レーテーの大河 [読書・冒険/サスペンス]
評価:★★☆
太平洋戦争終結直前の昭和20年8月8日。ソビエト連邦は対日参戦を表明し、満州国に侵攻する。入植していた日本人開拓団の少年・耕平は、幼馴染みの早紀子・志郎とともに辛うじて日本への帰国を果たす。
その18年後、東京オリンピック開催を翌年に控えた昭和38年。耕平のもとへ鉄道公安官がやってくる。列車から転落死した男の捜査だった。男は日本銀行で鉄道による現金輸送を担当していた。そして、早紀子と志郎がこの事件に関わっているらしい・・・
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太平洋戦争末期の昭和20年8月8日。ソビエト連邦は対日参戦を表明し、満州国に侵攻してきた。入植していた日本人開拓団の少年・天城耕平(あまぎ・こうへい)は、幼馴染みの藤代早紀子(ふじしろ・さきこ)・小野寺志郎(おのでら・しろう)とともに辛うじて満州を脱出、日本への帰国を果たす。
彼らを救ったのは、最上雄介(もがみ・ゆうすけ)と石原信彦(いしはら・のぶひこ)という二人の陸軍中尉だった。
親を喪った三人は孤児院で育った。そして終戦から18年後の昭和38年、28歳となった耕平は工場で働き、早紀子は銀座のキャバレーのホステス、志郎はヤクザがらみの会社で羽振りのいい生活をしていた。
しかし早紀子と志郎がある日突然、姿を消してしまう。戸惑う耕平のもとへやってきたのは鉄道公安官。目的は列車から転落死した男の捜査だ。男は日本銀行で鉄道による現金輸送を担当していた。
ちなみに鉄道公安官とは、司法警察権を持つ国鉄(日本国有鉄道:JRの前身である鉄道会社)の職員だ。公安官制度は1987年(昭和62年)、国鉄の分割民営化に伴い廃止され、鉄道警察隊へ移行した。
早紀子と志郎は現金輸送列車を襲うことを企んでいるのではないか? 疑う耕平のもとに「レーテー」と名乗る正体不明の人物からの手紙が届く・・・
一方、元陸軍中尉だった最上は陸上自衛隊の三佐に、石原は防衛庁の官僚となっていた。二人は米軍の貨物を秘密裏に鉄道輸送する任務についたが・・・
ストーリーは耕平のパートと最上・石原のパートが交互に語られていく。
米軍が輸送しようとしている荷物の中身は、作中でいちおう明かされているのだが、たいていの読者は「いやいやそんなものじゃないでしょ、実は○○○なんでしょ?」って思うだろう。そしてたぶんそれは当たる(おいおい)。
でもまあ作者にとって、そのあたりまでは想定内なのだと思う。その○○○を取り巻く者たちの思惑や野心を描いていくことが本作のキモなのだろう。
そしてそれに早紀子と志郎がどう関わっているのか。ストーリーが進むにつれて耕平はそれを徐々に知っていくことになる。
舞台となるのは、東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年。東京は建設ラッシュに沸き、復興が順調に進んでいるようにも見えるが、その裏では "ある陰謀" が進んでいる。
その根底にはかつての戦争が ”遺したもの” が潜んでいる。世界大戦は終わっても時代は冷戦を迎え、平和の裏には戦争の陰が潜む。18年の時を超え、孤児三人組や最上・石原はそれと対峙することになる。
冒険アクション的なストーリーなのだが、「終章」に至るとミステリ的な "絵解き" も行われる。
しかし「エピローグ」で語られる本書の終着点は、哀しい。その行動を選んだ人物の心情もよく分かるのだけど。
作者は2018年に『到達不能極』でデビューし、第二作『クメールの瞳』を経て、本作が三作めとなる。
『到達不能極』は思いっきり大風呂敷を広げた(広げすぎた?)壮大なホラ話だったが、二作目では伝奇的要素は残しつつも地に足がついた作風へと変化した。
そして本作では、伝奇的要素もなくなり、ある意味オーソドックスな冒険小説になっている。これは "成長" なのかも知れないけど、私としてはやっぱり第一作の "脳天気な荒唐無稽さ"(笑) がとても好きなので、ちょっと残念な気も。
たぶん、本作の路線が今後の主流になるのだろうけど、何年かに一作でいいから、また "壮大なホラ話" を読ませてほしいなぁ。期待してます。
タグ:サスペンス
地獄の門 [読書・冒険/サスペンス]
評価:★★★
第二次世界大戦末期の1944年。アマゾンの奥地・"地獄の門" で、ナチス・ドイツと日本軍が何かを企んでいるらしいとの情報が入る。動物学者でアメリカ陸軍大尉でもあるマックレディは "地獄の門" への潜入を命じられるのだが・・・
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「プロローグ」は1944年2月。ウクライナの戦場で、ソビエト連邦の赤軍が謎の飛行物体から散布された謎の兵器によって全滅する様子が描かれる。
そして本編に入ると時間軸が一ヶ月巻戻され、1944年1月の南米・アマゾンが舞台となる。
動物学者でアメリカ陸軍大尉でもあるマックレディは、上官に呼び出され、新たな任務を命じられる。アマゾンで日本軍の潜水艦が発見されたという。川を遡上中に座礁したものと思われた。
