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フラッガーの方程式 [読書・SF]


フラッガーの方程式【電子特典付き】 (角川文庫)

フラッガーの方程式【電子特典付き】 (角川文庫)

  • 作者: 浅倉 秋成
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/04/23

評価:★★★★


 主人公・東條涼一(とうじょう・りょういち)は平凡な高校生。クラスメイトの佐藤さんと仲良くなりたい、ただそれだけを望んでいた彼だが、"平凡な生活を劇的に変革する" という「フラッガーシステム」のテストモニターに選ばれた日から、彼の日常はドラマチック、いやドタバタコメディの世界へと変貌していくのだった・・・


 涼一の前に現れたのは「フラッガーシステム開発プロジェクト」営業担当の村田という男。"平凡な生活を劇的に変革する" という触れ込みのシステムのモニターとして参加しないかという申し出だった。

 システムの正体は一種の電波。これを流すことによって人々の行動や思考を変容させるのだという。
 まあ、本書の根本を支えるアイデアで、これによって引き起こされるスラップスティックなドタバタコメディが描かれていくのだが、よく考えるとこれは恐ろしいシステムだ。だって一般大衆を、恣意的に一つの方向に容易く導いていってしまうのだから。
 戦隊ものの悪の組織が怪人を繰り出して幼稚園バスを襲わせるよりも(笑)、遙かに効率よく世界征服ができてしまいそうだ。実際、日本政府首脳さえもこのシステムの影響を受けてしまう描写がある(おいおい)。

 とはいっても、本書に於けるこのシステムの目標(?)は「深夜アニメのラブコメを現実化すること」らしいので(村田自身がラブコメアニメの大ファンらしい)とりあえずそっち方面の心配はしなくていいようだが(笑)。

 というわけで、モニター参加した涼一クンの日常は劇的に変貌する。まず両親がそろってアフリカへ長期出張してしまう。一人暮らしになるかと思えば、彼のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ少女・ソラが居候として転がり込んできて、一つ屋根の下で暮らすことに。しかもソラの正体は風俗嬢(!)とかいろいろ無茶苦茶である。

 学校に行ったら、クラスの男子はほとんど「集団はしか」に罹って病欠状態。そして涼一は生徒会長にして富豪令嬢の御園生怜香(みそのう・れいか)から一方的に迫られるというラブコメ展開に。
 かと思えば、魔術研究会部長の一ノ瀬真(いちのせ・まこと)に拉致されて強制入部させられ、『一級魔術師』を自称する彼女とともに最強の魔術師を目指すことになり、挙げ句の果てには "悪の組織" と対決する羽目になるなど、もう作者のやりたい放題である(笑)。

 書いてて改めて思うが、異常というかトンデモナイ展開が続く。涼一の前に現れる人物が、ことごとく常軌を逸した言動をとるわけで、これはもう漫才かコントの世界。
 巻末の解説でも書いてあるが、周囲の人物が総じてボケを演じ、それに対して涼一が一人でひたすらツッコミをする描写が延々と続く。

 往年の筒井康隆の不条理SFをライトノベルに書き直したみたい、って書いても分かる人は少ないかな。

 物語は中盤あたりから、やっと佐藤さんがストーリーラインに乗ってくる。涼一の "願望" もついに叶うか、と思われるあたりから物語は一気に風雲急を告げ、シリアス路線に。

 終盤に至ると、涼一は(文字通り)命をかけて "難題" に挑むことになるのだが、ここで物語前半でばらまかれたラブコメやらギャグやらドタバタの要素が、ことごとく伏線として立ち上がってくる。
 笑いながら読み飛ばしていた諸々のことがらが「ここで効いてくるのか」「そんな意味があったのか」と何度も驚かされることに。

 作者には最近 "伏線の狙撃手" なる異名があるらしいのだが、デビュー2作目の本書にしてその能力は全開である。文庫で480ページ超という大部だが、破綻させずに最後まで面白く読ませる筆力もまた半端ではない。

 終盤こそ不穏だが、基本はラブコメなので、あまり深く考えずにゲラゲラ笑いながら読むのが正解だろう。



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