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天冥の標VIII ジャイアント・アーク [読書・SF]

 

 

天冥の標VIII ジャイアント・アークPART1 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標VIII ジャイアント・アークPART1 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/05/23
  • メディア: 文庫
天冥の標VIII  ジャイアント・アーク PART2 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標VIII ジャイアント・アーク PART2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/12/19
  • メディア: 文庫
大河SF「天冥の標」シリーズ、第8部。

ここに至り、物語はようやく
第1部「メニー・メニー・シープ」の時間軸へ戻ってくる。

第8部は、”咀嚼者” となったイサリが
300年にわたる冷凍睡眠から目覚めるところから始まる。

彼女は、冷酷な支配者となった妹・ミヒルと袂を分かち、
”人間たち” に危機を知らせるべく
仲間と離れて ”メニー・メニー・シープ” へ向かう。
冒頭部分では、第1部の物語がイサリの視点から再度描かれていく。

植民地総督・ユレイン三世がエネルギー供給を握る体制へ
不満を抱く市民たちは、ついに反乱を引き起こすが
それが原因となって、”メニー・メニー・シープ” への
”咀嚼者” たちの侵攻を許してしまう。

ユレイン三世の失脚後、新生民主政府大統領となったエランカは
各都市の戦力を糾合して反攻作戦に打って出ようとするが、
そのための武器弾薬の量が足りず、苦戦を強いられる。

そんな中、イサリによってもたらされた情報により、
彼らは ”メニー・メニー・シープ” の ”真の姿” を知ることになる。

一方、”咀嚼者” たちとの共存を目指すイサリとカドムは、
”この世界のすべての歴史” を知るはずの
《恋人たち》・ラゴスの記憶を取り戻すべく、
所在不明のシェパード号を探索するために世界の ”外” を目指すが・・・


巻を重ねて終盤に差し掛かってきたこともあり、
何を書いてもネタバレになってしまいそう。

いままでは月に1巻のペースで読んできたんだけど、
残り5巻(第9部が2巻、完結編である第10部が3巻)になったので
これ以後はまとめて読んでしまおうと思う。

300年の時を超え、不思議な縁で結ばれたイサリとカドム。
そんな二人の、明日はどっちだ・・・?(笑)

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アリバイ崩し承ります [読書・ミステリ]


アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

  • 作者: 大山誠一郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2019/11/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

物語の語り手は、地方都市で県警の刑事を務める ”僕”。
探偵役は、”僕” の住むマンション近くの商店街にある
〈美谷時計店〉の若き店主、美谷時乃(みたに・ときの)。

店の壁にはなぜか「アリバイ崩し承ります」の張り紙が。
「時計屋こそ、アリバイの問題を最もよく扱える」との
祖父の思いを受け継ぎ、彼女もまたアリバイ崩しを ”承る”。
料金は成功報酬制で、1回につき5000円。

”僕” は、難事件にぶつかるたびに時乃へ ”依頼” するようになる。
真相を見破った時乃さんの決め台詞は
「時を戻すことができました。アリバイは、崩れました!」

彼女が解き明かす、7つの事件を収録した連作短編集だ。


「第1話 時計屋探偵とストーカーのアリバイ」
大学教授の浜沢杏子が殺害される。
容疑者として浮上したのは被害者の元夫・菊谷五郎。
彼はこの2か月の間、杏子に対してストーカー行為を繰り返していた。
彼が主張するアリバイは、崩せそうで崩せない・・・

「第2話 時計屋探偵と凶器のアリバイ」
郵便ポストから、午後3時の集荷の際に拳銃が見つかる。
続いて射殺死体が発見される。被害者は製薬会社勤務のサラリーマン。
死亡推定時刻は午後2時から4時まで。現場で発見された銃弾から、
凶器はポストに投入された拳銃と判明する。
やがて被害者の上司が容疑者として浮上するが、彼は犯行当日、
午後3時まで親類の集会に出席していたという。
午後3時以前は犯行の機会がなく、
午後3時以降は凶器を使うことができない・・・

「第3話 時計屋探偵と死者のアリバイ」
”僕” の目前で一人の男が交通事故に遭う。
男は息を引き取る直前、人を殺したと告白する。
男はミステリ作家・奥山新一郎だった。
彼の言い残した通りの場所で女性の死体が発見されるが
捜査の結果、犯行時刻に奥山にはアリバイがあったことが分かる・・・

「第4話 時計屋探偵と失われたアリバイ」
ピアノ教師・川谷敏子が殺される。親の遺産相続を巡って
トラブルにあったことから、妹の純子が容疑者に挙がる。
しかし、彼女は犯行のあった日は1日中寝てしまったと主張する。
捜査陣は彼女の証言を疑うが、”僕” は、彼女は真犯人に
睡眠薬を盛られて、アリバイを ”奪われた” のではないかと疑う・・・

「第5話 時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」
時乃が小学4年生だったとき、「お祖父ちゃんの手伝いがしたい」という
彼女に対して、祖父はアリバイの ”練習問題” を出した。
彼の言う時刻どおり、店にある振り子時計が止められるが
そのとき、祖父は一駅隣の駅前にいたという証拠の写真が。
10歳の時乃ちゃんが、見事に祖父のアリバイを崩してみせる。

「第6話 時計屋探偵と山荘のアリバイ」
正月休みに、長野県のペンションを訪れた ”僕”。その夜は雪が降り、
翌朝、ペンションの離れにある時計台で宿泊客の死体が発見される。
雪に閉ざされた現場に残る足跡の状況から犯行時刻が判明、
その結果、アリバイがないのは中学1年生の原口龍平のみ。
しかし、彼の犯行とは信じられない ”僕” は〈美谷時計店〉へ。

