よっつ屋根の下 [読書・恋愛小説]
評価:★★★☆
父・平山滋、母・華菜(かな)、息子・史彰(ふみあき)、娘・麻莉香。
「海に吠える」
「君は青い花」
「川と小石」
「寄り道タペストリー」
「ひとつ空の下」
上にも書いたように、本書はミステリではないが、要所要所に ”伏線” が仕込んであって、あとあとの物語でそれが効いてくる。
夫婦が別居に至った理由は物語の冒頭で明かされている。滋は自分の正義を貫いた結果だったのだが、いくら理屈が正しくとも、感情がそれを受け入れないこともある。
本書はその過程を丁寧に追っていき、最終話「ひとつ空の下」で4人が選んだ(というか、自然とそういう形に辿り着いた) ”家族の形” を示して終わる。
もうヒグラシの声は聞こえない [読書・恋愛小説]
高校3年生の夏と言えば、受験生だったら勉強の追い込みの時期だ。
物語の冒頭から、ひぐらしの特異な振る舞いが目立つ。
日時を決めた約束をしないのは、
幼馴染みであった浅野の存在を忘れていたことから、
人を人たらしめているのは何か。
これも恋愛ものの定番のひとつかも知れない。
ある種のビタミン欠乏から記憶障害が起こるドキュメンタリーもあった。
本書を読みながら、ひぐらしが抱えている記憶障害は
それは中盤過ぎに明らかになる。
この手の作品で架空の疾病を出すのは善し悪しかなあ。
出てくるキャラにはとても好感を持った。
ヒロインのひぐらし嬢は、過酷な運命を背負いながらも
島津君も、何よりもひぐらし第一に考えて行動する誠実な人柄で
そして、浅野さんがまたいいねぇ。
ラブ・ストーリーとしては、私は今ひとつのめり込めなかったけど
君の嘘と、やさしい死神 [読書・恋愛小説]
他人から頼み事をされると「嫌だ」と言えない性分のせいで
あちこちから ”仕事” を仰せつかって(押しつけられて)
9月開催の文化祭へ向けて忙しい日々を送っている。
文化祭実行委員長の高遠から、新たな ”仕事” を押しつけられる。
「参加型推理ゲーム」のテストプレイヤー。
カップルの男女が校内の離れた場所からスタートし、
携帯電話を使わずに相手を探し出す、というもの。
携帯電話を持っていない女生徒がいるとのことで、
百瀬はその子を探し出すことになる。
人目を引く美少女だが、口は悪く性格は強引(笑)。
自分を探し当てた百瀬に対し、さっそく ”ある計画” への協力を求める。
嫌と言えない百瀬は、ずるずると彼女の計画へ引っ張り込まれてしまう。
体育館のステージを乗っ取って「落語」をすること。
個人参加の企画が通らなかったことから、出し物の合間に
強引にステージに上がってしまおう、というわけだ。
その理由は終盤に明かされる。ちなみに、タイトルにある「死神」とは
作中に登場する古典落語の演目のひとつなのだが・・・
彼女の熱意に負けてしぶしぶ協力を始める。
しかし、玲と共に計画実行の準備に奔走しているうちに、
百瀬は次第に彼女に惹かれていく。
読んでいてまず感じるのは、百瀬の行動が歯がゆくて仕方がないこと。
優柔不断と言うか意気地がないというか。
ある ”トラウマ” が原因だと後半になって明かされるのだが、
それにしても「人がいいにもほどがある」。
引っ張り回すような強引なお嬢さんとして描かれる。
しかしこれも、後半になるとその理由が明らかに。
なんとなく予想がたつ。
そして読んでみると、その予想通りの展開を迎える。
まあ、”そういうもの” を期待して読む人からすれば
「期待を裏切らない」作品とは言える。
映画やドラマになっているところをみると、
”恋愛ものの定番のひとつ” として、一定の需要があるのだろう。
惹句の最後にはこうある。
「温かい涙が溢れる、究極の恋愛小説」
これはたぶん、ラストの25ページほどを指していると思われる。
