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探偵は絵にならない [読書・ミステリ]


探偵は絵にならない (ハヤカワ文庫JA)

探偵は絵にならない (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森 晶麿
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/02/20

評価:★★☆


 鳴かず飛ばずの画家・濱松蒼(はままつ・あお)。同棲していた恋人・フオンも彼のもとを去ってしまう。彼女を追って故郷の浜松に戻った蒼は、友人・小吹蘭都(おぶき・らんと)のもとに転がり込む。そんな蒼は、奇妙な事件に巻き込まれていく。


 主人公・濱松蒼は、23歳で絵画の登竜門とされる藤田東呉(とうご)賞を受賞して華々しくデビューしたが、5年後の現在は鳴かず飛ばずの状態。高校の同級生で恋人のフオンと同棲していたが、ある日彼女は出て行ってしまう。後日届いた郵便の消印は2人の故郷である浜松のものだった。

 ちなみにフオンはベトナム出身。現在は帰化して日本国籍をもち、漢字表記は「芙音」。ダンサーを生業にしている。

 蒼は浜松へ戻り、友人でアロマセラピストの小吹蘭都のもとへ転がり込む。フオンを探すうちに、蒼は奇妙な事件に巻き込まれていく。


「第一話 逃げたモチーフ」
 蒼は高校の同窓会に出席する。フオンの情報をつかむためだ。そこで同級生だった天笠佑子に、自分のヌード画を描いてほしいと依頼される。
 蘭都からアトリエとして借りていたガレージに招き、佑子の絵を描き始めるが、ちょっと目を離した隙に彼女は姿を消す。同時に、蒼がいちばん大事にしていた、フオンを描いた絵が消えていた・・・


「第二話 死と師と雨」
 絵画を教えてくれた恩師・水無月晴雄(みなづき・はるお)の墓参りに来た蒼は、そこで晴雄の娘・柚香(ゆずか)と再会する。
 ピアニストとして活動している柚香は、最近スランプに見舞われていた。ピアノの前に座ると精神的に不安定になるのだという。しかし生活のためにも仕事は休めない。さらに彼女のピアノの師・土井幸介は末期がんで入院していた。
 翌日には地元のフェスティバルでの演奏があり、土井も病院の許可を貰って見に来る予定だ。柚香は蒼に、リハーサルの段階から会場にいてほしいと頼むのだが・・・


「第三話 アムリタ夫人」
 フオンを探す蒼は、彼女の高校時代の元カレ・今井君人(きみと)と再会する。"うなぎマカロン" なる菓子で一山当て、非常に羽振りがいい様子。しかし2年前に妻を亡くし、8歳の息子・和人(かずと)は引きこもりになっていた。
 君人は蒼に、和人の肖像画を描くことを依頼する。しかしそれは口実で、蒼と息子との間でコミュニケーションが成立することを期待していたのだ・・・


「第四話 アフターローズ」
 蒼は静岡電興社長の石岡という男から肖像画の依頼を受ける。雑居ビルの4階にある本社事務所で打ち合わせをするが、胡散臭いものを感じる蒼。他のフロアの住人に聞いたら、このビルに静岡電興なる会社は存在しないという。
 ビルから出た石岡を尾行した蒼は、彼が駅前のホテルで意外な人物と会っているところを目撃する・・・


 一話完結形式だが、フオンの消息については断片的に手がかりが描かれており、もう一つの "事件" が水面下で進行している。
 「第四話」のラストに至り、"事件" の全容、そして彼女の失踪の理由も所在も明らかになるが、蒼とフオンの物語としては完結せず、次巻以降への持ち越しとなる。

 「あとがき」によると、浜松は作者自身の故郷でもあるらしい。作中では10年後に再訪した蒼がその変貌ぶりに驚くシーンが随所にある。これは蒼に限らず、故郷を出てきた人なら多かれ少なかれ経験することだろう。

 私なんぞ故郷を離れてもう30年になる。まあちょくちょく顔を出しているから極端にびっくりはしないが、それでも小学校の帰りに寄っていた駄菓子屋が更地になってたり、畑だったところにマンションが建ってたり、駅前が再開発されて、ばかでかいビルが出現したりと、子どもの頃の情景が跡形もなくなっている場所は少なくない。

 そんな故郷でも、ありがたいもので、帰るたびにいろいろなことを思い出させてくれる。実家で暮らす母もかなりの高齢になってきたので、もっと頻繁に逢いに帰らんといかんなぁ・・・



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バック・ステージ [読書・ミステリ]


バック・ステージ (角川文庫)

バック・ステージ (角川文庫)

  • 作者: 芦沢 央
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/09/21

評価:★★★


 パワハラ上司の不正の証拠を探すOL・康子。後輩社員の松尾はそれに無理矢理巻き込まれてしまう。このメインストーリーに続いて4つの物語が語られる。一見して無関係に見えるが、康子/松尾たちの行動にしっかりつながって、意外な結末へと導かれていく。


「序幕」
 次長の澤口は、女性新入社員の玉ノ井に対してパワハラを繰り返していた。業績は抜群で、社長のお気に入りである澤口は怖いもの知らず。誰も彼の振るまいを止めることができなかった。
 玉ノ井の同期の新入社員・松尾は、先輩OL・康子が澤口の机の中を漁っている場面に遭遇する。彼女によると、澤口は業者と癒着しており、その証拠を探しているのだという。松尾も彼女に巻き込まれる形で、”澤口の失脚” に加担することになってしまう。
 しかし職場では証拠を発見できなかった。康子は翌日に有給休暇を取り(松尾も強制的に休まされるwww)、澤口の自宅にある預金通帳を狙うことにする。
 通帳をどうやって手に入れるかはここには書かない。ユニークだが無茶な方法で入手に成功するものの、ある "トラブル" に巻き込まれて、2人は中野大劇場ホールに向かう羽目になる。


