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首イラズ 華族捜査局長・周防院円香 [読書・ミステリ]


首イラズ (光文社文庫 お 35-11)

首イラズ (光文社文庫 お 35-11)

  • 作者: 岡田秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/07/12
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 清和源氏の流れをくむ名門・九鬼梨(くきなし)伯爵家の晩餐で、毒殺事件が起こる。その状況から、爵位と財産を狙った殺人と思われた。
 内務省に新設された華族捜査局に異動となった来見甲子郎(くるみ・こうしろう)警部補は、局長となった周防院円香(すおういん・まどか)の指揮の下、毒殺事件の捜査を始める。しかし事態は連続首切り殺人へと発展していく・・・


 明治維新から半世紀。大正の世を迎えた日本では、華族やその一族の中に犯罪に手を染めたりスキャンダルに関わる者が多数現れてきていた。
 事態を重く見た政府は内務省直属の機関・華族捜査局を新設した。

 折しも、清和源氏の流れをくむ名門・九鬼梨伯爵家で事件が起こる。
 九鬼梨本家、そして分家の中でも家格が高く "御三門" と呼ばれる吉松家、上柳家、室城(むろき)家。譜代家臣である中里家、青江家。これら一族が揃った晩餐の席で、中里家の長男・稔(みのる)が毒の入った酒を飲んで死亡する。

 しかし彼が飲んだグラスは現当主・九鬼梨公人(きみと)のものであったことから、爵位と財産を狙った殺人と思われた。
 22歳の公人は独身で子はいない。もし彼が死亡したら、後継は分家の "御三門" の中から選ばれることになる。

 主人公は華族捜査局に異動となった来見甲子郎警部補。辞令をもらった来見は局長に会って驚く。なんと周防院円香という美貌の女性で、しかも公爵位をもつという。しかし女性には爵位の継承権はないはず。夫と死別したようだがそのあたりの経緯は不明だ。

 作中に於いて来見は、この円香さんの大貴族的振る舞いにたびたび振り回されることになる。警視庁に新設された局長室には、トラック3台分の荷物を持ち込もうとするし(当たり前だがそんなに広くない)、午睡用の休憩室や使用人の控室や専用の食堂や浴室をほしがるし、とにかく一般常識との乖離が甚だしい、というか常識というものを持ち合わせていない。
 ミステリのホームズ役は奇矯なキャラが多いけど、円香さんもその例に漏れない。ワトソン役となる来見は、彼女の ”お守り” に苦労することになる。

 もっとも、今回の捜査のために九鬼梨伯爵家に乗り込んだ円香は、屋敷内に円香用の部屋を用意させてしまうことで自分の我が儘を通してしまう。
 伯爵より公爵の方が位が高いから(序列は "公侯伯子男" だからね)九鬼梨家は円香に頭が上がらないし、円香の方も容疑者である九鬼梨一族たちへ遠慮する必要がない。そういう意味では、華族捜査局の長に公爵を置くのは正解なのかも知れない。

 そして円香を迎えて晩餐会が開かれるが、そこで出されたメインディッシュを披露すべく、巨大なクロッシュ(半球型というか釣鐘型というか、料理を覆うカバーのこと)を取ってみたところ、そこにあったのは人間の生首。それは上柳家の長男・寛一郎のものだった・・・


 吉松家の長男・舞太郎はグレて出奔していた。相続からは外されたが、彼の存在は一連の事件の背後に見え隠れする。
 それ以外にも、一族の中には表に出せない複雑な事情が渦巻いており、捜査の進行と共に明らかになっていく。終盤で語られるのはまさに "衝撃の事実" で、本作は大正時代の物語ではあるが、現代にも通じる問題でもある。

 浮世離れした円香さんの突拍子もない言動は枚挙に暇がない。来見はそれらに悩まされつつも、刑事たちを率いて地道な捜査を続けていく。
 そこから得られた情報と、九鬼梨家内で自らが得た見識を組み合わせて、円香さんはきっちりと真相に迫っていく。華族が絡む犯罪に関する限り、彼女の頭脳の回転はすばらしい。

 現在のところ円香さんの活躍する作品はこれ一作のみだが、ぜひ続編を読ませてほしいなぁ。円香さんが公爵位を継げた理由とか、亡夫はどんな人だったのかとか知りたいことは多い。
 最初は円香さんのことを持て余していた(笑)来見が、事件を通じて彼女に次第に惹かれていってしまうところも面白く、この二人のその後も知りたいと思わせる。



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