これがなんと伊400型。全長122mという当時最大の潜水艦だ。発見された時は積荷も含めてもぬけの殻で、どんな人間が何を運んでいたのかは不明。
彼らの目的地は川の上流にある "地獄の門" と呼ばれる地と思われた。切り立った断崖に囲まれた谷で、一年中深い霧に覆われており、航空機からの偵察を阻んでいる。
三週間前に送り込んだレンジャー部隊は消息を絶った。おそらく全滅したのだろう。
マックレディに与えられた任務は、単身 "地獄の門" へ潜入し、潜水艦を送り込んだ者たちの意図を確かめること。
マックレディはアマゾンに暮らす親友にして植物学者スローンとその妻の助けを受け、現地へと向かうのだが・・・
「プロローグ」の内容から、"地獄の門" で行われているのは飛行物体と新兵器の開発と見当がつく。
実際、現地に入り込んでいたのはナチス親衛隊。彼らの目的は有人ロケット兵器の開発だ。そして彼らに協力しているのが日本人微生物学者の木村。悪名高き「731部隊」の石井四郎中将の指導を受けていたという設定で、要するに生物兵器の開発を行っている(”731部隊”・”石井四郎” について分からない人はググってください)。
つまり、アメリカの首都ワシントンに細菌兵器をばら撒こうとしているのだ。
・・・と書いてくると、マックレディが枢軸国側の秘密開発基地を破壊してめでたしめでたし、という話かと思われるだろう。
そして舞台が秘境なので「インディ・ジョーンズ+007」みたいなアクションものかな、って私も勝手に思っていた。
でも、読み始めてかなり早い段階で「ちょっと違う」と感じ始めるだろう。それは "第三勢力" が登場してくること。そしてそれは人間ではない。”生物” なのだが、”彼ら” は高度な知能のみならず、ある "特殊な能力" をも併せ持つ、なんとも厄介で凶暴な存在なのだ。
・・・ってボカして書いてるんだけど、実は文庫の表紙イラストで思いっきりネタバレしてるのは如何なものかと思う(笑)。
基本的には ナチス+日本軍 の野望を打ち砕こうとするマックレディの物語なのだが、そこに "彼ら" が絡むことで「スカッとするアクションもの」から「予想外にホラーな作品」へと変化していく。それに加えて、ジャングルに棲息する危険な生き物などの襲撃がてんこ盛りなど、私にとってはちょっと苦手なシーンも多い。
というわけで、私の期待していた物語とはかなり違っていたのだが、本国アメリカでは好評だったらしく、マックレディを主役としてシリーズ化されているとのこと。
そういう目で見ると、次作につながる要素もいくつかある。でも邦訳は出ていなさそう(笑)。
アマゾンの奥地でナチスと日本軍が協力して新兵器開発、というかなり荒唐無稽な話なのだが、巻末に「真偽の確認」という文章が載っていて、どこまでが事実でどこからがフィクションか、というのが文庫で20ページ近くを充てて詳細に書かれている。
これを読むと、大きな嘘を支えるためには、細かい事実をかなり積み重ねて固めてあるのがよくわかる。
タグ:サスペンス
爆弾 [読書・冒険/サスペンス]
評価:★★★★☆
暴行で逮捕された男はスズキタゴサクと名乗った。自称49歳、冴えない服装でいがぐり頭には10円ハゲ。その男が取調室で不穏なことを言い出す。
「秋葉原で10時に何かあります」
その言葉通り、秋葉原の空きビルの三階で爆発が起こる。
「これから三度。次は一時間後に爆発します」
”ただの霊感” だととぼけてみせるスズキタゴサク。しかし彼こそ爆破事件の張本人と見なした警視庁は特殊犯捜査係を彼の取り調べに宛て、情報引き出そうとするのだが・・・
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自称スズキタゴサク、49歳。酒に酔って自動販売機を蹴り、店員に暴行を働いて野方署(東京都中野区)に逮捕された。
ビール腹を抱えた、いかにも冴えない外見の中年男。いがぐり頭の後頭部には10円玉より大きなハゲまである。そんなスズキだが、取調に当たった刑事・等々力(とどろき)に対して不穏なことを言い出す。
「秋葉原で10時に何かあります」」
その言葉通り、秋葉原の空きビルの三階で爆発が起こる。
スズキはさらに云う。
「これから三度。次は一時間後に爆発します」
”ただの霊感” だととぼけてみせるスズキこそ爆破事件の張本人と見なし、警視庁は特殊犯捜査係の清宮(きよみや)とその部下・類家(るいけ)を野方署に派遣し、彼から情報を引き出そうとする。
特殊犯捜査係は誘拐や立てこもりといった現在進行形の事件を専門に扱い、交渉や駆け引きの訓練を積んだプロフェッショナルだ。
特殊犯係の投入によってスズキの取り調べから外された等々力だったが、スズキが清宮との会話の中で ”ハセベユウコウ” という名前を出したと聞いて驚く。
長谷部有孔はかつて等々力の同僚だった刑事で、四年前に ”不祥事” を起こして退職、その三ヶ月後に自殺していた。等々力はスズキと長谷部の接点を探り始めるが・・・
取調室におけるスズキは実に饒舌だ。本書は文庫で500ページほどあるのだがその大半はスズキとの会話シーンで占められている。