「第7話 時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」
一人暮らしの老人・富岡真司が殺害される。
犯行時刻は12月6日午後9時前後。
3か月後、容疑者として浮上したのは大学3年生の和田英介。
しかし英介は、その日の夜は友人の古川とずっと一緒だったという。
その証拠に、人気作曲家・明城徹郎の学生時代の習作を
英介がダウンロードするところを古川は目撃していたのだ。
その曲は12月6日だけに限定配信されたものだった・・・
こういうアリバイもあるんだねぇ。


本書は文庫で300ページほど。各編はそれぞれ40ページ強しかないのに
どれも密度の高いアリバイ崩しの秀作ばかり。
書き込めば中編くらいに膨らませられそうなネタばかりだが
あえてそうしないで謎解きものに特化したつくりなのがいいのだろう。

どれも明かされてみれば、はたと膝を打つものばかり。
些細なところをを切っ掛けに、盲点を突き、固定観念を覆し・・・
アリバイ崩しのバリエーションも豊か。

加えて時乃さんの魅力的なこと。
あくまで ”承る” という受け身の形でありながら
謎解きの様子はいきいきと能動的で、聡明なお嬢さんだ。
決して ”僕” を見下すようなこともない。
探偵役は得てして奇人変人が多いのだけど、
彼女はその対極にいるような人だ。


文庫の帯に書いてあったんだけど、
本作はTVドラマ化されて2月から放送されるようだ。

aribai.jpg

公式サイトを見てみたら、ヒロイン時乃を演じるのは浜辺美波さん。
『屍人荘の殺人』の剣崎比留子に続いての名探偵役ですね。

原作では ”僕” の名は明らかにされないけど、ドラマでは
察時美幸(さじ・よしゆき)という名で、演じるのは安田顕さん。
この人もいい俳優さんだよねえ。

若手刑事で成田凌、察時の上司・牧村課長が勝村政信、
検視官に柄本時生、そして時乃の祖父に森本レオ。

第1話の予告編を見たけど、どうやらこれは
本書の「第3話 時計屋探偵と死者のアリバイ」みたいだ。

私はTVドラマは滅多に見ないんだが、これは見てみようかなぁ。

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赤い博物館 [読書・ミステリ]


赤い博物館 (文春文庫)

赤い博物館 (文春文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

警視庁捜査一課の刑事・寺田聡(さとし)は、
捜査上の失態により左遷されてしまう。

異動先は東京・三鷹市にある警視庁付属犯罪資料館、
通称『赤い博物館』と呼ばれている施設だ。
実質は、発生から一定期間が経過した事件の資料を保管する倉庫。

その館長を務めているのが緋色冴子(ひいろ・さえこ)警視。
キャリア組のはずなのに、なぜかここの館長を
8年間も務めているという謎の人物だった。

この『博物館』で資料整理に明け暮れることになった寺田だが、
時折、冴子から過去の事件の再捜査を命じられる。その結果、
時の彼方に消えたはずの事件から意外な真相が導かれていく。


「パンの身代金」
15年前、中島製パン株式会社の商品に
針が混入されるという事件が起こった。
やがて犯人から1億円を要求する脅迫状が届き、
社長・中島弘樹が現金を持って自家用車で受け渡し場所へ向かう。
犯人の指示の下、千葉県の廃屋へ入った中島だが、
追尾していた捜査陣が踏み込むと彼の姿は消えており、そして翌日、
廃屋から30km離れた荒川の河川敷で刺殺死体となって発見された。
冴子の推理は事件の様相を一変させ、意外な犯人へとつながっていく。

「復讐日記」
大学生・高見恭一は、別れた恋人・麻衣子から呼び出されるが
彼女のアパートに着いた恭一が見たものは、麻衣子の転落死体だった。
恭一は大学教授・奥村が犯人と見抜き、彼を殺害するが
警察に捕まる前に交通事故死してしまう。
残された彼の日記には、復讐に至るまでの経過が詳細に記されていた。
25年前に起こったこの事件で、冴子は恭一の日記の中での
わずか1カ所の記述の矛盾から、真相を暴いていく。

「死が共犯者を別つまで」
寺田の目前で交通事故を起こした男・友部義男は、
息を引き取る直前に25年前に犯した交換殺人を告白した。
寺田と冴子は、博物館に残る資料から25年前の未解決事件を検索し、
友部の伯父が殺害されたものを見つけ出す。
これによって義男は伯父から遺産を受け取っていた。
共犯者を見つけ出すべく、再捜査を始めるが・・・

「炎」
21年前、本田章夫・朋子夫妻の自宅から出火、
焼け跡から3人の焼死体が発見される。
遺体は本田夫妻と朋子の妹・遠藤晶子(あきこ)と判明する。
しかし3人の死因は青酸カリによる中毒死。何者かが3人を毒殺して
その後、火を放ったものと思われた。
晶子は元恋人からのストーカー被害に悩んでおり、
この日、元恋人を呼んで4人で話し合うことになっていた。
夫妻の一人娘・英美理(えみり)は当時5歳で、
幼稚園のお泊まり保育に参加していて難を免れた。無事に成長し、
写真家となった英美理が当時を回想して書いたエッセイを読んだ冴子は
寺田へ英美理に会いに行くように命じるのだが・・・

