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銀河英雄伝説列伝1 晴れあがる銀河 [読書・SF]

銀河英雄伝説列伝1 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説列伝1 (創元SF文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/10/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

ご存じ日本SFの金字塔『銀河英雄伝説』。
本書は、6人の作家さんが銀英伝の世界を舞台に書き下ろした
公式トリビュート作品集だ。

「竜神滝の皇帝陛下」小川一水
ヒルダと結婚した銀河帝国皇帝ラインハルトが
新婚旅行で訪れたフェザーンの渓谷で釣りをする話(笑)。
艦隊戦では無敵のラインハルトだが、
渓流の魚相手には手こずる様が微笑ましい。
終盤に起こる ”ある危機” を回避する機転は、さすがラインハルト。

「士官学校生の恋」石持浅海
アレックス・キャゼルヌは、後輩のヤン・ウェンリーから
士官学校の同級生が最近つき合い始めた女性の話を聞かされる。
キャゼルヌはそれを交際中のオルタンスに話すのだが、
彼女はその話の裏にある ”事情” を見抜いてしまう。
恋人が漏らしたひと言で固まってしまうキャゼルヌ。
このときのオルタンスには、”座間味くん” が憑依してますね(笑)。
後のキャゼルヌ夫人の見事な安楽椅子探偵ぶりが描かれるのだけど
読みながら、ヤンがこの真相に気づいてないはずはないよなあ・・・
とも思ったが、最後まで読むとその疑問も氷解。さすが希代の戦略家。

「ティエリー・ボナール最後の戦い」小前亮
『銀英伝』本編開始前の時代。
辺境の同盟軍基地が、帝国の艦隊に襲われる事件が続発する。
調査に向かった第九艦隊。タイトルのティエリー・ボナールは
そこに所属する少将で、同僚にはウランフ少将がいる。
帝国軍と第九艦隊の艦隊戦が描かれるのだが、この雰囲気は懐かしい。
帝国軍を率いる上級貴族は傲慢、同盟軍の指揮官は頭が固く悪手を打つ。
『銀英伝』でのおなじみのシチュエーションではあるがこれも懐かしい。
ティエリー・ボナールは、およそ軍人らしくないキャラなのだが
こういうのも『銀英伝』ではよく出てくる。
ボナールとウランフの掛け合いが楽しい作品。

「レナーテは語る」太田忠司
時系列は本編開始ころ。本作で主役を張るオーベルシュタインは
情報処理課に所属しており、タイトルのレナーテは彼の部下の女性だ。
レナーテの同僚のイェシカがアパートの自室で死亡する。
死因は睡眠薬の過剰摂取。警察は自殺と判定するが、
それを信じられないレナーテは、自ら真相を探り始めるが・・・
探偵役はオーベルシュタインが努めるのだが、ラストでは
彼の有名な ”あのエピソード” につながる展開も。これは面白い。

「星達の舞台」高島雄哉
時系列は本編開始前。士官学校卒業を3か月後に控えたヤンは、
音楽学校の学生ヒュバテイアに頼まれて彼女の劇に出演することに。
それは、音楽学校の学生寮廃止に反対する運動の一環だった。
2人は週に一度ほどの割合で劇の稽古をすることになるのだが・・・
ヤンと演劇、という組み合わせ。その発想はなかった。
私の抱くヤンのイメージでは、こういうものに出たがるキャラでは
ないのだけど、それはあくまで私個人のものだからね。
まもなく学生生活を終えようという時期なら、ありかな。

「晴れあがる銀河」藤井太洋
本編開始の遥か前、ルドルフが銀河帝国皇帝の座についた直後の頃。
人類の生活圏の航路データを管理する航路情報管理室も
帝国軍航路情報管理分隊と組織変更され、
すべての星系を結ぶ航路の作成、提出するように命じられる。
管理室の職員達のてんてこ舞いぶりが描かれていくが、最後の方では
後の『銀英伝』本編の設定につながる要素もちらほら・・・

本書にヤンが登場する作品は2編あるが、どちらも士官学校時代。
たしかに学生時代のヤンには、
語られていないエピソードがたくさんありそうな気がするよねぇ。

ミステリ作家が二人参加されていて、探偵役は
キャゼルヌ夫人とオーベルシュタイン。どちらもとても面白いのだけど
考えてみたら『銀英伝』には、他にも名探偵が務まりそうなキャラが
たくさんいそうな気がする。

帝国側ならラインハルト、キルヒアイス、ヒルダ・・・
ミッターマイヤーは熱血刑事が似合いそうだし
ロイエンタールはハードボイルドの探偵をやらせたらハマりそう。

同盟側ならフレデリカかな。日常の謎系なんか面白そう。
ユリアンを主役に、彼の通う学校を舞台にしたミステリ、なんてのも。

改めて思う。『銀河英雄伝説』の登場人物は綺羅星のごとし。
主役級のキャラがダース単位で惜しみなく投入された、
なんとも贅沢なシリーズだったのだなあ・・・と。


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機龍警察 暗黒市場 上下 [読書・SF]

機龍警察 暗黒市場 上 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察 暗黒市場 上 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/12/03
  • メディア: 文庫
機龍警察 暗黒市場 下 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察 暗黒市場 下 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/12/03
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