質問に対してはのらりくらりと受け流し、肝心なことは全く漏らさない。爆弾の在処についてクイズ形式のゲームまで提案してきて、捜査陣を翻弄していく。
”ああ言えばこう言う” スズキなのだが、それでいて彼の言葉には、聞く者の心に突き刺さる ”毒” が籠もっている。誰もが持っている心の暗部を、スズキの言葉は実に巧みに ”刺激” してくるのだ。
彼の言葉は彼にとって最強の武器だ。相手の心を揺さぶり、操ろうとする。彼と対峙し続ける者たちは、いつのまにか彼の術中にハマっていくことになる。
一方で、取調室の外で苦闘する捜査員の姿も描かれていく。
長谷部有孔を追う等々力、爆弾を探して奔走する交番勤務の警官・倖田紗良(こうだ・さら)、その同僚の矢吹(やぶき)。彼らもまた事前にスズキが仕掛けていた ”罠” に翻弄されていく。
そんな圧倒的な存在感を示すスズキの物語が、転回点を迎えるのは中盤過ぎ。清宮に代わって類家がスズキと向き合うことになってから。
この類家というのもなかなか強烈なキャラクターで、スズキという ”怪物” に対抗するには、彼のような極端な変人(ある意味スズキと同類かとも思わせる)を登場させなければならなかったのだろう。
風貌もスズキに負けてない。チリチリパーマに丸眼鏡という描写で、私は子門真人(往年のアニソン歌手で『およげ!たいやききん』を歌ったので有名)を思い出したよ。
本書の後半は、この2人の ”尋常でない掛け合い” が大きな読みどころとなっていく。
連続する爆発を食い止め、犠牲者を出さずに解決を図る警察をあざ笑うかのようにスズキの ”計画” は進行していく。サスペンスたっぷりの展開ながら、ミステリ要素もしっかり盛り込んである。
終盤で明かされる ”スズキが犯行に至るまで” の真相はその意外さに驚かされる。そして彼の ”真の動機” については、読者は最期まで翻弄されるだろう。
500ページを一気読みさせる牽引力をもつ本作は、発売当時の各種ミステリランキングを総ナメにしたのも納得の傑作だ。
そして今年になって続編『爆弾2 法廷占拠』が刊行された。スズキタゴサクの物語はまだ終わらないらしい。
試練 護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧 [読書・冒険/サスペンス]
評価:★★★★
ヘリコプター搭載型護衛艦・あおぎりは、一般人を載せた体験航海へと出港した。しかしそこへ救難信号が入る。直ちに救助のヘリが発進するが、その直後、艦内で急病人が発生、直ちに病院へ搬送しなければ命に関わるという。連続する非常事態に、新任艦長・早乙女碧の決断は・・・
『護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧』続編登場。
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前作『護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧』のラストから一週間後から始まるので、ストーリーも連続している。
主人公・早乙女碧(さおとめ・みどり)は44歳の二等海佐。「あおぎり」艦長を拝命し、呉へやってくるが、着任して最初の訓練航海へ出向しようとする直前、女性隊員の一人が定刻までに帰艦していないという事態が発生する。それを碧が無事に解決へと導いた顛末を描いたのが前作。
そして今作。未帰艦事件以外の案件(主に人間関係)は前作からそのまま持ち越している。砲術士の坂上三尉は相変わらず退職したがっているし、副長の暮林(くればやし)三佐は新任女性艦長である碧を軽く見ているような節があるし、新任の飛行長である晴山芽衣(はれやま・めい)三佐は、同期としての気易さからかもともとの性格なのか、碧に対してずけずけと云いたいことを云う。
「第二章 訓練発射」では、四国沖の太平洋上での対潜水艦戦闘訓練の模様が描かれる。目標に対してアスロック(ASROC:Anti Submarine ROCket:対潜ミサイル)を発射するものだ。実弾ではなく模擬弾を使うのだが、訓練後はそれを回収しなければならない。しかし折からの悪天候で、回収は難しいと思われた。しかし碧は、あえて回収用の作業艇を発進させる。それは無謀な "賭け" にも見えたのだが・・・
そして「第三章 体験航海」「第四章 救難信号」では、連続する非常事態に直面する碧の対応が描かれる。
公募で集まった100名の一般人、TVや新聞の報道関係者、ついでに諸般の事情で堀田司令まで乗り込んだ「あおぎり」は呉を出港し、体験航海へ。
順調にイベントをこなす中、救難信号が飛び込んでくる。海上自衛隊の練習機T-5が洋上に不時着したらしい。乗員3名の安否は不明だ。
ここで堀田司令とひと揉めあるのだが、碧は救援に向かうことを決め、搭載ヘリを発艦させる。
ところがその直後、艦内の一般人が急病を発症し、直ちに病院へ搬送しなければ命に関わるおそれがあることが判明する。碧の下した結論は・・・
碧が背負っているものはあまりにも大きい。女性隊員が増えてきたとはいえ、まだまだ男性優位の考えが残る組織で、艦長として200人近い乗員をを束ねなければならない。隊員間の人間関係にも目配りしなければならない。必ずしも一枚岩ではない幹部たちをどうまとめるか。