「死に至る問い」
調布市の多摩川河川敷で男性の他殺死体が見つかる。
しかし、その現場の状況が26年前に起こった事件と同一だと判明する。
被害者の年齢、発生した場所、遺体の姿勢、凶器の形状・・・
26年前の犯人以外には知り得ない部分まで一致していたのだ。
犯人も意外だが、動機はさらに意表を突くもの。


冴子は、資料の中の、うっかり読み飛ばしてしまうような、
ほんとに些細なところの小さな矛盾、食い違いから
大胆に推理を組み立てていく。どの作品も、解決部に至って
「あそこで気づいたのか!と驚かされるものばかり。

さらに、それによって事件の姿が一変してしまう。
表面に現れていたものはまさに氷山の一角で、
隠れていた部分のほうがはるかに大きくかつ事件の本質だった、と。

ミステリはよくジグソーパズルに例えられるが、
このシリーズは箱根細工の秘密箱みたいだ。

 最初に見たのは、私が小学校の頃に親父が
 仕事の出張先から買ってきたお土産だったなぁ。
 開け方がさっぱり分からないんだけど、
 ここを押すとあそこが出っ張り、そこをずらすとこちらが動いて、
 ・・・って具合にいじっていくと最終的に見事に箱が開いてしまう。

論理を積み重ねていったら、いつの間にか
とんでもないところまで運ばれて来てしまう、という作品ばかり。

いまのところ、緋色冴子さんが出てくるのはこの1冊だけなのだけど
彼女自身のプライベートや、なぜ館長職を続けているのかとかは
全く明かされていないので、そのへんも興味がある。

作者は寡作な方なので、いつになるかは分からないけど、
また冴子さんに会いたいと思う。

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盲目の理髪師 [読書・ミステリ]


盲目の理髪師【新訳版】 (創元推理文庫)

盲目の理髪師【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: ジョン・ディクスン・カー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/05/31
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

大西洋を東に向けて航行する豪華客船クィーン・ビクトリア号。
その航海の途中で起こった盗難と殺人が語られる。

主な登場人物は、探偵小説作家のモーガン、
有名な政治家をおじに持つ外交官ウォーレン、
ノルウェー人の元船長ヴァルヴィック、
そして操り人形師フォータンブラの姪・ペギー。

ウォーレンが持ち込んだ映画フィルムが盗まれる。
それには、彼のおじが晩餐会で行った、
本音丸出しの爆弾発言が収められていた。

盗難犯が、残ったフィルムも盗みに来ることを期待して
彼らは現場となったウォーレンの部屋の隣室で待ち伏せをする。

しかし、彼の部屋に侵入する気配を感じた一行が
そこで見たのは、何者かに頭を殴られて意識を失った女性だった。

さらに、一行が現場から逃げる人影を追いかけるうちに
女性は姿を消してしまい、さらには彼らが引き起こした騒ぎのせいで
乗客であるスタートン子爵所有の
”エメラルドの象” が行方不明になってしまう・・・

タイトルの「盲目の理髪師」とは、
被害者の女性が姿を消した後に、犯人のものと思われる
遺留品の剃刀が残されていて、その柄(え)に
〈盲目の理髪師〉がデザインされていたことに由来する。
(表紙イラストに描かれているのがそれ)


冒頭の「緒言」で、本書は「茶番狂言である」って断ってあるとおり
全編にわたって、喜劇的な展開が続く。

たしかに物語を追っていけば喜劇以外の何物でもないのだが
読んでいて笑えるか、といえば私は笑えなかったなあ。

まあその理由の大部分は「私が翻訳文が苦手」ってことなのだろうけど。

 ここは間違いなく爆笑シーンだろうな、
 ってことは分かるんだけど、笑えないんだよねえ・・・

ミステリとしても、よく分からない。
殺人はあったのか、なかったのか。それすらも分からない。
船長が乗員乗客を調べても行方不明な人物はいない。
それには何らかの欺瞞があるはずなのだけど。

起こっている事態はコミカルなんだが、雰囲気は不穏。
そんなよく分からないモヤモヤを抱えたまま解決編に至る。


解説にもあるけど、本書は
「物語の背後で、実際には何が起こっていたのか」
を突き止める作品だ。

終盤、フェル博士が滔滔と謎解きをしてくれる。
しかも、その手がかりとなった伏線を事細かに、
なんとそれが書かれていたページまで挙げて、丁寧に(笑)。
いやはや、言われてみればそうなんだけどねぇ・・・


ずっと昔、たぶん20代の頃に、同じくカーの
「連続殺人事件」を読んだときは、爆笑した記憶があるんだけどねぇ。
私のアタマの働きが鈍ったんでしょうか・・・

 


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大江戸ミッション・インポッシブル 顔役を消せ/幽霊船を奪え [読書・歴史/時代小説]


大江戸ミッション・インポッシブル 顔役を消せ (講談社文庫)

大江戸ミッション・インポッシブル 顔役を消せ (講談社文庫)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/11/14
  • メディア: 文庫
大江戸ミッション・インポッシブル 幽霊船を奪え (講談社文庫)

大江戸ミッション・インポッシブル 幽霊船を奪え (講談社文庫)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/12/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

二巻本でタイトルは別だけど、内容的には連続しているので
実質的には前後編となっている。

「ミッション・インポッシブル」というタイトルがついてるけど
同題のTVドラマや映画みたいな雰囲気はあまりないような。
”人間離れした技量を持つ殺し屋たちが抗争する伝奇アクション”
といったところが実態に近いと思う。

