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黄昏のベルリン [読書・ミステリ]


黄昏のベルリン (創元推理文庫 M れ 1-5)

黄昏のベルリン (創元推理文庫 M れ 1-5)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/01/19
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 物語の時代は1990年代半ば。いわゆる「ベルリンの壁崩壊」の1989年のちょっと前の頃と思われる。

 主人公・青木優二(ゆうじ)は日本画家。美術大学で講師をしている。文中に明示されてないけど年齢は40歳くらいと思われる。教え子の女子大生と交際しているものの、年齢差を気にしてなかなか一歩先に進めない。

 そんなとき、彼の前に現れたのはベルリンからの留学生・エルザ。

 エルザは問う。優二の生い立ちを。
 優二は答える。彼には4歳までの記憶がない。養父母によれば、彼は貿易会社で働くイタリア人の父と、日本人の母との間に生まれたのだと。父は彼の生まれる前に死に、母は1945年2月に優二を生み、一ヶ月後の東京大空襲で亡くなったという。

 しかしエルザはそれに疑問を投げかける。
 彼女は語る。1945年3月、西ドイツにあるユダヤ人の強制収容所で日本人女性が出産した。父親がユダヤ人だったためだ。その翌月にドイツは敗戦、生まれた子は連合軍によって救出されたが、その後の消息は不明なのだという。
 そして優二こそ、その赤子だったのではないか、と彼女は言う。

 エルザはナチスの蛮行を調査し、それを広く喧伝する組織に関わっていて、優二のことを ”第二のアンネ・フランク” として取り上げたいのだという。

 強制収容所の生存者がフランスにいるという。彼女なら赤子のことを詳しく知っているだろう。
 優二は自らの出自を確かめるためにヨーロッパへ旅立つのだが・・・


 メインのストーリーラインは優二を中心としたものなのだけど、同時並行で多くの登場人物たちがそれぞれの物語を紡いでいく。

 リオデジャネイロで娼婦を殺したハンス・ゲムリヒ。
 ニューヨークの空港で東京へ旅立とうとしている会社員マイク・カールソン。
 その彼を尾行しているユダヤ人エディ・ジョシュア。
 東ベルリンから西ベルリンへの脱走を企てている青年ブルーノ・ハウゼン。
 パリで病院の院長夫人として暮らしてきた老女マリー・ルグレーズ・・・

 最初は脈絡のない断片的なエピソードの積み重ねなのだけども、次第にそれらが有機的に絡み合って優二の物語に関わっていく。
 そしてもちろん、エルザもまたその中にあって重要な役回りを果たしていく。


 本書で特徴的なのは、場面転換時に改行しないこと。具体的には、行の途中でダッシュ記号「――」を挟んで場面が変わるのだ。たぶん、転換前の濃密な雰囲気を途切れさせずに、そのまま転換後のシーンにつなげたいからだろう。
 最初はちょっと戸惑うのだけど、だんだん慣れてくるので大丈夫だ。

 題材だけ見ればサスペンスものかエスピオナージュもの(スパイ小説)かとも思うのだけど、作者はあの連城三紀彦だからね。彼の持ち味である ”男女の間に繰り広げられる濃密な情念描写” は本編の中でも遺憾なく発揮されてる。
 とくにエルザを中心とした男たちの愛欲は読んでいて息苦しくなるほど。

 そして、作者は ”連城マジック” と言われるほどのミステリの名手。
 様々な情報が錯綜した中で、物語は次第に ”ある方向” に向かって動き出すように描かれていく。しかしそこで油断できないのがこの作者なので(笑)、最後まで気を抜けない。

 読み終わってみれば、すべての謎はミステリとして着地し、物語はドラマチックなクライマックスを迎える。この結末に導くために、幾多の濃厚な人間模様が重層的に描かれてきたんだと理解できる。


 本書のメインのネタである、ナチスや強制収容所を扱った作品は、ミステリに限らず古今東西のフィクションに無数に存在するだろう。けれど作者はそれを徹底的に ”自分の色” に染め上げてみせた。見事だと思う。


 本書の発表は1988年。翌年にはベルリンの壁が崩壊しているんだけど、たぶんこれを書いている作者を含め、当時の世界では誰もそんなことが起こるなんて予想だにしなかったろう。
 そしてそれは作中の登場人物たちも同じだろう。生き残った登場人物たちが、ベルリンの壁崩壊後の世界をどのように生きていったのか、ちょっと想像してみるのも面白いかもしれない。



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忘却城 炎龍の宝玉 [読書・ファンタジー]


忘却城 炎龍の宝玉 (創元推理文庫)

忘却城 炎龍の宝玉 (創元推理文庫)

  • 作者: 鈴森 琴
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/05/20
評価:★★★

 死者を蘇らせる死霊術で発展した亀珈(かめのかみかざり)王国を舞台としたファンタジー、第3作。

 各巻、一話完結になってるのだが、本巻については第1巻「忘却城」の直接の続編になってるので、本巻からいきなり読んでも分からないかな。いや、読んでても分からないかもしれないが(おいおい)。


 第1巻の主役だった青年・儒艮(じゅごん)は、引き取った少年・金魚小僧(きんぎょこぞう)とともに暮らしていたが、私塾を開くために「比和院(ひわいん)」という屋敷を買い取った。
 しかしそこは幽霊屋敷として知られており、引っ越し直後から数々の怪奇現象が起こって塾生たちは怯えることに。

