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獄門島 [読書・ミステリ]


金田一耕助ファイル3 獄門島 (角川文庫)

金田一耕助ファイル3 獄門島 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/10/01

 瀬戸内海に浮かぶ小島・獄門島へやってきた金田一耕助。死んだ戦友・鬼頭千万太(きとう・ちまた)から託された願いを果たすためだ。
「俺が生きて帰らないと、三人の妹たちが殺される」
 しかし千万太の願いも虚しく、悪夢のような連続殺人事件が始まる・・・

* * * * * * * * * *

 終戦直後、金田一耕助は本土へ向かう復員船の中で、戦友だった鬼頭千万太を看取った。彼は死の間際、耕助にある願いを託す。
「俺が生きて帰らないと、三人の妹たちが殺される。俺の代わりに獄門島へ行ってくれ・・・」

 そして昭和21年9月。金田一耕助は鬼頭千万太の死亡を遺族に告げるべく、瀬戸内海の小島・獄門島へやってきた。

 千万太の実家の鬼頭家は「本鬼頭」と呼ばれる網元で、島でいちばんの権力者の家。当主の嘉右衛門(かえもん)は昨年死亡しており、現当主の与三松(よさまつ)は気がふれていて座敷牢(!)に閉じ込められている。いま鬼頭家は与三松の姪の早苗(千万太の従姉妹)という娘が切り盛りしているという。

 千万太には花子・雪枝・月夜という三人の腹違いの妹(与三松の後妻の子)がいる。千万太が死亡した今、三人の誰かが婿養子を迎えて継ぐのが順当なのだが、この三人が揃いも揃って精神年齢が低いというか幼児のまま成長してしまったというか、後継者としてはいささか残念に育ってしまった。
 それでいて、容姿は整っていて美人三姉妹として有名という、なんとも形容のし難いお嬢さんたちだ。

 その本鬼頭で千万太の葬儀が行われた夜、惨劇の幕が上がる。屋敷から姿を消した花子が、島にひとつだけある寺・千光寺の境内で絞殺死体となって発見される。しかも遺体は梅の古木から逆さに吊り下げられていた。
 ちなみに「○○○○じゃが仕方がない」という有名な台詞が発せられるのもこのシーンだ。

 遺体の状況は「鶯(うぐいす)の身を逆(さかさま)に初音(はつね)かな」という宝井其角(たからい・きかく:松尾芭蕉の弟子)の俳句の見立てになっているのだが、耕助がこれを知るのはかなり後になる。

 そして千万太の予言通り、三姉妹が俳句の見立ての通りの状況で次々に殺されていくことに・・・


 日本ミステリ史に於いても指折りの古典的名作だろう。和服の美女が梅の古木に吊されたり、寺の鐘の中に閉じ込められていたり、そしてそれを彩るのが俳句とくる。座敷牢に祈祷所など、『本陣殺人事件』に始まった "和のテイスト" はここでも健在だ。

 孤島に君臨する旧家の権威、それに無意識に盲従してしまう島民たち、封建的な価値観が色濃く残る終戦直後の世相。この小説の舞台では、現代では喪われてしまったいろいろな条件が揃っている。そんな閉鎖的な共同体の中だからこそ起こった特殊な犯罪。
 読者をミスリーディングさせる小道具やイベントも数多く投入され、真相は容易に見えてこない。横溝正史の代表作のひとつと呼ばれるのも納得だ。


 1977年の市川崑監督の映画版についてちょっと書く。こちらでは原作と犯人が変えてあった。まあ映画と小説は別物と割り切れば悪い改変でもないと思う。
 金田一耕助が珍しく自分から想いを寄せた(らしき)鬼頭早苗を演じていたのは大原麗子さん(当時31歳)。やっぱりきれいだったねぇ。これなら耕助が惚れるのも納得だ。
 大原麗子さん、好きな女優さんのひとりだったよ。平成21年(2009年)には鬼籍に入られてしまって残念。享年62。昭和がどんどん遠くなっていく・・・
 『機動戦士ガンダム』のシャア・アズナブル役の声優・池田秀一さんが、顔出しで出演していたのもトリビアかしら。千光寺の小坊主・了沢(りょうたく)役で、当時28歳。彼も若かったねぇ。



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