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雨を告げる漂流団地 [アニメーション]


 映画館とNetflixでの同時公開。
 映画館で観たかったのだけど、諸々の事情で配信での視聴となった。

danchi.jpg

 まずは内容紹介。


 小学6年生の航祐(こうすけ)と夏芽(なつめ)は、同じ団地内で姉弟のように家族ぐるみで育ってきた幼馴染だ。
 しかし、航祐の祖父・安次の死をきっかけに2人の仲はギクシャクし始める。

 かつて2人が暮らし、思い出の詰まった団地は老朽化のため取り壊しが決まり、「おばけ団地」と呼ばれる ”廃墟” となっていた。
 夏休みのある日、航祐はクラスメイトとともに「おばけ団地」に忍び込む。そこで思いがけず夏芽と遭遇し、謎の少年・のっぽの存在について聞かされる。

 その直後、「お化け団地」に入り込んでいた航祐と夏芽を含む6人のクラスメイトたちは、謎の現象に巻き込まれてしまう。

 彼らが見たのは「お化け団地」が海上を漂流している光景だった。波をちゃぷちゃぷかき分け、雲をすいすい追い抜いていく ”ひょっこりひょうたん島” 状態になっていて・・・。
 この例え、分からない人が多そうだなぁ(笑)。

 はじめてのサバイバル生活のなかで子どもたちは力を合わせ、もとの世界に戻るための旅に出る・・・


 航祐と夏芽を含む6人は同じ小学校に通う顔なじみなのだけど、そこに ”異分子” の存在が加わる。
 彼らの前に現れた7人目の小学生で、夏芽が ”のっぽくん” と呼ぶ少年だ。彼もまた、団地で暮らしていたのだというのだが、航祐には彼を見かけた記憶がない。いったい、何者なのか・・・?


 物語は、この7人だけのシーンが大半を占める。生き残るためのサバイバル場面と、”のっぽくん” の正体を巡る疑惑がストーリーの両輪になる。

 ラストでは彼の正体とともに、6人が放り込まれた ”漂流空間” の意味(映画の中で具体的な説明はないが、感覚としては理解できる)も明かされる。

 航祐と夏芽の間にあったわだかまりも消え、協調性に乏しかった6人も結束を高めていく。特に、序盤では頑なで一匹狼的だった航祐が、次第にリーダーとして行動するようになっていく変化は目覚ましい。

 過酷な経験を通し、それぞれがちょっとずつ成長した姿で ”元の世界” への帰還を果たす。このエンディングは必然かつ正解。ジュブナイル作品としては王道展開といえるだろう。


 ・・・なのだけど、終わってみて思った。2時間はちょっと長いかな、と。

 実際、途中で何回か時計を見たり、(配信だからできることだけど)残り時間を確認して「まだこんなに残ってるんだ」って思ったり。
 映画館で観ていたら、かなり辛かったのではないかと思う。

 大人がほとんど登場しないので、必然的に子どもたちだけで物語を回していくことになる。6人のこどもたちは一枚岩ではなく、他のメンバーに対して露骨に嫌悪感を表す者もいる。
 ”物語” である以上、波乱要素は必要で、ある意味 ”お約束の展開” だとわかってはいるのだけど、観ていてちょっとうんざりしなくもない。こどもたちだけだったら、こうなっちゃうよなぁ、と頭で分かってはいるのだが・・・

 ほとんどのシーンが団地の屋内(+屋上)なので、風景(背景)の変化が小さいのも、刺激が乏しい理由のひとつかな。
 そして、途中で(小さいイベントはちょこちょこ起こるものの)ストーリーを大きく動かすような転換点がないまま進んでいく。

 そんなこんなで、私には中盤部がいささか冗長に感じられた。

 ”のっぽくん” の正体についても、けっこう早めに見当がついてしまう。でもまあ、製作側もあえて隠そうとはしていないみたいだし。

 もう少し刈り込んで、90分くらいに収めた方が観やすい映画になったんじゃないか、とも思ったし、(”大人の事情” か何かで)もしも2時間という長さが必要なんだったら、何かプラスアルファの要素があったほうがよかったんじゃないかなぁ・・・とも思った。素人の浅知恵ですが・・・

 声優陣については、専業の人が起用されていて、各キャラクターの演技には全く不安を感じない。いわゆる「有名芸能人」を引っ張ってきていない点は好感がもてる。


 本作のターゲットは、どんな年齢層なんだろうって考えてしまった。主人公たちと同年代かちょっと上くらいの10代~20代かな。それとも、”12歳” という年齢にノスタルジーを感じるような、もっと上の世代かなぁ・・・。


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樹海警察2 [読書・ミステリ]


樹海警察2 (ハルキ文庫)

樹海警察2 (ハルキ文庫)

