかに、宇宙飛行士は水中で船外活動の訓練をしているよねえ。
 008が主役の話というのも、あまり記憶にない。そういう意味でも貴重なエピソードだろう。


「クーブラ・カーン」(円城塔)
 ただ一人、生身の身体を保っていたギルモア博士だが、ついに寿命を迎えた。しかし彼の知識や判断能力を電子化した、”システム・ギルモア” が残された。
 サイボーグたちのメンテナンスはもちろん、精神的なよりどころとなっていたギルモア博士。しかしAI化され、広大なネットの海と、膨大なデータにつながった "彼" は、果たして生前のギルモア博士の "遺志" を継いでいるのだろうか? それとも・・・
 死者をAIを使って甦らせる、なんてことは昨今のニュースにもあったし、タイムリーなエピソードだろう。いまは映像の再現くらいで済んでるが、将来的には本作のように知識も思考も ”死者を完コピ” したようなAIが登場するのだろう。それがいいか悪いかは別として。
 この作者の話は(私にとっては)ムズかしくて分かりにくいので苦手なのだが、今回は "素材" のおかげでなんとかなったかな(笑)。



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三体III 死神永生 [読書・SF]


三体3 死神永生 上 (ハヤカワ文庫SF)

三体3 死神永生 上 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2024/06/19
  • メディア: 文庫
三体3 死神永生 下 (ハヤカワ文庫SF)

三体3 死神永生 下 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2024/06/19
  • メディア: 文庫

評価:★★★★ (シリーズ全3巻を通じて)


 太陽系へ迫る三体艦隊に対抗すべく立案された「面壁計画」。
 それと並行して進められていた「階梯計画」は、三体艦隊へ向けて有人探査機を送り込もうというものだった。それを推進したのは航空宇宙エンジニア・程心。そして "乗組員" として選ばれたのは彼女の旧友・雲天明だった。
 一方、面壁者・羅輯がつかんだ "この宇宙の真理"・「暗黒森林理論」。これによって三体艦隊との交渉の結果、二つの文明は危ういバランスのもとながら、相互の生存を保証する "抑止状態" へと移行する。しかし・・・

 世界的ベストセラー『三体』シリーズ第三巻にして完結編。

* * * * * * * * * *

 まず最初に星の数の説明をしよう。
『三体』が星4つ半、『三体II 黒暗森林』が星4つ半、そして本書『三体III 死神永生』が星3つ。よって、シリーズ全体を平均しての評価は星4つ、ということになる。
 本書だけ星が少ない理由は、これから書く。


 まずは本書の紹介から。

 本書は第一部から第六部までの構成なのだが、第一部では時間軸が巻き戻され、三体艦隊の地球襲来が明らかになって「面壁計画」が始まった頃が舞台となる。

 雲天明(ユン・ティエンミン)は30歳前の若さにもかかわらず、肺がんの末期で、合法化された「安楽死」を選ぼうとしていた。
 思い出されるのは、大学時代の同級生・程心(チェン・シン)のことばかり。雲天明は彼女に想いを寄せていたものの、ついに打ち明けられずに終わってしまった。彼は最期に、彼女に "ある贈り物" を残して「安楽死」の日を迎えた。しかし執行の直前になって、病室に程心が現れる。

 この程心がこの第三巻の主人公となる。

 大学卒業後、航空宇宙エンジニアとなった程心が参加したのは「階梯計画」。それは三体艦隊へ向けて有人探査機を送り込もうというものだった。
 しかし技術的な問題から、人間一人をそのまま送ることは不可能と判明、人間から脳だけを取り出し、それを探査機で送りこむという結論に。
 その候補者を安楽死を望む人間たちから選ぶことになり、雲天明に白羽の矢が立った。彼はその計画への参加に同意し、脳だけとなって宇宙の彼方へ飛び立っていった・・・


 そして第二部からは、『三体II 黒暗森林』後の時間軸へ戻る。

 面壁者・羅輯(ルオ・ジー)がつかんだ "この宇宙の真理"・「暗黒森林理論」。これによって三体艦隊と交渉の結果、二つの文明は危ういバランスのもとで、相互の生存を保証する "抑止状態" へと移行していた。

