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まぼろしの怪人 [読書・ミステリ]


まぼろしの怪人 (角川文庫)

まぼろしの怪人 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/12/22

評価:★★☆


 横溝正史・ジュヴナイル復刊シリーズ。
 宝石を狙う怪盗・"まぼろしの怪人"。対するは探偵少年・御子柴進(みこしば・すすむ)と敏腕記者・三津木俊助(みつぎ・しゅんすけ)、そして等々力警部。

 長編と銘打ってはあるけれど、(ゆるやかにつながってはいるが)章ごとにほぼ独立したエピソードの連作短編集になっている。


「第一章 社長邸の怪事件」
 警視庁の等々力警部のもとへ舞い込んだ脅迫状。差出人は神出鬼没の怪盗・まぼろしの怪人。内容は大手新聞・新日報社社長・池上三作(いけがみ・さんさく)の姪・可奈子が所有する宝石を、来るクリスマスの夜に頂きに参上する、というもの。
 中学卒業後、新日報社で給仕(雑用係)として働いている御子柴進は、まぼろしの怪人が過去に盗難を成功させた三軒の屋敷を調べたところ、みな同じ技師の設計によるものと判明、池上社長の家もまた同じ技師の設計によるものだった。進は、この4軒の家には外部へ通じる隠し通路があることを突き止めるが・・・


「第二章 魔の紅玉」
 ある日の夕刻、銀座の歩道を歩いていた進は挙動が怪しいサンドイッチマンを発見、後をつけるが、それは罠だった。
 不覚にもまぼろしの怪人の手下に捕らえられてしまった進は、意味不明の文章を朗読するように強制される。ワケのわからないままに解放されるが、その翌日、「社長邸の怪事件」で捕縛され、拘留されていたはずのまぼろしの怪人が脱走したことを知る。進は図らずもそれに協力してしまっていたのだ。
 折しも、産油国の王子・アリ殿下が訪日中で、藤川外務大臣をはじめ、参加者が300人という大パーティーが催されることになった。殿下が所有するルビーが狙われるとみて、進たちはパーティーに入り込むのだが・・・
 まぼろしの怪人が脱獄に使用するトリックは、現代の目から見たら「いくらなんでもそれはないだろう」なんだが、当時のジュヴナイルではよく使われるものではある。時代を考えたら、まあ目をつぶりましょう(笑)。


「第三章 まぼろしの少年」
 隅田川の花火見物に、屋形船で乗り出した進、三津木記者、そして池田社長たち。そこへ飛び込んできたのは貴公子然とした十七、八歳ほどの美少年。
 義経の八艘飛びもかくやとばかりに、船から船へと飛び回って逃げていった彼は、宝石盗難の容疑者として逮捕され、連行される途中を逃げ出してきたところだった。
 盗難の現場とみられる部屋では、矢島謙蔵(やじま・けんぞう)という男が殺されていた。彼は銀座の宝飾店・天銀堂で働く宝石職人だった・・・


「第四章 ささやく人形」
 銀座のデパートで開かれた防犯展覧会。その会場の一角で、進は謎の声に立ち止まる。その声は告げる。池田社長の娘・由紀子を誘拐したと。
 彼女を解放する条件は、進の目の前に置いてあるスーツケースを持って、今夜10時に両国橋近くにいる海運丸という船に来いというもの。
 要求通りに海運丸に来た進は、由紀子は赤坂のホテルにいると告げられる。ホテルに着いた進は由紀子を発見するが、彼女のいた部屋には世界的声楽家・桑野さつきの刺殺死体が・・・

 第四章は本書の分量のおよそ半分を占めるエピソード。ここに来てまぼろしの怪人の事件は、桑野さつきを含む三人の娘への復讐の物語となっていく。
 本書は対象年齢が中学生と云うことで、けっこう血なまぐさい描写もあり、殺人も複数起こる。

 "変装の名人" という設定は、現代ではとてもじゃないが無理がありすぎて使えないネタなのだが、それが「可能」だと設定すると、けっこう面白い展開が生まれる。
 第二章などは、誰が怪人の変装なのかと登場人物たちが疑心暗鬼になる描写があり、それをまた逆手にとった流れがやはり上手いと思う。見た目では変装が見破れないという "特殊設定もの" と割り切れば、楽しく読める。


 本書のヒロイン(?)である池田社長の娘・由紀子嬢(中学1年・13歳)は、冒頭から登場しているのだが、本格的にストーリーに絡むのは後半から。

 進くんは探偵の才能のおかげで池田社長の覚えめでたく、本書では社長の家に住まわせてもらっているという設定。進くん(推定16歳)、その気になれば逆玉が狙えるぞ~なんて思ってしまう私は、心が汚れているのでしょう(笑)。



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