  • 作者: 大倉崇裕
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2022/04/15

評価:★★★

 主人公はキャリア警察官・柿崎努。
 警察大学校で初任幹部科教育を終え、現場経験を積むために山梨県警上吉田署という辺鄙な場所へ赴任した。

 しかしそこは青木ヶ原樹海担当の部署だった。
 職務はもっぱら、樹海で発見される死体の処理。しかし、自殺体がほとんどの中にあって、ときには不審な死体もある。

 生真面目な柿崎が、栗柄(くりから)・桃園(ももぞの)という一癖も二癖もある部下たちとともに、樹海に潜む犯罪を暴いていく、ユーモア・ミステリーだ。

 本書は三話構成。いちおう一話完結なのだけど、物語のバックボーンは共通していて、緩やかにつながったひとつの長編としても読める。


「第一話 柿崎努の冒険」
 甲府市内で殺人事件が起こる。被害者は薬物の売人をしていたらしい。友人の三叉(みつまた)という男が容疑者として浮かぶ。
 しかしその三叉の死体が、樹海内にある溶岩洞窟のひとつ、富士風穴の中で発見された。洞窟内で転んで頭を打った事故死と思われたのだが・・・

「第二話 柿崎努の推理」
 福西、辻村、川北は大学の探検部の同期生だった。卒業後も毎年、青木ヶ原樹海の探検に繰り出してきた。しかしそれも10年目となり、それぞれの境遇も変化してきたこともあって、今回で打ち切りと決めていた。
 夜になると福西と辻村は民宿に泊まり、川北は樹海内に張ったテントで過ごすのが常だったが、その朝、目を覚ました2人は辺り一面の雪景色に驚く。
 テントの様子を見に行った2人は、喉をナイフで切られた川北の死体を発見する。そして現場の状況から、犯人の逃走は不可能と思われたのだが・・・
 ”樹海での不可能犯罪” という設定が面白い。いつも真相解明というオイシイ部分を栗柄と桃園に持っていかれてしまう柿崎君なのだが、今回は頑張って推理するのも楽しい。

「第三話 柿崎努の逃亡」
 河口湖駅ちかくのホテルの一室で、他殺死体が発見される。被害者は参議院議員・岸島

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ゴジラS.P [アニメーション]


ゴジラ S.P<シンギュラポイント> (ジャンプジェイブックスDIGITAL)

ゴジラ S.P<シンギュラポイント> (ジャンプジェイブックスDIGITAL)

  • 作者: 円城塔
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2022/07/26
 2021年4~6月にかけて全13話が放映されたTVアニメのノベライズ・・・って言い切ってしまうのに、ちょっとためらいを感じる小説版。

 まあ、そのへんは後で書くとして、アニメ版の感想は2021年7月に記事をアップしてる。

 ストーリーのおさらいをしておくと、


 舞台は2030年の千葉県逃尾(にがしお)市。

 主人公・有川ユンは、そこにある町工場「オオタキファクトリー」で働くエンジニア。誰も住んでいないはずの洋館に気配がするということで調査へ向かうことに。
 もう一人の主人公・神野銘(かみの・めい)は、空想生物を研究する大学院生。
指導教授の代理で、逃尾市にある電波管理施設 “ミサキオク” で受信された謎の信号の調査へ向かう。

 まったく違う調査で、まったく違う場所を訪れた見知らぬ同士の2人は、それぞれの場所で同じ歌を耳にする。
 その歌は2人を繋げ、世界中を巻き込む想像を絶する戦いへと導いていく。

 孤高の研究者が残した謎、各国に出現する怪獣たち、紅く染められる世界。
果たして2人は、人類に訪れる抗えない未来<ゴジラ>を覆せるのか―。


 ストーリーのおさらいはここまで。
 もう少し捕捉しておくと、


 「ゴジラ」といえば ”放射能” が代名詞なのだが、本作ではオミットされている。その代わりとして設定されているのが ”アーキタイプ” という仮想物質。
 構造計算上では安定して存在するはずの分子なのだが、人間の手で合成することは不可能で、しかも通常の物理法則を超えた性質を持つというトンデモナイ物質だ。

 タイトルの「SP」とは singular point の略で、作品中では ”特異点” と呼称される物理現象のこと。
 ”特異点” は ”こちらの世界” と ”アーキタイプの存在する世界” をつなぐ、いわばトンネルのようなもの。
 ラドンやアンギラス、そしてゴジラなどの怪獣も、”特異点” から発生し、こちらの世界を ”浸食” してくる。
 怪獣たちは ”アーキタイプ生態系” とも呼ぶべき世界に属する存在で、”我々の生態系” に対して、作品内で ”覇権争い” を繰り広げることになる。
 ”アーキタイプ生態系” が勝利してしまったら、人類の滅亡はもちろん、通常の物理法則が支配する世界自体が消滅してしまうかも知れない・・・

 その破滅を回避すべく、有川ユンや神野銘をはじめとする多くの人々がゴジラの、そして ”特異点” の脅威に立ち向かっていく。

 捕捉はここまで。


 著者はアニメ全話の脚本を担当したSF作家・円城塔。彼の小説は、(私には)非常に難解に感じるものばかりなんだけど、本書は大丈夫でしたよ。
 やっぱりアニメで一度は映像として頭に入ってるので、理解しやすくて楽しく読むことができました。


 さて、冒頭で「ノベライズと言い切るにはためらってしまう」と書いたのは、これが通常の小説化とはいささか異なるから。

 一口にノベライズと言っても玉石混淆で、あらすじをなぞっただけのような手抜き作品も過去に読んだことがある。
 逆に、ストーリーはもちろん、映像では追えなかったキャラの心情や背景をていねいに書き込み、単独の ”小説” としても成立するような良心的な作品ももちろんある。

