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2020年 今年読んだ本 ベスト30 [読書全般]

新型コロナウイルスに翻弄された1年でしたが
いよいよ終わりということで、年末恒例のランキング発表です。

毎回書いてますが、私 mojo の独断と偏見で決めてます。
皆さんの評価と一致しない場合もあるかと思いますが
私の好みの問題ですので、石を投げたりせずに(笑)ご寛恕ください。

対象は、原則としてオリジナルのフィクション作品のみです。

 ノンフィクションとノベライズも、
 合わせて10冊くらいは読んでるんですが、
 感想を書くのが面倒だったので記事にはしてません(おいおい)。

シリーズ作品や、文庫化に際しての分冊化などの場合は
1つにまとめてしまったものもあります。
あしからずご容赦ください。

あと、挙げてある本の中にはまだ記事に書いてないものも含まれます。
(それについては、なんとか年明けにはupできるかと思います。)

それでは、まず第1位~第10位まで。
星数は第1位が星5つ、第2位~第9位は星4つ半です。第10位は星4つ。

第1位「天冥の標 全10部」(小川一水)[ハヤカワ文庫JA]
第2位「コルトM1847羽衣」(月村了衛)[文春文庫]
第3位「彼女の色に届くまで」(似鳥鶏)[角川文庫]
第4位「疾走!千マイル急行 上下」(小川一水)[ハヤカワ文庫JA]
第5位「キャプテン・フューチャー最初の事件」
   (アレン・スティール)[創元推理文庫]
第6位「戦の国」(冲方丁)[講談社文庫]
第7位「ブルーローズは眠らない」(市川憂人)[創元推理文庫]
第8位「赤い博物館」(大山誠一郎)[文春文庫]
第9位「世界が終わる街 戦力外捜査官」(似鳥鶏)[河出文庫]
第10位「ミステリークロック / コロッサスの鉤爪」
    (貴志祐介)[角川文庫]

第1位はSFの面白さを再確認させてくれた堂々の大河小説。
第2位は王道エンタメ、幕末伝奇ガンアクション。
第3位は本格ミステリであると同時に主役二人の愛と成長の物語。
第4位はこれぞジュヴナイル、と思わせてくれた作品。
第5位は21世紀に甦った古典スペースオペラのリブート。続編希望。
第6位は歴史小説の面白さを改めて教えてくれた。
第7・8・10位は出色の本格ミステリ。
第9位は作者の引き出しの多さがわかる。この路線でも傑作を書きそう。

つづいて第11位~第20位まで。星数はすべて星4つ。

第11位「交渉人・籠城」(五十嵐貴久)[幻冬舎文庫]
第12位「天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和」(里見蘭)[宝島社文庫]
第13位「スタフ staph」(道尾秀介)[文春文庫]
第14位「プロジェゥトぴあの 上下」(山本弘)[ハヤカワ文庫JA]
第15位「カササギ殺人事件 上下」
    (アンソニー・ホロヴィッツ)[創元推理文庫]
第16位「メインテーマは殺人」
    (アンソニー・ホロヴィッツ)[創元推理文庫]
第17位「その裁きは死」(アンソニー・ホロヴィッツ)[創元推理文庫]
第18位「アリバイ崩し承ります」(大山誠一郎)[実業之日本社文庫]
第19位「インド倶楽部の謎」(有栖川有栖)[講談社文庫]
第20位「賛美せよ、と成功は言った」(石持浅海)[祥伝社文庫]

第11位はページを繰る手が止まらない。
第12位はお嬢ちゃんの最後の台詞が全部もっていってしまった。
第13位は作者お得意の、”はみ出し者たち” の奮闘小説。
第14位はハードSFアイドル小説。山本さん病気に負けずにがんばって。
第15~17位は謎解きミステリの面白さを再確認。こりゃ売れるよ。
第18~20位では日本の謎解きミステリもがんばってます。

つづいて第21位~第30位まで。こちらも星数はすべて星4つ。

第21位「恋牡丹/雪旅籠」(戸田義長)[創元推理文庫]
第22位「GENE MAPPER -full build-」(藤井太洋)[ハヤカワ文庫JA]
第23位「富士学校まめたん研究分室」(芝村裕吏)[ハヤカワ文庫JA]
第24位「プールの底に眠る」(白河三兎)[講談社文庫]
第25位「駆逐艦キーリング 〔新訳版〕」
    (セシル・スコット・フォレスター)[ハヤカワ文庫NV]
第26位「鹿の王 水底の橋」(上橋菜穂子)[角川文庫]
第27位「二千回の殺人」(石持浅海)[幻冬舎文庫]
第28位「ダーティペアの大跳躍」(高千穂遙)[ハヤカワ文庫JA]
第29位「隠蔽人類」(鳥飼否宇)[光文社文庫]
第30位「ワン・モア・ヌーク」(藤井太洋)[新潮文庫]

第21位は、花魁の牡丹改め、お糸さんが最高。
第22・23位では、やっぱりSFは面白い。
第24位は、ミステリでありラブストーリーであり。こういうの好きだ。
第25位。戦記物ももっと読んでみたいと思った。
第26位。考えたらベスト30にファンタジーはこれだけ。意外。
第28位はさすが大ベテラン。抜群の安定性。
第27・29・30位は強烈な問題作。でも面白い。

