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密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック [読書・ミステリ]


密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック (宝島社文庫)

密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック (宝島社文庫)

  • 作者: 鴨崎暖炉
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2022/12/06

評価:★★★★


 ミステリーマニアの大富豪が住む孤島で、『密室トリックゲーム』が開催される。優勝賞金は10億円。ユニークな参加者が集まってくるが、そこで本物の殺人事件が起こってしまう。いずれも鉄壁の密室の中で、一人また一人と殺されていく・・・


 日本有数の大富豪にしてミステリーマニアの大富ヶ原蒼大依(おおとみがはら・あおい)。彼女が所有する金網島(かなあみじま)で、『密室トリックゲーム』が行われる。
 参加者が順繰りに自らが考案した密室トリックを披露し、他の参加者がそれを解く、というもの。いちばんポイントを稼いだ優勝者には賞金10億円が贈られる。

 元東京地裁判事、探偵系ユーチューバー、探偵系シンガーソングライター、自称1000年を生きる吸血鬼、そして前作にも登場した、密室を崇める宗教団体『暁の塔』幹部・・・

 なかなかキャラが濃いメンバーに加えて、前作での主役3人組も島に招待されてやってくる。高校3年生の葛白香澄(くずしろ・かすみ)、同級生の蜜村漆璃(みつむら・しつり)、そして香澄の幼馴染みで大学3年生の朝比奈夜月(あさひな・よづき)だ。

 そして始まる『密室トリックゲーム』。トリック当てゲームだったはずが、密室の中から参加者の死体が発見され、さらに惨劇は繰り返されていく・・・


 前作もリアリティよりもケレン味重視の作品だったが、本作はさらに虚構性が増している。

 舞台となる金網島は、元々はミステリ黄金時代の1920年代にデビューした大御所ミステリ作家リチャード・ムーアが所有していたもの。金網島は彼が晩年を過ごした地で、ここに彼は "密室の理想郷" を築いたのだ。

 島の周囲は金網でできた高さ30mのフェンスが覆っている。これによって島外からの侵入は不可能になっており、これが島の名の由来でもある。
 金網の中には多くのロッジが並び、奇妙な構造の建物がある。屋内には密室トリックに利用できる思われる様々なアイテムが用意されている。
 屋外にも、いろいろな機械類・車両類が収められた倉庫がある。中には、使用目的が不明なものも多々。

 サブタイトルに "七つのトリック" とあるように、次から次へと密室が現れる。そして前作でもそうだったが、物語の進行につれてそれらもどんどん解かれていく。
 コロンブスの卵みたいな、心理的な盲点を突くものもあれば、豪快で壮大なものまで、そのスケールもさまざま。
 読んでいて思ったが、序盤の密室では、まだ日常生活で存在するものを使ったトリックが出てくるが、物語の後の方になればなるほど、大がかりで突拍子もない、しかも "この島にしかない" であろうものを使ったトリックが展開されていく。

 言い換えれば "この島でしか実現できない" トリックでもあるわけで、金網島はまさに "密室ワンダーランド" と化していく。

 中でも、作中で「第5の密室のトリック」と呼ばれるものは、スケールの大きさでも、その馬鹿馬鹿しさ(褒めてます)でも群を抜く。これを思いつくのもスゴいと思うが、それを堂々と作品にしてしまうのがもっとスゴい。

 そして、最後のトリックは・・・これは読んでのお楽しみかな。しかしまあ、よく最後までこのテンションを保ったものだ。これには素直に感心してしまう。


 さて、よくバトルマンガなんかでは、"強さのインフレーション" が起こる。物語が進むに連れてどんどん敵が強大化し、それに合わせて主人公もパワーアップしていく(せざるを得ない)。しかしいつかは限界が来るわけで、行き着くところまで行って、そこで終了となるのだろうが・・・

 作者のこのシリーズにもそれに近いものを感じる。デビュー作、本作と続けてきて、いわば "密室のインフレーション" が起こっているようにも思う。
 このまま続けていって、さらに荒唐無稽なトリックの世界に行ってしまったら(作者が)たいへんだろう。それとも、次作ではガラッと違う路線でいくのか。
 このまま突き進んでいくのを見たい気もするけど、インフレの果てに "燃え尽きて" しまったマンガ家さんもいたからねぇ・・・
 余計なお世話かも知れないけど、ちょっと心配になりました。



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