 これは一種の "相互確証破壊"。冷戦時代の米ソが、核兵器を持ちながら互いに撃てなかったのは、それが双方の破滅を意味していたから。
 羅輯は、"ある方法" をとれば三体世界を破滅に導ける手段を見いだしていた。三体艦隊が人類を攻撃すれば "ある方法" が発動される、というわけだ。

 そして "暗黒森林抑止" が始まって60年あまりの時が流れた。

 人工冬眠から目覚めた程心が見た地球は、"智子"(ソフォン)による基礎研究発展の妨害も無くなり、さらには三体文明からの技術供与もあって、地球の科学技術力はめざましい発展を遂げていた。

 抑止の要となる "ある方法" の発動キーを握る者は「執剣者」(sword holder:しっけんしゃ)と呼ばれ、初代「執剣者」は羅輯が務めていた。しかし彼も高齢となり、第二代として程心が選ばれる。

 しかし三体艦隊はこのときを待っていた。「執剣者」の引き継ぎ直後を狙って行動を起こし、"暗黒森林抑止" を覆すことに成功、"智子" を通じて全地球は三体文明の支配下に置かれてしまう・・・


 物語はこのあとも波乱の展開が続く。
 以下はネタバレを含むので、読まれる方はご注意を。



 第一巻から始まった「人類 vs 三体人」の戦いは、三体文明による地球制圧の後、"第三勢力"(人類・三体人以外の知的生命体)の出現で予想外の展開を迎える。もともと「暗黒森林理論」自体が第三勢力の存在を前提としたものだったのだけれど。

 それでも『三体III』の下巻半ばまでは作品の基調は替わらない。"第三勢力" 登場後も、アニメ的とも思えるスペースオペラ的な展開が続いていく。
 例えば、敵性の知的生命体を滅ぼすために、敵星系の恒星を攻撃し、暴走させて星系全体を焼き尽くそうなんて、まんま『宇宙戦艦ヤマトIII』だったりする。

 そんな中、程心は三体艦隊に収容されていた雲天明との再会を果たす。三体世界のクローン技術によって肉体が再生された彼は、三体人の監視の下、程心を通じて人類に重要な情報をもたらそうとする。
 人類は彼から得られた情報をもとに、生き延びるための方策を探り始める。


 しかし、下巻半ばで出現した "一枚の紙" から、物語は大きく "変質" する。これまで続いてきた「人類 vs 三体人」の戦いから離れ、すべては時空の彼方へと猛然と突き進み始めるのだ。

 ここがこのシリーズの転回点であり、終着点へ向けての始まりになるのだが、ここをどう感じるかでこの三部作の評価が決まるだろう。

 私はこんなふうに感じた。
 例えば『スターウォーズ』シリーズを見ているつもりだったのに、最終章に入ったら突然『2001年宇宙の旅』が始まってしまったような。
 あるいは、(これは昔書いた、某小説の記事にも使った比喩だが)フランス料理のフルコースを食べていたら、メインディッシュで "北京ダック" が出てきた、みたいな。

 北京ダックだって高級料理だし、『2001年』だってSF映画の名作だ。だからといって、"出せばいい" というものではないだろう。出すならちゃんとTPOをわきまえてほしいと思う。
 本書下巻の半ば以降の展開は、少なくとも私にとっては「呆気にとられる」ものだったし、「期待していたものではなかった」といえる。

 人類が滅びるか、三体人が滅びるか、あるいは平和共存するか。第三勢力はそこに参加するかしないか。ストーリーはどう転んでもいいけれど、第一巻から始まった「人類 vs 三体人」の戦いにはきちんと決着がつくものと思っていた。

 しかし「そんなものは宇宙の運命に比べたら取るに足らないことだ」とばかりに放り出され、作品世界は時空の果てに向かって大暴走を始めていく。
 ”斜め上” どころではない超展開の連続で、私はすっかり置いてきぼりになってしまった。


 でもこの展開を評価する人も大勢いるんだよねぇ。実際、本も売れたし。
 Amazon でも高評価ばかりで低評価はほんの一握り。
 まあ、私の価値観がメジャーなモノではないのは、前から分かっていたことですが(笑)。


 キャラの描き方にも不満がある。特に本作のヒロインとなる程心。

 作中での彼女は、終始 "就いてはいけない地位" に就き、"してはいけない決断をする"、あるいは "しなければならない決断をしない" という、およそ主人公の器ではない行動をとり続ける。だから読んでいて、とても感情移入しにくいキャラになっている。