それに加えて本作では、救難信号と艦内の急病人という緊急事態の連続パンチ。護ろうとする命を対して優先順位をつけなければならないような状況にも直面する。
しかしピンチはチャンスでもある。困難な局面を切り開こうとする碧の決断に応え、奮闘する隊員たちのプロフェッショナルぶりが随所で発揮される。
大きいものはもちろん救助活動だが、小さいものでは一般人の子どもの迷子騒ぎや乗客同士の感情的なトラブルに至るまで、隊員たちは与えられた使命に対して最大限の努力を注ぎ込んでいく。まさに「一所懸命」(一つ処に命を賭ける)だ、
隊員たちが一丸となって "壁" を超えていくことによって、クルー間の人間関係も変化し、若手も成長していく。
そして乗り組んでいる一般人たちも、奮闘する「あおぎり」の隊員たちを目の当たりにして次第に共感を深めていき、やがて事態の推移に対して隊員たちと一緒に一喜一憂するようになっていく。このあたりが実に感動的に綴られているので、読んでいてしばしば目頭が熱くなってしまった。
読みどころは盛り沢山の本作なのだが、注目点を一つだけ挙げるとしたら、坂上三曹だろう。序盤の彼と中盤以降の彼はほとんど別人の様相。何がどう変わるのかは読んでのお楽しみにしておこう(笑)。
このシリーズはいまのところこの第二作までしか出ていないのだけど、続きが読みたいなぁ。護衛艦も異動がけっこうあるようなので、乗員の入れ替わりもあるだろう。新たな「あおぎり」の航海に "乗艦" できることを願っている。
タグ:サスペンス
護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧 [読書・冒険/サスペンス]
評価:★★★☆
海上自衛隊の早乙女碧・二等海佐は、ヘリコプター搭載型護衛艦「あおぎり」の艦長を拝命する。
呉港に停泊中の「あおぎり」に乗艦し、訓練航海への出港準備が進む中、乗員の一人が定刻までに艦へ戻っていないことが判明する。
艦長としての判断力と決断力を問われる碧。このまま出港すべきか、捜索のために出港を遅らせるべきか。新任艦長として、これからも「あおぎり」の指揮を執っていくことを考えるなら、どんな選択がベストなのか・・・
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早乙女碧(さおとめ・みどり)二佐は44歳。一年間の練習艦の艦長を経て五年間のデスクワークに就いた後、ヘリ搭載型護衛艦「あおぎり」艦長として二度目の指揮を執ることに。
前任艦長との引き継ぎを終え、呉港に停泊中の「あおぎり」へ乗艦する碧。
幹部士官、上級士官たちとの顔合わせ、艦内各部署の巡視点検、そして女性自衛官のグループである WAVE との交流。女性が増えたとはいえ、まだまだ男性優位社会の中にあって、女性隊員の活躍の場を増やしていくことも碧の目指すところだ。
ちなみに WAVE とは、第二次大戦時に成立した女性組織 WAVES (Women Accepted for Volunteer Service)が語源らしい。
文庫で300ページほどの本書に於いて、前半150ページほどは碧の着任から始まり、訓練航海への出港準備に追われる艦内の様子の描写が延々と続く。
ここ、好きな人にはたまらないシーンの連続なのだと思うが、そこまで護衛艦に詳しくなかったり興味が湧かない人にとっては、いささか冗長に感じるかも知れない(でもまあ、そのあたりに全く関心がない人はそもそも本書を手に取ることはないだろうけど)。
私も "自衛隊もの" や "ミリタリーもの" は好きでけっこう読んでいるのだけど、それでも本書の前半部はちょっと長いかなぁとは思った。私はそこそこ楽しんだけど、このあたりで脱落してしまう人は一定数いるかもしれない。
それでも、退職希望を胸に抱いている砲術士官の坂上(さかがみ)三尉、"癖のある" と評される強面の副長兼砲雷長・暮林(くればやし)三佐、WAVE の最先任である岬(みさき)二曹など、後半で重要な役回りをするキャラたちの紹介も織り込んである。
さらにそれらの合間には、碧自身の過去の回想も織り込まれていく。防衛大ではなく一般大から自衛官を目指した二十代から、現在に至るまでに辿ってきた半生について、さまざまな想いが去来していく。
そして後半に入ると、一人の女性隊員が未帰艦となったことで、俄然物語はスピードアップしていく。
内海佳美(うつみ・よしみ)三曹。26歳の電測員で技能は優秀、勤務態度も真面目な隊員だった。しかし、帰艦期限時刻を過ぎても姿を現さない。
事件か事故か。自らの意思なのか、何らかの事態に巻き込まれたのか。さまざまな可能性が疑われる中、出港時刻は迫ってくる。
隊員一人が欠けたまま出港しても、訓練航海自体に支障はない。しかし今後、艦長として「あおぎり」の指揮を執り続けるのなら、その選択は果たしてベストなのか。
新任艦長である碧が下した決断は・・・
”護衛艦の新任艦長” がテーマなだけに登場人物は多い。上に挙げた意外にも、出番は少ないながら印象に残るキャラが二人いる。