「第一幕 息子の親友」
 語り手の望(のぞみ)はシングルマザー。小学3年生の浩輝(ひろき)と保育園に通う颯太(そうた)を育てている。温和しくて内向的な浩輝だったが、クラスの人気者の慎也(しんや)くんと友達になったらしい。しかし、授業参観での浩輝の様子は、とてもそうとは見えない。浩輝は嘘をついているのだろうか・・・
 親が子どもに「こうなってほしい」と思うのは当然だが、それはしばしば「一方的な押しつけ」だったりするし、子どもの行動に対して「勝手な思い込み」を抱いたりする。
 ラストで明かされる浩輝くんの、なんと健やかなことか。彼をそのように育て上げた望さんは誇っていい。


「第二幕 始まるまで、あと五分」
 大学生の奥田は、高田馬場の書店で中学校時代の同級生・伊藤みのりと再会する。ライトノベルが好きという共通の趣味から、しばしば会って話をする仲になる。そして2ヶ月、奥田のほうから正式につき合ってほしいと申し入れたのだが、なぜか彼女はそれを受け入れてはくれない・・・
 日常の謎系恋愛ミステリ、かな。分かってみれば他愛のないことではあるが、”当事者” からすれば怒り出す案件ではある。


「第三幕 舞台裏の覚悟」
 役者であれば誰でも出たいと願う大人気演出家・嶋田ソウの舞台。
 無名の俳優・川合春真(かわい・はるま)は、それに抜擢され、新進気鋭の女優・新里茜(にいさと・あかね)の相手役を務めることに。しかし嶋田の指導は厳しい。2人の濡れ場シーンにOKが出ない。
『ふざけるな!』『それがやってるときの顔か!』『おまえら一回寝てこい!』
 その言葉に押されて、春真は茜と一夜を共にしてしまう。しかし公演初日、春真のもとに脅迫状が舞い込む。
「シーン32には出るな。もし出たら新里茜との関係を舞台上で公表する」
 そこは舞台の要ともなるシーン。春真が出なければ公演はメチャクチャになってしまう。しかも観客席には春真の恋人・由香里が来ていた。開演までになんとか差出人を探しだそうとする春真だが・・・
 いまどき、上述したようなことを言う演出家はいないらしいが、演劇/役者というものの業の深さを感じさせる作品ではある。


「第四幕 千賀稚子にはかなわない」
 完璧主義で知られる大女優・千賀稚子(ちが・わかこ)も74歳となり、認知症の症状が出始めていた。しかしまだ本人は充分に矍鑠としているつもりだ。マネージャーの信田篤子(しのだ・あつこ)は、稚子が自分の状態を覚ることのないように気を回す日々。
 稚子の嶋田ソウの舞台への出演が決まり、ゲネプロ(最終リハーサル・通し稽古)の日。記録のために舞台を撮影していたビデオカメラの横に来た男が「千賀稚子も老けたなぁ」とつぶやいてしまう。それを聞きとがめる篤子。このビデオは稚子も見る。その言葉を聞いてしまったら、稚子は降板を言い出すかも知れない。篤子が抗議をすると、男はなんと映像を記録したSDカードを持ち逃げしてしまう・・・
 篤子さんの奮闘ぶりが実にけなげ。そして千賀稚子さんも最後まで "大女優" を貫く。あっぱれである。


「終幕」
 4つの物語は一見するとそれぞれ独立したエピソードで、互いに無関係なように見えるが、実はあちこちで "本筋" にリンクしており、ラストに至って康子と松尾の ”企み” に決着をもたらす。


 4つの物語もそれぞれ面白いが、本筋の登場人物がまたいい。

 パワハラ上司の澤口がまたいかにもな造形。口八丁手八丁、自己肯定感の塊で、都合が悪くなると自分の記憶すら改竄してしまい(嘘をつくのではなく、本当にそう思い込んでしまうようだ)、責任を部下に押しつける。

 康子さんは思いついたら即実行、窮地に陥ってもどんどん突破していく抜群の行動力の持ち主。頭の回転も速く、奇想天外な作戦を立案してみせる。すべては澤口を会社から追い出すため。

 松尾は事なかれ主義の常識人だったはずなのだが、康子さんと行動を共にするうちに感化されていく(というよりこれが本性なのか)。彼の変貌も読みどころではある。

 末尾の「カーテンコール」では、康子さんと松尾くんの後日談がある。読者はニヤニヤしなら本を閉じることだろう。



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青い花は未来で眠る [読書・SF]


青い花は未来で眠る (角川文庫)

青い花は未来で眠る (角川文庫)

  • 作者: 乾 ルカ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/08/25

評価:★★☆


 高校2年生の優香(ゆうか)が乗り込んだ飛行機がハイジャックされ、何処とも知れぬ山中の湖に不時着を強いられる。犯人は謎の4人組。彼らによってほとんどの乗客は命を落とし、生き残ったのは優香を含めた5人だけ。犯人グループと対峙しながら、なんとか生存の道を探る優香たちだが・・・


 主人公・梅木優香は過去に "ある事件" に巻き込まれ、彼女を庇った姉を眼の前で喪ったことから、生きることに消極的になっている。

 高校2年生になった優香は、アメリカへの修学旅行に参加するが、彼女たちが乗った飛行機が謎の4人組にハイジャックされ、何処とも知れぬ(アラスカのどこかと推測される)湖に不時着を強いられる。さらに、犯人グループが散布した "何か" のせいで乗客たちは錯乱し、次々に命を落としていく。

