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機龍警察 未亡旅団 [読書・冒険/サスペンス]


機龍警察 未亡旅団 機龍警察〔文庫版〕 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察 未亡旅団 機龍警察〔文庫版〕 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2023/06/06

評価:★★★★☆


 女性だけのテロ集団「黒い未亡人」が日本に潜入した。チェチェン紛争によって家族を失った女性たちによる組織だ。彼女たちが密入国した目的は何か。警視庁特捜部による捜査が始まる。
 一方、特捜部のメンバー・城木貴彦(しろき・たかひこ)理事官は、実の兄である宗方亮太郎(むなかた・りょうたろう)衆議院議員がもつ、ある秘密に気づいてしまう・・・


 大量破壊兵器が衰退し、テロが蔓延する近未来。それに伴って開発された人型近接戦闘兵器・機甲兵装が市街地戦闘の主流となっていた。

 機甲兵装とは、全高3.5~4mほどの "二足歩行ロボット型一人乗り戦車" のような兵器である。
 アニメでいうと『装甲騎兵ボトムズ』のAT(Armed Trooper)か、『ガサラキ』の Tactical Armer が近いか。

 警視庁特捜部も、テロリスト対策のために最新鋭の機甲兵装「龍機兵」を3機導入し、その搭乗員(パイロット)として3人の ”民間人” と契約した。
 日本国籍を持つ傭兵・姿俊之(すがた・としゆき)、アイルランド人で元テロリストのライザ・ラードナー、ロシア人で元モスクワ警察のユーリ・オズノフ。
 この3人は "警部待遇" の身分を持ち、捜査にも加わることになる。
 英語名は Special Investigators, Police Dragoon。犯罪者たちは彼らを「機龍警察」と呼ぶ。

 本作は『機龍警察』『機龍警察 自爆条項』『機龍警察 暗黒市場』に続く、シリーズ第4作である。ちなみに、搭乗員が警察官ではない理由は第2作で語られている。

 閉鎖的・保守的な警察組織の中で、彼ら3人と「龍機兵」は "異物" であり、特捜部自体を異端視し反撥する者は少なくない。しかしながら、機甲兵装を用いたテロ案件は次々に発生していく。
 特捜部は、テロリストという外敵はもちろん、"警察組織" という内なる敵とも戦っていかなくてはならない。そういう宿命を背負った部署なのである。

 さらに、警察上層部・政府の中には、犯罪組織との裏のつながりを持つ勢力が存在している。この〈敵〉による謀略もシリーズ中で描かれてきた。本作でも、思いもよらない妨害工作を仕掛けてくる。

 前置きが長くなってしまった。本編の紹介に入ろう。


「第一章 黒い未亡人」

 神奈川県内で自爆テロ事件が発生、特捜部はテロ集団「黒い未亡人」が密入国を果たしていたことを知る。チェチェン紛争によって家族を失った女性たちによる組織だ。自爆テロで多大な戦果を挙げ、頭角を現してきた。
 リーダーは〈砂の妻〉の異名を持つシーラ・ヴァヴィロワ。そのメンバーには多くの未成年の少女を含むことから、政府は対応に苦慮することになる。

 少女たちはテロリストの一味なのか? それともテロリストに洗脳され利用されている被害者なのか?
 「黒い未亡人」が日本に持ち込んだ機甲兵装エインセルは、未成年が搭乗することを前提に徹底的な小型化に成功したという、凶悪な設計の機体だった。
 テロ制圧の過程でエインセルを破壊することは、未成年の少女を殺害することに他ならない・・・

 自爆テロ事件発生の日、たまたま非番だった特捜部の由起谷志郎(ゆきたに・しろう)警部補は、西麻布の一角で外国人の少女が半グレ集団に絡まれているところに遭遇する。由紀谷は少女を救うべく介入するが、そこで彼女の示した格闘能力の高さに驚かされるのだった。
 
