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絞首商會 [読書・ミステリ]


絞首商會 (講談社文庫)

絞首商會 (講談社文庫)

  • 作者: 夕木春央
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/01/17

評価:★★★★


 1920年(大正9年)の東京。帝国大学の医学教授・村山鼓堂(こどう)博士が刺殺される。捜査は難航し、業を煮やした遺族は外部の人間に調査を依頼する。その相手はなんと、かつて村山邸に盗みに入った元泥棒・蓮野(はすの)だった・・・


 第一次大戦終結の翌年、1920年(大正9年)の東京。帝国大学の人類学教授・村山梶太郎が心不全で急死する。
 彼は姪・水上淑子(みなかみ・としこ)、遠縁でこちらも帝大医学部の法医学教授・村山鼓堂と同じ屋敷内に暮らしていた。しかし梶太郎の死から2ヶ月後、鼓堂の刺殺死体が敷地内で発見される。しかも遺体の状況から、別の場所で殺されてから運ばれてきたものと思われた。

 捜査は難航。業を煮やした淑子は、外部の人間に調査を依頼することに決めたが、選ばれたのはなんと、3年前に村山邸に忍び込んだ泥棒・蓮野だった。

 この蓮野という男、容姿端麗で頭が切れる。帝大法科を卒業後、一度は銀行に勤めたが、生来の人間嫌いが高じて5ヶ月で退職、その後は泥棒に "転職" した。泥棒としては優秀だったらしいが3年前に逮捕、投獄されてしまった。

 彼の数少ない友人の一人が画家の井口。本作の語り手でもあり、いわゆる "ワトソン役" でもある。
 出所した蓮野は、井口の周囲で起こったいくつかの事件を解決した。中でも、井口の姪・峯子(みねこ)が誘拐されたときには、即刻で彼女の救出に成功したことで探偵としての能力を示したのだった。

 蓮野を訪れた淑子は意外なことを告げる。村山梶太郎博士は無政府主義者で、「絞首商會」(こうしゅ・しょうかい)なる秘密結社のメンバーだったという。さらに鼓堂博士の殺害には、この結社が関与しているらしい。すなわち、結社の命を受けた者が実行犯で、それは梶太郎の身近にいた人物だという。

 梶太郎博士の交友関係から浮かんだのは、淑子を含めて4名の容疑者。しかし、調査を進めるうちに、峯子が何者かに襲撃される事件が起こり、さらに第二の殺人が起こる・・・


 "政治的な秘密結社" と云われても現代ではあまりピンとこないが、世界大戦が終結したばかりで、世界情勢が流動的なこの時代では、それなりに "体制にとっての脅威" だったのだろう。
 とはいっても、本書はスパイものではなく、あくまでミステリとして決着する。蓮野の推理が導き出すのは、過去の意外な因縁、そして殺人に至った動機。これはこの時代ならではのものだろう。


 文庫で570ページほどもある大部だが、飽きさせない工夫も凝らされている。
 身分を偽って潜入捜査に入る羽目になった井口が、バレそうになったところを "画家ならではの技" で切り抜けたりとか、謎の暴漢に襲われて追い詰められた峯子嬢(女学校卒の18歳)が果敢に逆襲するところとか、終盤では井口の妻・紗江子さんが錠前破りの特訓をさせられたり(おいおい)とか。
 とにかく蓮野の周りの人々が、事件に無理矢理巻き込まれていってしまうというエピソードの数々がいちいち楽しい(笑)。

 本書の中で触れられた、蓮野が過去に解決した事件、とくに峯子嬢の誘拐事件とかも、いつかは語られるのだろうか。
 いまのところ蓮野は他の作品には登場していないようだが、彼をはじめ、井口・紗江子さん・峯子嬢など魅力的なキャラばかりなので、彼ら彼女らの活躍をもっと読みたいなぁ・・・って思ってたら、『時計泥棒と悪人たち』という短編集がもう出ていたんですね。これはうっかりしてました。文庫になったら読みます(笑)。



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