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近況 (専業主夫?の一日) [日々の生活と雑感]


 4年前に定年退職、その後再雇用でパートタイム労働者となり、それも昨年度末で終了となって、この4月から晴れて完全リタイア。
 そんな身分になって1ヶ月。さぞや暇を持て余すんじゃなかろうかと思っていたけど、案外そうでもないことに気づいた。

 現在の毎日の生活パターンをちょっと書いてみる。

 起床はだいたい6:20前後。かみさんは5時には起き出し、洗濯物を干して(朝に洗濯が終わるようにタイマーでセットしてある)、食事も済ませ、私が起き出すのと入れ違いに出勤していく。もっと遅くても間に合うのだけど、道路が混んでしまうのが嫌だというのでいつもこの時間に家を出て行く。

 6:30には他の家人も起きてくる。こちらも朝食を済ませると7:20頃に出勤していく。
 家人をみな送り出してしまうと、私の時間の始まり。ちょっと一服したら散歩に出かける。これは雨が降らなければたいていは実行してる。
 車で近くの川の土手まででかけ、堤防を歩く。いまのところ片道1.5km、往復で3kmを歩いてる。時間にして40~50分くらいかな。ちなみに万歩計で測ってみたら4500歩くらいあったよ。
 だんだん距離を伸ばして、夏頃には4kmくらい歩きたいなぁと思ってる。

 9時半~10時くらいに家に帰ってくると、ブログ更新の時間。
 記事の作成には pomera DM250(KING JIM製)を使用。これを使ってるのは、PC よりも文書作成に集中できる気がしてるから。まあ気分の問題なんだろうけど。
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 ここで書いた記事は1日置いて、翌日に PC に読み込んでから推敲してアップする。時間を開けて読み返すのが大事だよね。いろいろ直したくなる。
 そんなわけでけっこう手間をかけて書いてるんだけど、できあがるのは皆さんご存じの駄文の山(とほほ)。
 その日の記事作成と前日の記事の推敲/投稿が終わったら、だいたい11時半~12時になってる。

 昼飯は、昨夜の夕食の残りだったり、冷凍食品の在庫処理をしたり、麺類を茹でたり。コンビニ弁当は最近高いので、ほとんど買ってない。

 食事が済んだら屋内の掃除。けっこういろいろなものが溜まってるので、思い切って断捨離をしてる。まずは読み終わった文庫本が大量にあるので、それを片っ端から紐でくくって捨ててる。
 4月末で文庫本の処理はだいたい終わったので、5月からはまた別の片付けにかかる予定。

 片付けに割く時間は長くても1時間を超えないようにしてる。もともと掃除が嫌いなので(笑)、長時間になると辛くなるから(ナマケモノ)。たまにサボる日もあるし(おいおい)

 掃除を終えると13時半~14時。ここから17時までがいちばんフリーな時間。退職する前は目一杯読書ができるぞって思ってたけど、活字を追ってるうちに寝落ちしてしまうことが多くて、思ったほど読めない(あれあれ)。
 あと、手元にある円盤(Blu-ray、DVD)を観たりしてる。買い始めたのは2000年代に入ってからかな。そんなに大量に買いこむ人間ではないのだけど、掃除をしていたら意外と ”発掘” されて、けっこう持ってたことを再認識。20年もあると、それなりに蓄積されてたということか。せっかくなので、気が向いたものを観返してる。作品によってはかなり懐かしい気分に浸れる。

 そんなこんなで17時になると、PC を立ち上げてメールチェック。8割は宣伝メールなんだけど、それなりに情報源ではある。
 その後、朝にかみさんが干していった洗濯物を取り込んで仕分け、炊飯器のスイッチを入れてからスーパーマーケットへ行き、食材を買い込んで夕食の準備。出来合いの惣菜も少し買うけど、メインのおかずと味噌汁は私がつくる。

 18時半~19時の間にはだいたいみんな帰ってくるので、夕食も19時に完成することを目標につくる。
 20時に食事終了、後片付けをして茶碗や皿を食洗機に放り込んだら風呂を沸かす。家人が風呂に入るのを横目で見ながら、リビングで寝転がって読書。ところがこれも、途中で寝落ちしてしまう(寝てばかりである)。

 目を覚ますと23時~24時の間くらい。たいてい私以外の者は寝てしまっているので、一人で風呂に入り、その後には読書の続きをしたり、PC で Netflix を観たりして、寝るのは26時くらい。あ、もちろんその前には、炊飯器に米をセットしてタイマーを入れるのを忘れずに・・・。

 うーん、こう書いてみるとけっこう規則正しく生きてる? 思ったほど自堕落な生活ではないかも。ほとんど専業主夫だね。けっこう時間帯ごとにやることが決まっているので、「暇を持て余してる」って実感はない。

 退職前と比べていちばん大きな違いは「無理をしない」「辛いことはしない」ようになったことかな。
 例えば散歩だって、風が強くて歩きにくかったら「今日は半分の距離でいいや」とか、掃除についても「今日は最低限ここまではやる」とか思わず、「気が向かないから今日はこれだけでいいや」ってなった。でも私の場合、このほうが長続きしてるみたいだ。
 いつまで続くかは分からないけど、いまのところ、このペースでの生活で安定してる。大きな変化が生じたら、また記事に書きます。


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ゲーム・メーカー 沈黙の侵略者 [読書・冒険/サスペンス]


ゲーム・メーカー 沈黙の侵略者 (角川文庫)

ゲーム・メーカー 沈黙の侵略者 (角川文庫)