 こう書くと山田風太郎の忍法帖シリーズみたいだが
 さすがにあそこまで突拍子もない魔人妖人の類いは出てこない。
 いちおう、どのキャラも人間の範疇には含まれる。たぶん(笑)。


時は幕末、天保年間。
明治維新のおよそ30年前くらいか。

主人公・川瀬若菜は南町奉行所の同心なのだが
何をやらせてもまともに務まらず、
牢屋見廻りという最底辺の役職に納まっている。

ある日、若菜は筆頭与力・東井庄左衛門(とうい・しょうざえもん)の命で
吉原の格式高い遊女屋「角海老」の
人気花魁・姫雪太夫(ひめゆきだゆう)に会いに行く。

姫雪太夫が、英国捕鯨船の船長・ヘイデンから贈られた指輪が
何者かに盗まれたのだという。

指輪の行方を追う若菜だが、彼を襲う者たちが現れる。

実は若菜は、江戸の街のアンダーグラウンドを二分する
泥棒寄合(どろぼうよりあい)、つまり犯罪者組織のひとつである、
川衆(かわしゅう)の棟梁という素顔を持っていた。

指輪事件には、敵対する陸衆(おかしゅう)が関わっているらしい。

若菜は、太夫が指輪を盗まれたと思われるお座敷に出ていた
幇間(たいこもち)の乱亭七八(らんてい・しっぱち)に目をつけ、
彼の動向を探るのだが・・・


物語が進むにつれて、敵は陸衆のみならず、
幕府転覆を謀る薩摩藩が黒幕にいることが分かってくる。

「顔役を消せ」では、陸衆の最高幹部を倒そうとする
若菜たちの川衆の活躍が描かれ、
「幽霊船を追え」では、新たな敵・”どくろ大名” こと
土黯長門守(つちくろ・ながとのかみ)が登場し、
英国輸送船が江戸へ密かに持ち込もうとする武器弾薬を巡る、
陸衆と川衆の決戦が描かれる。


山田作品らしく、登場人物はみんなユニークだ。

特に主人公・若菜の設定が面白い。
序盤では年齢についての描写がなかったので
てっきり30~40代くらいかなあと思ってたら、
読んでるうちに20代半ばくらいと分かってきた。

実は幼少時に神隠しに遭っており、その間の記憶を失っているが
物語が進むうちに次第にそのときのことを思い出していく。
やがて、姫雪太夫や土黯長門守とも意外な因縁で結ばれていたことも。

ヒーローには珍しく、無双をするほど剣も強くない(笑)。
いや、一般基準からすれば十分に強いのだけど、それを上回るくらい
敵も味方も人間離れした超常の戦闘力を持った連中なのだ。
でもまあ、強すぎないあたりがご愛嬌とも言える。
読者は彼に入れ込んで読むだろう。

殺しの ”かま”、七化けのおこう、怪力の ”丑(うし)” など
サブキャラも多彩だが、なかでも幇間の乱亭七八は意外にも
レギュラーキャラ(笑)になって、終盤まで顔を見せる。

「仮面ライダー」におけるショッカーの戦闘員みたいに(笑)
戦闘シーンでわらわらと湧いて出る(おいおい)、
”蘇鉄喰い”(薩摩藩の武士)たちも、場を盛り上げる存在だ。


小難しい理屈は抜きで、エンターテインメントに徹したつくり。
山田正紀がその気になれば、こんなのも書けるんだよねぇ。
楽しい読書の時間を過ごせました。

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イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり [映画]


私は高いところが苦手だ。
高層ビルや高いタワーの展望台から下界を見ると足がすくんでしまう。

でも嫌いではないんだなぁ。
先月の旅行でも大阪・あべのハルカスの展望台に上ったし
東京タワーの展望台だって3回くらい上ってる。
(東京スカイツリーの展望台は残念ながらまだなんだが・・・)

気球に乗ったこともある。もう10年以上前だが、
北海道を旅行したときにトマムリゾートで熱気球に乗った。
高度はたかだか数十mくらいだったろうけど。

空は好きだ。

小学校の頃、江戸川の河川敷まで自転車を1時間も漕いで行き、
グライダーが発着するのを日がな一日眺めていたこともある。

中学校の頃は、当時の流行もあったが
第二次大戦時の戦闘機のプラモデル作りに熱中した。

高校の時には自衛隊のブルーインパルスを観に行ったりしてた。

しかし大学入学以降、空との縁はすっかり切れてしまった。
今は地面を這いずり回りながら、時々思い出したように
高いところへ上ってみる。そんな生活を送っている。

閑話休題。

intothesky.jpg

観る前は、高いところが苦手な私で大丈夫なんだろうかと思ってた。
確かにハラハラドキドキのシーンも多いけど、
気が遠くなったりせずに(笑)、何とかなりましたよ。

高空での景色は素晴らしいし、主役二人の熱演も素晴らしいし、
ラストではちょっと目頭が熱くなるし。
「いいものを見せてもらった」と思いました。


「イントゥ・ザ・スカイ」なんて英語名がついているから
てっきりこれが原題だと思ってたら、
実は「The Aeronauts」というのが原題だと。
”気球操従者” とか ”飛行船操従者” って意味らしい。

 最近は、日本での公開名も原題そのままにしろっていう
 映画製作会社からの圧力が強いって話も聞くけど。
 うーん、タイトルをつけるのは難しいね。


ガス気球で高度1万1887mに達し、当時の最高高度到達記録を更新した
イギリスの気象学者ジェームズ・グレーシャーの実話を
”下敷き” にした(つまりいくつかの事実関係の改変がある)冒険映画だ。