まずは「あおぎり」の僚艦となる「おいらせ」の艦長・小野寺。彼は碧の候補生時代の同期。登場シーンはわずかだが、ストーリー展開上、実に ”良い仕事” をする。
そして終盤に登場する晴山芽衣(はれやま・めい)三佐。彼女は「あおぎり」の新飛行長として着任予定の人物なのだが、豪快なのか鈍感なのかよく分からない(笑)。女性艦長と女性飛行長でコンビを組むことになるが(当然ながらマスコミの注目も集める)、性格は対照的だ。この取り合わせも面白い。
舞台が自衛隊となっても、組織の中で責任を持たされた者の奮闘を描くという点では、一般的な "お仕事小説" と変わるところはない。さらに男性優位な組織の中での女性リーダーと云うことで、二重の意味で "失敗は許されない" プレッシャーがヒロインを襲う。
しかし、じっくり事態を見極めて、一度決断した後は揺らぐことはない。そんな碧の姿は読者の好感を以て受け止められるだろう。
まだ出港する前からトラブル発生で、碧はその処理にてんてこ舞いとなる。本書は、ほとんどのシーンが「あおぎり」艦内と呉の市街地で進行する。
未帰艦事件自体は本書で一区切りがつくが、それ以外は持ち越された案件も多く、ストーリーは次巻にそのまま連続するようだ。そこではいよいよ航海の様子が描かれていく。
その次巻『試練 ー護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧ー』も手元にあるので、近々読む予定。
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地面師たちの戦争 帯広強奪戦線 [読書・冒険/サスペンス]
地面師たちの戦争 帯広強奪戦線 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 作者: 亀野 仁
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2023/11/07
- メディア: 文庫
評価:★★★
元自衛官だった橘は、いまは土地取引専門の詐欺グループのメンバー。架空の土地売買で4000万円を手に入れるも、仲間を殺され、金は奪い去られる。
しかもその直後から、謎の中国人たちの追撃を受けるようになる。彼らはなぜ襲ってくるのか、そして奪われた金はどこに消えたのか・・・
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元自衛官の橘一路(たちばな・かずみち)は、北海道を根城にした地面師(土地売買専門の詐欺師)グループの一員として活動している。
市役所職員という表の顔を持つ中沢優希(なかざわ・ゆうき)は27歳の女性、隠れ蓑の不動産会社を営む60代の日下部(くさかべ)、若手の小山田(おやまだ)、そしていかにも銀行員のような外見の速見は51歳。この四人が仲間だ。
地主役として雇った船越を加え、架空の土地売買で相手から4000万円の現金を騙し取ることに成功した橘たち。
しかしその直後、日下部が殺されて現金が奪われてしまう。
現金の行方を追い始めた橘と優希に、こんどは謎の中国人たちが襲撃を賭けてくる・・・
主役となる橘は、ある "疾病" が原因で自衛隊を辞することになった。なんでこんな設定を彼に付け加えたんだろう、って思ってたんだが、終盤近くになってしっかり "効いてくる" ので、作者の仕込みが上手かったといえるだろう。
ヒロインとなる優希さん。なんで堅い職業に就いていながら犯罪に手を染めたのか。そこには深刻で過酷な状況がある。これは誰にでも起こりうる "未来" かも知れない。
一見して堅気にみえる速見だが、犯罪もビジネスと割り切って "きっちり労働する" ことを自分に課しているあたり、なかなかユニークな人であると同時に、いちばん怖い人でもある。
本書の冒頭部は香港を舞台に、今回の敵となる中国人グループが結成されるまでのエピソード。ここは意外と面白かった。
ラストでは消えた4000万円の行方も判明し、登場人物の一人の手に落ちるのだけど、所詮は ”あぶく銭”。ろくでもない末路を迎えるような気がするのは、私だけではあるまい。
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冬華 [読書・冒険/サスペンス]
評価:★★★☆
月島の便利屋・倉持の相棒、深江が消えた。常人離れした戦闘能力を持つ男だ。
同じ頃、山奥で漁師を営む植草の元に現れた男は、ある人物の狙撃を依頼してきた。
深江の行く先の情報をつかんだ倉持は、厳冬の穂高連峰に向かうが、そこでは既に生死を賭けた激闘が始まっていた・・・
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月島で便利屋を営む倉持(くらもち)は、前作『秋霧』で深江(ふかえ)という男と出会った。彼は元自衛隊員で高度な格闘能力をもち、武器全般を使いこなす。
倉持と深江は共闘して危機を乗り越え、その後は二人で便利屋として暮らしてきた。
その深江が、なぜか黙って姿を消してしまう。行方を追い始めた倉持の前に、謎の男たちが妨害に現れる。
