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赤刃(セキジン) [読書・歴史/時代小説]


赤刃 (講談社文庫)

赤刃 (講談社文庫)

  • 作者: 長浦 京
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/11/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 三代将軍・徳川家光の治世。江戸の街に出現した、凄腕の "辻斬り集団" は、2ヶ月で120人を超える犠牲者を出していた。その首魁は元津藩士の赤迫雅峰(あかさこ・まさみね)。
 老中・松平伊豆守信綱によって結成された "掃討使" も彼らには全く歯が立たない。そこで伊豆守は長崎から若き旗本・小留間逸次郎(こるま・いつじろう)を召喚、この凶悪テロ集団の殲滅を命じる・・・


 寛永16年(1639年)、三代将軍・家光の治世。隅田川河畔に現れた謎の浪人は瞬く間に青年武士3人を含む5人を殺害する。この日から、江戸市中に殺戮の嵐が吹き荒れる。
 2ヶ月の間に120人を超える人間が犠牲となり、町奉行所の捜査でも下手人は不明。そんなとき、老中・松平伊豆守の屋敷に文が投げ込まれた。
 送り主の名は元津藩士・赤迫雅峰。一連の事件は自分を含む6人の浪人によるものだとの犯行声明だった。

 赤迫は秀吉の朝鮮出兵に16歳で初陣、戦闘中に行方不明になるも2日後に敵の首を16人分持って生還、大阪夏の陣では、大阪城内に突入して女子どもを容赦なく惨殺。
 太平の世になっても行状は収まらず、刃傷沙汰で多くの人命を奪ってきた。ついには斬首が決まるが、古刹の住職が引き取りを申し出、寺で蟄居の身に。
 しかしその17年後、寺の僧8人を斬り殺して消息を絶っていた。それが今、江戸の街に現れたのだ。

 伊豆守は腕に覚えの旗本たちを招集し、"掃討使" を結成する。伊豆守は彼らを前にして告げる。
「心せよ。これは江戸市中にて行われる合戦である!」

 しかし、期待の掃討使たちも赤迫たちには全く歯が立たず、全滅してしまう。その間にも赤迫一味は大名屋敷を次々と襲撃、嫡男を拉致していく。
 事ここに至り、伊豆守は旧知の旗本・小留間逸次郎を江戸へ呼び寄せる。

 逸次郎は3700石の旗本・小留間家の次男として生まれた。幼少時より武芸の才に優れ、槍・刀・弓・馬の4つすべてが "逸品" とされたことから "四逸" の二つ名を持った。
 14歳の時に16歳の相手から真剣での勝負を挑まれ、あっさり勝つが相手は死亡。はじめての人殺しを経験する。
 その後、父が奉行として赴任している先へ出され、そこで数々の "汚れ仕事" を処理するようになる。
 やがて島原の乱が勃発。参戦した逸次郎は総大将・松平伊豆守の指揮の下、一揆軍が立て籠もる原城内へ突入、百姓浪人はもちろん、女子どもまで容赦なく突き殺す。そして、その掃討戦の中で強い酩酊感を覚えてしまう。彼もまた死に魅入られてしまったのだ・・・

 このときの逸次郎の "獅子奮迅の働き" を覚えていた伊豆守によって、赤迫一味を殲滅する切り札として江戸へ呼び寄せられたのだ。


 欲望のままに殺戮を繰り返す赤迫一味は本書の中では "絶対悪" として描かれる。しかし彼と対決する逸次郎もまた "悪" なのだ。
 本書で描かれる戦いは "悪と悪" の激突。伊豆守の狙いは、"毒を以て毒を制する" ことにある。

 だから彼らの間に "正々堂々の戦い" など存在しない。逸次郎と赤迫一味の戦いでは、緒戦から火薬玉が爆発し毒を塗った吹き矢が飛び交う。
 戦いでは結果がすべて。ゆえに "目的は手段を正当化する"。だから戦場に罠を仕掛けることさえ当たり前のように行われる。どちらが先に相手の息の根を止めるか。まさに 非道 vs 外道 の戦いだ。

 6人の超人的な手練れ集団を向こうに回し、逸次郎は苦戦する。浪人を集め、その中から使える腕をもつ30人を選び、さらにその中の精鋭4人を "馬廻り"(親衛隊) とし、自ら率いて戦いに臨むが、総合力での敵の優位は動かない。

 もとより自らの生還など期待していない。それでも逸次郎は死闘を乗り越え、1人また1人と倒していく。満身創痍の身となりながら、首魁・赤迫を討ち果たすべく、ひたすら戦いに身を投じてゆく・・・


 主役となる2人以外にも魅力的なサブキャラがきら星のごとく登場する。
 赤迫以外の辻斬り軍団も、理性のタガが外れた奴ばかり。対する逸次郎の馬廻り4人組も一筋縄ではいかない曲者が揃ってる。さらに戦いには直接関わらないが、諜報活動や補給を司る後方支援隊にもユニークなキャラがたくさん。

 いちいち紹介しているとキリがないので1人だけ。逸次郎の槍持(やりもち)をしている鎌平(かまへい)という男。
 彼自身も武術の達人だが、戦闘に於いては逸次郎の補佐に徹する。逸次郎も鎌平に背中を預けることで存分に戦える。主従一体とはまさに彼らのこと。逸次郎の危機を何度も救い、最後まで運命をともにする。
 彼こそ、本作における "隠れMVP" だろう。


 本作は第6回小説現代長編新人賞を受賞した、作者のデビュー作。
 この次作が、今夏映画化された『リボルバー・リリー』だ。壮絶なアクション描写は、すでに処女作から確立していたのだね。



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