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九度目の十八歳を迎えた君と [読書・ミステリ]


九度目の十八歳を迎えた君と (創元推理文庫)

九度目の十八歳を迎えた君と (創元推理文庫)

  • 作者: 浅倉 秋成
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/11/19

評価:★★★★


 主人公・間瀬(まぜ)は朝の通勤途中、駅のホームで偶然、高校の同級生・二和美咲(ふたわ・みさき)を目撃する。しかし彼女は高校の制服姿で、18歳のまま。
 彼女は、9年前からずっと高校3年生の状態に留まっていたのだ。かつて彼女に恋心を抱いていた間瀬は、その理由を探り始める・・・


 間瀬は大手印刷会社で営業職に就いている。ある朝、通勤途中の駅のホームで高校時代の同級生・二和美咲を目撃する。彼女は高校の制服を着て、18歳の時のままの姿をしていた。

 仕事での外回りの途中、母校を訪れた間瀬は下校途中の美咲を見つける。彼女の話によると、卒業しないまま高校3年生を繰り返しているのだという。そしてそれは彼女自身の "意思" によるものなのだと。

 驚くべきことに、教師やクラスメイトたちは(そしておそらく家族も)そんな美咲の状態に違和感を感じていない。どうやら周囲の人間は、彼女の "状態" を知ると、その瞬間から違和感を感じなくなってしまうらしい。

 彼女の "現在の" 同級生・夏河理奈(なつかわ・りな)によると、美咲を18歳に留めておこうとする "何か" が、彼女の心の中にあるらしい。
 それは未練なのか、後悔なのか、それとも何かを待っているのか?

 美咲の抱える "何か" は、彼女の "最初の" 高校3年生の日々にある。そう考えた間瀬は、かつてのクラスメイトや恩師を訪ね、彼女の高校時代のことを調べ始める。しかしそれは、間瀬自身の高校時代を振り返ることでもあった・・・


 いわゆる "特殊設定ミステリ"。いささかファンタジックだが、かつて恋していた少女が18歳のまま時を止めてしまっている理由を探し出し、彼女を再び時の流れに戻そうとする主人公の奔走が描かれる。

 そして、本書にはもう一つ大きな謎がある。
 周囲の者がみな、美咲の現状を違和感なく受け入れてしまうのに、なぜ間瀬だけが、いつまでも違和感を抱き続けるのか?


 ストーリーは現在のパートと高校時代のパートが交互に綴られていく。

 過去の間瀬を描いたパートは、多くの読者は自分の高校時代と重ねてみるだろう。いささか面はゆいものがあるし、時には辛さを感じる部分もある。
 高校生の間瀬は、何事に対しても思いっきり "空回り" をしていた。有名無実だった部活動、無為に時間を過ごすことへの焦り、誇れるようなことは何もしてないという劣等感。
 やがて美咲と知り合い、彼女に恋心を抱いたものの、想いを伝えられない。ついには思い切ってラブレターは書いたが、しかし・・・

 高校時代に全く悔いがないと言い切れる人は希ではないか。ならば、読者は間瀬の中に(程度の差はあれ)自分を見ることになるだろう。私もそうだ。彼の抱える閉塞感は私もまた感じていたものだ。

 一転して、現在のパートでの間瀬はなかなか立派に成長している。大手印刷会社の営業職で業績も優秀、若手では稼ぎ頭で、後輩からは目標にされる存在になっている。高校時代とは打って変わって、人間関係の構築も上手くなっている。

 だがそんな彼でも、高校時代の自分は限りなく情けない "黒歴史" らしい。本書は、現在の間瀬が気力を奮い起こし、かつての自分と向き合う物語でもある。
 美咲の ”抱えているもの” の正体に迫れば迫るほど、間瀬自身の苦しさもまた増していくのだが、成長した現在の間瀬はそこから逃げることなく、美咲のためにそれを解決しようとする。

 当然ながらラストではすべてが明らかになり、美咲にも間瀬にも、新しい日常がやってくる。本編終了後の2人については、読者はいろいろ想像を巡らせることになるだろう。


 あと、余計なことをひとつ。

 作中、間瀬が自分の名前をローマ字で書くシーンがある。"MAZE" ・・・なかなか考えさせられる。作者はわかっててこのネーミングにした・・・んだよねぇ。

 往年のヒット曲「青春時代」(森田公一とトップギャラン)を思い出してしまうオジサンなのでした(笑)。



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