 では、本書はどちらか。実はどちらでもないのだ。

 本書は、読者が既にアニメ版を観ていることを前提に、本編のストーリーはほとんど追ってない。
 その代わり、部分部分のシーンの裏側や、そのとき他の場所で同時進行していた事態や、そのときそのキャラが考えていたこと、抱えていた事情、そしてアニメ版では明かされなかった諸々の設定などが詳細に記述されていくのだ。
 いわば本編の ”舞台裏” を延々と語っていくようなつくりになっている。

 語り手も三人称だったり一人称だったり、章ごとに変わる。その一人称も、人間ならまだしも、AIが語り手になったり、時には ”怪獣視点” で語られる章まで存在する。

 そういう意味では、映像では欠落していた(入りきらなかった)部分、映像にするとかえって冗長になってしまう部分の書き込みは十二分に行われている。
 アニメ版を観た人からすれば、補完情報が豊富で嬉しいプレゼントだろう。

 私にとっての最大の関心事は、アニメ版最終話の ”あの展開” がどう描かれるか、だった。あまりにも ”予想の斜め上過ぎる事態” の発生に、驚いたり戸惑ったりした人は少なくないと思う。

 そのあたりは本書を読んでもらうとして、ノベライズの中で明かされるアーキタイプの特性や、作品世界の ”裏設定” を知っていくにつれ、「何が起こっても驚かない」ような気になってくる(笑)のが不思議だったよ。
 うまく丸め込まれたような気がしないでもないが(おいおい)。←褒めてます。


 このように、アニメ版を観た人には楽しみが尽きない出来ゆえに、未視聴の人には極めて不親切なつくりになっている。いきなり本書を読んでも、ほとんど内容を理解できないだろうし、ストーリーを把握することさえ困難だろう。

 アニメ版を観た人には、オススメの本といえる。

 観てない人は、まずはアニメ版を観ましょう(笑)。ネット配信ならいつでも観られる。ちなみに私は Netflix で視聴しました。
 あの『ゴジラのテーマ』を新録したBGMも流れるし、ゴジラファン、怪獣ファン、SFファンなら、観て損はない出来だと思いますよ。



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マーダーハウス [読書・ミステリ]


マーダーハウス (実業之日本社文庫)

マーダーハウス (実業之日本社文庫)

  • 作者: 五十嵐 貴久
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2022/04/08
評価:★★

 主人公は一浪の末に大学に合格し、新潟から鎌倉にやってきた藤崎理佐。
 ネットで見つけたシェアハウス「サニーハウス鎌倉」は、交通の便は悪かったが、高級別荘のような外観と内装設備、格安な家賃の魅力に惹かれ、彼女はそこに住むことを決める。

 既に居住していたのは、大学を留年している中田和彦・23歳、チャラ男のフリーター綿貫信也・26歳、看護師の遠山英美(えみ)、体育大学3年でレスリング部の鈴木勘太郎、ウェブデザイナーの永松洋子・27歳、女子大2年の太田麗奈、文具メーカーの営業マンの羽佐間は28歳。この7人がシェアハウスの仲間だ。

 理佐は個性的なメンバーたちとともに、楽しく充実した日々を過ごしていくが、ある日、住人の一人が事故死を遂げる。さらに「2人で暮らすことにしたのでハウスを出る」という伝言を残して、男女の住人が姿を消してしまう。

 立て続けに住人が減っていく事態に不安を感じた理佐は、高校時代の同級生で長野県の大学に進学した高瀬広に相談を持ちかけるのだが・・・


 さぞかし怖い話なのだろうと思って読み始めたのだが、住人が減っていく不気味さはあるものの、さほど暗くはなく、普通のサスペンスに近い雰囲気で進んでいく。そこにすっかり油断させられてしまったのだが・・・

 ネタバレになるのでもう書かないけど、結末の意外さはもちろん、終盤の ”ホラー度” は半端ではない。ただまあ、私はこの手の話はやっぱり好きになれないので星は少なくなってしまいました。

 好きな人には ”タマラナイお話” なのだろう、とは思いますが・・・



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沈黙のパレード [映画]

parade.jpg
まずは公式サイトのSTORYから引用。


 天才物理学者・湯川学(福山雅治)の元に、警視庁捜査一課の刑事・内海薫(柴咲コウ)が相談に訪れる。
 行方不明になっていた女子学生が、数年後に遺体となって発見された。内海によると容疑者は、湯川の親友でもある先輩刑事・草薙俊平(北村一輝)がかつて担当した少女殺害事件で、完全黙秘をつらぬき、無罪となった男・蓮沼寛一。
 蓮沼は今回も同様に完全黙秘を遂行し、証拠不十分で釈放され、女子学生の住んでいた町に戻って来た。
 町全体を覆う憎悪の空気…。 そして、夏祭りのパレード当日、事件が起こる。蓮沼が殺された。
 女子学生を愛していた、家族、仲間、恋人…全員に動機があると同時に、全員にアリバイがあった。そして、全員が沈黙する。
 湯川、内海、草薙にまたもふりかかる、超難問...!
 果たして、湯川は【沈黙】に隠された【真実】を解き明かせるのか...!?


