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非日常の謎 [読書・ミステリ]


非日常の謎 ミステリアンソロジー (講談社タイガ)

非日常の謎 ミステリアンソロジー (講談社タイガ)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/03/12

評価:★★★


 コロナウイルスが世界を席巻していた "非日常" の時期においても、身の回りではいつもの "日常" が進行していた。ならば、"日常" の中にも "非日常" が潜んでいるのではないか・・・というテーマのもとに編まれたアンソロジー。
 ちなみに、文庫表紙の絵がタイトルをよく表していて、実に秀逸。


「十四時間の空の旅」(辻堂ゆめ)
 主人公はまもなく16歳の誕生日を迎えるエリカ。12歳の時から、父の仕事の関係で一家揃ってアメリカで暮らしていたが、現地の生活に馴染めずに、日本の祖父母のもとで生活することになった。帰国のために一人で乗り込んだ旅客機の中で、4年間の生活を回想するエリカだが・・・
 エリカさんの境遇には同情を禁じ得ない。オチは途中で読めてしまうけど、この手の話は丸く収まるのがいちばんだよねぇ(笑)。


「表面張力」(凪良ゆう)
 老朽化したアパートを取り壊したところ、ある部屋の壁紙の下にお札が一面に貼ってあった・・・《管理人》
 寺の住職の弟で、附属幼稚園の園長をしている男は、妻に隠れて浮気をしているが・・・《園長》
 住職の妻は過去を回想する。かつて、恋愛成就のために、住んでいたアパートの部屋一面にお札を貼っていたことを・・・《彼女》
 隣の市の寺に出かけたところ、住職の家族たちの会話から小説のネタをみつけだした男は・・・《作家》
 この4つのパートの後、《編集者》というパートで意外な展開が。読んでると人間関係がこんがらかってしまいそう(笑)。


「これは運命ではない」(城平京)
 小山内敦(おさない・あつし)は就職して二年目。その日、取引先との会合に遅れそうで歩道を走っていたら、曲がり角で出会い頭に若い女性・三村景子(みむら・けいこ)にぶつかってしまう。散々に怒られてしまうが、なんと彼女は取引先の担当者だった。
 その終末、映画を見に行った敦だったが、なんと隣の席に景子がやってきた。驚く二人だったが、上映後には映画の出来を巡って一時間も激論してしまう。
 不思議な再会はこのあと二度も起こり、流石におかしいと思う敦。これは単なる偶然なのか、それとも彼女が仕組んでいるのか? 彼は大学の先輩・桜川九郎(さくらがわ・くろう)に相談するが・・・
 ラブコメみたいな展開に九郎が示す解釈が実にさまざま。日常(非日常?)の謎を多重解決するお手本みたいである。


「どっち?」(木元哉多)
 本田奎(ほんだ・けい)は、妻・美嘉(みか)が立ち上げたアパレル会社の広報部長を勤めている。美嘉の親友であるクリスティーンと浮気をしているが、美嘉の妊娠を知り、別れ話を切り出していた。
 ところが、美嘉が出産のために実家に帰っていて不在の家に帰ってきた奎は、寝室でクリスティーンの首吊り死体を発見する。浮気発覚を恐れる奎は、彼女の死体をゴルフ場の雑木林に埋めてしまう。隠蔽に成功したかと思われたが・・・
 ほとんどの読者は途中で真相に見当がつくと思うが、そこから先が本作の読みどころだろう。


「成人式とタイムカプセル」(阿津川辰海)
 小学4年生(10歳)のときに行う『二分の一成人式』。クラス委員だった主人公・有田雄馬(ありた・ゆうま)は友人たちと共にタイムカプセルを埋めた。
 そして10年後、20歳となった雄馬は、卒業した小学校から連絡を受ける。校舎改修で校庭を掘り返していたら「4-2有志」と書かれたタイムカプセルが出てきて、どうやら雄馬の代のものらしい。
 成人式に参加した雄馬は、そこで篠原日景(しのはら・ひかげ)と再会する。小学校5年の時にやってきた転校生で、雄馬の初恋の人でもあった。
 雄馬は日景と共に小学校へ向かうが、手紙とプレゼントが入っているはずのタイムカプセルの中は空だった・・・
 探偵役となる日景さんが実にいいキャラ。気さくで愛嬌もあり、打てば響くような気の利いた返しをする。雄馬とタメ口でじゃれ合う姿は実に微笑ましい。
 二人がこの後どうなるのか知りたいなぁ。続編でも後日談でもいいから書いてほしい(笑)。


「この世界には間違いが七つある」(芦沢央)
 部屋の中にいるのは、キララさん、田中さん、最高齢の真千子さん、その夫の孝介さん、そして「私」。
 キララさんが突然倒れて事切れた。しかし部屋の中の者たちはどこへも行けない。身動きすらしてはならない。なぜなら、"そう決められていたから"・・・
 これはミステリかなぁ。"奇妙な味" とも違う。不条理小説のような実験小説のようなSFのような。「先に書いた者勝ち」な、アイデア勝負の "一発芸" かな。



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