 そんなとき、王都に瀕死状態の炎龍(えんりゅう)が飛来する。それは王国では”神獣” と呼ばれる至高の存在だった。
 その炎龍は卵を孕んでおり、次代の炎龍を産み落とそうとしていることが判明する。そして炎龍との意思疎通を図る必要が生じる。
 しかし龍語を解することが出来るのは、蘇った死者と生きた人間の間に生まれた ”界人(さかいびと)” のみ。
 そこで ”界人” の一人である儒艮が ”通訳” として指名されたのだが・・・



 とまあ、メインのストーリーはこうなるのだけど、このシリーズの特徴として溢れんばかりのイメージの洪水というか、印象的なシーン、意味深な台詞が全編を埋め尽くしていて、なかなか全体像が見えにくい。

 しかも物語は多重構造をなしていて、かつてこの地を支配していた千形族の王や死霊術士の魂の蘇りや、王国を支配する黄王(おうおう)家における家族内の葛藤、わけても正王妃・雪晶(せっしょう)を巡る過去の秘密、そしてダブル主演である金魚小僧が自分のルーツを探る物語もあり、終盤には「比和院」の過去までも絡んでくる。そしてこれらが渾然一体をなしていて、読み解くのは容易ではない。

 複雑な物語はジグゾーパズルなどに例えられることもある。本書でもピースは無数に与えられるのだけど、並べることをより困難にしているのは、物語の進行とともにピースの形が変わっていってしまう(ように見える)ことだ。
 大丈夫な人もいるかもしれないが、私のアタマでは処理不能だなぁ。

 例えば金魚小僧の ”正体” だって、”これだ” と思って読んでいたら、後の方ではなんだか違っているみたいに書いてあるし。一事が万事この調子で、いったい何をよりどころにすればいいのか、読んでいて悩むことばかり。

 とまあいろいろ書いてきたけど、ラストまで読み終わってみると、いろんなことがそれなりにいい案配のところに、落ち着くべきところに落ち着いていって、「まぁいいか」って思わせる(笑)。

 この雰囲気がこの作者さん本来の持ち味なのか、それともこのシリーズのためにあえてこういう書き方をしているのかは分からないけど、こういう作風が続くと、正直言って読み続けるのはしんどいなぁ・・・って思ってしまう。



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満鉄探偵 欧亜急行の殺人 [読書・ミステリ]


満鉄探偵 欧亜急行の殺人 (PHP文芸文庫)

満鉄探偵 欧亜急行の殺人 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 山本 巧次
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2022/01/08
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 時代は昭和11年(1936年)。舞台は満州。中国の東北部(おおむねロシアと北朝鮮の間にあるあたりを指すかと思う)のことだ。
 1932年、そこには満州国が建国されたが、それは大日本帝国の傀儡国家だった。

 タイトルにある ”満鉄” とは、正式名称を「南満州鉄道株式会社」といい、その名の通り、満州における人流・物流を司っていた。

 主人公・詫間耕一(たくま・こういち)は満鉄本社資料課に勤務する社員。
 ある日、満鉄総裁・松岡洋右(ようすけ)に呼び出され、社内で頻発している書類紛失事件の調査を命じられる。

  ちなみに松岡は本書の4年後、太平洋戦争開戦直前の1940~41年にかけて外務大臣を務めることになる人物だ。

 詫間は警察内の知人から塙宗謙(はなわ・そうけん)なる人物が怪しいとの情報を得るが、その塙は既に何者かによって殺害されていた。
 遺留品から塙が通っていたナイトクラブが判明、そこで懇意にしていた女給(ホステス)・春燕(シュンエン)にたどり着くが、なぜか憲兵隊から横やりが入ってくる。
 憲兵隊に拘束された詫間を救ったのは、陸軍特務機関の諸澄(もろずみ)少佐だった。

 松岡総裁が個人的に雇っている密偵・辻村とともに調査を続ける詫間は、ナイトクラブの客であるロシア人ボリスコフがソ連のスパイであることを知る。
 彼を追って大連駅から哈爾浜(ハルビン)行きの急行列車に乗り込むが、そこには憲兵隊員、諸澄少佐、春燕までも乗り合わせていた。そして車内で乗客の1人が殺されてしまう・・・


 車内での殺人事件にはいささか不可解な点があるのだけど、そこを含めて合理的な解決が示される。ミステリではあるけれども、本書の読みどころは当時の満州の描写だろう。
 各国のスパイ同士の抗争があり、特務機関と憲兵隊の縄張り争いがあり、列車の走行中には馬賊の襲撃があり、謎の中国人美女の暗躍がありと、満鉄の旅は盛りだくさん(笑)。詫間は波瀾万丈の冒険に否応なく巻き込まれていく。
 駅構内や列車の運行など鉄道内外の描写もリアルで、さすがは元鉄道マンだ。

 旅の途中で起こる ”荒事” への対処は、密偵の辻村や特務機関の諸澄少佐のほうが長けているわけで、詫間はあまり活躍の場がない。でもちゃんと終盤には見せ場が用意されていて、主役の面目を保つ。

 すべてが明かされてみれば、この時代、この場所ならではの事件だったことが分かる。登場人物たちそれぞれが持つ行動原理も、事件を起こした犯人の動機にも、それが色濃く影を落としている。