史実との違いが気になる人はwikiでも読んでいてもらおう。
本作はあくまでフィクションなので、
細かいことは気にしないで楽しむのが正解。


1862年のロンドン。
気象学者ジェームズは、確度の高い天気予報のために
高空での気象データの必要性を説くが、学会からは全く相手にされない。
気球飛行士のアメリアは、2年前に同じく気球飛行士だった
夫・ピエールを亡くし、気球の世界から離れていた。
しかしジェームズからの懇願に負けたアメリアは、
再び気球で大空に挑戦することになる。

目的は、高空での気象データを集めることと
そして最高高度到達記録を更新すること。

映画は、気球が飛び立つシーンから始まり、
上映時間と飛行時間がシンクロする形で進行していく。

飛行の合間合間に過去のシーンが挿入され、
二人の背負ったものが並行して描かれていく。

積乱雲に巻き込まれ、激しい乱流に翻弄され、
それを切り抜けて高空に達すると、
低酸素と低温が二人から気力・体力、そして判断力を奪っていく。

学者肌のジェームズ、気球を見世物と割り切るアメリア。
水と油のような二人だが、降りかかる困難を乗り越えていくたびに
少しずつ距離を縮めていく。
やがてアメリアは、ピエールの死の真相を語り出す・・・

気球はついに高度世界記録を達成するが、今度は
気球のガス調節弁が凍結し、ガスの排出ができなくなってしまう。
上空に上がるほど気圧が下がって気球は膨らんでいくため、
ガスを排出しないと、気球が破裂して墜落することになる。
しかし過酷な環境のもとでジェームスは倒れ、残されたアメリアは
生還のために決死の作業に挑むことになる・・・

高空でのシーンは美しさ満点だが、スリルも満点。
映画と分かっていても心臓に悪い(笑)。

ひとたび気球に乗り込めば、勇猛果敢で不撓不屈の操縦士となる
アメリアを演じるのは、フェリシティ・ジョーンズ。
初登場のシーンは、気球出発を観に来た観客のために
厚化粧をしていたせいか、あんまり好きになれない顔だなぁ・・・
って思ったんだけど、化粧を落として飛行服に着替えてからは
一転してプロの飛行士となり、凜々しく魅力的な表情になってきて、
これは素晴らしい女優さんだなぁと思うようになった。

 wikiで見てみたら、なんと
 『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』
 のヒロイン、ジン・アーソを演じていたんだねぇ・・・
 いやあゴメンナサイ、気づかなくて。

気象学者ジェームズを演じるのはエディ・レッドメイン。
私にとっては『ファンタスティック・ビースト』シリーズの主役、
ニュート・スキャマンダーでお馴染みの役者さん。
こちらでも彼は学者(魔法生物学)を演じてますね。

心臓が止まりそうなくらいハラハラする高空でのアクションシーンは
もっぱらアメリア嬢が担当しているんだけど、
ラスト近くの絶体絶命の危機では、ジェームズもちゃんと大活躍します。
もっとも、彼のひねり出した突破方法は
ちょっと上手くいきすぎじゃないのかなぁ・・・とも思うだけど、
エンタメ映画ですからね。そこで怒っちゃいけません。

満たされない心を持つ男と、欠けてしまった心を持つ女が
気球での冒険を通じて救いを見つけていく物語、といえるかな。

ラブ・ストーリーといえるほど恋愛描写があるわけではないが
(なにせ飛行してる時間自体はわずか数時間のはずなので)
二人の絆が深まったのはしっかり描かれる。

映画の時間軸以後の二人の行く末は、
観客の想像に任されているのでしょう。

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ヴァンパイア探偵 ー禁断の運命の血ー [読書・ミステリ]


ヴァンパイア探偵 --禁断の運命の血-- (小学館文庫キャラブン!)

ヴァンパイア探偵 --禁断の運命の血-- (小学館文庫キャラブン!)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2019/08/06
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

舞台になるのは関東の地方都市・紅森(こうもり)市。
盆地の中にあって、人口は20万人ほどだが
なぜか殺人事件の発生件数が平均値を大きく上回っている。
そして何より、平安時代の昔から ”吸血鬼伝説” が語り伝えられてきた。

主人公は紅森署の刑事・桃田遊馬(ももた・ゆうま)、そして
彼の幼馴染みにして、市井の血液研究者・天羽静也(あもう・せいや)。

血液絡みの事件が起こると、警察はしばしば天羽に捜査協力を乞う。
そんな彼は、警察からは『ヴァンパイア』なんてあだ名で呼ばれる。
もちろん本人は、その呼び名が嫌いである。当たり前か。

桃田と天羽のコンビが、紅森市で起こる殺人事件に挑む連作短編集。


「第一話 ブラッド・メイカー ーDNAの罠」
大学教授・野尻寿史が自宅で絞殺される。
遺体の服に付着していた血液は研究室の助教・伊上美奈子のものだった。
伊上は逮捕されるが、彼女の容疑に違和感に疑問を感じた桃田は
付着していた血液の分析を天羽に依頼するが・・・
うーん、ちょっと素人には思いつかないトリックだね。
いくら○○○○○が万能でも、流石にそれは無理じゃないかな。
まあ、将来的には可能になるかも知れないけど。