 原作は既読です。それについての記事も2021年12月6日にアップしてます。ミステリとしての感想は小説版の記事のほうに当たっていただいて、ここでは映画の評価について書きます。

 結論から言うと、私はとても満足しました。ストーリーも真相もすべて知っていた上で観たのですが、それでも最後まで楽しめました。

 やはり映像の力というのは凄い。小説を読みながらで、頭の中で思い描いていた場面が、想像どおりの、あるいはそれを超えた形で目の前に展開されていくのは快いものです。

 冒頭、14歳の並木沙織が夏祭りのステージで歌い出すシーンから、もう目が潤んでしまいましたよ。この数年後、彼女が辿る運命を思ったら・・・

 主な舞台となるのは、沙織の両親(飯尾和樹・戸田菜穂)が経営する定食屋「なみきや」。その店に集い、看板娘だった沙織を幼い頃から慈しんでいた仲間たちを演じる田口浩正、吉田羊、高垣智也、椎名桔平、檀れい。そして彼らの憎悪を一身に集める蓮沼を演じる村上淳。その他の端役に至るまで、ハズレのキャストは一人もいないと思いました。

 そして、”運命の時” となる菊野市夏祭りパレード。大量のダンサーにエキストラ、この撮影のために用意されたと思しき山車の数々。さすが人気シリーズだけのことはあって、予算もかけたのでしょう。TVドラマとはスケールの違いを感じさせます。

 主演は福山雅治と柴咲コウなのですが、この2人を押さえて、北村一輝の熱演が光ります。過去の事件を解決できなかった悔い、それによって新たな事件を呼び起こしてしまった自責の念。
 徹頭徹尾、悩み苦闘し続ける草薙刑事を演じた彼こそ、この映画の影の主役と言えると思います。

 飯尾和樹もよかったですね。娘を殺された父親・並木祐太郎の悲哀を、ギャグ要素ゼロで演じきりました。彼のことを知らない人は、誰もお笑い芸人だとは思わないでしょう。
 祐太郎の親友・戸島修作役の田口浩正も存在感がありました。オッサン俳優が頑張る姿は嬉しいものです(笑)。

 それ以外の主要な登場人物たちも、決して少ない数ではないのに、それぞれの感情をうまく掬い上げ、各自にそれぞれ見せ場が用意されています。監督と脚本の ”交通整理” も、尋常でなく達者です。

 ただ、終盤で明らかになった真相が、さらに二転三転するあたりは、原作未読の人にはわかりにくいかも・・・とは思いますが。


 さて、上に書いたように私は満足したのですが、ネットの評価は必ずしもそうではないようで、けっこう低評価の人がいます。
 まあ、価値観は人それぞれですから、それはそれでかまわないのですが、低評価にはそれなりの理由がいくつかありそうです。

 そのひとつが、「『ガリレオ』っぽくない」というもの。
 湯川が事件解決のために実験をするシーンが少ない、真相に閃いて数式を書き殴るシーンがない、などですね。

 私見ですが、これは『ガリレオ』シリーズの短編と長編の違い、そして作品内での ”時間の流れ” から来るものが大きいように思います。

 短編では、大がかりな物理トリックを中心に据えて物語が構築されます。ちょっと意地悪く言えば ”一発芸” 的な。それを解明するために、湯川による検証実験が行われ、解決に至る。ある意味単純なんだけど、そこが面白い。
 ですから1時間で完結するTVドラマ向きなのだと思います。

 長編では、物理トリックだけで支えるにはちょっと駒が足りない。そこで登場人物の人間ドラマや、ストーリー展開の意外性など、複数の要素を付け加えて引っ張っていく。短編とはかなり構造的に違いがあると思います。ですからTVドラマのような雰囲気を期待すると当てが外れる、ってことが起こるのでしょう。

 実際、この作品では ”大がかりな物理トリック” は使われていません(あの殺害方法は充分に ”大がかり” だよって、感じる人もいるかとは思いますが)。
 ですから湯川も、大々的な実験は行う必要もない。ゆえに数式を書くこともない。でもその代わり、湯川は ”犯人” の心の内を深く推し量ることで、真相に到達していきます。
 だったら「探偵役は湯川である必要はない」って意見も出てくるかも知れませんが、”それは言わない約束” でしょう(笑)。

 そして、『ガリレオ』の世界は ”サザエさん時空” ではありません。
 今作の湯川は助教授(准教授)から教授へと ”出世” し、内海刑事も既に新人ではありません。2人の間にエキセントリックなシーンが減り、ある程度の落ち着きが感じられるのは作品内でも時間が経ったということなのでしょう。ついでにいえば、草薙も係長へと昇任しています。
 15年前のTVドラマのような湯川と内海の威勢のいい掛け合いを期待していた人は、ちょっとがっかりしたのかも知れません。

 上にも書きましたが、本作は福山雅治と柴咲コウを観る映画というより、北村一輝と飯尾和樹(+多彩な脇役陣)を観る映画です。
 原作から改変されている部分もありますが、映画化のためには必要かつ効果的な変更だと感じました。そしてなおかつ、原作を読んだ人間に違和感を感じさせないつくりに仕上がっているのは流石です。

