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僕が殺された未来 [読書・SF]


僕が殺された未来 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

僕が殺された未来 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 春畑 行成
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2017/08/04
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 大学生・高木は、ミス・キャンパスの小田美沙希に片思い中。しかし美沙希は失踪してしまう。そんなとき、高木の前に現れた少女・ハナは「60年後の未来からやってきた」と語り、美沙希は誘拐されたと告げる。さらに「高木と美沙希は誘拐犯に殺され、事件は迷宮入りしてしまう」のだと・・・


 ミス・キャンパスの小田美沙希が失踪した。彼女に片思い中だった大学生・高木の前に、ハナと名乗る15歳の少女が現れる。
 彼女は語る。自分は60年後の世界からやってきたのだという。もちろんでたらめだと思った高木だったが、彼女が翌日の出来事をピタリと言い当てたことから信じざるを得なくなる。
 ハナは60年後の世界で "ある人物" に頼まれ、高木を救うためにやってきたらしい。

 彼女によると美沙希は誘拐されており、11月28日に遺体で発見される。さらに、高木もまたその前日の27日に誘拐犯によって殺されてしまうのだという。事件は迷宮入りし、犯人は捕まっていない。 
 そしてカレンダーでは既に25日。あと2日で事件を解決し、自分が殺されることを防ぎ、美沙希を救出しなければならない。

 高木は、未来世界からハナが持ってきた捜査資料(60年後の世界では情報公開されているらしい)をもとに、犯人捜しを始めるのだが・・・


 過去に戻って、殺されるはずだった人間を救う。タイムトラベルでは定番のシチュエーションだが、いったい誰に殺されるのか(つまり殺人犯の正体)を探り出す部分がミステリというわけだ。

 自分の生死が関わる深刻な話なのだが、トボけた高木とずけずけモノをいうハナのコンビは、さながら漫才のボケとツッコミのようで、この二人の会話が実に楽しい。殺人事件を扱っているのだけど雰囲気はまるっきりコメディだ。

 誘拐犯(殺人者)の正体も気になるが、もう一つの謎はハナの出自だ。
 本筋とは別に、ストーリーのあちこちに宮本佳菜(みやもと・かな)という女性がちょこちょこ登場する。高木の大学の後輩なのだが、挙動不審な謎キャラだ。
 作中におけるハナの言動を読んでいくと、佳菜とハナの間に何らかの関係があると想像はできるのだが、それが何なのか当てるのはちょい難しいかもしれない。

 ちなみに、60年後の世界ではタイムトラベルが実用化され、歴史上の事件などを観に行くのが人気らしい(おいおい)。とはいっても、個人が簡単に過去に戻れるようではタイムパラドックスが頻発しそうなものだが。

 そして、ハナのタイムトラベルに於いてもパラドックスは発生する。60年前に戻って高木の死を回避できたら、そもそも過去へ戻る理由が消滅してしまうわけだから。
 終盤に至ると、誘拐事件の解決とは別に、この "ハナのパラドックス" もストーリーの要素として浮上してくる。

 まあ、このあたりをどう辻褄を合わせるのかが作家さんの腕なのだろう。厳密に考えればこの "結末" には首をかしげる人もいるかも知れないけど、コメディですから温かい目で見てあげましょう(笑)。

 最後ではハナちゃんの健気さに感激してしまい、思わず涙腺が(ちょっとだけ)緩んでしまった。
 私は嫌いじゃないよ。この "決着" のつけ方は。



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