大量破壊兵器が衰退し、テロが蔓延する近未来。
それに伴い発達した人型近接戦闘兵器・機甲兵装。

 機甲兵装のイメージは往年のTVアニメ「装甲騎兵ボトムズ」に
 登場する人型機動兵器AT(Armored Trooper)に近いだろう。

機甲兵装を使った犯罪に対抗するため、
警視庁特捜部は最新鋭の機甲兵装〈龍機兵〉を3機導入、
その搭乗員として3人の組織外人員と契約する。

日本人傭兵・姿(すがた)俊之、元テロリストのライザ・ラードナー、
そしてモスクワ民警出身のユーリ・オズノフだ。

閉鎖的、保守的な警察組織はそんな〈龍機兵〉に対して
強烈な拒否反応を示し、特捜部は孤立を強いられながらも
凶悪な事件に対峙していた。

第1作『機龍警察』では姿、第2作『自爆条項』ではライザに
スポットが当てられ、それぞれの過去も語られてきた。

第3作である本作ではいよいよユーリ・オズノフが主役となるのだが、
「第一章 契約破棄」では、なんと彼は
警視庁との契約が解除された状況で登場する。当然ながら
〈龍機兵〉の搭乗員ではなくなり、”警部” の身分も喪失している。

ユーリはロシア人のアルセーニー・ゾロトフと接触する。
彼は日本に進出してきたロシアン・マフィアの一人で
ユーリとは様々な因縁で結ばれた ”幼馴染み” であった。

世界中からバイヤーが集まる〈ルイナク〉と呼ばれる武器密売市場が
近々、日本のどこかで開かれるという。
それを仕切る《支配人》は、名前・国籍・経歴すべてが謎の人物だ。
新たな仲間としてゾロトフに受け入れられたユーリは彼と組み、
武器のバイヤーとして〈ルイナク〉へ参加することになる。

続く「第二章 最も痩せた犬達」では、ユーリの過去が語られる。

警察官の父をもつ11歳のユーリ少年は、転校生のゾロトフと出合う。
彼は ”ヴォル” と呼ばれるならず者の息子だった。
二人は対立と反発をくり返しながらも、お互いを少しずつ知っていくが
ある ”決定的な出来事” によってゾロトフは姿を消してしまう。

やがて成人したユーリは、父の背を追うように警官となり
22歳でモスクワ民警の刑事に任命された。

ロシアの警察内部には汚職と賄賂が蔓延していたが
ユーリが配属された91分署の刑事達は、潔癖に警察官であろうとする
矜持をもつ者たちで、『最も痩せた犬達』と呼ばれていた。

かつてユーリの父の部下だったという班長ダムチェンコは
尊敬できる上司であり、彼の指揮する6人の信頼できる同僚たちと共に
刑事として成長していくユーリ。
そしてダムチェンコの妹・リーリャとは将来を誓う仲になっていく。

しかし順風満帆かと思われたユーリの警察官人生は
最悪の形で断ち切られてしまうことになる。

仲間も恋人も失い、謂れなき汚名まで着せられ、
警察からも追われる身となったユーリはモスクワを脱出、
やがて極東の地へ逃れて裏社会へと身を沈めていく・・・

この「第二章」は文庫で200ページもあるのだけど
ユーリが陥れられた陰謀、そしてその背後で何が起こっていたのかは
すべて「第三章」で明かされていく。

そして「第三章 悪徳の市」。時間軸は再び現在へ。

栃木県で起こった交番襲撃事件をきっかけに
特捜部は日本で開かれる〈ルイナク〉の手がかりを掴む。
さらに今回の ”市場” では、〈龍機兵〉に匹敵する性能を持つ
新型機甲兵装が取引されるという。

ブラックマーケットの壊滅と新型機の市場流出を阻止するべく
特捜部は全力を挙げるのだが・・・

前2作で、警察上層部や日本政府内には、犯罪組織とつながる
巨大なネットワークが存在することが示唆されている。
そしてそれが特捜部にとっての真の〈敵〉であることも。

今作でも、〈ルイナク〉の所在地を突き止めた特捜部が
地元警察とともに強制捜査に突入しようとするが、
それを妨害すべく〈敵〉が介入してくる。

一方、〈ルイナク〉に参加したユーリにも生命の危機が迫る。

次々に襲ってくる危機を乗り越え、満身創痍になっていくユーリ。
しかし、脳裏に蘇るのは誇り高き警察官だった父の姿、
若き日の自分を鍛えてくれた上司や同僚達の言葉、そして
闇の底を這うように生きてきても、失わなかった警官としての覚悟。

このあたり、涙で文字が滲んでしまって読み続けるのがつらい。

ユーリが ”伝説の黒い魔犬” の名を持つ
〈龍機兵〉『バーゲスト』を駆って、
最後の敵に挑むクライマックスまで、ページを繰る手が止まらない。

ユーリの ”魂の復権”、警官としての再生を描く警察小説なのだけど、
機甲兵装による戦闘シーンにも十二分にページが充てられていて、
SFファンにも満足のいく作品だろう。

このシリーズ、なかなか文庫化されないんだよねぇ。
本書も、単行本刊行から8年もかかってる。
たぶん、それくらい売れてるんだろうなぁ・・・

このぶんでは次作『未亡旅団』の文庫化まで2~3年待たされそうだ。
私は滅多に単行本を買わないのだけど(数年に1回くらい、かなぁ)
このシリーズは買ってもいいかなぁ、って思ってしまう。


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星系出雲の兵站 (第二部) -遠征- (全5巻) [読書・SF]

星系出雲の兵站-遠征- 1 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站-遠征- 1 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/08/20
  • メディア: 文庫
星系出雲の兵站―遠征― 2 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站―遠征― 2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 文庫
星系出雲の兵站-遠征-3 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站-遠征-3 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 文庫
星系出雲の兵站―遠征― 4 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站―遠征― 4 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/05/26
  • メディア: 文庫
星系出雲の兵站―遠征― 5 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站―遠征― 5 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/08/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