「ミステリ小説の映画化」という点では、ベストな出来ではないかと思いました。


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真実はベッドの中に [読書・ミステリ]


真実はベッドの中に (双葉文庫)

真実はベッドの中に (双葉文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2022/03/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 6作収録の短編集。共通して登場する人物もいないし、舞台もそれぞれ異なる。連作短編集というわけではないのだけど、統一したテーマは存在してる。それは ”官能” だ。


「待っている間に」
 ある企業の社員6人が、京都の保養所に集められた。極秘裏に、ある機器を開発するためだ。しかし保養所の中でメンバーの一人が殺されてしまう。6人の中の田原と沙耶は不倫の関係。犯行時刻には情事の真っ最中で、お互いにアリバイがあったのだが・・・

「相互確証破壊」
 江見(えみ)と和沙はダブル不倫。江見はラブホテルでの情事を毎回ビデオに撮り、そのデータのコピーを和沙に渡していた。お互いの家庭を破壊する情報を、お互いに持ち合うという、”相互確証破壊” の状態にするために・・・
 ちなみに ”相互確証破壊” とは、相手の国を滅亡させる量の核兵器を持ち合う国家同士がお互いに睨み合う状態を表現した、冷戦時代の政治用語。

「三百メートル先から」
 大学生の由眞(ゆま)の兄・倫典(みちのり)はひきこもりだった。しかしある夜、窓越しに銃撃を受けて殺害されてしまう。しかも300mも彼方からの狙撃で。由眞の恋人・晴仁(はるひと)は、倫典の幼馴染みだった。由眞は彼のアパート上で、恋人に抱かれながら兄の死について推理を巡らすが・・・

「見下ろす部屋」
 OLの芽依(めい)は、会社の上司・寺谷と不倫をしている。彼が名古屋の支店長に栄転したあとも関係は続いていた。月に一度の支店長会議のために上京する寺谷と、駅のホームと線路を見下ろすことのできるホテルの部屋で逢っていたのだが・・・

「カントリー・ロード」
 深夜の第一京浜。福岡へ帰郷する途中の五十嵐は、広島へとヒッチハイク中の美結という女性を拾う。金を節約するために高速は使わず、”下の道” をゆっくり進む五十嵐。一方、美結の方もほぼ無一文に近かった。彼女は ”代償” として五十嵐に抱かれることになるのだが・・・

「男の子みたいに」
 梨穂(りほ)が男装することを、恋人の浅野は喜んでくれる。情事の時も服を全部は脱がさずに梨穂を抱く。「なぜ男装をさせるのか?」梨穂はルームメイトの麻里奈と ”愛を交わし” ながら、疑問の答えを探すのだが・・・


 本書のどの作品にも、いわゆる濡れ場、セックスシーンがある。もちろんそういう部分が好きな人もいるだろうし、私も嫌いではない(おいおい)。

 でもこの短編集でのそれは、物語の味つけとしてだけではなく、ミステリを構成する要素として存在する。物語の伏線だったり、犯行の動機になったり、真相解明のきっかけになったり、あるいはセックスそのものが謎の中心として設定されたりと、使われ方はそれぞれだけど。

 石持浅海という作家さんは、今までいろんな作品を描いてきたけど、引き出しが多い人なんだなあということを改めて思った。



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新任巡査 [読書・ミステリ]


新任巡査(上) (新潮文庫)

新任巡査(上) (新潮文庫)

  • 作者: まほろ, 古野
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/02/28
  • メディア: 文庫
新任巡査(下)(新潮文庫)

新任巡査(下)(新潮文庫)

  • 作者: 古野まほろ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/08/16
  • メディア: Kindle版
評価:★★★★

 舞台は架空の地方・愛予(あいよ)県。人口も多くなく、従って警察官の人数も少ない、小規模警察となっている。

 そこの警察学校を卒業した2人の新人警官、上原頼音(らいと)、内田希(あきら)が主人公となる。
 ちなみに上原は警察学校での成績は中くらい。単純だが実直、自分なりの理想の警察官を目指す熱血漢だ。
 一方、女性の内田は2位の席次で卒業している優等生だ。冷静沈着で、作中では「コンピュータ」に例えられるくらい、感情を見せない。というか感情そのものが欠落しているようにも思える。彼女がそういう人格になった理由は作中で明かされるが・・・

 2人はそろって県庁所在地にある愛予警察署への配属となり、上原は愛予駅東口駅前交番、内田は同西口交番で研修に入っていく。

 文庫で上下巻合わせて870ページという大部なのだが、上巻約430ページは上原の一人称で語られる。
 警察学校での出来事、そして 卒業式 → 署への着任 → 独身寮 → 初出勤 と続き、彼の勤務実習の状況が綴られていく。

 とにかく交番勤務は過酷だ。出勤するとそのまま24時間勤務となる(もちろん交代で非番の日はあるが)。
 交番の前に立って周囲を見る ”立番”、受け持つ区域の住宅を廻って様子伺いをする ”巡回連絡”、勤務中は常に身につけている無線通信機の使い方、そして何より交番の中ではいちばんの下っ端なので出前の注文はもちろん雑事万端が降りかかってくる。