泣けなかったといった方がいいかな。
私自身はもともと涙もろい人間だ。
TVや映画を見ていてもすぐ泣いてしまうし、小説でもよく泣く。
「そんな作品で」とか「そんなシーンで」と思われるようなところでも
簡単に目が潤んでしまう人間だ。
そのうち、朝陽を拝んだだけで
号泣してしまうんじゃないかと心配している(笑)。
(半分は冗談だが半分くらいは本気で心配してる)
別に無理して泣かないようにしてたわけじゃないよ。
主役カップルのキャラは魅力的だ。
百瀬はダメ人間だったが、最後は立派になったし、
玲ちゃんのツンデレぶりも愛おしい。
感動的な描写も台詞もシーンも多々ある。
終盤には、そんな感動ポイントがてんこ盛りだ。
本書を読んで感涙にむせぶ人は多かろうと思うし、理解はできる。
私は10代のころ、山口百恵主演のドラマや映画を観て
号泣していたんだよねぇ。
だからたぶん、この頃の私が本書を読んだら
もっと違う反応が出てきたんだろうと思う。
トシとって、”涙腺を刺激するポイント” が
変わってきた(ズレてきた?)のかなぁとも思う。
ビギナーズ・ラボ [読書・恋愛小説]
製薬会社・旭日製薬の総務部で働いている。
そこで滝宮千夏という車椅子の女性に出会う。
全身の筋力が衰えていき、やがて死に至る。
治療法はなく、患者の絶対数が少ないために
治療薬を開発している製薬会社もない。
なんとかラルフ病の治療薬を彼女に届けたいと願うようになる。
「テーマ提案」に応募することを決める。
全社員を対象に、新規事業の提案を受け付けるもので、
毎年30テーマほど応募があり、そのうち2~3テーマが採用される。
しかし同期入社の研究員・綾川理沙の助けを得て見事採用を勝ち取る。
丁々発止と交わされる質疑応答のシーンも迫力十分。
ここは大手製薬会社の研究員という作者の経歴が生きているのだろう。
メンバーは恵輔と理沙の他に2人だけ。
その一人、春日は顕微鏡で細胞を見るのが生きがいだが、その反面
他者とのコミュニケーションがとれない、超がつくほど内気な性格。
もう一人の元山は、無駄なことは一切しないという合理主義者で
およそ協調性というものがかけらもない。
プロジェクトはそこで打ち切りになってしまう。
恵輔は意外なリーダーシップを発揮して、チームをまとめていく。
ここまでが「Phase 1」。主に恵輔視点からの物語が綴られる。
ここからクローズアップされてくるのが理沙さんだ。
”爆弾娘” の異名を取るほど威勢がいいお嬢さんなんだが、
内面は意外と繊細(失礼!)。
「Phase 1」での行動の端々から感じ取れるのだが
千夏さんしか眼中にない恵輔は、全くそれに気づかない。
様々な困難を突破させてきたわけで。
理沙さんはあえて自らの感情を封印し、
恵輔のミッション達成に献身的に協力する。
ああ、なんてよくできたお嬢さんなんだろう・・・
こういう人こそ、幸せにならなきゃいけないよねぇ・・・
「Phase 1」では、製薬会社の中の様々な仕事や意思決定の過程、
会社の社会的役割など ”お仕事小説” としての面も大きかったのだけど
「Phase 2」では、理沙さんを巡るラブ・ストーリーとしての要素が
俄然大きくなってくる。
理沙 → 恵輔 → 千夏 という ”片思いの連鎖” が
どう決着するのかが、物語のテーマとして浮上してくる。
(これ実際にやったらパワハラだろうなぁ)
それ以外にも、希少な症例故に治療法/治療薬の開発から
取り残されている人々の存在なども描かれる。
「製薬会社はボランティアではない」
「利益を上げなければ会社の存続だってできない」
という正論をぶつけてくる者もいる。
実際、新薬の開発には膨大な資金と時間がかかる。
メジャーな病気(高血圧とか糖尿病とか)の薬を1種開発する方が
製薬会社ははるかに儲かるのだろうし。