「第二話 ブラッド・オブ・ラブ ー愛の果てに」
殺人犯・黒崎隆壱(りゅういち)は逃亡し、紅森市へ逃げ込んだ。
一方、紅森市でも交番勤務の巡査が刺殺されるという事件が発生。
桃田は、交番に残されていた犯人のものと思われる血液の分析を
天羽に依頼するが・・・

「第三話 デスティニー・ブラッド ー生命の源」
市内を流れる紅乃川で、切断された手首が見つかる。
天羽の分析から、手首の持ち主は癌を発症していたことが分かる。
桃田は市内の病院を聞き込みに回り、手首の持ち主が
長浜という男だったことを突き止め、さらに彼が
神秘的な力に惹かれ、”吸血鬼” の研究をしていたことを知る。
さすがに、この真相は予想の斜め上でした。

「第四話 ブラッド・アンド・ファング ー跋扈するヴァンパイア」
弁護士事務所の事務員・小諸麻友(まゆ)が自宅アパートで殺害される。
死因は頸動脈の傷からの失血死。
凶器は尖った形状の刃物と思われたが
その傷口はヴァンパイアの牙の跡にも見えるのだった。
そして、同じような手口で二人めの女性の死体が発見される。
こちらの遺体の首筋にも、牙のような跡が・・・
天羽の分析は意外な凶器を導き出すけども、
事件の解決についてはちょっと中途半端な感じ。
この話については、天羽自身の物語の方に重きを置いたせいかな。


”吸血鬼” という存在を「科学的に説明する」というのは
古くから多くの作品で試みられてきたけど
本書でも、薬学・医学に精通した作者なりの ”設定” が語られる。
それ自体は興味深く読んだのだけど、本書全体としてみると
あまり本筋に絡んでいないような。

捜査で桃田とペアを組むのが女性刑事の虎姫光(とらひめ・ひかる)。
年は若いがキャリア組の警部どのだ。
ついでに、”加齢臭アレルギー” という失礼な(笑)設定だが
彼女の存在も中途半端。もうちょっと天羽と絡むかと思ったのだが
本書の中では賑やかしに終始してる。
もっとも、続巻が予定されていて、
そちらで活躍させるつもりなのかも知れないけど。

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ベスト本格ミステリTOP5 短編傑作選002 [読書・ミステリ]


ベスト本格ミステリ TOP5  短編傑作選002 (講談社文庫)

ベスト本格ミステリ TOP5 短編傑作選002 (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

本格ミステリ作家クラブが編集するところの
「本格短編ベストセレクション」シリーズ第2弾。
ノベルスで刊行された2016年版から、更に絞った5作を収録してる。


「まちがえられなかった男」西澤保彦
文具販売の営業・凡海大樹(おしのみ・たつき)は殺人容疑をかけられる。
旅行代理店社員・朱馬佐織(あけま・さおり)が銃で撃たれて死亡したが
遺体が凡海の名刺を持っていたのだ。
それまでにも二人の男女が銃殺されており、
警察はシリアル・キラーによる事件として捜査をしていた。
終盤、被害者のつなぐミッシング・リンクが明らかになるんだけど
これは某名作に似たネタ。でも、言われてみなければ分からないよねぇ。
もちろん、ミステリとしてはさらにひとひねり。

「新陰流 ”水月”」高井忍
短編集「柳生十兵衛秘剣考 水月之抄」で既読。
男装の武芸者・毛利玄達が廻国修行中に出くわす様々な "謎" を、
剣豪・柳生十兵衛が探偵役となって解き明かすシリーズの一編。
諸岡一羽の弟子・根岸兎角(とかく)は病の師を見捨て、
江戸に出て自らの流派・微塵流を立ち上げた。
一羽の高弟・岩間小熊は、裏切り者の兎角を討つべく、
江戸・平川の橋上で果たし合いを行った。
結果、見事に兎角を打ち破った小熊だったが、
路頭に迷うことを畏れた兎角の弟子たちによって
微塵流の新たな師として担ぎ出されてしまう。
そしてその3ヶ月後、雪中の密室状況下で小熊が殺される。
日本家屋では珍しい密室ものだし、
動機もこの時代でなければ成立しない必然性もある。

「G坂の殺人事件」三津田信三
横浜市のG坂の途中にある喫茶店〈湖畔亭〉。
そこの常連である ”私” は、長編デビューを目指す素人ミステリ作家。
その日も、湖畔亭で同好の士である老人とミステリ談義をしていた。
そのとき、坂道の向かいにある家の庭に男が倒れているのを見つける。
それは家の主であるミステリ作家・津田信六で、既に死亡していた。
頭部には打撲の跡が、そして近くには鉄製のダンベルが転がり、
さらに遺体の首には何重にも釣り糸が巻かれていた。
後半は、”私”と老人が事件の真相を推理するパート。
津田の夫人、〈湖畔亭〉のマスター瀬戸とその娘・静香、
津田の隣人のデザイナー三枝木、作家志望の高校生の虻鉢(あぶはち)孝と
老人の推理は、個々の容疑者について犯行の可能性を検討していく。
まさに三津田信三の十八番である ”多重解釈” なのだが
その仮説をどんどん切り捨てていき、”犯人” にたどりつく。
これをわずか文庫50ページほどの分量でやってしまうのがスゴい。
ちなみにこの老人、三津田信三のシリーズ探偵の
”あの人” を彷彿とさせるんだけど、
明らかにそう思わせるように書いてるよねえ。