  • 作者: 池上 司
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/09/21
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 東京湾浦賀水道で大型商船2隻が爆発・炎上。現地へ向かった自衛隊の対潜哨戒機も撃墜されてしまう。爆発の原因は、謎のテロ集団によって敷設された大量の機雷と判明、海上自衛隊第一掃海隊群に出動命令が下る。
 その司令官は、かつて湾岸戦争で機雷掃海作業を指揮した奥寺1佐。しかしテロ集団のリーダーもまた、湾岸戦争当時に奥寺と "轡を並べて戦った" 人物だった。互いに相手の手の内を知る、2人の男の戦いが始まる・・・


 冒頭60ページほどは、"テロ集団" の背景が描かれる。先進国に対するテロというと思想的な背景がありそうに思うが。本書での "彼ら" にはそういうものはない。

 スポンサーとなる組織の目的は、純粋な金儲けである。なんでテロ行為がでそんなことで可能になるのか、その答えはいわゆる "マネーゲーム" である。このへんは "今風" だね。

 東京湾を封鎖し、日本を経済的な窮地に追い込むことによって、まあ云ってみれば "風が吹けば桶屋が儲かる" 的な理由で巨額な "儲け" が手に入る。まさに "ビジネスとしてのテロ行為"。だから実働部隊の主体も傭兵である。

 そのリーダーとなり、具体的な機雷の選定と敷設、そして現地での作戦を指揮するのは、かつて湾岸戦争に参加した英国海軍の元中尉ジェフリー・スコット。
 彼もまた、切実な理由で大量の資金を必要としており(そのあたりの事情も語られる)そのために今回の計画に加わっていた。


 ジェフリーの指揮の下、密かに敷設された大量の機雷により、浦賀水道を航行していた2隻の大型商船が爆発・炎上。現場に向かった3機の対潜哨戒機P-1も、地対空ミサイル『アドバンスト・スティンガー』によってすべて撃墜されてしまう。既に東京湾に臨む三浦半島と房総半島には、スコット率いる傭兵部隊が潜伏していたのだ。


 東京湾が封鎖されると、その影響は計り知れない。京浜・京葉工業地帯への物流がストップするだけではない。電力に限ってみても、東京電力は停止している原発の穴埋めとして東京湾岸にある火力発電所を稼働させている。これらを賄う石油・天然ガスが枯渇すれば首都圏は大規模な停電に見舞われてしまう。
 また、横須賀に寄港している米軍の空母打撃部隊は出撃が不可能になる。米軍は東アジアにおける軍事プレゼンスを喪い、世界情勢の不安定要因となってしまう。


 非常事態に対処することになった自衛隊は、苦戦を強いられる。テロ部隊を地上戦で制圧しようとするが、航空支援ができず、人口密集地なので大規模は戦闘はできず、武器使用にも制限がかかる。
 機雷除去に向かった掃海部隊の第一陣も、ジェフリーが仕掛けた用意周到な罠によって大損害を受けてしまう。


 海上自衛隊の奥寺2佐は、かつて湾岸戦争を経験した "機雷除去のスペシャリスト"。英海軍中尉だったジェフリーとともに死地を経験した仲だった。
 定年退職まであと1ヶ月と迫っていたが、岡本海将補による抜擢で1佐に昇進、掃海隊群の司令となってテロ事件に対処することに。

 ジェフリーはもちろん自衛隊に奥寺がいることは承知しており、やがて彼が自分の前に立ちはだかることを予期している。
 奥寺もまた、テロ集団が兵器としての機雷の運用に精通していることから、ジェフリーの存在を感じ取っていく・・・

 2人が相手の手の内を読み合う展開も読みどころではあるのだが、彼ら以外にも多くの人物が登場する群像劇となっており、異なる立場、異なる配置にいる様々な人物の葛藤や決断もまた描かれる。
 文庫で470ページと大部だが、緊張が途切れることなく読者を最後まで引っ張っていく。


 本書の特色として、機雷に関する膨大な蘊蓄が語られていることがある。

 機雷と云えば、水中に浮かんでいて何かと接触すると爆発する、くらいのざっくりとしたイメージしか私にはなかったのだけど、実は様々な種類が存在していることに驚く。

 潜んでいるのも水中に限らない。海底のヘドロの中に沈んで待ち構えるものもある。起爆の原因も物理的接触だけに限らず、音や振動、中には電磁波がトリガーになったり。さらには、船舶の推進音の "音紋" を聞き分けるものまである。つまり、特定の船舶を狙って爆発させるというハイテク化したものまであるわけで、これはびっくりである。

 太平洋戦争当時、日本近海には無数の機雷が設置されたことで海運がほぼ途絶し、資源のない日本は原爆の投下がなくても降伏は時間の問題だったという。そういう意味では核兵器に匹敵する "戦略兵器" でもあるわけだ。

 しかも、機雷に限らず爆発物の除去には、設置の時とは桁違いの手間と時間(と費用)が必要になるわけで「仕掛ける側に圧倒的なアドバンテージがある」という作中の言葉は重い。


 作者は1996年に『雷撃震度一九・五』という潜水艦ものの名作でデビューした人なのだが、2020年に交通事故でご逝去されたとのこと。まだ60歳だったという。
 ご存命ならまだまだ多くの著作を遺されたことと思う。とても残念です。
 合掌。



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天盆 [読書・ファンタジー]


天盆 (中公文庫)

天盆 (中公文庫)