 そして、事件が解決しても、5年後の未来には太平洋戦争が待っている。この物語の登場人物たちにどんな運命が降りかかってくるのか、ちょっと感慨にふけってしまった。



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7デイズ・ミッション 日韓特命捜査 [読書・ミステリ]


7デイズ・ミッション 日韓特命捜査 (PHP文芸文庫)

7デイズ・ミッション 日韓特命捜査 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 五十嵐 貴久
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2020/03/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 隅田川で見つかった死体は、韓国の麻薬王ドン・インチェルだった。

 韓国警察は、エリート女刑事ソン・ジヒョンを日本へ派遣する。インチェルの死の真相、そして日本での目的を探るためだ。

 彼女はソウル大学を首席で卒業、射撃はオリンピック強化選手に指名されるほどの腕前、テコンドー四段。大統領警護チームにも在籍していたという ”完璧超人” だ。そして彼女のモチベーションを支えているのは彼女の兄の存在。彼はインチェルの組織に殺されていたのだ。

 彼女を出迎えたのは警視庁の新人刑事・後藤陽平。コリアンマフィア対象の海外麻薬取締課八係の所属だ。

 しかし彼に与えられた命令は「韓国の捜査官には何もさせるな」だった。
 捜査に首を突っ込まれて邪魔されることを嫌う上層部は、彼女の滞在期間に歓迎行事を詰め込み、残りは東京観光をさせてそのまま帰ってもらおうという目論見だったのだ。

 しかし、捜査を行う気が満々のジヒョンがそれで引き下がるはずもない。顔を合わせたときから二人は衝突を繰り返し、雰囲気はどんどん険悪になっていく。

 ジヒョンの祖父は、韓国が日本に併合されていた時期に日本人に殺されていた。その恨みは今でも彼女の中に厳然と存在していた。陽平に対して日本で見るもの聞くものすべてを扱き下ろし、韓国の優位性を口にするジヒョン。

 当然ながら陽平も反発するわけで、ついには堪忍袋の緒が切れて・・・となるのだがそれで終わっては話にならない。ある時点を境に二人は協力関係を築き、インチェル殺害の真相に手を携えて迫っていくことになる。


 さて、そんなに拗れきった二人が、どんなきっかけで ”和解” するのか。それは実に意外で単純なことだった。
 「そんなことで仲良くなれるんかい?」とも思うのだけど、20代の若者同士ならアリなのかなぁ・・・このあたりはなんとも私には判断できないが・・・

 国家同士の仲は難しくても、個人同士の仲はまた別だ、というのはわかるつもりだけど。
 まあエンタメとして成立させるには、このあたりで手を打たないと収拾がつかなくなるからねぇ・・・
 

 序盤から中盤にかけては、(日本人から見れば) ”実に嫌な女” として描かれてきたジヒョンだけど、ラストシーンでは真逆の印象を振りまいて去って行く。
 このあたりは作者の見事な筆の冴え、なのだろう。



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白霧学舎 探偵小説倶楽部 [読書・ミステリ]


白霧学舎 探偵小説倶楽部 (光文社文庫 お 35-10)

白霧学舎 探偵小説倶楽部 (光文社文庫 お 35-10)

  • 作者: 岡田秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/01/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

 時代は昭和20年。太平洋戦争の敗色も濃くなってきている頃。

 主人公・美作宗八郎(みまさか・そうはちろう)は18歳。病気で2年留年したので未だ旧制中学4年生だ。空襲に見舞われる東京から疎開し、山間の集落にある白霧(しろぎり)学舎へ編入することになった。

 しかし全寮制の名門校であるはずの白霧学舎は、地元ではいささか評判が悪いらしい。生徒たちが周囲の畑から農作物をかっぱらっているかららしいのだが、当時の食糧事情を考えたら責められないかなぁ(笑)。

 転入そうそう、同年齢(彼らも留年してる)の滝幸治と斎藤順平に誘われ、探偵小説倶楽部に入ることに。
 実はもう一人メンバーがいるのだけど、とんでもなくぶっとんでるキャラなので興味があったら読んでください。いわゆる探偵役に当たる人物なんだが、ここまで奇矯なのも珍しいと思う。

 倶楽部の活動は探偵小説を読むことなのだが、戦時下で本が容易に手に入るわけもない。現在の活動は、地元で起こっている連続殺人事件の真相解明に移っていた。
 ここ5年の間に4人の青年が殺され、うち3人は局部が切り取られるという猟奇的な事件が起こっていたのだ。しかし犯人は捕まらず、未解決のままだった。

 そんなとき、村に米軍の爆撃機が墜落し、米兵が1名逃亡しているらしい。白霧学舎の用務助手の若者・林屋健太は、独自に米兵捜しを始める。

 学舎の講堂で講演会が開かれた日、宗八郎たち3人は早々に講演会を抜けだしたが、学舎近くの鐘撞(かねつき)塔の傍らで健太の死体と、凶器と見られる斧を発見してしまう。
 しかし大人たちに通報して3人が戻ってきたとき、死体は移動されて位置が変わっており、しかも斧は消え失せていた・・・


 そしてこれから、3人の探偵活動が始まるのだが、そこに加わったのが地元の女学校に通う16歳の早坂薫。いささか気が強いが美少女だ。
 彼女の家は料亭を経営しており、彼女の家に集まって事件についての会議をすると料理のおこぼれに預かれるわけで、まことに都合がよろしい(笑)。

