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すり替えられた誘拐 [読書・ミステリ]


すり替えられた誘拐 (創元推理文庫)

すり替えられた誘拐 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/05/31
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 ブランチフィールド大学の学生バーバラは、資産家の娘だが素行不良で有名だった。そんな彼女が誘拐される。
 身代金を渡したにもかかわらず彼女は戻らず、やがて死体となって発見される。バーバラの交際相手マイケルは容疑を掛けられ、逃亡してしまう・・・


 ブランチフィールド大学の屋台骨は傾いていた。入学者数は減少し、内部では学生運動が激しくなっていた。盗難の容疑を掛けられた学生を除籍処分にしたところ、抗議運動が始まってしまったのだ。

 女学生バーバラは、資産家レッチワース卿の娘。トラブルは金で解決し、男たちと浮名を流す。いまは大学の講師マイケルと交際中だ。
 そんな彼女を誘拐するという企てが進行中だという噂が流れる。そして除籍撤回を求める学生集会の最中に、本当に拉致されてしまう。

 レッチワース卿は身代金要求に応えたもののバーバラは戻らず、やがて遺体となって発見され、実行犯と思われた学生も他殺死体となっていた。
 そして誘拐事件の "黒幕" と疑われたのはマイケルだった。警察の追求を恐れた彼は身を隠してしまう・・・


 登場人物はかなり多いのだけれど、中心となるのは、ギリシャ語講師でマイケルの同僚でもあるブライアンと、マイケルの姉ローナ。
 マイケルと同じアパートの上の階に住んでいるブライアンは、失踪したマイケルを探してやってきたローナと出くわすことになる。

 謹厳実直で、頭は切れるが学問一筋で世間の諸事には無頓着、他人に対しても無関心を貫くブライアンと、世話好きで出来の悪い弟を溺愛するローナ。
 職業も語学講師と臨床検査技師と、共通点が全くない二人は最初から水と油で、何度となくぶつかり合うことになるが、互いに自分にない要素を持つ相手に次第に惹かれていく。

 ちなみにブライアンの母親はローナとはすぐに打ち解けて気に入ってしまい、しきりに息子をせかす(笑)。このへんのラブコメみたいな展開が好きだなぁ。この作者さんはこういうところを書かせてもとても上手いと思うんだけど、巻末の解説でこの辺に触れる人がいないのは不思議だ。
 閑話休題。

 中盤で二人の協力関係が成立し、弟の無実を信じるローナの求めでブライアンは事件を解析、犯人に必要な「9つの条件」を見いだして真相へと辿り着く。

 ここまでで全体の2/3ほどで、犯人当てミステリとしての要素はここでほぼ終了。残りは真犯人の視点から描くサスペンスへと移行する。つまり本書は二部構成となっているわけだ。

 ここの部分は好みが分かれるかも知れない。多分作者は、犯人の性格の異常性、犯人を精神的に追い詰めていった周囲の者たちの言動、そして犯行に至るまでのプロセス、さらにラストの衝撃的な展開、これらをじっくり描きたかったのだろう、とは思うのだが。

 終盤での "大騒動" のおかげで、ブライアンとローナの仲の進展も不透明になってしまうのだけど、最終2ページに掲げられたブライアンから自分の母へ宛てた手紙で、希望が繋がれる。



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