  • 作者: 王城夕紀
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/08/25

評価:★★★★☆


 蓋(がい)の国の "国技" たる「天盆(てんぼん)」は、将棋に似た盤上のゲーム。しかし、国を挙げて行われる競技大会「天盆陣」の勝者となれば、立身出世も夢ではない。
 主人公・凡天(ぼんてん)は貧しい平民の出でありながらも天才的な力量を示し、激戦を勝ち抜いていく。しかしその裏では、彼を阻止しようとする陰謀もまた企てられて・・・


 舞台となる蓋の国は、中世の中国を思わせる国家。
 年に一度、実施される「天盆陣」は、全国を東西南北の4地区に分けて予選が行われる。各地区を勝ち抜いた4人の決勝進出者には「天盆士」の称号が与えられ、国政に参与する道が開かれる。
 しかしもう長い間、平民からの「天盆士」は誕生していない。時の流れにつれてその制度は形骸化し、一部の既得権益階級の間でのみ優勝者が生まれていたのだ。

 主人公・凡天は捨てられた赤子であったが、少勇(しょうゆう)と静(せい)の夫婦に拾われた。2人には既に12人の子がいたので、凡天は13人目の末子となった。
 ちなみに兄弟姉妹の名には数字がつけられているので、第何子かはすぐ分かるようになっている(笑)。例えば長男は一龍(いちりゅう)、次男は二秀(にしゅう)。ちなみに第11子(女子)は士花(しいか)、第12子(女子)は王雪(おうせつ)。うーん、よくできてる。

 3歳になった凡天は、「天盆士」を目指している二秀から「天盆」の手ほどきを受けるが、たちまち兄姉たちを凌ぐ上達を示す。やがて二秀と凡天は、ともに「天盆陣」に臨むことになっていくのだが・・・


 "万人に開かれた大会" であるはずの「天盆陣」だが、形骸化して久しい。息子の栄達を望む地方の有力者は、幼い頃から子に "英才教育" を施すのはもちろん、有力なライバルが現れれば裏から(あるときは堂々と表から)圧力や嫌がらせ、威嚇をして排除していく。

 だから、平民出身の凡天の "台頭" はなんとしても阻止しなければならない。少勇と静は大衆食堂を経営しているが、有形無形の "圧力" によって客足は遠のき、仕入れにも支障を来すようになってしまう。しかし少勇や一龍は挫けずに凡天たちを支え続ける。
 後半になると、権力者たちはさらに悪辣な妨害を仕掛けてくるのだが・・・


 凡天は、その天与の才(もちろんその裏にある、人並み外れた努力も描かれるが)を発揮して「天盆戦」を勝ち進むのだが、彼の前には次から次へと強敵が現れる。難敵を倒せば、次はさらなる強敵が現れる、というように。
 このあたりは少年マンガのバトルもののノリに近い。「天盆」は、云ってしまえばボードゲームの一種なのだが、その "戦い" は高密度で描写され、凄まじい緊張感を伴って読む者に迫ってくる。このあたりの筆力をみるに、作者もまた ”非凡” としか言い様がない。

 登場キャラの個性もみなユニークだ。
 「天盆」以外は眼中になく、嬉々として棋譜を読みふける凡天。
 二秀は ”誠実” を絵に描いたような兄。凡天の "師" として登場し、途中からは遙か高みへいってしまった弟の戦いを見届ける役回りに。
 その他、11人の兄姉たちもそれぞれ個性豊かに書き分けられていて、なかでも才色兼備の六麗(ろくれい)が印象強い。難局にあってもしたたかに生き抜いていく彼女の逞しさが心地よい。
 凡天の対戦相手も、"いかにも悪役" な曲者キャラから、純粋に親の期待と家の将来を背負った "真っ当な敵" までさまざま。このあたりも上手いと思う。


 終盤にいたり、いよいよ東西南北4地区代表による "決勝戦" となる。そしてすべての勝負の決着がついたとき、物語は意外なエンディングを迎える。

 ここまで読んできて、思わず「えー!!」って(心の中で)叫んでしまったよ。詳しいことは伏せるけど、いろんな思いが頭の中に渦巻いた。
 でも、"歴史の歯車" というのはこういうものなのかも知れない。あえてここで終止符を打ったのも、作者の見識なのだろう。



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双蛇密室 [読書・ミステリ]


双蛇密室 (講談社文庫)

双蛇密室 (講談社文庫)

  • 作者: 早坂吝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/06/13

評価:★★☆


 娼婦にして名探偵、上木(かみき)らいちが活躍するシリーズの一編。
 レギュラーメンバーで「お客様」でもある刑事・藍川が幼少時に経験した、不思議な2つの密室事件に挑む。


 らいちの "お得意様" である刑事・藍川広重(ひろしげ)は、物心ついた頃より悪夢に悩まされてきた。真っ暗な闇の中で二匹の蛇に襲われる夢だ。

 母親である誉(ほまれ)の話によると、広重は1歳の頃に自宅の部屋で蛇に襲われたことがあるらしい。しかしそれを聞いたらいちは、その中にある矛盾点を指摘する。どうやら誉は真実を話していないらしい。しかも父・出(いずる)は実の父親ではないことも知る。

 真相を知るために、5年ぶりに帰郷した広重は両親に問いただす。2人が語り出したのは、過去に起こった不可解な "事件" だった。

 38年前、産婦人科医だった藍川出は、妊婦検診に来た誉が夫・万場黒太郎(まんば・こくたろう)からDVを受けていることを知る。彼は妻を虐待した実体験をもとに執筆したSM小説で人気作家となっていた。
 出は医師として誉に接しているうちに、彼女への同情は次第に愛情へと変化していく。