地球人が送り出した播種船の到着から始まった、
出雲星系を中心とする五星系文明。

そのひとつ、壱岐星系に突如現れた謎の異星人・ガイナス。
第一部では、準惑星・天涯に建設されたガイナスの橋頭堡を巡る
人類とガイナスとの戦いが描かれた。

戦いの中で人類は少しずつガイナス兵の正体を知っていく。
彼ら一人一人には自意識はなく、”集合意識” の下で行動していること、
ガイナス兵は何者かによって創り出された生命体で、
彼らの背後には、”造物主” にあたる
”原ガイナス人” とも言うべき存在がいること。

第二部は、200年前に五星系の外部へと向けて発進した探査船から
もたらされた、「敷島星系に文明あり」という情報から始まる。
敷島星系は壱岐星系から20光年の位置にあった。

天涯を奪回した人類は、壱岐星系外縁の小惑星に建設されていた
ガイナスの拠点を発見、周囲に要塞を築いて封じ込めると同時に
彼らとの意思の疎通を図って接触を開始していた。

一方、敷島星系に向かった調査艦隊は星系内の2カ所に文明を発見する。
地球型惑星・敷島には巨大なリング状構造物が存在し、
敷島の外縁を巡るガス惑星・桜花の衛星・美和には
”原ガイナス人” と思われる生命体が存在していた。

人類は ”原ガイナス人” を ”ゴート” と名づけ、
敷島星系の外縁に機動要塞を建設、そこを足がかりに
惑星・敷島と衛星・美和の調査を本格化させていく。

やがて惑星・敷島の調査から得られた種々のデータから、
敷島が過去に経験したとてつもなく激烈な歴史が明らかになる。

同じ頃、出雲星系では人類の播種船の一部と思われる遺物が発見され、
敷島星系からも太古の文明の残渣と思われる遺跡が次々と見つかり、
太古の時代に何が起こったのかが次第に明らかになっていく・・・

地上戦・艦隊戦と派手なドンパチが多かった第一部とは異なり、
異星文明のルーツの探索という、一見地味な展開から始まる。
しかしそれは、やがて有史以前の時代に起こった
人類社会とゴート社会の ”創世の秘密” という
壮大なドラマへとつながっていく。

第一部からあちこちに蒔かれてきた伏線が回収され、
最終巻に至って、それらが太古に起こった ”巨大イベント” へと
再構成されていく様は、よくできたミステリのようでもある。

 このあたり、J・P・ホーガンの名作『星を継ぐ者』を
 連想する人もいるんじゃないかな。

ガイナスによる壱岐星系侵攻の ”真の目的” もまた明らかになり、
最終巻の終盤ではスペースオペラらしい最終決戦も描かれる。

水神指令長官や火伏兵站監など、第一部の主要人物も引き続き登場するが
第二部では彼らは脇役に回り、代わって舞台中央に現れるのは
烏丸三樹夫(からすま・みきお)というキャラクター。

 この名前を見てピンと来た人は私のお仲間です(笑)。

彼はもともと士官大学校の教官で電子戦の専門家だったが、
拠点に封じ込めたガイナスとの意思疎通を担当する部隊の指揮官として
現場に担ぎ出されてきた。だから軍人というより学者の雰囲気が強い。

 第一部で登場した軍人たちの中にも、
 学生時代に彼の教えを受けたものは多く、
 彼のことを「烏丸先生」と呼ぶ者も少なくない。

しゃべり方こそ「~でおじゃる」と一風変わっているが(笑)
アタマの切れは抜群で、第二部をミステリとして捉えるなら
ホームズ役に相当する役回り。先任参謀の三条はワトソン役だ。
拠点のガイナスと会話を成立させ、彼らの思考の有り様を探っていく。

第一部・第二部を通じて、異星人との星間戦争ものとして、
ファースト・コンタクトものとして、そして
戦時の兵站をテーマに社会的な視点も見せてくれるという、
SFの面白さが存分に詰まった傑作だと思う。

作中には、本筋に関係ないところで
いろんな小ネタが散りばめられているんだけど
その中から2つだけ紹介して終わりにする。

烏丸三樹夫(このネーミングからしてすでにネタなんだけど)が
ガイナスとの意思疎通のために繰り出す ”道具” のひとつに
”ガイナス兵をかたどった巨大ロボット”(笑) がある。
別にギャグではなく、ちゃんとした真面目な意図があるのだけど
そのスペック(身長・体重)を知ってちょっとびっくり。
懐かしい思いをする人もいるかも知れない(笑)。

そして、敷島星系の衛星・美和を調査する天文学者の名が
ジャック ”真田” というんだけど、彼が ”ある台詞” を言う。
それは・・・もうおわかりですね(笑)。

これらはごく一部だけど、こんな小ネタを織り交ぜながらも、
描かれる本筋は極太の本格SF&スペースオペラ。
存分に楽しませてもらいました。


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聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた [読書・ミステリ]

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

  • 作者: 井上 真偽
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/07/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

「奇蹟の存在を証明する」ことを悲願にしている
私立探偵・上苙丞(うえおろ・じょう)の活躍するミステリ、第2作。

その昔、カズミという美しい娘がいた。
彼女を見初めた殿様は、娘の父親に圧力をかけて思いを遂げようとした。
しかし彼女は、男どもをことごとく毒殺してのけたという・・・

第一部は、この ”カズミ様の伝説” が伝わる里で発生した
不可思議な殺人事件が語られる。

旧家の婚礼で、同じ盃(さかずき)を回し飲みした者の中から
3人の毒死者が出た。不思議なことに、死んだ者と何事もなかった者が
交互に出る「飛び石殺人」だったのだ・・・

