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幽霊たちの不在証明 [読書・ミステリ]


幽霊たちの不在証明 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

幽霊たちの不在証明 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 朝永 理人
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2020/03/05
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 主人公の閑寺尚(かんてら・なお)は羊毛高校2年生。折しも学校は文化祭を迎え、彼のクラスは「お化け屋敷」で参加することに。しかし文化祭2日目の午後、"首吊り幽霊" に扮していたクラスメイト・旭川明日葉(あさひかわ・あしたば)が絞殺死体となって発見される。
 彼女に想いを寄せていた閑寺は落ち込むが、同じクラスの甲森瑠璃子(こうもり・るりこ)から犯人捜しの協力を頼まれる・・・


 主人公兼語り手・閑寺尚が通う羊毛高校は文化祭を迎えた。彼の所属する2年2組の「お化け屋敷」は大盛況で、閑寺も受付係として多くの入場客を捌くことに。
 そして迎えた二日目の午後、"首吊り幽霊" に扮していた旭川明日葉が絞殺死体となって発見される。場所はまさに「お化け屋敷」と化していた2年2組の教室内だった。

 クラス委員を務め、人気もあった彼女に想いを寄せていた閑寺は激しく落ち込むが、そんな彼に対してクラスメイトの甲森瑠璃子から犯人捜しへの協力を頼まれる。

 甲森は図書館で本ばかり読んでいるような生徒なのだが、決して "文学少女キャラ" などではなく、その内面には "ある野心" が潜んでいた。彼女が "探偵" に乗り出してきたのもそれが理由なのだが、それについては読んでのお楽しみとしておこう。

 本書は文庫で360ページほどあるのだが、序盤の100ページは「犯行日」である文化祭二日目の様子が綴られていく。多くのクラスメイトや同級生たちが登場し、閑寺と関わっていく。
 「お化け屋敷」にも多くの客が出入りするし、"お化け役" のスタッフとなっているクラスメイトたちも担当時間のスケジュールに従って出入りする。しかもミステリであるから、その中に手がかりや伏線を仕込まなければならない。

 普通に書いたら事実の羅列に終始し、無味乾燥で退屈になりそうな部分なのだが、それを閑寺の目を通すことで "ライトノベル的学園ラブコメ風" に描き、飽きさせることなく、いやむしろ引き込まれるように読ませる。これはたいしたものだ。
 ただ、共学の学校のはずなのに、この部分に登場してくる生徒のほとんどが女子なのはなぜだろう(笑)。作者の趣味かも知れないが(おいおい)。体感的には、文章量の9割くらいは女子の描写に充てられているような気がする(えーっ)。

 続く150ページほどが「調査編」。閑寺と甲森がクラスメイトたちから情報を仕入れていく過程が描かれる。"本の虫" のせいか、人とのコミュニケーションにちょっと難がある甲森に代わり、主に閑寺の出番。
 しかし、校内で行われた警察による生徒たちへの事情聴取を盗聴(!)してしまうなど、甲森の行動力はいささか暴走気味ではあるが。

 そして残り90ページほどのところで「甲森瑠璃子から皆様へ」と題した "読者への挑戦状" が挿入される。まさに直球ど真ん中の本格ミステリ宣言。

 そして展開される解決編。証言や事実を組み合わせて、甲森が導き出すのは殺害時刻。それも分刻みで。
 多くの容疑者から消去法で1人ずつ消していき、最後に残ったのが犯人、という展開はよく見るが、本書はそれを「時間」で行ってみせるのだ。

 当初は犯行時間には90分以上の幅があったのだが、甲森は消去法で「これにより殺害は○時△分以後」「これにより殺害は◇時□分以前」と、次々に時間を狭めていき、ついに「殺害時刻」をピンポイントで確定してしまう。それによって、その時刻に「お化け屋敷」内にいて、犯行が可能だった者に辿り着いてみせるのだ。これはなかなか斬新な手法だと思う。
 犯人像や動機とか、実際にこういうシチュエーションで殺人が可能かとか、ちょっと首をひねる部分もなくはないが、文化祭の「お化け屋敷」での殺人という "離れ業" に果敢に挑戦した心意気がいかにも新人らしくて素晴らしいと思う。

 ミステリとしても一級品だが、ラストに於いては青春小説としての側面も見せる。
 事件の解決に伴ってさまざまな事実が明らかになっていくが、中には「知らなかった方が幸せ」なこともある。それまでのライトノベル風のコミカルな雰囲気から一転、哀感すら漂うラストシーンが印象に残る。
 甲森の "野心" が成就したかどうか・・・それも読んでのお楽しみだろう。


 巻末の解説によると、本書の原型は第27回鮎川哲也賞に応募され、最終選考まで残ったらしい。このとき受賞した『屍人荘の殺人』(今村昌弘)と最後まで争ったのだから、そのレベルが高いのも頷ける。
 作者はこの後、同じレーベルで2冊のミステリを刊行している。どちらも手元にあるので近々、記事にする予定。



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