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千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖 [読書・ミステリ]


千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖 (宝島社文庫)

千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖 (宝島社文庫)

  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/07/04
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 大正8年、秦野(じんの)財閥総帥の四男・孝四郎(こうしろう)は、謎の少女・白比丘尼(しらびくに)と共に、孤島で行われるオークションに参加することに。彼の目的は、そこで売りに出される "人魚のミイラ" を競り落とすことだ。
 「かつて人魚の肉を食べて不老不死の身になった」と語る白比丘尼と共に島を訪れた孝四郎を待っていたのは、連続殺人事件だった・・・


 小舟一艘の漁師から身を起こし、第一次世界大戦の軍需景気に乗って貿易・船舶輸送で巨万の富を築き上げた秦野零明(れいめい)。彼が愛人に生ませた庶子・孝四郎が本書の主人公だ。

 18歳となった孝四郎は、父・零明に呼び出され、"人魚の肉" の入手を命じられる。戸惑う孝四郎は一枚の写真を示される。そこには十四、五歳と見える少女の姿が。
 ”白比丘尼” と呼ばれる彼女は、かつて人魚の肉を食べて不老不死の身になり、千年の齢を重ねてきたという。零明が財をなした陰には彼女の助力があったのだと。

 白比丘尼ともに、孝四郎は不破松之丞(ふわ・まつのじょう)男爵が秘蔵する品々のオークションに参加することに。出品されるものの中に "人魚のミイラ" があったからだ。

 二人は会場となる孤島・大燈台島(だいとうだいじま)へ渡る。そこでは32年前の明治20年に、5人いた燈台守が一斉に失踪するという事件が起こっていた。そして燈台守の一人が残した日誌には、"人魚" の存在をうかがわせる記述があった。

 島には不破男爵をはじめ篁織枝(たかむら・おりえ)伯爵夫人、閨秀画家・眞珠花ェ門(しんじゅ・かえもん)、成金の相場師・宍戸長治(ししど・ちょうじ)、不健康そうな医師(笑)・草加部佑(くさかべ・たすく)、そして使用人たちがいた。さらには孝四郎を追ってきた異母兄・秦野三津雄(みつお)まで現れ、総勢12人が集うことになった。

 オークションの直前、不破男爵が孝四郎たちを訪ねてくる。彼の父の遺言の謎を解いてくれたら、"人魚のミイラ" の落札に便宜を図るという。
 しかしその翌朝、男爵は死体となって発見され、連続殺人の幕が開く・・・


 いかにも謎めいた織枝夫人、いかにも自由奔放そうな女性の花ェ門、いかにも山師な宍戸など、類型的ではあるがわかりやすいキャラで描かれる登場人物たちだが、末端の使用人に至るまで "隠された裏事情" を秘めていて、なんとも油断のならない集団になっている。

 そんな中、父の愛人だった孝四郎の母親を嫌う異母兄・三津雄は、登場した瞬間から敵対心むき出しで、弟と白比丘尼にガンガンぶつかってくるのだが、物語の進行と共に少しずつ様子が変わっていくところは面白い。

 肝心の主人公である孝四郎は夢遊病の癖を持ち、深夜徘徊をするらしい。なんとも頼りなく、そのために早い段階から容疑者と目されて、白比丘尼共々に監禁されたりとけっこう散々な目に遭わされる。

 そして〈千年探偵〉の異名を持つ白比丘尼さんもなかなかユニーク。"外見は少女なのに千年生きてる不老不死の女性" というのは、実際のところどんなキャラになるのか想像しにくいが、少なくとも読んでいて違和感は感じず、とても魅力的に思えた。もう少し老成した雰囲気があってもいいかとも思ったが、あまり出し過ぎると不気味さが勝ってしまうので、これがいい案配なのかもしれない。

 予想していたよりも多く死人が出る(笑)ことに驚く。しかし設定こそファンタジーだが現実に沿った謎解きが行われる。もちろん白比丘尼の ”不老不死性” も活かされ、32年前の事件の真実、そして発端となった零明の真意と、何層にも及ぶ真相はよくできている。

 その気になれば続きが書けそうな終わり方だが、本書の刊行から4年経ってるけど続巻は出ていない。もっともラストシーンを読むと、このまま終わったほうが綺麗だろうな、とは感じる。でも続編が出れば読みたいな、とも思う(笑)。



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