たまたま婚礼の場所に居合わせた姚扶琳(ヤオ・フーリン)と
上苙の元助手・八ツ星聯(れん)は事件に巻き込まれる。

関係者たちがお互いに容疑をなすりつけ合う中、
聯が介入して推理を巡らすが、決め手に欠ける。

そして第一部の最後に記された、たった一行の文章で物語は急展開。

第二部では、姚の元ボスで中国黒社会の大物・沈(シェン)が登場。
沈はある理由から、「飛び石殺人」の犯人を突き止めようとする。

そこへ現れた上苙は、”人間の犯行ではない” ことを証明していく。
各登場人物にかけられた容疑、すなわち動機、可能性、トリックなどを
ことごとく論理的に否定していくことにより、
犯行をなしえた者は存在しない、それすなわち
伝説の聖女・”カズミ様” が引き起こした奇蹟である、となるわけだ。

決め台詞は、「その可能性はすでに考えた」・・・

同じ盃から起こる「飛び石殺人」を合理的に説明するのさえ
至難の業だと思うのだが、作者はその方法をいくつも提示してみせる。
中には実現可能性に「?」がつくものもあるが、
これだけ思いつくのがまずスゴい。

さらに、毒の入手方法や婚礼前日・当日の各人物の動き、さらには
”カズミ様” 伝承にまつわるこの里ならでは婚礼の仕来りなど
さまざまな要素を組み合わせて、単独犯・共犯を含めて
何通りもの ”犯行可能性” を導いてみせる。

そして上苙はそれをことごとく否定してみせるのだが、なんと終盤には
各仮説の一覧表まで掲げてあって、水も漏らさぬつくり(笑)。

本作を ”多重解決もの” としてみると、作品中で
犯人の指摘とそれに伴う推理が開陳されるのは
事件発生の直後から始まっているわけで、そうすると
文庫で400ページほどのうち、事件発生までが100ページだから
残り300ページにわたって 犯人指摘→理由の説明→反証による崩壊 が
延々とくり返されることになる。
ある意味途方もない作品なのは間違いない。

 こんな ”推理の洪水” をえんえんと読まされてくると、
 私のアタマもだんだん麻痺してきて、ところどころ
 ついて行けなくなってしまったことはナイショだ(おいおい)。

これだけ否定しまくってしまうと、肝心の真相が
ショボくなってしまうんじゃないかと心配になるが、そこは大丈夫。
最終章で提示される ”真相” は、ここまで推理談義に
つき合ってきた読者にも、納得のいくものになっていると思う。

2016年に初刊の本書は、その年の各種ミステリーランキングの
上位に挙げられたと巻末の解説に記されてるが、それも納得の一冊だ。


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隣のずこずこ [読書・ファンタジー]

隣のずこずこ(新潮文庫)

隣のずこずこ(新潮文庫)

  • 作者: 柿村将彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/11/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★

『日本ファンタジーノベル大賞2017』大賞受賞作。

舞台は日本のどこかの山奥にある片田舎・矢喜原(やきはら)。
若者は隣町にある高校へ進学し、卒業すると村を出ていってしまうので
中学生以下の子どもと中年以上の住民しかいない過疎の村だ。

主人公は中学3年生の住谷はじめ。名前は男みたいだが女の子である。
5月の初旬、同級生の綾子からはじめに電話がかかってくる。
村に〈権三郎狸〉(ごんざぶろうだぬき)が現れたのだという。

それは村に古くから語り伝えれてきた昔話。
かつて村に一匹の狸が現れた。その狸は村人をすべて飲み込み、
口から火を噴いて村一帯を焼き払ってしまったという。
その狸の名が〈権三郎狸〉だ。

矢喜原の住民はみな祖父母の世代から教えられ、知らぬ者はない。
はじめは半信半疑ながら村でひとつだけの旅館へ向かうと、
狸は本当に実在し、そこに ”客” として逗留していた。

身長は1.5mほど、外見は信楽焼の狸の置物にそっくりで
自分の足で ”ずこずこ” と歩く。

 本書のタイトルの「ずこずこ」とは、この狸が歩くときの描写である。
 ちなみに文庫本の表紙イラストは〈権三郎狸〉とはじめさんだろう。

狸自身は人間の言葉を喋らないが、狸にはあかりさんという
謎の美女が同行しており、彼女が狸と人の間を ”通訳” しているようだ。

あかりさんは言う。
「狸は5月30日に村人をすべて飲み込み、村を焼き払います」

村が滅ぶ日まで残された日々は1か月に満たない。
物語は、その間の村人たちの生活の変容を描いていく。

当初はあまりの奇抜さにかえって平静に過ごしていたが
期日が迫ってくるにつれて、次第に不穏さが増していく。
精神の平衡を崩す者、財産すべてを食い物に注ぎ込む者、
密かに村から逃げ出す者、そして抑圧していた願望を解放する者・・・
さらには、村中の空き家に放火をしてまわる者まで現れる。

はじめもまた ”狸” とは無縁でいられない。
狸のせいで始まった騒ぎに姉が巻き込まれ、
さらには友人たちまで奇行に走り始める。

そして、自分を含めた村人たちに ”ある現象” が
起こり始めていることに気づいたはじめは、
ついにある ”決断” をするのだが・・・

信楽焼の置物みたいな狸が村を襲う、なんてほとんど
ギャグマンガの世界だが、序盤はたしかにユーモラスな雰囲気もある。

しかし物語が進行して行くにつれて、けっこうダークな面が現れてくる。
未来のない世界に放り込まれた人間たちの閉塞感と絶望、
むき出しになる欲望、迫り来る終末からの逃避に没頭する人々・・・
タイトルの響きや、狸のユーモラスさとは裏腹な
ホラーなファンタジーとして物語はすすんでいく。