 健太の事件はそれだけに収まらず、連続殺人へと発展していくのだが、それと並行して宗八郎君の心穏やかならざる日々も描かれていく。

 お約束の展開ながら、宗八郎は薫に対して惚れてしまう。なんとか幸治と順平を牽制しようとしたりと涙ぐましい(笑)努力を巡らすのだが、いささか空回りの観もある。
 それでも薫は一人娘なので、両親は彼女に婿を取らせて料亭を継がせるつもりだとか聞くと心が騒ぎ、もう縁談が持ち上がっているという噂を聞くと心が千々に乱れてしまう。
 読んでる分には楽しいが宗八郎君は気が気ではないだろうなぁ・・・(笑)。

 さて、旧制中学生(年齢的には現代の高校生)が殺人事件に関わるには敷居が高い。なかなか倶楽部メンバーたちの捜査は進展せず、隔靴掻痒な感じは否めないのだけど、終盤にはちゃんと真相にたどり着く。

 まず、動機が予想外。この時代ならではというか、この時代でしか成立しない動機とは言えるだろう。
 そして肝心の犯人。これも意外というか、読んでて「えーっ」と思ったんだが、あちこち読み返してみるとちゃんと伏線は張ってあった。これは完敗でした。

 物語の終盤では8月15日がやってくる。事件が終わって、宗八郎、幸治、順平、そして薫が、これから生きていくのは戦後の世界。
 日本の復興を担うことになる彼らの前途が楽なものではないのは分かってるのだけど、それでも彼らのその後が知りたくなる。
 短編でもいいから書いてくれないかなぁ。



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赤銅の魔女 / 白銀の巫女 / 青炎の剣士 紐結びの魔道師 [読書・ファンタジー]


赤銅の魔女 紐結びの魔道師1 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

赤銅の魔女 紐結びの魔道師1 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/03/11
白銀の巫女 紐結びの魔道師2 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

白銀の巫女 紐結びの魔道師2 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/06/14
青炎の剣士 紐結びの魔道師3 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

青炎の剣士 紐結びの魔道師3 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/09/13
評価:★★★★

 作者の代表作である〈オーリエラントの魔道士〉シリーズ。
 テイクオク(紐結び)魔法を操る魔道師・リクエンシスを主人公にした長編三部作。とはいっても、ストーリーは連続しているので、実質はひとつながりの大長編(文庫で総計して約840ページ)になってる。

 リクエンシス(エンス)のことは他の作品集でも語られているけど、本書では彼の若き日(20代後半くらいかと思われる)の冒険が描かれる。


 舞台は異世界・コンスル帝国。建国から1500年近く経ち、国威の凋落が著しい。それにつけこんだのか、東方の隣国・イスリル帝国が侵攻してきた。

 主人公エンスは、相棒で祐筆のグラーコ(リコ)、剣闘士のマーセンサス(マース)とともにコンスル帝国東部のローランディアに暮らしていた。

 ちなみにリコの ”祐筆” というのは、エンスの紐魔法を書き留め記録する役目のこと。なにせ紐魔法というのは、紐の色や長さや結び方や結ぶ順番とか細かいきまりごとがたくさんあって、とても覚えきれない。それをリコが記録していて、紐魔法を発動させるときにはエンスに必要な情報を教えるという役割分担。

 エンスたちが住むローランディアにもイスリルの先発隊がやってきた。そこで住んでいた館を放棄して西方へ脱出する3人だったが、イスリルの魔道士が館の裏手の墓地に眠る ”邪悪な魂” を呼び出してしまう。そしてそれは、エンスのことを執拗に追跡し始めるのだった・・・

 一方、オルン村に暮らす〈星読みの魔女〉トゥーラは、自ら見いだした予言に従い、村の若者たちを使嗾して〈覇者の剣〉なるものを手に入れるべく動き出したが、彼女の目論見は意外な方向へ転がっていく・・・

 そして、拝月教のカダー寺院では、エミラーダ軌師(きし:”弟子を導く師” くらいの意味と思われる)が、水盆に映る月の姿から未来を幻視する。それは世界の破滅を示すかのような凄惨な光景。しかしそれを防ぐ道も示される。
 エミラーダは ”ローランディアからやってくる魔道士” を探すべく、寺院を出奔する・・・


 ここまでがほんの序盤。大長編だけあって、ストーリーも重層的。

 エンスをつけ狙う ”邪悪な魂” の正体、それを解き放ったイスリルの魔道士の目的、そして何が世界の破滅をもたらすのか、〈覇者の剣〉の役割とは・・・

 さらに、遙かな過去の因縁も絡んでくる。オルン村のある地には、1500年前には女王が統べる ”オルン魔国” があり、当時の魔女がかけた ”呪い” は今もなお解けておらず、人々に影響を与えているらしい。


 キャラクターたちも多彩だ。

 主役のエンスは、魔道師という言葉のイメージに縛られないユニークさ。何事にも楽観的でおおらか、情にも厚い。それでいて剣をとっても一流の腕前。とぼけた言動を繰り返すのも親近感を抱かせるし、ついでに女に惚れやすい(笑)。

