仮面幻双曲 [読書・ミステリ]
評価:★★★★
琵琶湖畔にある製紙会社の社長・占部文彦(うらべ・ふみひこ)の元へ脅迫状が舞い込む。差出人は双子の弟の武彦(たけひこ)。兄に恨みを抱く弟は一年前に出奔、整形手術で顔を変え、兄を殺すために舞い戻ってきたのだ・・・
昭和22年。私立探偵の川宮圭介・奈緒子の兄妹は、琵琶湖畔で製紙会社を経営する占部家へとやってきた。依頼人は前社長の未亡人・喜和子(きわこ)。彼女の甥で現社長の文彦のもとへ脅迫状が舞い込んだのだ。
差出人は文彦の双子の弟の武彦。会社の専務だった彼は、女子工員だった小夜子と交際していたが、彼女を誹謗中傷する手紙がばら撒かれてしまう。そして小夜子はそれを苦にして服毒自殺してしまったのだ。武彦は小夜子を自殺に追い込んだのは、彼女に横恋慕した兄だと思い込み、一年前に出奔していた。
川宮兄妹は、東京の整形医が殺害された新聞記事を見せられる。武彦が整形手術で顔を変え、文彦を殺すために舞い戻ってきた可能性があるという。
別人になりすました武彦を探し出し、文彦を守ること。それが依頼内容だった。
しかし2人が警護する中、屋敷内に入り込んだ ”犯人” は文彦を殺害して逃亡を果たしてしまう。さらに第二の殺人が起こる・・・
「双子が登場する」「双子の片方は整形手術で顔を変えている」
本書は序盤でこの二つの事実を読者に示す。もちろん物語の中において、これは掛け値無しの真実である。
しかし、モノはミステリ。読者はこの二つの条件から、様々なパターンを当てはめて想像を膨らませていくだろう。あるいは読みながらいろんな仮説を思い浮かべ、物語が進むにつれてそれを修正したり、あるいは新しい仮説を取捨選択していくことだろう。
だけど、最後に明かされる真相に到達できるひとはほぼ皆無に近いんじゃないかな。それくらい意表を突いたものになっている。
最初に二つの事実を堂々と示すことによって、かえって読者を真相から遠ざけてしまうという、実は巧みに計算された方法なのかも知れない。
終戦直後という時代背景とか、双子が生まれると家に繁栄がもたらされたという言い伝えをもつ占部家とか、地方の湖畔の屋敷で起こる殺人とか、製紙会社の財産を巡る確執とか、横溝正史的な要素がたくさん。と思ったら、巻末の参考文献にはしっかり『犬神家の一族』が。
とはいってもそれは道具立てだけで、本家のようなおどろおどろしさはない。探偵役の2人も極めて健全なイメージ。兄の圭介が頭脳労働担当の探偵役、妹の奈緒子さんは語り手も勤めるワトソン役で、薙刀の名手らしいので肉体労働担当といったところか。
本書は作者にとって現在のところ唯一の長編らしい。川宮兄妹もこの一作しか出ていないみたいだし、作中でも二人の過去はほとんど描かれていない。そのあたりも含めて、この2人の活躍をもっと読みたくなる。
タグ:国内ミステリ
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