読んでいると、いろいろな結末のパターンが頭をよぎるのだけど
結局のところ私の予想したエンディングはみんな外れ(笑)。

うーん、でもねぇ。
作者の用意したこの結末は、私は好きになれないなぁ。
"怪談" として着地するならこのラストは正解かも知れないが・・・
もちろん、個人的な感想です(笑)。


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空色の小鳥 [読書・その他]

空色の小鳥 (祥伝社文庫)

空色の小鳥 (祥伝社文庫)

  • 作者: 大崎梢
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2018/06/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公・西尾木敏也が東京・蒲田にある
みすぼらしいアパートを訪ねるところから物語は始まる。

訪ねた相手は佐藤千秋という女性。敏也の義理の兄・雄一の
内縁の妻であり、6歳の娘・結希(ゆき)と二人暮らしをしている。

敏也の母・景子は北関東の資産家・西尾木雄太郎の後妻に入り、
母の連れ子だった敏也は前妻の子・雄一と義兄弟となった。

雄太郎は一代で大企業グループを育て上げた立志伝中の人物で、
性格もそれにふさわしく、すべてを自分の意のままにしようとする
傲慢な暴君そのものだった。

雄太郎に反発した雄一は西尾木家を飛び出て千秋と暮らしていたが
職場を探し当てられて連れ戻されてしまい、しかも
千秋たちのことを父に告げる前に不慮の事故で世を去ってしまう。

自分の血を引く後継者を失って落胆する雄太郎をよそに
敏也は千秋の存在を探し当て、さらに彼女が
不治の病で余命幾ばくもないことを知ったのだ。

敏也は千秋の治療費や生活費などの経済的な援助を通じて
彼女の信頼を得て、敏也が結希を養子として引き取ることを承諾させる。

やがて千秋は亡くなり、敏也と結希の二人の暮らしが始まるのだが・・・

こう書いてくると、敏也が打算のみで結希を引き取ったように
思えるだろう。実際、敏也には心に秘めた、ある ”計画” があり、
結希はそのための大事な ”コマ” となるはずだった。

しかし、結希に対する敏也の態度は真摯だ。
衣食住の世話はもちろん、小学校の入学式にも参列するし
仕事も定時で帰って結希の世話をする。

作中の描写を読む限り、100%完璧ではないが、
子育て経験のない独身男ができる範囲の、
精一杯の育児をがんばって行っていること、そして
敏也が結希を十分に慈しんでいることが伝わってくる。

しかしながら、なにぶん男手ひとつのことで
どうしても手が回らないところも出てくる。
そんな敏也に、心強い援軍が現れる。

一人は高校時代の同級生・汐野(しおの)。
れっきとした男性なのだがオネエという今風のキャラ。
しかしなぜか結希は彼になついてしまう。

そしてもう一人は敏也の恋人・亜沙子。
つき合っていながらも「結婚願望はない」「子供もいらない」と
広言していたにもかかわらず、結希を一目見てからは
一転して甲斐甲斐しく世話を焼き始めてしまう。

 この2人、ちょっといい人過ぎると思ったんだけど
 思えば6歳にして母親を失うという
 人生最大の悲運を味わった結希ちゃんなんだから、
 これくらいの幸運の巡り合わせはあってもいいよなぁ、とも思った。

やがて2人は敏也のマンションに転がり込んで、
全く血のつながりのない4人による奇妙な共同生活が始まる。
そのあたりの展開はまさにホームドラマで、
このままの暮らしが続けば結希ちゃんも幸せだろうなあと思わせる。

 中でも、小学校が放課になった後、学童保育へ向かわずに
 どこかへ何かを探しに行ってしまう結希ちゃんを描いた
 「三章 放課後の探し物」の最後の場面は胸に響く。
 本書の中でベストシーンかも知れない。

しかしそんな生活にも終わりが訪れる。
千秋の死から3年が経ち、結希ちゃんが小学4年生になった5月、
敏也が雄一の遺児を引き取って育てていることが
西尾木家の知るところとなり、敏也はいよいよ
”計画” を実行に移すときが来たことを知る。

結希の存在を明らかにすれば、西尾木家の財産を狙う
親族たちの反発は壮烈なものになるだろう。
敏也に、そして結希に向けられる悪意はいかほどのものか。

 この親族連中がまた、見事なまでに欲深な人間ばかりで
 笑ってしまうくらい典型的な ”銭ゲバ” 人間。

結希にとっての静かで平穏な、そして幸せな日々が終わる。
そのことに胸を痛め、罪悪感を覚えつつも
敏也は自分の ”計画” を諦めることができない。

そしてついに、敏也は結希を連れて雄太郎との対面に臨むのだが・・・

敏也の母に関するエピソードも描かれていて
それを読むと、西尾木家に対して彼が抱く感情も理解できる。
とはいっても、それが結希ちゃんを巻き込む理由にはならないが。

読者は敏也に同情しつつも、結希ちゃんの幸福もまた願うだろう。
しかしながら2人が求める、それぞれの ”幸福” は両立しないのだ・・・

主人公の敏也とともに、読み手もまた心の底に
ずっと ”重いもの” を抱えながら読み続けていくことになるのだが、
でも語り手は、そこまでつき合ってくれた人たちを裏切らない。
作者が提示する結末に、多くの読者は納得できるだろう。
このエンディングは実に素晴らしいものだと思う。

続編は無理だと思うけど、短編でも良いから、
何年か後の4人の姿が知りたいなぁ。
そう思わせるくらい、この4人が愛おしくなる。


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甲鉄城のカバネリ [アニメーション]