一方、山奥で猟師を営む植草(うえくさ)のまえに "熊本" と名乗る男が現れ、破格の報酬で狙撃の依頼をしてきた。植草は、早逝した息子夫婦が残した幼い孫のために、それを引き受ける。
深江の残した言葉の断片を手がかりに、"警察のほうから来た男"・儀藤(ぎどう)と接触した倉持は、深江が "ある目的" のために単身で(そしておそらく丸腰で)、奥穂高岳へ向かったことを知る。
ちなみにこの儀藤、同じ作者の『死神さん』シリーズで主役を務めている男である。飄々としてつかみ所は無いが、仕事はきっちりこなす。
穂高連峰では、狙撃手・植草を中心に完全武装の男たちが深江を待ち構えている。
倉持は、儀藤が用意してくれた武器を深江に届けるべく、必死の追跡を開始するが、彼の到着を待たずして、既に戦端は開かれていた・・・
今回の "敵" の具体的な正体は明かされないが、資金や武器、移動手段も含めてかなりの物量を動員できることから、大きな組織であることが察せられる。
深江を狙う理由はわからないが、彼の過去に関係しているのだろう。次作以降でそれが明かされるのかどうかは判らないが。
"敵" のリーダー・"熊本" は、深江に対して個人的な恨みを抱いている。しかも元自衛隊員という深江の素性と能力を熟知してもいて、決して侮らない。
祖父の代からの猟師で、狙撃能力では深江と同等かそれ以上の力を持つ植草。
今回深江が対峙する相手は難敵揃いである。
厳冬の山中で繰り広げられる激闘を乗り越え、ラストは 深江 vs 植草 の一騎打ち。
二人の生死を分けた "あるもの" には泣かされた。
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#拡散希望 その炎上、濡れ衣です [読書・冒険/サスペンス]
評価:★★★☆
ウエディング・プランナーの藍原ひかるは、同僚が手掛けた披露宴でのトラブル収拾に手を貸した。しかし、新婦からの投稿で式場が ”炎上” してしまう。
そしてなぜか、その矛先がひかるに向かってくることに・・・
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ホテルチェーン「ハルモニア上野」の婚礼部で、ウエディング・プランナーとして働く藍原(あいはら)ひかるは、顧客からの評判も高く、社内でも指折りの評価を得ていた。
そこを訪れたのが、野間口修平(のまぐち・しゅうへい)と麻生詩絵里(あそう・しえり)のカップル。二人の担当となったのは、ひかるの同僚の美濃昭彦(みの・あきひこ)。
美濃は外部から転職してきて、その後はあちこちの部署を転々としてきた。婚礼部への異動も二度目。その理由は、ストーリーの進行とともに明らかになっていくのだが、要するに "使えない奴" なのだ。
ひと言で云えばズボラ。根拠が無いくせにやたら楽観的なので仕事は遅いし、顧客との大事な約束事も忘れる。報告や連絡も穴だらけ。困っても相談など一切しない、というか自分が困った状況になっていることに気づかない。
そんな奴がなんでクビにならないんだ・・・と思うところだが、なぜかのうのうとしている。その理由は後半になって明らかになるのだが、まあ予想通りの背景がある。
その美濃が担当する野間口・麻生カップルもまた、家庭内にいろいろな事情を抱えてるらしく、式の内容がなかなか決まらないし、そのせいか何度も会場まで足を運んでくる。
普通のカップルよりも、より注意深く対応する必要があるカップルに対し、よりによって一番関わってはいけない人物が担当になってしまった・・・ここに今回の騒動の根幹がある。
当然ながら式はトラブルの連続となり、途中からヘルプに入ったひかるの尽力でなんとか収拾して終わった。しかし夫妻の怒りは収まらず、式場へ抗議にやってきた。
美濃と婚礼部のマネージャー・大森が対応に当たるが、その際、夫妻の追求を逸らすために、トラブルの原因となった人物としてひかるの名を挙げ、責任を押しつけてしまう。
式場の対応に納得できない夫妻は、SNSに投稿してしまう。さらに悪いことに、新婦・詩絵里の友人・根岸公恵(ねぎし・きみえ)が、夫婦を "応援" すべく過激な投稿を続ける。どんどん騒ぎは広がり、事態は収拾不能状態に。
かくして、ネット上には『A原、死んで詫びろ』という書き込みがあふれかえることに・・・
自分のあずかり知らぬところで炎上騒ぎの当事者となってしまったひかるは茫然自失してしまう。
当然ながら上司たちはひかるを庇うどころか、職場から隔離し、野間口夫妻と接触させまいとする。
しかしそれは夫妻からすれば「責任者が逃げている」と受け取られ、火に油を注ぐ結果になってしまう。
絶体絶命の危機に陥ったひかるが出会ったのは、弁護士の九印葉桜(くいん・はざくら)。彼女はひかるに訴訟を起こすことを提案する。その相手は・・・
ネット社会である現代ならではのサスペンスだろう。
厄介なのは、炎上騒ぎに加担している人間の、たぶん99%は "善意" や "正義感" から、式場とひかるを叩く書き込みをしているのだろうということ。
ただ、自分が正しいと信じている人間ほど、行動の制限が効かなくなりがちだ。だからどんどんエスカレートしていく。
世界中で起こっている戦争・紛争だって、みんな当事者同士が "自分の正義" を信じてるんだから。