 しかしそんな、十年一日のようにも思えるルーチンワークには、実はとんでもない ”深い意味” が込められていることを上原は知っていく。
 道を尋ねに来るなど、交番へやってきた一般人への対応にだって、必ず守らなければならない決まりがあったりする。
 交番に届けられた落とし物にも、拾い主への確認事項や作成する書類などの処理の流れには、素人には窺い知れない ”驚きの理由” が潜んでいる。

 上原は、最初は全くそのあたりを理解しないで職務に就いているのだが、そこを教育係の先輩警官にどやされる。そこで改めて雷を落とされた理由を説明されるのだが、そこがまた「そ、そうだったのか・・・!」
 上原と一緒に ”目から鱗” を連発しながら、読者は新人警官の生活を ”経験” していくことに。

 冗談抜きで、本書を読んだあとは交番にいる警察官を見る目が変わること間違いなしである。同時に、彼らの ”目に見えない不断の努力” によって、地域の治安が守られていることを思い知るだろう。

 下巻に入ると、描写は三人称になり、上原の同期の新人・内田が主役となる。
彼女は教育係の先輩警官とともに、”職務質問” の実地研修を積んでいくことになる。これもまた ”実に深い” んだけども・・・

 このあたりまでは、まさに新人巡査が直面する様々なトラブルを描いた ”お仕事小説” の趣。
 もしこのまま終わってしまっても、読者は全く不満に思わないだろう。「警察の知られざる内幕を描いた面白い小説だったなぁ・・・」って満足しながら本を閉じることができる。
 作者は交番勤務を皮切りに、最後は警察大学校の教官まで務めた人だからね。リアルさでは比類がない。

 しかし本書はそれだけでは終わらない。描かれてきた ”2人のお仕事” の中には、無数の ”伏線” がばらまかれているのだ。

 愛予署管内では、少女連続行方不明事件が起こっており、終盤の約300ページでは、上原と内田がこれに巻き込まれていくことになる。
 それまでの500ページ以上に渡って、上原と内田の新人研修の日々の描写が延々と続いてきたのだけど、この部分があるおかげで終盤のサスペンスが大いに盛り上がるという仕掛けにもなっている。

 ネタバレになるので詳しく書けないけど、明かされる真相は実に意外で、驚く人も多いだろう。



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ベルリンは晴れているか [読書・ミステリ]


ベルリンは晴れているか (ちくま文庫)

ベルリンは晴れているか (ちくま文庫)

  • 作者: 深緑野分
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2022/04/22
評価:★★★★

 ナチス・ドイツが無条件降伏して2ヶ月後の、1945年7月。

 敗戦後のドイツはイギリス・アメリカ・フランス・ソヴィエト連邦の4ヵ国による分割統治状態になっていた。首都ベルリンも同様に、4つの管理地区に区切られていた。

 主人公のアウグステは17歳のドイツ人少女。戦時中に身寄りを失ったが、自身は終戦前後の混乱を生き延び、今はアメリカ軍の軍用食堂で働いている。

 ある日、彼女はソヴィエトの管理区域へと連行されてしまう。そこで待っていたのは内務人民委員部(秘密警察で、KGBの前身)のドブリギン大尉だった。

 音楽家のクリストフ・ローレンツが変死したのだという。青酸カリを仕込まれた歯磨き粉によって。
 クリストフとその妻フレデリカは、戦時中にはナチスからの迫害者を匿っていた。アウグステも2人の世話になったことがあり、恩人だった。
 しかし犯人としてアウグステの名を挙げたのはフレデリカだった。

 身の潔白を訴え、釈放されたアウグステはフレデリカから謝罪され、その夜はローレンツ家に泊まる。そこでアウグステは、クリストフの死の直前にフレデリカの甥・エーリヒが姿を見せていたことを聞く。

 翌日、再びドブリギン大尉の前に引き出されたアウグステ。彼もまた、エーリヒへの疑惑を持っていた。
 アウグステは大尉からエーリヒを見つけ出すように命令される。彼女は反発を覚えながらも、彼にクリストフの訃報を伝えるために承諾する。

 元俳優で泥棒で捕まった男・カフカを相棒に、ベルリンから30km離れたバーベルスベルグへと向かうことになるのだが・・・


 文庫で約510ページという大部。内容は「本編」と「幕間」が交互に挟まれていく構成。

 「本編」は上に書いたように終戦直後のベルリンから隣町へ人捜しに行き、その途中で様々なアクシデントに遭遇するという ”ロードノベル”。
 移動の距離自体は大きくないのだけど、2人の旅は実に多難で、アウグステとカフカは多くの人たちとも出会っていく。

 「幕間」はアウグステの誕生から始まって終戦に至るまでの ”過去編”。
 ナチスが台頭し、独裁体制から戦争突入。圧迫される市民生活、ユダヤ人への差別そして虐待の様子が描かれていく。

 戦時中のドイツの様子はいままで多くの小説や映画で描かれてきたと思うのだけど、本書のいちばんの読みどころは、”終戦直後のベルリン” の様子が描かれていること。これはあんまり例がなかったんじゃないかな。

