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教室が、ひとりになるまで [読書・ミステリ]


教室が、ひとりになるまで (角川文庫)

教室が、ひとりになるまで (角川文庫)

  • 作者: 浅倉 秋成
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/01/22

評価:★★★★


 主人公・垣内友弘(かきうち・ともひろ)が通う北楓(きたかえで)高校で、生徒の連続自殺事件が起こる。3人目の自殺者が出たとき、幼馴染みの同級生・白瀬美月(しらせ・みづき)は告げる。
「自殺じゃない。みんな "あいつ" に殺されたの」。
 北楓高校には、代々、4人の "異能者" がいるという。その一人、"他人を自殺させる力" を持つ者が一連の事件を起こしているのだ・・・


 北楓高校2年A組とB組は、様々な校内行事に合同で参加するほどの「全員が仲が良い最高のクラス」と呼ばれていた。
 しかしB組の女子が学校のトイレで首をつり、A組の男子が校舎から飛び降りるという連続自殺事件が起こる。
 2人とも〈私は教室で大きな声を出しすぎました。調律される必要があります。さようなら〉という遺書を残していた。

 主人公・垣内友弘はA組の生徒。クラスの雰囲気には馴染めないが表だって反対することもなく、大勢に順応して学校生活を送っている。
 しかし3人目の自殺者が出たことで、幼馴染みで同級生の白瀬美月は不登校になってしまう。そして友弘は美月から意外なことを告げられる。
「自殺じゃない。みんな "あいつ" に殺されたの」
 同級生の中に、"他人を自殺させる力" を持つ者がいるのだという。

 信じられない友弘のもとに、差出人不明の手紙が舞い込む。そこには北楓高校創立以来の "秘密" が記されていた。

1,北楓高校には、超常的な能力を持つ者(《受取人》と呼ばれる)が "常に" 4人いる。
2,《受取人》が卒業すると、新入生の中から新たな《受取人》が選ばれる。
3,《受取人》が在学中に死亡すると、先代の《受取人》から、新たな《受取人》が指名される。

 友弘はこの項目に従って、新たな《受取人》に指名されたらしい。
 彼が "受け取った能力" は、「他人の嘘を見破る能力」。ただし、”瞬間的に体に強い痛みを感じる” ことが能力の発動条件だった。

4,4人の能力はそれぞれ異なり、発動条件もそれぞれ異なる。
5,能力の内容と発動条件を他人に知られたり、言い当てられると、その時点で能力は失われてしまう。

 戯言かと思った友弘だが、実際に自分の能力の発動を経験するに至り、信じざるを得なくなる。ならば、一連の自殺事件も《受取人》が能力を使って行っているのではないか?
 友弘は自分の能力を使って、犯人である《受取人》を探し始めるが・・・


 たとえ "犯人" が分かっても、それだけでは解決しない。犯罪を立証しようにも証拠がひとつもないし、放置すればさらに "犯行" を続けるかも知れない。

 決着をつけるには、"犯人" が持つ能力の具体的な内容(おそらくは精神に何らかの働きかけを行う力)と発動条件まで探り出し、それを相手に突きつけることで能力を "喪失" させなければならない。


 4人の高校生がある日突然、超常の能力を得る、というのはデビュー作『ノワール・レヴナント』と同様だが、あちらでは力を得た4人が協力して巨大な陰謀と戦う物語だった。しかし本作ではその4人が、命を賭けた ”異能バトル” を行うことになる。


 "自殺" に追いやられたのは、みなクラスのリーダー格の者ばかり。「全員が仲が良い最高のクラス」を率先して "演出" していた。彼ら彼女らの意向でクラスの方針が決まっていく。逆らうとクラスの中で居場所がなくなってしまう。
 積極的にそれに協力する者もいるが、主人公・友弘のように、表面上はクラスの方針に温和しく従っているだけの "面従腹背" な者もいる。
 おそらくクラスメイトの大半はこのどちらかに属しているのだろうが、"犯人" は、それに我慢できない者だ。だから "受け取った力" を行使して叛旗を翻した。

 本書の初刊は2019年3月。安倍総理による非常事態宣言の約1年前で、まだ新型コロナで大騒ぎになる前だった。
 しかしコロナ禍を経験した身からすると、本書の持つ意味合いが一段深くなったように感じる。

 コロナ禍の中で "同調圧力" という言葉が市民権を得ていった。大勢に従わないものに対して激しく攻撃する "自粛警察" なるものまで現れた。

 しかし、そんな時代の訪れる遙か前から、学校というのは "同調圧力" の塊でもあった。「教育」という観点から見れば、それらすべてが悪いとは思わないが、それでも、それに馴染めない者は多く存在していた。
 そしてクラスというのは逃げ場のないところ。そこに押し込められている状況を苦痛と感じる者もいるだろう。そんな立場に追い込まれた者が起こした事件を描いているのが本書だ。


 本書を一言でいうと、ファンタジックな特殊設定ミステリ、となろうか。
 友弘は作中の手がかりから犯人の名、そして犯人の能力&発動条件を推理していくのだが、真のクライマックスはそれらすべてが明かされた後に訪れる。

 "超能力による殺人" に対し、警察/司法は無力だ。しかし殺人を犯したものは裁かれねばならない。明らかになった犯人に対し、友弘たちはどう振る舞い、どんな決着を望むのか? 作者がいちばん描きたかったシーンはここだろう。


 あともう一つ。これは主人公・友弘の成長の物語でもある。
 連続自殺事件と並行して、友弘自身の、不満と閉塞感に満ちた日常も描かれていく。青春時代には、誰でも多かれ少なかれ味わう感覚だろう。
 学校生活に意味が感じられず、校外に夢や生きがいを見つけ出そうとしている彼は、物語の中で大きな挫折を経験する。
 しかし、事件を通して再起のきっかけをつかむところもまた描かれる。ささやかながら、"希望の芽" も添えられて。



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