さて、ベスト30は以上なのですが
例年31~60位まで紹介しているので以下に掲げます。
ここまでくると順位は余り意味がないので読了順に載せます。
題名の★印は星4つ、他の作品は星3つ半です。

〈1月〉
★「三題噺 示現流幽霊」(愛川晶)[創元推理文庫]
★「紅蓮館の殺人」(阿津川辰海)[講談社タイガ]
★「分かれ道ノストラダムス」(深緑野分)[双葉文庫]

〈2月〉
★「メビウスの守護者 法医昆虫学捜査官」(川瀬七緖)[講談社文庫]
「白い僧院の殺人」(カーター・ディクスン)[創元推理文庫]
「透明カメレオン」(道尾秀介)[角川文庫]
★「その可能性はすでに考えた」(井上真偽)[講談社文庫]

〈4月〉
★「ビギナーズ・ラボ」(喜多喜久)[講談社文庫]

〈5月〉
★「アンドロイドの恋なんて、おとぎ話みたいってあなたは笑う?」
  (青谷真未)[ポプラ文庫ピュアフル]
★「死霊狩り(ゾンビー・ハンター)」(平井和正)[ハヤカワ文庫JA]
★「夏の王国で目覚めない」(彩坂美月)[ハヤカワ文庫JA]
★「鬼の当主にお嫁入り 管狐と村の調停お手伝いします」
  (青谷真未)[二見サラ文庫]
「追想の探偵」(月村了衛)[双葉文庫]

〈6月〉
「罪人よやすらかに眠れ」(石持浅海)[角川文庫]
★「闇の虹水晶」(乾石智子)[創元推理文庫]
「福家警部補の追及」(大倉崇裕)[創元推理文庫]
「パレードの明暗 座間味君の推理」(石持浅海)[光文社文庫]

〈7月〉
「運命の八分休符」(連城三紀彦)[創元推理文庫]
「殺し屋、やってます」(石持浅海)[文春文庫]
★「名探偵は嘘をつかない」(阿津川辰海)[光文社文庫]

〈8月〉
「ベスト8ミステリーズ2015」(日本推理作家協会)[講談社文庫]
★「恍惚病棟」(山田正紀)[祥伝社文庫]
★「再就職先は宇宙海賊」(鷹見一幸)[ハヤカワ文庫JA]

〈9月〉
「烏百花 蛍の章」(阿部智里)[文春文庫]
「大神兄弟探偵社(1~3)」(里見蘭)[新潮文庫nex]
★「ルパンの星」(横関大)[講談社文庫]

〈10月〉
「満月の泥枕」(道尾秀介)[光文社文庫]
「密室と奇蹟 J・D・カー生誕百周年記念アンソロジー」
  (芦辺拓他)[創元推理文庫]

〈12月〉
「最後の嘘 吉祥寺探偵物語」(五十嵐貴久)[双葉文庫]
「死と砂時計」(鳥飼否宇)[創元推理文庫]

働き始めて40年、政府発令の ”緊急事態宣言” なるもののおかげで
人生で始めて「在宅勤務」なるものを経験しました。
とは言っても、”PCとネットを駆使してのテレワーク” とかではなく、
家でもできる事務仕事を細々とこなしていただけですが。
もっとも、それも緊急事態宣言終了と同時に
あっさりと通常勤務に戻ってしまいました(笑)。

すっかり遠出もしなくなり、「Go To トラベル」もどこ吹く風、
おかげで模範的ステイホーム市民に(笑)なりました。
そのぶん読書に回す時間が増え、
今年はついに大台を突破して221冊も読めました。

 ここ20年で最多だった昨年の186冊を超え、
 2年連続の記録更新です。

文庫換算で総ページ数は約79000ページ。
1日あたり、210ページくらい読んでいたことになります。

私の本を読むスピードは、文庫に換算して1時間あたり100ページ前後。
もちろん文体の違いや活字の印刷密度にもよりますが。
ということは、今年は1日あたり平均2時間ちょっとの読書。

 まる1日、寝そべって10時間くらい本を読んでた日もあるし
 仕事で疲れてバタンキュー、読書時間ゼロの日もあったし。
 まあそのあたりを平均して1日あたり2時間、なのですが。

今年の初めに目標として考えていた「2日に1回の読書録up」も
何とかこなせたようで、まずは一安心。

ただ、来年はどうなるかは分かりません。
コロナウイルスの感染の広がりがどうなるのかも不明ですし
4月以降の私の勤務形態もわかりませんし・・・
まあ、今から悩んでも仕方ないですな。

だらだら続けてきたこのブログも、いつのまにか記事の数も
2100件を超えました。我ながらよくがんばったものです。

内容の質は保証できない駄文の山でございますが(苦笑)、
皆さんの暇つぶしの一助になれば望外の幸せです。

それでは皆様、良いお歳を。

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医療従事者の方々へ感謝 [日々の生活と雑感]

日本全国で、医療に従事されている方々。
おそらくたいへんな日々が続いていることと思います。
年末年始も休まずに働いている方も多いでしょう。
改めてお礼申し上げます。

ありがとうございました。m(_ _)m

実は私自身も、今までの人生で複数回、入院した経験があります。
中には病院へ診察に行ったら、その場で医師から
「即入院」と告げられたこともありました。
幸いどれも短期間で、命に関わるようなことにはならなかったのですが
ベッドから起き上がれないような状態の時もありましたので
病床にあるときの苦しさも少しは理解しているつもりです。