読みながらけっこういろんなことを考えさせられる小説でもある。
空飛ぶ広報室 [読書・恋愛小説]
評価:★★★★☆
航空自衛隊の花形、ブルーインパルスに入ることを夢見てきた空井大祐。
しかし彼は不慮の事故に襲われ、足を負傷してしまう。
懸命のリハビリにより、日常生活に支障は無いまでに回復したものの、
戦闘機パイロットとしての将来は断たれてしまう。
失意の彼に示された異動先は航空幕僚監部広報室だった。
ジャーナリスト志望だった稲葉リカ。
大手の放送会社・帝都テレビに入社し、配属先は希望通り報道部記者。
事件が起これば、被害者の涙も意を介さず我武者羅に取材する日々。
しかし次第に失点を重ね、同期に水をあけられるようになる。
そしてついにニュースバラエティ番組のディレクターへ異動。
リカにとっては左遷でしかなかった。
そんな二人の出会いは最悪だった。
幕僚監部広報室へ取材に現れたリカは大祐に言い放つ。
「だって戦闘機って人殺しのための機械でしょう?」
東日本大震災を始め、近年日本を災害が襲う頻度が増し
そのたびに自衛隊の活躍が報じられる。
近隣諸国の軍事的脅威も増してきて、
昔よりも格段に理解が進んできたとは思うが
まだまだこんな風に思う人も少なくないだろう。
この物語は、そんな二人が衝突しながら
少しずつ相手のことを理解していき、
やがて心を通わせるようになっていくまでを綴っている。
二人の物語を彩るのは、ユニークなサブキャラクターたち。
広報活動のエキスパートの比嘉一曹、
比嘉にライバル心を燃やす片山一尉、
"残念な美人"の柚木三佐、生真面目な槇三佐、
そして脱力系に見えてしたたかな広報室長の鷺坂一佐。
彼らそれぞれの背景なども面白いのだけど、
(特に柚木と槇の学生時代の話では、有川カラー全開だ)
ゲストキャラの話もまた絶品。
特に、機体整備士だった父を持つ藤川士長のエピソードでは
涙腺が崩壊してしまってどうにも困った。
今これを書いている時も、思い出すと目頭が熱くなってくる。
私はつくづくこの手の話に弱いんだなあと思う。
組織の中で仕事を続けていけば、
意に沿わぬ異動というものも起こる。
「なんでオレがこんな仕事を・・・」って
思うこともあるだろう(私はあったよ)。
でもどんな仕事でも、それが存在しているのは
"必要な仕事" だから。だから誰かがやらなければならない。
「今いる場所で頑張れない奴は、どこに行ったって頑張れない」
ついつい不満を言いたくなる自分に対して、
常々言い聞かせている言葉だ。
なかなか言葉通りにはできないんだけどね(^^;)
大祐とリカの二人も、意に沿わぬ異動先で
新しい仕事に対するやりがいを見つけ、
ついでに大事な人も見つけてしまう(笑)。
とは言っても、有川浩の作品には珍しく、
主役カップルについてはラブ要素はやや控えめか。
(そのぶん、柚木と槇に集中しているかな)
本書は綾野剛と新垣結衣主演でTVドラマ化され、
ラストで大祐とリカは結婚しているとのこと。
(ドラマ観てないんです)
しかし原作では、本編終了時の二人の関係は
「友人以上恋人未満」という感じで、
その2年後、東日本大震災直後を描いた追加エピソード
「あの日の松島」でも、その仲は進展していない。
(というか2年間放置状態だった?www)
解説を書いてるのは、鷺坂室長のモデルになった人なんだが
その中で二人の関係をあえて進展させなかった理由を
「自衛隊広報とマスコミは、安易になれ合ってはいけない関係」だから、
と推量している。
でも、「小説世界の中でも、二人にハッピーエンドを与えてほしい」
ともある。
私も全面的に同意見だ。
続編が無理なら短編でもいいので、その後の二人を描いて欲しいなぁ。
日本各地を異動する自衛隊員と大手TV局員。
当然ながら遠距離恋愛になるだろうし、
