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薔薇のなかの蛇 [読書・ミステリ]


薔薇のなかの蛇 (講談社文庫)

薔薇のなかの蛇 (講談社文庫)

  • 作者: 恩田陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/05/16

評価:★★★


 イギリスのソールズベリー村にある遺跡で、手足・首が切断された死体が見つかって騒ぎになる。その頃、英国留学中の水野理瀬(みずの・りせ)は、友人アリスの招待で彼女の一族が住まう屋敷・ブラックローズハウスへやってくる。
 そこでは一族に伝わる「聖杯」が披露されるのだという。しかしその夜、敷地内で切断された死体が見つかる・・・


 水野理瀬は、いままでいくつかの長編・短編に登場してきたシリーズ・キャラクター。今作では20歳となり、ケンブリッジ大学に留学して美術史(図像学)を学んでいる。

 大学の友人アリスに招かれ、彼女の一族が住まう屋敷・ブラックローズハウスへやってくる。そこは、切断死体が発見されて大騒ぎになっているソールズベリー村の遺跡の近くであった。

 五弁の薔薇の花を象ったブラックローズハウスには、当主オズワルドをはじめとするレミントン家の一族に加え、多くの招待客がいた。そこで催されるパーティーでは、一族に伝わる「聖杯」が披露されるのだという。

 しかし理瀬が到着した夜、敷地内で切断死体が発見される。オズワルドには「聖なる魚」を名乗る者からの脅迫状が届く・・・


 理瀬のパートと並行して語られるのは、ヨハンという青年のパート。彼は理瀬の友人で、こちらもシリーズ・キャラクター。やはり英国に滞在していて、彼のもとを一人の男が訪ねてくる。この二人の会話がこちらのパートとなる。


 基本的には殺人を扱ったミステリなのだけど、それよりも舞台となる館、そこに集う人々のドラマが主体のように感じる。

 五棟ある建物のうちの一棟が火事で焼失しても再建されないなど、屋敷そのものに隠された謎、登場人物同士が腹の探り合いや駆け引きに汲々とする様子。そして「聖杯」の行方とその正体。それらのほうにより興味をそそられる。そこでは、殺人事件はあらゆる事態が動き出すきっかけに過ぎないようにも思う。

 今回、理瀬が乗り込む館のレミントン家は英国上流階級の典型。理瀬の友人であるアリスの父オズワルドは資産家の当主、長兄のアーサーは政府系の機関への就職が決まり、次兄のデイヴは父の事業の後継者となるのが既定路線。館のパーティーに集まってくる招待客も、みな同じ上流階級に属する者やその縁に連なる者ばかり。

 そんな中でも、理瀬という女性のキャラクターは鮮烈だ。聡明で美しく、さらに強さを兼ね備え、もっと云うと "ある野望" まで胸に秘めている。
 理瀬のパートは主にアーサーの視点で語られるのだが、彼女の存在は常に彼の興味を惹き続ける。派手な言動は皆無なのに、彼女の周囲だけ常にスポットライトが当たっているような存在感がある。

 もちろん終盤では殺人の謎も解明され、ブラックローズハウスの秘密、ひいてはレミントン家が果たしてきた歴史的な闇の面もまた明るみに出る。
 ヨハンを訪ねてきた男の正体も判明し、理瀬のパートとひとつになって幕となる。


 ちなみに、彼女の登場する作品が書かれたのは17年ぶりらしい。本書の「終章」では、将来的な展開を予想させる描写もあるので、作者は続編も予定しているのだろう。
 ぜひ次作は17年なんて間を開けずに書いてほしいな。こっちの寿命が持たないから(笑)。



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