そんな中、医師・看護師・薬剤師をはじめ、
様々な医療関係の方にお世話になりました。
現在、私が健康な状態で生きていられるのも、
その方々のおかげです。

あのときの方たちも、今はコロナ禍の中で
懸命に働いているのだろうなぁと思うと、本当に頭が下がります。

日本の医療関係の方々、どうかお体を大事にして頑張ってください。
微力ながら応援しております。

何より私たち自身がコロナに罹患しないのがいちばんです。
私もかみさんも旅行はもちろん、県外への遠出なども行かずに
大人しくしてるんですが、家人の中には12月30日まで
東京へ出かけなければいけない用事を抱えた者もいます。

いつどこからウイルスが入ってくるか予断を許さず
コロナにかかるかかからないかはほとんど運任せのような気もしますが
できる範囲で予防に努めたいと思います。

定年退職後、収入は減りましたが(笑)、自由に使える時間が増えて
読める本も増えたし、映画館に行ける頻度も増えました。

 ちなみに、私が映画館に行くのは平日の昼間なので、
 お客さんの入りは多くても2割程度、たいていはガラガラです(笑)。
 ”三密” の心配はまずありません。

こんなけっこうな境遇になったのですから、楽しまなければね。
”人生は長生きした方が勝ち” ですよ、絶対。

皆さんもコロナウイルスに負けずに、来年も楽しんでいきましょう。


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死と砂時計 [読書・ミステリ]

死と砂時計 (創元推理文庫)

死と砂時計 (創元推理文庫)

  • 作者: 鳥飼 否宇
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/05/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

日系アメリカ人アラン・イシダは親殺しの罪で
中東の小国ジャリーミスタンにある ”終末監獄” へ送られてきた。

ここは世界中から死刑囚が集まってくる刑務所。
しかし刑の執行される順番は、収監の早い遅いに関係なく
首長サリフ・アリ・シャヒールの一存で決定する。
それはある日突然宣告され、その日から4日後に執行される。

しかしそんな監獄の中でも事件は起こり、
それはしばしば不可思議なものであった。

探偵役は監獄の最長老囚人シュルツ。
アランは彼の助手となって、事件の謎を説き明かしていく。

「魔王シャヴォ・ドルヤマンの密室」
アゼルバイジャンの難民だったシャヴォは、
日本人死刑囚ナンジョウと同じ日の死刑執行が決まる。
二人は独房に移されてそれまでの4日間を過ごすことになるが
執行日の朝、二人とも刺殺死体で発見される。
独房の出入り口は牢番が見張っており、しかも凶器が発見されない。
犯人はどのように犯行を行ったのか。そしてなぜ、
翌日には処刑される死刑囚を殺さなければならなかったのか。

「英雄チェン・ウェイツの失踪」
中国人医師チェンは、政治犯を匿ったことから死刑判決を受け、
ジャリーミスタンに送られてきた。しかし彼は鉄壁の防御網を破って
脱獄に成功し、囚人たちからは英雄視されていた。
チェンの人望を恐れる中国政府から圧力を受けた
首長サリフ・アリ・シャヒールは、ジャリーミスタン監獄の看守長に
チェンの脱獄方法の解明と現在の居場所を突き止めろと命じてきた。
看守長は長老シュルツにその難題を押しつけてくるのだが・・・

「監察官ジェマイヤー・カーレッドの韜晦」
監察官カーレッドは謹厳実直な人物として知られていたが
間もなく定年退職を迎えようとしていた。
そのカーレッドが、ジャリーミスタン監獄を査察中に殺されてしまう。
監獄に国家警察がやってくるまで3時間。
看守長はそれまでに犯人を挙げろとシュルツに命じるのだが・・・

「墓守ラクバ・ギャルボの誉れ」
チベット人ギャルボは反逆罪で中国政府から死刑判決を受けた。
ほとんど言語を解さない彼は、ジャリーミスタン監獄では
労役として ”墓掘り人” の仕事を与えられていた。
その彼が、墓を掘り起こして死体を食べているという噂が流れる。
噂を確かめに墓地に向かったシュルツとアランは、埋葬されたばかりの
死刑囚マジード・アッバースの遺体が損壊されていることを知る・・・

「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」
ジャリーミスタン監獄の女囚は、男性囚人の区画とは
厳重に隔離されており、働いている看守などもすべて女性だった。
しかしそこで服役している女囚が妊娠したのだという。
収監時期から考えて、妊娠したのはジャリーミスタンへ来た後だ。
女囚担当の女医ライラから相談を受けたシュルツだったが
なぜか自分ではなく、アランを女囚区画へ向かわせる。
妊娠したという女囚マリアと会ったアランは、
彼女が自分の幼馴染みだったことを知る・・・

「確定囚アラン・イシダの真実」
ついにアランへの刑の執行が決まる。
独房に移って4日間を過ごす彼の元へ面会に来るシュルツ。
彼に問われるままに、自らの ”犯行” について語り出すアラン。
シュルツと対話していくうちに、あることに気づくアランだったが・・・

死刑囚のみが集められた監獄という特殊な状況下で起こる犯罪、
という発想がまずユニーク。
動機も手段も、そして真相までも日常とは懸け離れているが
この状況設定なら起こりうる、と納得できるもの。