 生き残ったのは5人。優香、会社員の白山、無職の青年・陣内、同級生の小田、そしてアメリカ人研究者エド・イウチ。

 犯人グループの標的だったのはイウチだった。犯人グループは彼のもつ「NJ」なるものに関するデータを手にいれようとしていたのだ。

 犯人グループのうち、2人は10代半ばほどの双子で、美少年といっていい容貌。後の2人は20代後半と30代前半かと思われ、常人離れした格闘能力を持っている。

 客室にいる優香たち生存者と、コクピット付近を根城にした犯人グループは、機内で対峙することになる。

 優香は空手二段の腕前を誇るのだが、そんなものは彼らには通用しなかった。そして彼女以外は、およそ戦いには不向きな者ばかり。
 しかし圧倒的な力の差で、あっという間に制圧されてしまうかと思いきや、そうはならない。犯人グループはなぜか、一定時間活動すると、その後は引き上げてしまってしばらく戦わないのだ。

 実は彼らには体調に大きな "波" が存在するのだが、その原因も彼らの行動理由の一つになっている。
 ゆえに、機内での睨み合いは長時間にわたることになる・・・


 最初は『ダイ・ハード』みたいな、生存者たちとテロリストとのサバイバル・アクションかと思ったんだが、そういう爽快さとは無縁の物語が進行する。

 空手の達人の優香がそれなりに活躍できるかと思いきや、初戦でコテンパンに痛めつけられてしまう。
 生存者の足並みも揃わない。家族の元へ帰るために生き抜くと頑張るのは白山だけで、ヤワで頼りなさそうな陣内、ポケット六法全書を持ち歩くひねくれ者の小田と、まとまりのなさは半端ない。
 要するに読者が「こうなるんじゃないか」「こうなってほしいな」という予想/願望をことごとく外しまくる展開が続くことになる。

 そして終盤近く、犯人グループが自らの出自を明らかにすることで、物語は一転する。それまでも、それっぽい描写や発言もあって「ひょっとしたら」とは思ってたが。

 文庫裏の惹句には「SFサスペンス」って銘打ってある。作中で明らかになる「NJ」なるものの設定がSF要素かと思ってたんだが、それだけではなかったということだ。

 ただ・・・ちょっと唐突かなぁ。この時点で明かされても納得できない人もいるんじゃないかなぁ。ネタバレになるから内容は書かないが、○○○○○○○してきた経緯も説明がないし。「気がついたらこうなってました」では都合が良すぎないかなぁ?
 "これ" をやりたいのだったら、物語の最初から "これ" をメインに出した展開にしても良かったんじゃないかとも思う。
 犯人グループだって殺人狂集団ではなくて、やむにやまれぬ思いからこんな事件をしでかしているわけで、その背景には充分同情の余地がある。とはいっても、無関係な人間を大量に殺戮するのは悪魔の所業だが。

 もっとも、犯人グループにスポットを当てすぎるとヒロイン・優香さんの影が薄くなってしまうかな。作者は犯人側の事情よりも、優香の "再起と成長" のほうにスポットを当てたかったのだろう。

 作品の評価は人それぞれだと思うけど、少なくとも私にとっては ”心地よい読後感” とは言い難い物語でした。



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育休刑事 (諸事情により育休延長中) [読書・ミステリ]


育休刑事 (諸事情により育休延長中) (角川文庫)

育休刑事 (諸事情により育休延長中) (角川文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/04/24

評価:★★★☆


 育休中の刑事・秋月春風(あきづき・はると)が、なぜか事件に巻き込まれ、息子・蓮(れん)くんとともに解決に向けて奔走する。シリーズ第2巻。
 作者も実際に父親として育児体験を積んだらしく、そのあたりもふんだんに盛り込まれた、"子育て小説" でもある。


「世界最大の「不可能」」
 整形外科医院が窃盗被害に遭う。犯人は診療時間内に院内に侵入、どこかに隠れて終業を待ち、従業員がすべて帰った後に事務室を物色したと思われた。
 容疑者として浮かんだのは阿出川香里(あでがわ・かおり)。2年前まで医院で事務員を務めた後に結婚退職して現在は生後10ヶ月の幼児がいる専業主婦だ。
 終業直前に現場での目撃情報もあったが、そのとき彼女は子どもを抱えていた。犯行には2時間かかったとみられたが、幼児を放置できない母親にとっては "不可能な犯罪" だった・・・
 このトリックは実際に育児経験がないと思いつかないだろうなぁ。そして母親としての愛情と犯罪人としての冷酷さは、一人の人間の中に同居できるというラストが苦い。


「徒歩でカーチェイス」
 ベビーカーに蓮くんを乗せて公園にやってきた春風。そこで出会った、やはりベビーカーに子どもを乗せた女性としばし言葉を交わす。やがて彼女が公園を出て去って行くのだが、春風はなぜか蓮くんと共に彼女を尾行し始める。
 というわけで、尾行する側もされる側もベビーカーを押しながら、という奇妙な "カーチェイス" が始まる。
 ちなみに、春風が彼女に注目したきっかけもまた春風の育児体験からくるもの。主人公なのだからもちろんなのだが、彼は実に優秀だ。探偵役としても父親としても。