 リコは高齢だが物知り。だがいささかわがままな爺さん(笑)。

 マースは剣闘士だけあって、剣の腕も一流だが、軍師的な知恵も回り、頼りになる相棒だ。

 ヒロインとなるトゥーラは20歳。エンスとは物騒なシチュエーションでの出会いを果たすのだけど、エンスは彼女に一目惚れしてしまう。
 でまたエンスのことだから、やたら「いい女だ」って口走っては周囲をあきれさせる(笑)。
 トゥーラのほうも、序盤では野生の猛獣みたいにやたらと突っかかってきては刃物を振り回すという凶暴な(笑)お姉さんだっんだけど、エンスのことを知るにつれてだんだん惹かれていってしまい・・・というお約束の展開。
 とはいってもストーリーを彩るだけでなく、彼女自身にもある秘密が隠されており、物語上も重要なキャラになってる。

 元修道女のエミラーダは40代かと思うのだけど、枯れた感じは全くなく、実に生き生きとした女性として描かれている。知性と教養と、女性としての魅力が高レベルでバランスがとれていて、実にいい案配になってる感じである。

 そして、この物語においてエンスたちの最大の ”敵” として登場するのが、元コンスル帝国軍人のライディネス。帝国の凋落に乗じて、自らの国を打ち立てようという野心に燃えている。とはいっても ”いかにもな悪役” ではなく、彼なりの理想と目的を持った、芯のある人物としてしっかり描かれる。

 他にもオルン村の少年ユース、女魔道師エイリャ、その弟子の青年サンジペルスなども重要な役周りで登場する。
 そして、〈思索の蜥蜴(とかげ)〉ダンダン。人語を話す小さな蜥蜴として登場し、エンスと行動を共にしていくのだけど、”彼” もまた終盤で大活躍をする。


 多彩な登場人物が織りなす波瀾万丈のファンタジー冒険譚。
 とても楽しませていただきました。



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記憶の中の誘拐 赤い博物館 [読書・ミステリ]


記憶の中の誘拐 赤い博物館 (文春文庫)

記憶の中の誘拐 赤い博物館 (文春文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/01/04
評価:★★★★

 警視庁捜査一課の刑事・寺田聡(さとし)が左遷されてきたのは、東京・三鷹市にある警視庁付属犯罪資料館、通称『赤い博物館』と呼ばれている施設だった。

 そこは、発生から一定期間が経過した事件の資料を保管する倉庫。
 館長を務めているのは緋色冴子(ひいろ・さえこ)警視。キャリア組のはずなのに、なぜかここの館長を8年間も務めているという謎の人物だった。

 資料整理に明け暮れる寺田だが、時折、冴子から過去の事件の再捜査を命じられる。その結果、時の彼方に消えたはずの事件の、意外な真相が明らかになっていく・・・というシリーズの第2巻。


「夕暮れの屋上で」
 1991年3月。高校の卒業式の前日、校舎の屋上で女子生徒が死亡する。
 その直前、教室の清掃に入っていた業者が屋上で話す被害者の声を耳にしていた。その内容から、警察は美術部の男子生徒3人に容疑を絞るのだが決め手はなく、事件は未解決に・・・
 なんとなく「こうじゃないかなぁ」って見当をつけたけど、それを上回る意外な結末でした。

「連火」
 1990年8月から10月まで起こった連続放火事件。
 犯人は火を放った後、その家の住人に電話をかけて逃げるように伝えるという謎の行動を繰り返していた。
 どうやら犯人は、火災現場に現れる ”ある人” に会うために放火を繰り返しているらしいのだが・・・
 犯人も意外だが、”ある人” の正体もまた意表を突くもの。

「死を十で割る」
 1999年3月23日の朝。荒川の河川敷でバラバラ死体が発見された。
 被害者は40歳のサラリーマンで、死亡推定時刻は前日の22日午前10時から正午。被害者の妻は22日の午前10時半に鉄道に飛び込んで自殺を遂げていた。さらに、死体の遺棄は22日の夜から翌朝の間の行われたものと思われた。
 死体は10の部位に切断されていた。死体切断の理由は運搬のためが大半だが、被害者の手足はそれぞれ2つに細断されているものの、胴体はそのまま。一番大きく重い胴体をそのままにしていたのはなぜか・・・
 不可解な遺体切断の理由は納得のいくものだが、そうせざるを得なかった理由がそのまま犯人指摘に結びつくあたり、とてもよく出来た細工物を見るようだ。

「孤独な容疑者」
 1990年3月、32歳の会社員が殺害された。被害者は同僚や上司相手に高利貸しのようなことをしており、借金の返済に苦しんで恨みを抱く者は多数に上ると思われた。
 ストーリーは犯人の一人称による ”倒叙形式” で始まるのだが、もうこの段階で作者の仕掛けは始まっていて、ラストに至ると見事な背負い投げを食らってしまった。なんとも油断のならない作品だ。

「記憶の中の誘拐」
 1988年8月、医師の子で当時5歳の男児が誘拐される事件が発生した。
 犯人は身代金の受け渡しに、両親である医師夫妻を指名する。電話でさんざん2人を引っ張り回す犯人だったが、なぜか途中で身代金の受け取りを放棄し、男児は解放された。
 警察の捜査は、男児の ”生みの母” が犯人だったことを突き止める。男児は医師夫妻の養子だったのだ・・・。
 誘拐事件の背後に隠された ”二人の母” の愛が哀しい。そして、かつての男児は成長し、現在は養父の後を継いで医師となっている。ラストシーンで彼の示す優しさが胸を打つ。