アランの一人称で語られるのだが、読み進むうちに
彼がごく普通の感覚と良識を兼ね備えた、
いわば ”善人” と呼べる人間であることを読者は知っていく。

だからこそ、彼が死刑囚となってしまった理由が気になるのだが
それが明かされるのが最終話。

彼が置かれた状況は、十分に同情に値するもの。
だからなおさら、彼が処刑されてしまうことに
読者は強い理不尽感を覚えながら読み進むことになる。

その結末は読んでのお楽しみ、なのだが
終盤にいたって意外な事実が次々と明らかになり
物語はラストに至って二転三転、いろんな意味で
”驚きの結末” を迎える、くらいは書いもいいかな。


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プールの底に眠る [読書・ミステリ]

プールの底に眠る (講談社文庫)

プールの底に眠る (講談社文庫)

  • 作者: 白河三兎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/05/17
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

物語は、”僕” の一人語りで綴られる。

【序章】での ”僕” は、三十路の男性である。
「鉄格子の中」にいて「看守が見廻りをしている」とあるので
どこかに収監されているようだ。そこにいる「現在」の ”僕” は、
13年前の夏の終わりの出来事を回想していく。

続く【一章】から【七章】は、13年前である1995年の
8月31日から始まる1週間の物語だ。
横浜の郊外の丘陵地帯に住む ”僕” は、
高校3年生の夏休みの最終日に ”裏山” に登り、
そこでロープを首に巻いた美少女に出合う。

彼女から「あなたに命を預ける」と言われた ”僕” は、
問われるままに、子供の頃から考えていたイルカの話を物語る。

”僕” は、自殺を思いとどまることにした彼女のことを ”セミ” と呼び、
彼女は ”僕” のことを ”イルカ” と呼ぶようになった。

イルカとセミ、イルカと高校の同級生たち、
この2つのラインでストーリーは進行していく。

やがてイルカはセミのことを知っていく。
その街で一番の資産家の孫娘であること、中学1年生であること、
そしてどうやら不登校になっていること・・・

一方、イルカとその同級生・由利とは、
幼馴染みで友人以上に仲も良いのだが
なぜか恋人同士には進展しないでここまで来た。
しかし由利とつき合っている野球部の武田は
イルカが彼女の恋人だと勘違してしまい、ひと騒動持ち上がる・・・

青春小説の衣をまとっているけれど、
ミステリ的な伏線はあちこちに仕込んであって
何気ない描写があとあと深い意味を持ってくる。
このあたりはなかなか達者だと思う。

物語が進行するにつれて、イルカを悩ませるトラウマの正体、
イルカと由利がお互いに対して抱く屈折した感情、
由利の失踪した父親の行方、さらにはセミの抱える心の闇などが
次第に明らかになっていくが、このあたりの描写は
読んでいてヒリヒリするような感覚を覚える。

 どんな悩みでも、歳を重ねていけば耐えられる、
 あるいはやり過ごす術を覚えていくのだろうけど、
 中高生の頃は必死になってあがくしかないのだろうな、とも思う。

1995年という時代設定も効果的なのだろう。
この頃は携帯電話が普及し始めたとはいえ
まだまだ中高生が簡単に手にできる時代ではなかった。
(私が初めて携帯電話を使い始めたのが1994年だった。)

だから本書の登場人物たちも、互いに連絡するには固定電話や公衆電話、
さらには手紙、そして駅の伝言板(!)と、アナログな手段しかない。
でもそんな意思伝達の困難さが物語を盛り上げる要素にもなっている。

 今のご時世からすれば信じられないかも知れないが
 こういう時代の雰囲気も嫌いじゃない。古い人間だからかな。

【七章】のラストに至り、ある ”事件” が起こる。
ストーリーとしてはここでいったん区切りがつくのだけど、
【終章】では13年後の「現在」へ戻り、
ここで物語は真のクライマックスを迎える。

青春小説であり、人の心のありように迫るサスペンスであり、
精緻なつくりのミステリでもあり、素晴らしいラブストーリーでもある。

本書は白河三兎(しらかわ・みと)という作家さんのデビュー作。
この作家さん、しばらく追いかけてみようと思う。


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罪の声 [映画]

11月中旬に映画館にて鑑賞。
181749_02.jpg
35年前、食品会社を標的とした一連の企業脅迫事件があった。
食品への毒物混入に始まり、誘拐や身代金要求へとエスカレート、
警察やマスコミまでも挑発し、世間の関心を引き続けた挙句に
謎の犯人グループは忽然と姿を消し、事件は迷宮入り。
日本の犯罪史上初となる劇場型犯罪は日本中を震撼させ、
後に『ギンガ・萬堂事件』と呼ばれることになった。

そして現代。
京都でテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、
ある日、父の遺品の中に古いカセットテープを見つける。
そこに録音されていたのは、幼い頃の俊也自身の声。
それは、あの未解決の大事件で犯人グループが
身代金の受け渡しに使用した脅迫テープと全く同じ声だった。

やがて俊也は、既に時効となっているこの未解決事件を追う
大日新聞記者の阿久津英士(小栗旬)と出会い、彼と共に
事件の真相へ、そして犯人グループの正体へと迫っていく・・・

モデルとなったのは、言わずと知れた『グリコ・森永事件』。
50代以上の人なら、リアルタイムで経験しているだろうし
40代の人でも、おぼろげながらでも記憶があるのではないか。

当時、私は20代後半くらいだったので、もちろん憶えている。
この映画のテーマとなった ”脅迫に使用された子どもの声” も、
TVを通して聞き、その声のあまりの幼さに驚愕した記憶がある。