Netflixにて。2020年の12月上旬。
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舞台はパラレルワールドの日本。
この世界の日本は鎖国をせず、海外から技術を導入していて
蒸気機関と鉄道が実用になっている。


しかし西洋で発生した謎のウイルスが日本にも上陸してきた。
ウイルスに感染した人間は「カバネ」と呼ばれる怪物になってしまう。
いわゆるゾンビだね。強靱な体力を持ち、未感染の人間の血を吸う。
血を吸われた人間は新たに「カバネ」になってしまう。

「カバネ」は日本全土に蔓延し、人間は「駅」と呼ばれる
要塞都市に籠もって生きており、その「駅」同士を結んで
対カバネ用に武装した装甲列車が行き来している。
タイトルの「甲鉄城」は主人公たちが乗る装甲列車の名だ。

「カバネ」ウイルスに感染しても、まれに
「カバネ」の身体能力を持ちながら人の心を失わない、という
不完全な「カバネ化」をする者がいる。それが「カバネリ」だ。

四方川家が収める顕金(あらかね)駅が「カバネ」に襲われ壊滅、
当主の娘・菖蒲(あやめ)は難民を乗せて装甲列車「甲鉄城」で脱出、
首都・金剛郭(こんごうかく)を目指す。

主人公の生駒(いこま)は、顕金駅に住む少年。
「カバネ」の襲撃の中で自らも「カバネリ」となってしまい、
同じく「カバネリ」の少女・無明(むめい)とともに、
装甲列車「甲鉄城」に乗り込み、「カバネ」と戦い続けることになる。

あえて分類すれば、ホラーなダーク・ファンタジーで
スプラッターなシーンも盛りだくさん(笑)。
私は基本的にその手の作品が苦手なんだけど、
この作品は最後まで見られたよ。

まず作画が良い。戦闘シーンがキビキビ動いて気持ちいい。
と思ったら、『進撃の巨人』の監督だった人なのだね。
とくにOPの作画が素晴らしい。これだけでも観る価値があると思う。

あと女性キャラが可愛いのもいい。キャラクター原案は美樹本晴彦。
女性陣は流石の美形揃いで、グロいシーンとの落差がものすごい(笑)。

全12話で、全編ほぼ凄惨なシーンの連続なのだけど、そのぶん
最終話のラストシーンの爽快さは特筆もの。まさに「大団円」だ。

甲鉄城のカバネリ 海門決戦
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これはTVシリーズの続編。上映時間が68分という中編映画だ。

時系列的にはTVシリーズの数ヶ月あと。
内容的には独立したエピソードで番外編的なものなのだけど
主人公の生駒とヒロイン無明の仲がよりいっそう近づく描写がある。
このあたりは本編であまり深く描かれなかったので
その補完なのかも知れない。

さて、ここまででストーリー的には一段落ついているのだが
主人公たちを取り巻く世界は一向に変わっていない。

「カバネ」の発生した原因も、日本に来た経緯も分からなければ
将来的に「カバネ」を殲滅できるような見込みも全く示されない。
もちろん生駒や無明が人間に戻れるかどうかも不明だ。

 まあ、初めからそこまで描くつもりがなかった、って可能性はあるが。

ここまで見せてくれた以上は、彼ら彼女らの行く末が知りたいよねえ。
「カバネ」vs人間 の戦いがどう決着するのかも。

〈シーズン2〉熱烈希望。


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あとは野となれ大和撫子 [読書・青春小説]

あとは野となれ大和撫子 (角川文庫)

あとは野となれ大和撫子 (角川文庫)

  • 作者: 宮内 悠介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/11/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

「アラル海」というものをご存じだろうか。

ヨーグルトで有名な(笑)「カスピ海」というのがある。
ユーラシア大陸の内陸部、中央アジアと呼ばれる場所に位置していて
名前こそ「海」だが、実は日本とほぼ同じ面積をもつ世界最大の湖だ。

私が小中学生の頃、社会科の地図帳を開くと、
その「カスピ海」の東に小さい湖があった。
小さいとはいってもカスピ海と比べるから小さく見えるが
日本の東北地方くらいの面積があった。それが「アラル海」だ。

「あった」と過去形なのは、21世紀の現在、
アラル海はその80%が干上がってしまい、
かつての1/5の面積に縮小してしまっているからだ。

 20世紀半ばから、ソビエト連邦が綿花栽培の灌漑に使うため、
 アラル海へ流れ込む川の水を利用するようになり、
 その結果急激に面積が縮小してしまった。
 これは後に「20世紀最大の環境破壊」と呼ばれるようになる。

前置きが長くなってしまった。
本書は、そのアラル海が干上がってできた土地に建国された
”アラルスタン” という架空の小国家が舞台になっている。

国内には地域紛争に追われて流れ込む多民族の難民とテロ組織を抱え
周囲の国は国土の南部に発見された油田の権益を狙う。
そのような微妙な力の均衡の上に成り立つ国だ。

主人公は日本人少女・ナツキ。
父親はODAでアラスルタンに来た農業技術者だったが
彼女が5歳の時に紛争に巻き込まれて両親は死亡、
ナツキは ”後宮(ハレム)” に引き取られることになった。

そこは、初代大統領の頃は文字通りの ”ハレム” だったのだが、
二代目大統領アリーは、そこを次代の人材養成のための
女子の高等教育を行う ”学校” へと作り替えていた。