しかも仕事に誇りを持って取り組んでいる二人なので
結婚したらしたで生活はかなりたいへんになるだろうけど、
せめてフィクションの中では二人に幸せになって欲しいなあ。
ストーリー・セラー [読書・恋愛小説]
評価:★★★
もし、最愛のパートナーが余命幾ばくもない、と宣告されたら・・・
古今東西、このテーマで幾多の恋愛小説が書かれたと思うのだけど
有川浩がこれで書いた、ってことがある意味衝撃ではあった。
だってねえ・・・有川浩の作品って基本的にラブコメで、
ラストはハッピーエンドで終わる、ってのが
お約束のように思ってたからね。
だからこういう、どう書いても暗くて重苦しくて
悲しい話にならざるを得ないものには縁がないと思ってたんだけど、
どういう心境の変化なんだろう、って考えながら読んだ。
「side:A」と「side:B」という2つの中編からなる本書。
基本設定はどちらもほぼ同じ。
作家希望の女性がいて(「side:B」ではすでに作家デビューしているが)、
たまたまそれを読んだ男性がその小説に惚れ込み、
さらには作者である彼女にまで惚れ込んで一緒になる。
女性は男性のサポートのもと、順調に作家生活を続けていく。
しかし幸福な時間は長くは続かず・・・というもの。
「side:A」では女性が不治の病にかかる。
その名も「致死性脳劣化症候群」。
複雑な思考をすると脳が劣化し、やがて死に至る。
生き続けるためには作家を辞めるしかない。しかし、
小説を書くことを生き甲斐にしてきた彼女にそれは可能なのか。
「それは無理だろうなあ」と思いながら読んでた。
おそらく彼女は小説を書くことを辞めない。それは必然的に、
そう遠くない未来において二人に別れの時が訪れるということだ。
このとき、唐突だが私の頭の中に
「猿は木から落ちても猿だが、
政治家は選挙に落ちればただの人になる」
って言葉が浮かんだ。
昭和の頃の政治家の言葉だったと思うんだが、
いったいどんな思考回路をしてんだ私。
「小説家が小説をかくことを辞めたらただの人になる」のだろう。
「ただの人」でいられないから作家になった彼女に、
それを求めるのは、「生きたままの死」を強いること。
なんだか暗いことばかり書いてるが、
それでも二人の出会いから結婚生活に至る序盤~中盤は、
まさにいつもの有川節が満開で楽しく読める。
終盤に至っても、単に重苦しいばかりでなく、
ここにも有川らしさがかいま見えるけど、
今までの作品群ではお目にかかったことのない場面が続いて、
こんな表現が妥当かどうかはわからないが、ある意味 "新鮮" だ。
そして感動のうちに「side:A」を読み終えた読者は
続けて「side:B」へと読み進めるのだろうが、
冒頭でやや戸惑うかも知れない。
実はこの2作の間にはある特殊な "関係" があるのだが
それは読んでのお楽しみだろう。
そして「side:B」のラストまで至ると、
読者の頭の中には再び「?」マークが飛び交うだろう。
このラストを、読者はどう評価するだろう。
もちろん受け取り方は様々だろうが
決して明るく楽しいとは言えない展開の物語の最後に、
ちょっぴり "救い" を見せたかったのかも知れないな、とは思った。
最後に余計なことを。
「side:A」「side:B」どちらにも、
"作家である妻を献身的に支える夫" が登場するが、
有川浩自身もまた既婚で、旦那さんがいる。
『図書館戦争』の発想に至ったヒントを与えてくれたりと
この旦那さんも奥さんを強力にサポートしているみたいだけど、
いったいどんな人なんだろう、ってふと思った。
この作品には、二重写しのように作者ご夫妻の姿もダブってくる。
実話の部分もけっこうありそうな気がするんだけどどうだろう?
そして旦那さんは、本作を読んでどんな感想を抱いたのだろう?