あの子どもたちも、無事に成長していれば今頃は40代のはず。
そこに着目して物語を創り出した原作者の発想は素晴らしいと思う。

映画の中で描かれる犯人グループの正体は、
もちろん作者による創作なのだが、
なかなか説得力があって絵空事に感じさせない。
実際、こんな連中だったんじゃないか、って思わせる。

 本作で描かれる犯人グループのメンバーは皆、
 いわゆる ”団塊の世代”。
 この犯罪には、そういう時代的背景があったという解釈も
 なかなか意表を突くものだった。

しかしながら、そんな企みに否応なく加担させられた
子どもたちの辿った運命は悲惨だ。

終盤、阿久津は首謀者であった人物と接触することに成功する。
首謀者は、自らが起こした事件の ”社会的意義” を語る。
あれは「犯罪」ではなく、「○○」だったのだと。

しかしそれは、事件によって被害を受けた者からすれば
到底受け入れられるものではないだろう。

理由はどうあれ、彼らの起こした事件によって
運命をねじ曲げられてしまった人々は少なくない。
それはどんな大義名分を掲げていても許されることではない。
目的は手段を正当化しないのだ。

フィクションではあるが、昭和の未解決事件に対して
けっこう納得できる ”真相” を提示してくれた。

星野源も小栗旬も抑えた演技で、派手さは無いけれど
最後まで興味を持って見終えることができた。


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ダーティペアの大跳躍 ダーティペア・シリーズ8 [読書・SF]

ダーティペアの大跳躍 ダーティペア・シリーズ (ハヤカワ文庫JA)

ダーティペアの大跳躍 ダーティペア・シリーズ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 高千穂 遙
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/10/01
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

この記事を書こうと思って、さて前巻はどんな話だったかな・・・って
ブログ内の記事を検索したら、なんと2010年の12月。驚きの10年前。

人類がその版図をひろく宇宙へと広げた未来。
独立した惑星国家は銀河連合を結成していた。
しかし人がいるところトラブルあり。
銀河連合はトラブル解決の専門機関を設立した。
それが世界福祉事業協会WWWAである。

 これは WORLD WELFARE WORK ASSOCIATION の略。
  World Women's Wrestling Association の略ではない(笑)。

主人公のケイとユリは、WWWAに所属するトラブル解決の専門係官だ。

今回の2人の任務は、連合の管理している惑星ダバラットの調査。
ここの総督には、銀河系最大の犯罪組織ルーシファの息がかかっており、
ダバラットには銀河系全域から犯罪者が流入しているという。

さらに、ダバラットのどこかでは〈ハイパーリープ(時空間大跳躍)〉の
違法研究と実験まで実験まで行っているらしい。
もし機関が暴走すれば宇宙そのものの存続に関わるという・・・

専用宇宙船〈ラブルーエンゼル〉を駆って
ダバラットの軌道ステーション・キャピタルに到着した2人は
違法研究のラボはキャピタル内にあるとの情報を得る。

総督を追跡してラボへとの突入を果たす2人だが、
そこで仕出かしたドンパチのせいで(笑)実験中の機関が爆発、
ユリとケイは〈ラブルーエンゼル〉とともに
異世界 ”ミリアド” へ飛ばされてしまう・・・

 前々巻と前巻も〈剣と魔法の異世界〉だったので
 (もっともあちらは人工的なものだったが)またそういう展開か、
 と思ったのだが、流石に二番煎じではなかった。

”ミリアド” はいわゆるパラレルワールドの一つで、
文明レベルも ”こちらの世界” とほぼ同じ。
人類はワープ機関を完成させ、広く宇宙へ移民している。

しかし、根本的に異なるのは統治体制。
ミリアド世界を支配しているのは略称WWE(笑)と呼ばれる独裁政権。

 もちろん World Wrestling Entertainment ではなく、
 ”崇拝される戦士たちの帝国”(Worshipful Worriers Empire)の略。

ユリとケイが飛ばされた宙域にはババラスカという惑星があり、
そこは反体制地下組織ウジャジャータの政治犯たちが流刑となっていた。

やがて2つの世界には、それぞれ ”同じ人間” が存在していることが
判明する。”こちら” のユリとケイに対し、ミリアドにはユリリとケイイ。
容姿も性格もそっくりなのだが、ユリリとケイイは
なんと帝国の将軍で、惑星ババラスカの管理・支配をしていた。

ウジャジャータと手を組んだユリ&ケイは、
図らずもユリリ&ケイイと戦うことになってしまうのだが・・・

ユリとケイは、次々と襲ってくる危機に対しても常にポジティブ。
難しいことは考えずに、危機そのものを楽しむ。
そんな主役2人の冒険行は文句なく楽しい。

”異世界のダーティペア” であるユリリ&ケイイも大活躍。
ネタバレはしないけど、文庫版表紙のイラストは
ユリ&ケイではなく ”ユリ&ケイイ” だったりする。

序盤からアクション・シーンが連続し、
淀みなく軽快なペースでストーリーは進み
すいすいとページをめくっていって、
気がつけば読み終わっていた、という感じである。
日常生活を忘れて、楽しい読書がもてる作品だろう。

前巻『ダーティペアの大帝国』の初刊が2007年。
本書の初刊が2018年。なんと11年ぶりの続編刊行だったんだねぇ。
ちなみに第1巻『ー大冒険』は1980年の刊行。
なんと40周年を迎えたシリーズになってる。
作者の高千穂遙氏も69歳。主役2人との年齢差も50歳(!)。
いつのまにか孫みたいな年回りになってしまったねぇ。