「不透明なロックグラスの問題」松尾由美
短編集「ハートブレイク・レストラン ふたたび」で既読。
フリーライターの寺坂真以がしばしば仕事場にしている
ファミリーレストランには、ハルお婆ちゃんの幽霊が住み着いている。
真以を含めて特定の人にしか見えない幽霊だが
しかし実は素晴らしい洞察力を持っていて、
真以のもとに持ち込まれる不思議な事件の謎を
たちどころに解き明かしてしまう、というシリーズの一編。
ファミレスの常連でもある女性刑事・小椋が
店長に聞きたいことがあるという。
最近、彼女の行きつけのバーのグラス類がどんどん新しくなっていく。
それも一流ブランドの高価なものに。
バーのマスターに尋ねると、グラス類を市価の半額の値段で
売ってくれる人がいるのだという。
店長と共にグラス売買の裏にある事情を推理する真以だったが・・・
小椋に好意を寄せている店長の行動も可愛いが
ハルおばあちゃんが導き出す真相が意外。そしてさらに
もうひとつ大きな推測もしてみせる。おお、なるほど。

「監獄舎の殺人」伊吹亜門
短編集「監獄舎の殺人 ミステリーズ!新人賞受賞作品集」で既読。
明治6年、京都の府立監獄舎。
収監されていた平針六五は、政府転覆を目論んだ罪で死刑と決まり、
執行の日を迎えた。しかしその平針が毒殺される。
朝食として与えられた粥に砒素が混入されていたのだ。
捜査に当たるのは鹿野師光(かの・もろみつ)。
東京の司法省から派遣された裁判官だ。
夕刻に死刑執行される男を、なぜその日の朝に殺したのか。
ラストで意外な動機が明らかになるが、それだけに留まらず
この時代だからこそ成立する、ある "思惑" が語られる。
ひねりが効いていてお見事。

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虹の歯ブラシ 上木らいち発散 [読書・ミステリ]


虹の歯ブラシ 上木らいち発散 (講談社文庫)

虹の歯ブラシ 上木らいち発散 (講談社文庫)

  • 作者: 早坂 吝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/09/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

いわゆる「虹の七色」というのが
「赤・橙・黄・緑・青・藍・紫」だというのを知ったのは
高校か大学の頃だったかなあ・・・

虹はこの色の順番に並んでいて、
主虹(はっきり見えるほう)では一番外側が赤で一番内側が紫。
副虹(主虹の外側にできるうっすらとした虹)では順番は逆になる。

20代半ばの頃、松田聖子の歌に出てくるというのを知って驚いた。
「ピンクのモーツァルト」のB面(死語・笑)になってる
「硝子のプリズム」という歌。

聞いてみると、ほんとに
「せき・とう・おう・りょく・せい・らん・し~」って歌ってる。
ちなみに作詞は松本隆。なんでも歌詞にしてしまうんだねぇ。

閑話休題。


本書は、女子高生・上木(かみき)らいちを主人公としたミステリ短編集。
らいちはすでに長編「○○○○○○○○殺人事件」に登場し、
見事解決に導いた名探偵なのだけど、彼女にはもう一つの顔がある。

それは彼女が、援助交際を生業にしている女子高生だということだ。
PTAが元気だった時代なら「とんでもない設定だ!」って騒ぎになって
不買運動でも起こりそうだが、幸いにして(?)
現代ではそんなこともなさそうだ。

 往年のお笑いバラエティ番組『8時だよ!全員集合』のギャグは、
 当時のPTAからことごとく槍玉に挙げられたんだってねぇ。
 当時の私はそんなこと知らずに脳天気に笑い転げていたが。
 調べたら、もう50年くらい昔の話なんだねぇ。いやはや・・・

それくらい「援助交際」って言葉が市民権を得てしまったのだろう。

さて、タイトルの「虹の歯ブラシ」だが、
らいち嬢は高級マンションの一室に暮らしていて、
曜日ごとに異なる ”固定客” を持っている。
その客用の歯ブラシが7つ7色あるという意味だ。
収録された作品も、虹の七色にちなんだ作品になっている。

「紫は移ろいゆくものの色」
らいちの客である大企業社長尾・村崎のオフィスで殺人事件が起こる。
被害者は社長秘書・式部京子。遺体は上半身が裸にされ、
コピー機の上にうつ伏せにさせられていた。
さらに犯人はほぼ1時間ごとに遺体の裸の上半身をコピーに取っていた。
それには、遺体の乳房に現れる死斑の変化が記録されている。
犯人は犯行後12時間にわたって現場にとどまっていた思われるが
その間、村崎はらいちのマンションを訪れており、
堅固なアリバイがあった・・・
なんとも異色のエロい物証だが、犯人の仕組んだトリックもまた異色。
そしてそれをみやぶるらいちの観点もまた異色。

「藍は世界中のジーンズを染めている色」
本書のレギュラーメンバーである藍川刑事とらいちの出会いを描く。
ラブホテルで起こった殺人事件の捜査に赴いた藍川は
他の部屋の聞き込みに向かい、そこで ”営業中” だったらいちと出会う。
藍川はらいちに、”ある交換条件” で事件の概要を伝えるが
彼女はその情報から真犯人を見つけ出してしまう。
いやあ、実際刑事があんなことはしないとは思うが
それくらい、らいち嬢がどんな男でもメロメロにさせるくらいエロい、
っていう設定なんですね、はい。