 雲天明に対する態度もそうだ。
 末期ガンになって階梯計画に加わった雲天明が、学生時代から自分に対して恋心を抱いていたことを知る。それ以降、彼のことを気に掛けるようになり、雲天明が宇宙の彼方へ飛びだった後も折に触れて彼のことを思いやる。

 そして三体艦隊に収容された雲天明と思いがけない再会を果たしたときには、彼が人類のために自分の責を果たそうとする姿に感銘を受ける。
 雲天明が太陽系を飛び立って以来、時が経つにつれて彼が程心にとって "大事な存在" となっていったことは間違いないだろう。それは恋愛感情ではなかったかも知れないが、それに近いものであったはずだ(と信じたい)。

 そして終盤近く、思いがけず雲天明と再会できる機会が巡ってくるが、わずかな差ですれ違い、今生の別れとなってしまう。
 とはいっても特に嘆くでもなく、ラスト近くにぽんと現れた男性とすぐにいい仲になってしまう。
 「そりゃぁないだろう・・・」そう思った読者は私だけではないと思うのだが。


 改めて第一巻の冒頭を思い出す。
 人類に絶望した葉文潔が異星文明を地球に呼び込むべく発信したメッセージは、文庫で2800ページ近くを費やした後、結局は彼女の願い通り人類に ”鉄槌” を下してくれたわけだ。
 でも私は、それを面白がることはできませんでした。
 たぶん、私のアタマが固くて古臭かったためなんでしょう。



タグ:SF
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星を継ぐもの [読書・SF]


星を継ぐもの 巨人たちの星シリーズ (創元SF文庫)

星を継ぐもの 巨人たちの星シリーズ (創元SF文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/07/10

 時は21世紀。調査隊が月面で発見したのは、真紅の宇宙服を着た死体。しかし分析が進むと驚くべきことが判明する。
 死体は外見的にも遺伝子的にも人類そのもの、しかし死亡時刻は五万年前(!)。"彼" はどうやって月にやってきたのか・・・
 世界中から集められた科学者がこの謎に挑む。その一人、ヴィクター・ハント博士は驚くべき仮説を提示する・・・

 第12回星雲賞海外長編部門受賞作。

* * * * * * * * * *

 本作が書かれたのは1977年。1980年に刊行された日本語版は爆発的な人気を呼ぶ。1990年のTVアニメ『ふしぎの海のナディア』(庵野秀明監督)の最終回のサブタイトルの元ネタにもなった。
 奥付をみると、2022年5月で「104版」とある。いかに長期間にわたって売れ続けてきたのかが判る。
 私も出版されてすぐに読み、驚きと感動を味わったのを覚えている。今回再読した(たぶん読むのは三回目)のだけど、前回読んだのはおそらく20年以上前。大筋は覚えていたが細かいところはけっこう忘れていたので、ある意味、また楽しむことができたよ(笑)。


 時代は21世紀。世界はイデオロギー対立の時代を超えて戦争もなくなり、人類の目は宇宙へ向かっている。月面には恒久的な基地がいくつも置かれ、他の惑星への調査が始まっていて、木星にまで有人探査船が飛んでいる。

 そんなとき、月面で発見された死体は謎に包まれていた。真紅の宇宙服を着ているが、どこの月面基地の者でもない。そして、"死亡推定時刻" はなんと五万年前(!)。
 "チャーリー" と仮称されたこの遺体は、外見も内蔵も、さらには遺伝子的にも現生人類と変わらない。彼はどこで生まれ、どこで育ち、そして何のために、どうやって月にやってきたのか。そしてなぜ死んだのか。

 本書は、このチャーリーの秘密を解き明かす、それだけをテーマに進んでいくといっても過言ではない。


 世界中から第一線の科学者が招集され、調査が始まる。生物学者はチャーリーの生物学的特徴を、工学者は "彼" の宇宙服や装備品の解析を、そして数学者は "彼" が所持していた "手帳" に書かれていた文字の解読を。