もっとも、私が初めてダーティペアを読んだのは
大学生の時だったからねえ・・・それがいまは還暦超えだよ。
時の流れは速いもんだ(笑)。


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黒猫と歩む白日のラビリンス [読書・ミステリ]

黒猫と歩む白日のラビリンス (ハヤカワ文庫JA)

黒猫と歩む白日のラビリンス (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/09/17
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

若き大学教授「黒猫」と、その「付き人」を務める ”私” を
主人公とした連作ミステリシリーズ、本書で7巻目になる。

類い希な才能で若くして教授になり、
フランスの大学へと招聘された黒猫。
日本に残った ”私” は、大学院を経て研究者への道を歩みだした。

大学の同級生から始まった二人の関係は、
前作『黒猫の回帰あるいは千夜航路』にて、新たなステージへ進む。
簡単に言えば恋人同士になったということだが、
ここまで来るのにずいぶん引っ張ったものだ。
まあ、だいたいにおいて黒猫のほうが悪いんだが(笑)。

「本が降る」
かつて黒猫と ”私” の、大学の同級生だった有村乱暮(らんぼ)は
天才詩人として一世を風靡したが薬物所持で逮捕、収監されていた。
ある日 ”私” は、学部4年生の久本可乃子から相談を受ける。
彼女は最近、”本が降ってくる” 夢を見るのだという。
その夢のシチュエーションは、有村乱暮の書いた
『書物の雨』という詩と全く同じだった。
そしてその翌週、可乃子は大学の図書館棟の側で発見される。
昏倒した彼女の周囲には、乱暮の詩集が散乱していた・・・

「鋏と皮膚」
黒猫の姉・冷花(れいか)は服飾デザイナーをしている。
ある日彼女のもとに1通の手紙が舞い込む。
差出人はテキスタイルデザイナー・霧崎シゲヤの息子、ジュンだった。
霧崎の一家は、かつて冷花たちの隣家に住んでいた。
手紙の内容と冷花の回想が交互に語られていき、
やがてシゲヤの妻・節子が亡くなった日に至るのだが・・・
手紙に描かれた、シゲヤと節子の描写は連城三紀彦を彷彿させる。

「群衆と猥褻」
黒猫が芸術監督として参加している〈芸術の不発展〉では、
ある展示作品に非難が集まり、中止を求める声が上がっていた。
そんなとき、”私” は黒猫からの要請で、学部生の水森香奈枝を
家で匿うことになった。彼女は、非難された作品に関わっていた。
しかもどうやら、彼女は何者かにつきまとわれているらしい・・・

「シュラカを探せ」
東京都S区のスラム街にある橋のプレートに描かれた一枚の絵。それは
世界的な覆面アーティスト・シュラカが描いたものによく似ていた。
(モデルは明らかにバンクシー)
”私” は、ゴシック芸術専攻の教授・灰島に誘われ、
S区区長・宇島裕理(ゆうり)に会う。彼女は、
シュラカが描いたものかどうかでプレートの扱いを決めるという。
”私” は、宇崎に対してシュラカを探し出すと約束してしまうが・・・

「贋と偽」
神津和歌(こうづ・わか)は大学の研究員、
その妹の優花(ゆか)はアイドル〈ゆかゆか〉として活動していた。
和歌は画家で大学教授でもある元木と結婚し、優花は元木の知人で
実業家の山下蟻宇(ぎう)と結婚、アイドルを引退した。
しかし和歌が交通事故で急逝、元木は心労で大学を欠勤し続けていた。
一方、山下は趣味で集めた ”贋作” を披露する「展覧会」 を開く。
黒猫と ”私” はその会に参加するが、元木もまた姿を見せていた・・・

ミステリとしては「本が降る」と「鋏と皮膚」がいい。
不可思議な状況としては「本が-」だけど
「鋏-」の雰囲気の方が私は好みだな。
作者はこういう話も書けるんだね。

「群衆と猥褻」の芸術か猥褻か、あるいは芸術か不敬か、
そのボーダーラインはどこにあるのか。
「シュラカを探せ」の、芸術なのか落書きなのか、
そのボーダーラインはどこにあるのか。
「贋と偽」の、本物と偽物の違いは何なのか。
何を以て本物とするのか。

ミステリの衣をまとっているけれど、
個人の認識や価値観をもう一度考えさせられる、
そんな問いかけが含まれているのもこのシリーズの特徴だろう。

シリーズ初期の作品は難解なところもあったのだけど
本書はかなり分かりやすくなったように思う。

作者の描き方が変化したのか、それとも
私みたいにニブい読者のことを考えてくれるようになったのか。
さて、どっちだろう(笑)。


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スパイの妻 [映画]

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映画館にて。11月初旬。

時代は太平洋戦争直前の1940年。
ヒロインの福原聡子(蒼井優)は、神戸で貿易会社を営む
優作(高橋一生)の妻として、幸福な生活を送っていた。

しかし優作は、物資を求めて渡航した満州で
衝撃的な国家機密を目にしてしまった。

 たぶん、BC兵器を研究していた731部隊による ”人体実験”。
 これについてはいろいろ反論があるみたいだけどここには書かない。
 詳しくはwikiでも見てください(おいおい)。
 私は731部隊については『悪魔の飽食』(森村誠一)で知ったが、
 これについてもいろいろ反論があるようだ。