植物図鑑 [読書・恋愛小説]
評価:★★★☆
最近、本書を原作にした映画が公開されたけど
別にそれに合わせて読んだわけではない。
私の家には "積ん読" 状態の本が山ほどあって
とにかく毎日その消化に追われている。
とはいっても、気になる新刊も日々発売されるし
在庫と新刊をどんな配分で読むのかもなかなか悩ましい。
というわけで、私なりに読む順番を作ってリスト化し、
それに沿って読んでるわけで、
本書を読む時期が映画と重なったのは単なる偶然である。
前置きが長くなってしまった。
映画のCMもTVでけっこう流れているので
何となくストーリーを知っている人も多いかもしれない。
ヒロインのOL・河野さやかは、仕事帰りに自分のアパートの前で、
"行き倒れ" ていた青年・樹(イツキ)を "拾う"。
イケメンで性格も穏やか、そして家事万能のイツキは、
その日からさやかの居候となり、
スーパー家政婦として大活躍を始める。
さやかはイツキの "正体" に疑問を抱きながらも、
彼との共同生活を始める。
名前しか名乗らないイツキだが、
植物に対して尋常ではない知識を持ち、
やがて二人は週末ごとに、ご近所の「雑草」ならぬ
「野草狩り」に勤しむようになる。
イツキは採った植物の調理についても玄人はだしの腕のさえを見せ、
さやかは彼の振る舞う"野草料理"にすっかり魅せられてしまう。
彼女は "胃袋" までガッチリと掴まれてしまったわけだ。
しかし幸せな日々も突然、終わりを迎える。
イツキとの生活に喜びを感じ、彼に対する愛情が高まってゆく中、
突然さやかの前からイツキは姿を消してしまう・・・
ラブストーリーを書かせたら、
目下のところ右に出るものはいないであろう有川浩。
本作でもベタ甘な、現代のおとぎ話みたいな物語が展開する。
だって、道端に倒れている正体不明の男を部屋に連れ込むとか
一つ屋根の下で暮らしながらも、なかなか男女の仲にならないとかね。
でも、それでいい。
そういう話を堂々と書いてしまって
読ませてしまうのが有川浩という作家さんなのだから。
感動的なエンディングで読後感もさわやか。
これもまた有川浩ブランドの安心感。
ラブコメ今昔 [読書・恋愛小説]
評価:★★★☆
タイトル通り、ラブコメ小説の短編集なのだが
普通のラブコメではない。
なぜならば、本書でラブコメを演じる方々が
みんな「自衛隊員」だから。
自衛隊といっても人間なのだが、その職場の "特殊性" ゆえに、
ひと味違う恋愛模様が垣間見える。
「ラブコメ今昔」
習志野を本拠とする第一空挺団の隊長・今村二佐。
ある日、彼の前に隊内広報誌『あづま』の記者を務める
矢部千尋二尉と吉敷一馬一曹が現れる。
『自衛隊員の恋愛と結婚について』をテーマに、
今村に結婚当時のことを語ってほしいという。
冗談じゃないとばかりに二人から逃げ回る今村だが、
それをきっかけに妻との出会いの頃を思い巡らす・・・
いやあ、昭和のラブ・ストーリーだねえ。こういうの大好きだ。
「軍事とオタクと彼」
出張からの帰りの『のぞみ』車内で歌穂が出会い、
意気投合した森下くんは、海上自衛隊の三曹。
しかも戦隊ものと仮面ライダーとマンガとアニメを
こよなく愛するオタクちゃんだった。
しかし、めげない歌穂は(えらい!)