 生物学者たちはチャーリーが地球で進化したと主張する。しかし、地球上には五万年前という超古代に、高度な科学文明が存在していたという痕跡は全くない。

 チャーリーが地球外からやってきたと主張する一派は、かつて太陽系にはもう一つ惑星があって(作中では "ミネルヴァ" と仮称される)、そこで発生した "知的生物"("ルナリアン" と仮称される)からチャーリーが生まれたとする。
 しかし、別々の惑星で発生・進化した地球人とルナリアンが、遺伝子レベルまで一致する確率はゼロに等しい。

 調査結果が判明するたびに仮説がひっくりかえっていくのだが、チャーリーの手帳の文字の解析からは、立てられた仮説と矛盾する情報が次々に現れる。
 さらに月面からは次々に新たな "遺物" が発掘され、その解釈に科学者たちは悩まされることに。
 そして中盤過ぎには木星圏で "歴史的な大発見" があり、人類には新たな知見が洪水のようにもたらされる。
 しかし、チャーリーをめぐる謎は一向に解決の兆しを見出せない・・・


 本書はSFミステリとしても高い評価を受けている作品だ。
 終盤、調査チームのひとりである物理学者ヴィクター・ハント博士が提示する大胆かつダイナミックでスペクタクルな仮説は、相互に矛盾する調査結果を綺麗に統合し説明していく。まさにここは "名探偵の謎解き" と同じ興奮が味わえる。

 そしてその時間的・空間的なスケールの壮大さ、五万年前のチャーリーたちに起こった凄絶なドラマに「SFって面白いんだなぁ」と再確認させてくれる作品でもある。


 「未来を描いたSFは、書いた瞬間から陳腐化していく」のは宿命だ。めまぐるしい科学の進歩、社会の変化は誰にも予測できないから、描かれた世界が実際の世界とずれていくのはどうしようもない。

 47年前に書かれた本書もその例外ではないのだが、世界情勢の予測こそ楽観的すぎたとはいえ、作中に於ける科学的調査の手法、コンピュータ・ネットワークの描写などは、今読んでもほとんど古さを感じさせないのはスゴいと思う。
 作者は航空機関係の仕事の後、IT企業を渡り歩いた経験があるようなので、そのあたりも活きているのだろう。

 さすがに、この47年間で得られた太陽系に関する新たな知見とは、いささか齟齬があるようにも思うが、それでも本書の評価が揺らぐものではないだろう。
 まさに「不朽の名作」という言葉にふさわしい作品だと思う。



タグ:ミステリ SF
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三体II 黒暗森林 [読書・SF]


三体2 黒暗森林 上 (ハヤカワ文庫SF)

三体2 黒暗森林 上 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2024/04/23
  • メディア: 文庫
三体2 黒暗森林 下 (ハヤカワ文庫SF)

三体2 黒暗森林 下 (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2024/04/23
  • メディア: 文庫

 全世界で2900万部突破のベストセラーSF超大作、三部作の第二部。

 三体世界を発進した1000隻もの侵略艦隊の太陽系到達は400年後。
 人類は対抗策として四人の「面壁者」を選び出した。しかし三体世界の派遣した "破壁人" によって、面壁者の立てたプロジェクトは次々と破綻していく。
 そして「面壁者」最期の一人となった元天文学者・羅輯は、任務を放棄して隠遁生活に入っていた・・・

* * * * * * * * * *

 1967年、文化大革命で父を殺され、大学教授の地位を失った物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジュ)は、人類に絶望し、宇宙へ向けて地球文明への介入を促すメッセージを送る。
 それを受け取ったのは、"三体世界"(三つの恒星を巡る惑星) に暮らす異星人。過酷な惑星環境を脱出して新天地を求める三体人たちは、太陽系へ向けて侵略艦隊を派遣する。

 ちなみに、本書の作品世界ではいわゆる "ワープ航法" のような、物体が光速を越える空間跳躍等の超科学は登場しない。だから、三体艦隊の太陽系到着までには400年もの年月が必要となる。

 その間の人類文明の発達を阻止するために送り込まれたのが "智子"(ソフォン)。陽子一個の大きさの中にスーパーコンピュータを詰め込んだ、三体世界の超兵器だ。
 地球の情報通信に介入し、新たな基礎物理学の発展を妨害する。さらにはリアルタイムで地球のあらゆる情報を三体艦隊へ伝えることもできる(量子ゆらぎを利用することで、情報伝達については光速の壁を越えられるようだ)。