「あの人は嘘をついている」
 黃大樹・千尋(こう・だいき・ちひろ)夫妻は、春風とその妻・沙樹とは高校時代からのつき合いだった。ところが、1枚の写真がきっかけに騒ぎが起こる。
 千尋が沙樹に「大樹が浮気をしている」と電話を掛けてくる。同じ頃、春風の元にも大樹から「妻に浮気を疑われた」と電話が・・・
 分かってみればどうと云うことのない笑い話なのだが、それを一編の日常の謎系ミステリに仕立ててみせる。でもこのネタ、当事者からしたら笑えない「育児の悩み」だったりする。


「父親刑事」
 大手ゼネコン社員の目崎昌彦(めざき・まさひこ)が自宅で殺された。使われた凶器から、容疑者は昌彦の妻・長男・次男の3人の誰かだと思われるが、決め手に欠けてそれ以上絞り込むことができない・・・
 本書の中でこれだけ時系列が異なる。蓮くんが生まれる直前で、沙樹さんが臨月だったときの事件。でも、春風くんはこの時点でもうすっかり ”父親” になってるのがスゴいところ。イクメンの鑑だね。


 上に書いたのは各短編の事件部分なのだけど、実はそれ以外のところがほんとに面白い。蓮くんを風呂に入れようと悪戦苦闘するシーンとか、ベビーカーごとバスに乗り込んだ春風に対して文句を云ってくる乗客に対して春風の姉・涼子がキレるシーンとか。もう抱腹絶倒で、ある意味ミステリ部分より面白い、といったら云いすぎか。でも育児経験がある人なら共感できる部分が盛りだくさんだ。


 親になると、ものの見方・考え方や価値観が変わってくる。
 独身の頃、小さい子どもがぴいぴい泣いていたら「うるせえなぁ」としか思わなかったが、自分が親になってみると、同じ場面に遭遇しても「おお、元気だなぁ」とか「親は周りに気を遣ってたいへんだろなぁ」と思うようになった。
 育児をしている当事者の存在やその苦労に思いを馳せることができるようになったわけで、これは人間としての成長なのだろう。

 本書の春風くんも、父親ならではの視点から事件を吟味することで、新たな思考に辿り着く。ミステリ作家というのは、何でもミステリに帰着させてしまうことができる人々なのだね。



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不老虫 [読書・SF]


不老虫 (光文社文庫 い 35-18)

不老虫 (光文社文庫 い 35-18)

  • 作者: 石持浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社文庫
  • 発売日: 2022/10/12
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 東南アジア奥地に棲息しており、現地では "不老虫" と呼ばれている未知の寄生虫。それが日本に持ち込まれた。不老虫は3人の女性に寄生した状態で秋葉原近辺に潜伏しているという。
 農林水産省の官僚・酒井恭平は、アメリカからやってきた専門家・ジャカランダとともに調査に向かうことになるが。


 農林水産省・家畜防疫対策室の若手官僚・酒井恭平は、上司から寄生虫サトゥルヌス・リーチが日本に入ってくるとの情報を知らされる。そしてその事態に対応するために、アメリカからやってくる "専門家" のサポートを命じられる。

 しかし、実際に "専門家" に会った恭平は驚く。20歳ほどの女子大生だったのだ。もっとも大学はさすがにスタンフォード大学だが(笑)。
 彼女の名はジャカランダ・マクアダムス。東アジア系の容貌をもつ美女だ。彼女の追う寄生虫サトゥルヌス・リーチは、別名 "不老虫"。ある商社が日本国内に持ち込んだとの密告があったのだという。
 彼女が連れてきたスナドリネコの "ビオ" は、不老虫を感知する能力があるのだという。恭平はジャカランダ、ビオとともに秋葉原駅近辺を巡回して不老虫を探すのだが・・・


 まず、不老虫の設定が凄まじい。
 東南アジアの奥地に棲息しており、哺乳類の子宮に寄生するのだという。体外に引っ張り出されても自在に動き回り、近くにいる哺乳類のメスを感知して体内への侵入を図る。一方、オスを感知すると一転して襲いかかるという凶暴さ。
 切り刻んでも死なず、息の根を止めるには炎で焼き殺すしかないという驚異の生命力。寄生虫というよりほとんど異星生物、エイリアンという印象だ。
 これが人口密集地の東京で解き放たれたら、一気に日本中に広まってしまう。これはたしかに怖い。

 ジャカランダとビオが不老虫対策に呼ばれた理由は、ストーリーの進行とともに明らかになっていく。
 そして、このとてつもなく危険な寄生虫を持ち込んだのは、日本の商社と製薬会社の混成チーム。なぜそんなことをしたのかは、こちらも中盤で明らかにされるのだが、こちらも社運を賭けているので一歩も引けない状況だ。

 寄生虫蔓延を阻止するべく奔走する恭平&ジャカランダと、混成チームのせめぎ合いが描かれていく・・・


 上のストーリー紹介部を読むと、ジャカランダ嬢も不老虫並みに人間離れした超人みたいに感じるかも知れないが、そんなことはない。最初こそ、ちょっととっつきにくいが、恭平とも次第に打ち解け、年相応の女性としての魅力も十分に描かれる。

 悪役となる混成チームのメンバーについても個々に深掘りされていて、危険を知りつつも不老虫の持ち込みに協力する研究者たちの苦悩も描かれている。

 ミステリというよりはサスペンス、もっと云えばSFなのだが、中国から出てきたコロナウイルスが瞬く間に世界中に蔓延してしまった現実を知った身からすれば、この物語を荒唐無稽と笑い飛ばすことはできない。

 おそらく続編はないのだろうが、短編でもいいので恭平とジャカランダのその後が知りたいなぁ・・・



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銀色の国 [読書・冒険/サスペンス]


銀色の国 (創元推理文庫)

銀色の国 (創元推理文庫)