 検診日に姿を現さなくなった誉を心配した出は彼女の家に向かい、母屋の隣のプレハブ棟の中で、気を失った誉と黒太郎の死体を発見する。死体の傷跡から、黒太郎の毒蛇に噛まれたことが死因と考えられた。
 しかし現場周辺は雨が降った後で、プレハブ棟の周囲は泥濘んでいて人の出入りした足跡も蛇が這った跡もない。

 警察に通報すると、誉に殺人容疑がかかるかも知れない。出は黒太郎の双子の兄弟・緑太郎(りょくたろう)の申し出のまま、事件を闇に葬ることに同意する。

 そして事件の直後に誉は広重を出産、出は誉を妻に迎え、広重の養父となった。出さんの度量の大きさには感服してしまう。実によくできた人だ。
 息子のほうは、刑事という立場にもかかわらず、女子高生のらいち相手に援助交際してるんだけどね(笑)。

 そして1年後。一家は高層マンションの27階に居を構えていた。ある日の午後、買い物を終えて自宅に帰った誉は驚愕する。子供部屋に2匹の蛇がいて、広重を襲っていたのだ。無我夢中で蛇を捕まえて窓の外へ投げ捨てる誉。幸い、広重は病院での治療で事なきを得た。
 しかし玄関のドアは施錠され、内部への入り口は開放していた窓だけ。マンションの27階に、どうやって蛇は侵入したのか・・・


 私は蛇が苦手で(得意な人の方が少ないだろうが)、いささか読むのが辛かったことを告白しておこう。

 登場人物が少ないが、そのぶんキャラが濃い人ばかり。なかでも雨傘蛇女(あまがさ・じゃのめ)という女性は、ネーミングからして "ただ者ではない" 感が半端ない。性格も行動も名前通りに凄まじく、とんでもない女傑ではある。

 本筋には関係ないけど、広重の同僚でレギュラーメンバーである小松凪南(こまつなぎ・みなみ)刑事が警察に採用されたときのエピソードもなかなか豪快で面白い。彼女もまた "ただ者ではない" ようだ。

 少ない登場人物=少ない容疑者 というわけで、フーダニットよりはハウダニットがメインになる。

 もちろんミステリ的な注目点は2つの密室のトリック。
 タネ明かしされてみて思ったが、これはいわゆる「一発芸」的なネタで、推理でどうにかなる問題ではないような気もする。
 アンフェアではないのだけど、「この発想」にたどり着く人はまれではないのかな(だからこそミステリとして成立するのだろうが)。もちろん、このネタを思いついた作者は素直にスゴいとは思うが。



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透明人間は密室に潜む [読書・ミステリ]


透明人間は密室に潜む (光文社文庫)

透明人間は密室に潜む (光文社文庫)

  • 作者: 阿津川 辰海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/09/13

評価:★★★★


 作者初の作品集だという。発表当時、各種ミステリランキングで上位に入ったのも記憶に新しい。文庫で70~100ページの分量がある "中編" を4編収録。


「透明人間は密室に潜む」
 細胞の変異によって全身が透明になってしまう "透明人間病" が発生、日本だけで10万人、全世界で700万人の罹患者(およそ1200人に1人くらいの割合か)が出ているという「特殊設定ミステリ」。
 透明になるのは人体だけなので、もちろん服はそのまま。食べたものも、消化されるまでの一定時間は不透明(外から胃の中が見えている状態)なまま。要するに、"完全な透明人間" になろうと思ったら、いろいろ制約があるわけだ。
 それにも関わらず、主役である透明人間病患者の女性が殺人を犯すという「倒叙ミステリ」である。
 物語は、殺人計画の準備を着々と進める彼女と、その行動に不審なものを感じた夫との2つのラインで進んでいく。そしてついに殺人事件が起こる。被害者はT大学教授・川路昌正(かわじ・あきまさ)。透明人間病研究の大家だ。
 現場は密室で、文字通り "透明人間が密室殺人を行った" わけで、彼女がどんなトリックを弄したかにまず注目してしまうが、むしろ殺人に至った動機のほうがメインの謎となる。
 「いくらなんでもそれはないだろう」とも思うが、"こういう世界" になってしまったら、絶対あり得ないとは言えないとも思う。トリックも動機もよく考えられたもので、たしかに "この世界" でしか成立しないミステリだ。


「六人の熱狂する日本人」
 アイドルグループ『Cutie Girls』のライブがあった夜、殺人事件が起こる。被害者も被疑者も『Cutie Girls』のファンで、被疑者は犯行を認めていた。
 しかし、裁判員として選ばれた6人が、偶然にもみな『Cutie Girls』のファンだったことから、簡単に終わると思われていた審議は紛糾する。
 映画『12人の怒れる男』のパロディだが、裁判員に選ばれた各メンバーの言動が抱腹絶倒もの(みな、立派なアイドルオタクだから)。ファンであっても、拘るところは人それぞれで、それに対する評価も様々。ゆえに各人が考える量刑もまちまち。ほとんどの部分が会話で進行するので爆笑喜劇の趣きだ。
 彼らの議論を見守る裁判官の皆さんも呆気にとられるばかり。どんなオチになるかと思えば、これも意外ながら納得のラスト・・・いや、これで納得してはいけないんだけど、ノリと勢いで押し切られてしまう(笑)。