 さらに ”智子” が地球側のネットワークに介入することで、社会に不満を持つ地球人を集め、三体艦隊の到着を歓迎する「地球三体協会」(ETO)が組織され、三体世界からの指示を受けた妨害工作が始まっていた。


 ここまでが第一部。
 そして第二部では、人類の三体艦隊への対抗策が描かれる。


 地球の情報通信を把握している "智子" によって、人類のことはすべて三体世界へ筒抜けになってしまうが、個人の頭の中の思考までは読み取ることはできない。

 そこで国連惑星防衛理事会(PDC)は、「面壁計画」を始動させる。すなわち、四人の「面壁者」(wall facer:めんぺきしゃ)を選び出し、彼らに三体艦隊への対抗策を(頭の中で)独自に立案してもらう。
 そしてその実現のために、「面壁者」は("智子" への情報漏洩を防ぐために)その真意や目的を一切明かすこと無く、莫大な地球のリソースをほぼ無制限に利用することができる特権を与えられる。

 選ばれたのは、元アメリカ国防長官フレデリック・タイラー、前ベネズエラ大統領マニュエル・レイ・ディアス、元欧州委員会委員長で科学者のビル・ハインズ。
 そして四人目として選ばれたのが、元天文学者・羅輯(ルオ・ジー)だった。彼が第二部の主人公となる。

 他の三人と異なり、全く無名だった彼が選ばれたのは、ETOがなぜか執拗に彼の命を狙っていたから。彼には、三体人にとって何らかの脅威となる要素があるのではないか・・・そうPDCが判断したからで、それが何なのかは誰も分からない(もちろんストーリーが進めばそのあたりの理由も明らかになっていく)。

 とはいえ、自分が人類を救うという意識が全くない(おいおい)羅輯は、人類社会に背を向け、隠遁生活に入ってしまう。
 しかし「面壁者」には、自分の行動の理由を説明する義務はないので、彼の行動もまた容認されていく・・・


 400年にもわたる物語をどう語るのか、と思っていたのだが、本作の中では人工冬眠が早くから実用化されており、「面壁者」はもちろん、将来の宇宙軍の中核となる軍人や、一般人でも資金があれば冬眠できるようになっている。

 これにより、メインとなる登場人物たちは時の壁を越えて活躍できることになり、本書でも中盤から200年後の世界へと時間軸が跳ぶ。


 200年経っても "智子" による妨害は続き、画期的な技術革新などは起こっていない。しかし既存の技術をブラッシュアップすることで、人類は軍備をすすめてきた。
 軌道エレベーターも完成し、強力な宇宙艦隊も組織され、一般人には楽観的な見通しを持つ者も現れていた。

 しかし三体世界も黙って地球の準備を見ているはずもない。
 軍備拡張と並行して「面壁者」の立案した計画も進んでいたが、ETOは各「面壁者」のもとへ "破壁人" なる刺客を送り込んでいた。

 そして、三体艦隊も着実に迫ってきていた。その中で、速度を上げて本隊よりも先に太陽系に到達しようとしている "探査機" と思われる物体を検知した人類は、それを捕獲すべく、2000隻に及ぶ宇宙艦隊を出撃させるのだが・・・


 この手の "侵略もの" というのは、まずは侵略される側が圧倒的に不利な状況に追い込まれるのが "お約束"。
 本書もその例に漏れず、人類は絶体絶命な危機に陥ってしまうのだが、そのあたりは読んでいただくしかない。
 地球を飛び出し、宇宙空間にまで広がった舞台の上で、作者の筆もノリノリだ。ここまできたら、やっぱり最終巻が読みたくなるだろう。いやあ上手い。




 さて、以下は感想。

 致命的なネタバレはないと思うけど、本作の後半の展開に触れる内容になるので、これから読もうと思っている人は読まないことを推奨します。


 "智子" の存在によって八方塞がりになってしまった人類が、なんとか事態を打開しようと始めた「面壁計画」。羅輯以外の三人は、それぞれ計画を立案、実現へ向けて動いていくのだが、後半になって "仕事人" ならぬ "破壁人" によってその正体が暴かれていく。
 まあ、超絶的な技術格差がある敵に対して、効果的な対策が簡単に実現できるわけもないだろう・・・と思っていたのだが、明るみに出たその計画の中には、「いくらなんでもそれはないだろう」的なものもあったりする。

