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透明人間は密室に潜む [読書・ミステリ]


透明人間は密室に潜む (光文社文庫)

透明人間は密室に潜む (光文社文庫)

  • 作者: 阿津川 辰海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/09/13

評価:★★★★


 作者初の作品集だという。発表当時、各種ミステリランキングで上位に入ったのも記憶に新しい。文庫で70~100ページの分量がある "中編" を4編収録。


「透明人間は密室に潜む」
 細胞の変異によって全身が透明になってしまう "透明人間病" が発生、日本だけで10万人、全世界で700万人の罹患者(およそ1200人に1人くらいの割合か)が出ているという「特殊設定ミステリ」。
 透明になるのは人体だけなので、もちろん服はそのまま。食べたものも、消化されるまでの一定時間は不透明(外から胃の中が見えている状態)なまま。要するに、"完全な透明人間" になろうと思ったら、いろいろ制約があるわけだ。
 それにも関わらず、主役である透明人間病患者の女性が殺人を犯すという「倒叙ミステリ」である。
 物語は、殺人計画の準備を着々と進める彼女と、その行動に不審なものを感じた夫との2つのラインで進んでいく。そしてついに殺人事件が起こる。被害者はT大学教授・川路昌正(かわじ・あきまさ)。透明人間病研究の大家だ。
 現場は密室で、文字通り "透明人間が密室殺人を行った" わけで、彼女がどんなトリックを弄したかにまず注目してしまうが、むしろ殺人に至った動機のほうがメインの謎となる。
 「いくらなんでもそれはないだろう」とも思うが、"こういう世界" になってしまったら、絶対あり得ないとは言えないとも思う。トリックも動機もよく考えられたもので、たしかに "この世界" でしか成立しないミステリだ。


「六人の熱狂する日本人」
 アイドルグループ『Cutie Girls』のライブがあった夜、殺人事件が起こる。被害者も被疑者も『Cutie Girls』のファンで、被疑者は犯行を認めていた。
 しかし、裁判員として選ばれた6人が、偶然にもみな『Cutie Girls』のファンだったことから、簡単に終わると思われていた審議は紛糾する。
 映画『12人の怒れる男』のパロディだが、裁判員に選ばれた各メンバーの言動が抱腹絶倒もの(みな、立派なアイドルオタクだから)。ファンであっても、拘るところは人それぞれで、それに対する評価も様々。ゆえに各人が考える量刑もまちまち。ほとんどの部分が会話で進行するので爆笑喜劇の趣きだ。
 彼らの議論を見守る裁判官の皆さんも呆気にとられるばかり。どんなオチになるかと思えば、これも意外ながら納得のラスト・・・いや、これで納得してはいけないんだけど、ノリと勢いで押し切られてしまう(笑)。


「盗聴された殺人」
 探偵事務所の調査員・山口美々香(みみか)の特殊技能は、異様なまでに聴力が鋭いこと。過去に、足音を聞いただけで殺人犯を見つけ出したこともある。
 彼女の相棒となるのは事務所の所長である大野糺(おおの・ただす)。彼女の聴覚から得られた手がかりをもとに、推理していくのは彼の役目だ。
 2人のもとに持ち込まれたのは、浮気調査だった。夫・国崎昭彦が妻・千春の素行を疑ったのだ。夫妻の自宅に盗聴器を仕掛けたところ、夫の留守中に千春が自宅に愛人を連れ込んでいたことが判明する。ところが事態は意外な展開を見せる。千春が自宅で撲殺死体となって発見され、盗聴器には殺人の場面が録音されていたのだ。
 糺は美々香にその場面を聞かせ、犯人を突き止めようとするが、彼女の耳に聞こえてきたのは謎の不協和音だった・・・
 糺は音のみを手がかりに犯人にまでたどり着くのだが、その過程が秀逸だ。この2人は長編『録音された誘拐』にも登場してるとのこと。文庫になったら読みます(笑)。


「第13号船室からの脱出」
 タイトルは「十三号独房の問題」(ジャック・フットレル)のもじりだろう。刑務所からの脱獄を描いた古典名作短編ミステリだ。
 本作では、東京湾をクルーズする豪華客船の中で「脱出ゲーム」が開催される。人気推理作家・緑川史郎の書き下ろし脚本による企画だ。
 高校生のカイト(僕)、同級生のマサルとその弟・スグルもこのイベントに招待客として参加していた。
 ゲームの内容は、船内で「殺人事件」が起こり、それに伴って5つの問題が提示される。参加者は事件について推理しそれに答えていく、というもの。
 しかしゲーム開始後、カイトとスグルは何者かに拉致されて船室に閉じ込められてしまう。誰が何のために自分たちを "誘拐" したのか。懸命に推理するカイトは、ある結論に辿り着く。"犯人" の意図に気づいたカイトは、それを出し抜こうと頭を巡らせる。
 一方、船内で起こった「殺人事件」のほうも並行して描かれる。こちらの "真相" もよく考えられたもの。
 この2つのラインが終盤で1つにつながるという構成も上手い。
 後半では事態は急転直下、そしてラストでは意外な "からくり" が明らかに。文庫で100ページと本書で一番長いが、それに見合うくらい凝ったつくりになっている。



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