順調に森下くんとの仲を深めていくのだが、
中東地域で行われるPKO活動に森下くんが参加することに・・・
歌穂さんにココロの広さに乾杯したくなる。
「広報官、走る!」
政屋征夫一尉は、防衛省広報室勤務。
現在は、軍事小説の大家の原作による、
自衛隊が登場するSFドラマの撮影に協力している。
撮影スタッフのAD・鹿野汐里と組んで連絡/調整を担当するが
頻繁に変更されるスケジュールに二人はきりきり舞い。
しかも、ディレクターが勝手に変更した台本が
原作者の怒りを買い、撮影は中断してしまう羽目に。
窮地に陥った汐里を救うべく、征夫は一計を案じる・・・
この「軍事小説の大家」って福井晴敏がモデルだよねえ。
「青い衝撃」
相田公恵の夫・紘司は航空自衛隊の花形、
ブルー・インパルスのパイロットだ。
毎回、大量の女性ファンに追いかけられる紘司だが、
ある日、夫の制服の襟裏に隠された紙片を見つける。
それは、見知らぬ女性から公恵に宛てられた "挑戦状" だった。
その日から、夫の浮気を疑う日々が始まるが・・・
自衛隊員にもストーカーがつく時代なんですねえ。
「秘め事」
航空自衛隊第10飛行隊所属の手島岳彦二尉は、
人に言えない秘密を持っている。
それは、彼の直属の上官である
水田三佐の娘・有季とつきあっていること。
いつ上官に打ち明けるかタイミングを計っていた頃、
事故で隊員の一人が命を落とした。
葬儀に出席し、悲しみに暮れる遺族を見た水田三佐は宣言する。
「俺の娘にだけは、こんな思いはさせない」
いやあ、お父さんの気持ちはよ~く分かります。
「ダンディ・ライオン~またはラブコメ今昔イマドキ編」
冒頭の「ラブコメ今昔」の前日譚。
矢部千尋二尉と吉敷一馬一曹の馴れそめが綴られる。
こちらは平成のラブ・ストーリーですね。
基本的にはラブコメで、みなハッピーエンドなストーリーなので
けらけら笑いながら読めるのだけど、
その底にはさまざまな "覚悟" が潜んでいる。
毎日が生命の危険と隣り合わせの生活を送る覚悟、
有事があれば死地へと飛び込んでいかなければならない覚悟、
そしてそういう家族を持ち、共に生きる覚悟。
本書に登場し、ドタバタ騒ぎを演じる恋人たちや夫婦も、
みなそれぞれの "覚悟" を背負っている。
本書は実はひと月前(3/6)に読み終わってる。
今回、この文章を書くためにもう一度手にとって
ページをぱらぱらめくっていたら、
いつのまにか夢中になって読みふけってしまった。
再読、三読に耐えるのも、ストーリーテリングの巧みさもあるけれど
上記のような "覚悟" をもったキャラクターたちが
たまらなく愛しく思えるようになるからだろう。
陽だまりの彼女 [読書・恋愛小説]
こんなに長く書くつもりはなかったんだけど、
書いてるうちに自分でも驚くほどの長文になってしまった。
(まあ私にはよくあることだが)
なので、ご用とお急ぎでない方はどうぞ。
あと、下記の評価でも分かるかと思うが
この作品が大好きだ、って人にとってはオモシロクナイことを書いてる。
そんな人は、この記事(特に後半)は読まないことを推奨する。
評価:★★
文庫カバー裏面の惹句には「完全無欠の恋愛小説」。
帯裏面には「泣ける」「泣ける」の読者の声が満載。
その下には大きな活字で
「"二度泣ける" 再会ラブストーリー」とある。
ここまで書かれたら期待してしまう反面、
涙が止まらなかったらどうしよう、なんて読む前から心配してしまった。
もともと涙腺のユルいたちなのに加えて、
歳とったせいかさらに涙もろくなってきてるし。
というわけで、読んでみたんだが・・・
上の評価でも分かるかと思うのだけど、
結論から言うと、私は全く泣けなかった。
期待が大きすぎたのがいけなかったのかなぁ・・・
まずはストーリー紹介から。
中学1年の渡会真緒は「学年有数のバカ」だった。
何せ分数も小数もできないし漢字も書けない。
当然のように周囲からはいじめの対象になっていた。
同級生の奥田浩介は、ある日たまたま
真緒をいじめていた女子をやり込めてしまう。
ところがその方法が、かなり常軌を逸していたため
周囲から「キレる子」認定をされてしまうことに。
ということで「いじめられっ子」と「キレる子」は
なんとなく二人で行動するようになっていく。