「盗聴された殺人」
 探偵事務所の調査員・山口美々香(みみか)の特殊技能は、異様なまでに聴力が鋭いこと。過去に、足音を聞いただけで殺人犯を見つけ出したこともある。
 彼女の相棒となるのは事務所の所長である大野糺(おおの・ただす)。彼女の聴覚から得られた手がかりをもとに、推理していくのは彼の役目だ。
 2人のもとに持ち込まれたのは、浮気調査だった。夫・国崎昭彦が妻・千春の素行を疑ったのだ。夫妻の自宅に盗聴器を仕掛けたところ、夫の留守中に千春が自宅に愛人を連れ込んでいたことが判明する。ところが事態は意外な展開を見せる。千春が自宅で撲殺死体となって発見され、盗聴器には殺人の場面が録音されていたのだ。
 糺は美々香にその場面を聞かせ、犯人を突き止めようとするが、彼女の耳に聞こえてきたのは謎の不協和音だった・・・
 糺は音のみを手がかりに犯人にまでたどり着くのだが、その過程が秀逸だ。この2人は長編『録音された誘拐』にも登場してるとのこと。文庫になったら読みます(笑)。


「第13号船室からの脱出」
 タイトルは「十三号独房の問題」(ジャック・フットレル)のもじりだろう。刑務所からの脱獄を描いた古典名作短編ミステリだ。
 本作では、東京湾をクルーズする豪華客船の中で「脱出ゲーム」が開催される。人気推理作家・緑川史郎の書き下ろし脚本による企画だ。
 高校生のカイト(僕)、同級生のマサルとその弟・スグルもこのイベントに招待客として参加していた。
 ゲームの内容は、船内で「殺人事件」が起こり、それに伴って5つの問題が提示される。参加者は事件について推理しそれに答えていく、というもの。
 しかしゲーム開始後、カイトとスグルは何者かに拉致されて船室に閉じ込められてしまう。誰が何のために自分たちを "誘拐" したのか。懸命に推理するカイトは、ある結論に辿り着く。"犯人" の意図に気づいたカイトは、それを出し抜こうと頭を巡らせる。
 一方、船内で起こった「殺人事件」のほうも並行して描かれる。こちらの "真相" もよく考えられたもの。
 この2つのラインが終盤で1つにつながるという構成も上手い。
 後半では事態は急転直下、そしてラストでは意外な "からくり" が明らかに。文庫で100ページと本書で一番長いが、それに見合うくらい凝ったつくりになっている。



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ホームレス・ホームズの優雅な0円推理 [読書・ミステリ]


ホームレス・ホームズの優雅な0円推理 (富士見L文庫)

ホームレス・ホームズの優雅な0円推理 (富士見L文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/06/14

評価:★★☆


 医学部の入試に落ちた岩藤(いわとう)すず。納得できない彼女は大学に忍び込み、答案用紙を確認しようとするが、そこで見つけたのは大学の副学長の死体だった・・・
 彼女の前に現れたのは、ホームレスなのだが鋭い推理力を持つ男。彼女は彼を "ホームズ" と呼び、事件の真相を探り始める。


 主人公は、名探偵の相棒である「ワトスン」として生きることを目標にしている岩藤すず。その手始めに、原典通り医師になるために蔦野(つたの)医科大学を受験する。しかし結果は不合格。模試では常にA判定だったし、自己採点でも充分合格圏内に入っていたはずなのに・・・

 納得できないすずは大学に向かい、学生から答案の保管場所を聞き出す。どうやら校舎8階の〈ルームD〉にあるらしい。
 ここまで書いてきて思ったが、なんともセキュリティがルーズな大学だ。答案の保管場所も公然の秘密だったりする。もっとも、過去に28人もの侵入者がいたらしいが、みな警察のお世話になったらしいので大学も放置しているらしいのだが・・・

 すずもまた〈ルームD〉に忍び込むことに成功するが、彼女が見たのは床に散らばった答案用紙の束、そこには赤い血のシミがこびりついていた。しかもそのシミは、イヌ科の動物の足跡らしい。でも、それにしては巨大すぎる。
 そして、窓から見下ろす地面には副学長の死体が。状況から見て、ここから転落したと思われるが・・・?

 現場から逃げ出したすずだったが、翌日改めて大学へやってくる。そこで謎のホームレス男に出くわすことに。
 理知的な彼の佇まいに、すずは思わず尋ねてしまう。
「ねえ君、シャーロック・ホームズでしょ?」


 タイトルにもなっている "ホームズ氏"。ホームレスなのだが全くホームレスらしくない。
 公園の段ボールに住処があるのだが、実は "秘密のアジト" を持っていて、そこではけっこう優雅な生活を送っていたりと、いろいろ "訳あり" な様子だ。

 そしてそれはすずさんのほうも同様で、物語のけっこう早い段階で、彼女は片目が義眼であることが示される。なぜそうなったかは語られないが、彼女もまた過去に何かがあったらしいことをうかがわせる。


 巨大な犬の足跡など、明らかに『バスカヴィル家の犬』がモチーフの殺人事件の解明がメインのストーリーラインだが、それが解決した後に、2人が過去に意外な関わりがあったことが明らかになってエンディングとなる。

 ライトノベルのレーベルからの発刊なので、すずさんメインのパートはライトでコミカルな雰囲気をまとっているものの、最後に明らかになる真実、そして "ホームズ氏" の正体はかなり重いものだ。



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蟬かえる [読書・ミステリ]


蝉かえる (創元推理文庫)

蝉かえる (創元推理文庫)