 一方、特捜部の城木管理官は父と兄から呼び出しを受ける。
 父・亮蔵(りょうぞう)は元財務官僚、兄・亮太郎は外務官僚からUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)へ出向の後、大物政治家・宗方与五郎(むなかた・よごろう)の娘・日菜子(ひなこ)の婿となった。しかし、もともと心臓に持病を抱えていた彼女は3年前に逝去していた。
 父・兄と交わした会話から、兄が特捜部の〈敵〉と関わりを持っているのではないかと疑い始める城木。さらに、兄の過去にとんでもない秘密を見つけてしまう・・・

 やがて神奈川県内に「黒い未亡人」が潜伏していることが判明、警視庁と神奈川県警の機甲兵装部隊が制圧に向かうが、外部装甲に爆発物を装備した "自爆仕様" のエインセルによって部隊は壊滅、テロリストの脱出を許してしまう。


「第二章 取調べ」

 「黒い未亡人」の資金ルートを探っていた特捜部は、その拠点を発見、その過程で一人の少女兵を捕らえた。
カティア・イヴレワ、15歳。「黒い未亡人」の連絡要員を務めている。そして、西麻布で由紀谷が助けた少女だった。

 彼女の取り調べに当たる由起谷。
 故郷を追われ、家族を殺され、壮絶な差別と虐待に晒されてきたカティア。由起谷に対し、時に黙秘し、時に侮蔑の嘲笑を浴びせる。
 自分たちを取り巻く世界への憎悪と憤怒に満ちた彼女と対峙する由起谷。彼もまた決して幸福とは云えない過去を背負っていた。
 彼女の前にそれをさらけ出し、自らの信念を彼女の信念にぶつける。由起谷の叫びは、カティアの閉ざされた心に届くのか・・・


「第三章 鬼子母神」

 新潟県で発見された「黒い未亡人」の新たな潜伏地への制圧作戦が決定する。しかし政府の示したテロ対処方針によって、特捜部は圧倒的に不利な状況に置かれてしまう。

 それでも3機の龍機兵と随行する機動隊員は、自らの生還すら期しがたい命令のもと、突入を敢行する。

 ”人としての一線を越えてしまった” シーラたちと、”その一線の手前で、ギリギリ踏み止まろうとする” 者たちとの戦いが始まる・・・


 主役メカである3機の龍機兵には、格闘戦特化の「フィアボルグ」(姿が搭乗)、最大火力を誇る「バンシー」(ライザが搭乗)、敏捷性重視の「バーゲスト」(ユーリが搭乗)と明確な個性が与えられている。さらに、短時間で全エネルギーを解放することによって桁外れの高速機動と反応速度を得るモード(『レイズナー』のV-MAXや『ガンダムOO』のTRANS-AMみたいなもの)が搭載されていたりと、ロボットアニメ的な外連味も充分。

 対する「黒い未亡人」の、〈砂の妻〉シーラをはじめとする3人のリーダーも強敵だ。〈剣の妻〉ジナイーダは巨大な剣を揮い、〈風の妻〉ファティマは短剣の名手。ともに生身でも卓越した戦士であり、機甲兵装のパイロットとしても凄腕。
 シーラ&ジナイーダ&ファティマ vs 姿&ライザ&ユーリ の繰り広げる死闘が終盤のクライマックスだ。

 そして本作では "女性"、そして "母性" がクローズアップされる。

 作中には様々な ”母” が搭乗する。カティアの母、由起谷の母、城木の母。我が子を愛する母も、我が子を蔑ろにする母も。
 実の母を喪ったカティアにとって、シーラは "新たな母" ではあるが、目的のためには "娘たち" の命さえ捧げてしまう "鬼神" でもある。

 そして城木の亡き義姉・日菜子は、シーラのネガとポジが逆転したような、慈愛に満ちた聖母のごとき人物として描かれる。
 しかし、すべてを許し受け入れる彼女の愛が、新たな憎悪を呼び覚ましてしまうと云う皮肉な展開もまた描かれる。


 すべての戦いが終わり、文庫で600ページ近い大長編のラストは、一通の手紙で締めくくられる。
 たいして長くもなく、流麗でもない文章なのに・・・ああ、なんでこんなに心が震えるんだろう・・・涙が止まらないのだろう・・・

 現時点で、「今年読んだ本」暫定第1位。



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