当然のことながら浩介に懐いてくる真緒。
浩介は彼女に対して複雑な感情を抱きながらも、
真緒に勉強を教えるようになっていく。
しかしそんな関係も、中3の1学期に浩介が転校することになり、
終わりを告げることになる。
そして10年後。
広告代理店で働く浩介は、クライアントとの打ち合わせの場で
バリバリのデキるキャリアウーマンへと変貌した真緒と再会する。
真緒の華麗なる変身ぶりに驚愕する浩介。
しかし、彼女と組んで仕事を進めていくうちに、
素晴らしく魅力的な女性となった真緒にどんどん惹かれていく。
真緒もまた浩介の思いに応え、二人は急速に距離を縮めていく。
やがて真緒との結婚を決意する浩介だったが、
彼女の両親は反対する。それは、真緒自身が抱えている、
ある「事情」のためだったのだが・・・
(真緒が「バカ」だったのも、それが原因。)
浩介はその「事情」を知らされ、戸惑いはするが真緒への愛は揺るがない。
反対を押し切って家を出た真緒は浩介と入籍し、
二人はマンションの一室で新婚生活をスタートさせる。
ここまでが「起承転結」でいうところの「起」。
続く「承」では、二人のベタ甘な新婚生活が語られる。
もう読んでいる方が恥ずかしくなってしまうくらい、
バカップルさ全開である。
真緒というキャラは、仕事ではバリバリだが、
私生活ではよく言えば自由奔放、悪く言えば気まぐれで、
ちょっぴり「不思議ちゃん」が入ってる。
毎日毎日、浩介は彼女に振り回されっぱなしなんだが
そこは惚れた弱みで、もう真緒に首ったけな様子が綴られていく。
もちろん、これは後半への伏線でもある。
そして「転」では、すこしずつ二人の生活に影が差していく。
といっても二人の仲が悪くなったりとかではない。
いつまでも続くと思っていた今の幸福な生活が、
実はそうではないのではないか・・・という不安が描かれていくのだ。
ここから先は、ネタバレに近いことを書くので、
未読の人はご注意を。
「転」まで来た読者は、
このあと二人に降りかかってくる(であろう)難局がどんなものか、
いろいろ想像を巡らせるだろう。
私も何パターンか予想してみた。
そして最後はその危機を二人が乗り越えて終わるのだろう、とも思った、
だってカバー裏の惹句には
「前代未聞のハッピーエンドへ向けて走りはじめる!」
って書いてあるんだもの。
この本はハッピーエンドです、って最初から宣言してるんだよ。
ならば「結」はどうだったか。
この結末はたしかに前代未聞で、もちろん予想外、
というより予想を大きく裏切るものだった。
いい意味で「予想を裏切られる」のは快感だが、
この結末が私に与えたものは「戸惑い」だった。
なんだろう。上手く言えないんだが
たとえばフランス料理の名店に行く。
そこでフルコースの料理を堪能していて、
いよいよメインディッシュの登場。
しかし蓋を開けてみたら、そこにあったのは北京ダックだった、
みたいな感じ。
北京ダックだって高級料理には間違いないんだけど
フランス料理の締めに出てきたら驚くだろう。
この物語の結末の印象は、これに近い。
(書いてて思ったがこれでは何のことか分からないね。)
前半から中盤へかけて、主役の二人が、
どんなに一所懸命で、どんなに相手に対して誠実で、
そしてどんなに深い愛情を相手に抱いているのか。
それが痛いほどよく分かる描写が続く。
中学時代の2年あまりの間、
周囲から孤立した者同士、身を寄せ合うように生きてきて、
再会後は、空白だった10年間を埋めるように
思い出を重ねて生きていく二人。
この中盤までの展開はホントよくデキてると思うのに。
そんな二人に対して、この結末はないだろう。
男と女の間で、何をもってハッピーエンドとするのか。
その答えはカップルの数だけあるだろう。
しかし少なくとも、
これは真緒と浩介の望んだ結末ではないだろうし、
これを "ハッピーエンド" とは呼ぶのは
いささか無理がありすぎるんじゃないのか。
最後にちょこっと "救い" みたいな部分もあることはあるけど、
逆に切なさが増してしまうよ・・・
もちろん、この結末に感動して滂沱の涙を流す人もいるだろうし、
それを否定するつもりもない。この評価はあくまで私の感覚。
もう一度、すべてを知った上で頭から読み直すと
また違った感想が浮かぶかも知れないんだが、
