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オルゴーリェンヌ [読書・ミステリ]


オルゴーリェンヌ 〈少年検閲官〉シリーズ (創元推理文庫)

オルゴーリェンヌ 〈少年検閲官〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/04/28

評価:★★★★


 あらゆる書物が禁止された未来世界。『ミステリ』作家を目指す少年・クリスは、検閲官に追われる少女ユユを助け、彼女が暮らしていた "島" へやってくる。しかしそこで、オルゴール職人が次々に不可能状況の下で殺されていくという事態に遭遇する・・・。『少年検閲官』シリーズ第2作。


 長く続いた世界大戦に疲弊した人類は、暴力や殺人を描く書物の規制に乗り出した。これによりあらゆるミステリは焚書の対象となってしまう。
 探偵小説作家たちは、「ミステリ」を細かい ”要素” に分割、それぞれをデータ化して様々な個体に仕込み、世界中へ分散して隠した。それらは『小道具(ガジェット)』と呼ばれた。
 検閲官たちの任務はそれらを探し出し、廃棄・焼却処分することだった・・・

 主人公・クリスは14歳。『ミステリ』作家を目指す少年だ。そのため、『小道具』を探して世界中を旅している。
 彼は、海沿いのある街へやってくる。恩人の音楽家・キリィ先生に会うためだ。しかし彼が出くわしたのは、検閲官に追われる少女ユユだった。
 彼女と一緒に逃げ回るクリスを救ったのは、前作でクリスと行動を共にした少年検閲官エノだった。

 キリィ先生との再会を果たしたクリスは、ユユが暮らしていた海墟(かいきょ:海水面上昇によって島になってしまった場所のこと)にある屋敷・カリヨン邸へ向かう。
 エノもまた、"氷" の『小道具』がカリヨン邸にあると睨み、2人と行動を共にする。

 カリヨン邸は、主であるクラウリのもと、5人の職人たちがオルゴールを作り続けている場所だった。
 しかし、屋敷へ到着したクリスたちは、職人たちが不可能状況で殺されていく連続殺人事件に遭遇することに・・・


 人類が緩やかに滅びを迎えつつあるという退廃的なムードが漂う作品世界だが、これもミステリ要素とは切り離せない。この世界だからこそ起こった犯罪だからだ。

 書物の検閲の目的のみのために育てられた少年検閲官という存在。そのため非人間的な側面をもつ。エノは「私の心は機械」と語るように感情を持たない存在だったが、クリスと出会い、事件を解決していくうちに少しずつ内面に変化が訪れていく。

 本書では新たな少年検閲官・カルテも登場し、エノやクリスたちとしばしば対立する。検閲という行為自体に疑問を覚えないカルテと、変わり始めたエノとの対比も興味深い。

 そしてミステリを否定する立場の彼らが、本シリーズでは図らずも探偵役を務めることになってしまうことにも、何やら皮肉を感じる。

 ミステリとしての注目点は、不可能を可能にする大がかりな物理トリックが登場すること。まさに「物理の北山」という異名をもつ作者の面目躍如だが、それだけではない。

 本書は文庫で約570ページというその厚さも目を引く。序章だけでも約60ページと長め。そこでは幻想味溢れる物語が語られるが、単なるファンタジーで終わることなく、本編への壮大な伏線となっている。

 終盤に至って真相は二転三転、容易に全貌が明らかにならない。しかし最後の最後には意外な真実へと見事に着地してみせる。



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