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迷宮の扉 [読書・ミステリ]


迷宮の扉 (角川文庫)

迷宮の扉 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/07/21
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 暴風雨を逃れて竜神館という屋敷に逃げ込んだ金田一耕助。その直後、一発の銃声と共に男が死亡する。彼は年に一度、屋敷の主の誕生日にやってきていたのだという。
 別々の場所に暮らす謎の双子、そしてそれぞれを取り巻く人々。莫大な財産を巡る連続殺人が始まる・・・

 横溝正史・ジュブナイル復刊シリーズ。
 表題作の中編と短編2作を収録。3編とも、"一年に一度" というのが裏テーマかな。


「迷宮の扉」

 三浦半島の突端、城ヶ島の近くに建つ竜神館。この屋敷の主、東海林日奈児(しょうじ・ひなこ)は中学生くらいの少年である。学校には通わず、小坂早苗という若い家庭教師について勉強している。
 降矢木一馬(ふりやぎ・かずま)という60歳近い男が日奈児の後見人として万事取り仕切っていた。

 昭和33年10月5日。接近する台風によって突然強まってきた風雨を逃れて、一人の男が竜神館にやってきた。それは、三浦半島見物にやって来たものの帰りのバスに乗り遅れてしまった(笑)金田一耕助だった。
 耕助が到着した直後、一発の銃声と共に一人の男が屋敷の土間に倒れ込んできた。一馬の命で発砲者を追って飼い犬が飛び出していく。

 倒れた男は即死だった。一馬によると、男は毎年、日奈児の誕生日にやってきて、ケーキを切って帰って行くだけで、名前も素性も知らないのだという。
 帰ってきた飼い犬は、”海のように真っ青な頭髪” を数本くわえていた。

 毎年、男を遣わしてくるのは、東海林日奈児の父・竜太郎だった。彼は "ある団体" の復讐を恐れて身を隠しているのだという。
 そして日奈児には月奈児(つきなこ)という双子の兄弟がいた。双子は当初、一馬とその妻・五百子(いおこ)に預けられていたが、やがて夫婦が不仲となったので、竜太郎は夫婦を別居させ、双子をそれぞれに分けて養育させることにしたのだという。

 月奈児が暮らす海神館は、三浦半島から東京湾を挟んだ対岸の房総半島にあった。つくりは竜神館にそっくり。

 そして物語の中盤からは、東京・吉祥寺に建つ双玉荘という屋敷へと舞台が移る。中央の平屋を挟んだ両側に、そっくりな作りの二つの洋館があるという特異な建物だ。
 ガンで余命幾ばくもない竜太郎が使用人たちと暮らすそこに、双子とその関係者たちがすべて集う。そして連続殺人事件が始まる・・・

 いつも思うが、横溝正史というのは魅力的な舞台や設定を作り出すのが素晴らしく上手い。文庫で200ページ足らずのジュニア向け作品なのに、並の大人向け長編2作分くらいのアイデアを注ぎ込んでいるのはたいしたもの。

 中学生雑誌(死語だねぇ)に連載されていたので、他のジュニアものと比べて対象年齢が高め。おどろおどろしい雰囲気よりも、サスペンス重視のつくり。
 ただ、ミステリとしてはよくできてるのかも知れないが、ジュブナイルとしてはこの展開と結末は如何なものだろう。
 本来は双子たちの保護者であるはずの竜太郎の我が儘ぶりばかりが印象に残り、中学生くらいの読者は、ちょっと救われない気分になりそうだなぁ・・・


「片耳の男」
 医科学生の宇佐美慎介(うさみ・しんすけ)は下宿への帰り道で、チンドン屋(これも死語)の扮装をした男が少女を襲うところに遭遇する。得意の柔道で暴漢を投げ飛ばした慎介。逃げ去った男は右耳が半分ちぎれたようになっていた。
 助けられた少女・鮎沢由美子(あゆざわ・ゆみこ)とその兄・俊郎(としろう)のもとには、5年前から毎年8月17日に、謎の贈り物が届くようになったのだという。あるときはお金だったり、あるときは高価な宝石だったり・・・
 贈り主の動機が心に沁みる一編。


「動かぬ時計」
 山野眉子(やまの・まゆこ)は中学を卒業後、父・六造の勤める会社で電話係(これも死語だろう)として働き出した。彼女には母の記憶がない。六造に聞いても言葉を濁して話してくれない。
 彼女が小学校に上がったときから、毎年5月15日に差出人不明の贈り物が届くようになった。最初はクレヨン。それは毎年品を変えて、今に至るまで続いている。
 そして今年の贈り物は高価な金時計だった。喜んだ眉子は肌身放さず大事にするが、ある日突然、止まってしまう。修理のために裏蓋を開けたら・・・
 六造の過去をいろいろと想像させるエンディング。このオチは偶然なのか超自然現象なのか。



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