  • 作者: 逸木 裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/02/20




  • 評価:★★★☆


 自殺対策NPO法人で働く田宮晃佑(たみや・こうすけ)のもとに、かつての相談者が自殺したという連絡が入る。「何者かによって死に誘導されたのではないか?」疑念を抱いた晃佑は調査を始め、やがてSNS上の自助グループ〈銀色の国〉の存在を知る・・・


 まず「プロローグ」では、小林詩織という女性が、あるトラブルに巻き込まれるエピソードが語られる。
 つづく本編では、2人の人物を中心に据えたストーリーが語られる。

 NPO法人〈レーテ〉は自殺対策を目的に田宮晃佑が設立した。死につながるような悩みを持つ人との面談や、自殺対策の講演などを主な業務にしている。しかしすべての自殺を止めることなど不可能なこと。晃佑は、相談者が死ぬたびに未だ深い無力感を感じる日々だ。

 そんなとき、かつて相談者だった市川博之が自殺したとの連絡が入る。晃佑の働きかけによって立ち直ったはずで、遺族も原因がわからないという。
 遺品の中にはVRゴーグルがあった。無くなる前の博之は、異様なほどVRにのめり込んでいたという。晃佑は、博之が何らかの方法で死へ誘導されたのではないかとの疑念を持ち、友人のゲームクリエイターの城間宙(しろま・ちゅう)とともに調査を始める・・・

 もう一人の主人公は浪人生・外丸(とまる)くるみ。交際相手に裏切られ、入試にも失敗、母が病死したことがきっかけで家庭も崩壊している。SNSへも、死をほのめかすような投稿を繰り返している。
 そんなとき、彼女のフォロワーの一人から、自助グループ〈銀色の国〉への参加を誘われる。興味を抱いたくるみは、〈銀色の国〉に参加するためのアイテムを受け取ることに。それはVRゴーグルだった。
 参加者はアバターとなって、他の参加者たちと交流したりゲームをする。それが〈銀色の国〉だった。自分を肯定してくれる〈銀色の国〉に居場所を見いだしたくるみは、辛い現実から目を背けるようになっていく・・・


 この2人のパートが交互に語られていき、中盤にさしかかると「プロローグ」で登場した小林詩織が再び姿を現す・・・のだが、読者は彼女がここでトンデモナイ状況におかれていることを知る。
 どうドンデモナイのかは書かないが、これほどまでの "悪意" に翻弄される状況というのは、希有だろうと思う。心は痛むし胸は悪くなるし、先を読み進めるのが辛くなるのだが・・・

 そして後半に入ると、晃佑とくるみのパートが絡み合いだしていく。〈銀色の国〉が実は自殺誘導サイトであり、近い将来、参加者たちを集団自殺に追い込もうとしているのではないか? しかし晃佑の危惧は周囲に理解されず、孤軍奮闘を強いられてしまう・・・


 脇役陣の描写もいい。理想を追う晃佑に対し、同僚の井口美弥子(いぐち・みやこ)は「止められない自殺は、どうしたって止められない」と言い切る、徹底的なリアリスト。
 晃佑の協力者となる城間宙は、過去に起きた "あるスキャンダル" で、ゲーム業界からは "追放" された身の上。
 しかし、この2人もひたむきな晃佑の行動によって変化を受けていく。


 終盤では、迫り来る集団自殺を阻止すべく、〈銀色の国〉の "主催者" を突き止めようというタイムリミット・サスペンスの様相を呈してくる。
 "犯人当て" ではないのだが、序盤から登場しているある人物が後半のキーパーソンになっていたり、 "主催者" の居所を突き止めるための伏線が張ってあったりと、ミステリ的な構成はしっかり組み込まれている。


 くるみに代表されるような、自己肯定感が持てず、自分の存在意義を感じられない人々の苦悩もじっくり描かれている。じっくり過ぎて、読んでいる方が気分が落ち込んでいくほどなのだが、作者が用意したラストには、希望の萌芽がしっかり描かれており、ちょっとほっとした気分で本を閉じられる。



タグ:サスペンス
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法月綸太郞の消息 [読書・ミステリ]


法月綸太郎の消息 (講談社文庫)

法月綸太郎の消息 (講談社文庫)

  • 作者: 法月綸太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/10/14
評価:★★★


 名探偵・法月綸太郎(のりづき・りんたろう)シリーズの短編集。長めの短編3作と、中編1作を収録してる。麟太郎の安楽椅子探偵ぶりが冴える2編を、海外の名探偵の双璧であるホームズとポアロに関する "ある考察" を描いた2編で挟むという構成。


「白面のたてがみ」
 綸太郎は、フリージャーナリストの飯田才蔵から、ある原稿を見せられる。それはオカルト研究の大家だった堤豊秋が遺した講演原稿だった。
 堤はその原稿の中で、コナン・ドイルが執筆したホームズ譚の中で、ワトソンが登場しない2作「白面の兵士」「ライオンのたてがみ」は、"ホームズの霊"(正確にはホームズのモデルとされるジョゼフ・ベル博士の霊)が語った内容を記述したものだという説を唱えていたのだ。ドイル自身、第一次大戦後あたりから心霊主義に入れ込んでいたのはけっこう有名な事実だ。
 後半に入ると、「ブラウン神父」シリーズ(作者のチェスタトンはドイルと同時代の人)まで登場となかなか賑やか。
 世にはシャーロッキアンという方々もいて、ホームズ研究なんて出尽くしてるんじゃないかと思うけど、いやあいろんな切り口があるものだ。