物語はひかるが訴訟を決意し、相手側に訴状を突きつけるところまで進んでいく。もちろん、訴訟が起こされると分かった時点で、この騒ぎに関わった人間は慌てだす。だいたい、軽い気持ちで参加している者が大半だから、自分の形勢が悪くなると簡単に逃げ出すわけだ。
というより、次第に飽きてきて、次の新しい話題に移って行ってしまう、ってことなのかも知れない。その程度のことなのだけど、そうなるまでの間は、非難の対象となった当事者にとっては耐えられない時間だろう。
個人的には、ちゃんと裁判の内容まで描いて、事態の原因や責任の追及まできっちり世間に対して明らかにしてほしかったなぁとも思わないでもない。
でもそこまで書かなかったのは、裁判が終わる頃にはネット上ではこんな騒ぎは綺麗さっぱり忘れ去られていて「いまさら」ってことになってるだろう・・・てことなのかも知れない。そこまで作者が考えたのかどうかは分からないが。
作者はこれが小説デビューらしいが、キャラの書き分けも上手い。特にひかるの数少ない味方となる同僚・四ノ宮祐斗(しのみや・ゆうと)の、飄々としたところがとてもいい。
炎上するひかるのパートではハラハラしたし、美濃の "働きぶり" を描くパートではホントに腹が立つなど、筆力も充分にある。
作者の経歴を見ると、編集やライターや脚本執筆など、文章に関わる仕事をしてこられたようなので納得できる。
ミステリでもSFでもないけれど、とても楽しく読ませてもらいました。
タグ:サスペンス
密漁海域 1991根室中間線 [読書・冒険/サスペンス]
密漁海域 1991根室中間線 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 作者: 亀野 仁
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2022/12/05
- メディア: 文庫
評価:★★★
1991年、元海上保安士の宮島咲月は、北海道・羅臼で "特攻船" (北方領土近海で違法操業をする漁船)に乗り込むことになった。
その頃、日本漁船を攻撃して乗組員を殺害、漁獲物を強奪していく謎の攻撃船 "海魔" が出現していた。そして咲月の周囲にも謎の襲撃者が。
これは海魔と関係があるのか? そして海魔の目的、そして正体とは・・・
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北朝鮮の密漁船を臨検中、誤って同僚を死なせてしまった宮島咲月(みやじま・さつき)。海上保安庁を退職した彼女は、北海道の羅臼(らうす)で "特攻船" に乗ることになった。それは、地元のヤクザが乗り込み、ソ連近海で違法操業をする漁船のことだ。
彼女を誘ったのは地元ヤクザの幹部・歳桃(さいとう)。昭和の映画に出てくるような、義理人情に厚い、昔気質の親分肌の男だ(彼が辿ってきた過去も作中で明かされる)。
咲月の乗り込んだ特攻船は順調に "漁獲量" を稼いでいくが、その頃、日本漁船を攻撃して乗組員を殺害、漁獲物を強奪していく謎の攻撃船 "海魔" が現れるようになっていた。
生存者の証言によると、"海魔" の乗員には「大柄な白人」がいたという。そして、"漁" を終えて帰港した咲月の前にも二人組の白人が現れた。辛うじて彼らの襲撃を逃れた咲月だったが、今度は歳桃が襲われてしまう・・・
運命に翻弄されて、仲間を喪い、職を失い、家族からも疎まれ、流れ落ちた先で拾ってくれた恩人さえも救えなかった咲月。後半はそんな彼女の反撃が描かれる。
"海魔" の脅威に対抗すべく、漁船員たちは "自警団" を組織、その自警船の一隻に乗り込んだ咲月が "海魔" と繰り広げる、壮烈な銃撃戦がクライマッスとなる。
そして最期に明かされるのは、"海魔" の意外な目的と、その正体。
冒険小説のフォーマット通りに、宮島咲月という女性の半生が描かれていく。
主な舞台となるのは知床半島の羅臼、そして網走。
道東には三回ほど旅行に行ったことがある。一回目は大学時代の友人と、二回目はかみさんと、三回目は家族で。二度目の時には知床半島を横断する国道の途中で、エゾシカに出会ったのもいい思い出だ。
観光地というイメージしかなかったけど、本書ではそこで暮らす人々の様子も描かれ、ちょっと修正されたように思う。
あと、作品の背景になっている1991年頃は、北海道の東の果てのほうにもバブルの波が押し寄せていたらしい。これも驚いたことの一つ。
第一作「暗黒自治区」と比べると、ウエットな描写は増えたけどアクションは減ったかな。
どちらがいいかは人によると思うけど、私は前作のほうが好きかなぁ。
タグ:サスペンス
バイター [読書・冒険/サスペンス]
評価:★★★
伊豆半島沖の島で発生したウイルス感染。罹患して死亡した者は、他者の血肉を求める「バイター」として甦る。そして襲われた者もまた「バイター」へと化していく。かくして、あっという間に島は「バイター」の巣窟へ。
政府は直ちに島を封鎖するが、総理大臣の娘・相澤彩香が部活動の合宿で島を訪れていたことが判明する。