 巻末の解説によると、このシリーズはTVドラマになっている。主演は松下由樹さん。彼女に恨みはないけれど、ちょっとイメージが合わないかなぁ。
 作中の緋色冴子さんは、”雪女を思わせるようなクールビューティ” として描かれてる。松下さんとはちょっとキャラ違いのような。

 じゃあ誰がいいかと考えてみた。とはいっても、40代の女優さんなんてあまり知らないし。
 そんななか、思いついたのは仲間由紀恵さん。でも、20代の頃と違って現在はちょっと太めかなぁ(失礼!)  やっぱりダメかしら?(笑)



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扉の影の女 [読書・ミステリ]


扉の影の女 (角川文庫)

扉の影の女 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/12/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 横溝正史・復刊シリーズの一冊。
 長編「扉の影の女」と中編「鏡が浦の殺人」を収録している。


「扉の影の女」

 金田一耕助のもとにやってきたのは、西銀座のバー・モンパルナスで働く夏目加代子。深夜に勤め先から徒歩で帰る途中、曳舟稲荷の路地から飛び出してきた男とぶつかってしまう。男が立ち去った後に落ちていたのは、血塗れのハット・ピンだった。

 ちなみにハット・ピンとは、主に婦人用の帽子に用いられる装身具で、落ちたり風で飛ばされないように帽子を留めておくものらしい。

 さらに、路地の奥に入った加代子が見つけたのは女性の死体。しかもそれは彼女の知人である江崎タマキで、若きプロボクサー・臼井銀哉(うすい・ぎんや)を挟んでの恋敵でもあった。

 加代子はそのまま現場から逃げてしまったが、新聞にはタマキの死体が築地の川で発見されたという記事が。何者かが死体を移動させたのだ・・・

 読んでいてちょっと驚いたのは、金田一耕助というキャラのイメージがかなり変わって感じられること。
 映画やドラマでの金田一耕助は、あまり押しが強くなく、人がいい、どちらかというと控えめなイメージで描かれることが多かったように記憶しているが、本書ではいささか異なる。

 もちろん依頼人の秘密は守るわけだから、警察から夏目加代子について聞かれても、あくまでトボけたままで協力をする。もちろん等々力警部もそのあたりはわかってて、”阿吽の呼吸” だ。
 事件の関係者から情報を得るときも、なかなか真実を話さない相手に対して押したり引いたりと、けっこう手練手管を駆使する。

 捜査の中で、終戦のどさくさで私腹を肥やし、財界への影響力を持つ ”戦後派の怪物”(いわゆる ”フィクサー” みたいな?) とも呼ばれる男とも出くわすのだが、金田一耕助は怯むことなく、堂々のタフ・ネゴシエイターだ。

 あまりこういう金田一耕助は記憶にないのだけど、映像での姿が本来のものではなかった、というか、彼のキャラクターの一面しか描いてこなかった、ということなのだろうか。

 もちろん終盤の謎解きシーンでも名探偵ぶりを見せつける。それまでに明らかになった状況や証拠に対して、別方向から光を当てることで事件の様相を一変させてしまうあたり、流石としか言い様がない。


「鏡が浦の殺人」

 鏡が浦海水浴場のホテルにやってきた金田一耕助。

 彼はホテルの屋上で、大学教授・江川が双眼鏡で沖のヨットを眺めているところに出くわす。読唇術(どくしんじゅつ)を体得している教授は、ヨット上の男女が交わしている不穏な会話を読み取っているようだ。

 しかし翌日行われた ”ネプチューン祭” で、美人コンクール審査員を終えた江川教授が原因不明の急死を遂げるという事態が起こる。
 教授に同行していた助手の加藤達子は「これは殺人だ」と主張する。なぜなら、教授が前日読み取った男女の会話は、何者かを毒殺する計画について語ったものだったのだ・・・

 例によって終盤には金田一耕助による謎解きが行われる。これもちょっと異色なのは、耕助がハッタリをかますこと。犯人によるさらなる犯行を防ぐためとはいえ、こんな行動もあまり記憶にない。


 本書は、金田一耕助のちょっと変わった一面が感じられる作品集、ということで収録作を決めたのかもしれない。



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コミュ障探偵の地味すぎる事件簿 [読書・ミステリ]


コミュ障探偵の地味すぎる事件簿 (角川文庫)

コミュ障探偵の地味すぎる事件簿 (角川文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/12/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 主人公・藤村京(ふじむら・みさと)は、いわゆる ”コミュ障”。
 他人と話すことはおろか目を合わせるのさえ苦手な彼だったが、大学には無事合格し、法学部の学生となった。

 ちなみに、彼の通う大学のモデルは千葉大学と思われる。最寄り駅が西千葉みたいだし。

 同期生の中に、たまたま小学校の時の同級生・里中がいたものの、彼は藤村くんとは真逆の対外交渉能力の塊のような男。その差の大きさに落ち込んでしまう藤村くんであった。

 そんな彼が学生生活の中でいくつかの謎に遭遇、それを解決していくことで、彼の周囲に、そして彼自身に起こっていく変化を描く連作ミステリ。


「第一話 論理の傘は差しても濡れる」
 入学後のガイダンスが終わり、各自の自己紹介が始まった。九死に一生の思いでそれを乗り切った藤村くんだったが、そのために精根尽き果ててしまい、気がつけば同期生たちはみな、教室を出て行ってしまっていた。
 そして教室の片隅には高級な傘の忘れ物が。同期生たちの自己紹介の内容を思い出しながら持ち主を突き止めようと推理を巡らせる藤村くんだが・・・
 言葉の断片や些細な事実から複雑な推理を組み立てていく様子は、短編ミステリの名作「九マイルは遠すぎる」(ハリィ・ケメルマン)をちょっと思い出してしまった。