「あべこべの遺書」
 イベント企画会社の社長・益田貴昭の住むマンションの8階から男が転落死した。しかし遺体は薬剤師・一ノ瀬篤紀のものだった。そして一ノ瀬の住むマンションの部屋では、益田の服毒死体が発見される。
 どちらも自殺と思われたが、現場に残されていた遺書はあべこべだった。遺書が入れ替えられたのか?、人間が入れ替わって自殺したのか?
 何がどうしたらこういう状況が起こりうるのか? 謎としてはとても魅力的なのだけど、それを可能とする筋書きは・・・かなり綱渡りというか、針の穴にラクダを通すような離れ業が展開される。
 これを「超絶技巧」と思うか「無理矢理」と思うか。私は55対45くらいで前者かな。まあ、こういうのばかり読まされたらちょっと考えてしまうが、たまにはいい。


「殺さぬ先の自首」
 四谷署に男が現れ、こう云った。「人を殺した。自首するから逮捕してくれ」
 男の名は棚橋洋行。殺した相手は画廊〈ギャラリー藍〉のオーナー・藍川佐由美。前日の夜に殺したというが、警察が本人に連絡を取り、無事が確認された。
 しかしその2日後、佐由美の他殺死体が〈ギャラリー藍〉で発見される・・・
 「あべこべ-」と同様、謎としては魅力的だが、こちらの真相も負けず劣らずかなりの無理を通してる感じ。


 「あべこべ-」と「殺さぬ-」はどちらも綸太郎と父親の法月警視の会話で進行する。綸太郎が次々と「こうではないですか」と仮説を繰り出していき、それに対して法月警視がダメ出しをするという展開で、推理と云うよりは思考実験という趣き。出てきた結論も(おそらくそれが真相なのだろうが)その場では確認できず「その線で当たってみよう」という法月警視の言葉で締められる。


「カーテンコール」
 人気劇団「アルゴNo.2」(アルゴノーツ)がアガサ・クリスティーの『像は忘れない』を舞台化することになった。劇団の人気俳優・ロザムンド山崎から綸太郎に監修を求めてきた。それを受けた綸太郎はクリスティの著作を読み返すうちに、"あること" に気づく・・・
 中盤からは、舞台化に向けた勉強会が始まる。そこで繰り広げられる議論で取り上げられたのは、名探偵エルキュール・ポアロ最後の事件である『カーテン』について。
 それは、この作品の結末について、クリスティーは密かに "ある企み" を仕込んでおいたのではないか、というもの。そのために、過去の作品の中の記述に伏線が蒔いてあったのだ、と。
 参加者は、当然ながらみんなクリスティーのファンばかりで、肯定/否定の激しい論議が起こっていく・・・
 クリスティーが、ポアロ最期の事件に ”わかる人にはわかる” 仕掛けを施しておいた、というのはなかなか魅力的な設定ではある。しかしそれを証明する根拠となる ”過去の作品中の記述” というのも断片的だし、「そういう解釈も出来なくはない」というレベルではある。
 でも、本書の他の短編と同様に「思考実験」としてはとても楽しかった。クリスティーのファンなら一読に値すると思う。ただ、そのためにかなりの作品についての言及がある。
 もちろんだが『カーテン』についてはネタバレも含んでいるし、それ以外の作品(ちょっとマイナーかと思われる)も採り上げられている。巻末には "参考文献" として20作ほど挙げられているので、できればそれらは読んでおいた方がいい。

 私自身は、2003年から刊行された早川書房のクリスティー文庫(全102冊)のうち、(非ミステリ等を除いた)80冊くらいは読んでる。月1冊のペースで読んでたから、足かけ7年くらいかかったかな。
 いわゆる "超有名作" 以外の作品もけっこう面白かったのを覚えてる。当たり外れの少ない人だったんだね。"ミステリの女王" の名は伊達じゃない。

 


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宮内悠介リクエスト! 博奕のアンソロジー [読書・その他]


博奕のアンソロジー (光文社文庫)

博奕のアンソロジー (光文社文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/02/04
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 「博奕」(ばくち)をテーマにしたアンソロジー。いわゆるギャンブルに限らず、広く "賭け事" を対象にしている。賭けるものも現金に限らず、いろいろだ。


「獅子の町の夜」(梓崎優)
 主人公の "僕" はビジネスマン。仕事で訪れたシンガポールで日本人の老夫婦と知り合う。その午後、"僕" は夫人とディナーのデザートを巡って賭けをすることに。結果によっては夫と別れると彼女は云う。
 夫人を思いとどまらせるために、"僕" は彼女よりも先にデザートが何なのか突き止めようと推理を巡らす・・・
 ホテルのレストランでのディナーなんて、食べたことあったかな? そのせいか、オチの意味が理解できるまで時間がかかった(おいおい)。


「人生ってガチャみたいっすね」(桜庭一樹)
 2019年6月。ルームシェアしている3人の若者の会話から始まる。続いて2020年10月のある会社での情景が描かれる。そして改めてこの2つの時間の間に何があったのかが語られていく。それはなかなかショッキング。そしてラストはちょっぴりSFチック。
 紹介が難しいのだが、こういう話は嫌いじゃない。


「開城賭博」(山田正紀)
 時代は慶応4年(1868年)。官軍が江戸城を包囲し、総攻撃が始まろうとしていた頃。
 幕府側の勝海舟が、官軍指揮官・西郷隆盛を相手に、江戸城明け渡しの条件を賭けて博奕の勝負をするという話。
 こういうことを思いつくんだねぇ、流石は山田正紀。


「杭に縛られて」(宮内悠介)
 1998年。主人公の "わたし" はアフリカのエリトリアにいた。しかし隣国のエチオピアがエリトリアに対して宣戦布告したため、急遽国外への脱出を迫られる。
 しかし乗り込んだ貨物船はオンボロの老朽船。紅海へ出港したはいいが、座礁してしまい沈没の危機に。乗員乗客総勢20人に対して、救命ボートは8人乗り。誰がボートに乗るかの "くじ引き" が始まる・・・
 深刻な事態なのだが、ユーモラスな語り口で喜劇調で進むのがいい。


「小相撲」(星野智幸)
 一時期、大相撲が "八百長" だと騒がれた時期があったが、本作はまさに相撲が "賭博" の対象になっている世界の物語。
 さながら競馬のごとく、客は取り組みを選んで賭ける。ただし、その際には相撲賭博師という "プロ" を通さないといけない・・・
 設定的には面白いのだけど、相撲協会から訴えられないのかしら?