「青は海とマニキュアの色」
援助交際の相手を物色中のらいちは、
岬風香(みさき・ふうか)という少女と知り合う。
その1週間後、らいちは風花の母から彼女が失踪したことを聞く。
風花の行き先と思われる郊外の漁村へ向かったらいちは
新興宗教「青の教団」の存在を知る。風花はその教団施設の中にいた。
らいちも入信を装って教団施設に入るが、
その ”教祖” が何者かに殺害されるという事件が起こる。
「青の教団」はいわゆるセックス教団で、入信した女性は
”教祖” との激しいセックスの虜になってしまう。
らいちもまた ”教祖” と一戦交えるのだが、
まあそのくだりは読んでのお楽しみ(笑)。
本書の中で、いちばんミステリらしくていちばん人を食った話でもある。
犯人の指摘は論理的に行われるのだが、
密室トリックのほうはもう立派なバカミスだ。
真相を知ってから、犯行シーンを想像するともうねぇ。
ここまで吹っ切れたらたいしたものかも知れない。

「緑は推理小説御用達の色」
らいちのマンションの隣室に住む伊森鍵彦(いもり・かぎひこ)は
ある方法で、隣室の盗聴に成功する。
らいちの ”本業” を知った鍵彦は、欲望抑えがたく、
彼女のいない隙に隣室への侵入を繰り返すようになっていく・・・
文庫で20ページちょっとの話なんだけど、ひねりが効いて意外な結末。

「黄はお金の匂いの色」
どんな女でも ”落として” きたモテ男の高校生・黄瀬。
しかし、彼のクラスに転校してきた上木らいちだけは違っていた。
「一発5万円」という金額を提示し譲らない。
翌日、5万円を手にしてらいちの前に現れた黄瀬だったが・・・
これも文庫で20ページほどの話なんだけど、意外ななりゆきに。

「橙は???の色」
ミステリでもなく官能小説でもなく。
強いて言えばファンタジーかSF?

「赤は上木らいち自身の色」
らいち自身の ”正体” に迫る作品。
彼女は生まれも育ちも家族も含めて全く個人情報が明かされていない。
それを「紫」~「橙」までの各編にばら撒かれていた記述から
組み立てていこうという話で、いわばメタミステリ的作品。
それらの情報の取捨選択によっては、
とんでもない正体が、しかも複数現れてくるんだが・・・
タイトルの「虹」ってのがここにかかってくるんだね。


「エロチック・ミステリ」という新しい地平線(?)を
開拓しつつあるらいち嬢だが、どうしようかなあ。
ミステリとしてはよくできているし、
「青」なんかバカミスの極致と思えば笑って済ませられるんだけど。

もう何冊か読んでみようかな?

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QED ~flumen~ 月夜見 [読書・ミステリ]


この記事からが、「2020年に読んだ本」になります。
今年は2日に1回くらいのペースで
コンスタントにupできるといいなあ・・・願望ですが(笑)。


QED ~flumen~ 月夜見 (講談社文庫)

QED ~flumen~ 月夜見 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 崇史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/11/14
  • メディア: 文庫
評価:★★★

「QED」シリーズって「伊勢の曙光」で完結したんじゃなかったっけ?
まあ、~flumen~ ってあるので番外編なのかな。

京都の月読神社。夜の境内を訪れた
フリーのイラストレーター・真関桃子(まぜき・ももこ)は
そこで絞殺死体を発見する。それは桃子の
高校時代の同級生・望月桂(もちづき・かつら)だった。

さらに現場近くの松尾神社では桂の兄である望月観(あきら)が
縊死体となって発見されるが、こちらも他殺死体であったことから
犯人による偽装であると思われた。

一方、棚旗奈々(たなはた・なな)は桑原崇(くわばら・たかし)とともに
一泊二日で京都旅行に訪れていた。

神社の殺人事件の取材をしていたフリージャーナリストの小松崎は
崇たちが京都を訪れていることを知り、
なんとか事件解決に協力させようとするのだが・・・


事件に巻き込まれた桃子とその友人知人たち、
事件解決に奔走する捜査陣、
そして相変わらず歴史オタクの崇に振り回される奈々の
3つのストーリーラインで進行していくが
登場人物がさほど多くないので、犯人当ての興味は乏しい。
まあ作者もそういう風には書いていないみたいで
崇が滔滔と語る歴史蘊蓄が本書の読みどころだろう。

今回のテーマはタイトルにもある「月夜見」。
『記紀』で描かれているように
伊弉諾尊(いざなぎのみこと)がみそぎをした際に
天照大神(あまてらすおおみかみ)、素戔嗚尊(すさのおのみこと)とともに
生まれたのが月読尊(つくよみのみこと)。
「夜の国」を収めることになった神なのだが、
それ以降『記紀』の記述から消えてしまい、
その名前の意味さえ不明なのだという。
その謎の神について、今回の崇は新たな解釈を提示してみせる。

そのあたりの話は相変わらず興味深くて楽しく読めるのだが
事件との関わりがひまひとつよく分からない。
犯人の動機につながっているのだろうけど、私の理解の外だなぁ・・・

まあ私は、本シリーズにおいてはミステリ要素よりも
崇くんの壮大な仮説を読むのが楽しみなので
これはこれで構わないのだけど(笑)。

崇と奈々の仲は、ホテルでも二人で二部屋とってるくらいなので
まだまだ進展していない時期の話になるのだろう。

とはいっても、独身の女性に二人だけで一泊旅行を申し込む段階で
これはもう後戻りできない(笑)仲になることを予想するものなのだが。

 そもそも嫌いだったら誘わないわけで
 好意があるのは間違いないところなはず。

しかし崇くんの場合は、
それが当てはまらないのがデフォルトだからなあ・・・

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