優作と、彼の甥・竹下文雄(坂東龍汰)は、
その事実を世界に知らしめる準備を秘密裏に進め始める。

優作自身、もともと戦争には否定的で、
世間の戦時色(同調圧力)にあえて反抗するようなところがあり、
神戸憲兵隊の津森泰治(東出昌大)に目をつけられていた。

夫の行動を何も知らない聡子は、津森に呼び出される。
優作が満州から連れ帰ってきた草壁弘子(玄理)という女性が
亡くなったのだという。

知らない女の存在に困惑する聰子だが、優作の思惑を知ることになり、
彼女は愛する夫を信じて生きていくことを決意する。
たとえ “スパイの妻” と罵られようとも・・・

観る前には「いわゆる反戦映画の一つだろう」って思ってたのだが
見終わってみると、意外と反戦メッセージは(もちろん描かれてはいるが)
そんなに強くない印象だ。

 憲兵隊長・津森を演じている東出のキャラもあるだろうし、
 聰子と津森が幼馴染み、という設定もあるだろう。

それよりは、時代の嵐に翻弄される夫婦の ”絆” を
見せたかったのだろう、と思う。
しかし優作にとっての ”絆” と、聰子にとっての ”絆” が
同じではないところをこの映画は描き出している。

聰子の行動はよくわかる、というか理解しやすいのだが
優作の方が一筋縄ではいかない。

映画のタイトルこそ『スパイの妻』だが、
優作がスパイなのかどうかは映画の中では明確に描かれない。

彼が当時としてはリベラルな思考の持ち主であることは分かるが
「日本の将来を憂う、正義と信念の人」なのか?
「対日開戦の大義名分を求める連合国側のスパイ」なのか?
そのあたりの解釈は観た人に任せるということなのか。

 「日本の将来を憂うが故にスパイとなった」という解釈もできるが。

あと、やっぱり疑問に思ったのは、
一般人が軍の機密にそう簡単に近づけるものなのか?  ということ。
当時の731部隊のセキュリティってそんなにザルだったのか?
いちおう内通者(草壁弘子)がいた、という設定にはなってるが・・・
そのあたりを考えると、優作がスパイと考えた方がすっきりはするが。

そして、ラスト近くの聰子の描写。
彼女の心象風景なのだろうけど・・・
日本映画はこういうの好きだよねぇ。
私にはよく分からないんだけど(笑)。

この映画は、第77回ヴェネチア国際映画祭で
銀獅子賞(監督賞)を受賞している。
やっぱり私には、映画の ”芸術な価値” というのは
よく分からないもののようです・・・。

蒼井優が熱演しているのはよく分かったけど。


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最後の嘘 吉祥寺探偵物語 [読書・ミステリ]

最後の嘘-吉祥寺探偵物語 (双葉文庫)

最後の嘘-吉祥寺探偵物語 (双葉文庫)

  • 作者: 五十嵐 貴久
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2014/07/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

主人公・川庄は、女医の妻と離婚後、一人息子の健人(小学5年生)を
育てながらコンビニで働くフリーター。
その傍ら、非公式に探偵稼業も引き受ける。
吉祥寺の街を舞台にしたシリーズ、第2作。

7月のある日、コンビニでアルバイト中の川庄の前に謎の男たちが現れる。
彼らに ”拉致” されてきた先にいたのは、元参議院議員・榊原浩之。
彼から依頼されたのは、またしても ”人捜し” だった。

榊原には、独身時代に深い仲になった韓国籍の女性・真弓がいた。
しかし、政治家としての将来を考え、彼女とは別れてしまう。

真弓は密かに榊原の娘・亜美を産んだが、癌になって早世してしまう。
最近になって娘の存在を知った榊原は、”伯父” と名乗って
亜美の前に現れ、生活全般の面倒を見ていた。

亜美は名門お嬢様学校として知られる藤枝女子学院高校の2年生。
かなりの美少女で、成績も学年でトップクラス。
母親と暮らしていたマンションで、今は一人暮らしをしている。
しかし5月の中頃にそこから姿を消し、行方不明になってしまっていた。

亜美は榊原と母親の関係に気づいてしまったのではないか?

榊原は半年後に行われる市長選に立候補を予定しており、
亜美の口から過去のスキャンダルが漏れると政治生命に関わる。
その前に彼女を連れ戻すこと、それが依頼内容だった。

謝礼金に惹かれて引き受けた川庄は、悪戦苦闘しながらも
飲み友だちの女子大生・泉の協力を得て首尾良く亜美を発見するが、
彼女を榊原のもとへ連れて行くことはせず、
自分のマンションで保護することを選ぶ。

榊原と話し合いをするかどうか、亜美本人の意思に任せるためだ。

亜美は川庄に対して頑なだったが、彼の息子・健人との
触れあいを通して、少しずつ打ち解けてるようになっていく。

そんなとき川庄は、これも飲み仲間でヤクザの佐久間から
亜美の背後にいる男・時政一樹(ときまさ・かずき)について聞かされる。

時政は大学生ながら、何人もの女を使って薬物の密売をしているらしい。
亜美もまた、時政に利用されている女の一人ではないのか?
そしてそれを巡って、吉祥寺の街を支配する2つの暴力団の対立が
かつてないほど高まっていることを・・・