「それなんこ?」(藤井太洋)
 ITエンジニアの "わたし" は、故郷の奄美大島に戻って墓参りをする。そこで出会った少年に、薩摩伝来の賭け事 "ナンコ遊び" にまつわる過去の想い出を語り始める・・・
 うーん、作中の "ナンコ遊び必勝法" の理屈が、いまひとつ分かりませんでした。自分のアタマの悪さにガッカリ。


「レオノーラの卵」(日高トモキチ)
 異世界を舞台にしたファンタジー。町の工場で働く若い娘・レオノーラが産んだ卵が男か女か賭けないか、というところから始まる。
 この作品、他のアンソロジーでも読んだので、今回が再読。でも内容がよく分からない。
 例えばレオノーラの働いている工場のことを「工場長の甥の叔父が工場長を務めていた工場」と記述してる。
 よーく考えれば、最初の "工場長" と途中の "工場長" が別人の可能性もあるよなあ、って思えるのだが、とにかく全編がこんな感じで、読んでいてやたら疲れてしまい、ストーリーが全くアタマに入ってこない。うーん。


「人間ごっこ」(軒上泊)
 売れない役者の岸川は劇団を辞めてしまうが、妻もまた彼を見限って家を出ていってしまう。9年後、場外馬券場の警備員をしていた岸川は、意外なところで妻と再会するが・・・
 岸川の描き方が、もうこれ以上のダメ人間はなかなかいないのではないかと思わせる。そんな男が終盤に至って変貌する。ひとまずは物語にけりがつくけど、先は分からない。
 岸川くんの「明日はどっちだ」(笑)。


「負けた馬がみな貰う」(法月綸太郎)
 200万円の借金を抱えたフリーター・瀬川は高額報酬に惹かれて、ある心理実験にモニター参加する。それはギャンブル依存症治療プログラムの一種で、彼に課せられたミッションは「数週間から数ヶ月の間、競馬で負け続けること」。すなわち、毎日すべてのレースで "外れ馬券を買い続ける" ことだった・・・
 ラストで "実験" の様相が一変するのも驚きだが、さらにひとひねり。これがまた現代ならではのオチ。


「死争の譜 ~天保の内訌~」(冲方丁)
 ちなみに "内訌"(ないこう)とは内輪もめのこと。
 江戸時代、碁所(ごどころ)という役職があった。寺社奉行の管轄の公職でもあり、当然ながら当代最高の碁打ちが就くものとされた。
 その碁所の座を巡っての、名人たちの戦いが描かれる。表だったものだけでなく、水面下の暗闘めいたものまで含めて。
 当時は将棋よりも囲碁のほうが格が上だったみたいで、碁所を巡って文字通り命を賭けた男たちの執念が凄まじい。

 私は囲碁はできないが、将棋はちょっと知ってる。小学校の頃、覚えたばかりの将棋で父の知人と対戦したことがある。当然ハンデをもらい、相手は飛車角落としどころではない、王と歩だけしか持たなかった。それなのに、コテンパンに負けてしまったんだから・・・まあそれも今ではいい思い出だが(笑)。


 思い起こせば、私自身は賭け事はほとんどしてこなかったなぁ。強いていえば、何年かにおきに、宝くじを買ってたことくらいかな。結果は、6000円分買って3600円当たったのが最高。当然ながら赤字だ。
 まあ、私が自由に使える金は、みんな本と酒に注ぎ込んでるので、そもそもギャンブルに回せる資金が無いのだが(笑)。



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楽園の烏 [読書・ファンタジー]


楽園の烏 八咫烏シリーズ (文春文庫)

楽園の烏 八咫烏シリーズ (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/10/05

 八咫烏(やたがらす)の一族が支配する異世界・山内を舞台にしたファンタジー・シリーズ、第2部の1巻目である。第1部から20年後の世界が描かれる。


 本書の主人公は安原はじめ。新宿の一角でたばこ屋を経営している男だ。三十路を越えて未だ独身という気楽な生活を謳歌していた。
 彼の父親・作助(さくすけ)は失踪していたが、7年経過したために法的には死亡扱いとなり、彼の子どもたちは遺産を相続することになった。はじめに遺されたのは「山」であった。

 僻地にあって財産的には二束三文だったが、なぜか「山を売ってくれ」という者が続々と現れる。
 訝しむはじめのもとに、"幽霊" と名乗る謎の美女がやってくる。
「あなたのお父様に頼まれた。あの山の秘密を教えましょう」

 "幽霊" に導かれるまま、はじめは「山」の "中" へと入っていき、やがて異世界・山内へと到達する。


 山内は雪斎(せっさい)という男が実質的に支配していた。「山」を手に入れようとしていたのは彼の手の者だったのだ。雪斎から改めて「山」を譲ってほしいと申し入れられるが、はじめは断り、しばらくこの世界に逗留することにする。

