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義経号、北溟を疾る [読書・ミステリ]


義経号、北溟を疾る (徳間文庫)

義経号、北溟を疾る (徳間文庫)

  • 作者: 真先, 辻
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2017/06/02
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 明治14年、北海道を行幸する明治天皇の乗ったお召し列車への妨害計画が企てられていた。警視総監は、計画の黒幕を暴き、妨害工作を未然に防ぐべく、2人の密使を派遣する。
 小樽ー札幌間の鉄道を舞台に剣戟、銃撃、西部劇さながらの追撃戦、そして殺人事件の真相解明まで盛り込んだ歴史冒険推理小説。


 幕府が崩壊して明治の世となり、俸禄を失った士族たちの一部は北海道へ渡って屯田兵となった。しかし厳しい自然と劣悪な待遇に不平不満を募らせる者も多かった。

 明治14年、北海道開拓使を務める黒田清隆は、大久保利通・西郷隆盛亡き後の薩摩閥を率い、ゆくゆくは総理大臣の座に就くものと思われていた。
 しかし、黒田をスキャンダルが襲う。彼が屯田兵・千代木市之進(ちよぎ・いちのしん)の妻・信恵(のぶえ)を抱き、その後、彼女は首吊り死体となって発見されたのだ。
 しかし、死体を見聞したところ他殺の疑いがあるという。黒田自身が自殺へと偽装したのか? それとも他に殺人犯がいるのか?

 折しも、明治天皇の北海道行幸が予定されており、天皇の乗ったお召し列車への妨害計画が企てられているらしい。さらに札幌へと潜入させておいた密偵が謎の死を遂げるに至り、警視総監は妨害計画阻止と殺人事件の真相究明のために、2人の男を現地へ派遣する。

 一人は藤田五郎、かつては新撰組三番隊隊長を務め、斉藤一(さいとう・はじめ)と名乗っていた男だ。
 そしてもう一人はかつての大侠客・清水次郎長(しみずのじろちょう)の子分で、元山伏という経歴の法印大五郎(ほういん・だいごろう)。

 2人は札幌の屯田兵の村へ入り込み、市之進をはじめとする不平不満を抱く屯田兵たちの動向を探り、併せて信恵の死の真相を調べ始めるのだが・・・


 まず、キャラ造形が素晴らしい。
 主人公の藤田はホームズ役も兼ねる。百戦錬磨の剣士なのだが、沈着冷静で鋭い洞察力を見せる。
 彼の相棒でワトソン役が法印大五郎。硬派の藤田に対してこちらは軟派。お調子者で酒と女に目がない。彼の視点での語りは読者への説明も兼ねていて、そのおかげですんなりストーリーに入っていくことができる。

 "容疑者" となる5人の屯田兵。みな元は江戸で同心を務めていたのだが、それぞれちゃんとキャラが書き分けられているのは流石。
 なかでもユニークなのは市之進の妹・春乃。兄から武芸を仕込まれ、まだ10代半ばほどなのに、人並み以上の戦闘力を秘めたお嬢さんだ。

 さらに強烈な女子キャラがもう1人。メホロという、こちらも春乃とほぼ同じ年頃のお嬢さん。なんと幼い頃にオオカミに育てられていたという設定。今は人間界に戻り、ちゃんと人間の言葉を発して暮らしているが、野生の本能そのままに、人並み外れた知覚能力・身体能力を持つ "超人"(笑)である。

 中盤あたり、春乃とメホロが1対1で、組んず解れつの派手な格闘戦を展開するシーンがある。ここはなかなか迫力十分で本書の読みどころのひとつになっている。
 とはいってもこの2人、単なる "賑やかし要員" ではない。2人の能力も、ストーリー上の必要性があって付加されている。そのあたりもちゃんと計算されているのはベテランの味か。
 上記以外の、ちょい役かと思われた人物も意外なところで大事な役回りを果たしたりと、余計な登場人物がほとんどいないのもたいしたものだ。

 ミステリとしても、ストーリーの中で起こる様々なイベントの中に手がかりがさりげなく埋め込まれていたり、キャラ同士の間で交わされるちょっとした話題の中に重要な伏線があったりと、もうこのへんは巧みの技ですな。

 終盤ではいよいよ明治天皇が小樽へ上陸し、札幌へ向けてお召し列車が走り出す(タイトルの「義経号」というのはその列車を引く機関車の名)。そして妨害工作阻止のため藤田と法印が奔走することに。

 列車襲撃、銃撃戦、馬を駆っての追撃戦など西部劇を思わせるアクションシーンが続き、クライマックスでは、列車襲撃の主犯と死闘を繰り広げる法印の大活躍あり、"真犯人" と剣を構えて対峙する藤田による謎解きありと、これも冒険活劇のフルコース。


 文庫で500ページと、決して薄くはないけれど、どんどんとページをめくらせてくれて、楽しい読書の時間を過ごせる本だと思う。



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