  • 作者: 櫻田智也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/02/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 昆虫オタクの青年・魞沢泉(えりさわ・せん)が活躍する連作短編ミステリ集、第2巻。第74回日本推理作家教会賞および第21回本格ミステリ大賞受賞作。


「蟬かえる」
 山形県西溜(にしだまり)村の山中へやってきた魞沢は、そこで出会った糸瓜京助(へちま・けいすけ)という男から奇妙な話を聞く。
 16年前、西溜村を大地震が襲い、多大な被害を出した。京助はボランティアとして村に入り、4人の行方不明者の捜索に加わったが、そのうちの一人、12歳の少女が未だ発見されていなかった。
 そんな中、京助は村の神社の境内へ入っていく少女の姿を目撃する。後を追って中に入ったが、なぜか少女の姿は消えていた。亡くなった少女の亡霊だったのか・・・?。
 例によって魞沢が合理的な解釈を示す。密室状態からの人間消失トリック自体は見当がつくのだが、その背景となった事情が意外であり、かつ深い。


「コマチグモ」
 女子中学生がミニバンにはねられる交通事故が起こり、同時刻、団地の一室で平朱美(たいら・あけみ)という女性が頭から血を流して倒れていると警察に通報が入る。
 目撃者の証言によると、朱美の発見時、現場には彼女の娘・真知子がいたが、すぐに外へ駆けだしていってしまったという。その直後、交通事故に遭った中学生こそ、真知子だったのだ。
 捜査員は、事件の直前に真知子と話をしていたという男・魞沢と出くわす。変質者と間違われた魞沢くんだったが、彼が真知子と会話を交わすきっかけがトンボだったというのはいかにもである。そして彼の語る推理は、事件の様相を一変させるものだった・・・。
 事件の背景は哀しいものだが、ラストの数行でちょっと救われる。


「彼方の甲虫」
 前巻収録の「ホバリング・バタフライ」で登場した瀬能丸江(せの・まるえ)さんが再登場。前作の事件から2年後、ペンション経営者となった丸江に招かれ、再びアマクナイ岳へやってきた魞沢。
 しかしその翌朝、丸江のペンションの宿泊客アサル・ワグディが姿を消し、遺体となって発見される。
 フーダニットよりも、動機の方がメインかな。古くて新しい問題で、特に現代ではしばしばニュースになったりするほど根が深い。


「ホタル計画」
 科学雑誌『アピエ』に寄稿していたライター・繭玉カイ子(これは筆名。男性である)が失踪した。編集長の斎藤は、カイ子の自宅がある北海道に向かう。カイ子は北海道の水田にホタルを復活させる〈ホタル計画〉を進めていたという。
 彼の消息を追ううち、斎藤は地元にある東斗理科大学の生物学教授・長下部(おさかべ)が変死していた事実を知る・・・
 事件の背景にあるのは、これも一時期、さかんに取り上げられていた問題だ。
 魞沢の名は、ラスト近くになってようやく出てくる。謎に包まれた魞沢の正体(?)の一端が本作で明かされることに。


「サブサハラの蠅」
 魞沢が成田空港で再会したのは、大学の同期生だった江口。彼は〈越境する医師団〉の一員として、8年間アフリカで医療活動に関わってきた。
 数ヶ月後、帰国した江口が経営するクリニックに魞沢が訪ねてくる。信頼していた現地の女性スタッフを風土病で失ったことなど、アフリカでの思い出話を語る江口。その中で、魞沢は彼が "よからぬ隠し事" をしていることを見抜くのだった・・・
 全編がほぼ、2人の会話のみで進行する。これも、江口の抱えたもの以上に、その背景そして動機に心が動かされる。



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許されようとは思いません [読書・ミステリ]


許されようとは思いません(新潮文庫)

許されようとは思いません(新潮文庫)

  • 作者: 芦沢央
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/11/22

評価:★★★☆


 日本推理作家協会賞短編部門ノミネートの表題作を含む5編を収録、各種ミステリ・ベストテンにランクインした短編集。


「目撃者はいなかった」
 営業職の葛木修哉(かつらぎ・しゅうや)は、テーブル用板材を大量に誤発注してしまう。それを同僚や上司に知られないようにもみ消すべく、資材引き渡しの現場に自ら赴き、余分な板材の回収に成功する。しかしその瞬間、彼の目の前で交通事故が起こってしまう。
 後日、修哉は事故の当事者が虚偽の証言をしていることを知る。しかし目撃者として名乗り出ると、自分の失態が明らかになってしまう・・・。
 ちょっと前に、海外の短編で似たシチュエーションの作品を読んだが、本作のほうがサスペンスに振ったつくりで、展開もひねりも効いている。


「ありがとう、ばあば」
 語り手は年配の女性。9歳の孫・杏(あん)からは "ばあば" と呼ばれている。
 物語は、"ばあば" がホテルの7階のベランダに閉め出されるシーンから始まる。窓の鍵を閉めたのは杏。目の前は海なので誰にも助けを求められない。季節は冬で雪が舞っており、このままでは凍死は時間の問題だ。なぜ、杏はこんなことをしたのか・・・
 ここから回想シーンで "ばあば" とその娘(杏の母)、そして杏の三者の過去が綴られていく。娘の反対を押し切って杏を芸能界に入れ、人気子役となった杏の生活すべてを管理していく "ばあば" の溺愛ぶりが描かれていく。異常なまでの孫への執着ぶりは鬼気迫るものがある。
 そして最後に明かされる杏の行動の理由。これには愕然。