「第二話 西千葉のフランス」
 里中に連れられて、服を買いに西千葉のセレクトショップを訪れた藤村くん。店を出た2人は同じ法学部の女子学生と出くわし、さらに彼女から不思議な噂を聞く。このセレクトショップではしばしば ”人が消える” らしい。実際、一週間前に知人が試着室に入ったまま消えてしまったのだという。
 藤村くんは里中、そして ”傘事件” で知り合った加越(かごし)さんとともに調べ始めるのだが・・・
 分かってみれば ”コロンブスの卵” だけど、それをきっちりミステリに仕立てるのは流石。

「第三話 カラオケで魔王を歌う」
 里中、加越さん、”人間消失事件” で知り合った皆木(みなき)さんらとともに総勢6人でのカラオケに参加することになった藤村くん。
 例によって歌の順番が回ってくるのを戦々恐々の思いで過ごす藤村くんだったが、そんな中、気持ちよく歌っていた加越さんが酔い潰れてしまう。誰かが、彼女が飲んでいたソフトドリンクをカクテルにすり替えていたのだ。
 加越さんを介抱しながら推理する藤村くん。6人しかいないカラオケボックスの中で、どうやってすり替えたのか、そして犯人の目的は・・・
 ”毒殺”(死んでないけど)ミステリとしてもよくできてる。ストーリーも面白いが、それよりも加越さんの選曲のセンスがスゴすぎる(笑)。

「第四話 団扇の中に消えた人」
 加越さん、皆木さん、そして里中が連れてきた経済学部の学生2人を加え、総勢6人で地元のお祭りに出かけることになった藤村くん。
 そのさなか、経済学部の学生の財布が掏(す)られてしまう。現場は狭い路地で、芋を洗うように混雑していることから、犯人はまだ現場から立ち去っていないと思われた。
 里中と加越さんは現場の人流をいったん止めてもらい、犯人探しを行うことになった。そこで藤村くんが一計を案じ、見事犯人を ”あぶり出す” ことに成功するのだが・・・
 いわゆる ”見えない人” のバリエーションなのだろうけど、こういうパターンを思いつき、それを堂々と使ってしまうのがスゴいと思う。
 さらに、皆木さんの意外な特技が炸裂する。読んでいて思わず目が点に。

「第五話 目を見て推理を話せない」
 法学部棟4階にはかつて「喫煙室」があった。しかし建物内が全面喫煙となったため、そこは簡易的な休憩室&カフェスペースになっていた。
 その「元喫煙室」に設置してあったデスクトップパソコンが盗まれてしまう。もともと利用者はほとんどなく、藤村くんが ”ラウンジ組” と呼んでいる少人数のグループが使うのみ。そしてその ”ラウンジ組” のメンバーたちは、仲間の一人である姫田を犯人と決めつけようとしていた。
 しかし犯行時の「元喫」は、カードキーが破損していて誰も入れない状態であった。それを知った加越さんは姫田犯人説に異を唱え、”ラウンジ組” のメンバーたちと激しく対立することに。
 里中から救援要請を受けた藤村くんは、密室からの盗難事件に挑むことになるが、事態は意外な方向に進展していく・・・


 本書の単行本時のタイトルは『目を見て話せない』だった。まさにタイトル通りの ”コミュ障” 青年だった藤村くんは、友人ゼロからのスタート。
 しかし ”事件” を解決するごとに仲間が増えていき、後半では藤村くんを中心とした ”探偵団” の様相を呈していく。

 探偵活動には関係者からの情報収集が欠かせないが、そこのところは里中が一手に引き受けてくれる。ワトソン役以上の貴重な相棒だ。
 それに加えて、元気溌剌を絵に描いたような加越さん、無口でクールな皆木さんと、タイプの違う二人の美女とお近づきになれて、けっこう羨ましい学生時代を送っている藤村くん(笑)。もっとも、”コミュ障” ゆえにまともに会話できないのはご愛敬だが(おいおい)。

 彼ら彼女らの後押しを受け、少しずつ藤村くんも変わっていく。そしてクライマックスとなる「第五話」終盤の謎解きシーンはまさに圧巻の一語。
 いままでの鬱憤を一気に晴らすかのような藤村くんの大活躍には、感動で胸が熱くなる。

 よくできた話を読んだ後はいつも思うことだけど、もう少しこの4人組の話が読みたかったなぁ・・・いつか書いてくれないかなぁ・・・



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短編ミステリの二百年3 [読書・ミステリ]


短編ミステリの二百年3 (創元推理文庫)

短編ミステリの二百年3 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/08/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 短編ミステリの歴史を俯瞰するアンソロジー、全6巻の3巻目。

 本書には11編を収録。


「ナボテの葡萄園」(メルヴィル・デイヴィスン・ポースト)[1912]
 一人暮らしの老人マーシュが銃で殺される。彼に雇われていた男・テイラーが逮捕されるが、近所に住む娘が自ら犯人だと名乗り出る。しかし、裁判を傍聴していた ”わたし” の伯父アブナーは、意外な真犯人を指摘してみせる・・・
 ミステリとしてのフェアさに難があるけど、作者が語りたかったのは法廷でのドラマチックな展開だったのだろう。