 「本編」はアウグステの一人称で語られるのだけど、読んでるとまさに1945年7月のベルリンの街を歩いているような感覚になる。それだけ微に入り細を穿つ描写が、これでもかとばかりに続いていく。まさに圧倒される思いだ。
 おそらく膨大な量の資料に当たったんだろうと推察するが、単なる事実の羅列に止まらず、”人の生活” が感じられるように描かれているのは、作者の ”消化能力” が桁外れなのだろう。

 日本での敗戦後の様子はいろんな作品で描かれてきてる。最近は減ってきたけど、8月になると毎年のように特集や、戦争を描いたドラマがTV放送されたりしてたからね。
 だけど終戦後のベルリンは日本のそれとはかなり異なる印象を受ける。歴史的背景とかも異なるのもあるのだろうけど、いちばん大きいのはやはり4ヶ国による分割統治かな。他の区域への移動も不自由だし、この時点でも東西対立は既に発生していて、ソ連の管理区域は他の地域とは隔絶していたようだ。

 ヒロインのアウグステ、胡散臭い相棒のカフカ、”敵役” となるドブリギン大尉、その部下のベスパールイ軍曹など、主要な登場人物にはみな隠された裏の顔があり、物語が進むにつれて次第にそれが明らかになっていく。

 本作はミステリであるから、終盤ではアウグステを送り出したドブリギン大尉の思惑も、クリストフ殺害の真相も判明する。

 だけど、何といっても敗戦で廃墟となったベルリンの街と、そこで強かに生き抜いている人々の ”存在感” こそ、本書の ”真の主役” なのだと思う。



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神とさざなみの密室 [読書・ミステリ]


神とさざなみの密室(新潮文庫)

神とさざなみの密室(新潮文庫)

  • 作者: 市川憂人
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/02/28
評価:★★★★

 主人公・三廻部凜(みくるべ・りん)は女子大生。学業の傍ら、左翼系政治団体「コスモス」に所属し、政府への抗議活動に参加する日々。しかし、果たして自分たちの ”声” が一般市民に届いているのか、不安を覚えていた。

 ある夜、大学の女子寮にいた凜は団体のリーダー・神崎京一郎から呼び出される。しかし、そこから先の記憶が欠落してしまう。

 意識を取り戻したとき、彼女はいずことも知れぬ暗い部屋の中にいた。両手首を頭上に縛られた状態で。

 もう一人の主人公は、渕大輝(ふち・だいき)。アイドルに入れ込む傍ら(笑)、右翼系政治団体「AFPU」に所属し、こちらもデモ活動に参加していた。

 その日のデモの ”打ち上げ” を終えた後、秋葉原のアニメショップを回っていた大輝は、団体のリーダー・鏑木圭の姿を目撃するが、彼もまたそこから先の記憶が途切れてしまう。

 監禁された身に恐怖を覚えていた凜のまえに、隣の部屋との扉が開き、若い男が現れる。それは大輝だった。彼もまた、何者かによってこの場所に拉致されてきていたのだ。

 そして2人の間には、顔を焼かれた男の死体が横たわっていた・・・

 2人のいる場所は厳重に施錠されており、この二つの部屋以外に行き来はできない。もちろん外へ出ることもできない。
 思想的に相容れない2人なので、当然ながら険悪な関係に陥ってしまう。しかしここから脱出するためには、お互いの情報を持ち寄り、さらには協力し合わなければならない。

 2人の監禁はある意味不完全。なぜなら2人のスマホは ”没収” されていなかったのだ。しかし、警察に知らせると殺人容疑が2人にかかり、ひいては自分たちの所属する団体が疑われてしまう。
 2人はそれぞれの ”仲間” と連絡をとり、事態の打開を図るのだが・・・。


 ミステリ要素については、申し分ない。冒頭での監禁状況に始まり、次第に深まる謎とサスペンスを通して、意外な真相と犯人に至るまで、流石の出来だ。
 探偵役の設定もユニークだが、これは読んでのお楽しみだろう。


 しかし、ミステリ要素と並んで本書を大きく特徴づけているのは、主役2人に象徴される「民主主義」をめぐる思想的な対立だ。

 2人が拉致されてきた部屋の中で繰り広げる、あるいは作中あちこちで語られるのが、いわゆる ”保守vsリベラル” の非難合戦。
 まあその内容は、ワイドショーのコメンテーターが口にしたり、ネットニュースでのコメントにあるようなものが大半なので、特に目新しくはない。

 作者もどちらに肩入れするというわけでもないようだ。両方に対して批判的な指摘もしているし。
 強いて言えば ”リベラル” にやや軸足を置いてるようにも思えるが、だからといって ”右の人” が読んでも不快になるほどのことはないだろう。
 まあそのへんはエンタメだからね。バランスは大事(笑)。

 とはいっても、この ”思想の対立” は主役2人を敵対関係に置くための理由づけが主な目的で、これが物語のメイン要素ではない。


 そんな中で「ほほう」と思ったのは、序盤で神崎京一郎が語る「多数決」についての話。大学レベルの数式とグラフ(おそらく大多数の読者は理解できないだろう。もちろん私もwww)を用いて、「多数決の結果が正しくはない」ということを ”証明” してみせる。