 読んでいてちょっと驚いたのは、登場人物の一人が『銀河英雄伝説』(田中芳樹)の登場人物、ヤン・ウェンリーの台詞を引用するシーンがあったこと。
 中国でも翻訳出版されてるようなので、作者も読んでいるのだろう。もっとも、現在の中国の政治状況を見てると、『銀英伝』の "民主政治vs専制政治" の描かれ方は当局に嫌われるんじゃ無いかなぁ・・・なんて、心配してしまう。発禁になっちゃったりして(笑)。余計なお世話かも知れないが・・・

 閑話休題。
 そんな目で本作を眺めると、大艦隊が宇宙を押し渡っていくのは『銀英伝』的と云えなくもない。まあ私が連想したのは『宇宙戦艦ヤマト』の白色彗星帝国だったけど。
 ついでに云うと、三体艦隊の "探査機" と思われていた飛翔体が実は強力な兵器で、いとも簡単に人類の生殺与奪権を握ってしまう・・・というのも、同シリーズの映画『ヤマトよ永遠に』の冒頭部分を彷彿とさせる。
 まあ、星間戦争をテーマにしたスペースオペラなら、展開が似てくるのは仕方がないとも思うが。

 最期に、肝心の主役・羅輯についてもちょっと触れておこう。

 「面壁者」として地球を救うことを求められた彼だが、その任務を放棄してしまう彼はおよそ主人公らしくない。
 そんでもって、望めば何でも叶えられることをいいことに「ボクはこんな女の子に逢いたい」って、自分の ”理想の女性像” をてんこ盛りした願望(おいおい)を通そうとするのは如何なものか。

 ところが彼の周囲にいるスタッフがまた優秀で、しかもリソースも使い放題だから、ちゃんと望み通りのお嬢さんを見つけてくるんだから、なんともはや。
 もちろん羅輯は彼女に一目惚れ、女の子のほうも彼のことを憎からず思うようになり・・・。
 このあたり「いったい私は何を読まされているんだろう」(笑)と思ってたんだが、これが後々の展開に関わっていくあたり、ちゃんと計算はしてあるんだね。

 そして三人の「面壁者」による計画が潰え、三体艦隊の "探査機" によって絶望のどん底に叩き落とされた人類。いよいよ、ここで働かなかったら、羅輯くんは主人公じゃないだろう。

 というわけで、最後の最後に彼がひねり出した "秘策" が明らかになって本作は幕となる。だけど、その内容については評価が分かれるような気がする。

 「その発想はなかった!」と驚く人(実際、このアイデアは見たことも聞いたこともなかった)もいれば、「思ってたのと違う」と拍子抜けした人もいるだろう。正直なところ、私も納得するまでちょっと時間が掛かったことは書いておこう。
 もっとも、『三体』シリーズ全体の成功を見れば、このアイデアは読者に広く受け入れられたのだろうとは思うが。

 とはいっても、この "秘策" ひとつで形勢逆転、というわけではない。
 圧倒的な破壊力をこめた張り手一発で、土俵外へ吹っ飛ばされそうになった人類が、辛うじて徳俵に足が引っかかって踏みとどまった、という状況だ。

 さて、これからどうなる・・・というところで「つづく」。
 しっかり完結編へ興味をつなぐあたり、やっぱりよくできてる(笑)。



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半分世界 [読書・SF]


半分世界 (創元SF文庫)

半分世界 (創元SF文庫)