ナツキはそこで多くの仲間と共に15年間を過ごし、”卒業” 後は
父のような技術者になって、砂漠に雨を降らせることを夢見ていた。

しかしアリー大統領の暗殺によって情勢は一変する。
反政府組織AIM(アラルスタン・イスラム運動)が蜂起し、
首都マグリスラードへ進撃を開始したのだ。

しかも、国会議員をはじめ国の中枢を占めるメンバーのほとんどが
首都から逃亡してしまうという事態に。

そんなとき、後宮で学ぶ女たちのリーダー・アイシャは
とんでもないことを始めようとする。
なんと、自分たちで「臨時政府」を立ち上げようというのだ。
アイシャは大統領代行、ナツキは国防相に就任してしまうことに・・・

突然、国家権力の空白を埋めることになってしまった少女たちが
次から次へと襲いくる試練を乗り越えて ”国家” を ”運営” していく。
しかし彼女たちの表情に悲壮感はない。
軽やかにしなやかにおおらかに、ぼやきながらも笑顔は忘れない。
逞しく強かに生き抜いていく乙女たちの痛快冒険物語だ。

こういう物語の常だが、登場人物のキャラが見事に立ってる。

主役のナツキ。もともと楽観的な性格なのだろうが、
銃弾や爆撃機が飛び交うような最中でも明るさ元気さを失わない。
まさに、この物語のテーマと雰囲気を体現するお嬢さんだ。

アイシャが立ち上げた臨時政府に参加した仲間の一人、ジャミラは
他人と群れない一匹狼的なところがあるのだが、実は意外な過去が。

アラルスタン国軍大佐アフマドフは、なぜかナツキのことが気に入って
なにかと後ろ盾になってくれる頼もしい大人。

「臨時政府」最初の敵となるAIMの若き幹部・ナジャフは、
過去にナツキと ”ある因縁” でつながっていたことが明らかに。

イーゴリは後宮に出入りする、自称 ”吟遊詩人” だが
裏ではいくつもの顔をもつ謎の男。

そして後宮の ”お局様” 的存在のウズマ。
何かと「臨時政府」を敵視し、裏で何やら画策していて
物語終盤のキーパーソンとなる人物。

個性的かつ多彩なキャラが架空の砂漠の国を舞台に大活躍。
文庫で500ページ近い大作だが、ページを繰る手が止まらない。
楽しい読書の時間を過ごせる一冊だ。


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星系出雲の兵站 (第一部・全4巻) [読書・SF]

全9巻という大長編SF。
前半4巻が第一部、後半5巻が第二部というつくり。
今回は前半の第一部について書く。

星系出雲の兵站 1 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站 1 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/08/31
  • メディア: 文庫
星系出雲の兵站2 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/10/31
  • メディア: 文庫
星系出雲の兵站 3 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站 3 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/01/31
  • メディア: 文庫
星系出雲の兵站 4 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站 4 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/04/26
  • メディア: 文庫
時代は遙かな未来。地球を発した人類の播種船は
ある星系に到達、そこに新たな社会を築いていた。

その星系は ”出雲(いずも)” と名付けられ、
やがてAFD航法(いわゆる ”ワープ航法”)を開発した人類は
近隣の4つの星系、八島・周防・瑞穂・壱岐へ移民を開始、
それらは独立した国家群となり、5つの星系国家による
”人類コンソーシアム” が成立する。
このとき、播種船の地球出発から4000年が経過していた。

伝承によれば、異星人の脅威から人類を守るための
播種船計画だったという。そのため、
人類コンソーシアムの社会機構のいくつかは
異星人による侵略を前提に構成されているものもあった。

出雲星系から20光年離れた壱岐(いき)星系で、人類外文明の
産物と思われる無人衛星が多数発見されるところから物語は始まる。

やがて異星人のものと思われる宇宙船が現れ、
人類は彼らを ”ガイナス” と呼称することになる。

ガイナスは人類側からの呼びかけに一切答えず、
敵対的な行為を繰り返し、壱岐星系外縁を巡る
準惑星・天涯(てんがい)に接近する。

天涯は表面を氷原が覆っているが、地熱による液体の海も存在し、
鉱物資源も豊富な星で、ガイナスはそこを橋頭堡とするつもりのようだ。

第一部では、主に準惑星・天涯の争奪を巡る、
人類vsガイナスの一進一退の攻防戦が描かれる。
地上戦あり、艦隊戦あり、巨大兵器ありと
スペースオペラ・ファンの期待も裏切らない。

異星人の侵略を描いたミリタリーSFとしてひと味違うのは
タイトルにもあるとおり ”兵站” に焦点を当てているところだろう。

異星人との戦いの最前線となる壱岐星系は、
戦争遂行のための兵站の主力とならざるを得ない。

しかしながら壱岐星系の人類社会は能力よりも家柄が幅をきかせ、
男女別姓すら認めない男尊女卑の価値観に染まっている。
当然ながら工業生産的にも非効率極まりない旧態依然とした社会構造。

人類コンソーシアムが異星人との戦争を継続していくためには、
壱岐の社会的改革は避けて通れない。
星系国家・出雲はそれを実現するために画策するが
壱岐から見ればそれは内政干渉であり、
当然ながら改革に対して抵抗する勢力も現れる。

「人類vsガイナス」という ”表の戦い” と
「出雲vs壱岐」という ”裏の戦い” の、
2つのストーリーが並行して語られていくわけだ。

複数の星系にまたがる異星人との戦い、という
壮大なスケールの物語のため、群像劇の形式となっていて
全編を通しての主役というのはいないのだが
第一部でのメインキャラを挙げるとするなら次の6人か。

壱岐星系統合政府筆頭執政官・タオ迫水は
政権No.2なのだが、危機管理委員会の議長に就任、
ガイナスとの戦いでは壱岐星系の全権を握る。
有力家系出身ながら大局的な視点を持つ人物で
出雲星系からの圧力をかわし、壱岐星系の独立を守りながら
社会の改革に取り組んでいこうとする。