少なくとも今は、というか
二度と読み直そうという気にはならないなぁ。
最後に余計なことを2つ。
ひとつめ。
文庫の帯の表面には「映画化」の文字が。
去年の秋に映画が公開されたんだね。残念ながら未見だけど。
真緒役は上野樹里。
誰がキャスティングしたのかは分からないけど
この配役は絶妙にして完璧だと思う。
実際に映画の中で、上野樹里が
どんなふうに真緒を演じているかは知らないが
小説を読んでいる限りでは、
作者が当て書きしたんじゃないかっていうくらい、
真緒のイメージは上野樹里と重なる。
帯に載ってる彼女の写真を見たせいか、本書の冒頭から
真緒の台詞が上野樹里の声で脳内再生されてしまったよ。
YouTube で映画の予告編を見てみたんだけど、
上野樹里さん、キレイだねえ。
松本潤もがんばってるとは思うんだけど、
いまひとつ浩介のイメージじゃないなあ。
もっと垢抜けない人でないと。
私の脳内映像では濱田岳なんだが。
ふたつめ。
読み終わった後、つらつら考えてみた。
この物語に似たモチーフの作品って、日本の民話にもあるんだけれど、
私が真っ先に連想したのは、
世界的に有名な海外作家さんが書いた童話かな。
日本でいちばん有名な劇団が、
結末を改変してミュージカルにしてるアレ。
月の恋人 -Moon Lovers- [読書・恋愛小説]
評価:★★★☆
ダメ男の彼氏と理不尽な職場に愛想を尽かし、契約社員の身分を蹴り飛ばして
上海へと一人旅に来たヒロイン・弥生。
そこで知り合った蓮介は、ベンチャー家具メーカー・レゴリスの
若き経営者であった・・・というわけで、
弥生と蓮介のラブ・ストーリーが始まるわけだが。
そこに絡むのは上海出身のモデル・シュウメイ。
レゴリスのCMキャラクターに抜擢され、爆発的な人気を得ていく・・・。
明るく元気で漢前、でも屈折してる部分もあって・・・
とにかく弥生というキャラがとても魅力的。
経営者として、時には冷酷非情な決断を下し、
ひたすらレゴリスの維持発展を目指す蓮介。
そんな蓮介が、弥生とふれあっていくうちに、
すこしずつ心境に変化が生じていく・・・という、
ベタと言えばベタな展開なんだが、
そこは道尾秀介だね。とても面白く読ませてくれる。
ミステリではない。もちろんSFでもホラーでもない。
ちょっぴりサスペンスっぽいところは無くもないけど。
普通だったら、まず私が読むことはないジャンルの小説と言っていい。
だけど手に取ったのは、もちろん作者が道尾秀介だったから。
で、結論は「とても面白かった」。
現在のところ、「今年読んだ本ベストテン」を作れば5位以内に入る。
この作品、TVドラマとの連動企画作品とのこと。
道尾秀介が原案 → それを元にドラマ化 → それを小説化
という流れだという。
ところが、私はここ30年くらい
TVドラマというものをマトモに見たことがない。
はっきり言って「時間の無駄」だと思ってるので。
(もちろん例外はある。NHKの大河ドラマの何本かとか「刑事コロンボ」とか。
「ガリレオ」は5年前のは見たけど今年のは見てない、とか。)
だからもちろん、この作品のドラマ版も知らない。
で、本編を最後まで読み終わってから、wikiで見てみた。
そしたらまあ驚くことばかり。
「蓮介がキムタクだった!」とか、「風見が日本人じゃなかった!」とか
いろいろあるんだが、いちばんびっくりしたのは
「ドラマ版には弥生が存在しない!」だった!
ドラマ版のヒロインは「真絵美」と言う名で、
職業はインテリアデザイナー、演じるは篠原涼子だった。
何とヒロインそのものが存在しないわけで、
小説版とドラマ版は舞台が同じなだけでほとんど別モノ。
ちなみに、読んでる間に私が頭に描いていたキャストは
(もちろん、ドラマを見ない人間なので、
CMに出てるような俳優さん女優さんしか思い浮かばないんだが)
弥生は井上真央、蓮介は竹野内豊だった。
弥生の井上真央は、読み始めてすぐに決まったんだが
蓮介はなかなか決まらなかった。で、ふっと思い出したのが
ちょっと前まで放映されてた缶コーヒーRootsのCM。
アレに出てた竹野内豊をちょっと若返らせると、私の思い描く蓮介になるんだなあ。
なんだかどうでもいいことを長々と書いてしまった。
ドラマ版を見る気は全く起きないが、小説版は傑作だ。