 雪斎から付けられた世話役の青年・頼斗(よりと)を連れて、はじめは山内の見物に乗り出すのだが・・・


 始まってから10年ほどにもなるシリーズなので、第2部の開幕に当たって、全く山内について知らないはじめというキャラをメインに持ってくるのは上手いと思う。
 第1部の復習にもなるし(実際、私もけっこう忘れてた)、あまりいないとは思うが、この巻からシリーズに入る人にも興味を持ってもらえるだろう。

 ただ、この巻で展開される世界は、第1部終了時点の世界とはかなりの "断絶" がある。どこがどう違うかは書かないけど、たぶん多くの読者が戸惑うのではないかな(もちろん私も、心の中で「えーっ」って叫び通しだった)。

 もちろん、第1部から通して登場するキャラもいるけど、それもかなり "変化" してる。まあ20年も経ってるのだからね・・・

 それでも、この巻だけでも分かることがあって、それはどのキャラにも "裏の顔" がある、ということ。ところどころで意外な言動をしたりして「え? そういう設定なの?」って驚くこともしばしば。

 まあ、シリーズ第1巻『烏に単は似合わない』では、ファンタジー世界で堂々の本格ミステリを展開して見せた人だから、ここでも続巻に向けての伏線をしっかり張ってるということなのでしょう。

 巻末の解説では、次巻『追憶の烏』では、この20年間の出来事がある程度明かされるらしいんだが、「愕然とする内容」って書いてある。
 楽しみだが不穏な雰囲気も感じるなぁ・・・。でも文庫になるのが待ち遠しくはある。



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探偵少女アリサの事件簿 今回は泣かずにやってます [読書・ミステリ]


探偵少女アリサの事件簿 今回は泣かずにやってます (幻冬舎文庫)

探偵少女アリサの事件簿 今回は泣かずにやってます (幻冬舎文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2020/10/07
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 31歳の "なんでも屋"・良太と、名探偵・綾羅木(あやらぎ)孝三郎の一人娘・アリサ(10歳)のコンビが、地元で起こる怪事件(笑)を解決していくシリーズ、第2巻。


「第一話 名探偵、夏休みに浮かれる」
 孝三郎は、アリサを連れて知人の高橋さん一家と共にキャンプに出かける予定だった。しかし、事件の依頼が入ってしまった。そこで彼の代わりに良太がアリサと一緒にキャンプに参加することになった。
 一行は奥多摩のキャンプ場に到着する。そして午後のひととき、川で遊ぶアリサたちの前に水死体が現れる。遺体はキャンプ場管理事務所のスタッフだった・・・
 小学生を連れた胡散臭い三十男の良太が、行く先々で変質者扱いされてしまうのも、お約束の展開で笑いを誘う。アリサが真相に気づくきっかけが面白い。子どもを探偵役にした意味がある。


「第二話 怪盗、溝ノ口に参上す」
 近頃、"怪盗ウェハース" なる窃盗犯が南武線沿線に出没してるらしい。そんな中、孝三郎に事件の依頼が入る。老舗焼き鳥屋『鳥男爵』を経営する鳥山直次郎のもとに "怪盗ウェハース" から犯行予告状が届いた。「三代伝わる秘伝のタレをいただきに参上する」と。
 他の事件の依頼で動けない孝三郎に代わり、店の警備を任された良太だが、予告の時刻にまんまとタレを盗まれてしまう。しかし建物は衆人環視の中にあり、誰も出入りはできないはずだった・・・
 ストーリーは二転三転の後、"怪盗ウェハース" の正体と目的が明らかに。これは盲点。


「第三話 便利屋、運動会でしくじる」
 良太のもとへ竹本洋輔という会社員から依頼が入る。小学生の娘・理奈の運動会を撮影してほしい、というもの。竹本は当日出張が入っていて見に行けないのだという。理奈は、アリサと同じ小学校へ通っていた。
 そして運動会当日。良太の元へ孝三郎から連絡が入る。事件の依頼があって急遽出張するので、アリサの運動会の様子を撮影してほしいという。というわけで、良太は2台のカメラを駆使して2人の小学生の競技の様子を撮影するという、てんてこ舞いの状況になってしまう。
 さらに、観客の持っていた腕時計がなくなるという騒ぎが起こり、良太もそれに巻き込まれることに。結局時計は見つからず、犯人も分からずじまい。
 しかしその数日後、竹本洋輔が何者かに襲われ、意識不明の重体となってしまう・・・
 ビデオカメラの操作って、けっこう難しいもの。撮りたいシーンがとれなかったり、余計なものが映っていたり。それを上手く使ってミステリに仕立ててるのだけど、それをさらにもうひとひねり。上手い。


「第四話 名探偵、笑いの神に翻弄される」
 良太は、森恭子という女性と知り合いになった。彼女は男女の漫才コンビ『デニム&ルビィ』の片割れ、ルビィ恭子として芸能活動をしていた。相方の男はデニム内藤という。
 ある夜、良太は修理工場の2階で『デニム&ルビィ』が稽古しているのを目撃するが、その翌朝、多摩川の河川敷でデニム内藤の死体が発見される・・・
 作中、漫才のシーンがあり、そのやりとりの様子が描かれてるんだが、けっこう面白い。まあ、この作品集自体、全編がコントみたいなものなのだが。
 よく、泣かせるのは簡単だが笑わせるのは難しいという。作者はそれをほとんどの作品でやってるわけで、ほんとスゴいなと思う。
 そして、そういう笑わせるシーンの中にしっかり伏線を仕込んでおくのも流石だ。



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