五星系によって構成されるコンソーシアム艦隊(いわゆる ”連合軍”)
参謀本部の水神魁吾(みずかみ・かいご)大佐、
軍務局の火伏礼二(ひぶし・れいじ)大佐は士官学校時代からの親友同士。

水神はやがて対ガイナス戦の最前線で指揮を執るようになる。
火伏は壱岐の工業社会をドラスティックに改革していこうとするキャラで
第一部においてはタイトルの ”兵站” の重要性を体現する人物でもある。

女性キャラも強力だ。

シャロン紫壇(しだん)は、降下猟兵部隊の中隊長。
降下猟兵とはいわゆる空挺部隊で、AS(armored soldier)も率いる。
 ASは人型の小型戦車とも言うべきもので
 『装甲騎兵ボトムズ』のATみたいなもの。
準惑星・天涯において、ガイナスの兵士と白兵戦を繰り広げる。

クーリア迫水はタオ迫水の妻。夫と同じく有力家系の出身で
父親のアーロン安久は、壱岐星系の旧体制の権化のような人物。
朽綱八重(くちつな・やえ)は火伏礼二の妻。
元軍人だが実は出雲星系の大企業総帥の娘。
この2人が、それぞれ夫の目的達成を支援するべく
権謀術数の限りを尽くすのも読みどころなのだが、
そのスケールが桁違い。なんと壮大な ”内助の功” であることか。
そして2人とも、夫婦仲は実に円満でラブラブでとってもよろしい(笑)。

彼ら彼女ら以外のサブキャラに至るまでしっかり描いてあって
個性的な登場人物には事欠かないのだけど書き切れない。

各シーンの終わりはほぼ毎回、キャラ同士の会話で締められるのだが
特筆すべきは、そこで交わされる台詞が
ユーモアとエスプリに富んでいて、実に洒落ていること。
いつもここでクスッと笑ってしまう。

さて、ガイナスは人類に対して極端なほど
自分たちの情報を与えないように振る舞っているのだが
幾多の戦いを通じて人類は少しずつ彼らについて知っていくことになり
やがてガイナス兵の意外な ”正体” が明らかになる。

しかし第一部全4巻が終わってもガイナスとの戦いは終わりが見えず、
意思疎通もできず、彼らがどこから来たのか、何を目的としているのか、
どんな社会体制を築いているのか、皆目わからない。
しかし4巻のラストでガイナスの母星系の位置が特定される。

第二部は、その星系へ調査艦隊が派遣されるところから始まる。

やっぱりスペースオペラは面白い。


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攻殻機動隊 SAC_2045 [アニメーション]

Netflixにて。2020年12月上旬ころ。
sac2045.jpg
時代設定は2045年。「SAC」の世界線でつながっているとすれば
「Solid State Society」が2034年だったので、その11年後になる。

全世界デフォルトが発生し、貨幣も仮想通貨もその価値を失い、
これにより世界各国で内戦が勃発している。

公安9課は既に解散してしまっており、
素子やバトーたちはアメリカ西海岸で傭兵となっていた。

一人日本に残り、民間警備会社へと再就職していたトグサは
荒巻からの連絡を受け、公安9課再編のために
旧メンバーを招集すべく奔走する。

再編された公安9課が戦う相手は「ポスト・ヒューマン」。
脳と電脳および肉体の能力が飛躍的に向上した超人とも言うべき
存在で、従来の治安部隊では解決不可能な犯罪を引き起こしていた・・・

シーズン1・全12話の前半では
アメリカでのゲリラ掃討作戦に従事する中、
「ポスト・ヒューマン」に遭遇する素子たち、
そして彼女たちを捜すトグサの動きが並行して語られる。
後半では再集結した9課のメンバーと「ポスト・ヒューマン」との
戦いの始まりが描かれていく。

内容的には、いままでの「攻殻機動隊」の延長上にあるような
電脳犯罪に立ち向かう9課の活躍を描いているのだが
最も異なるのは表現方法だろう。
本作は全編3DCGアニメで描かれているのだ。

一口に3DCGといってもいろいろあって
「蒼き鋼のアルペジオ」や「シドニアの騎士」のように
セルアニメの雰囲気を残した作りのものもあれば
ピクサーに代表されるハリウッド製アニメのように
(意地悪くいえば)ぬいぐるみ/着ぐるみが動いてるみたいなものもある。

本作は後者に近い作りなのだが、私の感覚では
「攻殻機動隊」の世界観と合っていないような気がする。

 私は前者の作りは受け入れられます。
 「アルペジオ」にしろ「シドニア」にしろ、
 作品の雰囲気や特徴に合致してると思うし。

でも、この「2045」はねぇ・・・
タチコマみたいなメカ類はまあいい。
バトーやトグサみたいなおっさんキャラは我慢できる。
でも、素子さんはダメだ。
顔がアップになった時、目はキラキラ、
さらさらの髪の毛が一本一本動くのだけど
なんだかバービー人形が動いてるみたい。

そう思ってみてしまうと、荒巻の髪型まで気になってしまう。
後頭部の周りにソフトクリームがついてるみたいで・・・(おいおい)

ハードな作品世界の雰囲気には合致してないんじゃないかなぁ、と。
あくまで私個人の意見です(笑)。
頑張って作ってる制作陣には申し訳ないのだけど。

 世界展開的にはこの方がいいのかしら?・・・なんて思ってしまう。

ストーリーとしては、これからというところで終わってしまい、
〈シーズン2へつづく〉となってる。

続きは見ます。見るつもりだけど、
やっぱりこの ”つくり” は、作品世界に合わないと思うなぁ・・・


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