前巻の時も思ったが、主人公・川庄のキャラがいい。
金も女も大好きだが、それでも自らの心の中には
”これだけは譲れない” という一線をひいて、それを守り通す。

ヒロインとなる亜美は、生意気盛りの年頃だが
川庄が年長者として彼女を見守る視線は揺るがない。
かと言って自分の価値観を押しつけることはなく、
あくまで彼女自身に考え、決断させようとする。
外見は38歳の冴えない親父だが、こういうところは実に格好良いと思う。

しかし後半に入ると意外な事件が勃発し、事態は急展開をする。

ミステリを読みなれた人なら、真相は容易に見当がつくだろうけども
それでも最後まで興味を失わずに読ませるのは
やっぱり川庄と亜美の ”キャラ立ち” が素晴らしいからだろう。

オカマの京子ちゃんだけでなく、女子大生やヤクザまで飲み友だちに持ち、
前作で知り合った2人の警視庁刑事、夏川と工藤も引き続き登場する。
さらに今回も、新たな ”コネ” ができたようで
このシリーズは、巻が進むほどに川庄を中心とした
”人のネットワーク” が充実していくのかも知れない。

シリーズの残り3巻も手元にあるので、ぼちぼち読む予定。


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QED ~ortus~ 白山の頻闇 [読書・ミステリ]

QED ~ortus~白山の頻闇 (講談社文庫)

QED ~ortus~白山の頻闇 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 崇史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

博覧強記の薬剤師・桑原崇が探偵役となる伝奇ミステリ・シリーズ。
中編2作を収録している。

「白山の頻闇(しきやみ)」
表題作。ちなみに ”頻闇” とは ”真っ暗闇” のこと。

金沢に嫁いだ妹・沙織から招きを受けた棚旗奈々は、
桑原崇と共に小松空港に降り立つ。

崇の目的は、白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)を参拝すること。

 ここに祀られている白山比咩神(しらやまひめのかみ)とは、
 別名を菊理媛神(くくりひめのかみ)ともいう。

 菊理媛神のことを説明すると長くなるのだが、『日本書紀』において、
 神産みで亡くなってしまった伊弉冉尊(いざなみのみこと)に会うため、
 伊奘諾尊(いざなぎのみこと)は黄泉の国を訪れるのだが、
 伊弉冉尊の変わり果てた姿を見て驚き、逃げ出してしまう。
 恥ずかしいところを見られた伊弉冉尊は彼を追いかけ、
 黄泉比良坂(よもつひらさか)で伊奘諾尊に追いつく。
 そこで口論になった2人(2神?)のところに現れて、それを収めるという、
 日本神話の中でも、この1シーンにだけ現れる神様だ。

 詳しく知りたい人はググってください(笑)。

例によって崇による「菊理媛云々」「白山神社云々」・・・と
蘊蓄が延々と続くのだが、その裏で事件は進行していた。

手取川(白山に源流を発して日本海に注ぐ)で首無し死体が見つかる。
さらに遺体発見現場の上流の河原では、意識不明の男が保護される。
男の名は白岡喬雄(たかお)。沙織の夫・隆宏の兄だった。

かくして、喬と奈々は殺人事件に巻き込まれていく・・・

警察の捜査によって事件前後の事実関係が明らかになるのだが
犯人の動機や行動には不可解さが残る。
それを「白山信仰」の観点から崇が説き明かすのだが・・・

今の時代にそんなことを本気で考える人間がいるのかなぁ、
というのが正直な感想。まあ、人を殺すような人間は
正常な精神状態ではなくなっているのだろうから、
そんなことも思いつくのかなぁ。

 読みながら、マンガ『宗像教授伝奇考』(星野之宣)の中の一編
 「file.27:菊理媛は何を告げたか」を思い出していた。
 菊理媛の解釈や語った(とされる)内容は全く異なるけど、
 伝奇ものというのは解釈の妙なのだなあ、とも思った。

「江戸の弥生闇」
こちらは過去編。大学1年生の奈々が友人の中島晴美に誘われて
オカルト研究会に入会するシーンから始まる。

近ごろ、荒川区の浄閑(じょうかん)寺に幽霊が出るという。

浄閑寺は、かつて吉原と呼ばれた遊郭で働いていた遊女たちが
多く葬られていて、”投込寺”(なげこみでら)とも呼ばれていた。

1年前に浄閑寺の近くのマンションで、一人暮らしの
若い女性が自殺しており、浄閑寺に現れる幽霊は
彼女の怨霊ではないかという噂もあるという。

2年生の小澤宏樹と桑原崇、1年生の奈々と晴美の4人で
浄閑寺に行くことになり、その道々、崇の蘊蓄が始まる・・・

最近になって時代小説もちょっと読むようになったが、
私の吉原に関する知識は、昔観た時代劇程度のものしかない。
崇の開陳する知識も、知ってることもあったが
もちろん知らないことの方が多く、興味深く読ませてもらった。

崇の蘊蓄と、マンションの自殺事件がラストで意外な形でつながる。

ラストの数行の描写は、過去編ならではの趣向か。
こういうのも嫌いじゃない。

最後に、タイトルにある ”ortus” とは何だろうと思って
ネットで検索したのだけれど、どうやら
ラテン語で「上昇」「存在」とかの意味らしい。

でも、本編を読み終わった後でも、なぜ ”ortus” なのかは
よく分からなかったよ・・・(笑)。


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