 学生時代に読んだら感心したかも知れないけど、社会人生活も40年を超えた身からすればねぇ・・・。

 そもそも多数決というものは「集団の意思決定を行うための方法」であって、「正しい結果を導き出すための方法ではない」からね。


 
 たぶん作者もそのへんは百も承知で、京一郎に長々と語らせてるのだろう。彼の頭デッカチぶりを強調するためなのかも知れない。

 あと一点だけ。

 巻末の参考文献には民主主義、哲学、行動経済学などのムズカシげな書籍が並んでる。もちろん柔らかめの本もあるのだけど、その中に『銀河英雄伝説』(田中芳樹)があったのには、なんだか納得してしまった。

 20代の頃、この本を読んで ”民主主義の何たるか” とか ”リベラル的なもの” とかを知ったのも、いまでは懐かしい記憶だ。
 「スペースオペラから ”政治” を学ぶなんて」と思う人もいるだろうけど、当時は私と似たような経験をした人も案外多いんじゃないかな。
 もっとも、今読み返したら、また違う感想を抱きそうではあるが(笑)。



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夏へのトンネル、さよならの出口 [アニメーション]

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まずはあらすじの紹介から。

 塔野カオルは高校2年生。通学電車の中で ”ウラシマトンネル” なるものの噂を耳にする。そこに入れば欲しいものがなんでも手に入る。その代わりに年を取ってしまうのだと――。

 カオルの通う高校のクラスに転校生が入った。彼女の名は花城あんず。家庭の事情で東京から越してきた。クラスの女王・川崎小春は、さっそくに花城にちょっかいを出すが手ひどい反撃を喰らってしまう。

 カオルはその日の夜、線路伝いに歩いて、謎のトンネルを見つける。トンネルの入口あたりを覗いたら、5年前に事故死した妹・カレンのサンダルと妹が飼っていたインコを見つけた。ここが噂の ”ウラシマトンネル” らしい・・・

 カオルの家庭は、カレンの死によって崩壊していた。母は家を出て、父は酒浸り。このトンネルに入れば、カレンを取り戻すことができるかもしれない。

 しかし、トンネルの中の時間の流れは外と違っていた。トンネル内で2分ほど過ごしただけで外界では3日が経っていた。

 放課後にカオルは、一人で再度、ウラシマトンネルの検証を始める。とりあえず、亡くなった妹に会う方法を探るカオルだったが、そこを花城あんずに見つかってしまう。彼女にもまた ”手に入れたいもの” があり、2人は協力関係を結ぶことになる。

「”こちら” に帰ってくるのが1000年先の未来になってしまったとしても、”欲しいもの” を手に入れるために、2人でトンネルに入ろう」
 そう約束したカオルとあんずなのだが・・・



 2人とも、満たされない家庭環境にある。カオルの父は酒に逃避して家族を忘れ、あんずの両親は彼女の将来の希望に理解を示さない。
 そういう状況からの脱出を願うのも、分からなくはない。彼らを支えてくれる大人が一人でもいれば、この映画のような選択はしなかっただろうから。

 ボーイ・ミーツ・ガールのラブ・ストーリーとしてはよくできてると思う。2人が距離を縮めていくきっかけが、それぞれの家庭環境だったというのは哀しいところだけどね。

 SFとしてはちょっと不満。”ウラシマトンネル” によって ”時を超える” 物語が可能になったのだから、もうひとひねりくらいほしかったかな。
 とはいっても、作者にはSFを書くという意識が希薄なのかも知れない。”ウラシマトンネル” も、2人の ”愛の障壁” としての位置づけが大きいようだ。
 上映時間が80分ほどというのも微妙なところ。Wikipediaの記述をみると、原作から削られた要素も相当あるみたい。もう20分くらいあったら、また違った印象を受けたかも知れない。

 最終的に2人は ”家族の呪縛” から解き放たれて、新たな関係を結ぶに至るのだが・・・このラストはどうなのだろう。

 ネットでの感想をちょっと観てみたら、この結末を肯定的に捉えている人が多いみたいだ。だけど、私はちょっと引っかかるんだなぁ・・・。

 まあカップルの数だけ幸福の形はあるのだろうし、本人たちが満足しているところに外野からいろいろ言うのは、それこそ「大きなお世話」なのは百も承知なのだが・・・まあ、昭和の親爺の戯言ですから(苦笑)


 ちなみに、映画の入場者特典として、作者書き下ろしの ”後日談” がもらえます。文庫本サイズで26ページほどの掌編ですが、本作が気に入った人にはうれしいプレゼントでしょう。


 最後に声優陣について。

 周囲の脇役陣はベテランの声優さんで固めてるのですが、この映画は主役2人だけのシーンが大半なので、塔野カオルと花城あんずを演じる方の責任はかなり重大です。

 カオルは鈴鹿央士さん。まだデビューして日も浅く、声優としての仕事もあまりこなしていないと思いますが、心配していたほど下手ではなかったですね(おいおい)。
 カオルというキャラが、映画の前半ではあまり感情を見せないキャラなので、そこに救われているともいえるかな(笑)。でもやっぱり本業の声優さんを起用してほしかったかな、とは思ったり。

 あんずは飯豊まりえさん。こちらは思ったよりも達者でした。聞いていて違和感もなかったし。Wikipediaによると、声の仕事はこれが4作目のようです(メインキャラを演じるのは2作目かな)。声優としては及第点だと思います。


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