「良心の問題」(トマス・フラナガン)[1952]
 舞台は軍事政権に支配されたヨーロッパの小国。ユダヤ人の収容所から生き延びた男・ブレマンが死亡する。ナチスの逃亡犯による殺人を疑う憲兵少佐テナントは、コートン医師から事情を聞こうとするが・・・

「ふたつの影」(ヘレン・マクロイ)[1952]
 ルーシーの母親は、階段から転落して亡くなっていた。父テッドは幼い娘のために保育士を雇ったがまもなく解雇、二人目の保育士としてやってきたのが本作の主人公エマだ。しかし今度はテッドの叔母が、階段からの転落死を遂げる。
 空想癖があり、しばしばイマジナリーフレンド(架空の友達)のことを語るルーシー。しかしエマは、その言葉の中に幾ばくかの真実と、犯人の正体についてのヒントが含まれているのではないか、と考え始める・・・

「姿を消した少年」(Q・パトリック)[1947]
 フォスター夫妻は女学校を経営していた。しかし夫が亡くなり、経営を引き継いだミセス・フォスターのもとに、夫の親族の女性たちが押しかけて居候となってしまう。彼女たちの横暴なふるまいで夫妻の一人息子ブランソンの生活は一変してしまう。なんとかおばたちを追い払おうとして一計を案じるのだが・・・
 母親への異常なまでの執着を示すブライアンが不気味。

「女たらし」(ウィルバー・ダニエル・スティール)[1950]
 女性をたらし込むことにかけては人後に落ちないビー・ジェイ。狩りに出かけて道に迷い、やっとの事で一軒の農家に辿り着く。そこの夫婦に宿を借りるが、妻の方にさっそく粉をかけ始めるビー・ジェイ(笑)。呆れると同時に感心もした。女性にもてようと思ったら機会を逃さず努力を惜しまず、なのだね(おいおい)。

「敵」(シャーロット・アームストロング)[1951]
 若手弁護士ラッセルがキッティンガー判事の家を訪れた時、戸外で騒ぎが持ち上がる。近所に住む少年フレディと、マトリンという中年男が言い合いをしていたのだ。子どもたちが可愛がっていた犬をマトリンが殺したのだとフレディは言い張るのだが・・・

「決断の時」(スタンリイ・エリン)[1955]
 過剰なまでの自信家のヒュー。彼の家の隣に引っ越してきたのは奇術師のレイモーン。二人の気性は水と油で、ことごとく衝突を繰り返し、ついにはある ”賭け” をすることに・・・

「わが家のホープ」(A・H・Z・カー)[1969]
 成績優秀で学生新聞の編集長を務めるティムは、マークル家のホープだ。しかしティムは父親から頼み事をされる。自分の務める会社の社長の息子・デニーを学生新聞のカメラマンとして使ってやってほしいと。
 デニーは女遊びと車を飛ばすことにしか興味のないどら息子だった。しぶしぶ受け入れたティムだが、その矢先、町でひき逃げ事件が起こる。犯人はデニーではないかと疑うティムだったが・・・

「ひとり歩き」(ミリアム・アレン・ディフォード)[1957]
 仕事にも家庭にも倦んでしまったラーセン。ある日、仕事をサボって郊外の町へ出かけてきた。そこで彼は、十代の少女が男に拉致される場面を目撃してしまう。少女は死体で発見され、やがて容疑者が逮捕されるが、それはラーセンが目撃した男とは別人だった。
 冤罪事件であることを知りながら、それを言い出せずに悶々とするラーセン。その間にも裁判は進み、やがて死刑判決が・・・

「最終列車」(フレドリック・ブラウン)[1950]
 男が酒場で最終列車まで時間を潰している。時刻は迫ってくるが、男はなかなか腰を上げない・・・。昔、何かのアンソロジーで読んだなぁ。ちょっと幻想的で、一種のファンタジーに属する話かと思う。

「子供たちが消えた日」(ヒュー・ペンティコースト)[1958]
 9人の子どもたちを乗せたスクールバスが、子どもたちとともに姿を消してしまう。場所は一本道。片側は崖、反対側は湖。どこからもバスは発見されず、一本道の両端にいた人間たちは、どちらからもバスは出てこなかったと証言する。
 なかなか壮大な不可能犯罪なのだけど、このトリック、誰か気づきそうなものだけどね。とはいっても、消失トリックがメインではなく、”バスを消してみせた” 理由のほうが本作のキモだが。


 ミステリとしてよくできてるな、って思ったのは
 「良心の問題」「ふたつの影」「敵」「子供たちが消えた日」。

 「ナボテの葡萄園」はなぁ・・・探偵役だけが知ってる情報が多すぎて、人によったら怒り出すかも(まさかね)。

 サスペンスまたはクライムストーリーなのは
 「姿を消した少年」「わが家のホープ」「ひとり歩き」かな。
 「姿をー」は、私に言わせればホラーだけど。

 いわゆる ”奇妙な味”(分類が難しい)なのは
 「女たらし」「決断の時」「最終列車」

 巻を追うにつれて、ミステリ度がちょっとずつ上がってるとは思うけど、「女たらし」や「最終列車」を選ぶところなど、相変わらず選者の方のミステリを計る尺度は謎(笑)。



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