「絵の中の男」
 女性画家・浅宮二月(あさみや・にがつ)は、幼少の頃に強盗に両親と姉を殺されるという壮絶な体験をしており、それが彼女の絵の持つ異様な迫力の源だといわれていた。
 二月は長じて結婚し、息子・猛を授かる。この頃、家政婦のような立場で一家と同居していた女性が、本編の語り手である。
 二月は何度もスランプに見舞われ、一人息子の猛をも火事で喪うという悲惨な運命を辿る。そしてついに破局が訪れる。夫を殺害してしまうのだ。
 しかしラストに至り、語り手は夫の殺害事件に新たな解釈を示してみせる。
 絵の描けない私には想像もできないことなのだが、これが芸術に憑かれた者たちの "業" というものなのか。


「姉のように」
 主人公である "私" の姉が逮捕される。童話作家として成功していた姉の事件は連日マスコミで報道され、"私" に向けられる周囲の人々の目もまた、以前とは異なるものになってしまう。
 「私は姉のようにはならない」と堅く心に誓って生活をしようとするのだが、3歳の娘は当然ながら状況を理解せず、勝手気ままに行動する。"私" は次第にフラストレーションが蓄積していき、夫の無理解も重なって、娘に対する虐待の衝動が抑えられなくなっていく・・・
 本書の中で、ラストの切れ味はピカイチ。あからさまに伏線が張ってあったのに全く気づかなかった。完敗です。


「許されようとは思いません」
 主人公・諒一は、恋人の水絵と共に東北の寒村を訪れる。そこは諒一の母の故郷で、村の寺に祖母の遺骨を納めるためだ。
 18年前、祖母は舅である曾祖父を包丁で刺し殺すという事件を起こしていた。裁判では「私は自分の意思で殺しました。許されようとは思いません」とだけ述べて動機については語らず、獄中で病死していた。
 諒一は、水絵に問われるままに当時の状況を語る。未だに地方に残る理不尽な因習、それに従わないものへの悪意、虐待。それに晒された祖母の苦悩。
 終盤に至り、水絵は祖母の事件に意外な解釈を示してみせる。ミステリ的な切れ味も鋭いけど、この水絵さんが実に素晴らしい女性だ。ラストに交わされる、若い2人の未来へ向けた会話がこの作品の陰惨さを救っている。



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錬金術師の消失 [読書・ミステリ]


錬金術師の消失 (ハヤカワ文庫JA)

錬金術師の消失 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 紺野 天龍
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/12/17

評価:★★★★


 《始まりの錬金術師》が遺した水銀製の塔。訪問客たちは突然の嵐によって外部とは孤絶し、やがて起こる不可解な連続密室殺人事件。
 アスタルト王国の錬金術師テレサとその "付き人" エミリアのコンビが、錬金術がらみの事件を解決していくファンタジー・ミステリ・シリーズ、第2巻。


 アスタルト王国軍務省に所属する錬金術師テレサとエミリア少尉は、《水銀塔》の調査を命じられる。
 それは隣国バァル帝国との国境の川の中州に建つ、高さ50mほどの塔で、外壁(および一部の内壁)が "液体水銀" で生成されているのでその名がある。

 それは2000年前、《始まりの錬金術師》トリス・メギストスが遺したと伝わる建造物だ。現在は中立的な宗教国家シャプシェの管理下にあり、聖地故に多くの巡礼者が訪れていたが、人が姿を消してしまう "神隠し" が起こっているという不穏な噂もまた流布していた。

 《水銀塔》に到着した2人が出会ったのは、《塔》を管理する聖職者たち、教会聖騎士団とその関係者たち、一般の巡礼者たちに新聞記者、そしてバァル帝国の錬金術師と調査員の2人組だった。

 しかし突然の嵐が襲来、塔は外部から孤絶してしまう。そしてその夜、聖騎士の1人が首無しの遺体となって見つかる。

 現場は塔の一室だったが、各人に割り当てられた部屋には個人認証パネルが設置され、他者が開けることはできない。
 しかも午前0時から午前6時までの間は完全にロックされ、部屋の扉は中からも外からも、誰も開けることができなくなる。そして被害者は、午前0時前に部屋に戻ったことが確認されていた。つまり密室殺人だということだ。
 さらにもう1人の死体が発見され、連続殺人事件の様相を呈してくる・・・


 ファンタジー世界のミステリであるので、前作同様に "こちらの世界" にはない錬金術や編成術などの "技術" が存在するが、それぞれにできることできないことなどの制約はきちんと設定されている。

 この世界だからこそ可能なトリックも当然出てくるのだが、それに加えて今回は、いわゆる "館ミステリ"(塔だけど)になってる。
 舞台である塔の特殊なつくりが、真相に絡んでいるのは間違いないだろう、とは思うのだが、見抜けないんだよねぇ。明かされてみれば、たしかにこの塔だからこそ成立するトリックなんだが・・・島田荘司ばりの驚きのスケール。これは凡人には想像すらできないね。お見事です。

 前作もそうだったが、真相解明も二段構え。これで解決かと思わせて、さらにひとひねり。いわゆる "捨てトリック" もそれなりに考えられていて、手を抜いてない。

 今回の登場キャラで印象に残るのは、やはりバァル帝国の2人組。
 錬金術師のニコラ・フラメルは、ちゃらんぽらんなテレサとは真逆のキャラ。前作を読んで、錬金術師は変人ばかりだと思ってた(笑)からちょっと意外。
 そして情報部所属のシャルロッテ・アイゼナッハ中尉。エミリアとは学生時代に "ある因縁" で結ばれた女性だった。
 この2人はこれから先も登場してきそうだ。