  • 作者: 石川 宗生
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/01/20

評価:★★★☆


 第7回創元SF短編賞受賞作「吉田同名」を含む、4編を収録したSF短編集。

* * * * * * * * * *

「吉田同名」
 住宅地の一軒家に妻子とともに住むサラリーマン・吉田大輔(よしだ・だいすけ)氏。ある日、家路についた彼が最寄り駅から歩いて自宅に向かう途中、突然、19329人に増殖する(!)というシーンから始まる。人格・記憶・意識から着ている服、持ってる携帯電話までそっくり同じ、さながらコピー機で大量複写されたような "吉田氏の大群" が発生する。
 家で夕食の支度をしていた吉田夫人は、ウンカのごとく押し寄せてきた "夫の集団" に肝を潰す。地域住民の通報で出動した警察も処理に困って途方に暮れ、結局政府が動き出すことになり、「吉田大輔氏大量発生対策本部」が設置される。そして吉田氏たち(笑)は数百名単位で各地の施設に収容されていく・・・
 文庫で45ページほどの作品なのだが、これでまだ冒頭の8ページ分ほど。このあと、突然の異常事態にてんやわんやの政府の様子とか、吉田氏たちの共同生活が次第に常軌を逸していく様子とかが描かれていく。
 1970年頃の筒井康隆を彷彿とさせる異常かつ不条理な物語。


「半分世界」
 静穏な住宅街に、"半分の家" が建っている。巻末の解説の表現を借りるなら(しかもこれが一番わかりやすい)、往年のバラエティ番組『8時だヨ!全員集合』の前半部のコントに出てくるセットのような家だ。道路に面した部分の壁が消滅し、家の中が外から丸見えになっている。しかも、そこに住む「藤原家」の人々は、全くそれを気にせずに、普通に暮らしているのだ。
 家族は、まずケンスケ氏。都内の翻訳プロダクションで副社長を務めている。その妻ユカさんは40代の専業主婦。長男カズアキくんは中学二年生の時から5年間引きこもり。長女サヤカちゃんは都内の国立大学に通う三年生。
 藤原家の人々は、日々の暮らしを世間に晒しながら生きている。もちろん風呂や夫婦の寝室等はカーテンがあるのでアカラサマなシーンは登場しない(笑)。
 道路を挟んだマンションには、藤原家の暮らしを眺める "フジワラー" なる人々が押しかけ、連日大混雑である。
 それでも、藤原家の人々は全く気にしない。一喜一憂するのはフジワラーたち。ユカさんの浮気を発見したり、サヤカちゃんが家を出て何日も帰らないことに気づいたり・・・
 というわけで、藤原家の、ある意味どこにでもある家庭の様子が延々と綴られていく。


「白黒ダービー小史」
 何処とも知れぬ異国の町。そこは縦長のフットボール・フィールド(サッカーコート)を模した形をしている。
 この町では、およそ300年前から、ホワイツとブラックスという2チームによる「白黒ダービー」というゲームが続いている。町の北端・南端をそれぞれゴールとし、365日24時間、ひとつのボールを蹴り合っているのだ。当然、町の人々も白の陣営と黒の陣営に分かれ、互いを不倶戴天の敵と見なしている。
 主人公レオナルドは、エース・ストライカーとして高額の移籍金によってブラックスに移籍してきた。しかしその直後、マーガレットという女性に一目惚れしてしまう。しかし彼女は、敵であるホワイツの監督の一人娘だった・・・
 というわけで、幾多の苦難に満ちた "ロミオとジュリエット" の物語が始まる。その合間に、これまでの300年間の「白黒ダービー」の歴史が語られていく。


「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」
 主人公が乗り換えのために降りたバス停は、赤い砂塵が舞う荒れ地の真っ只中にあった。そこには1番から999番まで、999本の路線バスが通っているはずなのに、バス自体がめったに来ない(おいおい)。時刻表もない。つまり、どの路線のバスがいつ来るのが全く分からないというトンデモナイ場所。
 そこには延々とバスを待ち続ける人々が屯しているのだが、乗り継ぎのバスが来ないために待つ人の数がだんだん増えていく。たまに交易商人と商品を積んだバスも通るので、生きていくために必要な物資は手に入る。
 バスを待つ人々は、最初の頃のテント暮らしから、やがて家を建てるようになる。その集落は、やがて町の様相を呈していく。
 そこの ”人口” はさらに増え続け、そうすると集まった人間たちの派閥争いや勢力争いを始まり、金と権力を握る大物も現れてくる。
 最終的に行き着く先は・・・


