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Another 2001 [読書・冒険/サスペンス]


Another 2001(上) (角川文庫)

Another 2001(上) (角川文庫)

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/13
Another 2001(下) (角川文庫)

Another 2001(下) (角川文庫)

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/13

評価:★★★★


 夜見山北中学校3年3組では、数年おきに《災厄》が起こる。クラスの中に〈死者〉が紛れ込み、クラスメイト、あるいはその親族・関係者の中に大量の死人が発生するのだ。
 前回の《災厄》が起こった1998年から3年後。3年3組となった比良塚想(ひらつか・そう)は、4月の始業式で今年が《災厄》の年になったことを知る。
 それに備えて、特別な〈対策〉を講じたクラスメイトたちだったが・・・


 1998年の《災厄》に立ち向かった見崎鳴(みさき・めい)と榊原恒一(さかきばら・こういち)を描いた『Another』。
 その夏の一週間を描いた『Another エピソードS』で登場し、見崎鳴と出会った少年・比良塚想が、本書『2001』の主役となる。

 『Another』と『Another エピソードS』を読まずにいきなり本書に取りかかる人はまずいないとは思うが、本書はこの二冊を読んでいるのを前提に書かれていると言っていい。
 『2001』から読み始めても理解できなくはないだろうが、いまひとつ面白さが伝わらない気がするので、たいへんもったいないことだと思う。


 これから内容紹介に入るが、前二冊を読んでれば予備知識は充分。事前情報は知らない方が楽しく読めると思う。
 かと云って何も書かないわけにもいかないので、これから少し書くけど、なるべく最小限にしよう。


 『エピソードS』の事件後、両親と別居することになった想は夜見山市の親族の元へ引き取られ、夜見山北中学の生徒となる。
 そして2001年4月。想をはじめ3年3組の生徒たちは、始業式を終えたホームルームで教室の机と椅子が "一組足りない" ことに気づく。
 クラスに〈死者〉が紛れ込んでいる。今年は《災厄》が起こる年なのだ。

 《災厄》は、関係者の記憶の改変を伴う。つまり生徒・教師・家族たちは、〈死者〉のことをはじめからクラスメイトとして存在していた、と認識してしまう。
 さらにいうなら、〈死者〉本人でさえ、自分が死者だという認識がない。
 名簿などの書類・記録の類いも改竄されてしまい、それらから〈死者〉が誰かを知ることもできない。

 そして《災厄》が "終了" すると、記録の改竄は速やかに修正される。個人については、《災厄》のことを忘れていく、という形で修復される(忘却の速度には個人差がある。《災厄》への関わりが薄い者ほど早く忘れていく)。これが《災厄》が大きな問題にならずに放置されている理由だ。

 だから、想たち現在の3年3組のメンバーたちが知っている《災厄》についての情報(主に上級生からの申し送り)は、断片的だったり表層的だったりするものばかり。

 それでも、ひとつの "対策" は伝えられている。すなわち、クラスの誰か一人を "いない者" として扱うこと。彼/彼女の行動を一切無視する、というものだ。
 〈死者〉によって1名増えたクラスの人数を、そうやって "元に戻す"。それによって《災厄》を食い止める。この方法が効果を上げた年もあったようだ。

 3年前に "いない者" を務めたのが見崎鳴。そして途中から "いない者" に加えられたのが榊原恒一だったのだが、この情報が断片的に伝わった結果、「"いない者" を2人にすれば効果が上がるのでは」との意見が出てくる。
 そこで今年の "いない者" は、想と、もう一人の生徒が務めることになった。

 しかし、実際に学校生活が始まると、クラス内に不安や疑心暗鬼が渦巻きはじめ、"いない者" を苦しめるようになっていく。前作の事件で "耐性" が身についたのか(笑)、想くんは順調に勤めを果たすのだが、"もう一人" のほうは、次第に精神的に追い詰められていき、やがて破局がやってくる・・・


 『Another』では、そもそも何が起こっているのか分からない、というところから始まっていた。これは登場人物も読者も同じ。
 しかし本書では、読者はそのあたりは十分承知しているわけで、五里霧中の登場人物たちを、ひとつ上の視点から俯瞰してみているような感覚を味わう。どこから幽霊が出てくるかが分かっているお化け屋敷、というか、往年のバラエティ場組『8時だヨ!全員集合』での「志村うしろ!」って叫ぶ感覚というか(例えが古すぎて分からない人も多そうだ。ゴメンナサイ)。

 だから登場人物の行動に対して「それはやっちゃダメ」「それはやっても無駄」「どうしてそんなことを」「ああ、やっぱり」ってな感じで、いちいちツッコミを入れながら読んでしまう。

 誤解を恐れずに云えば『Another』は初めて入る幽霊屋敷を探検するような感じ、『2001』は勝手知ったる幽霊屋敷の中を歩き回って "楽しむ" という感じ、か。いや、決して人がお亡くなりになるのを楽しんでるわけではないのだけどね。
 《災厄》の "システム" が分かっているぶん、やや余裕を持って読み進められるというか。

 ストーリーについてはもちろん、今年の3年3組のメンバーがメインになるのだけど、見崎鳴さんも要所要所で登場する。いまでも夜見山市在住で、高校3年生になっている。
 ちなみに榊原恒一くんも出てくるのだが、彼が今どうなってるのかは読んでのお楽しみにしておこう。


 『Another』ではミステリ的にも大きなサプライズがあったけど、本書についてはミステリ要素はやや薄めかな。終盤、物語が収束していく先もなんとなく見当がついてしまうし。
 だからといって、つまらないと云うことはない。綾辻行人のストーリーテラーぶりはたいしたもので、ページをどんどんめくらせていき、緊迫のラストまでもっていく。
 そしてすべてが明らかになると、本書は『Another』と対をなす物語であったことが明らかになる。

 作者は「あとがき」で次作(完結編でもある)として『Another 2009』というタイトルを予告している。本書の中にも、それに向けての伏線と思われる描写もある。
 作品内の時間軸としては『2001』の8年後。前2作や本作に登場した人たちのうち、生き残った人(おいおい)も再登場するのだろうなぁ・・・

 もっとも、作者は「館シリーズ」の10作目に当面かかりっきりになると思うので、こちらが書かれるのは早くて数年後かも知れない。こっちの寿命の方が心配になる(切実)。

 「最小限」なんて言いながらけっこう書いてしまった。でも、前2作を読んでる人なら楽しい(怖い?)読書体験が得られるだろうことは間違いない。



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