忌名の如き贄るもの [読書・ミステリ]
評価:★★★★☆
生名鳴(いななき)地方の虫絰(むしくびり)村で、村の有力者・尼耳(あまがみ)家の跡継ぎの少年・市四郎(いちしろう)が殺される。
市四郎の姉である李千子(いちこ)は、発条福太(はつじょう・ふくた)との結婚が決まっていた。二人は福太の大学時代の後輩である作家・刀城言耶(とうじょう・げんや)を伴って虫絰村にやってくるが、さらなる殺人が起こる・・・
生名鳴地方の虫絰村の旧家・尼耳家では、子どもは7歳になると "忌名(いな)" という「もう一つの名前」を与えられる。
そして7歳・14歳・21歳になったら「忌名の儀式」を経なければならない。それは、自らの身に降りかかる災厄を、すべて実体のない "忌名" に託すという儀式だ。
本書の序盤では、尼耳李千子の7歳と14歳の時の「忌名の儀式」が語られる。
祖父から与えられた "忌名" が書かれたお札を持ち、山中にある "祝(ほふ)りの滝" まで一人で歩いていき、滝壺へお札を沈めて帰ってくる、というものだ。
祖父は告げる。「何処かで誰かにこの "忌名" で呼ばれても、決して振り返ってはならない。言いつけを破ったら目が潰れるぞ・・・」
李千子の7歳と14歳の「忌名の儀式」の模様は文庫100ページにもわたり、そこで起こった禍々しく恐ろしい出来事が綴られていく。とくに14歳の時のエピソードは背筋が凍る。
そして現在。21歳のときの儀式は何事もなく済み、李千子は22歳となった。村を出て会社員として働いていた彼女は、社長の息子である発条福太と恋仲になり、結婚が決まる。
福太は李千子との結婚の挨拶のために尼耳家を訪問することになった。同行者は福太の母・香月子(かつこ)、そして大学時代の後輩・刀城言耶。
しかしその矢先、訃報が入る。李千子の弟で尼耳家の跡継ぎと目されている少年・市四郎が14歳の「忌名の儀式」の最中に、右目を刺されて死亡したというのだ。
言耶の提案で、結婚の挨拶と弔問を兼ねてしまおうということになり、一行は虫絰村へやってくる。しかしそこでさらなる殺人事件が発生する・・・
シリーズでおなじみの、地方の閉鎖的な村に残る因習、怪談、伝承をベースにしたホラータッチの物語が展開する。
李千子の祖父の不可解な言動、怪しげな隣人、村人たちの謎めいた対応、村のもう一つの旧家・銀鏡(しろみ)家の不穏な動向、そして目から角が生えているという伝説の怪人・"角目(つのめ)" が目撃されたとの情報が・・・
とはいっても、シリーズの過去の作品と比べてちょっと薄め(とはいっても文庫で500ページを超えてるが)。真相解明の場面で言耶が謎を何十個も数え上げたりもしないので、それなりにコンパクトな真相かな・・・と思っていた。
毎回、怪奇な現象に対して合理的な解釈が示されてて、今回もその通りなのだけど、言耶が提出してきたのは予想の斜め上をいくもの。同時に「いくらなんでもそれはないだろう」とも感じた。
もちろんそこで終わることはなく、最終盤ではそれをひっくり返す仰天の展開が。尼耳家、そして虫絰村に潜む秘密が白日の下にさらされ、真犯人の常軌を逸した動機が明らかに。
このインパクトは他の作品に負けてない、というかシリーズでも最大級と言っても過言ではないだろう。
・・・と思ってたら、最後の最後でふたたびひっくり返ってホラーに回帰。いやはや作者の掌中ですっかり翻弄されてしまいました。
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