 とにかく「なんじゃこりゃ?」という話ばかりなんだが、同時に「よくまあこんな話を思いついたもんだ」とも思う。

 SFは「筋の通ったホラ話」だという人がいる。それに従うなら本書は立派なSFだろう。「一人の人間が突然、二万人に増えたら」という出発点こそ架空だが、そこから先はリアルなシミュレーションになる。
 「もし、中が覗ける家があり、そこの住民がそれを気にしなかったら」「300年もの間、住民を二分してサッカーに興じている町があったら」「荒野の真ん中で、バスが来ないバス停に取り残された人々がいたら」・・・
 どれも人を食った話なんだが、同時に「この先いったいどうなるのか」という知的好奇心もくすぐられる。

 こんな話が書ける人はいそうでいないだろう。そういう意味では極めて貴重な作家さんかも知れない。



タグ:ユーモア SF
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星を墜とすボクに降る、ましろの雨 [読書・SF]


星を墜とすボクに降る、ましろの雨 (ハヤカワ文庫JA)

星を墜とすボクに降る、ましろの雨 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/01/24
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 地球圏へ頻繁に流星群が飛来するようになった時代。
 宇宙空間で流星を破壊する任務にあたる "子どもたち" がいた。巨大なエネルギー砲に連動した人造眼球を持ち、流星を狙い撃ちする〈スナイパー〉だ。
 そのひとりである霧原は、厚い信頼で結ばれた整備士の神条とともに任務に当たっていたが、ある日、神条の妻と名乗るハヤトが現れる。
 そして、地球圏には空前の規模の流星群が迫りつつあった・・・

* * * * * * * * * *

 ある日、ひとつの隕石が地球に落下、巨大な被害をもたらした。それ以後、しばしば地球圏に流星群が飛来するようになった。

 地球と月の間に建造された、宇宙空間における農耕研究施設・"軌道庭園" が迎撃施設として転用され、そこにはエネルギー兵器〈トニトゥルス〉とそれを操作する〈スナイパー〉たちが配置され、地表へ落下する前に流星を破壊する任にあたっていた。


 読んでいてまず気になるのは〈スナイパー〉とはいかなるものか?という謎だ。
 作中には "造られた子どもたち" という表現がある。主人公の霧原(きりはら)は17歳の "女の子" なのだが、エネルギー砲と連動した人工眼球を埋め込まれているなど、流星迎撃に特化した "改造" を施されている(文庫の表紙が彼女)。
 しかも、自分の置かれた境遇に疑問を持たず、「死ぬ瞬間まで、星を撃っていたい」と願うほど、教育された、というよりマインドコントロールされた存在だ。しかも〈スナイパー〉は人工眼球による過度の負担によって20代前半で寿命を迎える(脳が耐えられないため)。

 なんだかどこぞのロボットアニメに似たような設定があったような気もするが、とにかく過酷な運命の下にあることは間違いない。

 そしてなにより、こういう "処置" をされている段階で、〈スナイパー〉たちに人権は与えられていないことが分かる。要するに一般人からは "人間扱い" されていないわけだ。


 〈スナイパー〉は "兵器" であるから、メンテナンスが必要だ。霧原の担当整備士は神条(かみじょう)シヅカ。20代後半と思われる男性だ。
 二人がいる軌道庭園へある日、神条の元妻を名乗るハヤトという女性が現れる。彼女は人工眼球の研究者で、"ある目的" をもって霧原に逢いに来たらしい。

 霧原は神条に対して深い信頼の念を抱いているが、ハヤトの登場によって、彼に心惹かれていたことを自覚していく。


 物語が進行していくに従って、神条の過去、彼がハヤトと結婚し別れるまでの経緯などが明らかになりつつ、中盤過ぎでは地球圏を襲う大量の流星群を総力を挙げて迎撃する〈スナイパー〉たちの戦いが描かれる。

 終盤では霧原に待ちうける "過酷な未来" が明らかになる。神条は彼女を救うべく行動を起こすのだが・・・

 本書をひと言で言えば、兵器として生まれた少女が、"愛" を覚えて人間になっていく物語、となるだろう。しかしそれは今までの自分を否定することにもなり、彼女はその葛藤に苦しむことになる。

 感情を表すことが不得手な霧原に、しっかり感情移入してしまった。すんなりと進まない二人の仲にも一喜一憂しながら読んだ。
 ラストについては好みは分かれるかな。SFとしてはこういう終わり方もアリだとは思うし、20代の頃の私だったら素直に感動していたかも知れない。
 でもねぇ・・・トシをとった私には、このエンディングはちょっとなぁ。



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