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ダーク・ブルー [読書・冒険/サスペンス]


ダーク・ブルー (講談社文庫)

ダーク・ブルー (講談社文庫)

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/08/10
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 海洋調査のため、深海潜水艇「りゅうじん6500」と支援母船「さがみ」はフィリピン沖へ向かう。しかし武装テロリストの襲撃を受けて「さがみ」は占領され、船員は人質となってしまう。
 彼らの目的は海底に沈む「宝」の回収だった。現場海域への台風の接近というタイムリミットを抱え、「りゅうじん」パイロット・大畑夏海(おおはた・なつみ)はテロリストを乗せて深海へ潜航することに・・・


 主人公は大畑夏海。国立研究開発法人JAOTEC(日本海洋科学期間)で深海潜水艇「りゅうじん6500」のパイロットとして働いている。
 海洋調査のため、「りゅうじん」と支援母船「さがみ」はフィリピン沖へ向かうことになった。同乗するのは栄央(えいおう)大学工学部の奈良橋教授と研究員・久遠蒼汰(くどお・そうた)。今回の調査航海は、彼らが開発して「りゅうじん」に搭載したマニュピレーター(ロボットアーム)の試験も兼ねていたのだ。

 蒼汰は夏海の恋人だったが、現在は冷戦状態になってしまっている。ロボットアームの研究開発が、将来的に潜航艇の無人化につながると夏海は思ったのだ。

 「さがみ」がフィリピン近海まで航行してきたとき、故障で救援を求める漁船に遭遇する。しかし乗っていたのは武装したテロリスト集団だった。彼らは瞬く間に「さがみ」を制圧してしまう。

 テロリストによると、「宝」を積んだ輸送船が嵐で沈んだのだという。その沈没地点を確定し、「りゅうじん」を用いてそれを回収することが彼らの目的だった。

 しかし数日後には台風が接近してくることが判明する。海が荒れれば、潜航艇の運用はできず、もちろん回収作業も不可能になってしまう。
 タイムリミットを抱えながらも、「さがみ」は総力を挙げて沈没船の発見に成功、そして夏海はテロリストのメンバー1名を伴い、深海へ潜航してゆく・・・


 冒険アクションと云うよりは、この事件に関わることになったメンバーそれぞれのドラマにスポットが当たっていく。

 夏海と蒼汰の "諍い" も、潜水士たちとロボットアーム研究者たちの間の反目が根底にある。どちらも海底探査の安全化・効率化という目標は同一ながら、立場の違いが対立を生んでしまう。

 「さがみ」船長の江上安久(えがみ・やすひさ)は、厨房で副料理長を務める女性・笠松文佳(かさまつ・ふみか)に対して "負い目" を抱えており、今回の航海を最後に船を下りる決断をしている。

 奈良橋俊彦教授は、軽口ばかり叩く、いたずらっ子がそのまま大人になったようなやんちゃなキャラで、テロリストたちの要求に逆らったり、あちこちに "仕掛け" を施してまわるなど、前半ではもっぱらトラブル・メーカーとして描かれている。
 助手の蒼汰も、もっぱら彼の "お守り役" としての苦労が目立つ(笑)。しかし教授の "仕込み" が終盤で効いてくるあたりは上手い。

 その他にも、航行に関わる船員たち、海底探査を受け持つ調査員、「りゅうじん」整備を担当する技師たちなど、さまざまな人物が登場する。
 台風の接近によるタイムリミットが迫り、短時間で広大な海域を探査することにる隊員たち。テロリストからの過大な要求も加わり、悪条件が重なる。しかしそんな中でも常に最善を尽くし、自らの職務を全うしていく姿は、いかにもその道の "プロ" らしい。

 クライマックスは、深海に沈んだ輸送船の残骸から「宝」を回収しようとする「りゅうじん」、そしてそれを操縦する夏海の奮闘だろう。
 しかしそれも、潜水艇単独でできることではない、母船にいる支援チームからの的確なサポートなしには、安全かつ確実な成功は望めない。

 そして、実は「宝」の回収後こそが最大の危機となる。果たして、テロリストたちは「さがみ」の船員たちを生きたまま解放するのだろうか・・・?


 最初は海洋版『ダイ・ハード』みたいな作品かと思っていたのだが、アクションシーンはあまり多くなく(終盤にはそれなりにドンパチがあるが)、「さがみ」側・テロリスト側の両方を含めて、人間のドラマにウエイトを置いた作品といえるだろう。
 "スカッと爽やか" 系の派手な冒険活劇というわけではないが、これはこれでなかなか読ませると思う。



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