総理勅命によって自衛隊と警視庁による7人の特殊部隊「ブラッド・セブン」が結成され、彩香を救出すべく島に向かうのだが・・・
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タイトルの「バイター(biter)」は、英語の「噛む(bite)」から来ているのだが、一言で云えば、いわゆる "ゾンビ"(甦った死者) のことだ。
伊豆半島沖25kmの海上に浮かぶ大川豆島(おおかわずしま)。島の火山・仙石岳の調査のために訪れた科学者チームが、噴火口付近でミイラ化した動物の死体を発見する。
しかしそのミイラに接触したメンバーが高熱を発して死亡する。それがすべての始まりだった。
ミイラの中に潜んでいたウイルスに感染した者はいったん死亡し、その後蘇生する。しかしそれはすでに人間ではない。他者の血肉を求め襲う "怪物" として甦るのだ。そして襲われた者もまた同様の "怪物" へと化していく。
ウイルス感染からバイター化までの時間は数時間~20時間ほどと極めて短い。ゆえにバイターは指数関数的に増大していってしまうことになる。
異変を知った政府は直ちに海上自衛隊及び海上保安庁の艦船を動員、島を完全封鎖する。さらに "怪物" の呼称を「バイター」とすることを決定する。
バイターウイルスはその構造から、狂犬病ウイルスと他のウイルスが結合したものと思われた。
狂犬病ワクチン(作中では「ラザロワクチン」と呼ばれる)を感染者に投与したところ、一割はショック死、六割は人間としての意識を保つことができたが、それでも三割の者はバイター化してしまうことが判明する。
その中で、総理大臣・相澤統一郎(あいざわ・とういちろう)の娘・彩香(あやか)が美術部の合宿で大川豆島に滞在していることが判明する。
彩香は自修館(じしゅうかん)中学校の二年生で14歳。同行者は顧問の女性教師1名、部員の保護者(母親)1名、部員5名。
妻を喪い、一人娘の彩香を溺愛する相澤は彼女の救出を行うことを決意、特命チームを島に派遣することに。しかしこれが公になれば批判は免れない。よってこれは極秘作戦となった。
主人公・藤河徹(ふじかわ・とおる)は35歳。警視庁警備部のSAT(特殊部隊)所属の巡査部長だ。チームのサブリーダーを務める。
浜井裕子(はまい・ゆうこ)は警視庁SP(セキュリティ・ポリス)で巡査長・29歳。4年前の冬季オリンピックでクロスカントリー日本代表に選ばれた。相澤総理の警備も担当したことがあり、彩香の顔も知っている。
掛川睦雄(かけがわ・むつお)は捜査一課の巡査。医師免許をもつという変わり種の刑事だ。
陸上自衛隊からは梶原達也(かじわら・たつや)二尉。藤河と同じ35歳でチームのリーダーを務める。狙撃能力の高さでは他の追随を許さない。
他に狙撃手2名(うち一人は女性)、通信担当1名と合計4名。
合わせて7名が特殊部隊「ブラッド・セブン」のメンバーだ。
大川豆島でバイターウイルス感染が始まった頃、彩香を含む美術部の一行は島の観光名所である八幡山(やわたやま)展望台で写生を行っていた。
しかし台風の接近で天気が崩れ、下山することに。しかしいくら待ってもバスが来ない。やむを得ず徒歩で下山を始めるのだが、そこでバイターに襲われて逃げ回ることになる。
一方、ヘリコプターで島に降り立ったブラッド・セブンも彩香たちの足取りを追って探索を開始、その過程で島にいた人間のほぼ全員がバイター化してしまっていることを知る。
バイターは人間としての意思がないのはもちろんだが、痛覚もないらしく手足を失っても、あるいは胴体が半分に切断されても活動を止めない。とどめを刺すには頭部(脳)を破壊すること。どうやら筋肉を動かす部位のみが "生きて" いるらしいのだ。
迫り来るバイターの群れをマシンガンで掃討していく様子は、さながら映画『エイリアン2』のようだ。作戦開始時には一人当たり7000発という弾丸があったのだが、みるみるうちに消費されていく。
精鋭揃いのブラッド・セブンだが、藤河と梶原はしばしば意見が対立する。彩香救出という同じ目的を抱きながら、梶原は次第にバイターの "殲滅" にのめり込んでいく。
本書のヒロインともいうべき彩香さんは、美少女なのは "お約束" だが(笑)、それだけではない。気丈な性格に加え判断も的確、なかなか賢いお嬢さんとして設定されている。
ただまあ中学生の集団であるから、なかなか一糸乱れぬ行動とはいかない。真っ先に保護者である大人たちを喪った後は、じわじわとメンバーが減っていく。
その中で最後まで希望を失わない彩香さんに、読者はいやでも感情移入してしまうだろう。
島の中でのドラマが進行している裏で、本土でもバイターウイルスは広まり始める。封鎖される前に島を出た観光客の中にも感染者がいたためだ。東京をはじめ、各地でバイターが出現していき、政府はそちらへの対応も迫られることに。
そして本作中、"ヴィジットルーム" という施設が登場する。ここがどんな場所なのかはネタバレになるので書かない。このあたりは読んでいただくしかない。
本作のエンディングは、"正統的ホラー" としてはこの終わり方がふさわしいのかも知れない。でも、私の好みではないなあ。やっぱり私はホラーは苦手のようです。