 主役のテレサとエミリアは、前作のラストで "ある目的" のために共闘する仲になったのだけど、本作のラストではさらにこの世界の "創世の秘密"(かも知れないこと) の一端に触れることに。
 そしてこれは2人の ”目的” にも関わってきそうな気がする。続巻が楽しみだ。



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黄砂の籠城 [読書・歴史/時代小説]


黄砂の籠城(上) (講談社文庫)

黄砂の籠城(上) (講談社文庫)

  • 作者: 松岡圭祐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/04/14
黄砂の籠城(下) (講談社文庫)

黄砂の籠城(下) (講談社文庫)

  • 作者: 松岡圭祐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/04/14

評価:★★★★☆


 西暦1900年(明治33年)、中国大陸・清朝末期。外国人排斥を叫ぶ武装集団・義和団が各地で暴徒化していた。やがて義和団は北京へも侵攻、「東交民巷」と呼ばれる外国公使館区域を包囲してしまう。
 寄り合い所帯の各国軍をまとめ、2ヶ月にわたる籠城戦を指揮した日本の駐在武官・柴五郎陸軍中佐の活躍を描く。


 西欧列強の進出に反発し、「扶清滅洋」(ふしんめつよう:清を助け、西洋を滅ぼせ)を叫ぶ義和団が中国大陸各地を席巻していた。
 やがて彼らは北京へも侵攻、各国公使館が集中する「東交民巷」地区を包囲してしまう。そこに居住していた外国人は、日本人を含めて900人あまり、さらに義和団によって排斥された中国人クリスチャン約3000人が逃げ込んでいた。

 20万人にのぼる包囲軍に対し、各国公使館の戦力は護衛兵が主体で、民間人から募った義勇兵を合わせてもわずか480名ほど。
 さらに各国の思惑もあって足並みが揃わない。そんな寄り合い所帯を任されることになったのが日本の駐在武官・柴五郎陸軍中佐だった。


 物語の視点人物は櫻井隆一、24歳。階級は伍長。下士官の中でも最下位である。しかし、中国語やロシア語をはじめ、数カ国語に堪能なことから柴中佐の側近として抜擢され、行動を共にすることになる。

 物語の序盤はもっぱら櫻井の目を通じた柴の描写が主となる。柴に対する周囲の評価は必ずしも高くなかった。
 まず、出身が会津藩士であったこと。明治維新においては逆賊だったわけで、明治も30年を超えようという時期にあっても、いまだ出自による偏見は大きかったようだ。
 また、各国首脳の会議においても自ら意見を述べることなく、大勢に流されているように見え、櫻井もそこに不満を覚えていく。

 しかし物語が進むにつれて、柴が(当時としては)類い希な情報収集能力とその活用力を示すことで、次第に総軍の指揮権を任されるようになっていく。これが序盤の読みどころだろう。

 中盤からは包囲軍の攻撃が始まり、籠城側も応戦する。柴の指揮の下、果敢に戦うのだが如何せん多勢に無勢、次第に包囲は縮まっていく。
 作中の要所要所には「東交民巷」における勢力地図が載っていて、じりじりと籠城側が窮地に陥っていく様子が示される。

 もちろん外部との連絡も絶たれ、北京へ向かっているはずの各国の援軍の動向も全く分からなくなり(たまに入ってくる知らせは悲観的なものばかり)、絶望的な状況が続いていく・・・


 基本的には実話を基にしている(柴中佐は実在の人物)のだが、フィクションの部分も多そうだ。
 視点人物の櫻井や、彼を取り巻く人物たちはおそらく創作だろうと思う。彼の戦友や上官たち、彼と関わりを持つ他国の兵士たちも。
 中でも、ロシア人兵士ラヴロフが印象的だ。初登場時は日本人を敵視する、典型的な "嫌な奴" で、櫻井とは角突き合わせるのだが、籠城戦で共に戦う内に関係が変化していく。

 終盤では、包囲軍が占領地域内に巨大な砲台を築き、その砲撃によって籠城側は多大な被害を受けてしまう。さらに射程距離の長さから、たとえ援軍が来ても砲撃によって足止めされて北京へ接近できないことが予想された。

 そこで籠城側は、砲台の破壊を目的として少人数の部隊を向かわせることになる。このあたりはまんま「ナバロンの要塞」だったりする。そして、決死隊には櫻井とラヴロフも加わることに。
 砲台攻略戦におけるラヴロフの奮闘ぶり、そして櫻井との間に生まれた絆の描写はベタだけど感動的だ。
 もっとも、この4年後には日露戦争が始まってしまうのだが・・・

 登場人物がほとんど男ばかりなのだけど、数は少ないが女性キャラも存在感を示している。立ち位置的にメインヒロインとなるのは、関本一等書記官の娘・千代、17歳である。
 冒頭で義和団の襲撃によって母親を殺されるが、彼女は辛くも逃れる。そして収容された病院で櫻井と知り合うことになる。

 激戦の続く中、2人は時たま言葉を交わすだけで、恋愛的な描写はほとんどない(ラスト近くにちょっぴりだけある)。まあそんなことにかまける暇はない状況なのだけどね。
 そのあたりはちょっと不満に感じるが、2人のその後がどうなるかは読者の想像に任せる、ということなのだろう。当時の情勢を考えると前途は多難そうだけど。



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